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(最終講義)出生前に原因を求めて : 胎内感染から先天代謝異常まで

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最終講義

出生前に原因を求めて

〔書面講46第犠、翻勘

一胎内感染から先天代謝異常まで一

東京女子医科大学 小児科学  ヨコ    タ     カズ    コ

横  田  和 子

(受付 平成6年5月23日)  1.緒言  小児は成人と異なり,発達途上にあるため,新 生児期から思春期に至るまで,心身共に活発な変 化を遂げて成長する.このような小児期に発症す る疾患では,発育異常を認めるものが多く,他の 様々な異常と共に,その原因が出生前に遡って存 在することが多い.胎内感染症や先天代謝異常症 はその代表的な疾患である.これらの疾患につい ては難治性のものもあり,発症してしまってから の治療では効果は少なく,また無に等しいものも あるので,予防することこそ最も重要と考えられ る.私が東京女子医大小児科に在任した26年間に 経験したこれらの症例をもとに,症状,治療およ び予防対策などについて私見を述べる.  2.胎内感染症  主な病原体を表1に示した.このうち胎内感染 に対する予防法が確立しているものは梅毒スピロ ヘータ,風疹ウイルス,B型肝炎ウイルスである. トキソプラズマ(Tp),単純ヘルペスウイルス, C 型肝炎ウイルス,エイズウイルスやその他のウイ ルスについては予防法は確立されていない. 表1 胎内感染症の病原体 梅毒スピロヘータ     B型肝炎ウイルス トキソプラズマ      C型肝炎ウイルス 風疹ウイルス      エイズウイルス 単純ヘルペスウイルス   その他のウイルス  今回は,26年前に私が東京女子医大へ戻った当 時に研究を始めて,現在も症例に遭遇することが

ある先天性Tp症について述べる。1965年

HutchisonはTp原虫の生活環を報告した’〉(図 1).猫がTp感染マウスを経口的に摂取し,初め て感染すると,Tpは小腸内で有性生殖を行い感 染力の強いオーシストを排泄することを発見し た.Tpは他に栄養型とシストがあり,ヒトへの感 染経路は,シストを含むTp感染動物(ブタ,牛) の食肉を食べた時に感染するとされていたが,更 にこの猫の糞便中のオーシストが非常に危険であ ることが分かったのである.当時私は新生児・未 熟児室を担当していたが,Tp間接赤血球凝集反 応(THA)の抗体価の高い妊婦が多く,8,!92倍 以上何万倍という高値を示す例も認められた.第 二病院産婦人科から典型的な先天性Tp症が報告 された.一方高抗体価を示しても,その出生児の 殆んどは何も異常を認めなかった.そこで,この 高抗体価を示す血清についてTp抗体の所属する 免疫グロブリンについての研究崇行った2).その 結果,妊娠中,膀帯血,新生児の血清でTp特異 IgM抗体を認めたものは危険であり,それに対し

て,THAの抗体価が高くてもTp特異IgM抗体

が陰性であれば,過去の感染であり危険性は認め られなかった3).  先天性Tp症の症状は,神経型と全身型がある が,網脈絡膜炎,髄液異常,貧血などは両型にみ Kazuko YOKOTA〔Department of Padiatrics, Tokyo Women’s Medical College〕:Pursuit of diseases induced by prenatal origin;intrauterine infection and inbQrn errors of metabolism

(2)

疲 動 拷 中 間 寧 王  シスト

/ ,

ネコ:終宿主 b ■ ザ

認∼激

  胞子形成

㊥一趣一三

  オーシスト ・翫ケ影,塾.●影・

シスト_ノ

オーシスト 図1 トキソプラズマ原虫の生活環  成熟 オーシスト  (排泄3日め) 歴    日 92’@  5  6  7  8  9  唯0 11 12  1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12. 1  2@      93’       94層 満 月 齢 9    12入       18         24         30      院 治療 ピリメタミン iファンシダール) Aセチールスピラマイシン uPA 睡8mg/日→4mg/日PQ Q00mg/日PO       150mg/B     200mg/日 R00m   PO      350mg麟 400 発   熱 z   攣 + +一 一       一一一+      + +十+ 十 眼底所見 左 底後極部に白色浸出斑 病変は治癒傾向 他の感染症 肺炎 肺炎      ムンプス      2560× 倹エTHA 1280× @     640× 児 T−lgM(FA) 髄液 s−lgG(FA) s−lgM(FA) 琶x 母 血清↑HA s−lgM(FA) 1280× 図2 先天性トキソプラズマ症例2の臨床経過   女児,在胎37週,出生体重2,580g. られ,神経型では痙攣で発症するものが多い3)4). 次に自験例2例について述べる.  症例13):14歳女児.在胎36週,出生体重2,300 g.父は獣医,3歳上の兄は特に異常がない.生後 2カ月半に右半身間代性痙攣が出現した.髄液の 一939 細胞増多(単球優位),蛋白増量があり,肝機能障 害が認められた.CTにて脳内に散在性石灰化像 を認め,THA 1,024倍であった.直ちにピリメタ

ミンが投与された.THA抗体価は生後4カ月に

低下したが陰性にはならず,生後6カ月半頃から

(3)

       図3 先天性トキソプラズマ症例2のCT写真 大脳皮質および髄質に多発する散在性の石灰沈着が認められる.また側脳室壁にも石 灰沈着が存在し,特に左側脳室に沿って線状に強く認められる.軽度の脳萎縮がある. 再び上昇した.このような抗体価の推移は体内に Tp原虫が存在することを示す.4歳頃,鋏の使い 方や折紙が下手であることに気付き,また数学が 不得手ということで微細脳障害は認められる.し かし現在は痙攣もなく,普通学級の中学2年生と して通学しており,日常生活に支障はない.  症例2(図2):3歳女児.在胎37週,出生体重 2,580g.生後9カ月に熱性痙攣が起こるまでは何 も異常を認めなかった.11カ月に無熱性痙攣があ り頭部CTに散在性の石灰化像が認められた(図 3).1歳時東京女子医大小児科へ入院.児の THA 2,560倍,母のTHA 1,280倍であった.左 眼底に網脈絡膜炎を認めた.ピリメタミン内服投 与によりTHAは低下した.アセチルスピラマイ シン内服投与し,1歳11カ月までは痙攣はなかっ た.2歳1カ月時,ムンプスに罹患後,再びTHA 抗体価は上昇し,痙攣も時々起こっている.本例 の妊娠中の住居は一戸建てで,ペットの飼育はな かったが,庭つづきの隣家で猫を多数飼っており, 毎年多数の仔猫が生まれて頻繁に患児の家に侵入 し,糞の始末は母親が行っていた.これら仔猫の 中には,オーシストを排泄していたものがあった ということも考えられる.  先天性Tp症の症状出現時期は,上記2例でも 生後2カ月半,9カ月というように,生後すぐに 現われるとは限らない.先天性Tp症による網脈 絡膜炎などは生後数年を経て現われることがあ る.出生直後に異常がないということだけで,先 天性Tp症の発症はないとはいえない.  先天性Tp症は,痙攣や精神発達遅滞,発育不 良,網脈絡膜炎など,治療することの難かしい後 遺症を残す.これらの症状は起こってから治療す るのでは遅すぎる.症例2は最近の自験例であり, 現在も先天性Tp症の報告例はある‘}∼7).予防対策 はやはり行わなければならない.少なくとも猫の 飼育の多い環境の妊婦については,抗体の測定を 行い,抗体価の4倍以上の上昇の有無およびTp 特異IgM抗体の検索なども行うべきであろう.予 防対策として妊娠中のペット,特に猫の飼育は避 けること,生煮え肉は食べないことなど妊婦に注 意を与えることも大切である.  最近,C型肝炎ウイルスによる母子感染例を経 験した8).この例は現在3歳で特に症状はないが, 感染は持続しており軽度の肝機能障害が認められ 経過観察中である.胎内感染症は,いずれの病原 体に対しても予防することこそ最も重要なことで ある.  3.先天代謝異常症

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特定の酵素の活性が低下するために起こる遺伝性 の疾患である.治療が不可能な重度の心身障害を 伴うものもあるが,特異的な食餌療法やその他の. 治療法を早期に開始することによって正常の発育 が可能な例もあり,そのためには正確で迅速な診 断は欠かせない.  1)先天代謝異常症の臨床検査  先天代謝異常の疑いがある場合は,まず臨床検 査として,乳酸,ピルビン酸,血糖,ケトン体, アンモニア,血液ガス,尿酸を測定する.日常一 般検査として行われているGOT, GPT;LDH, Alp, CK, Aldも必ず測定する.  2)先天代謝異常症の診断に用いられる特殊検 査法  ①アミノ酸分析

 ②ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/

   MS)  ③酵素活性測定  ④遺伝子診断  3)GC/MSとアミノ酸分析法により化学診断 した症例の症状解析  1,218例の患者の尿についてGC/MSとアミノ 酸分析の両方を測定し,144例(12%)の先天代謝 異常症を診断した.また354例(29%)では,有機 酸,アミノ酸に何らかの異常を認めた.  測定初期の頃の250例について,化学診断の有 (陽性〉,無(陰性)による主訴別の発生率を表2 に示した.精神発達遅滞,1痙攣,ハイポトニア, 表2 ガスクロマトグラフィー質量分析を行った全例  および診断の有無例の各主訴における発生率 全例(%) in=250) 有診断例(%) @(n=31) 無診断例(%) @(n=219) 精神発達遅滞 61.2 48.4 63.0 痙攣 50.8 51.6 50.7 ハイポトニア 20.8 35.5** 18.3 嘔吐 9.2 19.3* 7.8 意識障害 7.6 25.8* 5.0 アシドーシス 6.0 0 6.8 発育障害 4.4 6.5 4.1 危険率 *5% **10%. 全 例(%) in=250) 高乳酸血症(%) @ (n=18) 精神発達遅滞 61.2 66.6 痙攣 50.8 61.0 ハイポトニア 20.8 50.0* 嘔吐 9.2 16.7 意識障害 7.6 33.3* アシドーシス 6.0 16.7 発育障害 4.4 11.1 *危険率5%. 表4 GC/MSとアミノ酸分析計を用いて化学診断し  た先天代謝異常症       自験例:144例 1.高乳酸血症  1)電子伝達系障害9)     チトクロムCオキシダーゼ欠損症     複合チトクロム欠損症     ミトコンドリア脳筋症(MELAS>  2)その他     ピルビン酸脱水素酵素複合体活性化障害lo)     グルコース・6・ホスファターゼ欠損症     Leigh脳症     Reye症侯群  3)高乳酸血症* II.有機酸血症   1)メチルマロン酸血症lD   2)N一アセチルアスパラギン酸血症12) 田.尿素回路異常症   Dオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症3)   2)高アルギニン血症 IV.カルニチンおよび脂肪酸代謝異常症   1)カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ    欠損症14)   2)筋カルニチン低下症   3)非ケトーシス型ジカルボン酸尿症   4)ケトーシス型ジカルボン酸尿症 V.芳香族アミノ酸代謬異常症   1)チロジン血症1型5} VI.アミノ酸代謝異常および吸収障害   1)グルタール酸尿症1型(ヘテロ)   2)Lowe症侯群   3)高βアラニン血症   4)高シスチン血症   5)高ヒスチジン血症   6)高プロリン血症   7)高カルノシン血症   8)高リジン尿症   9)高ロイシン・イソロイシン血症  10)高バリン血症 症例数 (79) 7 1 3 1 1 . 1 1 64 (2) 1 1 (3) 2 1 (49) 1 3 35 10 (1) 1 (10) 1 1 1 1 1 1 1 1 1 *高乳酸血症のみのもの.

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嘔吐,意識障害,アシドーシス,発育障害などは 全て先天代謝異常が疑われる症状である.有診断 例では,嘔吐と意識障害が5%の危険率で,ハイ ポトニアは10%の危険率で有意に多く認められ た.精神発達遅滞や痙攣では有意差は認められな かった.  高乳酸血症のみのものは,診断例31例中18例 (58%)に認められ,先天代謝異常症の中で最も多 いものである.全例と高乳酸血症例の各主訴別の 発生率を表3に示した.高乳酸血症例では,ハイ ポトニアと意識障害が5%の危険率で有意に多く 認められた.  4)GC/MSとアミノ酸分析法により診断され た自験例  先天代謝異常症の診断が確定した144例につい て系統別に分類し,診断名および例数を表4に示 した.  高乳酸血症は79例で最も多く認められた.この 中には高乳酸血症のみで未だ最終診断に至らない 64例が含まれる.チトクロムCオキシダーゼ欠損 症7例,複合チトクロム欠損症1例,MELAS 3 例と電子伝達系障害が多く診断された9).その他 の疾患4例と共に,ヒトの細胞の中の小器官であ るミトコンドリア内での重大な代謝障害であり, ミトコンドリア病といわれている.  非ケトーシス型ジカルボン酸尿症は脂肪酸の β一酸化系の障害を示すもので35例と多数認められ た.  これらの疾患の中から,2∼3の症例について 次に述べる.  (1)Mitochondrial myopathy, encephalopa− thy, 1actic acidosis and strokelike episodes (MELAS)

 MELASはミトコンドリア脳筋症の一臨床疾

患単位として1984年にPavlakisら16)が提唱した. ミトコンドリアは,我々が必要とするエネルギー の殆どを生産する化学工場である.その起源は進 化の初期の頃に我々の祖先型の大きな原核細胞の 中に入り込み,共生した小さな原核細胞と考えら れている.このためミトコンドリアはヒトの細胞

核のDNAとは別に,ミトコンドリア独自の

DNAを持っている.ミトコンドリアはヒトの細 胞内に共生した小器官でありながら,重要な働き をしているので,これが障害されるとヒトは生き ていられなくなる.  症例17)18):3歳4カ月,男児.微熱が1カ月続い た後,座位から立ち上ることができなくなった. この時に高乳酸血症があり,筋生検では多数の ragged red Hber(RRF),脂肪滴, CCO染色で活 性低下が認められた.oxographではconplex Iの 活性低下を認めたが,生化学的検索で電子伝達系 酵素活性は正常であった.4歳時,微熱と共に前      図4 MELAS症例の3回の発作時のMRI, T2強調像 それぞれ次の部位に高信号域を認める. 左二4歳7カ月,小脳虫部,中:5歳1カ月,右後頭葉,右15歳7カ月,左後頭葉.

(6)

傾眠状態の後,急に頭痛を訴え左半身の間代性痙 攣が起こった.以来感染を契機として同様の発作 を起こしている.図4は3回の発作時のMRI T、 強調像で,それぞれ異る領域に高信号域を認めた. 筋および血液のミトコンドリアDNA(mtDNA)

分析では,MELASに特有の塩基番号3243の

tRNA遺伝子のジヒドロウリジンループにA→

G塩基転位型突然変異が確認された.母親の筋で 同様の変異が確認されたが血液では認められな かった.  GC/MSによる有機酸分析では,ミトコンドリ, ア電子伝達系の異常並びにエネルギー産生異常に よるATPの低下を強く示唆する結果を得た.

 (2)オルニチントランスカルバミラーゼ

(OTC)欠損症  高アンモニア血症を来す尿素回路異常症のう 血中アンモニア 髄液アンモニア Base excess 血清GOT 血清GPT 血清乳酸 血清ピルビン酸 尿中ウラシル 尿中オロツト酸 尿中グルタミン 尿中グリシン 尿中アラニン 肝OTC活性** 肝CPS活性*** 397.2μg/d1(30∼130) 169.3μg/d1 −4.2

27KU

34KU 18.8μg/d1(4∼16) 1.23μg/dl(0.3∼0.4) 0.6mg/mg Cr 19%* 8.12μmole/mg Cr(×12) 18.1   〃   (×11) 3.13     〃     (×6) pH8.5 7.6μmol/hr/mg prot(21.1%) pH7.0  4.5     .・ 〃      (22.4%)    3.06      〃      (120%)  *:内標準物質(1mgクレアチ土ン相当量の尿に対し40   μg添加)に対する相対面積比, ** F肝OTC(ornithine transcarbamylase)活性の対照       ド   はpH8.5で36.1±6,4μmol/hr〆mg pro亡.(n=5),   pH7.0で20.1μmol/hr/mg prot.(n=1), *** F肝CPS(carbamyl phosphate synthetase I)の対照   は2.56±0.56μmol/hr/mg prot..(n=5). 1980 1983

Mar Dec Jul

Age 11m 1y8m 4y4m

Vomiヒing

Dyspnea

Consciousness р奄唐狽浮窒b≠獅モ

Ar∼αial Blood Gas

@pH

6,979 7,292 7,299 HCO3 高高盾戟^2 3.2 9.0 BE 高dg!2 一28.1 一11.1 一15.3 Biood Glucose @mg/d2 15 90 81 Pyruvate e0.3・O.9)mg/d2 1.68 2.48 1.17 Lactate i4−16}mg!dε 18.2 36.O 10.3 NH3 mg/d量 DQ◎rIQ DQ 89 DQ 74

 1984

  Mar     Jul   5y     5y4m   の     の の 7.370 一5.5 62 t53 13.9 74 1Q 112 の 7.340 13,1 一一P0 56 1.69 22,9 84 図5 メチルマロン酸血症児の急性意識障害で5回反復入院した当時の主症状と主要検査成績 一943一

(7)

100 ζ あ 缶 芝 0 5 10 15 20 1 7 9 2 5 : : ;

i        46

堰@     3

8 : : 10 :      1 : :      ヒ :       : トii       =餐: 50 100 150 200 250 TIME (min.) SCAN No.   図6 メチルマロン酸血症の尿中有機酸トータルイオン・クロマトグラム 1:皿ethylmalonate,2:urea,3:4−hydroxyphenylacetate,4:citrate,5:Inethyl− citrate, 6:3−hydroxyphenyl−3−hydroxypropionate, 7, 9:hipPurate, 8:3・ hydroxymyristrate(internal standard),10:heptadecanoate(internal standard) コむむ 乙 望 望 ζ0  50       100      150      200      250      300        M/Z  図7 尿中メチルマロン酸(M.W.262)のマススペクトル    図6のpeak no.1:トリメチルシリル誘導体 73 147 M−15      247218 133 ち,最も頻度が高い疾患である.  症例13):男児.離乳完了頃から月に1∼2回発 作的に過食し,ひきつづき1∼2度嘔吐し二二す ることがあった.偏食が強く肉類を嫌iつた.2歳 3カ月時,早朝から不機嫌に泣き続け暴れ出し, 夜も眠らず失調性歩行,自由症がみられた.表5 に検査所見を示す.高アンモニア血症があり,尿 のGC/MSで,本症に特有のウラシル,野口ット 酸が検出された.アミノ酸分析で,グルタミン, グリシン,アラニンが増加していた.肝のOTC活 性は正常の21.1%であった.尿素回路でOTCは ミトコンドリア内に存在し,その触媒作用によっ て,オルニチンがカルバミルリン酸と反応してシ トルリンになる.OTC欠損症の場合は,カルバミ ルリン酸が蓄積することになり,その代謝産物で あるオロット酸やウラシルの尿中排泄が増加し, カルバミルリン酸合成酵素(CPS)欠損症との鑑 別診断になる.  尿素回路の代謝異常症では,常に高アンモニア 血症を来すが,他の有機酸代謝異常症が根底に存 在して,二次的にCPSの低下を伴い高アンモニ ア血症をもたらす疾患がある.有機酸代謝異常症 として代表的なメチルマロン酸血症やプロピオン 酸血症では,時々このようなことが起こるので, これらの疾患を除外診断しておく必要がある.  (3)メチルマロン酸血症(MMA)  メチルマロニル℃oAム月一ゼ活性の低下によ るもので,血中および尿中にメチルマロン酸が著 明に増加する遺伝性疾患である.有機酸代謝異常 症のなかで最も高頻度に認められる疾患である.  症例lD19):男児.生後11カ月に嘔吐,多呼吸,嗜 眠傾向が出現,著明な代謝性アシドーシスと低血 糖,血中の乳酸,ピルビン酸の上昇を認めた.そ の後感冒,過食が引き金となり,同様の発作をく

り返した.図5は,5歳4カ月までの5回の発作

で入院した時の症状および検査所見である.5歳

(8)

ロマトグラムである.メチルマロン酸(peak no。 1),メチルクエン酸(peak no.5)が認められる. 図7にメチルマロン酸のマススペクトルを示し た.メチルマロン酸血症のような有機酸代謝異常

症は尿のGC/MSを用いて迅速かっ確実に化学

診断し得る代表的な先天代謝異常症である.本例 は定期的に尿のGC/MS分析を行っているが,蛋 白制限その他の治療により,体力はやや劣るもの の,知能は正常で,現在小学校5年生と.して,普 通学級に通っている.  5)先天代謝異常症の診断および治療における

GC/MSの役割

 先天代謝異常症では,常に症状が存在するとは 限らず,むしろ発作的,間歓的に症状を現わすこ とが多いので,無症状の時のGC/MS分析のみで は異常を発見できないことがある.発熱などの感 染を契機として異常の有機酸パターンが現われる ことが多いので,臨床経過に従ってGC/MS分析 を行うことが必要である.持続的に症状を認める 症例でも臨床経過を追って有機酸プロフィールを 得ることにより,代謝動態を知ることができる. また負荷試験前後の変化も代謝動態を知るために 有用である.近年DNA分析が盛んに行われるよ うになり,この方面の進歩は目覚しいものがある. GC/MS分析で得られる有機酸プロフィールは, かなりの部分で遺伝子の支配を受けていることは 確実である.  GC/MSは高度先進医療の一つに挙げられてお り,100種類以上もの先天代謝異常症の診断が可能 である.GC/MSで診断された先天代謝異常症の 中には治療可能な例もある.このような例では, できる限り早期に発見し治療を開始して後遺症を 残さないことが先決である.GC/MS分析による 先天代謝異常症の診断は,今後ますます重要にな ると考えられる.  4.結語  以上,胎内感染症並びに先天代謝異常症の経験 例をもとに,できうる限り後遺症を残さないよう に,早期診断によって発症を予防することの重要  これらの研究については,長年に亘り,学内および 学外の広い分野の多くの方々から多大の御協力を賜 りました.ここに深く感謝申し上げます.多数の症例 について迅速なGC/MS分析を行っていただいた金 沢医科大学総合医学研究所入興遺伝学研究部門生化 学の松本 勇教授,久原とみ子助教授並びに教室の 方々に深謝致します.       文  献  1)Hutchison WM:Experimental’transmission   of toxoplasma gondii. Nature 206:961,1965  2)横田和子:トキソプラズマIgG,19SlgM,7SIgM    の分離とトキソプラズマ症診断への応用.東女医   同誌 42二112−120,1972  3)横田和子:トキソプラズマ症.「新小児医学大系,   20B,小児感染症学」pp269−291,中山書店,東京    (1985)  4)li】ichenwald H:Astudy of congenital toxo−   plasmosis.∫πHuman Toxoplasmosis(Siim JC   ed)pp41−49, Munkesgaard, Copenhagen(1960)  5)中村健,亀井喜世子:Prospectiveに診断しえ    た先天性トキソプラズマ症の1例.感染症 17:   193−195, 1987  6)佐藤さゆり,杉田克生,新美仁男ほか:網脈絡膜   炎の再燃した先天性トキソプラズマ症の1症例.   新生児誌 26:1047−1049,1990  7)岡野創造,小松博史,長谷川功ほか:先天性トキ    ソプラズマ症の3例.妊婦の抗体検査の必要性に   ついての考察.新生児誌 28:879−885,1992  8)横田和子,長田広司:HCV母子感染の1例.第25   回日本小児感染症学会抄録集:54,1993  9)横田和子:有機酸代謝異常症におけるガスクロマ    トグラフィー質量分析(GC/MS)の応用.東女医   大回 62二1061−1070,1992  10)鈴木陽子,西村 敏,中島寛明ほか二GC/MSによ    るピルビン酸脱水素酵素複合体異常症の化学診断    とその問題点.日本医用マススペクトル学会講演   集  18:161−164, 1993  11)三石知左子,三石洋一,横田和子ほか:ビタミン   B、2依存性メチルマロン酸血症の!例.東女医大誌   57(臨増):704−709,1987  12)Hamaguchi H, Nihei K, Nakamoto N et a豆:   Acase of canavan disease:The丘rst bio−   c垣emically proven case in a Japanese girl.   Brain Dev 15:367−371,/993  13)Morita R, Izumi T, Yokota K et al:Supple−   mentary therapy of L−carnitine in a male   patient with partial ornithine transcar一 一945一

(9)

   bamylase deficiency a.nd changes ln serum    metabolites.玩Advances in. Chemical Dia・    gnosis and Treatment of Metabolic Disorders    (Matsumoto I ed)pp99−105, John wlley&sons,    Chichester(1993) 14)Yokota I(, Kuhara T, Matsum.oto Iρt. al:    Urinary organic acid pro丘le studies of a    neonate with carnitine palmitoyl transferase    deficiency.、肋A.dvances in Chemical Dia墓nosis    and Treatment of Metabolic Disorders(Mat−    sumoto I ed)pp79−86, John Wiley&Sons,    Chichester(1993) 15)大塚春美,早川武敏,横田和子ほか:難治性乳児    肝炎類似の症状を呈した遺伝性.高チロジン血症1    型の1例.東女医大誌57.:647−753,1987 16)Pav13kis SG, Phillips PC, Di.Mauro S et a1:    MitQchondrial myopat耳y,. en.cephalopathy,    lactic acidosis and strokeclike episodes:a    distinct climical syndrome. Ann Neuro116.:    481−488, 1984 17)横田和子,久原とみ子:ミトコンドリア病におけ    る糖質および脂肪酸代謝異常.日本医用マスス.ペ    クトル学会講演集 17:55−61,1992 18)横田和子,久原とみ.子,松本 勇ほか:Mitochon−    drial myopathy, encephalopathy,. lactic    addosis and 6trokelike episodes(MELAS)に    おける糖質および脂質代:謝異常.小児臨 47(増    干U):1709−1714, 1994 19)横田和子:ガスクロマトグラフィー質量分析    (GC/MS)による先天代謝異常スクリーニング.    東女医大誌 57(臨増):477−483,1987

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