著者
山中 有一
雑誌名
南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers
巻
42
ページ
152-156
別言語のタイトル
Problems of the Coastal Environment Examined
from the Fishing and Sightseeing (Diving) in
Yoron Island
152 与 論 島 の 漁 業,観 光(ダ イ ビ ン グ)か ら み た 沿 岸 環 境 の 問 題 点 山 中 有 一 鹿 児 島大学水 産学部 附属海 洋資源 環境 教育研 究セ ンター 要 旨 離 島において沿岸 域の環境 は貴重 な財産 であ り、経済基盤で もある。 そ こで沿岸 環境 と 密接 な関連 を持つ漁業 とマ リン レジャー としてのダイ ビングの視点 で与論 島の沿岸 環境が 抱 えている問題 点を探った。特 に調査 の過程 で土木 工事 との 関連 が示唆 され たので、 この 点 につ いて検討 した。 キー ワー ド:沿 岸 環境 、漁業 、 ダイ ビング、公 共工事
Problems of the Coastal Environment Examined from the Fishing
and Sightseeing (Diving) in Yoron Island
YAMANAKA Yuichi
Education and Research Center for Marine Resources and Environment, Faculty of Fisheries, Kagoshima University
Abstract
The purpose of this paper is to consider the coastal environment in Yoron Island. Coastal environments are precious resources and an economic base in outer island. A problem of the fishing and diving which has close relation in the coastal environment was investigated. Particularly, relations between the public works and the coastal environment were examined.
Key words : coastal environment, fishing, diving, public works
離 島におけ る経 済活動の上で沿岸域 の利用 は大 きな役割 を果た している。歴 史的 には漁 獲漁業 が もっ とも重要な位置 を占めているが、近年では レジャー フィ ッシ ング、ダイ ビン グや セー リングな どのマ リンス ポー ツの役 割 が増大 してい る。 離 島経 済に とって公共土木事業 関連 の収入 は欠かせない もので ある。海岸 ・漁 港整備 は 道路整 備 と並んでその規模が大 き く、それ らは漁業 と観 光か らの ニー ズに よるところが大 きい。 しか しこれ らは利便 性の提供 と同時に 自然環境 への負の影響 も危惧され る。そ こで 離 島の海洋環 境をめ ぐる漁業、観光 、土木事業 の3者 の 関連 の概要 を把 握す るこ と、 この 分野 で調査研 究機関 と地域の連携 として取 り組 むべ き課題 を知 るこ とを 目的 として調査 を お こな った。 調 査 方 法 漁業 協同組 合 と観 光 ・ダイ ビング関連 事業者 への聞 き取 り調査 、沿岸部 の観察 お よび写 真撮 影の範 囲で情報 収集 を行 った。 また地域 勉強会で ある 「ゆん ぬまちづ く り塾 」 に参加 し、 よ り多様 な立場か ら海洋環境 をめ ぐる問題 点についてデ ィス カ ッシ ョンを行 い、 この 問題 に関す る地域 の ニーズ を探 った。 結 果 お よび 考 察 1.与 論 島漁 業の課題 漁協組合員 は約300名,そ の うち漁業 を主 とす る者 は50名 以下 で、釣 り漁業 主体で あ る。経 済規模 としては大 きなものではな く、数%程 度 で ある。沿岸底物 の魚価 は高いが水 揚 げは少 ない。沖合い浮魚 は漁獲量 が多いが魚価 は低迷 し,漁 獲量 の多いシ ビ(キ ハダマ グ ロ幼魚)は 市場 の最低 売 り払い価格(キ ロ300円)に 達せず,売 買 が成 立 しない ことも 多 い。写真1は 平成16年1.月29日 の市場 である。これ らを利用 した高付加価値 の新商品 開発 を行 いたい ところで はあるが,研 究機 関等の協力体制が整 ってい ない。 この問題 は特に大学等研究 機 関が協力 できる分野であ ろ う。またハ タ類 な ど 高級 魚の養殖 な ど造 る漁業 に対す る要 望 も強い。 しか し与論島 は風波 に影響 され ない内湾 がほ とん どなく、地形条 件 が悪 い。 そ こで構内養殖 を視野 に入 れ た漁港 開発 を模 索 してい る。 沖合 いには図1に 示す表層浮魚礁5 ヵ所 、中層の大型浮魚礁4ヵ 所 が設 置 され 、周辺 では大型のマ グロ等 を狙 っ 写 真1売 買が成立 せず 、生産者 に戻 され た シ ビ
154 た漁業 が行 われてい る。 しか し魚礁 の集魚効果 、漁獲効率 につい てのデー タは不十分で あ る。遠 隔デー タ分析 装置 を導入 した魚礁監視 システム も導入 され たが、現在 は機 能 してい ない。 大型浮 き魚礁 は投資額 も大 きいので、その効果 を定量的 に評価す る よ うな資源 調査 も必 要 であ ろ う。 2.観 光 ・ダイ ビング業者か らの聞 き取 り調査 漁業 が沖合 い と沿岸の浅場 を利用 し,ダ イ ビングが水深10mか ら30mの サ ンゴ礁 毎 域 を利用 してお り,利 害の衝突 な どは起 こ らず 住み分 けが な され てい る。 また廃 船 とな っ た巡視船 「あまみ」 を沈潜魚礁 として沈め、ダイ ビングス ポ ッ トとしているが、 この作業 は漁協 が行 ってお り、両者 は良好 な関係 にある とい える。 しか し慶 良間諸 島座 間味島な ど では、 ダイ ビングボー トと宿泊施設 は地元 の漁 業者な どが受 け持 ち、ダイ ビング業者はガ イ ドに徹す る、 とい う形態の事業分担 が見 られ るが、与論 島で はそ こまで密 接な関係 は見 られ ない。観 光の 目玉 と しての ダイ ビングの振 興に よる宿泊者の増加 、漁業者 に よるダイ ビングボー トと地元食材 の提 供 、宿 泊業者の努力 によるダ イ ビン グ設備 と環境の整備 な どに よって相 乗効果 を高 める こ とが可能 であ る。漁業者 ・ ダイ ビング業者 ・宿泊業者の よ り密接 な協力関係 を作 るこ とはまだ工夫の余地が ある と 思 われ る。 観光 の最 大の問題 はサ ンゴ 礁 の回復遅 れであ る。サ ンゴ 図1与 論 島周辺の 表層浮魚礁 と大型 中層浮魚 礁 の 白化 は、サ ンゴと共生 してい る褐 虫藻 が海水 の高温化 によって逸脱す る ことに よるが 、 多 くの場 合海 水温の低下 によって回復 に向か う。 しか し与論 島におい てはその回復が著 し く遅れ てお り、その原因 は明 らかになっていない。 この問題 に取 り組 むため,国 際的な活 動 である リー フチェ ックにも参加 し,基 礎デ ー タの収集が行 われ てい る。 そ こで得 られた 水質や環 境調 査デー タの解析 と活用 を効果 的に行 うた めには、外部 の専 門的な知識 とノウ ハ ウにつ いて の協力 が必要 で ある。 3.港 湾施 設 とその周 辺部の観 察 港湾 工事 箇所付 近の海岸 に写真2に 示す よ うな漂着 ごみの溜 りが複数箇所 に見 られ た。 土木 工事 に よる潮 通 しの悪化で できた との ことだったが、詳細 は不 明である。 また工事箇 所周辺 では砂 の体積 によるサ ンゴ礁 の埋没や 、逆に砂の流失 による観光資源 と しての砂 浜
島の北部(賀 義野地 区)で は大規 模 な農 地整備の土木工事が進 め られ 、 赤 土が広範 囲に露 出 していた。観察 した 日は雨天であったが、赤土 の直 接流 出は認め られなかった。 しか し 与論 島には河 川はないので陸地 に降 った雨水は砂礫層 を通 して流 出す る と考 え られるで、土な どの粒子 はろ 過 され る として も、水 に溶 出す る成 分 はそのまま海 に流れ 出す こ とが考 え られ る。 周辺 の海岸 がサ ンゴ礁 性で あるに もかかわ らず 、アオサ類が発生 して いる状態 が観 察 されたが、沿岸 の富 栄養 化や 鉄分流出の可能 陸もあ り、 サ ン ゴの回復 遅れ との関連 も推察 さ れ る。 この点について も今後調査 が 必 要で ある。 写 真2工 事箇所周 辺 にできた漂着 ごみの 溜ま り 写真3北 部海岸付近の農地整備工事 ま と め 離 島 とい う限 られた地域の環境 内では さま ざまな要素 が相互 に強 く作用す る。 今回は与 論 島の産 業のなかで漁業 、観 光 ・ダイ ビング業、土木事業 につい て基礎 的な調査 をお こな ったが、相反 す る要素 を含みつつ強 い関連 を持 つ こ とがわか った。サ ンゴ礁 毎域 の魚 介類 は観 光客向けを含む食料資源 としての利用 で重 要な役 割 を果た してい るが、ダイ ビング等 のマ リンレジ ャーの観光用 自然 資源 としての意 味 も大 きい。 この二者 は捕獲 と保護 とい う 相反す る利用 形態で ある。 また 土木事業 はそれ 自身が大 きな経済効果 を持つ が、その 目的 はイ ンフ ラの整 備に ある。漁港 や海 岸 の整 備は主に漁業 と観光の利便性 を向上す る。 しか し同時に大規模 な工事は沿岸環境 のバ ランスを崩 し貴重な 自然資源 を破壊す る可能 性が あ る。 これを回避 す るた めには急激 な変化 を抑制 す るこ とと、適正 なバ ランスの維 持 を図 る こ とが重 要であ る。それ を実現す るには魚介類 の資源量や生態 を明 らかに し、土木工事の アセス メ ン トの精 度 を上 げる必要 が ある。 今 回の調査 で面談 に御協力い ただいた方 々か らは、沿岸環 境の保全 と回復 に対 す る意識
156
と意欲 の高 さを強 く感 じた。一方 で地理 的ハ ンデ ィによる調査研究協 力体制 の不足が認 め られ る。今後 各課題 を進 める上 で人 と情報 の交流体制の強化は最 も重要 な基礎 とい えるか も しれ ない。