ネットワーク利用で快適生活
無線 HOME LAN でホームラン?
滋賀大学教育学部 穂積俊輔 1. いつでもどこでもインターネット時代 最近、町中でも「インターネットに接続できま す」と表示されたお店が増えてきている。私自身 はまだそのようなところでインターネットに接続し たことはないが、「いつでもどこでもインターネッ ト」の時代が到来したのだなと、妙に感慨に耽っ てしまったのである。このようなことができるのも、 だれもが当たり前のようにノートパソコンを持つよ うになったからであろう。その重量もかつてのよう に 3kg を超えるようなものではなく、1kg 前後にな ってきて本当に「ノート」になったことが大きい。ほ んの数年前は、外国出張といえば、多くのノート や論文が入ってただでさえ重い荷物の上に大き なノートパソコンを詰めていったので、歩くと次第 にデイパックのストラップが肩に食い込んで来て、 やたら肩がこったものである。 ただし、ノートパソコンを持っているだけでは、 「インターネットに接続できます」のお店に入って も実は接続できない。これは、ルータからの信号 を無線の電波として飛ばしているので、その電波 を受信する装置が必要になるからである。しかし、 最近のほとんどのノートパソコンはその受信装置 があらかじめ内蔵されており、ソフトさえあれば、 いとも簡単にインターネットに接続できるのである。 もっとも、だれもが簡単に接続できなければイン ターネット接続が宣伝文句になるわけもないので、 簡単に接続できて当然といえば当然である。 さて、ひょんなことからこのような、いわゆる無 線 LAN を家庭で使ってみようと思ったので、その 顛末を記したい。それも、「インターネットに接 続」というよりも、家庭内オフィスの構築の感が強 い。本当は、家に帰ればくつろぎたいところだが、 このご時世、大学の先生たるもの、そんなことは 言っていられない。電子メールが普及したおか げで、四六時中メールがやってくる。外国の人た ちとの共同研究では、日本が夜だからお休みと いうわけにはいかない。データやプログラムの送 受信は一刻も早くしたいと思ってしまう。こんな気 になるのがよくないのだろうが、研究はある意味 競争なので仕方がない。便利になってゆとりがな くなるのは本末転倒のような気もするが、時代の なせる技だと納得するしかない。いやな時代だと は思うが。 2. HOME LAN は無線で 一昔前は、家庭でインターネットに接続し ようと思うと、モデムを使って電話線をパソ コンにつなぐ必要があった。ところが、電話 機は家族全員が使うところに設置されている ので、電話のコンセントも電話機の近くにし かなかった。これでは不便なので、わが家で は電話のコンセントを書斎にも引いてモデム 経由で大学のコンピュータにダイアルアップ で接続していたのである。これはこれで便利 であったわけだが、時とともにその遅さが何 とも我慢ならなくなってきた。メールを書く にも漢字変換が遅かったし、インターネット などはなかなかつながらないので、次のペー ジを読むのをあきらめることも多かった。 そんなところに出現したのが光ケーブルや ADSL である。私の住む地域も光ケーブルの幹 線が敷設されていて、ケーブルテレビ会社と 契約すれば、ケーブルテレビとともにインタ ーネットもできるとのことであった。しかし、 わが家はほとんどテレビを見ない、というよ り最近では見る時間がないのでケーブルテレ ビは宝の持ち腐れになる上、光ケーブルを引 くためには初期投資がけっこうかかり、つな ぎ放題といえども一月の使用料はそれほど安 くない。一方、ADSL は速さにもよるが、IP 電話も使えるし、光ケーブルと同じくつなぎ 放題でそこそこ安い。そこで、まず、そこか しこで見かける某社の ADSL を契約した。とい っても、実際には無料期間中のみ使っただけ であった。これで ADSL の速さを体感すること ができて、これなら家にいても大学と同じ程 度に仕事ができると確信したのである。おま けに、お試し期間中は IP 電話も世界中どこに かけても無料だったので、ドイツの友人にも 長電話ができて大いに利用のし甲斐があった。 実際に ADSL を契約する際には、いくつかの 会社の料金体系を見て、わが家での使用頻度と 併せて最も安いところを決定した。幸い、NTT の 基地局が近くにあって通信事情はいいので、そ んなに高速の ADSL でなくとも普段の使用には 十分耐えている。したがって、快適なネットワーク 生活が始まるはずであった。 しかし、ダイアルアップのときは書斎から 31電話線が引けたのであるが、ADSL は電話線と ルータを接続しなければならない。そのルー タとパソコンを LAN ケーブルでつなぐのであ るから、書斎の電話線は役に立たないのであ る。つまり、LAN ケーブルを使う限り、いち いちパソコンをルータのそばに持ってこなけ ればいけないのである。これは致命的である。 家ではデスクトップを使っているので、これ では仕事にならない。私の妻は LAN カード内 臓ノートパソコンを持っているので、持ち運 びができるが、デスクトップを持ち運ぶのは 無理がある。さらに、ノートパソコンを持っ ている妻ですら、自分の部屋で利用したいの でこのままでは不便だと言い出した。 そこでやっと本題である。これは無線 LAN にするしかない。結局、ADSL にしたために無 線 LAN が必要になったわけである。ただ、無 線 LAN の利点は離れた場所でネットワークに 接続できるだけではない。無線にしたために、 原理的に何台でも同時にインターネットをは じめとするネットワークに接続できるのであ る。無線の届く範囲は 100 メートルから 150 メートル程度あるので、わが家の近くに来れ ばタダで「インターネットに接続できます」 ということになる。実際には、無線の送受信 にパスワードに相当するキーを指定している ので、それを知らないと接続できない。世の 中そう甘くないのである。 3. 無線 LAN の構成機器 無線 LAN を構築するのはそれほどむずかしい ことではない。単に、ADSL のモデムと接続して 電波を発信する装置と、発信された電波を受信 するカードがあればいいだけである。わが家のモ デムにはルータがついているので、送信側は単 純に無線 LAN Ethernet メディアコンバータがあ ればよい。受信側は妻のノートパソコンには無線 LAN カードがついているし、OS は Windows なの でまずどこのメーカの製品でもつながるはずだ。 問題は私のデスクトップである。私は Windows が 嫌いである。だから基本的に Linux しか使わない。 もちろん、授業で教える必要があるので Windows も搭載しているが、あくまで主役は Linux である。 送信側はある規格で送信するだけだから、気を つけることはルータのあるなしだけである。一方、 受信側は無線 LAN カードが Linux に対応してい るかどうかが重要になる。そこで、インターネット で検索して Linux で使える無線 LAN カードの情 報を探った。 結局、わが家では次のような機器を購入した。 (1) 無線 LAN Ethernet メディアコンバータ 契約した ADSL が 11Mbps なので、このスピー ドに対応したコンバータを購入することにし、 BUFFALO WLA2-S11/GP に決めた。これには PC Card ス ロ ッ ト 用 無 線 LAN カ ー ド WLI-PCM-L11GP がついている。 (2) PCI バス変換アダプタ これは、(1)の PC Card をデスクトップパソ コンの PCI バスに取り付けられるようにする ための専用オプションボードであり、BUFFALO WLI-PCI-OP にした。 これらの機器の取り付けはいたって簡単で、 マニュアルに書いてある通りにするだけであ る。 4. 無線 LAN の設定
実際の無線 LAN の設定は、OS が Windows であればマニュアル通りにすれば間違いなく接 続 で き る 。 購 入 し た 無 線 LAN 用 製 品 に は Windows 用のソフトが入っているので、これを使 って、少なくとも無線 LAN Ethernet メディアコン バータのネットワーク名、チャンネル、パスワード に相当する鍵(キー)を設定する必要がある。 ここから先は Linux の問題である。まず、インタ ーネットで接続に必要なソフトを取り込んで指示 通りに設定してみるが、全くつながる様子がない。 次から次へとホームページを読んでみたが、ど の方法もうまくいかない。Linux のディストリビュー ションを Red Hat 9 にしたのが悪かったのかとか、 購入した製品がやはり Linux 対応でなかったの だろうかとか、次第に後悔する気持ちがふつふ つと湧いてくる。しかし、投資したお金のことを考 えると、あきらめるわけにはいかない。だいたい、 Linux を起動すると、PC カードを認識して音が鳴 るので、後はカードとメディアコンバータとのネゴ シエーションだけのはずである。それで気を取り 直して、なんとなく Linux のコマンドメニューをの ぞいていると、ネットワークの設定項目があった。 図 1. ネットワーク設定のウィンドウ 32
すなわち、メインメニューからシステム設定を選 択し、さらに、ネットワークを選択すると、図 1 のウ ィンドウが現れる。 図 1 で「起動中」とハイライトされている部分を ダブルクリックすると、図 2 のワイヤレスデバイス 設定ウィンドウが開く。ネットワークカード自身は Linux が認識してくれるので、現在のネットワーク カードの状態にかかわらず、デバイスが表示され るはずである。 図 4. xbiff のウィンドウ。左は新しいメール がない状態。メールが来ると右のようになる。 さらに、このワイヤレスデバイス設定ウィンドウ のワイヤレス設定タブをクリックすると、図 3 のよう になる。ここで、無線 LAN Ethernet メディアコン バータで設定されている項目を入力する。必要 な情報は、ネットワーク名とチャンネル、転送レー ト、鍵である。図 3 では鍵が*で表示されているが、 実際には設定された文字列か 16 進数の数字が 表示される。これだけ設定して OK をクリックすれ ば設定終了である。 5. 無線 LAN の生活 さて、以上で Linux からも無線 LAN に接続で きるようになった。これで本当に快適なネットワー ク生活が送れるようになった。これまでは、ダイア ル ア ッ プ で し か 接 続 で き ず 、 ピ ー ク 速 度 が 56Kbps 程度の速さでしか接続できなかった。そ のため、少々大きなサイズのファイルを大学のコ ンピュータとやりとりしようとするとかなりの時間か かった。時間がかかるということは、電話料金もか かるわけで、精神的にもよろしくなかった。 それが、ADSL になってからはモデム接続と比 べて約 20 倍速い 11Mbps で通信できるようにな ったわけで、快適そのものである。しかもつなぎ 放題なので、電気代には目をつぶることにして、 家に帰るとパソコンを起動して大学のコンピュー タと接続したままにしている。
Linux というか UNIX の利点の一つは(Windows でもできるのかもしれないが)、相手方のコンピュ ータから画面を呼び出して、自分のコンピュータ の画面に表示できることである。これは何を意味 するかというと、他のコンピュータの権限を自分 の画面上で使えるということである。たとえば、電 子ジャーナルなどの購読を大学が行う場合、ど のマシンで利用するかを IP アドレスで登録するこ とになる。そこで、登録された IP アドレスのマシン にアカウントを持っていれば、そのマシンに入り、 そこからインターネットブラウザを呼び出して、自 分のコンピュータ上に表示する。そうすると、その ブラウザから電子ジャーナルにアクセスできるこ とになる。この方法で、家にいても最新の論文が 読めるのである。もちろん、大学にあるコンピュー タは家からアクセスできるので、CPU 性能の高い コンピュータで数値計算も可能である。 図 2. ネットワーク設定のウィンドウ こうして、家にいながらにして、研究ができるよ うになったのである。これは、私の専門が理論分 野であり、数値計算を主な研究手段としている研 究者であるからこそ可能なことである。大学のコ ンピュータから xbiff というコマンドを起動しておく と、大学のコンピュータにメールが届けば家のパ ソコンに知らせてくれるので、夜でも全く不自由 なく即座にメールのやりとりができる(図 4)。 図 3. 無線 LAN の設定項目 このように述べると、一見いいことずくめのよう に感じるかもしれないが、やはり、家に帰ってま で研究しているのは問題である。しかし、そうしな ければ論文が書けないほど大学での事務処理 量が増えているのが実情である。本人は家でも 研究できて、ある意味幸せであるが、家族にとっ てどうなのかは不明である。 土曜も日曜も大学に出かけなくとも家から仕事 ができるようになったことで、無線 HOME LAN は 確かにホームランであった。ただし、ホームラン は home run とつづるので、HOME LAN とは全く 違う発音となる。したがって、外国人がこれを聞 いても洒落にならないのは言うまでもない。 33