93 シンポジウム 〔東女医大誌 第58巻 第11号頁1171∼1174昭和63年11月〕
痛みの基礎と臨床
本学で使用されている麻薬性鎮痛薬について
東京女子医科大学 ムラ キ村 木
薬理学教室 タカムラ 篁 (受付 昭和63年6月30日)Use of Analgesics in Tokyo Women,s Medical College Hospital in 1987
Takamura MURAKI
Department of Pharmacology, Tokyo Women’s Medical College
Abrief survey on use of both narcotic and non・narcotic analgesics in Tokyo Women’s Medical
College Hospital in l987 was done statistically. Forty−seven kinds of nonsteroidal anti・inflammatory
drugs were used;the 830,000 day dosage of・these drugs was prescribed in one year. Phenacetin, mefenamic acid and diclofenac were among the most frequently prescribed drugs. The narcotic analgesics administered orally include opium tincture, powdered opium and Brompton cocktail. The frequently prescribed narcotic injection includes buprenorphine, pentazocine, fentanyl, opioid
alkaloids injection, morphine and pethidine in the decreasing order. Fentanyl was used exclusively for
anesthesia. This shows that the opioid agonist・antagonists(buprenorphine and pentazocine)were
used more frequently than narcotic analgesics because the use of the former is not controlled by the
Narcotic Control Regulations in this country. Codeine and dihydrocodeine were prescribed solely as
antitussives. Interestingly, narcotic antagonists, naloxone or levellorphan, were not prescribed in
1987. 1.はじめに 最も一般的な癖痛の対症療法は鎮痛薬の投与で ある.従って本学において鎮痛薬がどのように使 用されているかを知っておくことは意義のあるこ とと思われる.演題に予定した麻薬性鎮痛薬以外 に解熱鎮痛薬についても,昭和62年1∼12月の間 に本学病院において,どのように処方されたかを, 本学薬剤部杉原部長の御好意により調べることが できた. 2.鎮痛薬の分類および薬理 鎮痛薬はその作用機序から,(1)解熱鎮痛薬と (2)麻薬鎮痛薬に分類される.解熱鎮痛薬は非ス テロイド性抗炎症薬と同じもので,アラキドン酸 を代謝するシクロオキシゲナーゼ阻害作用があ り,発痛増感物質プロスタグランジンの産生を抑 えることにより鎮痛作用を発揮する.一方麻薬性 鎮痛薬は,内因性モルヒネ様物質であるエンケ ファリン類の受容体(オピオイド受容体)にアゴ ニスト(作動薬)として結合し,鎮痛作用を示す. そのためオピオイド鎮痛薬という人もいる.モル ヒネを代表とするアヘンアルカロイド,合成麻薬 および拮抗性鎮痛薬がこの仲間に含まれる.一般 に麻薬性鎮痛薬は強力な鎮痛作用があるが,くり かえし投与すると薬物依存性を生じるので法的に 麻薬に指定され,取り扱いが不便である. 近年依存性が弱いため法律的に麻薬指定をはず された鎮痛薬が合成された.これらは鎮痛作用を 持つにも拘らず,モルヒネの薬理作用に拮抗する ので拮抗性鎮痛薬として分類されている.その原 因はオピオイド受容体サブタイプに対する作用が 一1171一
94 表1 麻薬を除く鎮痛剤の使用状況(昭和62年1月∼12月) 系 統 成分数 (%) のべ使用日数*@ (%) (日) 多く使われた薬物 アリール酢酸系 8 (17,0) 179,790 (21.5) インドメタシン,スリソダク ジクロフェナクナトリウム プ・ピオン酸系 10 (21,3) 173,690 (20.8) イブプロフェン,プラノプロフェン サリチル酸系 6 (12.8) 10L640 (12.1) アスピリン アニリン系 2 (4.3) 90,000 (10.8) フェナセチン アントラニル認可 4 (8.5) 76,130 (9.1) メフェナム酸 ピラゾロン系 3 (6.4) 49,930 (6.0) イソプロピルアンチピリン配合剤 オキシカム系 1 (2.1) 36,000 (4.3) ピロキシカム 塩基性消炎剤 3 (6.4) 17,400 (2.1) その他 10 (21.3) 112β60 (13.4) ブコローム 計 47 (100) 836,940 (100) 53商品, 巾のべ使用日数=使用:量÷1日用量 として計算 表2 多く使用された解熟鎮痛薬 表3 下熱鎮痛薬・外用薬使用状況 使用量ベスト10 (二丁量として) 1.アスピリンダイアルミネート (ノミファリン) 2.ブコローム(パラミジン) 3.メフェナム酸(ポソタール) 4.イブプロフェン(ブルフェン) 5.EA酸(アスピリン十VitC) 6.イソプロピルアンチピリン配合剤 (サリドン,セデスG) 7.アスピリン(アスピリン末,ミニマックス) 8.アスピリンDL一リジン(ヴェノピリン) 9.プラノプロフェン(ニフラン) 10.スリンダク(クリノリル) (9) 40,083 30,000 29,169 27,640 20,250 18,819 17,600 11,707 10,913 6,400 薬 品 名 使用数 インドメタシン(インダシン,インテバン) i50mg,251ng) 60,100個 ジクロフェナクナトリウム (ボルタレン) @(50mg,25mg,12.5mg) 45,900 アセトアミノフェン(アンヒバ) 9,100個 ケトプロフェン(メナミン,オルジス) L500個 アスピリン (アルマイド) 600周 差ルピリン (メチロソ) 100個 合 計 117,300個 のべ使用日数 ベスト10 1。フェナセチン 2.メフェナム酸(ポソ随一ル) 3.ジクロフェナクナトリウム(パラミジン) 4.ブコローム(パラミジン) 5.プラノブロフェン(ニフラン) 6.アスピリンダイアルミネート配合剤 (パファリソ) 7.イブプロフェン(ブルフェン) 8.インドメタシン(インダシン) 9.イソプロピルアンチピリン配合剤 (サリドン,セデスG) 10.ピロシキカム(フェルデン) (日) 85,000 69,460 62,000 50,000 48,500 47,500 46,870 43,900 4!,820 36,000 異るためと考えられている.すなわち,オピオイ ド受容体には,ミュー,カッパ,デルタ,シグマ 等のサブタイプがあり,このうちミュー,カッパ, デルタは鎮痛作用に関与し,依存性はミューを介 して生じると考えられている.モルヒネは主に ミューに作動薬として働くが,拮抗性鎮痛薬は ミュー受容体に対し拮抗薬または部分的作動薬, カッパには作動薬として働くため,依存性が弱い と考えられているD2). 3.解熱鎮痛薬の使用状況 解熱鎮痛薬は,内服薬・注射薬・外用薬(坐剤) として投与されている.内服および注射薬として 47成分,53商品が使用され,のべ使用日数(使用 量を1日使用量で割った数)は約830,000日分にの ぼり,特にアリール酢酸系・プロピオン酸系・サ リチル斜子の薬剤が多く処方されていた(表1). 六二量としては,アスピリンダイアルミネート, ブコローム,メフェナム酸が多く使用され,のべ 使用日数の多かったのはフェナセチン,メフェナ ム酸,ジクロフェナクなどであった(表2).注射 剤としてはアスピリンDL一リジン(ヴェノピリン) がスルピリン(メチロン)より多く用いられた. 一1172一
95 表4 麻薬性鎮痛薬使用状況 使用量 アヘン内服薬 アヘンチンキ(10%) 362m1 アヘン散(10%) 6.39 アヘンアルカロイド オピアル注射液(1ml) 5,558A 注射薬 オピアト注射液(1ml) 24A 弱オピスコ注射液(1ml) 60A モルヒネ 塩酸モルヒネ注射液(1ml) 2,589A 合成麻薬 ペチジソ(50mg) 1,510A (35mg) 674A フェニタニール注射液 13,250A (フェンタネスト)(2ml) フェンタニール・ドロペリドール合剤
5A
(タラモナール)(2ml) 拮抗性鎮痛薬 ブプレノルフィソ (レペタン)* 16,440A (0.3mg 1,5ml) ペンタゾシン(ソセゴソ,ペソタジン)* (30mg lm1) 4,869A (15mg lm1) 8,110A その他 塩酸モルヒネ(原末)(プロソプトソ用) 41.2g 塩酸コカイン(原末)(ブロンプトソ用及び点眼用) 10.4g リン酸コデイン(10倍散) 800g リン酸ジヒドロコデイン(10倍散) 2.49 麻薬注射剤処方件数 約10,200 ブロンプトソ処方数 約 300 *法律的に麻薬から除外されている. 坐剤としてはインドメタシンが最も多く,ついで ジクロフェナクが用いられていた(表3).解熱鎮 痛薬は鎮痛作用以外に,解熱・抗炎症作用を持つ ので,統計からはどの目的に用いられていたかを 推察することが難しい.なおブコロームはワー ファリン作用増強の目的で用いられることが多い といわれる. 4.麻薬性鎮痛薬の使用状況(表4) シンポジウム終了後,杏林大学医学部附属病院 における麻薬の使用状況が報告されているのを3) 見出したので,講演内容とは若干異るが本学の使 用状況との比較検討を追加した.本学では内服薬 としてアヘンチンキ,アヘン散のほか,モルヒネ原末とコカイン原末からブロンプトン液
(Brompton mixture)を調整し,癌性癖痛に約300 件処方した.杏林大学ではブロンプトン液のほか, モルヒネ錠内服,モルヒネ坐剤を癌性癖痛に用い ているとのことであるが詳細は不明である.なお アヘンチンキ,アヘン散は排便抑制のために用い られることが多いと考えられ,どの程度鎮痛のた めに使われたか明らかでない.本学では注射用鎮 痛薬として最も多く用いられたのは,ブプレノル フィンであり,ついで,フェンタニール,ペンタ ゾシン,アヘンアルカロイド注射液,モルヒネ, ペチジンの順で用いられている.フェンタニール は主に麻酔用に,ニューロレプトアナルゲジアに 用いられ,本学では杏林大学より大分多く使用さ れていた.従って真に鎮痛の目的で用いられた注 射薬は,麻薬に指定されていない拮抗性鎮痛薬(ブ プレノフィン,ペンタゾシン)が最:も多く用いら れていることになり,これは麻薬に指定された鎮 痛薬に比し,使用が簡単なためと思われる.麻薬 に指定されている注射薬中,本学ではアヘンアル カロイド注射薬がモルヒネ注射薬より多く処方さ れていたが,杏林大学ではモルヒネ,ペチジンが 多く,アヘンアルカロイド注射薬の処方はこれよ 一1!73一96 り少なかった.病院により使用される鎮痛薬の種 類がかなり異なることがわかる.なお本学では新 たに開発された拮抗性鎮痛薬ブトルファノールは まだ使われていなかった.興味あることに,オピ オイド拮抗薬,ナロキソン,レバロルファンは全 く使われていなかった.なおコデイン,ジヒドロ コデインは主に鎮咳の目的で投与されたものと思 われる. 5.まとめ 本学における昭和62年1年聞の鎮痛薬の使用状 況を統計に基づいて報告し,麻薬については杏林 大学附属病院との比較を行なった.麻薬性鎮痛薬 は強い鎮痛効果があるにも拘らず,使用が不便で あるため,ある程度迄は,解熱鎮痛薬,拮抗性鎮 痛薬を代用する傾向にあると思われる. 終りに,統計に御協力いただいた本学薬剤部杉原正 泰部長ならびに薬剤部の諸先生方に深謝する. 文 献 1)柳田知司:オピオイド鎮痛薬の依存性.臨床麻酔 11 :629−635, 1987 2)野崎正勝:拮抗性鎮痛薬とオピオイド受容体.ペ インクリニック 8:673−677,1987 3)樺山照一:麻薬性鎮痛薬の医療での使用状況.薬 局 39:653−658, 1988 一1174一