11. Tetrafluoroethane, 1,1,1,2- テトラフルオロエタン, 1,1,1,2-

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全文

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IPCS UNEP/ILO/WHO

国際簡潔評価文書

Concise International Chemical Assessment Document No. 11. 1,1,1,2-Tetrafluoroethane

世界保健機関 国際化学物質安全計画

国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部 2002

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目 次

はじめに 1. 要約 3 2. 物質の同定、物理的・化学的特性 4 3. 分析方法 5 4. ヒトの暴露と環境への暴露 5 5. 環境中の移動、分布、変質 6 6. 環境中濃度とヒトの暴露 6 7. 体内動態と代謝の実験動物とヒトの比較 8 8. 実験室哺乳類と in vitro の試験系 9 9. ヒトへの影響 11 10. 実験室と自然界の他の動物への影響 12 11. 影響評価 12 12. 国際機関によるこれまでの評価 14 13. ヒトの健康保護と緊急アクション 14 14. 現在の規制、ガイドラインおよび基準 14 参考資料 別ファイルを参照のこと ICSC(国際化学物質安全性カード)の情報 15 付録1出典資料 15 付録2専門家委員会メンバー 15 付録3CICAD 最終のレビュー組織のメンバー(ベルリン) 16

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国際簡潔評価文書(Concise International Chemical Assessment

Document)

No.11

1,1,1,2-テトラフルオロエタン (

1,1,1,2-Tetrafluoroethane)

序言

http://www.nihs.go.jp/cicad/jogen.html

を参照のこと

1.要 約

1,1,1,2-テトラフルオロエタンに関するこの CICAD は、1995 年に英国の

Health and Safety Executive (Standring et al., 1995)によって作成された ヒト健康(最初は職場)に関するレビューに基づいている。ヒトの健康あるい は環境に及ぼす影響に関する追加情報は、ECETOC(1995)によって認定されて いる。1994 年 12 月までに同定されたデータはこれらのレビューに網羅されて いる。これらのレビューが公表された後に同定された追加データについては、 妥当なものとして採用されている。ピアレビューの情報や性格およびその入手 先などを付録1に示す。ま た 、CICAD の情報については付 録 2に示す。この CICAD は、1997 年 11 月 26-28 日に、ドイツのベルリンで開催された Final Review Board 会議において、国際的な評価として暫定的に認められている。Final Review

Board の出席者リストを付録3に示す。International Programme on Chemical Safety (IPCS, 1998)が作成した 1,1,1,2-テトラフルオロエタンの国際化学

物質安全性カード(ICSC 0059)もまた、本公文書の中におり込まれている。

1,1,1,2-テトラフルオロエタン( CAS no.811-97-2)は、hydrogen fluoride と trichloroethylene とを閉鎖系で反応させて生産されるガス状 fluorocarbon の一種である。本剤は主として、比較的高い温度の冷却庫の冷却剤として、例 えば、家庭用の冷蔵庫や自動車の空調などに用いられる。他の主な用途として は、プラスチックの吹き付け成型、特殊なクリーニングの溶剤、医療用吸入器 のエアゾル用推進装置やハロンに代わる消化剤などに利用されている。 1,1,1,2-テトラフルオロエタンの一般人や労働者への曝露に関する情報は殆ど 同定されていない。英国における生産過程で労働者が本剤に曝露されることは 稀てあり、7 pp(29.2 mg/m3)以上検出されることはない。生産工場内での曝

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露測定データはなく、また、そこで働く人々に関するデータもない。英国にお ける現場の状況並びに 1,1,1,2-テトラフルオロエタンに曝露されたという一 つの似通ったデータ(HCFC 123)によれば、仕事場で 1,1,1,2-テトラフルオロ エタンに曝露される量は通常低く(10 ppm [41.7 mg/m3])、短時間に曝露され た場合でも、そのピークは数 100 ppm までである。 1,1,1,2-テトラフルオロエタンのヒトに及ぼす影響に関する情報は、たった一 つの報告があるだけであり、入手し得るデータの殆どのものは、実験動物で得 られたものである。1,1,1,2-テトラフルオロエタンの毒性は、比較的低い。40000 ppm(166800 mg/m3)の 1,1,1,2 -テトラフルオロエタンをウサギに曝露した際、 母親の体重増加に抑制が見られ、ラットを用いる発生毒性試験では、50000 ppm (208500 mg/m3)の 1,1,1,2 -テトラフルオロエタンを母親に曝露した場合に胎 児の発育に遅延が見られている。他の毒性試験では、10000 ppm(41700 mg/m3 の濃度まで曝露しても何ら毒性兆候は見られていない。発がん性については、 50000 ppm で、Leydig 細胞の腺腫の発生率が増加したという一例があるだけで あり、現在のところ、1,1,1,2-テトラフルオロエタンに遺伝毒性があるという 報告はない。 1,1,1,2-テトラフルオロエタンが水棲生物に対して低い毒性を示すこと、また、 本剤の揮発性が高いという事実を含め、水棲生物に対するリスクは殆どないと 思われる。 モデル化によって、環境影響の評価も試みられている。最近の観察では、 1,1,1,2-テトラフルオロエタンの環境濃度は、急激に増加しており、それは、 主に、過去の世紀に渡る放出によるものである。モデルによると、オゾンの僅 かな減少や重要と思われる地球の温暖化、あるいはわずかな酸性化現象などに 関係すると思われる。

2. 物質の同定並びに物理的・化学的特性 1,1,1,2-テトラフロロエタンは(CAS 番号 811-97-2; C2H2F4: 1,2,2,2-テトラフロロ

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エタン、HFC 134a、HFA 134a、 HCFC 134a )はかすかなエーテル様の臭いを発す るガス状のフッ素化合物である。アルコール類、エステル類および塩素系の溶媒に可 溶であるが、水にはほんの僅かしか溶けない。沸点は-26℃で、蒸 気 圧 は 25 ℃で 630kPa である。他の特性については、本文書で複製された国際化学物質安全性カ ード(International Chemical Safety Card)に示されている。1,1,1,2-テトラフロロ エタン1ppm は 4.17 mg/m3に相当する(25℃)。1,1,1,2-テトラフロロエタンの構造式 は下記の通りである。 F H | | | F― C ― C ―F | | F H 3. 分析方法 1,1,1,2-テトラフロロエタンの暴露をモニターするには、安全衛生局(1995)で承認され た 手 法 (非 公 開 )の分析法が用いられている。大気サンプルは、拡散法により Spherocarb 上に収集した後、熱解離させると同時にガスクロマトグラフ(水素炎イオン 化検出器FID)で分離、分析する。拡散法による収集率は、1分間当たり1.2 ng/ppm と報告されており、本法は暴露時間(Spherocarb との接触時間?)を30 分ないし480 分に延長すれば0.1 ppmの低濃度まで検出可能である。1) Anasorb CMSへの注入 サンプリング法と溶媒による抽出(樹脂からの解離)をへて同様にガスクロマトグラフ (FID)で分析する方法も有用であることが報告されている(Griffiths、1998)。また、 Miran 型赤外モニター(Quantitech Ltd.)2)あるいはInnova 1312 型光音響モニタ

ー(CBISS)3)も大気中に存在するppm レベル以下の濃度の 1,1,1,2-テトラフロロエタ

ンの測定が可能である、という報告もある。 1) ICI 研究所 The Heath, Runcorn, UK からの私信による。

2) 第3ユニット、Old Wolverton Road, Old Wolverton, Milton Keynes, UK MK12 5NP 3) 5-11 Coronation Drive, Bromborugh, Wirrel, UK L62 3LF

1,1,1,2-テトラフロロエタンの職業的暴露に対する生物学的モニタリングに関しては報 告がない。しかしながら、他の脂肪族ハロゲン化合物の例と同様、気道部位あるいは 尿からのサンプルの 1,1,1,2-テトラフロロエタン分析に基づいて生物学的モニタリング 法を開発することは可能であろう (Woollen ら、 1990 、 1992)。加えて、医学的な目 的で吸入したヒトに対する実験から、1,1,1,2-テトラフロロエタンを血中サルオロエタン

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から分析することができるとが明かとなった。吸入後2分で、1,1,1,2-テトラフロロエタン の濃度は、200-700 ng/ml であり、この値は、12 分後では、急激に減少していたという (Donnell ら、1995)。 4. ヒトおよび環境の暴露源 1,1,1,2-テトラフロロエタンは、フッ化水素とトリフロロエチレンとを密封条件下で反応さ せて製造する。液化ガスとして得られ、種々の圧力コンテナーで供給される。 1,1,1,2-テトラフロロエタンは、主として家庭用の冷蔵庫あるいは車の冷房装置に耐熱性冷却 剤として用いられている。他の用途としては、プラスチックを膨らませるためにも使用可 能であり、特殊なクリーニング用の溶剤、医療用の吸入器の噴霧推進剤、あるいはハ ロンの代行としての消化剤としても使用される。 1990 年から1995 年の間に世界における1,1,1,2-テトラフロロエタンの生産量は、年間 で0.2 から73.8 キロトンに増えており、同時期における本剤の地球上への年間放出量 は、0.1 から20.3 キロトンに増加していると見積もられている(AFEAS、1996)。 5. 環境中の移動・分布・変質 1,1,1,2-テトラフロロエタンは、殆ど大気に分散される。液体状のものは、蒸発し、その 半減期は数日から2、3週間である。1,1,1,2-テトラフロロエタンが生物相に蓄積したり (Kow = 1.06 )、土壌あるいは汚泥に吸収したりLog Koc =1.5)することはまず考えら れない。雲の水分中の大気平衡濃度は0.2 ppt と推定されている。これは、2020 年で、 100-200 ppt (量として 0.4-0.8 μg/m3)という大気濃度の推定量から 計算されたものである(McCulloch 、1993)。長時間に渡る半減期は地球規模では多 少均一に分布する結果となる(Franklin、1993)。 対流圏における1,1,1,2-テトラフロロエタンの全体の推定半減期は 14.6 年であり (IPCC 、1995 )、ヒドロキシラジカル(OH)によって変質してしまう。理論的には、 1,1,1,2-テトラフロロエタンは、テトラフロロエタンの大気中での変質によって生ずる CF3OX を通してオゾンの消耗に関与すると考えられる。しかし、この可能性は、最近の 研究では重要ではないと評価されている(Ko ら、1994; Ravishankara ら、1994)。 1,1,1,2-テトラフロロエタンの 100 年間に渡る地球温暖化の強さは(炭酸ガスに関連し て)、CFC-11 で 3800、CFC-12 では 8100 であるのに対し、1300 と推定されている。

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この両者にとっては、1,1,1,2-テトラフロロエタンが主な基質となっている(IPCS、 1995)。Franklin (1993)は、1,1,1,2-テトラフロロエタンは、2010−2020 年までには、 大気中の背景濃度100 ppm (量として 0.4 μg/m3に達するであろうと見積もってお り、大気中の成層圏における放射能の約 0.3%程度関与するだけであろうと言ってい る。 ヒドロキシラジカルは1,1,1,2-テトラフロロエタンを分解して CF3CHFO ラジカルの形に し、それが酸素と反応してトリフロロアセチルフロライド(CF3COF)を発生し、あるいは 分解してホルミルフロライド(HCOF)および CF3ラジカルを生ずるようになる。CF3ラジ カルは最終的には、カルボニルフロライド(COF2)およびフッカ水素(HF)に変化する。 モデル実験では、1,1,1,2-テトラフロロエタンの 40%が、前者の過程によて分解され、 69%が後者の過程で分解されることを予測している(Franklin 、1993)。最近の研究 では、トリフロロアセチルフロライドは、以前の結果で想定した 40%よりもむしろ 7-29% の範囲で生ずることが示唆されている(Wallington ら、1996)。

酸性フロライド(CF3COF、 HCOF、 および COF2)は主に、雲の水分に取り込まれる

運命にあり、加水分解によってトリフルオロ酢酸、ギ酸、二酸化炭素およびフッ化 水素 となる。海陸の表層に留まっている場合は稀であり、直ちに加水分解されてしまう (AFEAS、1992、1993)。 分解産物の環境中のフッ化物や酸性雨に対する影響は殆どないと思われている (WMO、1989: Franklin、1993)。 トリフロロ酢酸が天然にあるものは知られていない。しかしながら、最近の研究(Frank ら、1996)によれば、欧州やイスラエルで雨水中や水面に、1,1,1,2-テトラフロロエタン その他のクロロフロロカーボン置換体が、大気中での分解によると説明できない程高い レベルで検出されている。このトリフロロ酢酸の起源については、現在説明されてはい ないが、天然起源である可能性は否定できない。上記の如く、放出あるいは大気中で の分解に(Franklin 、1993)を想定するならば、トリフロロ酢酸の雨水中での沈積は、 年間45 キロトン(2010−2020 年の間)であり、地球全体で、平均 0.1 μg/l の濃度で 沈殿していると推定される。トリフロロ酢酸は、色々な水相環境中に分布する可能性が ある。即ち、海水の上層部に蓄積するとすれば、1,1,1,2-テトラフロロエタンの分解物 100 キロトン当たり、1,5 ng/l の濃度まで増加すると期待されよう。 実験室での試験では、1,1,1,2-テトラフロロエタンの分解物は、活性化された汚泥物中 (Tobeta 、1989 )にも、あるいは、好気性細菌 Methylosimus trichosporium

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(DeFlaun ら、1992)によっても見られていない。トリフロロ酢酸は嫌気的条件下で、ト リフロロメタン、無機のフッ化物、メタン、および、二酸化炭素に分解される(Visscher ら、1994)。 6. 環境中の濃度およびヒトの暴露 6.1 環境中の濃度 1995 年では、1,1,1,2-テトラフロロエタンの平均大気濃度は約 2 ppm (8.3 ng/m3)で あった。即ち、1994 年から 1995 にかけて、濃度は有意に増加し、1994 年の初めの 0.3 ppt(1.3 ng/m3)から、1995 年末には、1.2-3.4 ppt(5.0-14.2 ng/m3)に上昇した (Montzka ら、1996)。測定は、カナダ内陸、米国大陸、ハワイ、米国サモア、および、 タスマニアあるいは太平洋や大西洋の海域で行われた。 6.2 ヒト暴露 一般環境からの1,1,1,2-テトラフロロエタンの暴露量に関する情報は確認されておらず、 職業的な暴露に関するデータのみに限定されている。英国近代工場での生産過程で、 作業員 が暴 露さ れる 量は 極め て低く、 7 p p m を超える濃度とはならない(29.2 mg/m3)(Standring ら、 1995)。工場内で使用される場合の濃度に関する測定は 行われておらず、現場で働いている人々への暴露に関するデータもない。本総説を書 く時点では、英国でのたった 1 つの工場での情報があるのみであったが、近い将来に は他の生産工場に対しても同様な線で継続して行く可能性がある。英国の立場および ジクロロトリフロロエタン(HCFC 123)暴露に関する一つの試験データ(Standring ら、 1995)によれば、通常、暴露量は低く(例えば、12 時間平均で、10 ppm (41.7 mg/m3)以下であり、たまたま短期間で暴露された場合には、最大量が数ppmに及ぶ と考えられている(H. Sibley、年代不明)。 7. 実験動物およびヒトでの体内動態並びに代謝の比較 〔18F〕1,1,1,2-テトラフロロエタンの単回吸入時における排出および体内分布について、 志願者を用いて、全身ガンマ法による測定が行われた(Pike ら、1995)。分布は広範 囲にわたったが、排出は早く、基本的には、6 時間で完結した(半減期、1.5-4 時間)。 尿中での放射能の排出については、一部の例についての報告であるが、蓄積するとい う証拠は得られなかった。 ある志願者群については、1,1,1,2-テトラフロロエタンを医療用拡散装置によって、10

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分間にわたり、16 回吸入(総量 1200 mg)した後に測定した(Monte ら、1994)。 尿材料を24 時間にわたり採集し、トリフロロ酢酸について、19F 核磁気共鳴分光法(検 出感度10 ng/ml)を用いて分析した。トリフロロ酢酸の尿中量は、検出できない量から 1,1,1,2-テトラフロロエタン投与量の 0.0004%の範囲にあった。本法によれば、尿中に は他のフッ素生産物は検出されなかった。 ラットを用いる吸入試験では、1,1,1,2-テトラフロロエタンはほんの僅かしか吸収されず (Ellis ら、1991)、排出は早く、無変化のままの 1,1,1,2-テトラフロロエタンが呼気とし て排出された(Finch ら、1995)。殆ど代謝は見られず、主な尿中の代謝物は二酸化 炭素およびトリフロロ酢酸であった。特定な臓器に 1,1,1,2-テトラフロロエタンが有意に 蓄積することはなかった。 8. 実験動物および in vitro (試験管内)試験系での影響 8.1 単回暴露 1,1,1,2-テトラフロロエタンの急性毒性は低い。ラットに致死量 567000 ppm (2,36 x 106 mg/m3)を平均 4 時間暴露した場合が報告されている。81000 ppm (337770 mg/m3)では、何ら影響が認められなかった(Kennedy、1979a; ECETOC、1995 よ り引用)。200000 ppm (834000 mg/m3)以上の濃度では、ラットに対して、1,1,1,2-テ トラフロロエタンは、中枢神経系の作用を低下させた。1) 他の動物種では、麻酔効果 もまた認められている。犬を用いた実験で、無影響量40000 ppm (166800 mg/m3 の 1,1,1,2-テトラフロロエタンを投与した場合、アドレナリン投与に対する心臓感作(心 臓の感受性の増加)が観察されている(Hardy ら, 1991)。 8.2 吸入および感作 刺激あるいは感作試験は見当たらなかった。 1)フルオロカーボン代替法試験計画、Toulouse 国際毒性フォーラム、1989年9月; P. Standring (1993)からの私信による。 8.3 短期暴露

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典型的な短期反復暴露による研究情報は見当たらなかった。 8.4 長期暴露 8.4.1 亜慢性暴露 雌雄のラットを用い、1,1,1,2-テトラフロロエタン50000 ppm (208500 mg/m3)を13 週 にわたって暴露した吸入試験で、何ら有意的な毒性効果は観察されなかった(Hext、 1989; Collins ら、1995)。 8.4.2 慢性暴露および発がん性 Wistar 系の Alderley Pa rk ラットの雄 85 匹および雌 85 匹を用い、現行のプロトコ ールに従って行われた実験では、0(空気のみ), 2500, 10000 あるいは 50000 ppm (0, 10425, 41700 あるいは 208500 mg/m31,1,1,2-テトラフロロエタンを6 時間、

週に5 日、2 年間に渡って暴露された(Hext Parr-Dobrzanski、1993、 Collins ら., 1995)。死亡率は低く、暴露群は対照群と同様であった。途中で屠殺(52 週)した群 には、暴露に関連する病理学的変化は認められなかった。期間満了後では、精巣に Leydig (睾丸間質)細胞の過形成並びに良性 Leydig 細胞腺腫の出現率が増加した。 主に、期間満了時に生き残った動物については、精巣の顕微鏡観察を実施している。 対照群、2500, 10000,および 50000 ppm (0, 10425, 41700 あるいは 208500 mg/m3)群でのLeydig 細胞の過形成の出現率は、それぞれ、27/85, 25/79, 31/85, および、40/85(32, 32, 36, および 47%)であり、Leydig 細胞腺腫では、それぞれ、 9/85, 7/79, 12/85 および 23/85 (11, 9, 14,および 27%)であった。このような腫瘍を 持つ殆どの動物に過形成が観察されている。1,1,1,2-テトラフロロエタン 50000 ppm (208500 mg/m3)では、Leydig 細胞腺腫の出現率は対照群よりも有意に(p<0.05) 増加した。10000ppm (41700 mg/m3)投与群での Leydig 細胞腺腫および過形成の 出現率は、当実験室で観察され てきた対照背景レベル以内に留まっている。腫瘍の 出現率の背景レベルは、1985∼1995 年で、4−19%の間に分布している。本実験に おける無影響レベル(NOEL)は、10000 ppm (41700 mg/m3)と考えられる。 他の試験は、あまり厳密には行われていないが、ラットを用い、50000 ppm (208500 mg/m3)を暴露した場合や、マウスを用い、75000ppm (312750 mg/m3)を 2 年間吸 入 暴 露 し た 実 験 で は 、 本 剤 の 投 与 に 関 連 し た 腫 瘍 性 変 化 は 認 め ら れ て い な い (Alexander ら., 1995a )。また、犬を用いて、120000 ppm (500400 mg/m3)の

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1,1,1,2-テトラフロロエタンを1年間暴露した場合もまた同様であった(Alexander ら、 1995b)。 8.5 遺伝毒性および関連試験 1,1,1,2-テトラフロロエタンの遺伝毒性については、幾種類のかなり詳しい試験(細菌 を用いる変異原性試験(Ames 試験)、哺乳類培養細胞を用いる細胞遺伝学的試験、 生体内染色体異常試験、小核試験、生体内不定期 DNA 合成(UDS)試験および優 性致死試験など)が行われている。1,1,1,2-テトラフロロエタンは、これらいずれの試験 で も 陰 性 で あ っ た (Anderson および Richardson 、1979 : Hodge ら、1989; Callander および Priestley、1990: Mackay、1990; Trueman 、1990; Collins

ら、1995)。 8.6 生殖および発生毒性 ラットを用い、1,1,1,2-テトラフロロエタンを 0, 2500, 10000,あるいは 5000 ppm (0、 10425、 41700 、 あるいは 208500 mg/m3)、1 日 1 時間、配偶子形成時、交配時、 および交配後に暴露した実験では、暴露に関連した影響は見られなかっ(Alexander ら、1996)。優性致死試験では、雄ラットに対して、何ら受精に影響を及ぼす結果は見 られなかった(Hodge ら、1979)。ラットを用いる標準的な発生毒性試験では、母体に 1,1,1,2-テトラフロロエタン 50000 ppm (208500mg/m3)を暴露した際に、胎仔育成 の遅延(胎 仔 の 平 均 体 重 の 減 少 、指 の 骨 形 成 の 遅 延 )が観察された(Hodge ら、 1980)。40000 ppm (16 6800 mg/m3)の 1,1,1,2-テトラフロロエタンを暴露させたラ ットでは、それ以外の影響は見られなかったが、ウサギでは、ある濃度で母体の体重増 加を抑制するという報告もある(Wickramaratne、1989; Colilins ら、1995)。ウサ ギを使用した場合、暴露中に 30%の低下が認められたが、その後は回復した。この場 合、全体としての体重は、対照群と比較して3%減となった。 8.7 免疫学的並びに神経学的影響 入手可能な所見によれば、1,1,1,2-テトラフロロエタンの長期暴露に関連した特異的な 免疫学的あるいは神経学的影響は確認されなかった。 9. ヒトへの影響

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限られたデータではあるが、1,1,1,2-テトラフロロエタンを一定の濃度で噴霧する操作 に用いた場合の報告がある(Donnell ら1995)。 志願者に 1,1,1,2-テトラフロロエタン を 10 分間、16回呼吸させた。この試験では、血圧および心臓の鼓動、ある種の血液 生化学検査、あるいは、肺機能検査を実施した。その結果、何ら異常は認められず、 毒性を示唆する臨床症状は見られなかった。 10.実験室および自然界での他の生物に及ぼす 影響 1,1,1,2-テトラフロロエタンは、細菌、Pseudomonas putida の増殖に影響を及ぼさな かった(6-hEC50 > 730mg/l)(Coleman および Thompson, 1990)。淡水生物に対 する急性毒性は低い(Daphnia magana(ミジンコ)では, 48-hEC50が980mg/l; ニ

ジマス Oncorhynchus mykiss では、96-hLC50が 450mg/l)(Stewart および

Thompson、1990; Thompson 、1990)。本実験で用いられた水中での高い濃度は、 人為的に保たれたものである。環境中では、水相から、速やかに大気中に分離してく るであろうから、本実験で用いられた高濃度の状態は、水面上の大気がまぎれもなく 1,1,1,2-テトラフロロエタンであると仮定した場合のみ到達し得る濃度である。 その他の水棲あるいは陸棲の生物に対する1,1,1,2-テトラフロロエタンの影響について は明確ではない。 11.影響の評価 11.1 健康影響の評価 11.1.1 有害性の特定および用量依存性の評価 1,1,1,2-テトラフロロエタンのヒトに対する影響情報は、一つの報告に限定されており、 1,1,1,2-テトラフロロエタンの毒性に関する入手可能なデータは、動物実験の成績から 得られたものが大部分である。1,1,1,2-テトラフロロエタンの毒性は比較的低い。本化 合物は、ガス状であり、本質的には反応しにくいように見え、適切な研究は見当たらな いが、刺激性もなく、感作物質でもなさそうである。発生毒性試験では、ウサギで、 1,1,1,2-テトラフロロエタンを40000ppm (166800mg/m3)暴露させた場合、母親の体 重 の 増 加 に 対 す る 低 下 が 見 ら れ 、またラットでは、1,1,1,2- テトラフロロエタンを 50000ppm (208500 mg/m3)を母親に暴露した場合に、胎児の発生に遅延が認めら れている。しかし、他の毒性研究では、1,1,1,2- テトラフロロエタンを 10000 p p m (41700mg/m3)まで暴露しても、健康障害は観察されてはいない。

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1,1,1,2-テトラフロロエタンの発がん性に関する確固たる証拠はあまりない。Wistar 系 のラットを用い、1,1,1,2- テ トラフロロエタンの非常に高い濃度 50000b ppm (208500mg/m32 年間にわたって暴露させた場合、良性の Leydig 細胞腺腫の出 現率が有意に、しかも、用量依存的に増加した。しかしながら、このような腺腫の出現 は、本動物系のみならず、他のラット系でも、自然発生的に認められており、現在まで に実施された研究では、1,1,1,2-テトラフロロエタンには遺伝毒性的な所見は得られて いない。 11.1.2 1,1,1,2-テトラフロロエタンの指針値設定基準 入 手 し 得 た デ ー タ に 基 づ け ば 、1,1,1,2- テトラフロロエタン 10000ppm (41700 mg/m3)を暴露した場合、実験動物に対して何らの毒性影響は認められなかった。従 って、この値は、適当な不確定要素を適用しても、また、直接効果を考慮しても、いず れも、有害性の特質を決定するための基礎となり得る。この両者の場合の例を次項 11.1.3 に示す。 11.1.3 試料のリスク特性 英国内での職業上の暴露を例として取り上げてみると、そこでは、通常の状態で、 1,1,1,2-テトラフロロエタンに職業的に暴露される予測量(平均の 8-12h 時間暴露)は 10 ppm (41.7mg/m3)近辺にあるが、稀に、短時間に暴露される最高濃度が数 100ppm となる場合もある。この濃度は動物実験から得られた NOAEL 10000 ppm (41700 mg/m3)と比べて、1∼3オーダも低い。しかしながら、英国における職業環境 暴露に関するデータには限度があり、他の国々での暴露条件を予測することは困難で ある。 英国では、1,1,1,2-テトラフロロエタンの健康に基準をおいた暴露制限を 1000 ppm (4170 mg/m3)(平 均 8-h 時間量)と制定してきた。これは、NOAEL 10000 ppm (41700 mg/m3を不確定係数10 で除した値に相当する。 11.2 環境影響の評価 1,1,1,2-テトラフロロエタンが試験した2、3の水棲生物に低い毒性を示したこと、および、 本剤が高い揮発性をもつことから、水棲生物に対しては、殆どリスクはないものと思わ れる。

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大気の影響はモデルを用いて評価されてきた。最近の観察では、1,1,1,2-テトラフロロ エタンの大気中の濃度が急激に増加しており、それは、過去10年間にわたる放出の 結果であることが示されている。モデルによれば、オゾンの僅かな消耗、地球の温暖化、 ごく僅かな酸性化に関与していると思われる。 12.国際機関によるこれまでの評価 1,1,1,2-テトラフロロエタンの国際機関によるこれまでの評価は、はっきりしていない。国 際的な有害性の分類およびラベル作成については、本文書で作成された国際化学物 質安全性カード(International Chemical Safety Card)に収められている。

13.健康の保護および緊急処置

ヒトの健康障害は、予防・防止手段および適切な応急処理法と共に本文書で作成され た国際化学物質安全性カード(International Chemical Safety Card )に紹介され ている。 13.1 健康障害 1,1,1,2-テトラフロロエタンは本来毒性もなく、また引火性もない。しかし、急激に液化 ガスが噴出するような場合には凍傷を起こす可能性がある。 13.2 医師への注意 対症療法と支持療法を行う。この場合、暴露後には、アドレナリンあるいはその類似対 症薬の投与を控える。それは、心臓の不整脈が起きたり、引き続き心拍停止を来す可 能性もあるためである。 13.3 漏洩 1,1,1,2-テトラフロロエタンをこぼした場合には、緊急対処に当たる者は,適切な防毒着 およびマスクを着用する必要がある。それは、蒸気は空気よりも重いため、下方に沈み、 貯まる性質があり、その結果、酸欠となる恐れがあるからである。その現場に入る前に

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は、常に酸素量を確かめる必要がある。

14. 原稿の規則、ガイドラインおよび基準

各国の規制、ガイドラインおよび基準に関する情報は、国際有害化学物質登録制度 (International Resister of Potentially Toxic Chemicals, IRPTC)の法的ファイ ルに示されており、ジュネーブのUNEP Chemicals(IRPTC)から入手可能である。 CICAD原著には 1,1,1,2-Tetrafluorethane の国際化学物質安全性カードが添付され ているが本ホームページでは http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss1281c.html 収載されているので、そちらを参照されたい. 追加資料- 文書の出場所 Standring ら、 (1995) 「1,1,1,2-テトラフロロエタン; 職業的暴露制限のための評価文書」(P. Standring, S. Maidment, A. Ogunbiyi, J, Groves および J. Cocker らによって作成)の報告書 のドラフトについて、最初、約10人の健康安全性部門の専門委員によって総説が作ら れた。この委員の大部分は毒性学者であるが、その他疫学あるいは、労働衛生の専門 家も含まれている。毒性部門に関する修正案については、英国の衛生局の手でレビュ ーされた。その後、全体の文書は、3 者共同委員会でまとめられ、さらに、英国の安全 衛生委員会の特性化学物質評価委員会作業部会(WATCH)に提出される。この委 員会には、企業側の専門家、労働組合あるいは学術的な立場からの毒性学者、職業 衛生学者などの専門家が参加している。 当 時 の WATCH のピアレヴューに参加した人々は、独立コンサルタントの S. B. Bailey 氏、 Surrey 大学の J. Bridges 教授、化学工業会の Guest 博士、労働組合 議会のA. Hay 博士、Birmingham 職業衛生研究所の L. Levy 博士、化学工業会 の M. Molyneux 博士、および A. Moses 氏、労働組合会議の R. Owen 博士、およ び独立コンサルタントのJ. Sanderson 氏などである。

APPENDIX 2 - CICAD PEER REVIEW

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to institutions and organizations identified by IPCS after contact with IPCS national Contact Points and Participating Institutions, as well as to identified experts. Comments were received from:

Department of Health, London, United Kingdom

Department of Public Health, Albert Szent-Gyorgyi University Medical School, Szeged, Hungary

European Centre for Ecotoxicology and Toxicology of Chemicals (ECETOC), Brussels, Belgium

Health Canada, Ottawa, Canada

International Agency for Research on Cancer, Lyon, France Ministry of Health and Welfare, International Affairs Division, Government of Japan, Tokyo, Japan

National Institute for Working Life, Solna, Sweden

National Institute of Occupational Health, Budapest, Hungary United States Department of Health and Human Services (National Institute of Environmental Health Sciences)

United States Environmental Protection Agency (Office of Pollution Prevention and Toxics, National Center for

Environmental Assessment, Office of Research and Development; Office of Drinking Water)

APPENDIX 3 - CICAD FINAL REVIEW BOARD

Berlin, Germany, 26-28 November 1997 Members

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Dr H. Ahlers, Education and Information Division, National Institute for Occupational Safety and Health, Cincinnati, OH, USA

Mr R. Cary, Health Directorate, Health and Safety Executive, Bootle, United Kingdom

Dr S. Dobson, Institute of Terrestrial Ecology, Huntingdon, United Kingdom

Dr R.F Hertel, Federal Institute for Health Protection of Consumers & Veterinary Medicine, Berlin, Germany (Chairperson)

Mr J.R. Hickman, Health Protection Branch, Health Canada, Ottawa Ontario, Canada

Dr I. Mangelsdorf, Documentation and Assessment of Chemicals, Fraunhofer Institute for Toxicology and Aerosol Research, Hanover, Germany

Ms M.E. Meek, Environmental Health Directorate, Health Canada, Ottawa,

Ontario, Canada (Rapporteur)

Dr K. Paksy, Department of Reproductive Toxicology, National Institute of Occupational Health, Budapest, Hungary

Mr V. Quarg, Ministry for the Environment, Nature Conservation & Nuclear Safety, Bonn, Germany

Mr D. Renshaw, Department of Health, London, United Kingdom Dr. J. Sekizawa, Division of Chemo-Bio Informatics, National Institute of Health Sciences, Tokyo, Japan

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University, Alexandria, Egypt (Vice-Chairperson)

Dr M. Wallen National Chemicals Inspectorate (KEMI), Solna, Sweden Ms D Willcocks, Chemical Assessment Division, Worksafe Australia, Camperdown, Australia

Dr M. Williams-Johnson, Division of Toxicology, Agency for Toxic Substances and Disease Registry, Atlanta, GA, USA

Dr K. Ziegler -Skylakakis, Senatskommission der Deutschen Forschungsgemeinschaft zuer Pruefung gesundheitsschaedlicher Arbeitisstoffe, GSF-Institut fuer Toxikologie, Neutherberg, Oberschleissheim, Germany

Observers

Mrs B. Dinham,1 The Pesticide Trust, London, United Kingdom

Dr R. Ebert, KSU Ps-Toxicology, Huels AG, Mart, Germany (representing ECETOC, the European Centre for Ecotoxicology and Toxicology of

Chemicals)

Mr R Green,1 International Federation of Chemical, Energy, Mine and

General Workers' Unions, Brussels, Belgium

Dr B. Hansen,1 European Chemicals Bureau, European Commission,

Ispra, Italy

Dr J. Heuer, Federal Institute for Health Protection of Consumers & Veterinary Medicine, Berlin, Germany

Mr T. Jacob,1 DuPont, Washington, DC, USA

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C o -operation and Development, Paris, France

Dr H.J. Weideli, Ciba Speciality Chemicals Inc., Basel, Switzerland (representing CEFIC, the European Chemical Industry Council) Secretariat

Dr M. Baril, International Programme on Chemical Safety, World Health Organization, Geneva, Switzerland

Dr R.G. Liteplo, Health Canada, Ottawa, Ontario, Canada

Ms L. Regis, International Programme on Chemical Safety, World Health Organization, Geneva, Switzerland

Mr A, Strawson, Health and Safety Executive, London, United Kingdom Dr P. Toft, Associate Director, International Programme on Chemical Safety, World Health Organization, Geneva, Switzerland

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参照

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