論 文
政府規模と府県政参加
野 田 遊
(愛知大学地域政策学部准教授)
1.関 心
府県は,住民票の写しの交付や転出入の届出をはじめ一般に訪れることの多い市町村に比べ,訪問機会 は多くはなく,住民との関わりは薄い。府県も市町村と同じく地方自治体であることには変わりない。府 県は,第一期地方分権改革においては,中央地方関係における団体自治の交渉主体としての役割が目立っ たが,広域的な自治体であるからといって住民自治が不要なわけではない。政府の運営や政策形成におい て,住民の意思の反映は,実質的か形式的かは別として前提である。しかも広域自治体の方が基礎自治体 と比べ,市域を超える道路基盤の整備や水資源管理,危機管理,広域的な土地利用など壮大なスケールで 地域に大きなインパクトを与える政策問題を対象とし,関係者も広範にわたるため,参加が本格的になさ れれば民主主義は非常に有意義なものとなる。 本稿は,従来,参加研究の対象にされなかった府県政への参加を政府規模との関係で論じるものである。 ダールは,大きな規模の政府においては,扱うことができる政策課題は包括的で複雑なものとなるため参 加機会は投票といった最小限のものとなり,逆に小さな規模の政府においては,住民の参加機会は多くな るが,対処できる政策課題は限定的であるためつまらないものになると指摘する(Dahl 1967: 960)。政府 規模の大小にはプラス,マイナスの両面のさまざまな効果があり,それらの総体として規模のメリット, デメリットが求まる。留意しなければならない点は,府県政への参加を検討するための政府規模は,府県 のみをみていては十分でないことである。府県は,市町村を地理的に包括する広域的な自治体であるため に,住民からみれば,二つの政府に居住するという決定的な特徴がある。すなわち,政府規模は広域自治 体と基礎自治体の両面から捉える必要がある。大都市の住民にとっての府県への参加と,同じ府県内の小 規模市町村の住民にとっての府県への参加が異なるかは興味深い論点である。したがって,本稿では,府 県政への参加の検証において府県規模のみならず市町村規模の影響にも着目する。 以下では,まず,政府規模と参加の関係に係る理論研究から検証で扱う変数を検討する1)。そのうえで, 政府規模と府県政参加の関係を明らかにするためのモデルを構築し,実証的に規模と参加の関係に迫るこ ととしたい。なお,扱う先行研究はいずれも基礎自治体を対象としたものであり,広域自治体を論じる本 稿ではそうした議論をふまえた類推により仮説を設定することになる。
2.政府規模と参加の論議
2.1 市民有効性とシステム容力 ダールは,理想的な民主主義政治体のための二規準として,市民有効性(citizen effectiveness)とシステ ム容力(systems capacity)をあげ,これら両面から最適な政府規模を検討する。市民有効性とは,「政治体 の決定に責任をもち,それを適切完璧に制御する市民の規準」(ダール=タフティ 邦訳 1979: 33)であり, 政府規模と参加に関わるものとして論じる。ダールは,スウェーデンの調査の結果から,国の規模ではな く,国内の地方政府の単位では,規模が参加と有効性に及ぼす効果が認められるとする。ただし,規模の 異なる地方政府間において市民有効性と参加の関係を定量的に検証したわけではない。代わりに,政府へ の接近可能性と政府そのものや政府が行っていることへの理解可能性の概念を持ち出す。アーモンドとヴァーバの『現代市民の政治文化』(The Civic Culture 1963)で使用された 5 カ国調査データによる,地方で
の争点などに関する認識の指標を用いて,接近可能性と理解可能性が高ければ,地方政府は参加を育み,
市民の有効感を高めることを指摘する 2)。接近可能性や理解可能性は,政府規模が大きくなるほど低くな
る。大きな政府ほど扱う政策問題や官僚機構が複雑化し,公務員との接触や政府の会議への参加,投票は 難しくなるとされる。ダールが政府規模と政治的無力感の正の関係を論じているとおり,市民有効性は政 府規模が小さなほど高くなると解釈できる。実証については,デンマークの自治体合併の前後の比較分析 により人口規模が住民の内的有効性感覚を減じる効果を与えることを検証した研究(Lassen and Serritzlew 2011)や,逆に,ハンガリーとポーランド,ルーマニアの自治体を対象に,人口規模と市民有効性の間に 弱い正の関係を指摘するもの(Pop 2005)もある3)。 これらの議論をもとにしてわが国のケースを考えた場合,府県の規模が大きくなると,有効性が低下す ることが想定される。一方,もう一つの政府規模である市町村規模は,大きなほど小さな市町村の住民よ りも府県への心理的距離が近くなり,有効性が高まると考えられる。県庁所在地の都市住民は,府県内で は広域自治体に最も近い心理的距離感をもつと思われる。その背景には,県庁所在地という言葉があると おり県庁が立地しており,府県内最大の政治的,経済的,文化的中心地であり,権限や人口も集中してい るという状況がある。県庁への地理的距離が近いことも参加促進のための要因になる変数ではあるが,あ くまで心理的距離が近いことの背景である。地理的距離が近いか遠いかよりも,結果としての心理的距離 の近接性が決定的に重要である。検証はできないが,一般に,いずれの府県においても県庁所在地の住民 は,府県への心理的距離が近い都市住民として,県内他市町村の住民よりもある種の優越感をもつと想像 1) 先行研究では,参加は,投票から,政策過程への参加,個別的接触,地域活動などまでを含めて議論されるように,本来,参加は多面的な ものである。このような多面的な参加は,投票や個別接触,地域活動など異なる位置づけがなされて分析されるべきである。ただし,後述す るようにほとんどの参加の行為が選挙やホームページ閲覧程度であるなかにあって,それらの類型ごとの検証は困難と判断し,本稿では,後 段で検証するように府県政への住民の一連の関わりをすべて同列に扱い指標化し議論を進める。 2) 政府規模と関係する市民有効性と参加の関係を主題とする文脈で,参加から市民有効性への効果という連関の考慮は,議論が複雑である。 様々な変数が参加に影響を与え,逆に参加が原因となって様々な変数に影響を与えることは十分に考えられることであるが,議論を複雑にす るため,本稿では参加は従属変数としてのみ扱い,参加を要因とする他の変数への効果は考慮せずに議論を進める。 3) ハンガリー,ルーマニア,ポーランドの自治体の平均人口は,およそ 3,000 人,8,000 人,1 万 5,000 人というように非常に小さいため我が国 との比較には留意すべきである。
できる。それは,より都会であるということであり,政治,経済,文化への近接性が含意され,それらの 近接性は,府県への心理的近接性につながるといえる。 このように,府県規模と市町村規模は,規模拡大にともない,府県への有効性に対して,相互に異なる 符号の効果(以下,「規模の反転効果」と呼ぶことにしたい)を与えると考えられる。市町村への有効性に 対しては,逆に,府県規模,市町村規模ともに大きなほど,低くなるのではなかろうか。また,府県への 理解可能性については,府県規模が大きくなると,低くなることが容易に想像できる。市町村規模との関 係では,職員間では小さな町村と府県の人事交流もなされ,ある程度の親近感があるかもしれないが,住 民の視点からは,大きな都市の住民は小さな市町村の住民よりも府県への心理的距離は近く,そのことで 理解可能性は高まるというように,規模の反転効果がみられるのではなかろうか。そして,高い理解可能 性は,府県政への関心を高め,参加を促進すると考えられるのである。 ダールのもう一つの規準であるシステム容力は「その市民の集合的な選好に完璧に対応する容力をもつ 政治体の規準」(ダール=タフティ 邦訳 1979: 33)である。システム容力とは,政府による政策対応能力 のことである。政府規模が大きくなれば,政府が扱うことが可能な政策課題の範囲が拡大する。市町村と 府県の関係では,府県は絶えず市町村自治を尊重する立場にあって,府県に固有の事務があり,対応すべ き政策の種類は,原則として建前上は市町村が行わないものに限られる。ただし,地域の社会や経済に大 きなインパクトを与える産業や交通,環境規制などは広域的な自治体に相応しい分野として府県の役割が 期待される。市町村と府県の財源を比べて府県に財源が集中する割合が高い地域では,知事選の投票に行 く理由として住民が府県を期待する程度が高いという分析もある(野田 2007)。市町村よりも府県に財源 が集中する割合が高い地域では,平均的に市町村の規模が小さなため,小さな市町村の住民ほど府県に期 待すると一見思われるが,市町村を府県内に限定せず府県間でプールして市町村規模の大小と府県への期 待をみれば,そうとはいえない。むしろ,小さな市町村よりも大きな都市はさまざまな産業や人口が集中 し,府県による産業政策やインフラ整備などのインパクトのある政策の効果を受けるために,住民は府県 政に期待すると考えることができる。そして,政策対応能力への期待をもって参加動機の向上につながる のである。このように考えれば,規模の大きな府県の住民ほど,また規模の大きな都市の住民ほど府県へ の期待が高まり,そのことで府県政への参加が促進されると想定できる。 2.2 社会経済的地位と組織加入 参加には金銭や時間などの相応のコストがかかり,コストに対応するためのリソースは社会経済的地位 によって異なる(Verba and Nie 1972, Verba, Schlozman, and Brady 1995)。したがって,これまでの政治参加 の要因の検証に際しては,主要な説明変数として,個人の属性が設定されてきた。政府規模が大きくなれ ば,所得の高い人,学歴の高い人など様々な属性の人たちが集まり,人口構成を変化させ,人口に占める それらの人々の社会的地位によって参加が変化すると捉えられる。ヴァーバらの規模と参加の論議では, 人々や情報の交流機会の増加によって参加が促進されるとする動員モデル(Mobilization Model)が想定さ れる。一方,ヴァーバらは,コミュニティは小さい方が主要な公務員や政治家と接触できるほどに身近で あり,政治に関する情報も入手しやすく参加が促進されるが,コミュニティの規模が大きくなれば参加が 抑制されるというコミュニティ衰退モデル(Decline-of-Community Model)をあげ,動員モデルと比較検証 する(Verba and Nie 1972, Verba, Nie and Kim 1978)。ヴァーバらが関心を寄せるコミュニティの衰退とは, 規模拡大により区域区分があいまいになり他のコミュニティとの差別化が図れなくなる結果としての現象
である。検証結果は,コミュニティ衰退モデルを概ね支持するというものであった4)。
コミュニティ衰退モデルで説明される内容は,示唆に富む主要な指摘をしている。一つは,小さな規模 のコミュニティの住民は,政治とのつながりを理解し,政治的集団を形成するうえで,誰に会えばよいか を把握でき,相互によく知っており,まさに管理しやすい規模とされる(Verba and Nie 1972: 231)という ようにダールの市民有効性と同様の指摘をしている点である。もう一つは,ボランティア団体は他のコミ ュニティとは切り離された小さなコミュニティで多いなど,組織加入や近隣とのつながりが参加と関係す ることを論じている点である。わが国でも組織加入の動員効果はしばしば議論の対象となるところであり, 都市規模が小さなほど,自治会・町内会,PTA,労働組合,趣味の会などの組織加入は多いという(蒲島 1998)。また,組織が動員の装置となり,組織加入の程度が高いほど当該組織を通じて参加が促進されるの である(平野 2002)。小さなコミュニティでは相互交流により個人で得られない情報やスキルを協力や社
会的連帯により獲得できるともいわれる(Fischer 1982, Wolfinger and Rosenstone 1980, Putnam 1993)。ただし, これらの議論はいずれも市町村やそれ以下の小さな規模のコミュニティに関わる論理であり,府県に適用 するのは難しい。府県規模と組織加入の関係は明らかではないのである。府県の場合は,規模が大きなほ ど,組織間交流が増加し,組織加入が促進されると考えることもできるが,小さな府県の住民ほど,組織 加入を継続しようとする保守的な意識が強いと考えることもできる。いずれの可能性も関連する先行研究 はなく,根拠に乏しい。本稿ではひとまず,府県規模が大きな方が,組織間交流が促進され,組織加入の 程度が高まると考えておく。 これらの議論をふまえ,本稿では,住民の社会経済的地位であり政治的リソースの前提である属性,動 員環境でもある組織加入の程度を,政府規模と参加に介在する変数とする。 2.3 信 頼 本稿では,政府規模と参加の間に介在する変数として,一般的信頼と行政に対する信頼も考慮する。一 般的信頼は,組織加入と同様に社会関係資本の指標として主要な変数であり,制度である組織に具体的に 加入することはしなくとも個々人の考え方として他者を信頼することを示す変数である。一般的信頼が高 い場合,それが低い人よりも参加への抵抗は低いため参加が促進されるといえるが,政府規模と一般的信 頼の関係は必ずしも明確でない。小さな政府ほど社会関係資本が豊富であるとした場合でもそれは組織参 加などのネットワークが豊富に形成されているということを意味し,一般的信頼という対人的な信頼は政 府規模とは関係がないかもしれない。対人的信頼は組織加入などの社会参加や親友の多様度などの他の社 会関係資本を表す変数とは関係が希薄であるといわれる(池田 2006: 77)。府県規模と一般的信頼の関係は さらに複雑である。一般的信頼が農村部で高いと考えるのなら,市町村規模との関係は負になる。府県規 模が大きくなれば,様々なタイプの人々が居住することになり,一般的信頼が醸成されると仮定されるコ ミュニティの同質性は低くなり,一般的信頼は低下するという想定ができる。本稿では,このように考え ておくこととしたい。 行政に対する信頼について,増山(2008)は,国の政治や行政に対する信頼が高まると国への参加は抑 制される一方で,市の政治や行政の場合は,信頼向上により参加が促進されることを分析した。ただし, 府県に対する詳細な分析は対象にされていない。府県は,市町村のように身近な政府として信頼が参加を 4) ヴァーバらによる 2 つのモデルの比較は,13 章で扱われ,中核都市や大小の郊外都市,他のコミュニテイとは独立的な市や町などの区分で 行う参加状況の分析,また,動員モデルとの関連で,ボランタリー組織数や職場の状況,メディアの数と参加の関係について,コミュニティ の独立性と関連づけてグラフや割合で検証するといったかなり概括的な方法である(Vebra and Nie 1972)。2 つのモデルに内包される社会経済 的地位の議論は同書 8 章,組織加入は 11 章で扱われる。
促進するのか,または国と同様の心理的距離の遠い政府と捉えられ,信頼のもとで参加が促進されないと いう考え方もできる。ただ,そもそも信頼の概念は安心とは異なり,透明性が確保されていなくとも相手 方に任せるという性質を有している(山岸 1998)。このことからすれば,信頼は本来参加抑制を導く。本 研究では府県に対する信頼の参加への影響を検証する。政府規模との関係では,ヴァーバらの議論のコミ ュニティ衰退モデルで指摘されたように,規模拡大は政府を身近に思う感覚を低減し,官僚機構の増殖と 組織の透明性の低減を通じて,行政に対する監視も十分でなくなり,信頼は低下すると考えられる。府県 規模の拡大が府県に対する信頼低下につながり,そのことでむしろ参加を促進するという連関を想定する。 ただし,府県内の市町村にあっては規模が大きな方が府県への心理的距離が近く,小さな市町村の住民よ りは府県に対する信頼は高いと考える。府県と市町村で,規模の反転効果がみられると想定するのである。
3.検証モデルと仮説
政府規模と参加に介在する変数は,市民有効性,システム容力,理解可能性,属性,組織加入,一般的 信頼であり,システム容力は府県への期待とし,理解可能性は府県に対する認識とした。属性については 年齢,所得,教育水準,性別のデータを収集した。ここまでの議論をもとに,政府規模の媒介変数を経た 参加への効果のパス図を示せば,図 1 のとおりとなる。図示すると複雑に見えるが,府県規模と市町村規 模が有効性や期待,属性などにそれぞれ影響を与え,参加に至るというモデルで,論理は単純である。ま た,府県規模と市町村規模は,たとえば近接性や参加文化など,参加に対する直接的効果もあると考え, 規模から参加への直接のパスを引く。年齢は,サンプル収集において回収割合を設定したため政府規模と のパスは設定していない。性別はそもそも規模による相違は想定しにくい。また,教育水準である大卒・ 院卒は,ダミー変数としてデータを収集したため従属変数にはできず政府規模から入るパスは引くことが できない。したがって,政府規模拡大により政治的リソースが変化するという連関は規模と所得の間にの み設定する。この点は社会経済的地位と政府規模の関係の探索における本研究の限界であるが,教育水準, 年齢,性別は所得を変化させる独立変数となり,さらに従属変数である参加のコントロール変数としての 役割を担う。なお,市町村政への参加の検証では,有効性,期待,信頼,参加の実績と意向についてそれ ぞれ市町村のデータを用いることになる。図 1 府県政参加モデルのパス図 (注)検証では,e1・e2・e3・e4・e5 の間に共分散を設定。市町村の参加を検証する場合は,有効性,期待,信頼,参加につ いて,市町村データを用いる。 図中に正負の符号を記載しているが,その意図を示す仮説は 8 つある。市町村政への参加と政府規模の 関係に係る仮説も設定できるが,あくまで府県政参加に係る仮説が検証すべきものとなる。 仮説 1 規模の大きな府県の住民ほど,府県への有効性が低下する。また,規模の大きな市町村の住民 ほど,府県への近接性が高まり,府県への有効性が上昇する。高い有効性は府県政への参加を促 進する。 仮説 2 規模の大きな府県の住民ほど,府県の政策対応能力への期待が高まる。また,規模の大きな市 町村の住民ほど,府県のダイナミックな政策展開を期待し,府県の政策対応能力への期待が高く なる。高い期待は府県政への参加を促進する。 仮説 3 規模の大きな府県の住民ほど,府県に関する認識が低下する。また,規模の大きな市町村の住 民ほど,府県への心理的距離が近くなることで,府県に関する認識が高まる。高い認識は,府県 政への参加を促進する。
仮説 4 規模の大きな府県の住民ほど,府県は身近な存在でなくなり,監視も行き届かず組織の不透明 さが増して,政府への信頼は低下する。規模の大きな市町村の住民ほど,府県への心理的距離が 近くなり,府県に対する信頼は高まる。府県に対する高い信頼は,透明性確保の必要性を減じ, 府県政への参加を抑制する。 仮説 5 規模の大きな府県の住民ほど,また,規模の大きな市町村の住民ほど,コミュニティの同質性 は低下し,一般的信頼は低くなる。一般的信頼は高いほど,府県政への参加を促進する。 仮説 6 規模の大きな市町村の住民ほど,組織加入の程度は低い。一方,規模の大きな府県では,多様 な団体の交流機会が増加し,組織加入が促進される。組織加入の程度の高さは府県政への参加を 促進する。 仮説 7 政治的リソースに関して,規模の大きな府県の住民ほど,また規模の大きな市町村の住民ほど 所得が高くなる。年齢や所得,教育水準の高さ,性別が男性であるほど,府県政への参加は促進 される。 仮説 8 政府規模のその他の効果としては,政府への近接性や参加文化などが関係する。規模の大きな 府県の住民ほど,府県への心理的距離が遠くなり,府県政への参加に直接的に負の影響を与える。 規模の大きな都市の住民ほど,府県への心理的距離が近くなり,他の変数を介さない府県政参加 に対して直接的に正の効果を与える。
4.方 法
4.1 変 数 最終的な目的変数は,府県政や市町村政への参加実績と参加意向である。政府規模は府県規模と市町村 規模であり,いずれも 2010 年国勢調査人口速報値の対数値である。市民有効性は,政治的有効性感覚(図 表中は,「有効性(府県)」,「有効性(市町村)」と表記),システム容力は府県や市町村への期待(図表中 は「期待(府県)」,「期待(市町村)」),理解可能性は府県や市町村の施策・組織・体制等への認識(図表 中は「認識(府県)」,「認識(市町村)」)とした。府県や市町村に対する信頼はその程度を把握した(図表 中は「信頼(府県)」,「信頼(市町村)」)。その他,一般的信頼や組織加入,属性も含めた変数の設問内容 と記述統計を表 1 に示す。また,相関係数により因果の想定されない独立変数間で極端に高い相関はない ことを確認した。 4.2 手 法 分析は,図 1 のパス図について Amos19 により構造方程式モデリングを行った。分析では,府県政への 参加を政府規模との関係で説明する「府県政参加モデル」と,市町村政への参加を説明する「市町村政参 加モデル」の二つを作成し,それらの比較により,府県政参加の特質を解明する。 データの分布をみる限りでは,参加実績を目的変数とする場合,データの一定数は参加したことがない 0 となるため,センサード変数に対応した手法を要する。構造方程式モデリングでは,通常の最尤法によ る分析とあわせてベイズ推定も行い,最尤法とベイズ推定を比較した。参加意向は最尤法により分析した。 なお,参加意向は 4 件法の順序尺度であるが,ベイズ推定では適合度の算出が限られてしまうため連続変数とみなして分析した5)。 4.3 データ データは,楽天リサーチ株式会社の登録モニターを通じて収集したものであり,九州 7 県(期間:2011 年 2 月 3 日から同年 2 月 17 日まで)と関西 2 府 4 県(大阪府,京都府,兵庫県,滋賀県,奈良県,和歌山 県,期間:2011 年 7 月 1 日から同年 7 月 29 日まで)を対象に実施した。九州と関西が全国の府県規模を 代表するわけではないが,限られた予算で特定の地域の選択にあたって,規模の大きな府県から小さな府 県までが含まれ,県庁所在地の規模も大きなところからさほど大きくないところまでを含むことを考慮し てこれらの地域とした。多様な府県,市町村をサンプルとして政府規模の分散を確保することが有用であ るが,調査費用の関係から,本研究では,最大都市である県庁所在地のサンプルを各府県で 100 と,およ そ 1 万人から 3 万人程度の規模の市町村のサンプルを各府県で約 100 収集した。人口約 1 万人から約 3 万 人としたのは,県庁所在地である規模の大きな都市と比べた規模の差を明確にするために設定した基準で あり,1 自治体では回収サンプルが少ないが同規模の県内市町村のサンプルを合計すれば各府県で一定量 確保できる人口規模が約 1 万人から 3 万人程度であった。ただし,サンプル確保の限界から小規模市町村 は 1 自治体ではなく複数の自治体の集計値を用いており,集計値を単一自治体のものと想起した分析にな るという課題はある。 また,九州 7 県と関西 6 府県の計 13 府県に 200 サンプルを乗じた 2,600 が目標サンプル数であったが, 十分に回収できなかった自治体もあり,最終的に 2,579 となった6)。滋賀県は 1 万人から 3 万人の間にある のは 3 自治体しかなくサンプル収集が極端に少なくなるため 7,000 人台の自治体(3 町)も対象とした。 年齢は,回収数の合計が 100 になるように,総務省『人口推計』(2009 年)での九州,関西の年代別割 合をもとに,九州では 20・30 代は 29,40・50 代は 33,60 代以上は 38,関西では 20・30 代は 32,40・50 代 は 32,60 代以上は 36 に設定してこれらの値に近づくように回収した。最終的に必要サンプル数が確保で きない場合は,他の年代から補填しそれでも回収できない場合は 100 に満たずにショートすることを許容 した。 5) 萩生田・繁桝(1996)によれば順序尺度を連続変数とみなすためには少なくとも 4 段階程度は必要という。 6) 県庁所在地以外の調査市町村は次のとおり。福岡県は糸田町,添田町,香春町,桂川町,大木町,大刀洗町,芦屋町,鞍手町,遠賀町,広 川町,川崎町,築上町で計 100,佐賀県は太良町,吉野ヶ里町,基山町,有田町,多久市,白石町,みやき町で計 97,大分県は九重町,玖珠 町,津久見市,豊後高田市,竹田市,日出町で計 99,長崎県は佐々町,川棚町,波佐見町,新上五島町,松浦市,時津町,壱岐市,西海市で 計 100,熊本県は南関町,多良木町,甲佐町,錦町,和水町,南阿蘇村,美里町,氷川町,長洲町,あさぎり町,御船町,山都町,芦北町で計 100,宮崎県は高原町,都農町,高千穂町,川南町,新富町,門川町,国富町,串間市,高鍋町,えびの市,三股町で計 97,鹿児島県は錦江町, 瀬戸内町,長島町,湧水町,徳之島町,屋久島町,大崎町,西之表市,肝付町,垂水市,阿久根市,枕崎市,さつま町(錦江町は 1 万人を下 回る)で計 100,大阪府は岬町,忠岡町,河南町,太子町,能勢町,豊能町で計 100,京都府は宮津市,京丹波町,与謝野町,京丹波町,大山 崎町で計 100,滋賀県は愛荘町,日野町,竜王町のほか 1 万人以下の甲良町,多賀町,豊郷町で計 86,兵庫県は稲美町,佐用町,市川町,神 河町,福崎町,上郡町,多可町,香美町,新温泉町,養父市,相生市,猪名川町,稲美町で計 100,奈良県は大淀町,三郷町,斑鳩町,平群町, 王寺町,河合町,上牧町で計 100,和歌山県は串本町,那智勝浦町,みなべ町,日高川町,湯浅町,有田川町,有田市,新宮市で計 100 である。
表 1 変数の概要と記述統計
(注)サンプル数は 2,579。アンケートの選択肢は,総務省『行政の信頼性確保,向上方策に関する調査研究報告書(平成 18 年版)』2007 年掲載のアンケートを参考にした。一般的信頼については山岸(1998)92 頁の尺度を利用。 変数 平均 最大 最小 標準偏差 ①参加実績(府県) 1.57 26 0 2.15 ②参加意向(府県) 2.38 4 1 0.84 ③参加実績(市町村) 1.92 23 0 2.52 ④参加意向(市町村) 2.57 4 1 0.87 ①府県規模 14.50 16.00 13.65 0.70 ②市町村規模 11.64 14.80 8.92 1.85 ①(住んでいる地域の)府県での手続きは、あまりに複雑なので自分 にはよく理解できないことがある ②自分には、(住んでいる地域の)府県のすることに対してそれを左右 する力はない 府県 ③問題や苦情があるときでも(住んでいる地域の)府県に言っても 無駄だと思う 13.03 24 6 3.11 ④(住んでいる地域の)府県の問題解決には、府県民ひとりひとりが 行動を起こすことで、府県民の声を反映させることができると思う 市町村 ⑤(住んでいる地域の)府県の職員は大ざっぱにいって、 府県民のことを考えていない 13.42 24 6 3.23 ⑥(住んでいる地域の)府県が問題を起こしても府県民の側には それを見抜くことができない 府県 2.49 4 1 0.84 市町村 2.55 4 1 0.88 ①府県が扱う公共的問題の内容やその背景 府県 ②府県の組織・体制 11.12 20 5 3.12 ③府県が実施している施策・公共サービス ④府県の施策の成果と、成果実現の可能性 市町村 ⑤府県の日々の業務の内容 12.13 20 5 3.34 府県 2.51 4 1 0.74 市町村 2.57 4 1 0.78 ①ほとんどの人は、基本的に正直である ②ほとんどの人は、信頼できる ③ほとんどの人は、基本的に善良で親切である 15.24 24 6 3.60 ④.ほとんどの人は、他人を信頼している ⑤私は、人を信頼するほうである ⑥たいていの人は、人から信頼された場合、同じように相手を信頼する 組織加入 1.97 0 7 1.41 性別 男性を1とするダミー 0.64 1 0 0.48 年齢 実年齢 47.93 79 20 13.55 大卒・院卒 0.44 1 0 0.50 所得 500万円未満1点、500-700万円未満2点、700-1,000万円未満3点、1,000万円以上4点として指標化 1.44 4 1 0.81 大学卒業、大学院修了の場合は1とするダミー 市民有効性 そう思う4点、ややそう思う3点、あまりそ うは思わない2点、そうは思わない1点と した合計値 自治会・町内会、労働組合、政治団体、趣味の会・同好会、消防団・青年団・婦人会、ボランティア・NPO活動、祭り などの地域の行事に加入・参加していれば1とするダミー変数を作成し、それらを合計して指標化 信頼 府県について、かなり信頼できる4点、やや信頼できる3点、あまり信頼できない2点、ほとんど信頼できない1点 市町村の信頼の場合は市町村についての質問 一般的信頼 質問・選択肢の内容 ④を除き、そう思う1点、ややそう思う2 点、あまりそうは思わない3点、そうは思 わない4点、④は逆数の合計値 市町村の有効性の場合は市町村につい ての質問 府県のα信頼性係数=0.71 市町村のα信頼性係数=0.74 よく知っている4点、ある程度知っている 3点、あまり知らない2点、まったく知らな い1点とした合計値 市町村の認識の場合は市町村について の質問、府県のα信頼性係数=0.92、 市町村のα信頼性係数=0.93 実績の選択肢は図1参照。経験がある 選択肢の件数を加算して指標化 意向は、大いに参加したい4点、やや参 加したい3点、あまり参加したくない2点、 ほとんど参加したくない1点 認識 参加 政府規模 期待 「住んでいる府県の政策について」大いに期待している4点、やや期待している3点、あまり期待していない2点、ほ とんど期待していない1点 市町村の政策への期待の場合は市町村についての質問 人口の対数 実績の選択肢は図2を参照。経験がある 選択肢の件数を加算して指標化 意向は、大いに参加したい4点、やや参 加したい3点、あまり参加したくない2点、 ほとんど参加したくない1点 そう思う4点、ややそう思う3点、あまりそ うは思わない2点、そうは思わない1点と した合計値 α信頼性係数=0.89 ④ほとんどの人は、他人を信頼している表 2 相関係数 4.4 参加の状況 府県の参加制度は,最も開かれた制度である選挙のほか,市町村と同じく条例の制定・改廃の請求,議 会の解散請求,解職請求,条例制定・改廃,事務の監査請求,住民監査請求,日本国憲法の規定に基づく 住民投票といった直接請求制度が用意されている。これらの行政を統制する制度の利用は,日常的には住 民監査請求を除いてほとんどない。行政の透明性に関わる制度としては,情報公開条例,パブリック・コ メント制度があり現在ではほとんどの府県で備えられている。他には都市計画との関連で公聴会や意見書 提出の制度がある。非制度的な参加の仕組みとしては,議員や公務員との接触,行政への相談,出前講座, アンケートやヒアリングへの回答,インターネットの接続環境さえあれば最もコストがかからないホーム ページの閲覧などがあげられる7)。 その他にも各府県ではコミュニティ支援事業として地域の団体や住民との協働事業を推進したり,就任 直後の知事が地域での商工業者や住民らと意見交換会を開いたり,府県の出先機関による政策課題に応じ た地元農業者や商工業者への意見聴取なども広い意味では参加の取り組みである。ここでは,これらの広 い範囲の取り組みは別として,総務省『行政の信頼性確保,向上方策に関する調査研究報告書(平成 18 年版)』2007 年巻末掲載のアンケート調査票の問 11 も参考として選択肢を設定し参加状況を分析した。 府県政,市町村政ともに参加実績そのものは,ホームページの閲覧といった簡易な情報収集と,広く制 度として普及している投票においては,ある程度の回答が集まった。ただし,他の参加は非常に少なく, 全く参加していない人も 3 割程度となっている。府県政への参加は市町村政に比べて参加割合は低く,全 く参加していない人の割合も高い。府県は市町村と比べ参加するには距離の遠い自治体であると住民から 捉えられている。参加意向については,府県政への参加は市町村政よりも意向は低く,「大いに参加したい」 と「やや参加したい」を合わせて半数に満たないことがわかる。なお,九州と関西で割合に差はあり,九 州の住民の方がやや参加意向が強い。ただし,それらの差は大きなものではなく,参加実績の回答割合の 傾向も九州と関西で同様である。 7) その他に,特徴的な府県民参加の取り組みとして,県民からの相談,意見交換を円滑にするワンストップの総合的な県庁内窓口である佐賀 県の「さが元気ひろば」,長崎県の「県民センター」のほか,長崎県の「がんばらんば長崎」地域づくり支援事業(上限 1 億円を助成して地域 の取り組みを支援)がある。 参 加 実 績 ( 府 県 政 ) 参 加 意 向 ( 府 県 政 ) 参 加 実 績 ( 市 町 村 政 ) 参 加 意 向 ( 市 町 村 政 ) 政 府 規 模 ( 府 県 ) 政 府 規 模 ( 市 町 村 ) 有 効 性 ( 府 県 ) 有 効 性 ( 市 町 村 ) 期 待 ( 府 県 ) 期 待 ( 市 町 村 ) 認 識 ( 府 県 ) 認 識 ( 市 町 村 ) 信 頼 ( 府 県 ) 信 頼 ( 市 町 村 ) 一 般 的 信 頼 組 織 加 入 男 性 年 齢 大 卒 ・ 院 卒 所 得 参加実績(府県政) 1.00 参加意向(府県政) 0.35 1.00 参加実績(市町村政) 0.71 0.29 1.00 参加意向(市町村政) 0.35 0.81 0.39 1.00 政府規模(府県) -0.06 -0.01 -0.02 0.00 1.00 政府規模(市町村) 0.02 0.07 -0.12 -0.02 0.18 1.00 有効性(府県) 0.04 0.10 0.02 0.06 -0.05 0.01 1.00 有効性(市町村) 0.08 0.11 0.13 0.15 -0.04 -0.07 0.85 1.00 期待(府県) 0.17 0.39 0.16 0.33 0.03 0.09 0.16 0.17 1.00 期待(市町村) 0.16 0.30 0.19 0.40 -0.01 0.07 0.14 0.25 0.75 1.00 認識(府県) 0.39 0.44 0.34 0.40 -0.03 0.07 0.16 0.17 0.31 0.25 1.00 認識(市町村) 0.37 0.37 0.44 0.47 -0.02 -0.10 0.09 0.22 0.27 0.33 0.82 1.00 信頼(府県) 0.10 0.27 0.10 0.24 0.00 0.06 0.19 0.20 0.59 0.48 0.23 0.19 1.00 信頼(市町村) 0.10 0.19 0.11 0.27 -0.05 0.07 0.17 0.27 0.47 0.63 0.17 0.24 0.72 1.00 一般的信頼 0.16 0.25 0.16 0.28 -0.03 0.03 0.04 0.08 0.33 0.33 0.20 0.20 0.38 0.39 1.00 組織加入 0.31 0.20 0.37 0.29 -0.05 -0.17 0.03 0.09 0.14 0.17 0.26 0.33 0.10 0.12 0.19 1.00 男性 0.12 0.10 0.12 0.13 -0.01 -0.05 0.03 0.05 0.01 0.03 0.16 0.15 0.05 0.08 0.03 0.10 1.00 年齢 0.14 0.06 0.18 0.12 0.07 0.11 -0.01 0.03 0.14 0.15 0.19 0.21 0.15 0.15 0.16 0.14 0.20 1.00 大卒・院卒 0.06 0.06 0.03 0.06 0.04 0.09 0.08 0.09 0.02 0.01 0.13 0.09 0.02 0.03 0.10 0.07 0.17 -0.01 1.00 所得 0.07 0.05 0.04 0.07 0.01 0.02 0.07 0.06 0.02 0.02 0.13 0.09 -0.01 0.01 0.05 0.13 0.27 0.09 0.24 1.00 信 頼 ( 市 町 村 )
図 2 府県政・市町村政への参加実績(N=2,579) 表 3 府県政・市町村政への参加意向(N=2,579) (%) 大いに参加し たい やや参加した い あまり参加した くない ほとんど参加 したくない a + b c + d a b c d 府県政 計 7.8 37.8 39.0 15.5 45.6 54.4 九州 8.0 40.3 37.3 14.4 48.4 51.6 関西 7.5 34.7 41.0 16.8 42.2 57.8 市町村政 計 12.9 43.9 31.0 12.3 56.7 43.3 九州 13.5 45.2 29.5 11.8 58.7 41.3 関西 12.1 42.2 32.7 12.9 54.4 45.6 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 「首長との対話集会」への参加 「首長との対話集会」以外のシンポジウムやフォーラムへの参加 「首長との対話集会」以外の集会(意見交換会、勉強会など)への参加 計画のパブリック・コメントでの意見提示 総合計画などの計画の審議会や委員会への委員としての参加 総合計画などの計画の審議会や委員会への傍聴人としての参加 都市計画案の説明会への参加 都市計画案縦覧に対する意見書の提出 都市計画案の公聴会への公述人としての参加 都市計画案の公聴会への傍聴人としての参加 都市計画提案制度による提案 住民監査請求 事務監査請求の署名 条例の制定・改廃の請求の署名 議会の解散請求の署名 議会議員・首長・主要公務員の解職請求の署名 嘆願書に署名 公文書の公開請求 首長や議会議員の選挙で投票 首長や議会議員の選挙の手伝い 首長や議会議員の選挙や政治に関する集会に出席 地域の問題に関わる住民運動やデモへの参加 議会議員や職員と直接話して意見提示 マスコミを通して、地域に関わる問題や政策について意見提示 総合相談、情報センター、情報コーナーなどの窓口での相談・意見提示 電子メール、手紙、電話、FAX、提案箱などを通じた首長や職員、議会議… 出前講座への参加 アンケートへの回答 モニター制度に登録してアンケートなどに回答 インタビュー調査(ヒアリング調査)への応答 ホームページの閲覧 合併協議会設置請求の署名や合併協議会設置に伴う住民投票 いずれも参加経験はない 府県政 市町村政 (%) 電子メール、手紙、電話、FAX、提案箱などを通じた首長や職員、議会議員への意見提示
5.結 果
検証結果は,表 4(府県政参加モデル)と表 5(市町村政参加モデル)に記載している。両モデルの適 合度はいずれも良好であり,また実績についての最尤法の非標準化係数とベイズ推定の平均値を比較する とかなり近い値になっていることがわかる。以下では,最尤法の結果で分析していくこととしたい。分析 は,まず,府県政参加モデルと市町村政参加モデルの比較により,府県におけるダールの二規準や属性, 組織加入の効果の特徴を析出しながら,仮説を検証する。次に,府県政参加モデルにおける実績と意向に おいてそれらの変数による参加への影響の相違を判断する。 それではまず,府県政参加モデルと市町村政参加モデルの参加実績の係数を比較しながら,府県政参加 についての特徴をみてみよう。府県規模は府県への有効性に有意に負の影響を与え,市町村規模は府県の 有効性に有意でない。府県規模は市町村への有効性には有意でなく,市町村規模は市町村への有効性には 有意に負である。このことから,有効性は同一レベルの政府において意味をもち,それは規模が大きくな るほど市民にとって有効でないと感じられることになる。ただし,有効性の参加への効果は,両モデルと も有意でない。仮説 1 のうち,同一レベルの政府に限って,有効性が規模と関係する点は妥当であるが, ダール自身も有効性と参加の関係を検証したわけではないように,有効性と参加は直線的な関係にはない。 なお,有効性に関しては規模の反転効果はみられない。 期待に対しては,府県規模は有意な効果を与えない。ただし,符号が正であることは仮説 2 と合致する。 市町村規模の府県政への期待の効果については,有意に正であり仮説のとおりである。さらに,期待は府 県政参加に有意に正であり,以上から,府県規模の効果が有意にならない点を除き,仮説 2 のとおりであ る。参考までに,市町村政参加モデルにおける市町村への期待に対しては,府県規模は関係がなく市町村 規模は正の効果を与える。 認識と規模の関係についてはどうであろうか。府県規模は府県の認識に負の影響を与え,市町村の認識 には有意に影響しないが,一方の市町村規模は市町村の認識に負であると同時に,府県の認識に対して正 の効果をもつ。府県への認識に対しては,規模の反転効果がみられる。大きな規模の都市の住民は小さな 市町村の住民よりも府県との心理的距離が近く,府県への認識の程度が高くなると想定される。このこと は,特に規模の小さな市町村の住民に対して,府県の施策や制度等の認識を積極的に高める必要性を示唆 する。しかも認識は両モデルともに参加に対して有意に正の強い効果(府県政参加モデルの認識から参加 実績への係数は 0.316)を与えていることがわかる。府県規模が大きくなれば認識の程度が低下し,参加抑 制につながることと,市町村規模は府県への認識に正の効果を与えることから,仮説 3 は妥当である。な お,年齢は認識を高める効果がある。 府県に対する信頼については,府県規模の大きさゆえに低下するという論理は見出されず,仮説 4 は支 持されない。ただし,参加に対して両モデルともに負の影響を与えており,行政を信頼してしまうことに よりかえって参加が低調になる。逆に信頼低下が透明性確保を求めるために参加するという考え方は支持 される。ところで,両モデルからは,府県民かつ市町村民が居住する市町村と,その区域を包括する居住 府県への信頼間の問題視されるべき側面を浮き彫りにする。府県規模は府県への信頼には関係がないが, 規模が大きな府県の住民ほど市町村への信頼は低い。片や市町村規模は,市町村への信頼に対して有意に 正の効果を与え,しかも府県への信頼に対しても同じく市町村規模が大きなほど信頼が高いという効果を もつ。総合して考えると,大きな規模の府県の住民は市町村全般に対して信頼が低く,小さな規模の市町 村の住民は大きな規模の都市住民と比べて府県への信頼は低い。大きな府県は小さな市町村のニーズに応じて補完機能を果たす役割があるものの,特に小さな市町村の住民において府県への信頼が低いことは問 題といわざるをえない。 仮説 5 では,一般的信頼は,府県,市町村ともに農村部とは異なり規模の大きな政府では低くなること を想定していた。結果は,府県規模の一般的信頼への影響が負である点は仮説を支持する。しかし,市町 村規模と一般的信頼の関係は正であり,この点は仮説を支持しない。一般的信頼は,個々人の思考パター ンであり,組織加入などの他の社会関係資本との関係は薄いといえる。ただし,市町村規模が大きくなる ほど高いのはなぜか。本稿のデータのみではその理由は検証できない。可能性としては,規模の大きな都 市住民において人的交流の多様な機会に恵まれ,そのことで対人的な感情はより開かれたものとなり対人 的な信頼を高めることが考えられる。ただし,市町村,府県の両規模の一般的信頼に与えるベイズ推定の 95%信頼区間をみると上限値と下限値で符号が異なり,ここでの結果はあくまで平均値における符号の結 果であり,符号は安定的でないと考えるべきである。他の変数間の有意な係数は,上限値と下限値で同一 の符号である。いずれにしても今後の課題である。一般的信頼の高さが参加を促進する点は,仮説 5 のと おりである。 組織加入に対して,市町村規模は負の影響を及ぼし,組織加入は参加に対して促進効果をもつ。規模の 小さな市町村の住民において,組織加入が動員の装置として機能することは妥当であり,以上の点は,仮 説 6 のとおりである。ただし,規模の大きな府県の住民は,多様な組織との交流機会に恵まれ,むしろ組 織加入が高まることを想定した点は支持されない。府県規模と組織加入の関係は,正負の両面が想定され たがいずれも根拠に乏しいことは先述のとおりである。なお,組織加入は,一般的信頼や年齢から正の影 響を受けている。 属性の効果はどうであろうか。政治的リソースに関して,年齢と男性の府県政参加促進効果はみられる が,所得や教育水準の効果は抽出されない。教育水準は 2 値という変数の問題もある。また,規模が大き な政府の住民ほど所得が高いという傾向も明らかにできない。規模拡大にともなう,所得が高いという面 での政治的リソースをもつ人々が集積する参加の効果は,日本の府県間では明らかでない。 政府規模のその他の効果には,近接性や参加文化などが想定された。結果は仮説 8 を支持する。府県規 模の大きさは住民の府県に対する心理的近接性を低下させ,大きな規模の都市の住民は,逆に府県に対す る心理的近接性を向上させ,そのことで,府県規模の府県政への参加実績への符号は負,市町村規模の参 加実績へは正となっている。規模の反転効果がみられる。ちなみに,市町村政参加モデルでみると,市町 村規模の市町村政参加実績への効果は負であり,市町村規模は同じ階層の地方政府に対しては規模拡大が 近接性を低下させ,広域政府に対しては近接性を上昇させることがわかる。また,市町村政においては農 村部の参加文化による参加促進効果も影響することが想定される。
表 4 府県政参加モデルの推定結果 (注)サンプル数は 2,579。***:1%, **:5%, *:10% ここまでで述べた変数間の連関は,参加実績と参加意向で概ね似ているが,いくつかの重要な相違がみ られる。参加実績では明確であった,府県に対する信頼の効果が,参加意向では有意でなくなる点や,組 織加入の参加意向への係数が弱まる点を除き,重要な点として次の三点をあげることができる。第一は, 年齢の効果に関わる興味深い知見である。参加実績でみれば年齢が高い人ほど参加していることがわかっ たが,参加意向はむしろ年齢が若い人ほどもつ。このことは,市町村政参加モデルでみても同じで,若い 人ほど参加意向が強い。第二は,府県規模の府県政参加への直接効果は,参加実績では負であったが,参 加意向には関係しないことである。政府への近接性や参加文化などに関しては,府県規模の大小に関係な く参加促進方策を強化すべきことを示唆している。第三は,期待の府県政参加への標準化係数の強さの相 違である。期待の参加実績への影響に比べて参加意向へのそれは非常に大きい。今後の府県参加には期待 を高める工夫が必要といえるが,注意しなければならない点は,政府規模との関係では規模の小さな市町 村の住民は,大きな都市の住民と比べて府県への期待が低いことである。 表 6 には,府県政参加モデルにおける総合効果を掲載している。総合効果は直接効果と,他の変数を介 した間接効果の合計値であり,府県規模や市町村規模が様々な媒介変数へのパスを経て,参加に総合的に 与える効果を正負で読み解くことができる。結果,総合的にみて,府県政への参加実績と参加意向のいず れにおいても,府県規模が大きなほど負であり参加は抑制され,市町村規模が大きなほど正で参加が促進 されることを示している。 標準化係数 非標準化係数 平均値 標準誤差 95%下限値 95%上限値 標準化係数 非標準化係数 政府規模から 有効性(府県) <---府県規模 -0.052 -0.229*** -0.227 0.004 -0.395 -0.060 -0.052 -0.229*** 有効性、 期待(府県) <---府県規模 0.014 0.017 0.017 0.001 -0.029 0.064 0.014 0.017 システム容力 認識(府県) <---府県規模 -0.048 -0.211 ** -0.205 0.003 -0.378 -0.034 -0.048 -0.211 ** への効果 有効性(府県) <---市町村規模 0.015 0.025 0.026 0.001 -0.042 0.092 0.015 0.025 期待(府県) <---市町村規模 0.091 0.041*** 0.041 0.000 0.025 0.059 0.091 0.041*** 認識(府県) <---市町村規模 0.061 0.103*** 0.102 0.001 0.039 0.166 0.061 0.103*** 有効性、 参加(府県政) <---有効性(府県) -0.025 -0.017 -0.017 0.001 -0.042 0.009 -0.008 -0.002 システム容力から参加(府県政) <---期待(府県) 0.058 0.145*** 0.145 0.002 0.033 0.263 0.241 0.238*** 参加への効果 参加(府県政) <---認識(府県) 0.316 0.215*** 0.215 0.001 0.187 0.241 0.336 0.090*** 政府規模から 信頼(府県) <---府県規模 -0.013 -0.013 -0.013 0.001 -0.054 0.026 -0.013 -0.013 信頼、組織加入、 一般的信頼 <---府県規模 -0.038 -0.193 * -0.186 0.005 -0.381 0.016 -0.038 -0.193 * 属性への効果 組織加入 <---府県規模 -0.017 -0.034 -0.035 0.002 -0.110 0.042 -0.017 -0.034 所得 <---府県規模 0.003 0.003 0.002 0.001 -0.041 0.045 0.003 0.003 信頼(府県) <---市町村規模 0.061 0.024*** 0.024 0.000 0.009 0.040 0.061 0.024*** 一般的信頼 <---市町村規模 0.038 0.074 * 0.074 0.001 -0.005 0.152 0.038 0.074 * 組織加入 <---市町村規模 -0.184 -0.141*** -0.140 0.001 -0.169 -0.112 -0.184 -0.141*** 所得 <---市町村規模 0.007 0.003 0.003 0.000 -0.014 0.019 0.007 0.003 信頼、組織加入、 参加(府県政) <---信頼(府県) -0.050 -0.141 ** -0.142 0.003 -0.269 -0.013 0.017 0.019 属性から 参加(府県政) <---一般的信頼 0.049 0.029 ** 0.029 0.000 0.007 0.053 0.097 0.022*** 参加への効果 参加(府県政) <---組織加入 0.221 0.330*** 0.328 0.001 0.272 0.382 0.081 0.048*** 参加(府県政) <---年齢 0.035 0.005 * 0.006 0.000 0.000 0.011 -0.077 -0.005*** 参加(府県政) <---所得 -0.016 -0.042 -0.040 0.002 -0.136 0.058 -0.019 -0.020 参加(府県政) <---男性 0.052 0.228*** 0.229 0.003 0.069 0.395 0.055 0.096*** 参加(府県政) <---大卒・院卒 0.005 0.020 0.022 0.003 -0.136 0.179 -0.005 -0.008 媒介変数間の効果 組織加入 <---一般的信頼 0.173 0.068*** 0.067 0.000 0.052 0.083 0.173 0.068*** 組織加入 <---年齢 0.139 0.014*** 0.014 0.000 0.011 0.018 0.139 0.014*** 認識(府県) <---年齢 0.140 0.032*** 0.032 0.000 0.024 0.040 0.140 0.032*** 所得 <---年齢 0.048 0.003 ** 0.003 0.000 0.001 0.005 0.048 0.003 ** 所得 <---男性 0.228 0.380*** 0.380 0.001 0.319 0.443 0.228 0.380*** 所得 <---大卒・院卒 0.203 0.327*** 0.327 0.001 0.268 0.388 0.203 0.327*** 政府規模の 参加(府県政) <---府県規模 -0.047 -0.141*** -0.141 0.002 -0.244 -0.035 0.004 0.005 その他の効果 参加(府県政) <---市町村規模 0.040 0.046 ** 0.046 0.001 0.004 0.089 0.043 0.019 ** 適合度 χ2/df 15.610 19.566 p 0.000 0.000 GFI 0.960 0.961 AGFI 0.913 0.899 CFI 0.826 0.847 RMSEA 0.075 0.085 DIC 823.3 府県政への参加実績 府県政への参加意向 最尤法 ベイズ推定 最尤法
表 5 市町村政参加モデルの推定結果 (注)サンプル数は 2,579。***:1%, **:5%, *:10% 表 6 府県政参加モデルにおける総合効果(標準化係数) (注)有意でない係数の効果も含まれる。 標準化係数 非標準化係数 平均値 標準誤差 95%下限値 95%上限値 標準化係数 非標準化係数 政府規模から 有効性(市町村)<---府県規模 -0.031 -0.140 -0.136 0.003 -0.311 0.042 -0.031 -0.140 有効性、 期待(市町村) <---府県規模 -0.024 -0.030 -0.029 0.001 -0.079 0.021 -0.024 -0.030 システム容力 認識(市町村) <---府県規模 -0.005 -0.025 -0.019 0.004 -0.196 0.163 -0.005 -0.025 への効果 有効性(市町村)<---市町村規模 -0.060 -0.105*** -0.107 0.001 -0.181 -0.034 -0.060 -0.105*** 期待(市町村) <---市町村規模 0.075 0.036*** 0.036 0.000 0.017 0.055 0.075 0.036*** 認識(市町村) <---市町村規模 -0.121 -0.218*** -0.217 0.001 -0.288 -0.147 -0.121 -0.218*** 有効性、 参加(市町村政)<---有効性(市町村) 0.031 0.023 0.024 0.001 -0.003 0.052 0.009 0.002 システム容力から参加(市町村政)<---期待(市町村) 0.055 0.153 ** 0.153 0.003 0.032 0.282 0.255 0.245*** 参加への効果 参加(市町村政)<---認識(市町村) 0.325 0.242*** 0.241 0.000 0.213 0.269 0.338 0.087*** 政府規模から 信頼(市町村) <---府県規模 -0.060 -0.066*** -0.065 0.001 -0.109 -0.020 -0.060 -0.066*** 信頼、組織加入、 一般的信頼 <---府県規模 -0.038 -0.193 * -0.190 0.004 -0.389 0.015 -0.038 -0.193 * 属性への効果 組織加入 <---府県規模 -0.017 -0.034 -0.035 0.001 -0.111 0.037 -0.017 -0.034 所得 <---府県規模 0.003 0.003 0.003 0.001 -0.039 0.045 0.003 0.003 信頼(市町村) <---市町村規模 0.076 0.032*** 0.032 0.000 0.015 0.048 0.076 0.032*** 一般的信頼 <---市町村規模 0.038 0.074 * 0.077 0.002 0.001 0.153 0.038 0.074 * 組織加入 <---市町村規模 -0.184 -0.141*** -0.141 0.001 -0.169 -0.113 -0.184 -0.141*** 所得 <---市町村規模 0.007 0.003 0.004 0.000 -0.014 0.020 0.007 0.003 信頼、組織加入、 参加(市町村政)<---信頼(市町村) -0.063 -0.199*** -0.201 0.003 -0.343 -0.061 -0.033 -0.036*** 属性から 参加(市町村政)<---一般的信頼 0.040 0.028*** 0.028 0.001 0.001 0.054 0.125 0.029*** 参加への効果 参加(市町村政)<---組織加入 0.244 0.427*** 0.428 0.001 0.364 0.490 0.125 0.075*** 参加(市町村政)<---年齢 0.077 0.014*** 0.014 0.000 0.008 0.021 -0.030 -0.002 * 参加(市町村政)<---所得 -0.038 -0.116 ** -0.116 0.002 -0.231 -0.005 -0.004 -0.005 参加(市町村政)<---男性 0.043 0.221 ** 0.226 0.003 0.039 0.414 0.063 0.111*** 参加(市町村政)<---大卒・院卒 -0.008 -0.042 -0.043 0.004 -0.230 0.145 -0.006 -0.010 媒介変数間の効果 組織加入 <---一般的信頼 0.173 0.068*** 0.068 0.000 0.053 0.082 0.173 0.068*** 組織加入 <---年齢 0.139 0.014*** 0.015 0.000 0.011 0.018 0.139 0.014*** 認識(市町村) <---年齢 0.166 0.041*** 0.041 0.000 0.032 0.050 0.166 0.041*** 所得 <---年齢 0.048 0.003 ** 0.003 0.000 0.000 0.005 0.048 0.003 ** 所得 <---男性 0.228 0.380*** 0.383 0.001 0.319 0.447 0.228 0.380*** 所得 <---大卒・院卒 0.203 0.327*** 0.326 0.001 0.265 0.388 0.203 0.327*** 政府規模の 参加(市町村政)<---府県規模 0.001 0.003 0.005 0.002 -0.115 0.124 0.023 0.028 その他の効果 参加(市町村政)<---市町村規模 -0.055 -0.074*** -0.074 0.001 -0.124 -0.024 0.014 0.006 適合度 χ2/df 20.323 20.323 p 0.000 0.000 GFI 0.960 0.960 AGFI 0.896 0.896 CFI 0.853 0.860 RMSEA 0.087 0.087 DIC 市町村政への参加意向 最尤法 ベイズ推定 最尤法 849.46 市町村政への参加実績
6.府県政参加の方向性
広域自治体を対象とした先行研究はなく,十分な論拠がないなかで先行研究からの類推で設定した仮説 であったために,検証で支持された仮説は十分に多いものではなかった。しかしながら,むしろ想定とは 異なる点は,広域自治体と基礎自治体の双方の規模と広域自治体への参加を対象とした本研究の独自性と 解釈し,今後の課題としておきたい。 ダールの二規準のうち有効性は,同一レベルの政府に対して政府規模が効果をもつ一方で,有効性の参 加促進効果は単線的でない点が仮説と異なり,期待については,府県規模は有意な効果を与えなかった。 一方,認識に関しては,先行研究の論理のとおり,認識を高めることで府県政への参加促進の効果がみら れた。所得や教育水準は政治的リソースとしての説明は難しいが,市町村規模の小ささの組織加入促進を 通じた府県政参加の向上効果はみられるなどの想定の因果を検出した。特に,府県政参加の促進に強く影 響する認識は,広域自治体である府県に関わる制度や施策の内容,その効果を積極的に住民に示すという 方策が有益であることを示す。ただし,この点は容易に想像できることでもある。むしろ,政府規模と府 県政参加の関係は非常に複雑なものであったことが重要である。その複雑性は,政府規模が府県規模と市 町村規模の二つから構成されるという二面性を主たる要因とする。市町村民であり府県民である住民は, 市町村と府県の二つの政府に属しながら,府県政に対する認識や期待,近接性などを介して府県政への参 加動機が変わる。認識と参加への直接効果に対しては,府県と市町村の規模の反転効果がみられたのであ った。 さて,政府規模の二面性に目を向けた場合,検証結果で特に留意すべきは次の点である。第一に,小さ な市町村の住民は,大きな都市と比べると府県への期待が低く,その期待の低さゆえに,府県政参加意向 への期待の効果が,小さな市町村の住民で特に弱いという点である。第二に,府県の施策や制度の認識は, 大きな都市の住民に比べて小さな市町村の住民は低く,そのような認識の低さから参加が促進されない点 があげられる。第三は,大きな規模の府県の住民は,市町村に対する信頼が低く,小さな規模の市町村の 住民は,大きな規模の都市の住民と比べ府県への信頼が低い点である。小さな規模の市町村が今後補完を 必要とする段階になって,その役割を,低い信頼しかない府県に依頼するのは地方自治の観点から相応し くない。信頼できない方が透明性を求めて参加効果があるとしても,信頼もあり参加も適宜なされる府県 政の方が健全である。第四は,府県政への参加は総合的にみて,規模が大きな市町村と比べ,規模の小さ な市町村の住民の参加が低調という点である。以上のように,府県政参加は,特に規模の小さな市町村に 対してハードルが高い。本来支援を必要とするような基礎自治体は往々にして規模の小さな市町村である ことが多い。しからば,規模の小さな市町村の住民の府県政への参加のあり方こそが,市町村の持続的な 行財政運営に対しても,広域自治体である府県の存在意義のためにもとりわけ重要な側面となる。最後に, 規模の小さな市町村の,府県政参加の手法について言及し終わりにしたい。 表 7 では,表頭に参加手法を,左から広報や手紙,アンケート,インタビュー,シンポジウム,会議, 県主催の意見交換会,住民主体の委員会,住民投票まで,参加における住民の主体性が増すように並べ, 表側は,交通政策から消費者保護政策まで府県に比較的固有の政策分野を並べ,その後に,直接利害が及 ぶか否かと予算規模の大小に関わる項目,行財政運営改革を設定している。そのうえで,今回のアンケー トで別途収集した府県政参加手法について,比較的小さな規模の市町村(約 1 万人から約 3 万人)の住民 の回答割合から県庁所在地の住民の回答割合の差分を求めた。最終行に掲載している,小さな規模の市町 村の住民の回答割合をみると,広報誌は 4 割,アンケートへの回答は 2 割以上と割合が高く,これらの情報提供,情報収集が府県政参加の基礎的かつ日常的な手法といえる。ただし,規模の大きな都市住民との 比較でみた場合の差分でみると,分野に限らず総じて規模の小さな市町村の住民は,主体性の高い意見交 換会や委員会の手法をより求めていることがわかる。しかも直接利害が及ぶ予算規模の大きな府県の政策 についての意見交換会や委員会,住民投票を求める割合が高い。先に,規模の小さな市町村の住民は,総 合的にみて,大きな都市の住民と比べ参加意向が低いことをみたが,日常的な情報提供や情報収集の段階 を越えて,本格的に参加するのであれば,主体的な手法による関わりを規模の大きな都市の住民よりも一 層望むのである。 これらのことから,府県政参加のあり方は,府県の施策や制度への住民の認識を高め,たとえば府県の 政策の争点化等を通じた政策への期待向上が有益である。そして,その主要な対象として,規模の小さな 市町村の住民を設定すべきであり,さらにそうした住民の参加手法は,形式的な広報活動やアンケートだ けではなく,ニーズに応じて,住民がより主体的に関わるものが望ましいということができる。もっとも, 規模の大きな都市の住民の参加促進も同じく不可欠であり,府県政参加の機会は,府県内のいずれの市町 村民にも原則的に開かれているのが前提である。本研究のデータからは,小さな規模の市町村の住民によ る府県政参加は,大きな都市の住民の参加ほどに積極化しない構造が明らかになったことから,規模の小 さな市町村の住民の参加を,他の都市住民の参加と同様に活発にするためには,特に配慮が必要というの が趣旨である。 政策過程への住民の参加が叫ばれるとはいえ,あらゆる分野で主体的な住民参加を徹底しなければなら ないわけではない。反面,住民から遠すぎる広域的な団体では,地方自治体とはいえない。府県における 住民自治を効果的に進めるために,市町村の住民とどのように向き合うか,どのような手法をとるかを, 市町村規模別に再考することが必要なようである。広域的な自治体にとって難しい住民自治に向き合って こそ,真の「府県の完全自治体化」の鍵になるものと思料される。
表 7 比較的小さな市町村の住民が望む府県政参加手法 (注)人口約 1 万人~約 3 万人の市町村住民の回答割合から,県庁所在地住民の回答割合を差し引いた値。 選択できる手法の数に制限なし(複数回答)。傾向をみるために,正でありかつ 1 を超える箇所は背景を灰色にしてい る。単位はポイント。 府 県 政 に か か わ る 様 々 な 情 報 が 掲 載 さ れ た 広 報 誌 等 に よ る 情 報 提 供 府 県 政 に つ い て の 自 分 の 意 見 を 知 事 や 府 県 職 員 に 伝 え る た め の 手 紙 や 電 子 メー ル、 F A X、 意 見 提 案 箱 な ど に よ る 意 見 提 示 府 県 政 に つ い て の ア ン ケー ト へ の 回 答 府 県 政 に つ い て の 「 個 人 に 対 す る イ ン タ ビ ュ ー 」 や 「 グ ルー プ イ ン タ ビュ ー 」 へ の 回 答 府 県 庁 や 府 県 民 ホー ル な ど で 年 に 1 回 程 度 行 わ れ る 府 県 政 に 関 す る フォー ラ ム や シ ン ポ ジ ウ ム 一 般 府 県 民 で な く N P O 等 の 行 政 以 外 の 専 門 的 な 団 体 が 構 成 員 と なっ て 府 県 政 に つ い て 検 討 す る 府 県 主 催 の 会 議 府 県 内 各 地 域 で 年 に 何 度 も 開 催 さ れ、 地 域 ご と に 住 民 か ら 委 員 を 選 出 す る、 地 域 ご と に 組 成 さ れ た、 府 県 主 催 の 臨 時 の 懇 談 会 ・ 意 見 交 換 会 府 県 内 各 地 域 で 年 に 何 度 も 開 催 さ れ、 地 域 ご と に 住 民 か ら 委 員 を 選 出 す る、 地 域 ご と に 組 成 さ れ た、 住 民 主 体 の 常 設 の 委 員 会 府 県 政 に つ い て の 政 策 争 点 に 対 し て 投 票 す る 住 民 投 票 府 県 民 参 加 は 望 ま し く な い -2.2% -2.4% -2.4% -2.7% -2.4% -3.5% -0.9% -2.6% -0.8% -2.2% -1.6% -4.6% -3.5% -3.4% -4.3% -0.7% -0.7% 18.3% 43.7% -1.5% -1.2% -2.4% 0.2% -2.2% -1.2% -0.3% 0.8% -0.8% 0.3% 0.2% 0.7% 0.1% -0.6% 0.2% 0.7% -1.7% -0.8% -0.9% 0.6% 0.3% -1.9% 0.9% 1.7% 0.8% 0.7% 8.1% 24.8% 1.9% -0.5% -1.0% -0.7% -2.7% -0.2% -0.6% -1.0% -0.2% -0.5% -0.9% -1.1% -1.4% -1.3% -1.4% -2.2% -3.6% -3.6% -3.5% -2.6% -1.5% -1.9% -2.0% -1.5% -2.1% -1.6% -0.7% -1.6% -2.3% -1.5% -2.1% -3.7% -1.2% -0.6% -0.8% -2.7% -2.0% -2.2% 10.6% 10.2% -2.3% 0.0% -0.8% -0.3% -0.7% -1.1% -0.5% -0.6% 0.1% -0.3% -1.0% -1.2% -1.0% -1.4% -2.7% -2.7% 2.0% 1.9% 2.8% 2.6% 2.3% 1.7% 2.2% 1.0% 2.2% 2.3% 3.4% 2.8% 3.2% 0.6% 2.9% 0.1% 12.0% 13.8% 2.0% 0.1% 1.2% 1.1% 1.3% 2.2% 2.7% 2.1% 1.6% 1.9% -0.1% 2.2% 1.3% -0.1% 1.4% 0.4% 0.3% -0.5% 0.7% 0.2% -0.2% 0.3% 1.9% 0.3% 0.2% -0.2% 0.2% 0.7% -0.6% -1.2% -1.6% -1.6% 9.5% 8.9% -1.1% 0.0% 0.9% -0.9% -0.4% -0.9% 0.7% -0.1% 0.0% -0.1% -1.1% -1.4% -0.7% -0.6% -1.1% -1.1% -1.6% 3.0% 1.9% 1.0% -1.2% -0.8% 0.4% 1.3% 1.0% 1.3% -2.2% -2.8% 0.4% 1.2% -3.2% -2.7% -2.2% -0.4% -2.6% -2.3% 0.6% -0.6% 1.5% 2.3% 1.4% -3.1% -1.8% -2.3% -2.0% -0.8% 0.4% 0.2% 自分や家族に直接的な利害が及ばない政策で、予算 規模が小さなもの 行政組織や行財政運営の改革に関する取組 規模の小さな市町村住民の 手法別回答割合(加重平均) 回答者数:1,276名 -2.0% -1.4% -2.2% -1.0% -1.9% -4.1% -2.9% 府県による文化政策(府県立の博物館・美術館・図書 館の運営、文化イベントの開催など) 府県によるスポーツ政策(スポーツ施設の整備、イベ ントの開催、クラブの創設・育成など) 府県による消費者保護政策(消費生活相談、悪質商 法・製品事故の注意喚起など) 自分や家族に直接的な利害が及ぶ政策で、予算規 模が大きなもの 自分や家族に直接的な利害が及ぶ政策で、予算規 模が小さなもの 自分や家族に直接的な利害が及ばない政策で、予算 規模が大きなもの 府県による土地利用政策 (都市計画決定、農業振興地域の指定など) 府県による環境政策(自然環境の保全、産業廃棄物 処理対策、CO2削減に向けた取組など) 府県による農林漁業政策(用水・排水・水田の整備、 土地改良、林業・漁業の制度資金など) 府県による産業政策 (企業立地促進、起業支援、融資、特区設置など) 府県による観光政策(観光ルートの設定、観光イベン トの開催、案内標識の設置など) 府県による汚水処理・水質保全政策 (下水道や集落排水、浄化槽の整備支援など) 府県による交通政策 (府県道の整備・管理など) 府県による水資源管理政策(府県の河川管理やダム 建設を通じた洪水防止等の治水、水源確保など) 府県による教育政策(小中高の教育内容・施設の充 実のための支援、府県立高等学校の運営など) 府県による保健・医療・福祉政策(府県立の病院の運 営、福祉施設の管理、感染症対策など) 府県による防犯政策 (警察による取締の強化など) 府県による防災政策(土砂災害防止のための治山、 防災体制の強化、防災訓練、防災教育など)