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健康食品中のムタプロデナフィル検出事例とその酸処理条件の検討

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―研究報告―

大 阪 府 立 公 衛 研 所 報

第 51号 平成 25年 ( 2013年 )

- 18 - *大阪府立公衆衛生研究所 衛生化学部 薬事指導課

Detection of Mutaprodenafil in Dietary Supplement and Examination of Its Acid Treatment Conditions

By Airin AOYAMA, Akiko ASADA, Akihiro TAKEDA, Takahiro DOI, Yuka SATSUKI, Takaomi TAGAMI and Yoshiyuki SAWABE

健康食品中のムタプロデナフィル検出事例とその酸処理条件の検討

青山愛倫* 淺田安紀子* 武田章弘* 土井崇広* 皐月由香* 田上貴臣* 沢辺善之* 平成22 年度に大阪府にて実施した強壮効果を標榜する健康食品の試買調査において、1 製品よりシル デナフィル構造類似成分であるムタプロデナフィルを検出した。HPLC/PDA 及び LC/MS による分析の 結果、当該成分は酸処理をすることによりメチソシルデナフィルに分解されることを確認した。さらに、 その酸処理条件について検討を行ったところ、温度や酸の濃度及び種類が検出に影響を与えることが確 認された。また、特定の酸処理条件下において未知化合物を検出した。 キーワード:健康食品、勃起不全治療薬、ムタプロデナフィル、メチソシルデナフィル Key words:dietary supplement, drugs for erectile dysfunction, mutaprodenafil, methisosildenafil

近年、健康や美容に対する意識の高まりやインター ネットなどで容易に入手可能なことから健康食品の需 要が増大している。しかし、一部の健康食品の安全性 や品質は充分とはいえない。実際に、医薬品成分を含 有した健康食品の服用による死亡例や重篤な健康被害 が全国で報告されており、大きな社会問題となってい る1)。厚生労働省ホームページ「医薬品成分(シルデナ フィル及び類似成分)が検出されたいわゆる健康食品 について」2)によると、強壮効果を標榜した健康食品 に医薬品成分が含有されていた製品は、354 製品であ った(平成 25 年 5 月 31 日時点)。検出された医薬品成分 は、勃起不全(以下、ED)治療薬の有効成分であるシル デナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、及びこ れらの構造の一部を変更した類似化合物である。強壮 効果を標榜した健康食品において、これら医薬品成分 及び類似化合物は頻繁に検出されているのが現状であ る3) –7) 大阪府では、健康食品による健康被害の未然及び拡 大防止のため、強壮効果と痩身効果を標榜する健康食 品等の試買調査を行っている。平成 22 年度に試買した 製品の中で 1 製品について、酸処理によりメチソシル デナフィルに分解されるムタプロデナフィル(当時、 「酸処理するときメチソシルデナフィルを生じる推定 分子量 629 の未知物質」として扱われた[表 1])を検出 したので報告する。また、その酸処理条件について検 討を行い、特定の条件下において未知化合物を検出し たので併せて報告する。

方法

1、試料 平成 22 年度の健康食品試買調査において試買した 製品「スーパーエックス」(剤形:硬カプセル)を用いた。 2、試薬 メチソシルデナフィルは、千葉県衛生研究所より提 供されたものを用いた。ホモシルデナフィルは、東京 都健康安全研究センターより提供されたものを用いた。 その他の試薬については、和光純薬工業株式会社製を 用いた。 3、標準溶液の調製 メチソシルデナフィル:メチソシルデナフィルをメ タノールで希釈し 100 ppm 溶液とした。この溶液をメ タノールで希釈し LC/MS 用標準溶液とした(0.1 ppm)。

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- 19 - ホモシルデナフィル:ホモシルデナフィルをメタノ ールで希釈し 10 ppm 溶液とした。さらに、この溶液を メタノールで希釈して LC/MS 用標準溶液とした(0.1 ppm)。 4、試料溶液の調製 試料 10 mg を精密に秤量し、メタノール 5 mL を加え て、60 分間超音波抽出を行った。その後、0.45 μm の メンブランフィルターでろ過した。ろ液をメタノール で 100 倍希釈し HPLC/PDA 用試料溶液とし、さらにそ の 100 倍希釈液を LC/MS 用試料溶液とした。 5、酸処理試料溶液の調製 4、のろ液をメタノールで 10 倍及び 1000 倍希釈した 溶液 1 mL をとり、ギ酸 200 μL を加えた後、メタノー ルで全量10 mLにした(最終ギ酸濃度2%)。さらに、55℃ 水浴中で 4 時間加温をしたものをそれぞれ HPLC/PDA 用及び LC/MS 用酸処理試料溶液とした。 6、装置 HPLC/PDA は LC-10 及び LC-20AT、LC/MS は LCMS-2020(いずれも島津製作所製)を用いた。 7、分析条件 分析条件は、高橋ら4)の方法を参考に設定した。 表 1 ムタプロデナフィル、メチソシルデナフィル 化学物質 分子量 構造 ムタプロデナ フィル (C27H35N9O5S2) 629.755 メチソシルデ ナフィル (C23H32N6O4S) 488.607 [HPLC/PDA]

カラム:L-Column ODS (4.6 mm i.d. × 150 mm, 5 μm, 化学物質評価研究機構製) カラム温度:40℃ 移動相:アセトニトリル/10 mM 炭酸水素アンモニウム 緩衝液(pH 10.0)混液(60:40) 流速:0.8 mL/min 注入量:10μL もしくは 20 μL PDA:波長 190-370 nm(モニタリング波長 292 nm) [LC/MS]

カラム:Ascentis Express C18 (2.1 mm i.d. × 75 mm, 2.7 μm, SUPELCO 製) カラム温度:40℃ 移動相A:アセトニトリル 移動相B:10 mM 炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH 10.0) グラジエント条件:0 分(20%B) – 10 分(80%B) 流速:0.2 mL/min 注入量:5 μL イオン化法:ESI ポジティブモード(Scan モード、マス レンジm/z=80-800) 乾燥ガス流量:900 L/h(N2) コーンガス流量:90 L/h(N2) キャピラリー電圧:4.5 kV コーン電圧:20 V

結果及び考察

1、試買調査 HPLC/PDA 用試料溶液について分析を行ったところ、 未知化合物のピークが検出された。また、HPLC/PDA 用酸処理試料溶液については、未知化合物のピークに 加えシルデナフィル様のスペクトルを持つピークが検 出された。検出された 2 つの化合物について検討を行 うため LC/MS で分析を行った。 LC/MS 用試料溶液について分析したところ、未知ピ ークの MS スペクトルにおいて m/z=630 と 316 にピー クが検出され、それぞれ[M+H]+ と[M+2H]2+であると 推察された。また、LC/MS 用酸処理試料溶液では、シ ルデナフィル様のスペクトルを持つピークの MS スペ クトルにおいてm/z=489 にピークが検出された。提供

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- 20 - されたホモシルデナフィルとメチソシルデナフィルを 用いて確認したところ、メチソシルデナフィルである ことが判明した。さらに、酸処理を行っていない試料 溶液ではメチソシルデナフィルが検出されなかったこ とから、メチソシルデナフィルは検体そのものではな く酸処理により生成されたものであると考えられた。 以上の結果より、「酸処理するときメチソシルデナフ ィルを生じる推定分子量 629 の未知物質」を検出した として、試買調査結果を報告した。 その後、大阪府以外に千葉県、神奈川県、浜松市の 試買調査でも同様の化合物の検出が確認された。この 化合物は、厚生労働省により「専ら医薬品成分として 使用される成分本質」に該当するものされ、国立医薬 品食品衛生研究所により構造の決定がされ、「ムタプロ デナフィル」と命名された8)。厚生労働省及び 4 府県 市では当該製品を使用しないように、また、使用後に 体調に不安を感じる場合は医療機関または保健所に相 談するように注意喚起を行った9) 2、酸処理条件の検討 試買調査の結果より、ムタプロデナフィルはギ酸処 理によりメチソシルデナフィルに分解されることが確 認された。健康食品中のシルデナフィル類似化合物の 構造が多様化している状況であることから、今回の事 例のようなムタプロデナフィルからメチソシルデナフ ィルへの分解以外にも、別の化合物が生成する反応条 件が存在する可能性が考えられた。そこで、酸処理条 件について HPLC/PDA を用いた検討を行い、その分解 挙動を確認することとした。 反応温度及び反応時間の検討: 反応温度として、4℃、 20℃、37℃、55℃を、反応時間として、1時間、3時間、 1日を検討した。4、試料溶液の調製のろ液をメタノー ルで 10 倍希釈した溶液 1 mL に最終濃度が 2%になる ようにギ酸を加え、その溶液を設定した 4 種の温度条 件下、3 種の反応時間で静置した。その反応液を移動 相(アセトニトリル/10 mM 炭酸水素アンモニウム緩衝 液[pH 10.0]混液[60:40])で 10 倍希釈し、酸処理条件検 討用試料溶液とした。 その際に得られたムタプロデナフィル、メチソシル デナフィルのクロマトグラム及び UV スペクトルを示 す(図 1)。検討の結果、反応温度が高温になるほどメチ ソシルデナフィルの生成量は増加し、また、反応時間 が長くなるほどメチソシルデナフィルの生成量は増加 した(図 2)。 酸の種類及び酸濃度の検討:酸処理に用いる酸とし て、ギ酸及び塩酸を、酸濃度として 2%及び 5%を検討 した。4、試料溶液の調製のろ液をメタノールで 10 倍 希釈した溶液 1 mL にギ酸及び塩酸をそれぞれの最終 濃度が 2%及び 5%になるように加え、55℃の水浴上で 1 時間、3 時間、1 日静置した。その反応液を移動相(ア セトニトリル/10 mM 炭酸水素アンモニウム緩衝液[pH 10.0]混液[60:40])で 10 倍希釈し、酸処理条件検討用試 料溶液とした。 検討の結果、1 時間、3 時間の静置ではほとんど差が 認められなかったのに対し、1 日の静置では最終濃度 5%のギ酸で最もメチソシルデナフィルの生成量が多 かった(図 3)。また、最終濃度 2%及び 5%の塩酸では未 知化合物 C が見られ、スペクトルを確認したところメ A 図 1 HPLCクロマトグラム及び UVスペクトル(2%HCOOH,55℃,3h) Aメチソシルデナフィル B ムタプロデナフィル B A B

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- 21 - チソシルデナフィルと一致しないスペクトルであった (図 4)。いずれの濃度の塩酸においても、反応時間が長 くなるほどムタプロデナフィルの分解がギ酸よりも急 激に進行し、メチソシルデナフィルではなく未知化合 物 C の生成量が顕著に増加していた(図 3)。 以上の酸処理条件の検討結果より、ムタプロデナフ ィルからメチソシルデナフィルに分解する条件として、 温度の影響が非常に大きく温度管理が重要であると考 えられた。また、効率よくメチソシルデナフィルに分 解するには塩酸よりもギ酸、さらに、最終濃度が 2%よ りも 5%のギ酸の方が優れていることがわかった。 今回の検討により塩酸処理条件下で未知化合物 C の 生成量が増えることを明らかになった。当該健康食品 を服用した場合、ギ酸処理で生じるメチソシルデナフ ィルよりも胃酸の成分の近い塩酸処理で生じる未知化 合物 C が生じる可能性が高いと考えられた。しかし、 未知化合物 C の生体内においての分解挙動や分解物の 毒性等は、今回の酸処理条件の検討だけでは判断はで きず、より多くの検討が必要である。

結論

平成 22 年度の試買調査においてムタプロデナフィ ルが検出され、酸処理によりメチソシルデナフィルに 分解することが確認された。酸処理条件の検討の結果、 温度や酸の濃度及び種類が検出に影響を与え、塩酸処 理条件下で未知化合物が検出された。 ムタプロデナフィルのような特定の条件下でシルデ ナフィル類似成分が検出されるなど、健康食品中のシ ルデナフィル類似成分の検出を免れる手法は巧妙かつ 複雑化してきている。このような状況の中で府民の健 康を守るために、今後も情報の収集に努め標準品や検 査体制を整え、健康食品による健康被害の未然及び拡 図 4 HPLCクロマトグラム及び未知化合物 Cの UVスペクトル(5%HCl,55℃,3h) Aメチソシルデナフィル B ムタプロデナフィル C B A 図 2 メチソシルデナフィルの生成における反応温度による影響(2%HCOOH) 4℃ 20℃ 37℃ 55℃ 0 12500 25000

1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day

0 25000 50000 75000 100000

1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day 1 h 3 h 1 day

メチソシルデナフィル 未知化合物C 図 3 メチソシルデナフィルの生成における酸の種類及び酸濃度による影響 5%HCOOH 2%HCOOH 2%HCl 5%HCl ピーク面積 ピーク面積

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- 22 - 大防止に寄与していきたいと考えている。

謝辞

今回の調査にあたり、標準品を提供していただきま した、千葉県衛生研究所医薬品研究室 長谷川貴志研 究員、高橋和長研究員、東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部医薬品研究科の皆様に深く感謝申し上 げます。

参考文献

1) 厚生労働省. “健康被害情報・無承認無許可医薬品情 報”. 厚生労働省. 2013-05-31. http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/ shokuhin/daietto/index.html, (参照 2013-05-31). 2) 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課. “医薬 品成分(シルデナフィル及び類似成分)が検出されたい わゆる健康食品 について”. 厚生労働省. 2013-05-31. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/050623-1.html, (参照 2013-05-31). 3) 守安貴子、簔輪佳子、岸本清子、坂本美穂、門井秀 郎、中嶋順一、濱野朋子、中江大:健康食品に含有さ れる医薬品成分の分析、東京都健康安全研究センター 研究年報,62,25-39(2011) 4) 高橋市長、長谷川貴志、西條雅明、永田知子、若菜 大悟、合田幸広:いわゆる健康食品中から検出された シルデナフィル構造類似体について、千葉県衛生研究 所年報,58,55-60(2009) 5) 安田一郎:健康食品中に含まれる医薬品類似成分, 食品衛生学雑誌,51,402-407(2010) 6) 曽根聡子、武田亮、森崎澄江、溝腰利男、後藤成一、 山下秀門:健康食品からのヒドロキシホンデナフィル 検出事例について,大分県衛生環境研究センター年報, 35,43-46(2007) 7) 伊達英代、井原紗弥香、寺内正裕、新井清、松尾健: 健康食品中のムタプロデナフィルの検出事例,広島県 立総合技術研究所保健環境センター研究報告,19, 21-25(2011) 8) 厚生労働省:「専ら医薬品として使用される成分本 質」に該当する物質の命名について(事務連絡),平成 23 年 8 月 11 日 9) 独立行政法人国立健康・栄養研究所:「健康食品」 の安全性・有効性情報、厚生労働省と千葉県、神奈川 県、大阪府、浜松市が医薬品類似成分(シルデナフィ ル類似成分)を含むいわゆる健康食品に注意喚起 (http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail1607.html),平成 22 年 12 月 21 日

図 3  メチソシルデナフィルの生成における酸の種類及び酸濃度による影響

参照

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