宇宙法と宇宙政策の進展
著者
浅野 裕司
著者別名
Yuji Asano
雑誌名
東洋法学
巻
34
号
2
ページ
43-69
発行年
1991-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003527/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja宇宙法と宇宙政策の進展
浅
野
裕
司
は じ め に 宇宙空問の平和利用と国際協力は、。 ・窓8一碧の中心課題であるが宇宙条約の制定以来、宇宙開発は加速した。ソ 連は宇宙ステ⋮ション﹁ミール﹂により本格的な有人宇宙活動を開始し、今世紀末には、米国を中心に日本や欧州も 参加して常時八人が滞在する宇宙ステ⋮ション﹁フリ⋮ダム﹂も実現される。こうしたスペースステーションは宇宙 空間の産業的利用、長期に互る科学観測や実験等の活動の基盤となる。そして従来の航空機のように宇宙を行く有人 宇宙往還機﹁スペ⋮スプレーン﹂は二十一世紀の宇宙開発を切り開く鍵となる。一方、人工衛星の商業的打上げの継 続的実施等の産業として宇宙を利用する動向もある。宇宙環境利用計画の拡大に伴う各国の宇宙政策は、その法規制 の重要性を課題として提示している。そこで、これらの問題の一端ではあるが挑戦を試みて大方の御叱正を仰いでみ ることにしたい。東洋法学 四三
宇宙法と宇宙政策の進展 四四 宇宙空間についての法理論の展開 宇宙空間︵。 。饗8︶は、何れの国の領域権の設定や行使も否認される空域であり、宇宙条約を中心とする宇宙法 ︵ω冨8鉦名︶の規制の下にある。一九五七年に人工衛星が初めて宇宙空間の軌道に乗り、活動範囲が宇宙空間に拡 大したため、従来の航空機の飛行する空間の上に、新しく宇宙空問という空問があることを国際法の上でも認めなけ ればならなくなった。こうした人工衛星の飛行する空間は、それまでの昏ω冨8︵空域︶に対比し○艮Rω短8︵大 気圏外︶等としていたが現今ではω短8︵宇宙空間︶としている。宇宙空聞には、完全且つ排他的といわれる国の領 域主権は適用されない。従って、宇宙空間と領空は、物理的には一体であるが、法的には二分する空域である。この ため宇宙活動に関して領空主権の適用限界を画定し、宇宙法の適用範囲を画す必要があるとの立場から、国連宇宙法 ハ レ 律小委員会に於いて、宇宙空闘の定義が試みられたこともある。宇宙法は、空法︵舞一碧︶に包含する概念で把握 されてもきたが、宇宙空間と天体の法的地位及び人類の宇宙活動を規律する法の総称ということができる。宇宙開発 の進展に伴い各種の人工衛星が実用化され、活動に即応してこれらを規律する必要が認識され、宇宙空間の利用秩序 に関する法規制から宇宙開発に関する法規制と進展がなされている。一九七六年に﹁宇宙は全人類の共有財産﹂との 考えから、その利用原則を纏めた国際条約として、﹁宇宙条約﹂が国連宇宙空間平和利矯委員会で作成され、これが 基本法となり、宇宙飛行士救助返還協定︵一九六八年︶、宇宙損害賠償協定︵一九七二年︶、宇宙物体登録協定︵一九 ハおレ 七六年︶、月協定︵一九七九年︶が成立し、更に、米国、日本、欧州、カナダの国際協力により、有人宇宙基地の開
発・運用のため、それらに関する包括的取決めとして、一九八八年九月に﹁宇宙基地協力協定㎏ パき が締結された。 2王 ︵3︶ 池園文雄門宇宙法﹂。城戸正彦﹁宇宙法の基本問題﹂、﹁空域主権の研究﹂。浅野・野口﹁改訂空法篇。 N毒器詳θい﹂ω窓8ピ餌類一≦①虜○コげΦ男に言話ワおo oo 。“U爆簿Φ鴇8賦驚03曾①し8αQきぎや津o搾儀①い.Φω窓8” ︾。 。℃Φ9。 。み8纂ω。おoo餌 この宇宙基地協力協定に関連する問題として、米国のブッシュ大統領は、︸九八八年一月、その政策のなかで、宇宙に 関し、次の五点を科学技術政策として示した。 ω国家宇宙協議会を復活させる。ω国際宇宙基地は一九九六年運用を目差す。⑥力持ちロケット︵ALS︶、極超音速機 ︵新オリエント・エクスプレス︶を開発する。㈲地球探査計画を推進する。㈲民間の衛星打上げに企業に活力を。そして、 国際協力による宇宙基地﹁フリ⋮ダム﹂の建設は讐強く支持する﹂として、一九九六年運罵開始という目的を掲げた。こう したことから実現目差して、各国の技術開発が推進されるが、今後は、こうした宇宙基地を往復するスペースプレーンをど のように法規制するか、国際間で研究討議する必要がある。 二 宇宙政策と宇宙開発の現状 宇宙活動に関する法規制については、従来、論争されてきた空域主権及び領有権といった観念論だけではなく、宇 宙活動と開発の現状と将来の展望について把握がなされていなければならない。 一九九一年初頭では、二十一世紀へのチャレンジが研究課題になっている。国際宇宙ステーション計画 東 洋 法 学 四五
宇宙法と宇宙政策の進展 四六 ︵ぎ$欝魯○鑓一ω饗8碧器8即○αQ声舅︶の実行は、宇宙での長期滞在を可能にするスペースステーション﹁フ リ!ダム﹂︵ω窓89薮身即8鼠讐︶の建設である。これに地球と宇宙空聞を往還する宇宙機、つまり宇宙往還機 スペースシャトル︵ω窓8ωざ琵①︶をドッキングして快適な環境下で宇宙活動を可能にすることである。NASA ︵米国航空宇宙局裳器o雷︸>霞○欝纂一8墜αω饗8︾伽昆巳ω霞蝕8︶が計画しているこのスペースステ⋮ションは、 高度約四六〇キロメートルの軌道を廻る宇宙実験室であり、宇宙空間の産業的利用、長期に互る科学観測や実験等は 勿論のこと、月の無人探査や月面基地︵轡08び器Φ︶の建設、さらには火星への有人飛行の基地ともなり、宇宙空 間での各種の重要な活動の基盤となる。この有人宇宙基地は、国際協力で建設がなされることになるので、宇宙ス テーション多国間協定︵國讐①お○毒§9櫛︾αQ周8箏①導︶が重要な役割を果すことになる。全長一五〇メ⋮トルを超え るとされるフリーダムの建設資料は、地球からスペースシャトルによって宇宙空間に輸送され、全部の資材を輸送す るには合計二九回の飛行が必要とされる。現在の予定では、一九九五年にフリ⋮ダムの最初の部品が打上げられ、一 九九七年には人間が長期滞在できる態勢が整備される。全体の完成は一九九九年の予定である。フリーダムの四つの 気密モジュール︵ζ○段﹃︶のうち三つは実験モジュール︵国巷a箏Φ簿ζ○段げ︶、もう一つは居住モジュールで ある。実験モジュールでは微小重力を利用した材料実験や生命科学実験が行われるが、これらの実験は法的に多くの 課題を提供することになろう。日本も実験モジュ⋮ルの参加計画している。建設に伴う宇宙環境上の問題もさること ながら、実験結果得られた成果についての権利帰属の問題がある。地球環境の観測、惑星や天体の観測も行われる。 居住モジュールは搭乗員の食事、睡眠、休息のためのものである。
宇宙開発を一歩リードするソ連は、一九八六年に新型の軌道科学宇宙ステ⋮ション﹁、、・ール﹂︵、.鼠一円、、ω思8簿甲 齢一霞︶を打上げ、これを母船として、飛行中の有人科学ステーション﹁サリュ⋮ト﹂とドッキングして共同作業を 行ない機能を確認し、その後に順次打上げられる有人・無人の補給船とドッキングできる六つの結合ユニットをもっ た恒久的有人宇宙ステーション建設のための第一陣となった。一九八七年四月には、最初の実験観測モジュールであ るクンバント︵国&き峠︶天体観測モジュールが﹁ミ⋮ル﹂の﹁基幹モジュールし、その前部の﹁ソユーズTM!2﹂ 及び後部の﹁プログレス29号﹂と史上初の四連結をした。一九九〇年末には﹁ミール﹂は打上げ以来計九回の長期滞 在記録を達成し、数々の宇宙遊泳や宇宙実験の成果を上げた。また、ソ連はプロトンロケット等による世界の商業衛 星打上げビジネスをキャンペーンするため、一九八五年ソ連宇宙総局グラフコスモス︵○ピ︾く凶○ω蜜○ω︶を設立 した。一九八九年一月、米国のベンチャー﹁スペース・コマース社︵SCCごは、米国内及び周辺諸国での包括的な 宇宙商業ビジネスの代理店権をグラフコスモスより取得し、プロトンロケットにょる衛星打上げのみならず門ミー ル﹂での無重力実験や宇宙実験装置の提供、ソ連のリモートセンシング衛星による地表画像の探査、ソ連宇宙関係施 設ツア⋮の提供、文献・スーペニアの販売等の幅広い営業活動を開始している。 米国宇宙探査構想︵米国宇宙探査構想︵↓訂qψω短8m巷ぴ黛一象獣葺蝕語︶は、一九八九年七月のブッシ ュ大統領にょる﹁米国は現在開発中の宇宙ステーション﹁フリ⋮ダム﹂をまず完成し、再び月に戻り、二十一世紀初 頭には月面恒久基地を建設し、そのあと火星有人探査を進めるしとの声明に端を発している。その後、NASAは、 これを月火星構想︵家鎚馨&ζ8Pζ婁巴巳3馨①︶、さらに、有人宇宙探査構想︵国償響鶴円巷一9践墜ぎ蕪蝕お 東 洋 法 学 四七
宇宙法と宇宙政策の進展 四八 ︶と称した。一九七二年に終了したNASAのアポロ計画は大きな役割を果したが、月の科学探査はまだ不十分であ り、二十一世紀を間近に控えて、月は再び重要な存在となっている。月面は、人数の宇宙活動を支える基地としても 注目されており、スペースコロニー等の巨大な宇宙構造物を設置する場合、材料には月の鉱物資源を利用することに なると推測されている。月の資源の中には工業材料として貴重なものも探査されており、真空や低温を利用した工場 も計画されている。NASAの研究によると、月面での酸素製造工場のためのプラントが宇宙活動を支えるとしてお り、作成された酸素は宇宙船の燃料として、またスペースステーションや月面基地の生命維持用に使用される計画で ある。二十一世紀初頭になると、月面に恒久的な基地が造られ、月面の無人探査から短期間の有人探査の段階を経て、 二〇一〇年代中期以降にはかなりな規模の恒久基地が建設され、人類が月面で生活する基盤が整備されるであろうと の構想がされている。この点では、月の領有権論争が再び起ると考えがちであるが、既に、月協定﹁月及び他の天体 における国家活動を律する協定︵>αQお①欝Φ簿○○<a薦静①︾&<鼠霧鉱ω齢魯のω象費①窯08墜畠o簿象Oα①。 。鼠一 ω○繕霧︶﹂が一九七九年に国連総会で採択されており、国家の領有禁止の規定がなされているので問題は少ないと考 えられる。二十一世紀前半には、宇宙計画の最大目標の一つである火星への有人飛行があり既に詳細な検討がなされ ている。火星への宇宙船はスペースステ⋮ションから発進することになっており、惑星間の通信・航行管制システム の確立、安全性の確保等が課題となっている。月面基地︵欝○呂訂器︶を実現するための軌道間輸送機︵9鐸瓢 ↓篤湧︷巽く魯一。一Φ︶の開発が必要である。NASAは、一九八九年六月、このOTVの名称を宇宙間輸送機︵ω饗8 炉きω鱒<Φ獣島①︶と変更し、その運用は一九九九年を目標として開発研究を進行している。
二十一世紀は、スペースシャトルに代表される地球と宇宙を往復する輸送系の出現が予想され、わが国も独自の宇 宙往復輸送機として門HOPE繍の実現を目差している。これが実現すれば、わが国も独自の輸送系で宇宙ステーシ ョンに対して物資の補給や回収を行うことで、国際的宇宙活動に貢献でき、また、将来の宇宙への輸送手段として、 飛行機のように宇宙を行く有人宇宙往還機﹁スペースプレーン﹂の実現に繋がる。スペースプレーンは完全再使用型 であり、宇宙への輸送コストを大幅に減らすことができる。これまでの宇宙往還機は大型のロケットで垂直に打上げ られていたが帰路はスペースシャトルのように地表面へは、一般の航空機と同様、滑空と滑走を以てなされている。 スペースプレーンは、航空機のように滑走路から離陸し、大気圏内を飛行上昇し宇宙空間に向い、帰路は地表の滑走 路を航空機と同様に使用すると考えられるので、大気圏内の飛行には当然、従来からの航空法の適用も検討課題とし なければならない。 人工衛星︵≧象叢巴雛邑簿Φ︶については、通信衛星︵○○簿欝轟欝呂宕ω簿Φ藻梓①︶が実用衛星としてよく知ら れているが、一九九〇年一二月に民問の通儒衛星、宇宙通信の﹁ス⋮パ⋮バードA﹂が姿勢制御ができなくなり、全 国の放送局やCATV局等に大きな打撃を与え、今更ながら宇宙時代の現状を知らせる結果となっている。また、衛 星を使った新聞紙面の伝送も待望の衛星回線利用時代に入ったことを認識させられている。その他、実用衛星で現在、 宇宙活動︵ω窓8︾&<識霧﹀をしているものには次のようなものが挙られる。広範囲に互る気象状況の観測、デー タ取得と配信により確度の高い天気予報を行っている﹁気象衛星﹂︵○Φ8翼δ暴蔓鼠簿8δ一品一8ぴ鯨亀一富︶、衛星 から発射される電波を船舶や航空機が受信して自分の位置を知ることができる﹁航行衛星﹂︵蜜く蒔蝕象鶏鼠一箒︶、 東 洋 法 学 四九
宇宙法と宇宙政策の進展 五〇 地球上の絶対距離を精密に測定し、あるいは地球の形状を詳しく調べることを主任務とする﹁測地衛星﹂︵088誉 。。象①浸滞﹀、洋上を航行中の船舶同士及び船舶と陸上の間で安定した良質の通信を確保することを主たる目的とする ﹁海事衛星﹂︵ζ畳け誉①雛琶一計︶、等がある。この海事衛星に関しては、主要海運国の間で国際海事衛星機構 ︵ぎ欝旨呂9匙客鉱樽首Φω象亀箒○お9 ゆ筥N器呂︶があり、一九七六年九月にインマルサット︵曙ピ︾沁ω>↓︶条 約及び運用協定が採択されている。 三 宇宙条約と月協定の基本原則 条約として、一九六七年一月﹁月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用に於ける国家活動を律する原則に関 する条約︵↓訂炉S蔓窪軍ぎ9覧800諾篶一轟薪の︾鼠く鍵8無ω翼Φ巴p国巷一9呂象きα¢ωΦ○︷○無翰ω窓8寧 α&一お爵①竃08餌&○爵霞○鉱Φ鋒巴ω○島霧︶﹂以下宇宙条約と略称する︶が成立している。宇宙条約は、﹁宇宙は 全人類の共有財産﹂との考えから、その利用の基本原則を纏めた国際条約で一九六七年の国連宇宙空間平和利用委員 会で作成された。この委員会は一九五九年の第一四回国連総会で設置された総会直属の常設機関であり、当初、日本 をはじめ米、ソ、加等三七力国で構成し、法律、科学技術の両小委員会に分かれ、前者は月の天然資源利用のための 門月条約﹂や衛星を使った宇宙からの地球探査問題等を協議、後者は讐国際宇宙会議開催﹂や開発途上国のデ⋮タ分 ハユレ 析技術計画等の問題に取り組んでいる。宇宙活動の基本原則を定めた宇宙条約︵発効一九六七年、わが国は一九六七 年一〇月一一日に批准︶は、ω宇宙は全ての国が自由に利用できるが、平和目的に限られる、ω宇宙の領有、占拠は
認めない、⑥核兵器や大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せない、㈲月等の天体上に軍事基地、施設を設 けたり、兵器の実験、軍事演習を禁止する等を規定している。米ソを含め三六力国が批准しているが、条約作成当時 は原子炉衛星等の原子力の宇宙利用は考慮されていなかったため、一九七八年一月のコスモス九五四墜落事件には対 処できない面があった。 この宇宙条約を受けて、一九六八年﹁宇宙救助返還協定﹂︵︾αQお①欝①簿窪爵①沁Φω。幕9壽ぎき蘇ω蓉富閃Φ露置 ○︷譲㌶霧窪寅働巳夢①カΦg簿鉱〇三8富ゼ簿舅畠亀ぼ80無Rω饗8︶、 一九七二年﹁宇宙損害賠償条約﹂ ︵Ogぎ呂象暮ぎ8簿薮8巴口魯難蔓︷RUゆ3蕗①○薮ωaξω窓oΦ○蕊8溌︶、一九七六年﹁宇宙物体登録条 約﹂︵○○薯Φ導坤8鶏力畠一終舞一畠鼠○蕊8鍍ピ餌毯鼠&ぎ80葺Rω短8︶がある。 ハおレ 宇宙条約は、宇宙空間の探査につき、国際法に従って行えば自由にできることを第一条で規定している。現行国際 法上、国家の領域の上空に行われる領空主権は上空無限に及ぶものではなく、人工衛星等が飛行する宇宙空間 ︵o暮段巷8ρミ①騨窪鴇﹂、Φ。 。短8︶は、国家の領空主権の及ぶ範囲外にある。従って宇宙空間は、完全且排他的な 主権と規定される領空主権の制約の下にたたない。大気圏外では、そのある部分へ自国の空域主権を要求することは 法的に無意味に近く、大気圏外を一つの空間として取扱い、そこに於ける国の平和利用のみを認めることを余儀なく されている。シカゴ条約第一条も国家主権の認められた空域︵魯名8ρ霧麗8無OBOω喜鋤斜器︶の高さについて は触れておらず、この魯ω麓8の範囲は一定限度の高度以下に限られ、無限に延長することはできない。宇宙条約 第一条︵基本原則︶は﹁月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、全ての国の利益のために、その経済的ま 東洋法学 五一
宇宙法と宇宙政策の進展 五二 たは科学的発展の程度に係わりなく行なわれるものであり、全人類に認められる活動分野である。月その他の天体を 含む宇宙空間は、全ての国が如何なる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、且つ国際法に従って、自由に探査し及 び利用することができるものとし、また天体の全ての地域への立入りは自由である。月その他の天体を含む宇宙空間 に於ける科学調査は自由であり、また、諸国は、この調査に於ける国際協力を容易にし、且つ奨励するものとする﹂ と規定しており、例えば、通信衛星の打上げ・運用を含む宇宙空聞の利用について、各国の自由・権利を積極的に認 めといる。宇宙空間に於ける国の権力的支配・独占の禁止︵二条︶、宇宙空間の開発・利用は国連憲章その他の国際 法に従って行なわれると定めている︵三条︶。 二十一世紀には、NASAは再度、月を目差すとされ、月面基地︵臼○○⇒訂霧︶を恒久的な基地とし、月面に建 設された工業プラントが宇宙活動を支えるという。 国連の宇宙空間平和利用委員会は、一九六六年宇宙条約を具体化するために、一九七九年、﹁月その他の天体にお ける国の活動を律する協定﹂︵︾αQお①鱒①簿Oo︿aお爵Φ>&<ξ8窪ω韓霧○︷夢のζ○窪伽&○岳RO巴霧凱鋤一 ω○象霧oごo 。U8①欝げRるお︶所謂月協定︵月条約とも称される︶を採択した。同協定の発効は一九八四年となっ た。月協定は、宇宙条約の掲げる、月その他の天体の利用を平和利用に限定する基本原理を再確認した上で︵三条一 項︶、新たに、月及びその天然資源を人類の共同遺産とする原則︵一一条一項︶を加えている。但し、月の天然資源
開発は将来の制度とされており、その開発が実行可能となったときに、その規律を目的とする国際体制
︵蔦①3践○器=甜ぎΦ︶の設立が合意されている︵二条五項︶。また、国家の責任については、宇宙条約︵六条︶と同じく、私人による月面活動にもその私人の属する国家が国際的責任を負う︵一四条一項V。月に於ける損害賠償 責任については、宇宙条約上の責任︵七条︶に加えて、より詳細な取決めを必要とするから、それが必要な場合は、 ハヨレ 再検討会議の手続によって、責任規定の詳細化を図ることを予定している︵一四条二項︶。 ︵王︶
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池田文雄﹁宇宙法﹂。浅野・野口﹁改訂空法﹂。 ○箒pαqり¢巳梓a累毘o霧幻Φω○一馨一象80三Rω饗8ふぎ象窪旨囲鯨、一r器レ8黛OO舞齢①ダピ餌欝伽魯○留含oo霧①霧霧 鼠霧一、Φ一筈○鐘無○雛を象○諦留一、①ω麗8︶ζ勉きαq①ωo鎌R誘︾○富識霧︵︶訂仁彰○鷺8ρおc o整 ω8喜象090く伊d融酔&ω馨①ωω℃簿8目鋤瀬⇒象一象緯沁&一馨①旨器Ob鋤拶①αq三餌鉱8︸おoo⑩D N類鎧詳8r︵a●yω短ooび妙≦“≦①≦ωo︷薪①男暮霞Φ︸おo oc o. 四 宇宙ステーション多国間協定について 一九八八年九月、米国.日本・欧州宇宙機関︵国貰○需窪ω短8︾αQ象oざESA︶・カナダが一九九〇年代後半の 完成を目差し、国際協力で建設する有人宇宙基地︵宇宙ステーションVの政府間協力協定がワシントンで署名された。 日本は、独自の実験棟︵JEM︶を作り宇宙基地に接続するほか、宇宙基地への物資輸送に開発が進んでいる純国 産・HlHロケットが使用される等、貢献度の高いプロジェクトとなる。 この宇宙ステーション多国間協定︵IGA・H導Φお○ぎ露3Φ簿︾αQおΦ舅Φ馨︶は、多国間での宇宙ステーション建東洋法学 五三
宇宙法と宇宙政策の進展 五四 設の詳細設計や開発、運用、利用の枠組みを決めたもので、二七章から成り、平和目的、民生利用、相互協力の三原 則が盛り込まれた。その要旨は次の通りである。︹目的と範囲︺ 米国が計画中の有人宇宙ステーション︵SSF P・ω短8望駐霧即。aO導汐品蚕臼﹀の設計、開発、運用、利用に関する国際的な枠組みを作る。計画は米国を 核にESA、日本、カナダ政府が共同で進める︵第一条︶。︹国際的な権利、義務︺ 宇宙ステ⋮ションは宇宙条約. 救助条約・責任条約・登録条約を含む国際法に基づいて開発、運用、利用する︵第二条︶。︹協力機関︺ 米国航空宇 宙局︵NASA︶、ESA、カナダ科学技術省︵MOSST︶及びNASAと﹁理解に関するメモ繍を取り交わす日 本の機関︵第四条︶。︹積載物と装置の所有権︺ 各国が所有する装置は協力機関を通して相互に知らせる。装置.積 載物の何れも所有権は協力国以外に移管してはならない︵第六条︶。︹運営︺ 米国はNASAを通して宇宙基地計画 全体の調整と方向付に関して責任を負う。また同様に毎日の基地運営の方向性と計画の全体に関して責任を負う︵第 七条︶。︹設計と開発︺ 各国は積載物の国際的な利用と継続的な稼動のための、地上設備も設計・開発しなければな らない︵第八条︶。︹利用︺ 米国は構造物を保護するのに必要な物品を供給する代わりに、欧州や日本の実験棟のう ち一定の割合の提供を受ける。各国は互いに認めた物品を交換できる︵第九条︶。︹運用︺ 各国は基地機能の維持に 協力し、利用者の安全、便宜に適うよう協調する︵第一〇条︶。︹輸送︺ 基地への物品輸送には米国スペースシャト ルを充てる。また仏国アリアンや独国ヘルメス等ESAのロケット、H−H等日本のロケットの利用も認める︵第一 二条︶。︹資金︺ 各国は基地の開発・運用に必要な資金について事前協議し、積み立てる︵第一五条︶。︹責任の相互 放棄︺ 各国は基地での爆発等の事故、トラブルについて、互いに損害賠償を求める権利を放棄する︵第一六条︶。
︹デ⋮タと物品の交換︺ 各国は必要と考え得るあらゆる技術データや情報を交換する︵第一九条︶。︹知的所有権︺ 各国の実験棟は原則としてその国の特許法等が適用されるが、国家安全保障のために線引きした秘密特許・情報につ いては例外とする︵第一二条︶。︹刑事裁判権︺ 各国は所有する物品や所属する搭乗員に対してそれぞれ管轄権を有 する︵第二二条︶。︹協議︺ 各国は宇宙基地に関して発生する如何なる事柄についても協議できる︵第二一二条︶。︹宇 宙基地協力の検討︺ 一九八九年以降、各国は三年毎ごとに集まり協力に関する様々な問題について話し合う︵第一 四条﹀。︹発効︺ 一九九二年二一月三一日迄に発効できなければ、条約の改定を含む如何なる手段で合意できるかに ついて協議する︵第二五条︶。等となっている。わが国の権利としては、最低一名を常時基地に滞在させられる。一 名の滞在日数は、一二〇日から一五〇日となっているので、年聞、三、四名が宇宙基地に行くことになろう。宇宙開 発事業団は、平成二年四月、宇宙基地に乗り込む宇宙飛行士を、平成三年から順次募集することを決定した。最初の 一名は、日本提供の実験棟︵JEM︶を打上げる米国スペ⋮スシャトルで一九九八年二月に宇宙へ飛び立ち、JEM の組み立て等日本人として初めて船外活動も行う予定となっている。各国の実験棟では、その国の特許法等が適用さ れるが、協定の知的所有権条項では、国家安全保障に係わると規定した秘密特許や機密情報については、各国の制度 は及ばないとしている。事実上、米国の特許・秘密法体系を宇宙基地全体の原則として採用する形式になっている。 宇宙環境利用は、宇宙空問の微小重力、真空等の特異性を活用し、新材料や新医薬晶の創成を行うもので、明日へ の大きな夢をもった産業へ成長する可能性が高い分野である。宇宙ステ⋮ションでは、三〇〇件以上の実験テーマが 提案されており、既に、材料実験、ライフサイエンス実験、理工学実験、通信実験、科学観測︵天体・地球︶の六分
東洋法学 五五
宇宙法と宇宙政策の進展 五六 野で約四〇テーマに集約されている。例えば、半導体分野でも、単結晶薄膜等の材料.フロセシング技術は宇宙環境利 用のメリットが期待されている。宇宙環境利用分野は、二千年には、四千億円の市場規模に拡大するとみられる。今 後は、こうした知的所有権の整備について、わが国でも早晩研究に着手し、草案を作成する必要がある。 五 匿SAとソ連の協定について ソ連を中心とする社会主義諸国聞の国際宇宙協力の法制度は、ソビエット科学アカデミーの宇宙空間の探査及び利 用に於ける国際協力評議会︵略称インターコスモス評議会︶に於いて整備されてきた。各国が認めているようにソ連 の宇宙開発は優秀で他国をリードするものがあり、ソ連宇宙総局︵OU>く凶○ωζ○ω︶の貢献がみられる。ソ連の 改革が進み、西側は、ソ連の強力なロケットや長期宇宙滞在の経験に魅力を感じており、ソ連と独国は、一九九二年 に独国人宇宙飛行士を乗せ、ソ連の宇宙軌導科学ステーション﹁、、、ール﹂︵..寓嘗..。。葱8簿蝕S︶を打上げる商業 べ;スの契約に一九九〇年四月調印した。 欧州宇宙機関︵国弩○需§ω短8︾αQ象身.ESA、加盟一三力国︶は、ソ連との宇宙探査分野での協力促進のた めの初の協定に一九九〇年四月中に調印すると発表した。ESAは、これは極めて重要な一歩としており、ソ連は宇 宙分野で豊富な経験をもっているので、協力は双方にとって有益なものとなるとしている。これまでは、ESAの前 身の一つである欧州宇宙研究機構がソ連科学アカデミ⋮との交換書簡に基づいて主として科学的な情報の交換を行っ てきた。新しい協定は、太陽系の探査や宇宙天文学、宇宙物理学、地球観測等の分野での活動を含むものとなり、共
同事業を勧告するための作業部会も設立されるが、資金の交流は含まれていない。 六 欧州宇宙法センターの発足の意義 ESA︵本部・パリ︶の外郭団体であるECSL︵欧州宇宙法センター︶が一九九〇年発足し活動が開始された。 宇宙活動によって発生した利益や得られた知識は、何人に属し、それを如何に保証するかが重要となってきた。国際 法、国内法を早晩整備すべきとの意見は強い。しかし、何処の国でもない宇宙に国家毎違った考えで成立してきた法 の枠組みを当はめるのは困難である。そこで、ECSLは、当面、各国の宇宙に関する国内法や特許関連法等を集め、 検索と情報交換できるデ⋮タベース︵ESALEX︶を作成することに最も力を入れている。そして一九九一年春頃 からサービス開始を目差している。具体的課題は、まず人工衛星によつて得られた情報の保護となっている。米国に は不十分ながら法律はあるがESA諸国にはない。例えば、自分の家屋にアンテナを立て、外国の衛星から送られて くるデータを受けて解析し、それを売却したとしても、それを取締まる国際法は存在しない。また、宇宙で得られた 新知識の保護の問題がある。もし、或る会社が宇宙基地内で新しい技術を開発した場合、それを何処の国の特許法で 保守すればよいのかということである。前述した日本も参加の宇宙基地では、各実験棟内の管轄権は所有国にあると 一応決めてある。しかし、各国はそれぞれ違った特許法を有しており完全ではない。こうした分野に如何に最適なも のを作出するか難しい。また、宇宙基地内での犯罪について各国の乗組員はその出身国の司法権で管理されることに なってい胤。しかし、これだけでは不十分なので、第一義的な司法権を米国に与えるとの合意もある。これには米国 東洋法 学 五七
宇宙法と宇宙政策の進展 五八 内に着陸の際、米国人以外の乗組員でも逮捕する権利も含まれる。こうしたものは、宇宙基地協定での計画だけの合 ハまレ 意であり、今後のことは改めて検討が必要であって、この欧州宇宙法センタ⋮への期待と意義は大きい。 ︵i︶ 拙稿讐宇宙開発と宇宙法の進展について﹂比較法第二六号。 七 宇宙活動による損審についての甕任条約の概要と適用閥題 ︸九七二年三月、宇宙活動に関する基本条約に盛り込まれた国際的責任原則の理念を具体化した﹁宇宙物体により 引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約︵↓箒O窪毒簿一8象H簿巽惹ぎ鑓︸口菩濠受︷9U餌簿お① 9蕊&ξω饗80蕊8房︶﹂︵以下責任条約と略称する︶が成立している。宇宙条約第六条は、条約の当事国の宇宙 活動についての国際的責任︵一簿Φ旨蝕o霊ごΦ巷o器一ぴ蕪蔓︶に関する基本原則を規定している。また、第七条は、条 約の当事国の宇宙活動により引き起こされた損害についての国際的責任︵営憲暴ぎ壼=㌶瓢一帥蔓︶に関する基本原 則を規定している。この宇宙条約は、国際連合が宇宙活動に適用される国際的法原則の確立を目差して、主体的に立 法活動を開始した当初より、宇宙物体事故に起因する損害についての国際的責任をめぐる問題に、一種優先的取扱い を与えることを考慮したものといえる。しかしながら、立法作業の過程で、国際連合は、まず、基本条約である宇宙
パ レ 条約の成立に努力を傾注したものは、宇宙活動一般に適用される基本条約を確立する必要があったからである。宇宙 条約第六条は、前述したように、国際保証責任を定めたもので、宇宙活動を行う主体が政府機関である場合は勿論の こと、その国の管轄下にある私企業その他の非政府団体︵8﹃αQO毒§象邑①9獣霧︶であっても区別せずに、凡そ、 これを自国の宇宙活動について、その実施主体の如何に関わりなく、国への責任帰属を認めている点が特長である。 また、各当事国は、このような自国の宇宙活動が全て、宇宙条約の規定に従って行われるように確保する条約上の責 任︵保証責任︶を負う。さらに、各国の管轄下にある私企業その他の非政府団体が宇宙活動を行うためには、当該、 当事国の許可及び継続的監督︵震渉a欝ぎ口餌巳8纂一蒙睡轟ω巷R<芭象︶を必要とする。第七条は、賠償責任を 規定しており、宇宙活動によって他国またはその国民の生命・財産を侵害したときには、全てその国の国際法上の法 益を侵害したものとして、その国に対する直接損害を構成するのであり、これに対応して当該の事業体の本国は、損 パ レ 害賠償に関する直接責任を負うことになる。責任条約は、これを受けてなされているといえよう。宇宙空聞平和利用 委員会︵↓ぎOo露簿難80讐訂勺So臥巳¢。 。Φω○︷○暮禽ω窓8︶は、一九七一年九月一〇日、宇宙物体により引き 起こされる損害についての国際的責任に関する条約を採択し、同年二月二九日、総会に於いて、この条約を採択す ハぽ るに至っている。責任条約は、一九七二年三月二九日、ロンドン、モスクワ及びワシントンで作成され、七ニカ国が ハさ 署名をしている。この条約は、その第二四条第三項の規定に基づき、同年九月に発効している。この責任条約は、宇 宙機器の打上げという非常に危険な行為︵霞欝訂鋸aOま8簿<一蔓︶により第三者に対して引き起こされる損害に ついて、十分且つ衡平な賠償が迅速に行われることを確保するという目的から、打上げが政府機関によって行われる 東 洋 法 学 五九
宇宙法と宇宙政策の進展 六〇 か、私企業によって行われるかを問わず、その対外的責任、すなわち、その国際的責任を国が負うという新しい構想 を採用し、被害者の現実的救済の機会と保証を増大させている。また、この条約は、特定の国際的政府機関の国際的 責任の主体性を承認するけれども、究極的には、政府間機関の構成国の国家責任を追求し得る構想も同時に実現して いる。責任条約に於いて意図された責任制度は、基本的には絶対且つ無限責任の構想を採用した。条約に採り入れら れた絶対責任の原則は、他の責任条約に比べて、免責事由の極めて制限されたものであるという特徴を有している。 そして、第三国が運航する宇宙物体自体に与えられた損害に対しては、基本原則とは異なり、過失責任の原則が採用 されている。責任条約は、適用領域については制限が課せられていない。基本的には、地︵表︶上︵〇三ぽ舞募︶ 大気空間︵魯ω葛8︶、宇宙空間︵o無鶏ω短8︶である。用語として、﹁地上︵象夢Φωξ欲80P訂Φ銭夢︶﹂と地 上以外の場所︵Φ一ωΦ類訂8夢磐睾簿①。 。畦欝89爵ΦS困魯︶﹂という二つの領域を使用している。ソ連の原子炉衛星 墜落事故のような宇宙物体による﹁地上﹂の人的・物的損害について絶対責任の原則を採用している。この﹁地上﹂ という用語は、国の領土主権をその基礎とするものではなく、特定国の領土内に於いて引き起こされた損害は固より、 公海上の船舶等に加えられた損害、中立地域等における損害も対象と考えられる。損害が宇宙物体により門地上以外 の場所﹂で引き起こされたとき、損害を被った人もしくは財産の性質に一定の制限を課している。この﹁場所﹂の概 へさレ 念は、宇宙条約の﹁大気空間︵聾ω短8﹀﹂と﹁宇宙空間︵○暮①訟短8︶﹂を含むものと解釈できる。そして、この 場所での損害客体は、飛行中の航空機、他の宇宙物体またはその宇宙物体内の人もしくは財産に限定されている。こ の前者に対しては絶対責任の原則が、後者に対しては過失責任の原則が適用されている。責任条約は、損害を宇宙物
体︵88①鉱oε9需︶にょり引き起こされたものに限定している。第一条第⑥号において、﹁宇宙物体﹂は、宇宙 物体の構成部分並に宇宙物体の打上げ機器及びそれらの部分を含む︵8箒聾欝.、ω窓80三①9..汐9&①ω8讐℃9 器馨饗器○諭短80ε9諾霧一樫ω鼠欝3お露9①磐α饗冨浮①困。9ごとしている。損害は、この宇宙物体により引 き起こされたものにほかならないが、この規定は、一種の例示規定であり、実質的定義を定めたものではなく、飛行 物体との区別の問題も生じる。スペースシャトル等は航空機と宇宙物体の二つの性質を具有しており、気体力学的浮 力を用いて大気中を離着陸する場合は、外国航空機が地上の第三者に与えた損害に関する国際的責任条約としての一 九五二年ロ!マ条約が考慮されることにもなろう。ソ連原子炉衛星墜落事故にみられるように、宇宙物体事故に適用 される責任原則が、絶対責任の原則か、過失責任の原則かを問わず、損害賠償の請求国は、当該損害が特定打上げ国 の宇宙物体により引き起こされたという事実自体は立証しなければならない︵第二条、第三条、第四条︶。このうち、 第三条、第四条に基づき、過失責任が問われる場合は、請求国はさらに打上げ国側の過失の存在を立証しなければな らない。責任条約の適用上、損害とは、生命の喪失、身体の傷害もしくはその他の健康の障害または国、自然人、法 人もしくは国際的政府間機関の財産の滅失もしくは鍛損をいう︵第一条第@号︶。身体損害は、宇宙物体との物理的 影響により与えられた傷害は固より、宇宙物体から発散する微生物、物質もしくは放射能等の汚染から引き起こされ る傷害も含む。また、財産損害は、宇宙物体との物理的影響により与えられた滅失・穀損の場合は固より、宇宙物体 から発散する微生物、物質もしくは放射能等の汚染に起因する財産の利用価値の全部的または部分的減少の場合も含 まれる。地上損害等に対して責任条約が課す責任原則は、ほぼ文字通りの絶対責任の原則である。責任条約の解釈上、 東 洋 法 学 六一
宇宙法と宇宙政策の進展 六二 極度に特別の事情による損害に対しても、打上げ国は、無条件で賠償責任を負うことになる。すなわち、打上げ国は、 損害が、武力紛争︵象導a8昆算﹀、内乱︵o一昆α算貰ぴ磐8︶、暴動︵欝ωξ諾象8︶、不可抗力もしくは自然的 災害︵鍵8βε①蔑①9暴露邑α駿霧§︶に起因する場合でも、無条件で賠償責任を負うことになる。何れにあっ ても加害者の予見可能性の有無を問うことは不要であり、第三者の行為の介入により発生した場合には、特別の事情 による損害とみてよいと考えられ、この場合でも、勿論、打上げ国は無条件で賠償責任を負う。責任条約は、特別の 事情による損害について、加害者の予見可能性を問題にし得る唯一の例外的場合を承認している。それは偶発的に被 害者の寄与行為が加わる場合である。但し、その行為は故意か重過失に限定される︵第六条一項︶。そこで、この場 合は、被害者の故意もしくは重過失ある寄与行為の介入という特別の事情につき、加害者の予見可能性の有無が問わ れることになる。なお、核兵器搭載の宇宙物体事故の場合︵宇宙条約第四条参照︶には、単に、原因行為が無ければ 発生しないという条件的因果関係のある結果に対して責任をとらせる考え方が妥当であると解せられよう。意欲され た結果は、予見出来ないものであっても、責任を負うべきであり、ここでは、被害者に寄与行為が存在しても、免責 の抗弁とすることはできない︵第六条第二項︶。地上損害等の場合には、加害者である打上げ国は、原則として、加 害行為と条件的因果関係のある損害に対し、賠償責任を負うことになるが、条件的因果関係が無限に展開されるもの とみる必要はない。この因果関係が国際法並に国際法上の正義及び衡平の原則という基準により、その無限の連鎖を 切断されることになることは留意されなければならない。責任条約は、賠償額についての若干の規定を置いている。 賠償は、金銭賠償の方法により、原則は、請求国の通貨または、請求国の要請がある場合は、賠償国の通貨によって
なされるとする︵第ご二条︶。しかし、賠償額の決定については、当該損害が生じなかったとしたならば存在したで あろう状態に回復させる補償がなされなければならないという原則を述べるに留まっている︵第一二条︶。賠償額決 ハ マ 定の準拠法は、国際法並に正義及び衡平の原則である︵第一二条︶。責任条約の適用上、損害が原子力損害を含み、 ハァレ 且つ、原子力損害に対しても無限責任が適用されることに、国際的合意がなされている。責任条約は、特定の者に対 して引き起こされた損害について、その適用を除外する旨の規定を置いている︵第七条︶。適用除外者は、①当該打 上げ国の国籍を有する者と、②外国の国籍を有する者で、当該打上げ国の招請の結果、宇宙物体の打上げのときから その落下に至るまでの何れかの段階に於いて、当該宇宙物体の運航に参加する者、または、打上げ予定地域もしくは 回収予定地域に隣接する地域にいる者である。右の者に対して打上げ国の宇宙物体により引き起こされた損害につい パ レ て、この条約は適用されない。 ︵1︶
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2&霧獣蜜紹鱒鉱ぐき麟鎚&幻○嘱ω悶≦餌薦ピoρ竃騨雲巴○㌘麗8い働瀬餅<○一ω﹂Soo!c oごO箒⇔αq﹂簿R冬鉱8巴薫害讐蔓 ︷o円○ゆ欝お①s霧aξω饗o①〇三8貫囲竃舞轟一象ω饗○の群餌≦o oω響c o①︵零冨ωΦ馨5ぐ鴛餌節即ψ溶ぴ8亀﹂Oお︶. 浅野・野口﹁改訂空法し七三頁。 大森正仁﹁宇宙法における国家責任の法理﹂空法第二九号。 宇宙損害責任条約の起草経緯について、舅○。 。婁︸↓訂Oo箋霧鋤8Sぎ$欝践○轟一口ぎ濠蔓︷9U鎖導おΦ9霧&ξ ω窟80どΦ9ω﹂○○睾匙卿雷イω﹂馨、一ピ﹂零︵お認︶vρPOぼ馨○謬6ぎ竃&①簿H馨①導雛○欝一ピ讐○︷○葺段ω窓8 諸−蕊o 。︵這o oN︶︶関口雅夫﹁宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約﹂駒沢大学法学論集第二 東 洋 法 学 六三︵4︶
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︵7︶ ︵8︶ 宇宙法と宇宙政策の進展 六四 三号二九ー六二頁。 ﹁宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約﹂外務省条約局鴨条約集︵昭和五十八年多数国 闘条約ζ 一九七ー一二五頁。菊①2誹○コ訂○○欝葺箒①s薪の男窪8裟9①ω象○暮Rω饗8⇔箔ご8.︾\o o爵ρ象 c。 ︵る譲︶齢¢‘翼・ρ男●菊①ω。ωミ↓︵×図≦︶o︷嬢○︿①導げΦるΦ︸一㊤ミ● 目賀田周一郎﹁宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約し法令解説資料総覧三六号一八七 頁︵一九八三︶。 窯鶏貫箔鋒︶︾魯8饗8い鋼≦︸即○簿ω9①呂導潤巷一9鋤鋤8800欝影①盈巴¢臨獄鑓鋤8︸︵おミyマ頴9 ゆξ竃︶08くΦ簿一〇拶○⇒H簿の旨薮o蒙一蒙筈象蔓︷○同O帥箏餌αQ①8奮aξω窓809Φg望Uの穿鯨○鄭磐餌U露①円盆鍔け一呂○︷ U毯お霧蹄韓浮Φ○○ω導○ω⑩無ぎo筏Φ簿︸o o男○箆鶴濤H纂、︸い﹂﹄脇るo oG 。ーNo 。O︵おG 。腿盧c 。Oy 頃○簿2≦肇●︸↓訂OO嚢o簿一80類囲馨の導象ご駕一¢餌蓬一蔓8桝り麟導潔ΦO磐ω&ω冨80蕊①9も 。し○○霧,KΦ幾ωOo犀H琴 劉︵む認︶篭﹂密⋮一竃﹄o審8ひ 影&餌ω獣闘ω①馨島看欝鎚&幻2鍵蓄諮匿①﹂竃鋤建巴・︷98①ピ睾︶奪。一ω一零・ 。ー。 。ごω8審Φ質○・δく①﹂9紳邑 ω馨①ωω窟8ピ睾︵2蝕8巴勲且H馨①簿銭8巴即①αQ巳呂8︶おo 。狸○○箆導餌鵠”2讐げ碧ρ︾3包o当ω饗8い馨﹂鷺。H欝− 鋤象巴き儀Uo欝①ω蹴P這c oS 八 宇宙活動と宇宙環境の保全 ソ連がスプ⋮トニックー号を打上げてから三四年が経過し、これまでに発表確認されたロケットは三千個以上とな っている。年月の経過に伴い用済み衛星が増えるに従って、地球周辺の宇宙空間は環境汚染の問題を提起している。宇宙空間に漂い、宇宙ステ⋮ションや衛星にとっても障害となるω聴8留げ9︵宇宙のゴミ︶の実態把握と問題点 の整理等をわが国も行ない、得意の衝突予測モデル作成等による宇宙環境保全への貢献が期待されている。米国の調 査によると寿命の尽きた人工衛星をはじめ、衛星やロケットから出た廃棄物等が宇宙空聞に散乱しているとされる。 一〇センチ以上の物だけが六千から七千個あり、ミクロン単位の小さな物まで含めると、数万から数十万個に及び、 重量にして二千トンに上り、軌道上の物体の全重量の約九五パ⋮セントは留ぼ諺とされる。このデブリが何かと衝 突時の平均衝突速度は毎秒一〇キロで、一センチ以下の破片が衝突しても衛星等に大きなダメージを与える。このこ とから、米国や欧州機関は報告書を作成して重要性を訴えてきた。ソ連は、電力源として小型原子炉を搭載した原子 炉衛星の開発に力を注いできた。一九六二年以来、既に三〇を超す原子炉衛星を打上げてきたと一般に測されている。 このような衛星は、ソ連側の発表によると数十日間の原子炉の寿命が尽きると、原子炉の部分だけは高い軌道に打出 され、数百年は地球に落下しないように設計されている。しかし、ガンマ線異常は、原子炉の打出しに失敗したか、 秘密の原子炉衛星が打上げられている証拠とされる。事故や故障も絶えず、一九七八年一月、コスモス九五四号がカ パき ナダ北西部に墜落、放射能汚染された破片をばら撒いた。一九八三年二月には、コスモス∼四〇二号が大気圏に再突 入した。南大西洋の上空で燃え尽きたと米ソ両国は発表したが、四五キロのウラン燃料と一万キュリ⋮の死の灰は不 明である。一方、米国は、一九六〇年代から原子力電池を積載した衛星を開発してきた。プルトニウム等の放射性同 位元素から出る熱を電気に変えるもので、二二個を打上げている。原子炉衛星のようにガンマ線を発生させることは 少ないが、一九六四年四月には大気圏で壊れ、多量のプルトニゥムを放出した事故もある。米国の専門家にょると、 東洋法学 六五
宇宙法と宇宙政策の進展 六六 パおレ 米ソ合わせ、打上げ原子炉衛星、原子力電池衛星の数個に一個は事故か故障を起こしているとしている。宇宙汚染は、 一九八八年八月、米国ボルチモア市で開催された国際天文学連合でも問題になった。多過ぎる宇宙物体が天体観測の 妨げになるというものであった。宇宙条約は、第三条に於いて核兵器等大量破壊兵器を軌道に乗せることを禁じると 共に、第九条に於いて、宇宙空問の有害な汚染を避けるよう求めていると解釈できる。原子炉は大量破壊兵器ではな いにしても、有害汚染を齎す恐れはあり、少なくとも条約の精神に反するものといえよう。原子炉搭載衛星でないに しても、現在、われわれが通信衛星等で便利を亨受しているが、後世の人々に、これら数多くの宇宙機器の破片が今 後、四、五〇年には続々と降り注ぎ始めることを考えなければならない。勿論、環境汚染の問題ばかりではなく、直 接、身体や財産に被害を齎すことは十分考慮しなければならない。 ︵1︶ ︵2︶ Oo3<①︸Ooω導○ωΦ総﹂ω鶏Φω○︷い伽≦節巳男o嬬oざ①︾ω℃伽8い●蕊刈︵一零o oご類器慧噂速一︶ω○響Φ○げ器宅毘○誘8夢① 9鋤魯o脇○○ω簿○ωOO♪答鶏区S 切80Pゼ一魯濠蔓o略夢①d融け&ω§①。 。Oo<①旨奪①馨︷90暮Rω饗8︾o鋤く鑓①ω毒田oゲおG 。巳櫛欝ぎ甘H一①。 。”O勲鰻お80門 U①象げ88賊象梶8α鐵齢a9顛竃ω瓢霧一8巴い伽∼鰹︸●︾帥HrOo琶導①H80 ◎8︵這o o①y
九 宇宙活動の商薬化と課題 宇宙活動の商業化が世界的な潮流となっており、これに伴って宇宙産業の事業範囲も拡大しつつある。わが国でも 人工衛星・ロケットの商業的生産・運用の実現は宇宙産業の総合的実力の向上に有効であり、今後ともに諸外国との 適切な連携関係の構築を探る等の商業化実現に向けての方策を検討することが重要である。 米国では一九八三年三月以来、インテルサットとは別の通信衛星を打上げて、大陸間の国際衛星通信サービスを提 供する計画を有する私企業が出現し、連邦通信委員会︵譲留邑○○露臼暮8&○霧○○導鼠ω鴇○ヨ実δVに対し認可 申請を行ってきたが、インテルサットに与える経済的影響を考慮した米国の外交政策により、次の二つの条件付で、 一九八五年より認可されるようになった。ω公衆交換網に接続されない通信用でトランスポンダ等の販売、または一 年以上の長期リースに限定されること、ω外国主管庁がシステムの使用を承認し、インテルサット協定第一四条⑥項 ハき に基づくシステム間調整の協議に米国と共同で入ること、である。一九八八年二月の米国新国家宇宙政策のうち商業 化面での主要事項は、ω政府機関は、可能な限り、連邦政府の直接補助なしに民閻部門の宇宙能力の開発及び利用を 奨励する、働国の打上げ用財産、施設、サービスの実費での商業利用を可能とする、@シャトルの商業利用の禁止、 ㈲NASA自身による使い捨て型ロケットの運用の禁止︵民間の運営とする︶、@米国政府による民間の商業宇宙輸 送サービス購入の促進、@政府が他国と宇宙関連の技術開発・移転協定を締結する場合に、これらの国々の商業宇宙 活動に於ける自由、公平な貿易を実践せしめる、@政府にょる宇宙輸送コスト低減のための研究開発促進と、政府開
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宇宙法と宇宙政策の進展 六八 発の宇宙技術の民間への移転促進、⑥米国政府は、外国のシステムより優れたりモートセンシングの商業化システム の開発を奨励する、となっている。米国内に於ける今後の計画として、NASAは宇宙ステーションの利用目的の一 つに宇宙商業化︵ω饗800欝簿R。乾N鶏一象︶を掲げており、その実験を図るため、宇宙環境利用の一層積極的な推 進に資するようスペ⋮スシャトルを利用する新しい幾つかのプロジョクトを計画している。 ︵1︶ 騨鷺曽騨潮ミ§腎駄boミ携誉9ミ§§帖ミ職§防象巡N辞笥§難織塁3さ醤、9竃ミミ§ミ肉ミ帖辞勲UO良露瓢9♂おG 臼︸ωo o閃OOboα ①①㎝︵お刈鱒︶ー お わ り に 宇宙条約や協定も宇宙空問の開発・利用については、平和利用に限る旨を定めていることは最も重要な点である。 宇宙活動をめぐる国家責任も宇宙条約第六条及び第七条に関連して規定が置かれている。但し、﹁自国の活動﹂ ︵欝ぎ器一8牙獣霧︶の意味が明確ではないとの指摘もある。月協定も第一四条に於いて責任に関する規定を置い ている。宇宙損害責任条約では無過失責任原則が導入されているが、国際責任及よび保証責任をより論争する必要が ある。今や法律問題も宇宙を避けて通れぬ現状にあることを認識すべきであろう。 高度な技術を注ぎ込んだ宇宙開発での東西の協力は、冷戦終了の結果であり、一層の東西関係改善に貢献する。そ
のために改めて宇宙法の重要性が問い直される。宇宙環境の汚れの問題もあり、宇宙開発の無秩序な結果は、競争の 激化を受けて、衛星の破片のほか投棄された器材等の宇宙のごみが急増し、シャトルや将来の宇宙基地を直撃した場 合、致命的な打撃を与える恐れがあり、法的な規制の研究が急務となっている。 宇宙聞発に伴う各種の宇宙機器及び施設には莫大な資金を要するが、通信衛星を中心として商業的衛星の打上げに ついて、設備信託︵①貿む鷺窪箕鰹琢︶の法理の応用も考慮される。従来のように宇宙開発は国家事業の独占的観念 をもってすれば、そこに信託理論を導入する余地は少ないが、宇宙産業の発展は、人工衛星の利用ばかりでなく民間 企業による宇宙開発も各種考慮される。宇宙往還機とされるスペースプレーンの建造費も巨額となるが、航空機信託 も考えられる。この点は後日、論究したい。何れにしても宇宙開発に伴って生ずる法的問題は、従来の法的観念では 解決できない諸点が包蔵されている。今回は概要の一端を論究したに過ぎず、自分ながら物足りなさを痛感している。 反省を重ね基本的問題を今後挑戦してゆきたい。 東 洋 法 学 六九