博 士 ( 医 学 ) 馬 明 月
学位論文題名
Exposure of Prepubertal Female Rats to 工nhaled Di (2 −ethylhexyl) phthalate Affctstheonset OfPubertyandPOStpubertalReproduCtiVeFunCtionS
(フタル酸ジ―2 ―エチルヘキシル(DEHP) 吸入曝露による 幼 若 メ ス ラ ッ ト 思春 期 発 来 と 生 殖 機 能 へ の 影響 )
学位論文内容の要旨
背 景と目的
フ タ ル酸 ジ‑2‑エ チ ル ヘキ シ ル(DEHP)は プラス チック可 塑剤と して広く 使われて お り、プラ スチッ ク製品の 低温焼 却や、製品製造過程において、直接大気中へも放出され てい る。 低い蒸 気圧と低 い水溶 性のため 、室外のDEHPの濃度 は低い とこれま で考えら れてきたが、室内環境では、ポリ塩化ビニル(PVC)を使っている家庭の製品、床.カバー、
壁紙と電 子製品 による曝 露を起 こす可能性が高いことから、欧米ではフタル酸エステル は室内の主要な汚染物質と認められている。
疫 学 調査 研 究 によ り 、 フ タル 酸 曝 露と 少 女 の早 熟 と の正 の関連 が指摘 されてい る (Colon et al,2000)。実験的には、DEHPをラットに経口投与し、血清エストラジオール の低下、性周期の延長が報告されている(Davis et al,1994)。しかし、環境と生体が最も 接触する のは呼 吸器では 、食物 や水などより、はるかに膨大な量の空気をとり入れてい るにもか かわら ず、DEHP吸 入曝露に ついての報告はほとんどない。我々こつ研究室は、
低揮 発性 化学物 質吸入曝 露装置 を開発し 、幼若期 の雄ラ ットヘのDEHP吸入曝 露では、
血中テストステロンの増加、精巣の早熟化が起こることを明らかにした(Kurahashi et al, 2005)。 し かし 、 雌 ラッ ト へ の 影響 に つ いて こ れ まで 全 く 調べ ら れ てい な か った 。 そこ で、 本研究 は、幼若 ラット を対象にDEHP吸入曝 露実験を 行うこ とにより 、雌の思 春 期 発 来 な ら び に 生 殖 機 能 へ の 影 響 と そ の メ カ ニ ズ ム を 検 討 し た 。
方 法 く曝露条件>
実験1
幼 若 雌 ラッ ト の 思春 期 発 来 と生 殖機能へ の影響 に関する 検討する ため、H齢22日 の 雌Wistar‑imamichiラットに特殊吸入曝露装置を用いて、0ITigkr13、5 mg/m・、25 ITigk113 の3段 階 の 曝露 濃 度 で各10匹 ずっ に、6時間/ 日(週5日) の条件で 、Db:FIP吸入 曝露 を84日まで、9週間行った。
実験2
験 1と 同 じ 条 件 で 、 DEHP吸 入 曝 露 を 41日 ま で 、 20日 曝 露 を 行 っ た 。 く測定項目>
毎日、体重、膣開口およびスメアを検査した。曝露終了後、エーテル麻酔を行った後、
心採血し、各種臓器(子宮、卵巣、肝臓、腎臓、肺)の重量を測定した・。採取した血液 サ ンプ ル を用 いて、血 中性ホ ルモン濃 度(FSH、LH、 テストス テロン 、エスト ラジオ ー ル )及 び コ レ ステ ロ ー ル濃 度 を 測定 した 。卵巣 から抽出 したRNAを用い て逆転写 を行 い、SYBR Green法でステロイド合成酵素mRNA発現量を調べた。
結 果 実験1
DEHP吸 入 曝 露24日 目以 降 に おい て 、高濃 度曝露群(25 rrig/m3) の体重は 、対照 群
(0r g/m3) の体 重 と 比較 し て 有意 に低か った。5mg/m3と25mg/m3両群とも におけ る 膣開 口 と1回目 の 発 情期 の 日 齢は 、0mg/m3群と 比較して 有意に 早かった 。また、 膣開 口と1回 目 の発 情 期 にお け る 体重 に おいて も、DEI佃曝露 群は、0mg′m3群 と比較 して 有意 に 低 か った 。25mg/m3群 で は、 異 常 性周 期 の 割合 が5mg/m3群 やOmg/m3群と比 較 して有 意に高か った。 血清ホル モン値に 有意差は認められなかったが、卵巣ステロイド 合 成 酵 素 の ア ロマ タ ー ゼ (Cぽ19)rIdNA発 現量 は 、Omg/m3群 、5mg/m3DEIロ吸 入 曝 露群 と 比 較 して25mg/m3DEI佃吸 入 曝 露群 で は 、そ れ ぞ れ 有意 に増 加してい た。血 清 コ レ ス テ ロ ー ル は 、DEI佃 曝 露 群 で 、0mg/m3群 よ り 有 意 に 低 か っ た 。 実験2
実 験1と同 様 に 膣開 口 は 約30日 で、 思春期 の発来が 早期化し ていた 。血清LH、 エス トラ ジ オ ールは、Omg/m3群と比較 して25mg/m3では有 意に増 加したが 卵巣ステ ロイド 合成 酵 素RNA発現 量に有意 な変化 は認めら れなか った。血 清コレ ステロー ルは、DEIロ 曝露群 で、Omg/m3群 より有意 に高かっ た。
考 察
本研 究 は 、DEHPヘ 吸 入 曝露 が 雌 生殖 系 へ影 響を及ば すことを 証明し た初めて の報告 で あ る。 幼 若 メス ラ ッ トヘ のDEHP吸 入曝 露に より血 中ホルモ ン濃度 と総コレ ステロ ー ルの 変化を伴 った思 春期の早 期化、性 周期の 異常が示 唆され た。労働 現場における環境 基 準 は5nig/m3であるが 、それ と同じ濃 度でも 雌ラット の生殖機 能に影 響を与え ること が 明 らか に な った 。 メ カニ ズ ム とし て は 、思春 期前動物 への短時 間DEHP吸入 曝露が 、 hypothalamic_pituitaヴ‐ovarian軸機能に影響を及ばし、雌の思春期のタイミングを変化さ せる 可能性が あると 考えられ る。思春 期の開 始を評価 するこ とは、環 境と思春期の相互 作用 に影響す る点に おいて、 遺伝的感 受性高 感度標識 となる 可能性が あることが示唆さ れた。
DEI佃経口.投与では血清エストラジオールの低下、性周期の延長が報告されているが、
本研 究におけ る吸入 曝露では 、血清エ ストラ ジオール は変化 せず、む しろ性周期の短い 性周 期異常が 認めら れるなど 、経口と は異な る影響が 明らか になった 。経口では腸管に お い てMEニHPに 代 謝さ れ 、 その 後 肝 臓に て2次代 謝 を 受 け排 泄 さ れる が、吸 入曝露 の 場合 、腸肝循 環を経 ず、直接 肺を通じ て血中 に取り込 まれる ことから 、経口曝露と吸入 曝露 の作用に 対する 違いは、 体内での 代謝と 臓器への 分布の 違いに可 能性がある。今後 吸入曝露時の代謝と分布について検討すべきと考えられる。
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本研究は、DEHP への曝露のタイミング、期間及ぴルートがDEHP によるステロイド
生 合 成 に お け る 曝 露 影 響を 決 定 す る 重 要 な 因 子 で あ る 可 能 性 を 示 唆 す る。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Exposure of Prepubertal Female Rats to Inhaled Di ( 2 ―ethylhexyl) phthalate Affctstheonset OfPubertyandPOStpubertalReproduCtiVeFunCtionS
(フタル酸ジ―2 ―エチルヘキシル(DEHP) 吸入曝露による 幼 若 メ ス ラ ッ ト 思 春 期 発 来 と 生 殖 機能 へ の 影 響 )
フタ ル酸ジ −2− エチルヘキシル(DEHP)はプラスチック可塑剤として子供用玩具、医療 器具、建築材料、自動車用内装材などに幅広く使われている。室内環境では、ポリ塩化ビ ニル(PVC)を 使ってい る家庭の製品、床―カバー、壁紙と電子製品などに含まれており曝 蕗を起こす可能性が高いことから、欧米ではフタル酸エステルは室内の主要な汚染物質と 認められている。疫学調査研究により、フタル酸曝露と少女の早熟との関連が指摘されて いる。実験的には、DEHPをラットに経口投与によるエストラジオールの低下、性周期の延 長が報告されている。しかし、環境と生体が最も接触する呼吸器では、食物や水などより、
はるかに膨大な量の空気をとり入れているにもかかわらず、DEHP吸入曝露についての報告 はほとんどない。申請者らは、低揮発性化学物質吸入曝露装置を開発し、幼若期の雄ラッ トヘ のDEHP吸入 曝露によ るテス トステロ ンの増 加、精巣の早熟化が起こることを明らか にした。しかし、雌ラットへの影響につV、てこれまで全く調べられていなかった。そこで、
申請 者らは 、幼若ラ ットを対 象にDEHP吸 入曝露 実験を行うことにより、雌の思春期発来 ならびに生殖機能への影響とそのメカニズムを検討した。
実験1では日齢22日の雌Wistar‑imamichiラットに特殊吸入曝露装置を用いて、Omg/m3、 5 mg/m3、25 mg/m3の3濃度 を各群10匹 ずっに 、6時 間/日(週5日)の条件で、DEHP吸入 曝 露 を日 齢84日 ま で9週間行っ た。また 、実験2では 同様の 条件でDEHP吸 入曝露 を日齢 41日ま で20日間 行った。 いずれ の実験で も曝露 期間中は連日、体重、膣開口茄よぴ膣開 口後は膣スメアを検査した。曝露終了後にはエーテル麻酔を行い心採血し、各種臓器(子 宮、卵巣、肝臓、腎臓、肺)を摘出し、重量を測定した。採取した血液サンプルを用いて、
血中 性ホル モン濃度(FSH、LH、テ ストステ ロン、 エストラジオール)及びコレステロー
558―
典
弘
子
尚 充
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上 岡
水 吉
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
副
ル濃度を測定し た。卵巣のサンプルから抽出したRNAを用いて逆転写を行い、SYBR Green 法でステロイド合成酵素mRNA発現量を調ぺた。
その 結果 、実 験1でDEHP吸入 曝露24日 日以 降に おい て、 高 濃度 曝露 群(25 mg/m3)の 体重は、対照群 (O mg/m)の体重と比較して有意に低く、低濃度曝露群(5mg/m3)でも 低 い傾 向を 示し た。 また 、5mg/m3と25mE/m3両群 ともに 膣開口と1回目の発情期の日 齢 は、0mg/m3群と比較して有意に早く、25mg/m3群では、異常性周期の割合が5mg/m3群や Omg/m3群と比較して有意に高かった。さらに、血清ホルモン値に有意差は認められなかっ たが、卵巣ステロイド合成酵素のアロマターゼ(CYP19)mRNA発現量は、Omg/m3群、5mg/m3 DEHP吸入曝露群 と比較して25mg/m3DEHP吸入曝露群では、それぞれ有意に増加していた。
血 清コ レス テロ ール 値は 、DEHP曝露群で、Omg/m3群より 有意に低値を示した。実験2で も、実験1と同様に思春期の発来が早期化し ていた。また、血清LH、エストラジオール値 は 、Omg/m3群と 比較 して25mg/m3で は有 意に 増加 したが 卵巣ステロイド合成酵素RNA発 現量に有意な変化は認められなかった。血清コレステロール値は、DEHP曝露群で、0mg/m3 群より有意に高値を示した。
これらの結果 は、思春期発来前ラットにDHEPを曝露すると思春期が早 期化すること、
曝露のタイミン グ、期間及びルートがステロイド生合成に大きな影響を与える可能性を示 唆した。
口頭発表に際 し、副査の吉岡教授から、「曝露期間により血清コレステロール値に及ば す影響が異なる ことについてのメカニズム」に対する質問があった。次いで主査の水上教 授から、「DEHP曝露による思春期発来の早期化についてのメカニズムをどのように考えて いるか」、「思春期発来の早期化は、視床下部ー下垂体の影響が考えられるということだが、
具体的にどのよ うにDEHPが視床下部に影響を与えているか」との質問があった。さらに、
副査の岸教授か ら、「DEHP室内曝飃と子供のアレルギーとの関係が指摘されていることに っいて、動物実験などの知見をふまえたうえでの考え」、「本研究では、5mg/m3の濃度で影 響がみられてい る。ヒト、ラット、マーモセットなどの間でDEHP代謝の 種差を含め、現 在の許容濃度を 改正する必要性」についての質問があった。いずれの質問に対しても、申 請者は研究結果 に基づき、また文献的知識を引用し、誠実にかつ概ね適 切に回答した。
この論文は、DEHP吸入曝露が思春期前雌生殖系ヘ影響を及ばすこと、またそのメカニズ ムを初めて明ら かにしたことで高く評価された。また本研究はDEHPがヒ トにおいても無 視できない環境 汚染物質であることを強く示唆した点で予防医学的に価値の高い論文であ る。審査員一同 は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位など も併せ申請者が 博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するも のと判定した。