限界計画原価計算論の展開
一G.ザイヒトの所説の検討一
両 頭 正 明 1 序 西ドイツにおける直接原価計算論は限界原価計算(Grenzkostenrechnung) から相対的直接原価計算(Relative Einzelkostenrechnung)へと展開され てきた。前者の限界原価計算は総括的な固定原価補償を行う限界原価計算から 段階的な固定原価補償を行う限界原価計算へと展開され,さらに,相対的直接 原価計算へと発展してきたのである。このことは繰り返し述べてきたところで 1) ある。このように,多様な直接原価計算思考やその形態の発展がみられるのは, 実際の経営過程の複雑化と多様化の進展,ならびに,原価計算目的の多様化に その原因があると考えられる。 本稿では,このような筆者の考え方をもとにして,ザイヒト教授(Prof. Dr. 2) Gerhard Seicht)の最近の所説を参考にして,西ドイツの限界計画原価計算 論の展開を考察したいと考える。そこでは,限界原価計算の本質,限界原価計 算の初期の文献についての指摘,アメリカのダイレクト・コスティング,ルソ メルのブロック原価計算,および,限界計画原価計算が順に論じられている。 また,そこでは,西ドイツにおける直接原価計算の展開についての基本的に重 要な思考の流れが論じられていると考えられる。これが筆者が小稿でザイヒト 1)拙著「現代西ドイツ直接原価計算論序説」滋賀大学経済学部,昭和56年3月刊。拙 稿「西ドイツ直接原価計算システムの課題」会計,昭和61年9月号など。 2) Seicht, Gerhard, Die Entwicklung der Grenzplankosten−und Deckungsbeit− ragsrechnung, in : Scheer, A. W. (Hrsg.), Grenzplankostenrechnung, Wiesbaden 1988. SS. 31−51.の所説を取り上げる理由である。 H 限界原価計算の本質 ザイヒトは,原価計算の目的は給付製造のプロセス(製造原価計算)と給付 販売のプPセス(販売原価計算)を数量的・価値的に写像することであるとし, 原価計算の具体的な形態は形式的な観点からは企業の技術的・組織的特性によ 3) り,実質的な観点からは計算目的によって異るとしている。このことから原価 計算の形態,つまり,原価計算システムは企業の技術的・組織的特性,ならび に,その計算目的の発展によって変化し発展するということが分かるのである。 限界原価計算はそれが計画原価計算(Plankostenrechnung)として実施さ激, そして,補償貢献額計算(Deckungsbeitragsrechnung)と結びつき,限界計 画原価・補償貢献額計算(Grenzplankosten−und Deckungsbeitragsrech・ nung)とよばれている。このような限界原価計算の本質について,ザイヒトは 4) 次の14のメルクマールをあげている。 (1)間接費(Gemeinkosten)は原価部門直接費として,発生する原価部門で 把握される。そして,この原価部門直接費の他の原価部門への配賦は行わ れない。 (2)個々の原価部門の原価は原価種類ごとに変動費と固定費(または,比例質, 飛躍固定費,固定費)に分解される。そのさい,分解にさいして考察期隅 (当該意思決定の作用期間)が重要である。 ③原価負担者計算は変動費のみによって実施される。 (4)固定費は原価種類計算,原価部門計算,期間損益計算において期間的に算 定される。 (5)給付単位損益計算は売上収益と変動費とを比較することによって, 「補償 貢献額計算」として行われる。 (6)期間損益計算は「段階的補償貢献額計算」として実施される。補償貢献額 3) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 31 ff. 4)Vgl. Seicht, G., a. a.0., S.32鉦.
がマイナスの場合には「段階的限界原価計算」として実施される。 ⑦原価部門は各部門の機能の同質性によって分類される。 (8)操業度以外の他の原価作用因が原価の発生に対して作用する場合には,基 準値(Bezugsgr6Ben)はそれに応じて細分化される。 (9)間接費はできるだけその原価が発生する原価部門において何らかの基準値 にもとづいて原価部門直接原価として把握しなければならない。 ao限界原価・補償貢献額計算は計画原価計算と結びつき,限界計画原価・補 償貢献額計算として実施される。 (]ユ)限界原価・補償貢献額計算の基本原則は収益と原価の因果的発生原因原則 である。 (12)段階的固定費補償計算の本質的原則は手段一目的関係の原則である。 (13)段階的限界原価計算は合致性原則(Kongruenzprinzip)によって実施さ れる。これは,特定の補償貢献額は特定の固定費に帰属されるということ である。その場合,特定の固定費は帰属される特定の補償貢献額を得る期 間において回避し除去できるものである。 (14限界原価・補償貢献額計算は完結的なシステムとして実施され,意思決定 とコントロールに関連する情報を提供する。 以上がザィヒトがあげている限界原価計算の本質をあらわすメルクマールで ある。個々のメルクマールについて,具体的にどのように計算システムにおい て展開されるかを考えていかなけれぽならない。 IH 初期の文献について ザィヒトはシュマ_レンバッハ(Schmalenbach, E.)が補償貢献額計算の 5) 創始者であるとみる説に対して異論を提起し,若干の論者をあげている。 まず,クリップシュタイン(Klipstein, Ph. E・)は1781年に,鉄工業の例 で,直接原価(Einzelkosten)を経営(採鉱,鉱焼,操典砕鉱,溶解,鍛工) に直接帰属計算させ,間接費(Gemeinkosten)を直接期間損益計算に課すべ 5) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 33 ff.
きである,としている。 次に,コールセルーゼヌイル(Courcelle−Seneuil, J・G.)は1869年に,製品 の製造原価を直接費(Einzeln・Aufwand)と一般的業務費に区分し,直接費 は製品の製造や作業給付・用役給付に対して費やされる原価であり,一般的業 務費は全体の業務活動に分割できる原価で固定費であるとしている。 また,ストロウスベルク(Strousberg, B.H.)は1876年に,設備の操業政 策に関連して,設備の減価償却費を総原価計算に入れて処理をすると間違った 結果をもたらすとしている。設備の規模によって異なる一般費(General−Kos・ ten)を製品に負担させることができないとするのである。 また,トルクミット(Tolkmitt, H、)は1894年に,間接費(Unkosten)を 業務活動の維持に役立つ支出とし,直接的な収入によってではなく,年度利益 によってその回収をすべきであるとし,期間に負担させる間接費と製造に負担 させる間接費とに区分したのである。 さらに,シュマーレンバッハは1899年に,原価および損益計算の問題につい て論じ,間接費について個々の顧客に関して直接的に発生する原価を第1次的 間接費(primare Unkosten),経営全体を通じて発生する原価を第2次的問 接費(sekundare Unkosten)とした。彼はすでに,固定費,変動費,比例的 間接費,逓増費,逓減費という概念を使用していた。彼は簿記のコンテン・ラ ーメンにおいて給付単位原価計算(Kalkulation)を実施した。彼は顧客には 第1次的間接費だけを帰属計算し,第2次的間接費は粗利益によって補償すべ きであるとしたのである。また,彼は1902/3年に,一段階の補償貢献額計算 の思考を提案している。粗利益に一定の間接費を負担させるものである。1919 年の論文「単位総原価計算」(Selbstkostenrechnung)においてこのような 思考を完成させた。この論文は1925年に「単位総原価計算と価格政策の原理」 初版として出版されたのである。シュマーレン・ミッハは,すべての操業度につ いての直線的な原価経過をしぼしば発生する場合と考えて,数量:原価計算 (Mengenkostenrechnung)とよぶ限界原価計算によって給付単位原価計算 を展開したのである。数量原価計算の本質は原価を数量原価と時間原価(Men・
gen・und Zeitkosten)に区分することにある。時間原価は給付単位に帰属計 算させることができないとするのである。シュマーレンバッハのこのような限 界原価計算:つまり数量原価計算は1930年代からルンメル(Rummel, K・)の 「ブロック原価計算」 (Blockkostenrechnung)、へと展開され,以後の西ド イツの直接原価計算論の発展の基礎を形成したといえるのである。 ザイヒトはシェア(Schar, F.)が1914年に提唱した「死点の計算」 (Kal− kulation des toten Punktes)をあげている。シェアの死点は今日の損益分 岐点と同様に限界利益が固定費を補償(回収)する点であり,直接原価計算論 の基礎をなすものである。 以上,ザイヒトは直接原価計算論の初期の文献として,クリップシュタイン, コールセルーゼヌイル,ストロウスベルク,トルクミットをシュマーレンバッ ハ以前のものとしてあげている。これらの論者が体系的・完結的な限界原価計 算システムー直接原価計算システムを提起しているのかどうか今後検討しなけ れぽならないが,筆者は少なくともシュマーレソバッハにおいてはじめて体系 的・完結的な限界原価計算システムー直接原価計算システムがみられるものと 考えるのである。 次に,ザイヒトはアメリカのダイレクト・コスティング(Direct Costing)の 発展について略述しているが,これは小稿の直接の課題ではないので省略する。 IV ブロック原価計算 ザイヒトはシュマーレソバッハに続く限界原価計算論者としてルンメルをあ
6) 7)
げ,詳述している。ルンメルは彼の原価計算の著書の第1版(1934年)におい て,原価負担者に対する固定費の配賦に疑問を提起し,固定費を配賦しないで まとまったブロックとして捉えることを提唱した。固定費は経営準備の結果発 生するもので,それを予算化して製造計画に責任をもたせる,つまり,期間損 益に直接負担させるものと考えるのである。そして,固定費のプロヅクを原価 6) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 39 ff. 7) Vgl. Rummel, K., Grundlagen der Selbstkostenrechnung, Dttsseldorf, 1934.種類,原価部門,原価負担老に区分する。このように考えることによって固定 費の本質的な課題が解決できると考えるのである。 8) ルソメルは彼の著書の第3版(1949年)において,彼の限界原価・補償貢献 額計算の構想,つまり,一段階的補償貢献額計算(einstu丘ge Deckungsbei− tragsrechnung)を意味する「ブロック原価計算」を提唱したのである。彼は 従来からの単位総原価計算に疑問をいだき,固定費の原価負担者への配賦をす べきではないとした。つまり,変動費は給付の製造に比例性(Proportionali− tat)をもった関数であり,直接費または変動間接費の形で原価負担者に賦課 できる。しかし,固定費は給付準備の関数であり,給付としての原価負担者に 配賦すべきではないとしたのである。ルンメルは固定費と変動費の統計的・数 学的な分解を重視し,固定費は原価負担者としての製品とは何の関数関係をも もたないので,それを一つのブロックとして取り扱い,会計期間に負担させる のが適切であると考えるのである。固定費を暦時比例費とし会計期間について ブロックとして発生するものとするのである。その場合,損益計算は製品につ いての収益と費用との差額としての補償貢献額が原価ブPックよりも大であれ ば超過補償となり,原価ブロックよりも小であれぽ不足補償となるのである。 このように,ブロック原価計算は費用を数量比例費と暦時比例費に分解するこ とを前提にし,数量比例費を原価負担者に直接的に帰属計算し,暦時比例費を 分割しないで一つのブロックとして集計し期間損益計算に課すのである。ルン メルはこのようなブロック原価計算を実施するために,原価を次の5つに区分 9) するのである。 (1)純粋な暦時比例費一設備資本の利子,減価償却費,給料 (2)純粋な数量比例費一製造材料費,製造賃金 (3)直接的には製造に対して比例的ではないが,何らかの製造に依存する値に よって製品に対して賦課できる原価 段取費 8) Vgl. Rummel, K., Einheitliche Kostenrechnung auf der Grundlage einer vorausgesetzten Proportionalitat der Kosten zu betrieblichen Gr6Pen, 3. Aufl., Dtisseldorf 1949. 9) Vgl. Rummel, K., a. a. O., 3. Aufl, S. 215.
(4)計画によって比例費にでき,ある程度まで予算どうりの原価一補助材料 費,補助賃金 ⑤経営値に対して比例性のない原価一特別修繕費,清掃作業費,研究開発 費,管理費 (2),(3),(4)の原価は比例的に原価負担者に帰属計算でき,(1),(5)の原価は固 定費ブロックに集計される。期間の終りに売上収益から数量比例費を控除して 算定される補償貢献額によって固定費ブロックは補償(回収)されることになる。 以上のようなルンメルのブロック原価計算は計画原価計算として実施され, プログラム計画や経済性のコントロールに有用な情報を提供するのである。 V 限界計画原価計算: 限界計画原価計算という概念はプラウト(Plaut, H.G.)によって形成され 提唱されたものである。それは計画原価計算(計画原価,規範原価,規範・実 際比較,差異計算,原因分析)の思考と限界原価計算・補償貢献額計算の思考 とを結合させた原価計算システムであるといえる。プラウトは限界原価計算と いう用語の創始者であると同時に,この計算方式の啓蒙家でもある。 ヨーPッパでは1930年代に弾力的計画原価計算がルシュニィ(Luschny, W,),ノイマイヤー(Neumayer, W.W.),ミヘル(Michel, E)によって 10) 導入された。計画原価計算の最初の書物はミヘルによって著おされた。当時の 文献や実務における計画原価計算は全部計画原価計算であった。ミヘルの計画 原価計算は従来の固定的計画原価計算ではなくて弾力的計画原価計算(flexible Plankostenrechnung)であり,変動率(Variator)を使用したものである。 プラウトは第2次大戦中,ミヘル工場管理研究所の助手であり,プリンカー 製鉄所(Brinker−Eisenwerk)へ全部原価計算としての弾力的計画原価計算を 11) 導入することに協力した。1946年にプラウトはハノー・ミーに顧問エソジ=アお よび経営管理者として定住した。1950年以後,彼は計画原価計算を限界計画原 10) Michel, E., Handbuch der Plankostenrechnung, 1. Aufl., Berlin 1937. 11) VgL Seicht, G., a. a. O., S. 43.
価計算として発展させる仕事をはじめた。限界計画原価計算では,部門ごとに すべての原価種類の計画原価と実際原価との差異を表示し分析することができ 12) る。従来の全部計画原価計算では部門ごとの総括的な差異分析で満足していた のである。プラウトはルンメルの思考を基礎にしてそれを限界計画原価計算へ と発展させた。限界計画原価計算では,比例原価つまり直接原価(Einzelkos− ten)と比例間接費によって原価負担者・原価負担者グループの計算が行われ, 固定費は全体として総額でブロックとして表わされる。 プラウトは1953年以後限界計画原価計算の発展に関する多くの論文を公表し 13) た。彼は,1984年に400以上の西ドイツの企業において,限界計画原価・補償貢 14) 献額計算にもとつく工業会計システムが導入されていると報告している。今日, EDPソフトウェアシステムが利用できるようになったので,限界計画原価計 算の実務への適用が容易になり,限界計画原価計算,全部原価計算,第1次的 15) 原価計算等がシステム的に同時・平行的にその実施が可能になったのである。 限界計画原価計算の発展の特徴の一つは計画原価の固定費と変動費の多面的 な分割というところにみられるといえるのである。 キルガーは1976年に,限界計画原価計算において,原価計画を設定する場合 に固定費と比例費を分解するが,そのさい期間の長さ(Fristigkeitsgrad)を 12) Vgl. Plaut, H. G,, Wo steht die Plankostenrechnung in der Praxis?, ZfB 1952, S. 400. 13) Plaut, H. G., Die Grenzplankostenrechnung, ZfB 1953, SS. 347−363, S. 402−413. derselbe, Die Grenzplankostenrechnung, ZfB 1955, SS. 25−39. derselbe, Die Grenzplankostenrechnung in der Diskussion und ihre weitere Entwicklung, ZfB 1958, SS. 251−266. derselbe, Unternehmenssteuerung mit Hilfe der Voll−oder Grenzplankostenrechnung, ZfB 1961, SS. 460−482. derselbe, 30 Jahre Grenz− plankostenrechnung, in : SaarbrUcker Arbeitstagung, Plankosten−und Decl〈ungs− beitragsrechnung in der Praxis, hrsg. v. W. Kilger und A. W. Scheer, WUrzburg−Wien, 1980, SS. 11−25. 14) Vgl. Plaut, H. G., Grenzplankosten一 und Deckungsbeitragsrechnung als modernes Kostenrechnungssystem, Kostenrechnungspraxis 1/1984, S. 20. ls) Vgl. MUIIer, H., Plaut−Software fttr ein integriertes Rechnungswesen, Kostenrechnungspraxis 6/1984, S. 207−212.
16)考慮しなけれぽならないとしたのである。期間の長さによって異った限界原価 率を設定する。期間の長さとして(1)1年(2)2ヵ月から3ヵ月(3)1ヵ月を提案し ている。キルガーはこのような期間を考慮に入れた限界計画原価計算を「動的 限界計画原価計算」 (Dynamische Grenzplankostenrechnung)と名付け た。 ザイヒトはその「段階的限界原価計算」(Stufenweise Grenzkostenrech− nung)において,固定費を除去可能性(Abbaufahigkeit)によって区分するこ 17) とを提案している。短期的,中期的,長期的にみた除去可能性によって固定費 を区分するのである。そして,さらにこの固定費の三つの区分の内部で固定性 (Festigkeit)による区分をすることによって一層の改良ができるとするので ある。このように,ザイヒトは固定費を期間によって区分することを通じて, 原価計算は長期・短期の意思決定のための情報を提供することができると考え るのである。 ルンメルもまた準備原価を短期的準備原価,中期的準備原価,長期的準備原 18) 価に分類し,準備原価の期間ならびに固定性による区:分を示している。 アメリカのダイレクト・コスティソグでは,固定費が全般的企業固定費と個 々の製品グループ・経営部門個別固定費に区分されている。 固定費のこのような区分化によって,一段階の補償貢献額計算から多段階の 補償貢献額計算への拡張が可能になった。 アクテは(Agthe, K.)は,5段階の補償貢献額計算システムを提案したの 19) である。会計期間における固定費を(1)製品種類固定費(2)製品グループ固定費(3) 16) Kilger, W., Die Entstehung und Weiterentwicklung der Grenzplankostenrech− nung als entscheidungsorientiertes System der Kostenrechnung, in : Jacob, H. (Hrsg.), Neuere Entwicklung in der Kostenrechnung (1), Wiesbaden 1976, S. 36ff. 17) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 45 ff, ls) Vgl. Rummel, K., Einheitliche Kostenrechnung, 3. Aufl., DUsseldorf 1949, S. 128. 19) Vgl. Agthe, K., Stufenweise Fixkostendeckung im System des Direct/
原価部門固定費(4)領域固定費(5)企業固定費に区分し,期間損益計算を「段階的 補償貢献額計算」として実施することを提唱したのである。この場合,まず, 個々の製品種類の売上収益から限界原価を控除した期間補償貢献額を算定し, それから製品種類固定費を控除する。次に,このように決定された製品種類ご との超過額を製品グループにまとめて,そこから製品グループ固定費を控除し て製品グループ利益が算定される。このようにして,原価部門,領域というよ うに順に利益が計算されて,最後に,領域利益から企業固定費が控除されて企 業純損益が算定されるのである。 このような多段階的補償貢献額計算は,多様な補償貢献額を示すことによっ て期間損益に対する重要な情報を提供することができるのである。この場合,重 要なことは,固定費はそれが発生した原価部門において第1次的原価(primare Kosten)として捉えられるということである。そして,それが製品種類,製 品グループ,原価部門,領域,企業全体というような基準値階層(Bezugsgr6・ Benhierarchie)によってグルーピングされるのである。ザイヒトは各グルー プ化された固定費をさらにそれぞれ除去可能固定費と除去不能固定費に区分す 20) る必要があるとしている。このことをザイヒトは固定費の変更可能性(Wan・ delbarkeit)とも述べている。これは期間の内部で固定費を変更させることが できるかどうかということである。 また,ザイヒトは固定費の支出作用性(Ausgabenwirksamkeit)による区 21) 分を否定している。固定費の支出作用性による区分とは,固定費を短期的支出 と結びついた固定費,中期的支出と結びついた固定費,支出に結びついていな い固定費に分類することである。アクテ,メレロヴィッツ(Me1旦erowicz, K.), リーベル(Riebel, P.),ならびに,シュヴァルツ(Schwarz, H.)がこのよ うな固定費の支出作用性による区分を行っている。ザイヒトは固定費の支出作 Costing, ZfB 1959, S. 404 ff. ders, Zur stufenweisen Fixkostendeckung, ZfB 1959, S. 742 ff. 20) Vgl, Seicht, G., a. a. O., S. 48. 21) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 49.
用的な部分がつねに意思決定に関連性をもっているとはいえないとする。固定 費と結びついている支出が固定性をもっている場合には,それは意思決定に無 関連であるとするのである。ザィヒトは除去可能な固定費したがって回避可能 な支出のみが意思決定に関連すると考えるのである。 ザイヒトは,最後に,標準限界価格計算(Standard−Grenzpreis−Rechnung) 22) について述べている。経営上隆路(EngpaB)(制約条件)がある場合,限界 原価計算は,限界効用(Grenznutzen)の思考ならびに隆路要求から導き出 される最:低補償貢献額の計算を実施する標準限界価格計算によって補足されな けれぽならない。この標準限界価格計算はシュマーレソバッハならびにベーム (B6hm, H.H.)によって提唱されたものである。この場合,いわゆる計算価 値(Kalkulationswert)による計算が行われる。計算価値は限界原価と限界 効用とからなる。 V亙 む す び 西ドイツにおける直接原価計算論の発展における限界計画原価計算論の位置 づけは極めて重要である。限界計画原価計算は限界原価計算と計画原価計算と が結合して生成発展してきたものであり,今日の直接原価計算論の出発点であ り,その基礎をなすものであるといえる。 小稿では,ザイヒト教授の論文を参考にして,筆者の立場から限界計画原価 計算の諸問題を検討したのである。シュマーレンバッハの限界原価計算,ルン メルのブPック原価計算が限界計画原価計算の基礎をなしているということが 明らかになった。そして,プラウト以後の限界計画原価計算の若干の展開を考 察したのである。激しい環境の変化に適応することができ,多様な情報要求に 応えることができるような,現代的な直接原価計算システムを中心とした会計 システムの構築が要請されているといえよう。このような方向へ,現代の西ド イツの直接原価計算論は展開されつつあると思われるのである。 22) Vgl. Seicht, G., a. a. O., S. 49 ff.