ミニボートの規制に関する国会審議
合田 浩之
1) *
The Diet Deliberations on the Regulation for So-called "Mini Boats"
Hiroyuki Goda
1) *
Abstract
So-called “Mini Boat” is one of the small crafts for pleasure, whose operators are not required to
acquire any license. Regulations and Laws for small crafts operators in Japan had been developed step
by step. The author reviewed the process and history of them in this paper.
1) 東海大学海洋学部海洋フロンティア教育センター 〒424-8610 静岡市清水区折戸 3-20-1
Ocean Frontier Education Centre, School of Marine Science and Technology, Tokai University, 3-20-1 Orido,
Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan
* Corresponding author: Hiroyuki Goda ([email protected])
(2017 年 11 月 26 日受付/2018 年 2 月 19 日受理)
緒 言
ミニボートとは,車に積んで運べる可搬型のボ
ートのうち,長さ(登録長)
3 m 未満で推進機関出
力が
1.5 kW 未満
1
,船外機が電動機であるか,そ
れ以外のもので①直ちに停止できる装置をもち,
かつ②巻き込み防護用のプロペラガードを擁して
いるものを言う.
ミニボートは,利用者が小型船舶操縦士の免許
を有しなくても操縦が認められており
2
,かつ船舶
安全法上の船舶検査を受ける必要がない
3
.したが
って「免許不要船」
4
と表現される場合もある.
ミニボートは,平成
15(2003)年 6 月の法令改
正(規制緩和)
5
により誕生したものである.その
規制緩和によって主に海釣りファンの中に急激に
普及したという
6
.しかしながら,その一方で,
「利
用者の多くが,ボートや船外機の扱いに不慣れな
初心者であるため,転覆,落水,衝突,エンジン故
障などによる海上事故が後を絶」
7
たない
地域によっては,海面のミニボート以外の利用
者との海面利用において利害の抵触も指摘されて
いる
8
.
人間の海面利用について,安全ということだけ
に着目するのであれば,法令の適用に例外
-除外規
定が存在することは不合理である.そこに,敢えて
除外規定を設ける理由はどこにあるのだろうか.
したがって,本稿では,ミニボートも包含するレ
ジャー・レクリェーションを用途とする小型船舶
の操縦者に関する法規制‐現行の船舶職員及び小
型船舶操縦者法に基づく規制が,どのような考え
で講じられてきたのか,国会の各種委員会・本会議
での審議を振り返り考察するものとする.
小型船舶操縦士制度の沿革
小型船舶操縦士自体は,戦後の船舶職員法(昭和
26 年法律 149 号‐現在では船舶職員及び小型船舶
操縦者法と改称されている)制定の時に誕生した.
その制度趣旨は,旧法(船舶職員法明治
29 年法律
68 号)で適用が留保されてきた総トン数 20 トン
未満の帆船・漁船についても,海難防止を目的と
1 出力 1.5 キロワットとは,2.04 馬力故,2 馬力以下のボート,という風に理解している利用者が多いと推測される(例えば,吉谷瑞雄
(2009 年)『Mini Boat [ミニボート入門]‐楽し海モーターボート・ビギナーズ・ガイド』舵社,5 頁).
2 船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭和 26 年法律 149 号)2 条 2 項に,この法律の適用から除外される船舶について「係留船その他国土
交通省令で定める船舶」と規定し,これを受けて,船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則(昭和26 年運輸省令 91 号)2 条 2 項Ⅰ号に
て「長さが三メートル未満であり,推進機関の出力が一・五キロワット未満である船舶であつて、国土交通大臣が指定するもの」と指定
している.
3 船舶安全法(昭和 8 年法律 11 号)2 条 2 項に「前項ノ規定ハ櫓櫂ノミヲ以テ運転スル舟ニシテ国土交通大臣ノ定ムル小型ノモノ其ノ他
国土交通大臣ニ於テ特ニ定ムル船舶ニハ之ヲ適用セズ」と適用除外を規定し,これを受けて船舶安全法施行規則(昭和38 年運輸省令 41
号)2 条 2 項 1 号イに「(2)推進機関として船外機を使用するものであり、かつ、当該船外機の連続最大出力が長さ五メートル未満の船
舶にあつては三・七キロワット以下、長さ五メートル以上の船舶にあつては七・四キロワット以下であること。」と指定している.
なお,一般社団法人日本マリン事業協会(JMIA[Japan Marine Industry Association]:モーターボート・ヨット・PWC(Personal Water
Craft 水上オートバイのこと)・マリンエンジン及び関連機器等の製造事業者,整備事業者,販売事業者並びにこれらの関連事業者から構
成される業界団体)は,『JMIA ミニボート技術指針』を策定し,会員企業に順守を求めている.http://boating-japan.jp/what/mini/(2017
年10 月 1 日アクセス)
4 例えば,一般財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会(小型船舶操縦士の国家試験の実施,操縦免許証の更新講習の実施団体)のウェ
ブサイトhttps://www.jmra.or.jp/information/information-nonlicense(2017 年 10 月 1 日アクセス).
5 国土交通省海事局ウェブサイトによる説明は以下の通り.http://www.mlit.go.jp/kaiji/menkyo/gaiyou/gaiyou.html(2017 年 10 月 1 日ア
クセス)
6 前掲注 1,5 頁.
7 同上.
8 東村玲子(2016 年)「福井県におけるミニボート問題の現状」『地域漁業研究』56 巻 3 号 137-152 頁.東村は漁業者とミニボートの海面
利用の抵触について問題意識を持ち,福井県内の三国港・敦賀市・福井市の三漁協及びその関係海域に対して実地調査を行い,それとは
別に愛知県知多半島のある漁協(論文の中では名前が伏せられている.)についても実地調査を行っている.その漁協は,ミニボート利用
者と海面利用の一つのルール(ミニボートの利用者,漁協の占有するスロープを利用させ,その対価として利用料を徴収すると同時に,
漁業権の設定されている海域を記した海図を手交,漁業権の侵害を防止させる。)を設定し,実際に運用していることを,東村は報告して
いる.
して,専門的知識と技能を有する「船舶職員」を配
乗させるということにあった
9
.
したがって,国民が小型船舶をレジャー・レクリ
ェーション目的に利用することは,当初は想定さ
れていなかったのである.
もっとも,小型船舶操縦士の制度導入時点では,
帆船・漁船であっても総トン数
5 トン未満の船舶
は,小型船舶操縦士の配乗義務の対象外とされて
いた
10
.
レジャー・レクリェーション目的での
小型船舶の操縦
とはいえ,実に昭和
38(1963)年の時点ですで
に,モーターボートをレジャーとして「個人」で楽
しむ操縦者と,海水浴客の海面利用の抵触が,国会
で指摘されるようになった
11
.
営利事業として旅客を乗せて小型船を操縦する
のでなければ,その当時は,漁業者及び個人でレジ
ャーとして小型船を操縦する操縦者に対しては総
トン数
5 トン未満であれば,免許取得が要求され
なかったのである
12
.
個人でレジャーとして小型船を操縦する操縦者
に対する免許制の導入については,その後,国会で
はその必要性が指摘されたことがあったが,運輸
省は,その後も昭和
47(1972)年までは慎重な姿
勢をとり続けた
13
.
それには,
「レジャーなどに対する規制の問題は
なるべくなら法律をつくって規制するというよう
なことは避けたいとほんとうは思う」
(佐々木秀世
運輸相)からであった
14
.
平成 10(2008)年までの船舶職員法の問題点
船舶職員法は,そもそも沿革的には大型船に乗
り組む船員の資格要件
15
を定める法律であった.
大型船は複数の船員によって船長の指揮統率の下,
分業と協業を以て運航されるものである.他方,小
型船は一人の操縦者の操縦で運航される.それゆ
え,大型船と小型船では運航に従事する人間の性
格が根本的に異なる.
大型船の船舶職員と小型船の操縦者の免許を根
本的に制度分離したのは昭和
49(1974)年の法改
正であった(「船舶職員法の一部を改正する法律」
(昭和
49 年法律 3 号)).
さらにいえば大型船の船舶職員にはプロしかお
らず,
「アマの存在はあり得ないものとされてきた
と」筆者は推察するが
16
,小型船の操縦者にはプ
9 細谷勝利政府委員の説明.第 10 回国会参議院運輸委員会議録 9 号昭和 26 年 3 月 17 日 2 頁).ただし零細な沿岸漁民には小型船舶操縦
士の資格を取得することは,難儀があったようであり,資格取得をしなかった者が少なくなかったことが推察される。昭和43 年,中曽
根康弘運輸相は,「遊漁船にも小型船舶操縦士の免許が必要なのに,釣り船など遊漁船の相当数が無免許であることは無視できないとす
る(第58 回国会衆議院内閣委員会議録 18 号昭和 43 年 4 月 26 日 6 頁).これは,浜田光人委員が,運輸省が 2 年の猶予を与え,無免許
の漁船員に資格取得を求める通牒を発したことへの質問に対する答弁である.
10 松原昭一(1999 年 7 月)「小型船舶操縦士資格の概要」『海と安全』486 号 16 頁.
11 第 43 国会衆議院運輸委員会議録 30 号昭和 38 年 6 月 7 日 5 頁.海上衝突予防法に関する久保三郎委員に対する亀山信郎運輸省海運局次
長の答弁.この時,神奈川県が条例をもって,海水浴場の海面でのモーターボートの操縦を禁じている旨,亀山次長は指摘した.
12 営利事業として旅客を扱うのであれば,海上運送法(昭和 24 年法律 187 号)で規制をしていたが,昭和 39 年の時点では,運輸省にはプ
レジャーボートの規制を行う考えがない旨,有田毅政府委員(海上保安庁次長)は答弁している(第46 国会衆議院運輸委員会議録 46 号
5 頁).
13 昭和 47(1972)年になると佐原亨政府委員(運輸省船員局長)が,自動車のオーナードライバー同様,レジャーで操縦するにしても免
許を必要とするようにしたい旨,答弁している(第68 国会衆議院運輸委員会議録 29 号昭和 47 年 6 月 9 日 12 頁).
14 第 69 国会衆議院運輸委員会議録 2 号昭和 47 年 8 月 11 日 10 頁.
15 STCW 条約(「1978 年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」昭和 58 年条約 9 号)の適用される船舶は,基本
的には総トン数200 トン以上の外航の船舶であり(第 2 章第 2-2 規則,2-3 規則等),プレジャーボートの海技資格には国際的な基準
はない(同条約3 条(C)にて「運送業に従事しない遊覧ヨット」は適用除外).
16 厳密には,俗にスーパー・ヨットあるいはメガ・ヨットと称する富裕層が個人所有する小型クルーズ船(全長 25 メートル以上)が世界
には7000 隻程度現存する.
しかしながら,SOLAS 条約(「1974 年の海上における人命の安全に関する国際条約」(昭和 55 年条約 16 号))第 1 章 A 部第 3 規則
(a)(ⅴ)にて明白に「運送業に従事しない遊覧ヨット」は適用除外になっている.このことは,前注 15 とあわせて,スーパーヨット・メガ
ヨットに船舶の構造要件・船員について,国内法が定めれれていない国(例えば日本)では,何の規律もないことになり,筆者は,大い
に問題があると考えるが,この問題は,別稿に譲る.
ロとアマが現存する.その点の制度の再分離は平
成
14(2002)年の法改正による(後述).
小型船舶への簡易な船舶操縦士資格創設への
流れ
昭和
49(1974)年の船舶職員法改正で,小型 1
級から
4 級まで細分化された小型船舶操縦者の資
格制度が定められ,操縦目的の如何に関わらず総
トン数
5 トン未満であれ小型船の操縦には免許が
必要になった.
もっとも,小型
4 級については,3-4 馬力程度の
低速の小型船舶での漁業(沿岸漁業・養殖)あるい
は遊漁(つり)を行う者には,資格取得に要求され
る知識・技能が高度すぎるがゆえに,別途「軽免許」
の制度を求める声が,既に昭和
49 年法の改正審議
において存在していた
17
.
船員職業安定法及び船舶職員法の一部を改正す
る法律(平成
10 年法律 69 号)の 2 条で導入が新
設された
5 級小型船舶操縦士
18
は,当時の藤井孝
男運輸相は「近年の海洋レクリェーションの進展
を背景とした小型船舶操縦士の資格取得へのニー
ズの多様化等船舶職員制度を巡る各般の状況の変
化にも適切に対応」
するものであると説明する
19
.
従来の
4 級が想定していたのはモーターボード・
ヨット等であったが
20
,
5 級は水上オートバイ,フ
ィッシングボートを想定し,その操縦者数が増え
ることが期待された
21
.
この平成
10 年の法改正で「小型船舶操縦士の免
許保有者は,毎年約九万人のペースで増加し,平成
十二年度末で約二百七十万人に達し」
22
た.
「他方,
小型船舶による海難
23
は増加傾向にあり,平成十
二年度には二千三百件を超えるとともに,死傷者
も約七百人に達し」
24
た.
更に,
「小型船舶に関わる利用者のニーズの変化
に的確に答えるとともに,小型船舶の航行の安全
を一層図るため」平成
14(2002)年に船舶職員法
は再度,改正された.
この平成
14 年改正によって,小型船舶の船長は
小型船舶操縦者と位置付けられ,船舶職員の資格
制度から小型船舶操縦者の資格制度が分離された
25
.
他方、小型船舶操縦者の資格区分を一級・二級及
び特殊船舶操縦士に再編成するともに,
「小型船舶
操縦士の試験について,安全に配慮しつつ,できる
17 足立篤郎委員の発言.第 71 国会衆議院予算委員会第五分科会議録 2 号昭和 48 年 3 月 3 日 14 頁.
18 5 級は,小型船舶の航行区域を沿岸 1 海里に限定する.目線の低い小型船舶がレーダー・海図を使用しないで,常に出港ポイントを確認
できること,海岸から船高の低い船舶も確認できるという観点による(小坂裕彰(2000 年 3 月)「五級小型船舶操縦士資格の創設等につ
いて」『海上労働』52 号 43 頁).
19 第 142 国会参議院交通・情報通信委員会会議録 11 号平成 10 年 4 月 14 日,14 頁,第 142 国会衆議院運輸委員会議録 8 号平成 10 年 5 月
8 日 17 頁.
20 松原・前掲注 11,18 頁
21 細川律夫委員による指摘.第 142 国会衆議院運輸委員会議録 8 号平成 10 年 5 月 8 日 18 頁.
従来のモーターボートを想定した4 級では,水上オートバイの構造・システム等の講義を受けず,一度も水上オートバイを操縦するこ
となく免許が付与され,法的にはそれで水上オートバイの操縦ができてしまうことを問題視し,水上オートバイ専門の試験制度を設ける
べきとする提案がなされていた(星正彦(1991 年 9 月)「小型船舶操縦士の資格制度・試験制度の現状と課題」『運輸と経済』51 巻 9 号
65 頁)。
それゆえか,5 級は,当初は,水上オートバイ免許として検討されたが,レジャーの種類を限定した免許となってしまうなど種々の問
題があり,結局汎用性を付加した形でスタートしたという(松原・前掲注11,18 頁).
22 扇千景国土交通大臣の発言。第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 2 頁.
23 海難の中にはレベルの低いもの,洋上での燃料切れ,エンジンを停止したまま魚群探知機を稼働させて,バッテリーがあがってしまった
等というものが多く含まれている,ということが議員(高橋千秋)からさえも指摘が上がった(第154 国会参議院国土交通員会会議録 16
号6 頁).
24 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 2 頁.
25 同上.この改正により法律名も「船舶職員及び小型船舶操縦者法」と改められた(船舶職員法の一部を改正する法律(平成 14 年法律 60
号)冒頭).これは,わかりやすく言えばプロ(プロフェッショナル)とアマ(アマチュア)の分離である.
大型船は,船長自ら操船しなくても,海技免状を持つ航海士が操船する.したがって,法が船には船長(海技免状を持つ)を乗り組ませ
なければいけない規定しながらも,船長自身が操縦しなければならないと規定しなくても,大型船は問題が生じない.
しかし,そのような大型船だけを前提とした法を小型船にそのまま当てはめた場合,海技免状を持つ小型船の船長が,海技免状を持た
ない素人に小型船の操縦を試みさせても,そのこと自体は違法になるわけではなかった(星・前掲注22,65 頁).この時の改正において,
小型船舶については「有資格者による自己操縦」は義務付けられなかった.
限り簡素なもの」とした
26
.
観光振興目的の規制緩和
船舶職員及び小型船舶操縦者法は,船舶職員法
時代から,その適用範囲について運輸省令あるい
は国土交通省令に委任している.国土交通省令の
改廃についての論議は必ずしも表に出てこない.
ところが,平成
14(2002)年の船舶職員法の改
正の審議とは,形式的には別の議題が審議されて
いる時ではあるが,
その審議の直前の平成
14(2002)
年
3 月 29 日の衆議院国土交通委員会で,旧運輸省
の告示
27
を以て平成
7(1999)年に沖縄のリゾー
トホテルの沖合において約
2 か月間,無免許で水
上バイクを運転できる海域を設定した時期があっ
た
28
ことが議論された
29
.これについては,安富
正夫政府委員(国土交通省海事局長)が,沖縄県か
らの要請を踏まえ,地元の一応の了解を得ている
という前提で,沖縄の観光振興でそのような措置
をとったが,地元から反対意見がでたことによる
と説明がなされた
30
.
この議論が示唆することは,特定の海域におい
て海域利用者が合意するのであれば,レジャー・レ
クリェーション目的の小型船の操縦に関する規制
を緩和する考えが国土交通省には存在することが
推測できるということである.
レジャー・レクリェーション目的での
小型船舶に関する社会問題
第
142 国会の五級小型船舶操縦士に関係する審
議において問題にされたのは,当時の深刻な課題
であった,河川・港湾におけるプレジャーボートの
放置もしくは不法係留に大きな時間がさかれた
31
.
小型船舶の安全運航という点では,飲酒運転に
対する規制がないという点が指摘されたにとどま
る
32
(この件は,
4 年後に船舶職員法の一部を改正
する法律(平成
14 年法律 60 号)23 条の 30 にて
手当される)
.
平成
14 年の法改正の審議にあたって,プレジャ
ーボートの安全という点で,興味深いやりとりが
確認される.
1 つには,他の海面利用者との抵触である.細川
律夫委員(衆議院)は,海水浴場(江ノ島-神奈川
県)で乱暴な運転をしているプレジャーボートの
取り締まりの実効性について疑問があると指摘し
た
33
.
この点については阿久津幸彦委員(衆議院)も手
漕ぎボートで海釣り(三浦半島の金田湾
-神奈川県)
をしている際,水上バイクが暴走してくることを
指摘した
34
.
渕上貞雄委員(参議院)は,さらに踏み込み,
26 扇千景国土交通大臣の発言。第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 2 頁.
27 平成 7 年運輸省告示 405 号(平成 7 年 7 月 4 日)「船舶職員法施行規則 2 条 2 項第 3 号の水域を指定する件」
28 平成 7 年運輸省告示 572 号(平成 7 年 9 月 4 日)「平成 7 年運輸省告示第 405 号は廃止する件」
29 井上和雄委員の問題提起(第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 5 号平成 14 年 3 月 29 日 14 頁).これは,当時,鈴木宗雄氏が沖縄及
び北方問題に関する特別委員長であり,この件で運輸省に同氏が電話をかけたこととされることの事実確認の意図が井上委員にあり,水
上バイクに対する規制緩和の是非を議論する意図はなかったと看取できる.
30 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 5 号平成 14 年 3 月 29 日 14 頁.
31 細川律夫委員による指摘。第 142 国会衆議院運輸委員会議録 8 号平成 10 年 5 月 8 日 18 頁.この時は,小型船舶に関する登録制度(「小
型船舶の登録に関する法律」(平成13 年法律 102 号))さえ存在しなかった.この制度導入の目的の一つに放置船対策があった(扇千景
国土交通大臣による法案説明,第151 国会衆議院国土交通委員会議録 18 号平成 13 年 6 月 5 日 17 頁).
32 細川律夫委員による指摘.第 142 国会衆議院運輸委員会議録 8 号平成 10 年 5 月 8 日 19 頁.もっとも,土橋正義政府委員(運輸省海上
技術安全局船員部長)は,「飲酒運転を法的規制すべきかについては,まず安全指導の徹底を図ることが重要であると考えておりますけ
れども」としながらも「どのような方策が適切であるか検討して参りたいと思います」と,その時点では飲酒運転を規制する意向がない
旨,答弁している.
なお,その後,小型船舶操縦士の安全運航に関しては,ライフジャケットの着用を推進すべきという議論が,平成21(2009)年に港則
法及び海上交通安全法の一部を改正する法律の審議において行われ(第171 国会参議院国土交通委員会会議録 20 号平成 21 年 6 月 25 日
7 頁),平成 30(2018)年 2 月から全面義務化されることになっている.国土交通省海事局の情宣は以下.
http://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_fr6_000018.html(2017 年 11 月 25 日アクセス)
33 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 6 頁.
34 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 8 頁.
プレジャーボートの水域の利用制限が現行法にお
いて存在しないことを指摘し,制限の必要性を政
府に糾した
35
.これに対しては,岩村敬政府参考人
(国土交通省総合政策局長)は,全国一律のルール
制定ではなく,地域の関係者による自主ルールの
策定が望ましいとして,自主ルールの存在を例示
した
36
.それは,平塚市(神奈川県)沖の相模湾の
もので,横浜海上保安部・国土交通省関東地方整備
局京浜工事事務所が,地元関係者を協力して作成
した「平塚・海・川・浜のルールブック」
37
と,荒
川における河川管理者(国土交通省)
38
による水上
オートバイ航行制限区域の設定である.
2 つは,シーマンシップと法制度との関係につい
ての質疑である.
細川は,扇千景国交相との質疑において,シーマ
ンシップを海上での安全義務は全て船長のマナー
に委ねるという自己責任原則に基づく考え方とし,
法案制定時の関係者からの意見聴取において,関
係者から「自己責任原則の下できちんとしたマナ
ーでやっているのだから,余りむやみやたらな規
則は設けないでくれという意見を随分聞かせてい
ただいた」としている
39
.
このようなやりとりがなされたのは,小型船舶
操縦士に対して酒酔い運転の禁止を含めた安全運
航について順守規定を設ける一方で,取り敢えず
は罰金や反則金の制度を設けない(今後の検討課
題にするにとどめる
40
)ことが背景にあった.国土
交通省(安富海事局長)は,免許更新時の安全教育
によって対応するとしていた
41
.
プレジャーボートの利用者には,プレジャーボ
ートの操縦に免許制度自体があることが疑問とい
う考えが一般に存在することを高橋千秋(参議院)
委員は指摘する
42
.もっとも,これは利用者に誤解
があるようで,確かに米国においては免許制度が
あるのは
5 州にとどまるが,欧州諸国(独仏伊)に
は免許制度がある
43
.
3 つ目は,水上バイクの騒音問題である
44
.騒音
問題は,船の機関の技術上の問題になるので本稿
では検討の対象としない.
結論(まとめと展望)
小型船舶操縦士については,昭和
26(1951)年
の制度創設当初より,長く総トン数
5 トン未満の
船には,その操縦者に免許取得が求められなかっ
た時代がそもそもあった.
とりわけレジャー目的の小型船に法規制を導入
することに旧運輸省は昭和
47(1972)年までは消
極的であった.
日本におけるレジェ―・レクリェーション目的
での小型船舶の利用は,筆者は欧米文化の影響と
推測しているが,その利用者は特に米国において,
そのような小型船舶の利用に関する規制があまり
存在しないことを理由に,日本においても規制の
導入を歓迎してこなかった.
35 第 154 国会参議院国土交通委員会会議録 16 号平成 14 年 5 月 30 日 15 頁.
36 同上.
37 これは平塚市のウェブサイトに公開されている.http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/nosui/page-c_00587.html2017 年 10 月 9 日ア
クセス
38 関東地方整備局荒川下流河川事務所が当該河川を管理しており,そのルールは『荒川通航ガイド』(平成 13(2001)年 4 月 1 日施行)と
して公表されている.http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000097702.pdf2017 年 10 月 9 日アクセス
39 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 6 頁.
40 月原茂国土交通副大臣による説明(第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 5 頁).
41 第 154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 15 頁
42 第 154 国会参議院国土交通委員会会議録 16 号平成 14 年 5 月 30 日 4 頁.なお,高橋自身,ヨットを利用していると述べている(同).
43 安富正文政府参考人(国土交通省海事局)の答弁(第 154 国会参議院国土交通委員会会議録 16 号平成 14 年 5 月 30 日 4 頁).
44 阿久津幸彦委員による.安富正文政府参考人(国土交通省海事局長)は,水上バイクの製造事業者に行政指導を行い平成 10 年から自主
規制によって騒音を抑えさせていることを述べている(第154 国会衆議院国土交通委員会議録 6 号平成 14 年 4 月 3 日 8 頁.).参議院に
おいても,高橋千秋委員がこの問題を指摘し,同じく安富が同趣旨の答弁を重ねている(第154 国会参議院国土交通委員会会議録 16 号
平成14 年 5 月 30 日 6 頁).
水上バイクに起因する環境問題については,その後,排出ガスについて平成17 年の第 162 国会の参議院環境委員会で加藤修一議員に
より問題にされた.これも製造業者への行政指導による自主規制で対処していることが冨土原康一政府参考人(国土交通大臣官房技術審
議官)によって答弁している(第162 国会参議院環境委員会会議録 7 号平成 17 年 4 月 12 日 15 頁).
さはさりながら,小型船舶の安全航行が問題に
なるたびに,小型船舶の操縦者としての免許取得
のための学習や教習の負担を軽減しながらも,国
土交通省は,レジャー・レクリェーション用途での
小型船舶の操縦者の主張するシーマンシップなる
ものを過信することなく
45
,同時に規制の適用範囲
を広げてきたことも事実である.
また,安全航行という問題は,小型船舶が操縦さ
れる海域において,他の目的での海域利用者との
利害調整の必要性という問題に還元される場合が
ある.その場合は,各地域が,地域の実情に沿った
利用調整のルールを形成し,それを順守させると
いう形でも,その安全航行は実現できていること
も看取できた.
してみると,ミニボートの安全運航が問題にな
るのであれば,操縦者に対する何らかの規制の導
入が必要になろうが,レジャーや・レクリェーショ
ンへの拡大に水を差さない-なるべく免許取得の
負担を軽減するということを考慮するならば,例
えば陸上における原動機付き自転車の運転免許制
度の如く,簡単な学科試験,試験合格後の安全教習,
免許更新時の講習というような制度の導入が現実
的なものではなかろうか
46
.
引用文献
藤本昌志・渕真輝・畑貴宇・小原朋尚 (2011) 海難事例と小型船
舶操縦者の法理解の調査について-小型船舶に対する特別
規定等の必要性-, 日本航海学会論文集, 124, 137-147.
東村玲子 (2016) 福井県におけるミニボート問題の現状, 地域
漁業研究, 56 (3), 137-152.
星正彦 (1991) 小型船舶操縦士の資格制度・試験制度の現状と
課題, 運輸と経済, 51 (9), 65.
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海上労働, 52, 43.
松原昭一 (1999) 小型船舶操縦士資格の概要, 海と安全, 486,
p.16, p.18.
洲戸俊郎・広野康平・渕真輝・古荘雅生 (2011) 海洋レジャーの
普及を目的とした小型船舶操縦士免許制度の考察, 日本航
海学会論文集, 125, 249-256.
鈴木育美・藤本昌志・渕真輝・小原朋尚 (2012) 小型船舶操縦
者の交通法規の方理解と行動, 日本航海学会論文集, 126,
161-170.
吉谷瑞雄 (2009) Mini Boat [ミニボート入門]‐楽し海モーター
ボート・ビギナーズ・ガイド, 舵社, 東京, 120p.
45 小型船舶操縦者の海上衝突予防法の理解が不十分であることについては,藤本昌志・渕真輝・畑貴宇・小原朋尚(2011 年 3 月)「海難事
例と小型船舶操縦者の法理解の調査について-小型船舶に対する特別規定等の必要性-」『日本航海学会論文集』124 号,137-147 頁及
び海上衝突予防法に加えて海上交通安全法・港則法の理解の不十分について鈴木育美・藤本昌志・渕真輝・小原朋尚(2012 年 3 月)「小
型船舶操縦者の交通法規の方理解と行動」『日本航海学会論文集』126 号,161-170 頁.
46 平成 17(2005)年(20 件)から 21(2009)年(49 件)にかけてのミニボートの海難事故が趨勢として増加していることを踏まえて,
ミニボートに免許制導入を提言するものとして,洲戸俊郎・広野康平・渕真輝・古荘雅生(2011 年 3 月)「海洋レジャーの普及を目的と
した小型船舶操縦士免許制度の考察」『日本航海学会論文集』125 号 249-256 頁.