金融革新と金融先物取引法の素描
著者
浅野 裕司
著者別名
Y. Asano
雑誌名
東洋法学
巻
32
号
2
ページ
1-16
発行年
1989-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003548/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja金融革新と金融先物取引法の素描
浅 野 裕 司
はじめに
国際金融市場のグ買ーバル化︵α q一〇ぴ聾里一窪︶が進行し、国際的な規模での市場の統合︵一馨。鵯呂8︶、各国市場の 自由化に伴う金融革新︵穿磐o芭汐8奉ぎ昌︶、金融の証券化︵ω①8簿欝鳥曾︶の動きのなかにあって、昭和六三年 五月、金融先物取引法︵法律第七七号︶が公布された。金融先物取引とは、ある特定の金融商品の基準数量を、将来 の一時点に、ある取引所のなかで契約された一定の価格で売買することを約束する双務契約である。したがって、こ の金融先物取引は、国債や株式などの有価証券、また通貨や預金を将来のある時期︵限月︶に決済することを約束す る取引であり、将来、発生しそうな価格変動リスクや金利変動リスクに対して、ヘッジ機能を果すことができること から注目されている。先物取引におけるヘッジ機能というのは、現物市場で行われる将来の取引の代役として、現物 市場の同額かつ正反対のポジションを先物市場に設定しておき、将来の現物市場における損失を先物市場で得られる 東洋法学 一金融革新と金融先物取引法の素描 二 利益で相殺する仕組みである。 金融先物取引の始まりは、一九七二年五月、米国において主要外国通貨の先物取引が開始されたときにあり、以後、 一九七九年オ⋮ストラリア、八○年カナダ、八二年英国、八四年シンガポールと次々に先物取引所がオ⋮プンし、フ ランス、香港、スウェーデン、オランダなどでも金融先物取引が開始されている。西独なども市場創設が準備されて いるといわれている。わが国でも金融先物取引が本格化しようとしており、昭和六三年九月から東京、大阪両証券取 引所で株価指数の先物取引がスタートしたのに続いて、平成元年六月には、為替や金利を取扱う金融先物取引所が東 京に開設される。さらに、東証、大証の株価指数先物が米国の先物取引所にも上場されることが本決りとなるなど、 国際化も着々と進んでいる。金融先物取引が注目されている理由は、多数の金融資産を保有している機関投資家や事 業法人が、自己責任で価格変動のジスクを管理する場合、現物に比べると、何パーセントかの安いコストでヘッジで きるからである。金融先物取引法の施行により、わが国においても、本格的な先物・オプション時代の幕が開かれた ことになる。 わが国は、米国など先物取引の先進国からみれば、まだ市場の整備が遅れていることは事実であるが、金融の自由 化、国際化の急速な進展に対処するには、金融先物取引制度を導入し、各種の金融取引にかかる金利変動または為替 変動の危険を回避するためにも法的な整備を図ることは当然といえる。これにより通貨または預金債権などの先物取 引、金融指標先物取引および金融オプション取引からなる金融先物取引所の設立となった。また、金融先物取引ある いは外国市場金融先物取引の委託を受け、またはその委託の媒介、取次もしくは代理を引受けることを業として行う
金融先物取引業者に?いて規制することになった、六月にも、ユ⋮ロ円預金、ユi皿ドル預金、円通貨の先物取引も 新たに開設されるこうした金融先物取引所に上場されることになろう。そこで、米国の金融先物取引の概要、わが国 の金融先物取引法制定の背景、内容、仕組、または必要性などの素描を試みたい。 米国における金融先物取引と法規制 先物取引︵団葺舞霧建&一詣︶は、売買の当事者が一定の商品を将来の一定の時期︵または一定の期間︶に、現時点 で契約した価格で受渡しすることをあらかじめ約束しておく契約である。英国の先物取引が自主規制を建前として発 展し、今日もそれを堅持しており、経済社会もそれを容認しているのに対し、米国では、規制された市場︵ヵ。αq巳象亀 駕毘褒︶であるといわれる。金融先物取引は、米国において一九七二年五月一六日、シカゴ商業取引所︵○注8αQO ピ霞8馨瀞国図魯磐αq①“CME︶が新規事業部門として金融先物部門の国際通貨市場︵ぎ審讐呂8巴ζo器欝蔓鼠鉱鼻 “IMM︶を創設し、主要外国通貨の為替差損の回避手段を提供すべく通貨先物取引︵窪瑛窪2︷葺霞傍︶を開始した ︵1︶ のが始まりとされている。これは、既往の商品先物取引の概念を応用・発展させたもので、一九七一年八月一五日の 米国の金・ドル交換停止宣言を契機として、外国為替相場制移行に伴い乱高下を繰り返しはじめたことを背景に、こ ︵2︶ の為替変動リスクを回避したいという二iズの増大に呼応して誕生したものである。初の金融先物といわれるCME の外国通貨は、一九七二年五月一六日から売買が始まっているが、一九七五年七月一八日、正式に﹁契約市場︵Oq 導塗9目効詩簿︶﹂として指定を受けている。外国通貨の先物は、CMEが先鞭をつけたといわれているが、一九七〇年 東洋法学 三
金融革新と金融先物取引法の素描 四 にニューヨーク物産取引所が姉妹取引所として設立した国際商業取引所︵汐醇暴ぎ髭一〇〇導導鷲。一巴国蓉ゲ磐αQの︶にお いて、外国通貨六種︵日本・円、英国・ポンド、スイス・フラン、フランス・フラン、ドイツ.マルク、イタリア. リラ︶の先物を同年四月二三日から開始している。しかし、出来高不振で取引所も消滅している。金融先物が本格的 にスタートしたのは、一九七四年の商品先物取引委員会法︵Oo営筥o象蔓国q言おの↓錨黛おOo目鼠量8︾99一竃藤︶ ︵3︶ によって、あらゆるものの先物が認知されてからのことである。こうした市場の規制と振興という二律背反的になり がちな使命を遂行するのが、商晶先物取引委員会︵Oo舅o島蔓蜀償嘗おの↓篤蝕おOo旨筥盗8”CFTC︶であり、 このCFTCは商品取引法︵一九二二年九月二一日成立、Oo目目o島蔓創蓉酵轟Φ︾9︶の改正法という形式で、一九 七四年一〇月二三日成立した前述の商晶先物取引委員会法にもとづいて設立された。一九七四年の法改正で、商品の 定義が改められ、有形無形を問わず﹁すべての物品ならびにすべてのサービス、権利および権益﹂︵毘o爵Rひq8房 目飢費ぎ一β﹄ωR≦08は讐房碧傷一馨Φ窮邑で﹁現在または将来において先物取引の対象となるもの﹂が加えられ ることになり、金融先物が相次ぎ登場する端緒となった。CFTCは、実物取引︵9路︶とか先渡し取引︵哨9≦魯鼠︶ には関知しないが、先物取引︵閏償貸窮︶に関してはその対象商品を認可する権限、および取引所を指定する権限、当 該商品の取引内容を承認する権限、および取引所の規則を承認する権限を有しており、取引所規則を変更させる権限 を有している。このことは、先物取引については指定された商品を指定された取引所で取引する以外の方法を認めな いということであり、CFTCの承認を受けていない取引所での先物取引は違法であって処罰される。CFTCは、 強力かっ広範屈な権限を与えられているが、それを実行しやすいように証券取引委員会︵SECVと伺じく大統領直
轄の委員会となっており、五名の委員︵Oo目昆凱o幕騒︶は上院の助言と同意にもとづき大統領が任命することにな っており任期は五年である。一九七三年一〇月、第一次オイルショックを契機に金利変動が激化しはじめたことから 金利変動リスク回避の二ーズも高まり七五年一〇月二〇臼、政府住宅抵当証券︵Oo<の簑目Φ纂2&8巴ζ9茜茜①︾叩 89蝕畠”GNMA︶の先物取引をシカゴ取引所︵O窯。おoω8鼠o︷串&Φ”CBT︶において開始したのが金利先 物取引︵汐醇婁罠帯律賞虜︶の始まりである。先物取引法︵関信葺奮↓鎚島褥︾9︶は一九七八年と一九八三年に改 ︵4︶ 正された。一九八六年の先物取引法︵蜀q霞Φωギ鑑ぼαQ︾99おo 。①︶は、同年一一月一〇日、レーガン大統領の署名 とともに成立した。一九八六年にはいくつかの重要な改正が加えられている。先物取引の詐欺禁止規定は、取引所取 引にのみ適用されるのではないかといった解釈上の疑義があったが、これを明確にし、﹁いかなる先物取引についても 詐欺行為を禁止する﹂こととした。また、金、銀、コイン、プラチナを除き禁止されていたリバレージ契約を二年内 に解除することとし、どれだけの会社がこの種の業務に参加を希望している調査の上、これを議会に規制方法を添え て提出することとなった。このほか国外における調査権限をCFTCに与えたり、自主規制先物協会として全国先物 ︵5︶ 協会︵2効3巴団鐸葺誘の︾器09象一8︶の権限を強化する規定が設けられた。 ︵エ︶ 竃簿8津坤&露き・穆竃2①&協霞男¢欝器ω霞o鱒①錺汐O離霞窪。奮︸密譲●河村幹夫﹁ザ・シカゴマーケット﹂。高橋弘﹁アメ リカの先物市場﹂。清水正俊﹁金融先物・オプション取引﹂︵国際金融資本市場所収︶。○露。おo閃8泣縁浮&漁9§ミo爲量 ↓ミ駐醤鱗§醤§Nヤ一Sご畢︸○○ωの節の●楓蜘簿①ざ↓ミ肉偽§oミ魯⇔魚㌔ミミ題↓ミ戚き鱗おお引勺o駿鴇ト閤舘静き”蚕§、 §8神蔑き臥ミ禽塞ミぎ貧︸○ぎ≦一一2節ωo霧”囲琴‘おG 。戯し>同魯無︾呂禽零P霊暴琴芭男q葺おのこおo 。⑩しZき身題
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金融革新と金融先物取引法の素描 六 拶o浮曾①一P↓ぼ謡餌”創ぎo即o︷望βき9巴悔5霞霧”ごoo距 ︵2︶ω欝巳2寄。瓢節ω露ω葬o疑惹ダ楠ミ9ミ§&ミ寒艦繋8さ幕織O黒蟄一S。。◎ ︵3︶評畦︾い浮無舞P↓ミO§偽欝嵐黛ミ守8神焦煽慧ミ諺蜜ミ神織勲る。 。①し、.辞導唱o。。ご簿一幻紹巳蝕op・翫9欝欝・伽ぽ︾ 男¢g審の↓鋸儀欝αq、、︸肉§ミ黛卜黛竃智ミ蕊ミ”く○一・卜 0329♪屑帥瓢おおし≦6ρピ餌ξω︾、.ω℃oo鼠象一8き餌勺は8一霧貫げ篤蔓 o⇒同簿o鐸跨δ霧囲Oo睡臼○象な男葺霞oω竃鴛訂誘.、︸¢巳齢&2帥鉱o湧OO無R窪80類↓円銭Φ顛⇔山U①︿色○℃旨①馨”司①す一零し 匂R蔓名。霞錠一畠餌糞節︸○﹃⇒鼠。ω30訂一︾智‘..ω①一騰力紹鉱鶏一〇⇒藁類α段象①Ooヨ導o岳蔓南蓉ぴ簿βαQΦ諺96簿p夢oO切↓○ 鼠聾Φぽ≦o降り.、留ミ嵐職題肉鳴嚥ミ幾蝋§庫卜貸ミ霜愚ミ詳2ρo o①oo”ω9・ど一零9甲︸R曙≦。竃帥築誇簿節U麩箆8 0影幕お”、.男a巽巴菊Φαq鉱鎚鉱80隔じ ご餌膨財︾o鉱蕊鉱のる 。汐夢①Oo露臼o島曙︼≦錠一3錺、””↓ミ切暴噺蕊鴇卜Qミ遙きく○歴o oP2ρ合 ︾qσq5道這o o戯し団傷○導○&幻’ωoぼo&醇餉ω霧き蒙お齢男o鵠8﹃。、○○営旨o無鉱①ω男のαQ鉱舞一〇p、、︾↓蕊肉鳴蔑恥ミo、砺8ミ慧8 肉鳴嚇ミ黛織§ヤくo一・Go”2ρ3お温し○男↓ρOo箏箏○象な男鷺幾①ω↓壁血ぎの○○欝導一。。ω一〇p︾博⇒信亀男薯o詳一〇G oO∼ごo oooしハ萄 ↓POo露きo鎌蔓国蓉び帥鄭αQo︾9器︾簿窪山&餌⇒飢菊oαq巳象δ霧日ぼ器錬けoびおo oo o。 ︵4︶密臼2ω。菊o器p..穆訂富窟g9夢①響窪奮炉&帥お︾go口。G 。鱒¢や80§馨伽ξ男茜巳蝕8、、︸↓ミ智ミミN亀 憶ミ黛還的蜜ミぎ貧<○轡q o”290 0︸鵠qー醤o oりおo oooしO屑↓ρ膨8盈○騰Oo<o簿o誘99Φ男&R巴男霧R<Φω器富鷺りO舅弓ρ ω国P、.︾ω露α図o矯爵Φ国塗oo$○β一ゲ①勝8質o導矯o断↓H毘箭αQ汐男暮巽のω働p傷○讐一〇湧、、︾Uo8簿び震おG o鰹 ︵5︶○頃↓ρ、δ§鼠欝①馨ω9浮a。誘貯O§馨象¢男暮蓑のω︵妻窪竃巨灸08。窪霞蝕睾評鉱。ω︶霧9︾鷺醤ご・ 。8、.い ○舅縛ρ﹄§醤黛匙肉愚ミひおo o①”這o o8い2閏︾︸︾β添奏一ヵ巷○誹”おG O8 二 金融先物取引法の概要 金融先物取引法は、第一章﹁総則﹂、第二章﹁金融先物取引所﹂、第三章﹁金融先物取引業﹂、第四章﹁雑則﹂、第五 章﹁罰則の本則﹂、ならびに附則から成る。金融先物取引法における金融先物取引は、わが国の金融先物取引所で行
われる通貨または預金債権などの先物取引、金融指標先物取引および金融オプション取引をいう︵同法二条四項︶。 金融先物取引法は、このような金融先物取引を行うための市場を開設する金融先物取引所について規定をするととも に、金融先物取引または外国の金融先物取引所もしくはその類似市場で行われる外国市場金融先物取引の受託業務を 行う金融先物取引業につき包括的な規定をする。したがって、金融先物取引所の制度の整備に関する規定と金融先物 取引業者︵受託業者︶に対する規制に関する規定とがその二本柱となっている。わが国においては、すでに先物取引 の根拠法として﹁証券取引法︵改正前︶﹂、﹁商品取引所法﹂が制定されているので、基本的にはこれらの既存法との 平準化がなされている。ただし金融先物取引の先進国︵米国・英国・豪州・シンガポール︶の立法例も参考にしつ つ、特徴を有する法律となっている。 三 金融先物取引法の目的 第一条に目的を掲げており、この法律は、国民経済の適切な運営および金融先物取引などの委託者の保護に資する ため、金融先物取引所の制度を整備するとともに、金融先物取引業を営む者の業務の適正な運営を確保することによ り、金融先物取引および金融先物取引などの受託などを公正かつ円滑にすることを目的とする、としている。 四 定義と対象範囲 第二条以下に定義と対象範囲の規定を設けている。定義規定は、
東洋法学
元来、 法律の適用範囲を定めるものとしてきわめ 七金融革新と金融先物取引法の素描 八 て重要である。商品取引所法などにおける先物取引は、民法の典型契約のひとつである売買契約として捉えられてき た。しかし、先物先進国で発達をとげた金融先物取引は、その発達の過程で取引の対象が抽象化され、金利や株価指 数といった数値をもその対象とするにいたっており、近年における諸外国の立法例でも、それらの数値を対象とした 取引についても無理なく洩れなく金融先物取引の範囲に含まれるような法手当を行っている。金融先物取引法におい ても、それらを参考にした数値︵金融指標︶を対象とし、取引成立時の数値と履行期の数値との差に相当する金銭を 授受するという、民法の典型契約では捉えられない契約類型︵いわゆる無名契約︶による取引も金融先物取引に加え られている。第二条によれば、対象商品は通貨、預金その他の広く﹁金融﹂に関するもの︵大蔵省所管の金融に関す るもの︶から証券取引法上の有価証券を除いたもの︵﹁通貨等﹂︶およびそれらの指標︵﹁金融指標﹂︶である。﹁金融 指標﹂とは、通貨などの価格や利率にもとづいて算出した数値で、金融先物取引所の定めるものであり、具体例とし ては、﹁円・ドルレート﹂、﹁預金金利﹂、﹁貸出金利﹂やこれらの平均値などが考えられる。対象となる取引について は、次のようないくつかのタイプが含まれる。ω﹁売買型先物取引︵第二条四項一号︶﹂、働﹁指標型先物取引︵第二 条四項二号︶﹂、③﹁オプション取引︵第二条四項三号︶﹂、①売買型先物取引を成立させるオプション取引︵三号イ鮭 ﹁売買型先物オプション取引﹂︶、②指標型先物取引を成立させるオプション取引︵三号ロH﹁指標型先物オプション 取引﹂︶、③オプションを行使したときに期日が到来する指標型先物取引に準ずる取引を成立させるオプション取引、 ④オプションを行使したときに売買取引︵①の場合を除く︶を成立させるオプション取引︵三号ハH﹁売買型現物オ プション取引﹂︶。また、金融先物取引において﹁金融先物取引所﹂とは、金融先物取引を行うために必要な市場を開
設することを目的としてこの法律にもとづいて設立されたものをいう。﹁金融先物市場﹂とは、金融先物取引のため に金融先物取引所の開設する市場をいう。﹁金融先物取引等﹂とは、金融先物取引または金融先物市場に類似する外 国に所在する市場において行われる金融先物取引と類似の取引をいう。そして、﹁金融先物取引業﹂とは、業として 金融先物取引等の委託を受け、またはその委託の媒介、取次もしくは代理を引き受けることをいう、とし、﹁金融先 物取引業者﹂とは、第五六条の許可を受けて金融先物取引業を営む法人をいう、と規定している。 五 金融先物取引所について 金融先物取引所は、金融先物取引法により設立の方法が定められており、会員となる者一〇人以上が、発起人とな り、発起人総会、創立総会、大蔵大臣の認可などを経て設立されるが、詳細な手続は政省令による。これは、その業 務の公共性に鑑みたものであり、設置場所や数についてはとくに規定はなく、免許の申請をまって取引二⋮ズの有無 などを勘案して免許を与えるか否か個別に判断していくことになる︵第一〇条以下︶。金融先物取引所は、証券取引 所や商晶取引所と同様、会員組織の法人とされている︵第三条︶。会員の資格については、一定の形式的な資格事由 が定められている︵第一九条︶ほかは、金融先物取引所がその定款において要件を定めることとされている︵第一八 条︶。法律上、会員資格は銀行などの金融機関や証券会社に限られているわけではない。たとえば、外国法人であっ ても金融先物取引を行なうための財産的基礎、人的構成、業務遂行能力などを有する者は会員としての資格を有す る。 東 洋法学 九
金融革新と金融先物取引法の素描 一〇 場外取引については厳しく対処することにしている。すなわち、取引所取引では、出来得るかぎり多くの需要供給 が統合されることにより、公正な価格形成という本来の機能が発揮されること、取引所取引は、国および取引所によ る規制を受け秩序が保たれるのに対し、場外取引にはそのような規制が及ばないためにそこでの取引が無秩序に流れ る蓋然性が高いと判断されることなどから、金融先物取引法では、類似施設の開設およびそこでの取引や、場所にお ける金融先物取引所の相場を利用した差金の授受などを禁止している︵第六条、七条︶。業務規程には、金融先物取 引所における金融先物取引に必要な事項を規定する。具体的には、取引の対象︵通貨、預金債権、金融指標などの別 に先物取引、オプション取引の別︶や期限︵限月︶、立会時間、立会方法、値幅制限・建玉制限などの制限、決済の 方法などを決めることとなる︵三六条︶。清算機関については、先物取引は少ない証拠金で多額の取引が行なえるこ と、契約締結時と履行時または反対取引時の間に時間的隔たりがあること、さらに取引所での集団取引であり厳密な 意味で取引の相手方が特定できず、また特定できたとしても当初の相手方は別の相手との反対取引による差金決済な どで取引から離脱してしまう場合が多いことなど、取引相手に係るリスクは、現物取引に比し格段に大きなものがあ る。このようなことから欧米の先物取引所においては、取引の履行の確実性を確保し、取引の円滑化に資するため、 金融先物取引の相手方となる清算機関︵Ω窪鉱鑛出窪器︶を設置し、幅広い参加者を可能ならしめる仕組を採ってお り、金融先物取引法においてもこのような欧米型清算機関制度の採用が可能な法手当がなされた。すなわち、﹁金融 先物取引所は、定款の定めるところにより、会員に代わって当該会員の金融先物取引に基づく債権または債務につい て、当該債権を行使し、もしくは取得し、または当該債務を履行し、もしくは引受けることができる﹂︵第四〇条一
項︶といった規定が設けられ、清算機関の役割を取引所が行ない得ることとされている。金融先物取引の受託につい て、会員が金融先物取引業の許可を受け、金融先物取引の受託を行なう場合には、金融先物取引所の定める受託契約 準則によらなければならない︵第四七条一項︶。なお、仮装取引などは厳しく制裁されている。金融先物取引の市場 価格︵対価および約定数値を含む︶は将来における価格の予想などにもとづく市場の需給が統合されて形成されるべ きものである。仮装取引などは、自己が有利となる相場を自己の人為的な操作などにより形成する不公正な行為であ り、健全な相場の形成を妨げるものである。金融先物取引法では、このような行為を類型的に捉え、罰則をもって禁 止している︵第四四条︶。 六 金融先物取引業に関する規制 金融先物取引法は、金融先物取引などの委託者の保護を図るため、金融先物取引業に許可制を導入するとともに、 業者に対し、種々の行為規制が設けられている。 金融先物取引業は、その営もうとする業務を公正かつ的確に遂行することができる専門的な知識と経験を必要とす るとともに、投資者の財産に重大な影響を及ぽすものであるから、大蔵大臣の許可を受けた法人に限って営むことが できるものとされる︵第五六条︶。許可の基準としては、財産的基礎と良好な収支の見込み、業務を公正・的確に遂 行する知識・経験と十分な社会的信用が要求される︵第五九条︶。金融先物取引業の許可は、三年の期限付であるが ︵第六〇条︶、有効期間の満了後も引き続き許可にかかる金融先物取引業を営もうとする者は、大蔵大臣の行う有効
東洋法学 二
金融革新と金融先物取引法の素描 一二 期間の更新を受けることができる︵第六一条一項︶。この許可は、財産的基礎、収支の見込み、入的構成などを勘案 して与えられることとなるが、取引所の会員と同様、許可業者を銀行や証券会社に限るといういわゆる当業者主義の 考え方は採られておらず、また、外国法人についても平等の扱いとされている。なお、金融先物取引業者と金融先物 取引所の会員との間には直接の関係はない。金融先物取引業者となるための資質と金融先物取引所の会員となるため の資質には共通する部分も多いが、論理的には別のものであるため、金融先物取引法では別の取扱いとした。 金融先物取引業の行為規制については、金融先物取引業者が金融先物取引の受託契約を締結しようとするときは、 あらかじめ、銀行その他、大蔵省令で定める者を除く顧客に対し、受託契約の概要その他、大蔵省令で定める事項を 記載した説明書を交付しなければならない︵第六九条︶。これは、顧客が受託契約の内容および金融先物取引の危険 性などを十分に理解した上で契約を締結するようにするためである。こうして受託契約を締結した場合は、金融先物 取引業者において銀行その他、大蔵省令に定める者を除く委託者に対し、直ちに、受託契約を締結したR時、受託契 約にかかる金融先物取引などの種類、件数、対価の額などを記載した確認書を交付しなければならない︵第七〇条︶。 これは、委託者において受託契約の締結および受託契約にかかる金融先物取引などの内容を確認させて、その証拠手 段を得させるためである。さらに業務規制は、許可を受けた金融先物取引業者と無許可業者との識別を可能にするた め、所定の標識の掲示を義務づけている。そして、開業規制の実効性を確保するため、﹁名義貸し﹂を禁止している。 広告をするときは、金融先物取引などによる利益の見込みなどについて、著しく事実に相違する表示などをすること を禁止する。先物取引に係るリスクを事前に十分開示するとともに、顧客の注文の内容や受託契約の詳細について後
日の紛争を防止するため、受託契約の締結前および締結時、受託契約に係る金融先物取引などの成立時ならびに委託 証拠金の受領時における書面の交付を義務づけている。委託者の注文を市場に取り次がず、自分において相手方とな るいわゆる﹁呑み行為﹂を禁止する。利益が生じることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して受託契 約を勧誘するなどの行為を禁止している。 七 金融先物取引業の自主規制と監督 金融先物取引業の規制に関しては、そのすべてを行政に委ねるのではなく、細部については業界の自主規制により きめ細かい対応を行なうことが肝要であると考えられる。そこで、金融先物取引業者は、金融先物取引業の自主規制 のため、金融先物取引業者を会員とする公益法人たる金融先物取引業協会を設立することができるものとされる︵第 八五条一項︶。金融先物取引業協会の自主規制は、大蔵大臣の監督の下に行われるものであり、かつ、行政による規 制と協力して公益および委託者の保護をはかるぺきものである。そこで大蔵大臣は、金融先物取引業の規制の円滑な 実施を図るため、金融先物取引法にもとづく資料の提出・届出その他、必要な事項について金融先物取引業協会に協 力させることができる︵第八九条︶。それとともに、釜融先物取引業の自主規制に必要な限度で、金融先物取引業協 会に対し、その業務もしくは財産に関し報告もしくは資料の提出を命じ、または職員をして金融先物取引業協会の業 務もしくは財産の状況などを検査させることができるものとされる︵第九〇条一項︶。このように自主規制団体の果 す役割の重要性に鑑みこれを法律上規定することで、その設立が行なわれ、適切かつ十分にその機能を果すことが期
東洋法学 一三
金融革新と金融先物取引法の素描 待されており、一方、金融先物取引法には、 る。 一四 監督処分の公告や権限の委任などの雑則規定および罰則が設けられてい 八 金融先物取引の問題点 金融先物取引はなぜ必要なのか、現在、金融法の一つの課題となっている。昭和六〇年に長期国債の先物取引が開 始されるまで、将来における金融資産の売買や権利について契約をする先物取引は、まったく行われていなかった。 金融先物取引の二iズが高まったのは昭和五〇年代に入り大量の国債が発行されて市中に累積したこと、国内の金融 資産の蓄積が進んで新しいタイプの投資家が出現したこと、また、情報・通信技術の革新によって資金調達や資金運 用ノウハウ蓄積され、現在のような金融自由化が進展したからである。しかし、ここで課題になったのが自由化によ って生じるさまざまなヲスクを、だれが、どれだけ、どのように負担するかという負担配分方式である。そして、自 己置任型のリスク負担とその配分のための新制度として浮上してきたのが、金融先物取引である。金融先物市場は、 リスクを引受ける者と転嫁するものとの関係がきわめて明白な市場であり、リスク管理の重要性、自己責任にょる投 資の重要性についての認識が高まったことから、いままで金融先物市場がなかったわが国でも、金融先物取引が開始 されたものである。米国では、シカゴ・マ;カンタイル取引所︵CME︶が、債券、預金、株価指数、外国通貨︵八 種類︶など幅広い金融先物取引を行っているように、取引所ごとに、各種の金融先物取引を行っているのが実情であ る。現在では、米国の全先物取引に占める金融先物の比率は七割近くを占め、また金融先物のなかでは、通貨と金利
︵1︶ の先物取引が八割近くを占めている。今後、さまざまな金融先物商品がわが国に登場してくると考えられるが、ドル 先物取引は、ドル相場が大きく変動しているので、大量のドル建て債券や預金をもっている機関投資家や事業法人は その価格変動リスクをヘッジする必要がある。米国の場合、シカゴの金融先物取引は、ローカルズと呼ばれる個人の 投機家が主役になっているが、わが国の場合は、機関投資家が中心になるので、米国のようにはならないし、また、 個人を参加させてはならないと考える。まさに、プロのマ⋮ケットであるから、個人投資家には、きわめて危険であ る。品揃えば豊富になる金融先物取引ではあるが現状では個人は手を出すべきではない。 ︵1︶ 男葺ξ①の囲&霧霞矯>のの8㌶鉱oダ鼠霧渉ご<oご導①勾o℃o芦這o ooo卿
おわりに
金融先物取引法の制定により、わが国における金融先物取引の制度がひとまず整備されたところである。海外金融 先物取引については、すでに、金融機関などによる自己取引が行われているが、海外金融先物取引の受託に関する法 整備が行われたため、これにより一般居住者もこれらの法律により認められた受託業者を通じて取引に参加すること ができることになろう。今後、政省令の制定、金融先物取引業者の許可、金融先物取引所の設立、具体的な商品の上 場などが行われることになり、わが国においても金融先物取引が本格化することになる。したがって、金融先物市場 が投資家の保護も十分に考慮し、健全に発展して国際的なマーケットとして注目される努力をなす必要がある。米国東洋法学 一五
金融革新と金融先物取引法の素描 一六 と比較しても、米国はシカゴのCBOTとマーカンタイル取引所︵CME︶両市場で世界の金融先物取引の約七割を 占める巨大市場であり、あらゆる法的規制も考慮して発展している。業界の自主規制も強固であり、わが国も今後、 より法規制の整備をしつつ進展を期待してゆく必要があろう。わが国では、金融先物は、通貨、ユ⋮ロドル金利、 ユ⋮ロ円金利の三種類の取引が予定されている。このうち、ユーロ円金利の先物取引は世界でも初めてで、投資家は 金利のヘッジができるうえ、取引の拡大につながる可能性がある。ただし、取引所税の問題がある。金融先物取引を 行っている米、英、仏、スイスなど諸外国はすべて取引所税は非課税となっている。もし、課税されると、市場の取 引コストを増大させ取引が海外に逃げてしまうことや、金利変動幅の小ささから課税の影響は大きく、取引の有用性 が阻害されることなどが外国の取引状況から考えられる。課税対象となった場合でも、国債先物取引と同水準の税率 にする必要があろう。筆をおくにあたり、御指導をいただいている恩師、名誉教授水島廣雄博士に満腔の敬意を表し たい。