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劇症肝炎に急性腎不全を併発したが治癒したてんかんの幼児例

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Academic year: 2021

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臨床報告

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劇症肝炎に急性腎不全を併発したが治癒したてんかんの幼児例

市立札幌病院 イシカワ 石川 小児科(主任医長:我妻義則) アカシクスノキ ユキヒロ

丹・楠 幸博

(受付 昭和62年2月16日)

AMoribund Case of Fulminant Hepatitis Complicated by Acute Renal Failure with Eventually Favorable Outcome

Akashi ISHIKAWA and Yukihiro KUSUNOKI

Department of Pediatrics(Director:Dr. Y. AGATSUMA), Sapporo Municipal Hospital, Sapporo

A丘ve year−old girl, who had been treated with anti・convulsants(VPA, CBZ, CZP and AZA),

suffered from fulminant hepatitis. The patient showed marked increases in GOT and LDH

(17710U and 24495U, respectively)the day after the onset of hepatitis. On the third morbid day, the patient took an acute course that manifested as disseminated intravascular coagulopathy (DIC), disturbed consciousness and acute renal failure. Early and aggressive treatment with

exchange transfusion and peritoneal dialysis resulted in saving the patient. Although EEG

findings were temporarily nat, marked paroxysln was again recognized six months later, indicat− ing that tonic convulsions and myoclonic seizures could not be suppressed. Lymphocyte blast transformation test failed to specify a causative drug.

はじめに 劇症肝炎は致死率が85.7%に及ぶため1),臨床 的に最も重要な疾患の一つである.消化管出血, 腎不全,播種性血管内凝固症候群(DIC)などを合 併した場合は予後は一層不良となる2). 最近,てんかんのために即けいれん剤を内服し ていた幼児が劇症肝炎を発症,第3二日には急性 腎不全を併発したが,交換輸1血や腹膜潅流など 種々の治療によって救命し得たので報告する. 症 例 昭和55年11月生の女児.妊娠,分娩に異常なく, 39週,2,650gで出生した.生後2ヵ月で,強直け いれんが出現したが,脳波とCTに異常なく, phenobarbital 20ng/mlにて発作は抑制された. その後の精神運動発達に遅れを認め,1歳7ヵ月 時,寝返りやあやし笑いまでの発達段階で点頭て んかんを発症した.以後,clonazepam (CZP),

Vit. B6,ACTH, prednisolone,γ一globulin大量療

法,sodi㎜valproate(VPA), ethosuximide, carbamazepine (CBZ), primidone, acet− azolamide(AZA),漢方薬などを数ヵ所の施設や 病院で様々に投与されたが,強直けいれんと精神 運動発作は抑制されなかった. 昭和61年12月1日(5歳),発熱とともにけいれ ん重積状態となり当科入院,重積状態はdiaze− pamによって頓挫した.入院時検査所見は白血球 数5,400/mm3,赤血球数370万/mm3, Hb 11.Og/ dl, Ht 33%,赤沈5/15, CRP(十), T. Bili,0.3 mg/dl, GOT 794U, GPT 322U, GOT/GPT 2.47,

LDH 1,650U,アミラーゼ112SU/dl, CPK 88U,

T.P.5.6g/dl, Na 142mEq〃, K 3.8mEq/1, Cl 117 mEq〃, Ca 7.9mg/dl, BUN 24mg/dl, Cr 1.1mg/ dl,血糖254mg/dl,アンモニア72μM,動脈血pH

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HCO310.4mmo1/1, BE−10.3mmol/1(酸素投 与後),髄液細胞数4/3,蛋白26mg/dlであった. CTで脳浮腫なし(写真1).入院時の内服薬は VPA 400mg, CZP 1.8mg, AZA 700mg, CBZ 500 mgで,血中濃度はVPA 20.9μg/ml, CBZ 3.3 μg/mlであった.なお体重は15kgであった. di・ azepam静注後10時間の睡眠脳波では左または右 の中心部,後頭部,側頭部に多焦点性の棘波,棘

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翌日,GOT 17,710U, GPT 6,505U, LDH 24,495Uと著しく悪化し, CPK 519U,アンモニア 112μMと上昇したが,この時点ではまだ臨床的に 意識障害はなく,脳波も前日と同様所見であり, けいれんの悪化もなかった.肝は3横指に腫大し 劇症肝炎と診断した.蛋白尿と顕微鏡的血尿を認 めていた.第3病日交換輸血を施行したが,その 直前から意識障害,出血傾向,下血,無尿が出現. 血小板53,000/mm3,プロトロンビン時間10%,部 分トロンボプラスチン時間65%,血中フィブリ lF LC

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しd「 測 写真1 頭部CT像.左:第1病日,脳浮腫はない. 右:9ヵ月後,萎縮は進行していない.

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伯・・2、M} か一・遭! \ 1昌 ●1 外puΨ \ 1目 1 !’ぜ \ くi=====ニ=腹膜 灌 流======→ 第1病日 5 10 15 20 図2 急性期の臨床経過と検査値の推移 25

(3)

ノーゲン!35mg/dl, FDP 40μg/ml以上となり, DICも併発した.交換輸血終了時は昏睡状態と なったが,GOT, GPT, LDHは各2,940U,820U, 3,640Uに下降した.しかし,その後10∼20mg/dl の低血糖と著しい高アンモニア血症を来たし,け いれんも頻回に出現した.第4病日には腹膜潅流 を開始した(図2). 第5病日,脳波は平坦化し,間代性けいれんに 一致する発作波すらみられなかった(図3).第6 病日にはGOT, GPT, LDH,アンモニアは正常化 し始めた.しかし,BUN, Cr,ビリルビンは上昇 を続けた.腹膜潅流3日目(第6聖日)に腹腔内 に出血したが,止血剤や輸血で幸い止血した. BUN, Cr,ビリルビン値のピークは各々,第12病 日の147mg/dl,第7病日の6.7mg/dl,第11即日の 9.3mg/dlであった.肝および腎不全, DICに対し ては,その他にグルカゴン・インシュリン療法, ヘパリン療法,FOY,ステロイド,新鮮凍結血漿, アミノレパソ,アミュー,シメチジン,ラクチュ ロース,カナマイシン,ドーパミン,利尿剤,降 圧剤,ビタミン剤などを用いた.第10週日には意 識と精神発達レベルは発症前のレベルに戻った. アンモニア,GOTとGPT,ビリルビン, BUN, Crが正常化したのは,各々第14,25,35,23,16 病日であった.入院時の肝炎抗体価は,HA抗体 (+),HA IgM抗体(一), HBs抗原(一), HBs 抗体(+),HBc抗体(+)(低力価), HBe抗原 (±),HBe抗体(一)であり,従って,劇症肝炎 の原因は抗けいれん剤が強く疑われた. 第18病日,強直けいれんとミオク・一ヌスが再 発した.第24病日,覚醒時脳波では2∼3%の低 電位年波が全般的に少量見られるようになり,脳 機能回復の徴候と思われた.第25病癖のCTでは

萎縮はなかった.第52病日覚醒時後頭部に6

∼7%のQ波が中等量みられるようになったが, 左頭頂部と前頭部に周波が散見され,睡眠時に頻 回にみられた(図4).入院時,それまでのVPA, CBZ, CZP, AZAを中止し, phenytoinの静注と経 口投与をしていたが,けいれん再発後徐々に増量 したところ,第66病日GOT 78U, GPT 85Uと軽 度異常を呈したため直ちに中止し,nitrazepamに しF∼ ’ RF一一一一∼一一一一一 一一一 」

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左ヒ肢σ舳⊆c,..凶F、、。. ___」50μV l SEC 図3 第5油日の平坦脳波.左上肢のけいれんに一致 する発作波はない. LF−LC一へへ/ゾvへ》(\/へ/ヘノへr一♂ノい

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61μ♂ 蝋属 ___」50μV l SEC 図4 第52病日覚醒時期波.後頭部に6∼7%のQ波 を認め,左前頭部および頭頂部に棘波をみる. 変更した.第80病日睡眠脳波で瘤波がみられるよ うに回復したが,略歴は同様に左前頭部中心部に 頻回にみられた.その後phenobarbitalあるいは mephobarbitalも併用したが,発作は抑制されず, 6ヵ月後の睡眠脳波では不規則な全般性棘徐波複 合の一波が頻回にみられる著しい異常となった (図5). 肝炎回復後に施行したリンパ球幼弱化試験によ る薬剤過敏性検査では,VPA, CBZ, CZP, AZAの いずれも陰性のため起因薬剤は特定できなかっ た. 考 察 本症例は発熱とけいれん重積状態で発症した翌 日には,GOT 17,710U, GPT 6,505U, LDH

24,495Uと急激な肝障害を呈し,第3病日には

DIC,腎不全,意識障害を合併するという極めて急 激かつ重篤な経過をとった.小板ら3)によれぽ,発

(4)

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l SEC 図5 6ヵ月後睡眠脳波.不規則性全般性二二波複合を頻回に認める. 症後10日以内に意識障害が出現した電撃型劇症肝 炎の腎不全合併率は,死亡例で67%,救命例で20% であったという.しかも死亡例では意識障害の出 現前に腎不全が出現した例が多く,平均3日で死 亡したという.劇症肝炎に合併する急性腎不全発 現の機序は,肝炎によるendotoxinが腎動脈を持 続的に収縮させ,それによって糸球体や尿細管周 囲毛細血管内にフィブリソが沈着し,その結果尿 細管壊死が生ずると考えられている3).本例では DICも合併していたため,糸球体毛細管や小血管 も同時に傷害されていたことが,腎不全の病因と して考えられよう. 最激症例であったにもかかわらず治癒せしめ得 た要因としては,第3病日の交換輸血,第4好日 の腹膜潅流開始という早;期の積極的治療が奏効し たと言うことができよう.加えて原因がウイルス ではなく,おそらく薬剤であったと思われること も関与していたのであろう.佐々木ら4)によれぽ 劇症肝炎の生存率はウイルス性で16%,薬剤性で は40%であったという. 次に旧例における脳波所見について考察する. 第1および2病日の脳波は,GOT, GPT, CD}1,ア ンモニアの急激な上昇にもかかわらず,背景波を 有して多焦点性棘波をみる睡眠脳波であり,意識 障害のそれではなかった.第5病日の平坦脳波か らすれぽ,本例では肝不全が先行し,その後に脳 症をおこしたと考えられよう.平坦脳波の原因は, 肝細胞壊死にともなうアミノ酸代謝異常,その結 果としての神経伝達物質の異常‘),高アンモニア 血症,低血糖,尿毒症などが考えられよう. 松本6)は劇症肝炎を含む急性肝炎29例の脳波の 徐塞翁の程度と血液検査所見との関係を検討し た,それによると,餌壷の程度と相関したのはプ

ロトロンビン時間とアンモニア値で,GOTと

LDHは無関係であったという.劇症肝炎に際し て脳波が平坦化したという文献上の2例では,ア ンモニアが各々314μg/dl,355μg/dlと高値で,プ ロトロンビン時間も4%と12%で著しく延長して いた.1例では完治したが,1例では高度の精神 運動障害を残した7)8).本例においてもプロトロン ビン時間とアンモニアは著しい異常を呈してい た. 劇症肝炎では低血糖を来たしやすいことは周知 であるが,高橋ら9)によれぽ,意識障害発現時に60 mg/dl以下の低血糖になった例は14%であった という.本例では急激な肝不全に伴って低血糖の 程度は強かった.Auerら10)はラットにインシュリ ンを投与して低血糖を誘発し,脳波を平坦化させ, 平坦脳波と大脳神経細胞傷害の関係について検討 した.それによると,10∼60分の平坦脳波を惹起

(5)

させた実験では,神経細胞傷害の強さは脳波が平 坦化していた時間と相関し,血糖値とは無関係で あった.また,神経細胞壊死は平坦脳波が30分以 上続くと顕著とな:り,平坦脳波が40分以内であれ ぽ多くのラットで脳波の回復が見られたという. 急性尿毒症に伴う神経合併症に関するLocke ら11)の報告では,全例に意識障害が出現した.けい れんをおこしたのは38%であったが,脳波異常と は相関しなかったという.Cooperら12)によれば, 経時的に脳波を記録した急性腎不全成人例16例で は,腎不全の診断時にすでに41%の例で5%以下 の徐波化がみられた一方,回復も早く利尿期には ほぼ正常に改善していたという.Hughesら13)は 長期透析患者の脳波の沖波化と血液検査結果との 相関を検討したが,それによると最も相関したの はBUNであったという. 以上述べて来たように,肝不全,低血糖,腎不 全のいつれもが何らかの脳波障害を来たし得るこ とからすれぽ,本例の如き最激症例では脳波の平 坦化と脚力,月後の増悪は避けられなかったと思わ れる.加えて回復後の嫁けいれん剤投与にあたっ ては,再度の肝障害の恐れのため存分に投薬でき『 ないでいることも,脳波の悪化の要塞であると考 えられよう. 結 語 剥けいれん剤(VPA, CBZ, CZP, AZA)内服中 に劇症肝炎を発症し,DIC,急性腎不全を合併した が治癒せしめ得たてんかんの1小児例を報告し た.肝炎発症翌日にはGOT 17,710U, LDH 24,495Uと著しく充訂し,第3病日にはDIC,意 識障害,腎不全を併発するなど急激な経過をとっ たが,第3病日には交換輸血,ヘパリン療法,第 4病日には腹膜潅流を施行するなど早期の積極的 治療によって救命し得た.脳波は一時平坦化した が,6ヵ月後には著しい突発波を再び認め,強直 けいれん,ミオクロ四一発作は抑制し得ていない. リンパ球幼弱化試験をしたが,起因薬剤を特定す ることはできなかった. 謝辞:御校閲頂いた北大小児科松本脩三教授に深 謝する. 筆頭著者の石川は昭和51,52年度の神経助手として 「福山小児神経学」を学ばせて頂いた.以来10年間に互 る福山教授の御指導を深謝しつつ,本論文を福山幸夫 教授開講20周年記念論文として捧げる, 文 献 1)白木和夫,谷本 要,山田一仁ほか:劇症肝炎一覧 国集計小児105例の分析一.小児科 26:1−7,1985 2)高橋善弥太,清水 勝,江崎 治ほか:劇症肝炎 の予後一全国集計一.最新医学 34:2285−2292, 1979 3)小坂義種,川原田力也,高瀬幸次郎ほか:劇症肝 炎に合併した腎障害一39症例についての臨床病理 学的検討一.日消会誌 78:864−873,1981 4)佐々木博,樋口清博:劇症肝炎の診断と治療.日 医心 3240:3−9,1981 5)佐藤俊一,鈴木一幸:肝性脳症の病態生理.医学 のあゆみ 136:1152−1157,1986 6)松本久史:脳波自動解析からみた肝性脳症に関与 する諸因子の臨床的検討.日消会誌 78:2357 −2366, 1981

7)Tanaka.S, Yano Y, Sakamoto H et al: Recovery after prolonged fiat EEG in hepatic coma. Lancet 1:1379,1980

8)浜野建三,新 健治,岩崎信明ほか:小児劇症肝 炎の脳波学的検討.日児誌 90:860−869,1986 9)高橋善弥太,富田栄一,清水 勝ほか:劇症肝炎 の臨床像。医学のあゆみ 118:600−607,1981 10)Auer RN, Olsson Y, Siesj6 BK: Hypog・

lycemic brain injury in the rat. Diabetes 33:

1090−1098, 1984

11)Lacke S, Merrill JP, Tyler HR: Neurologic complications of acute uremia. Arch Intern Med 108:519−530,1961

12)Cooper JD, Lazarowitz VC, Arieff AI: Neur− odiagnostic abnormalities in patients with acute renal failure. J CIin Invest 61:1448 −1455, 1978

13)Hughes J: Correlations between EEG and chemical changes in uremia. EEG CIin Neuro・ physiol 48:583−594, 1980

参照

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