Title
統合創薬ソフトウェアNAGARAの開発及び論理的創薬によ
る新規抗プリオン薬の創出( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
馬, 彪
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医科学) 連創博甲第31号
Issue Date
2016-03-25
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/54542
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。論文内容の要旨 【背景】 プリオン病やアルツハイマー病はコンフォメーション病として知られており、主に疾患関連タンパク 質のミスフォールディングによって引き起こされる。プリオン病では、プリオンタンパク質のαへリッ クスを多く含む正常型構造からβシートを多く含む異常型構造への立体構造変化により引き起こされる ことが知られている。コンフォメーションの不安定性により形成されたオリゴマー構造はプリオン病、 アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の主な原因と考えられて いる。 疾患関連タンパク質に特異的に結合し、天然構造を安定化させ、異常な凝集体形成を抑制する化合物 としてメディカルシャペロン(MCs)が知られている。MCs の論理的設計は緊急の課題であるが、容易で はなく、また複雑な計算を要する。これまで、ドッキングシミュレーション(DS)、分子動力学シミュレ ーション(MD)や量子化学計算(QC)について、多くのプログラムが開発されてきた。しかし、これらの プログラムはコマンドラインでコマンドを入力して計算を行うため、操作方法は難しく、研究者の負担 がかかる。これらのプログラムの便利性を向上するために、グラフィカルユーザーインタフェース(GUI) 付きの統合創薬支援ソフトウェアの開発は重要である。 【目的】 本研究では、我々は DS、MD、QC 三つの計算を簡単に実施出来る創薬支援ソフトウェアの開発に着目し た。開発したソフトウェアは「NAGARA」と名付けた。NAGARA を使うことにより、パソコン端末でインプ ットファイルを準備し、センターの高性能計算機で大規模な計算を行う事が可能である。 さらに、新規抗プリオン薬の探索を通じて NAGARA の性能を実証した。 氏 名 ( 本 籍 ) 馬 彪(中国) 学 位 の 種 類 博 士 (医科学) 学 位 授 与 番 号 甲第 31 号 学 位 授 与 日 付 平成 28 年 3 月 25 日 専 攻 医療情報学専攻 学 位 論 文 題 目 統合創薬ソフトウェアNAGARA の開発及び論理的創薬による新規抗プリオ ン薬の創出
(Logical design of anti-prion agents using NAGARA) 学位論文審査委員 (主査)教 授 武 藤 吉 徳
(副査)教 授 赤 尾 幸 博
【結果と考察】
1. 統合創薬ソフトウェアの開発
DS(AutoDock Vina ベースプログラム)、MD(Amber ベースプログラム)、QC(PAICS ベースプログラム)を簡 単に実施できる GUI 付きの創薬支援ソフトウェア NAGARA を開発した(新規特許出願も申請済みである)。 抗プリオン効果がある低分子化合物の探索及び最適化を行った。化合物のスクリーニング、結合自由エ ネルギーの計算、結合構造予測、タンパク質と候補化合物の相互作用の計算が統一的に実施できるよう になった。 NAGARA は計算機の専門家ではなく一般の研究者でも簡単に操作出来る特徴を持っている。研究者は、自 分のパソコンにインストールして、蛋白質やリガンドの立体構造と各シミュレーションプログラム用の インプットファイルを準備し、遠方にある高性能計算機に転送して計算を始める。 2. in silico スクリーニング 約 35 万個の化合物と約 7000 個の承認済薬のデータベースを使って、PrP との結合エネルギーをドッキン グシミュレーションで計算した。結合エネルギーに基づいて上位 100 個の化合物と上位 20 個の承認済薬 を選択した。 3. in vitro, ex vivo スクリーニング 2でスクリーニングした化合物と承認済薬を購入し、プリオン感染細胞 GT-FK に投与したところ、化合 物2種(B05、G03)、承認済薬1種(Tegobuvir)の抗プリオン効果が確認された。最も効果がある Tegobuvir の IC50 は 1.7 M だった。 4. 表面プラズモン共鳴(SPR)測定 SPR 測定を行って、プリオン蛋白質と化合物との結合性を調べた。リガンドとレセプターの結合比を 1: 1 と仮定して解離定数(Kd)を算出した結果、B05 は Kd=49 M、G03 は KD=24 M、Tegobuvir は Kd=19 M となった。 5. 核磁気共鳴(NMR)測定 NMR 測定でプリオン蛋白質だけの状態と Tegobuvir と結合する時のスペクトルを得た。H187, V189, T192, K194 と G195 の化学シフトが現れた。リガンドはこれらの残基の周辺に結合していることが確認出来た。 この場所は以前の研究により、プリオン蛋白質立体構造を安定化するため、重要なホットスポットであ る。 6. 蛋白質と化合物の結合自由エネルギーの計算 蛋白質と化合物の結合の強さを示す結合自由エネルギーを MD シミュレーションで計算した。その結果か ら、結合の強さと抗プリオン効果が正相関関係を示した。従って、MD シミュレーションは、抗プリオン メカニズムを理解するための手がかりを提供することが可能である。 7. 蛋白質と化合物の相互作用の計算 最も効果がある化合物 Tegobuvir を二つのフラグメントに分割し、FMO 法を用いた量子化学計算によって、 各フラグメントとプリオン蛋白質の間の相互作用を計算した。計算結果により、化合物のフラグメント A がプリオン蛋白質との相互作用が強いのが分かった。また、化合物を最適化する時に参考にすることが できる。
論文審査結果の要旨 本論文は、統合創薬ソフトウェア NAGARA の開発に加え、NAGARA を用いた論理的創薬によって新規 抗プリオン候補化合物を発見した成果をまとめたものである。 プリオン病やアルツハイマー病はコンフォメーション病として知られており、主に疾患関連タンパ ク質のミスフォールディングによって引き起こされる。プリオン病では、プリオンタンパク質のαへ リックスを多く含む正常型構造からβシートを多く含む異常型構造への転換が起きており、この立体 構造変化が疾病の引き金となる。こうしたコンフォメーションの不安定性により形成されたオリゴマ ー構造は、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾 患の主な原因と考えられている。 疾患関連タンパク質に特異的に結合し、天然構造を安定化させることにより、異常な凝集体形成を 抑制する化合物としてメディカルシャペロン(MCs)が知られている。MCs の論理的設計は喫緊の課 題であるが、容易ではなく、また複雑な計算を必要とする。これまで、論理的創薬を可能にするドッ キングシミュレーション(DS)、分子動力学シミュレーション(MD)、量子化学計算(QC)について多 くのプログラムが開発されてきた。しかし、これらのプログラムはコマンドラインでコマンドを入力 して計算を行うため、操作方法は煩雑であり、研究者に大きな負担となる。したがって、これらのプ ログラムの利便性を向上するためには、グラフィカルユーザーインタフェース(GUI)付きの統合創 薬支援ソフトウェアの開発が非常に重要である。 本研究で申請者は、DS、MD、QC の三つの計算を GUI のもとで容易に実施出来る創薬支援ソフトウ ェアの開発に着目した。開発したソフトウェアは「NAGARA」と名付けられた。NAGARA を使うことに より、パソコン端末でインプットファイルを準備し、センターの高性能並列計算機で大規模な計算を 行うことが可能である。さらに、申請者は新規抗プリオン薬の探索を通じて、NAGARA の性能を検証 した。NAGARA による計算過程で見いだされたテゴブビル(TGV)を含むいくつかの新規抗プリオン化 合物(MCs)は、実際に強力な抗プリオン活性を示すことから、プログラムの性能の高さが実証され たと考えられる。一方、TGV は HCV 感染に対する候補薬として既に承認されているため、臨床試験が 比較的容易であり、今後の実用化が充分に期待できる。 一般に、MCs を論理的創薬法で設計する際には、4 つのステップが必要である。すなわち、(1)標 的タンパク質の立体構造を決定し、(2)MCs の化学構造を in silicoで設計し、さらに、(3)MCs を 有機合成し、最終的には(4)バイオアッセイでその効果をテストする。NAGARA はステップ(2)に とって、必須となるソフトウェアである。今回の研究においては、NAGARA のヒット率は、以前に報 告された研究と同様に数パーセント程度であった。しかし、NAGARA を使うことにより、MD による相 互作用解析が可能となり、MC の作用メカニズムを確認することで、リード最適化プロセスを短縮す ることが出来た。その結果として、ミスフォールディングのプロセスを効率良く抑制する化学構造の 設計が可能になった。また、QC 計算により、最適化のための有益なヒントが得られた。これらは、 NAGARA を利用することによる大きなメリットであると考えられる。 以上に詳述したように、本論文では、創薬支援ソフトウェア NAGARA を開発し、それを利用して新 規抗プリオン候補化合物を見出すことによって、論理的創薬法によるケミカルシャペロンなどの医薬 品開発時間を著しく短縮できることを明らかにしている。こうした研究成果は、本論文の学術的価値 が著しく高いことを示している。したがって、審査の結果、本論文が博士論文に充分に値するもので
あると判定した。 最終試験結果の要旨 この論文の主要部分は、審査付き論文として公表済みの一編の論文に基づくものである。この論文 が学位論文として完成された内容を有することを確認した。 また、公聴会において、学位論文の内容に関する事項、すなわち、創薬支援ソフトウェアNAGARA の特徴、論理的創薬手法の特徴、プリオンタンパク質の立体構造の特徴、化合物の最適化、さらに今 後の展開や本研究の将来性などに関して諮問を行った。申請者からは十分な内容の回答が得られたの で、最終試験に合格したと判定した。 論文リスト
1. Biao Ma, Keiichi Yamaguchi, Mayuko Fukuoka, and Kazuo Kuwata. Logical design of anti-prion agents using NAGARA. Biochem. Biophys. Res. Commun. 469:930–935, 2016.【Impact Factor: 2.297】