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[研究ノート]中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案Ⅰー 実践的な視点から考える指導する力について ー

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 美術科の指導では、目の前にいる生徒たち、これから 出会うであろう生徒たちに向ける思いが最も大切である。 しかし美術科を指導することへの熱意と生徒たちへの思 いだけでは、授業は充実しないのである。それには、美 術科の授業に必要な様々な指導上のスキルが必要だと考 えるからである。  本研究ノートでは「指導計画」「授業準備」「導入部」「活 動支援や個別支援(声かけ)」「終末や振り返り」「評価」 「〔共通事項〕の授業」「絵や立体の授業」「鑑賞の授業」 「ICT 機器の活用」「材料や用具の使い方指導」「作品 展示」「作品保管」「美術室運営」などの様々な視点や 学習状況・状態・環境等からの項目に沿って、それらの 場面での指導力を含む授業力向上のための指導・授業ポ リッシュ力、つまり指導することと授業を運営することを 磨き上げる力について取り上げ、提案するものである。  まず共有事項として示すものは、美術科の授業に必要 な指導力に関わるポリッシュ力を身に付けようとするとき、 前提として生徒の実態を理解すること、理解しようとする 姿勢・態度が重要である。  生徒たちが何を感じ、考えているかを理解し感じ取る 姿が現れるようにすること、そしてこのことを何度も繰り 返すことが大切である。生徒の実態から離れてしまう授 業にならないよう、常に生徒を見つめ続けることが重要と なる。  これは、すべての指導・授業ポリッシュ力にも関連する ことであり、美術科の指導の充実の核であるといっても 過言ではない。指導過多に陥らず、反対に自由放任でも なく、生徒が表したいことを生徒自身が発見したり、表し 方を工夫したりして、主体的な学習活動(表現活動)が できるようになるための留意すべき事柄である。  さらに、教師がそれぞれの専門性と個々の特性を活か して、授業を創意工夫することである。生徒の創造性は、 教師の創造性なくしては育成できないと考えている。生徒 たちにとっては、教師自身が自信をもった授業を創り出す ことが重要であり求めていることではないだろうか。  美術科の授業に必要な指導・授業ポリッシュ力につい て、3 つのアプローチによって考えることとする。  まず授業に関わる項目には、様々なスキルがあるとい うことを理解することである。その項目の中には、例えば 授業導入についても、様々なスキルが必要であることを 理解し、どのようなスキルが必要であるかを考えることで ある。  次にそれらのスキルが定着し、活用することによって、 美術科教師像の具現化と理想とする授業をイメージする ことである。教育観に則した授業実践をイメージすること が、重要であると考える。  最後は美術科の指導の場面たけてはなく、学校教育の 組織の一員として、どのように振る舞うか、他の場面で、 こんなことができるようになるかもしれないと考えること である。美術科の授業に必要な指導上のスキルは、幅広 いものであり、教育に携わる者としても、生きていく上に おいても必要になるものであると考えるのである。  今回の提案Ⅰにおいては、「Ⅰ . 美術に係わる教科とし てのポリッシュ力について」で取り上げた提案事項の 10 項 目について、実践面から捉え考察し、より具体的な 18 項 目を研究ノートとしてまとめるものである。今後の展開と して、引き続き提案Ⅱにおいて具体的な事項をまとめる予 定である。 ⅰ.指導計画等に係わる事項  他の教科等の指導ももちろんのことであるが、美術科 の指導は、教師固有の専門性と高い技術・技能の駆使 だけでは困難といえる。美術科は、特に事前の計画が重 要な教科である。  指導計画には、年間指導計画や題材の指導計画、授 業の指導案(計画)などがある。年間を見通してバランス よく題材を配置すること、3年間を見通した指導計画や、 小学校や高等学校との接続の問題も踏まえること、生徒 が興味や関心をもつ発達段階に則した有効な題材を考え ること、育成を目指す資質・能力を踏まえ、授業のねら 常葉大学造形学部 紀要 第18号・2020

合津正之助

GOHZU Shounosuke 2019年11月15日 受理 抄録 AI、IoT、ロボット、ビッグデータ等の先進技術を活用することで、新たな価値を創出し、地域、年齢、性別、 言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することの できる新たな時代と社会、Society 5.0 を迎えようとしている。2020 年プログラミング教育の完全実施や Society 5.0 における人材像、学校や学びの在り方、今後の教育政策の方向性等がまとめられ、学校教育を取り巻く状況は、 大きく変わろうとしている。中学校教育においても、知識基盤社会の構築を目指し、国際的に質の高い教育水準 を実現し、世界に目を向けた教育施策が必要となる今日、平成 29 年告示学習指導要領を鑑み、中学校美術科に おける教科として育成すべき資質や能力等について、指導力を含む授業力向上のためのスキルを授業ポリッシュ 力として提案し、具体的な事項を提示する。 キーワード: 美術教科 表現と鑑賞 授業力 実践力 ポリッシュ力

ProposalⅠ for the polishing power required for junior high school art classes ― Thinking about teaching ability from a practical viewpoint ―

【研究ノート】中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案Ⅰ

ー 実践的な視点から考える指導する力について ー

― はじめに ―

Ⅰ.美術に係わる教科としてのポリッシュ力について

5 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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いを明確にすることなどが重要である。  これらの指導計画等に係わるポリッシュ力を身に付け ることにより、連続性と系統性をもった授業運営となり、 美術科の教科の目標を実現するカリキュラムへと展開し、 生徒の資質・能力を育成するための授業であるという意 識化の元となる。すなわち、3年間 115 時間、年 45 時 間から 35 時間の限りある美術の授業時間で行われ、有 効かつ効率よく運営することになるのである。先の見通し が立つということは、余裕をもって生徒に接することがで きるようになるのである。  さらに他教科等の指導計画についても考えるようにな り、カリキュラム全体を見渡し指導計画を練ることができ るようになり、平成 29 年度版学習指導要領でも重要な こととして示されている、カリキュラム・マネジメントが可 能になることが期待できる。 ⅱ.授業準備に係わる事項  準備にどれだけかけるか、時間だけではなく、気を配 り心遣いができるかということが、美術科の指導に大き く影響すると考える。  授業準備は、常に生徒の実態を理解し、学習活動を 想定しながらすることが前提となる。その上で、何かと多 忙であると伝えられている学校教育業務の日々の中で、 教材研究を含め、授業準備の時間をしっかり設定するこ とが重要であり、教師の義務である考える。具体的には、 教師自身が授業内容を事前に実践すること、学年で調整 すること、指導のねらいを明確にし、生徒の動きを想定 して材料や用具、活動場所の設定をすること、学校内で 用具や場所を調整すること、物品等の必要な物を業社等 に注文すること、持ち物を事前に生徒に伝えて、用意す るようにすることなど、教材研究を含めて挙げることがで きる。  これらの事前準備のポリッシュ力を身に付けることによ り、目の前に生徒がいなくても、生徒の実態や姿を想 定でき、余裕をもって授業に臨むことができると考える。 学習活動や生徒の表現活動の見通しをもち、ゆとりと自 信をもって指導できる可能性がもてるであろう。 ⅲ . 授業導入部に係わる事項  美術科において授業の導入部をどうするかは、最も関 心の高いところであろう。題材による決まり事などではな く、表現活動としての魅力的な授業の第一歩として、教 師の教材研究による創意工夫を活かし、教師自身の指導 への熱い思いが溢れるような授業の始まりとしたいもので ある。  授業の導入部もしくは課題把握、感受等においては、 生徒が興味や関心をもつような導入にすること、今日の 授業時間にこの授業で学習することを全ての生徒が分 かるようにすること、時間が長くならないようにすること、 手順や説明ばかりにならないこと、生徒が資質・能力の 視点で活動の見通しをもてるようにすること、適切な安心・ 安全な指導を行うことなどが重要であるとともに、求めら れている。  これらの授業に係わるポリッシュ力を身に付けることに より、授業準備にも係わることであるが、美術科の授業 にゆとりと余裕をもって臨めることになる。指導者として 生徒の学習活動への支援に余裕があるため、自身の導 入でどれだけの生徒が興味や関心をもつかが分かるよう になると考える。教師自身が導入の様々なかたちを試し、 生徒の反応をしっかりと捉え、チェックし改善につなげる こととなる。さらに、導入部だけではなく、展開や終末・ まとめ等も重要な授業における活動であることを再認識 し、充実した授業へと発展できると考える。  また、各学年に配置された美術科の授業においても、 導入部の方法の工夫へつながり、学校全体の美術科授 業の研究のきっかけとなり、授業について深く洞察できる ようになるであろう。導入部についてのポリッシュ力をもつ ことは、授業全体の指導の充実にもつながるものである。 ⅳ . 活動支援や個別指導に係わる事項  学習活動を支援するための個別指導(声かけによる生 徒とのコミュニケーション)については、重要なポリッシュ 力のポイントであると判断する。授業において導入後の学 習活動における生徒とのコミュニケーションが課題となる のである。  活動支援や個別指導(声かけによるコミュニケーション) で重要なことは、まずは生徒の様子や姿をよく観察し、 生徒たちの実態を理解することである。観察、理解といっ ても、ただそこにいる生徒を傍観するというのではなく、 授業目的や指導のねらいと関連付けながら、生徒の表情、 体の動き、しぐさ、視線、言葉などを捉え、考え合わせ ることである。その上で、生徒が集中して取り組んでいる ことやこだわっていること、テーマとして捉えていることに 関して個別指導(声かけによるコミュニケーション)するこ と、安易に断定したり、決めつけたりしないこと、生徒と 生徒をつなぐような全体指導と発問をすること、よさ(個 性)を発見すること、活動が停滞している生徒や時間の 予測が立たない生徒、時間がかかりすぎる生徒への指導 (声かけによる具体的学習活動の提示)について考えるこ と、個別指導のための声をかけるタイミングを見計らうこ と、認め励ますことで自信をもたせることが重要である。 生徒自身が思うようにうまくいかなくても次は工夫しようと 思える個別指導をすることも大切であると考える。  これらのポリッシュ力を個別指導における声かけによる コミュニケーションと捉え、教師の主体的な指導力の現れ であり、このことを身に付けることにより、一人一人の生 徒に対しての細やかな指導ができるようになるとともに、 生徒と温かみのあるコミュニケーションがとれるようになる と考える。 6 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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ⅴ. まとめ(終末と振り返り)に係わる事項  授業にとって導入部と同じように、まとめ(終末や振り 返り)の段階も重要な時間帯である。終わりは次の始ま りにつながり、導入部と同等の終わり方について考えるこ とも重要である。  まとめ(終末や振り返り)は、資質・能力の視点で振 り返ること、効果的で成果があったと考えられる振り返り をすること、次の授業につながる終わり方をすること、整 理の時間をとり、学習環境を整える整理の指示をするこ と、協力することなどが大切であると考える。  これらのポリッシュ力を身に付けると、学習活動全体を 見通すようになり、何ができるようになったかを把握する ことができるようになる。これは、ねらいを明確にするこ とにつながると考える。  さらに他教科等との関連を考えることにより、カリキュ ラム全体を見渡し指導できるであろう。生徒の学習活動 =表現活動がより充実する方向になるのである。 ⅵ . 評価に係わる事項  評価で重要なことは、指導したことを評価するというこ とである。指導者だけが、美術科における本来の評価で ある「認め励ます」ことができるのである。  評価は、生徒への評価と授業への評価があり、生徒 の学習の過程をよく観察して活動の過程から評価するこ と、ねらいに照らし合わせて評価すること、評価規準を 立てること、評価方法や評価のタイミング(時期)を考え ること、学習の過程での評価と合わせ、美術科の教科と しての大きな特性である完成作品からも評価できるように することなどが重要である。  これらのポリッシュ力を身に付けると、生徒をもっとしっ かり観察しようとする姿勢と実際に行うようになることに より、生徒のことがこれまで以上に理解できるようになる のである。指導と評価を結び付け一体化することの重要 性に気が付き、指導を改善することができるようになり、 自信をもって指導し、有効かつ有意義な美術科の授業を 展開するようになるのである。授業、指導、カリキュラム 等の観点から教科としての PDCA サイクルを考え実践す ることは、授業力向上へと展開する重要なポリッシュ力と なるであろう。 ⅶ . 表現領域に係わる事項  表現領域に係わる指導スキルや経験値、知識・情報を もっている教師は、美術科を牽引すべき人材であると考 えるが、多くの場合、教師自身もそれぞれ表現活動の専 門分野を持っており、それらは従来の領域である絵画、 彫刻、デザイン、工芸等に分類される。細分化された専 門性の狭い範囲で各々のスキルを活用するということでは なく、それらを生徒の資質・能力の育成に向けて捉えな おすことが重要である。  表現領域の授業では、指導のねらいを明確にすること、 小学校までの学習経験や前学年、前学期までの経験を 把握し、それを活かすことのできる授業設定をすること、 生徒が表したいことを発見し、主体的に関われる授業設 定をすること、系統性を踏まえること、最初にある強いイ メージを具現化し実現していくような題材だけでなく、徐々 に表したいことが見付けられ、自らが積極的に表現しよう とするアクティブ・ラーニング的な発展的題材もあるという ことを知ることなどが重要であるとともに、ICT 機器など の活用により、積極的な修正ややり直しが可能な題材設 定をすることなども今後の学習環境等を考慮すると必要 となるであろう。  これらの授業運営や指導に必要と考えられるポリッシュ 力により指導者の指示による型にはめた見栄えのよい作 品と、生徒が考え工夫しながら資質・能力を培いながら つくり出した作品との違いが分かるようになり、評価段階 へのつながりもスムーズに行われるであろう。さらに生徒 の今を大切にできるようになり、自信をもって生徒のよさ (個性)や可能性を評価として活かすことができるように なるであろう。 ⅷ . 鑑賞領域に係わる事項  美術科の学習は、感じたことや想像したことなどを造 形的に表す「表現」と、作品などからそのよさや美しさな どを感じ取ったり考えたりして、自分の見方や感じ方を深 める「鑑賞」、そして両学習活動において共通に必要とな る造形的な視点を豊かにする資質・能力を身に付ける「〔共 通事項〕」の 3 つの活動によって行われる。表現する活 動だけではなく、指導要領において鑑賞の活動は適切か つ十分な授業時数を確保することとなっており、年間指 導計画の中に適切に位置付けたり、ねらいに応じて独立 した時間を適切に設けたりする指導計画の工夫などが記 されていることからも鑑賞する活動も充実することが重要 となる。  「鑑賞の授業」では、鑑賞の対象を決めること、能動 的な鑑賞となるようにすること、表現と鑑賞を関連付けた り関連を考えたりすること、言語活動を適切に設定する ことなどが大切であると考える。さらに制作に集中すべ き段階や制作しているとき無理に鑑賞の活動を設定しな いこと、作品を掲示すること、見ることを有効かつ有意 義に思える授業設定をすること、鑑賞活動の成果の現れ となるワ一クシートを工夫すること、美術館などの文化関 連施設および文化・教育事業の利用、それらとの協働な ども地域の教育力との連携の面から重要であると考える。  これらの指導ポリッシュ力を身に付けると、美術全体の 指導を俯瞰し、より一層、表現と鑑賞の関連を図るよう になり、生徒が様々なことを考えたり感じ取ったりしてい ることを認識することで、生徒理解に展開することでであ ろう。  さらに生徒との対話型学習を深め、生徒とともに教師 も鑑賞の活動へ積極的に関わることにより、一層幅広い 7 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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様々な作品等への興味・関心へとつながり、活動の活性 化が図られる。このことは様々な考え方や多様な価値観、 世界観があることを再度確認し、我が国の伝統・文化お よび諸外国の文化等を尊重するなどの多様性の尊重へと つながるのである。 ⅸ . 作品展示と保管に係わる事項  美術科では、1 年次 45 時間、2・3年次 35 時間の年 間授業時間の中で、様々な作品が生まれる。それらを展 示することは、学習の成果を生徒自身が振り返りことによ り、学力の定着を図るだけでなく、学友の作品を見て感 じ取ったり考えたりする時間になり、教科の目的である資 質・能力を育成することにつながるのである。  「作品展示」では、言うまでもなく平面作品、立体作 品、共同作品、場合によっては映像作品などのように、 作品の形態等によって展示を工夫することが大切となる。 展示する場所を考えること、氏名や説明を記載したキャプ ションを工夫すること、展示する期間を決めること、生徒 が学友の作品を大切にするための指導をすること、さら に地域や家庭との教育的連携の意味から、学校外に作 品展示をして保護者や地域の人にも見ていただくこと、自 分たちの作品だけではなく美術作品や地域および保護者 等の人々の作品、国内外の関係する地域(姉妹都市およ び文化交流等)に係わる作品、他の学校の生徒作品な どを展示することなども大切であると考える。  これらのポリッシュ力を身に付けると、教師はもとより、 生徒自身も自分や他の人たちの作品を大切にしたり、尊 重したりすることすることができるようになり、その作品 が生まれた過程に目を向けることにより、文化について興 味・関心を持ち、文化の継承へとつながるであろう。  さらに学校内を文化環境の場として捉え、開かれた学 校において、美術を通したコミュニケーション能力の育成 という可能性が新たな教育的意義として芽生えるであろ う。  生徒が表現したものは、生徒自身そのものであると捉 えるべきである。生徒が表現している途中の作品、出来 上がった作品をどのように展示、保管するかについて考え ることは、生徒の人格を認め尊重し、大切に考えている ことである。  「作品保管]については、展示と同様に平面作品、立 体作品など様々な形態のものを保管する方法、クラス数 の多い学校でクラスごとに保管する方法、生徒が自分で 作品を探せるような保管の方法、学期末まで保管する方 法、作品を持ち帰る方法などについての詳細を考えるこ とが重要である。  これらのポリッシュ力により、教師も指導を受ける生徒 も、学習活動で関わる全てものを丁寧に扱うようになる であろう。  そして学習の成果としての作品=大切なものとして、ど のように扱い保管するかということは、教師にとって想像 以上に大切なことであることを認識してほしい。 ⅹ . 材料や用具、ICT 機器および美術室の運営に係わ る事項  学習指導要領において扱う材料や用具については、発 想や構想を基に、表現方法を工夫する創造的に表す技 能に関する事柄として示されている。まず、主題の創出 に関する指導を丁寧に行い、多様な表現方法を保証し、 学んだことを活かしながら具体化すること。そして、様々 な表現方法や材料の活かし方を学び、材料や用具の特 性を組み合わせて用いることを知ることが重要であるが、 その際は、指導者として事前に扱ってみることが欠かせな いことである。生徒への的確な指導や助言が可能となり、 適切な安全指導へと展開するのである。  近年の技術開発により学校では、デジタルカメラ、タ ブレット端末、プロジェクター、テレビモニターなどの ICT 機器が活用され、情報化社会から知識基盤社会、ソサ エティ 5.01社会に対応する人材の育成を掲げ、ICT 機器 を生徒の資質・能力の育成のために効果的に活用するこ とが重要である。  ICT 機器の活用では、生徒が実際に活用する ICT 機 器と、教師が指導に活用する ICT 機器とがあることとア プローチの違いを理解すること、生徒の資質・能力を育 成するために ICT 機器を活用する必要性を十分に検討し て活用すること、情報を共有すること、機器だけではなく、 学習に使用するソフトやアプリケーション等についても、イ ンターファイスの特徴と使い方、効果と効率性など、様々 な事柄を考えることや実際に機器の準備等を十分にする ことが大切になる。  これらの ICT 機器の活用方法を身に付けると、様々な 学習の方法の中で、どれが適切で何が必要であるのかを 検討することが必須となり、指導の場面と考える場面、 学習の場面等について考え判断することとなる。  さらに他教科等の授業においても ICT 機器を活用する ことによって、ICT 機器を媒体とした他教科との合科的 な授業を行うことが可能となる。合理的かつ効率的に指 導できることだけではなく、総合的な学習展開が可能と なり、トータルな人間形成に向けて、それぞれの教科等 の本質に気付き認識することから資質・能力の育成へと つながるであろう。  また、ICT 機器の学習活動への導入によって美術室の 運営方法は多少違ってくると考えられるが、教科の目標 を実現できる場所、生徒の資質・能力を育成できる場所 にすることが大切である。 1 IoT、ロボット、人工知能、ビッグデータ等の先進技術を 活用することで、新たな価値を創出し、地域、年齢、性別、 言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズに きめ細かに対応したモノやサービスを提供することのでき る新たな時代(Society 5.0)。狩猟社会(Society 1.0)、農 耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会 (Society 4.0)に続く新たな社会 8 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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 「美術室運営」は、美術室を親しみやすく楽しい場所 にすること、材料や用具を使いやすく安全に保管すること、 美術室での約束事を決めること、管理がしやすいよう整 理すること、感性や想像力の働く環境としての場所にする ことなどが重要である。  これらの美術室の運営に係わる事柄について考えるこ とは、生徒たちにとってどのような環境が表現活動の場と してよいのかを考えることになり、生徒の思いを受けとめ る場所にしようという意識が強くなるであろう。安全・安 心な環境ということについても常に意識することとなる。  さらに美術室だけでなく、美術科の授業の場としての 学校内の他の場所についても考えられるようになる。生 徒が場所によって気持ちを切り替えることができることが 分かり、それを活用できるようになり、環境からのアプロー チによる指導も充実するであろう。 1.指導のねらいを明確にするための必要事項  授業にとって、ねらいは大切なものである。当然、美 術科でも重要であることに変わりはない。生徒たちが有 効かつ有意義に楽しく活動できるようにすることは大切な ことであるが、活動のみで学びがないとなっては本末転 倒である。授業を行う際は、授業のねらいを明確にもっ て臨む必要がある。曖昧なねらいで授業を行うと、何を 目指している授業なのか、どんな資質・能力を育成しよ うとしているのか、授業自体も曖昧なものになるであろう。 したがって、授業のねらいをどのように設定すればよいの かが重要となるのである。  当然どんな資質・能力を育成するのかにも係わってくる のである。育成を目指す資質・能力は、「知識及び技能」 「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間 性等」である。この資質・能力を育成するために授業の 中でねらいをどのように位置付け、展開していくのかが重 要である。それには、1時間の授業だけて考えるのでは なく、題材全体、学期ごと、1年間、3年間、小学校、 高等学校を見通して考える必要があると考える。そのた めに年間指導計画や題材の指導計画、授業計画(学習 指導案を含む)を作成するのである。作成に当たって、 学習指導要領や各都道府県等の作成物および研修資料 等、各学校の教育目標、生徒の実態、施設・設備、学 校行事、地域の特色等を加味する必要がある。 ⅰ. 年間および2・3学年を見通した指導計画の作成に おいて  中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説美術編「第 4章 指導計画の作成と内容の取扱い」においても、教 科の目標や各学年の目標の実現を目指すことが示されて おり、表現や鑑賞の活動を通して、生徒たちの資質・能 力を育成することが重要であることが理解できる。その ために、創意工夫をして年間指導計画を作成する必要が ある。また、3年間の見通しの上に立って、年間や学年毎、 2・3学年、学期毎の指導計画を作成することも重要で ある。 ⅱ . 主体的・対話的で深い学びの視点において  今回の学習指導要領の改訂において、資質・能力の育 成に向けて生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現 を図るように示されている。年間指導計画や題材の指導 計画を作成する際は「主体的・対話的で深い学びの実現 に向けた授業改善」にも配慮する必要がある。「主体的 な学び」については、見通しを持つことや学習活動の振 り返りが改善の視点となるであろう。生徒たちが主体的 に係わりたいと思うことや学習活動に満足感が持てるよう な題材を年間指導計画に位置付けていくことが重要であ る。「対話的な学び」については、教師と生徒の対話だ けでなく、生徒同士や地域の人たちとの対話等が視点と なるであろう。「深い学び」については、「造形的な見方・ 考え方」を働かせることが重要となる。「造形的な見方・ 考え方」は、形や色などの造形的な視点で材料や作品、 出来事などを捉え、自分のイメージをもち、意味や価値 をつくりだすことである。生徒一人一人が「造形的な見方・ 考え方」を働かせるような授業をすることか大切であると 考える。 ⅲ .〔共通事項〕において  平成 20 年の学習指導要領から〔共通事項〕が示され、 平成 29 年度版においては、高等学校の芸術科(美術) にも示されるようになった。〔共通事項〕は、表現及び鑑 賞の活動において共通に必要となる資質・能力のことで ある。また、美術科の全ての学習に含まれる内容でもある。 アが、造形要素の性質、感情にもたらす効果等について 理解するといった、知識に関する事項、イが、造形的な 特徴等からイメージや作風等で捉えることへの理解といっ た、思考力、判断力 表現力等に関する事項であること が示された。また、小学校図画工作科、高等学校芸術 科(美術)においても〔共通事項〕は示されていることから、 図画工作科と美術科、芸術科(美術)において一貫して 育成することに配慮するとともに、重要視しなければなら ない。特に年間指導計画を作成する際は、この〔共通事 項〕を考慮する必要があり、各題材における〔共通事項〕 が何であるかを明確にし、指導計画に示していく必要が ある。 ⅳ . 授業計画(見通し)において  年間の指導計画や題材の指導計画を基に、1回の授 業での育成を目指す資質・能力を明確にする必要がある と考える。また、その資質・能力に応じた授業での導入、 展開(指導と評価)、まとめ(振り返り)が重要となる。  導入において伝えることは、①本時の目標 ②活動の

Ⅱ.美術科の授業における指導計画ポリッシュ力

9 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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概要 ③発想や構想、技能についての手掛かり ④材 料や用具の使い方 ⑤安全指導 ⑥活動の見通し(1時 間または題材全体)、以上である。  毎時間この全てを生徒たちに伝えるというわけではな く、本時の目標(本時て育成を目指す資質・能力)は、 明確に伝えることが重要であると考える。  しかし、導入ばかりに時間をかけてしまうと、肝心な 表現等の活動時間が削られてしまうことも考慮しなけれ ばならない。導入の時間は長くても 10 分以内にするよう に配慮すべきであろう。そのためには、生徒たちに伝え るべき内容をその時間に合わせて精選することが、当り 前ではあるが重要である。  展開においても、育成を目指す資質・能力を軸にどの ような指導をするのかを考える必要がある。  次に指導と評価においては、生徒の活動を見守り、学 習活動の成果としての作品(活動を含め)を見知すること、 そして、生徒は考えているのか、悩み困惑しているのかを 見極めること、つまり生徒の思考を見知することが求めら れる。  また、指導においても評価においても対話をすること が重要となる。生徒の考えていることを理解し、生徒の 活動の価値を明確かつ確立し、意味あることとして位置 付けるとともに、生徒の考えを引き出し整理することが求 められる。  生徒たち一人一人の活動を観察し捉え、題材や授業で 育成を目指している資質・能力に沿った見知や個別指導 (声かけ)が必要となる。  そしてまとめでは、その授業において育成を目指した 資質・能力を視点に、振り返りや再確認を行うことが必 要となる。生徒一人一人が授業時間の活動を振り返り得 ることができるように導き、生徒自身が、学習活動に対 して満足感を味わえることが大切となるのである。 2.資質・能力や生徒の実態から題材を考えるための 必要事項(題材における PDCA サイクル)  学習指導要領によって示された、育成を目指す資質・ 能力は、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、 「学びに向う力、人間性等」である。この資質・能力や 生徒の実態から題材を考えることで、題材のねらいが明 確になるといえるであろう。 ⅰ. 生徒の実態および育成を目指す資質・能力を考える  ここで重要なことは、生徒たちの実態を把握し、具体 的にどのような資質・能力を育成するのかを考えることで ある。そして、生徒たちのよりよい成長につなげることが 重要となるのである。  生徒はどのようなことに興味・関心をもっているのかと、 生徒のよさ(個性)や課題は何であるかが、生徒の実態 であり、どの資質・能力を重点に置くかということも重要 である。  生徒は、表現する活動や鑑賞する活動に積極的にな り、想像して表したいことを見付けたり、表し方を工夫し たりすることにも意欲を示す生徒が多くなることが予想さ れる。 ⅱ . 生徒の姿(実態)を思い浮かべて題材を考える  ここで大切なことは、生徒の実態や育成を目指す資質・ 能力から、領域や題材の内容を考えることである。教師 が題材の全て(材料や用具、表したいこと、表現方法、 制作過程と手順など)を考えてしまっては、生徒たちの 資質・能力は育成されない。教師が言ったことをその通 りに制作するだけの題材となってしまい、教師の指導に よって生み出されたものというより、教師の考え、思った 通りに作ったものといっても過言ではない。逆に教師が何 も教えず、全て生徒の思う通りに題材を設定しても、生 徒たちの資質・能力は育成されないのである。教師が何 を教えて、生徒たちに何を伝え、考えさせるのか、その バランスが重要となるのである。  領域については、表現の活動として絵や彫刻、デザイ ンや工芸などと、鑑賞の活動、そして〔共通事項〕等が あり、それらの活動において、それぞれの領域または複 合的な領域を選択することが重要である。また題材の内 容については、何を指導し、何を生徒が考え学ぶのかを 明確にすることが重要となる。さらに材料や用具、活動 場所、時間等への配慮も重要となる。  生徒の実態から、前段階、前学習で培った経験を活 かしながら、新たな材料を経験できるようにすることなど も重要であり、そのため主材料は興味・関心がもてるよ うにし、その特徴を活かして、表したいことの発想や構 想を十分練ることが大切となるのである。これは、思考 力、判断力、表現力等を育成することにつながり、表し たいことや用途・目的、表現方法、材料や用具、活動場 所、時間について、生徒たちが主体的に取り組み考えら れるようになるのである。 ⅲ . 題材の実践、検証、改善を行うこと  題材を実施しても、指導者自身がそれを検証、つまり 振り返ることが重要であるが、行うことは困難であると言 えよう。資質・能力が題材を通して育成されたのかを省 みることは当然ですが、指導者自身が題材についての成 果や課題を考え、次に同じ題材を行う際や他の題材を行 う際に活かすことが重要である。  題材の検証とは、成果や課題について考察し、資質・ 能力をより育成するために改善する点を明確にすることが 重要である。  題材全体のねらいや授業1時間毎のねらいを明確に もって授業に臨むことが基本となる。  ねらいに沿って生徒の姿を観察および理解し、評価し たり、指導したりすることにおける大切なことは、共感的 に生徒に関わることである。 10 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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 授業実施後、ねらいとしていた資質・能力は育成され たか、題材の成果や課題を再確認するなど、題材を検証 (振り返る)し、題材の改善点をクリティカルに探求する ことが必要である。さらに思考力、判断力、表現力等に 重点を置くためには、作品を 1 つだけ制作するのではな く、円周的教授法として時間経過や学年進行により、同 じ題材で複数回制作することも教育の質を考えると必要 となる改善であろう。また、そのために、成果としての作 品を展示するスペースを学校内や教室に設定し、表現と 鑑賞を相互に関連する活動も題材をブラッシュ・アップさ せるためには必要である。  思考力、判断力、表現力等を重点に置いた改善から 作品を1つではなく、円周的に複数つくるという過程は、 技能を育成することにもつながるのである。また、作品を 展示するスペースを設定することで、形や色などを意識し て見たり制作したりするなど、知識の習得と表現と鑑賞 の両活動に共通に働くことにもつながり、育成を目指す 3 つの資質・能力の関連性にもつながるものである。  このように題材を実践し検証(振り返り)し、改善する ことを繰り返すことは、生徒の実態や育成を目指す資質・ 能力をしっかりと捉えてはじめて教育的効果に結び付くも のであると考える。 3.題材のねらいを理解して授業を行うための必要事 項  どんな題材によって授業を行うかは、教科書に掲載さ れている題材やインターネット等の様々なところで紹介され ている題材、教師自身が考案した題材など、あらゆる形 の題材が共有できる状況と環境であるが、重要なことは 題材のねらいをしっかりと持ち、掲げているということで ある。作品例や活動例を目指して授業を行うのではなく、 どのようなねらいと目的があり、育成を目指す資質・能力 がどのようなものなのかを明確にして、題材の計画や授業 を設定する必要がある。 ⅰ. 教科書等の内容を理解することの重要性について  教科書等に記載されている題材のねらいと学習指導要 領を基に題材のねらいを考えていくことが重要となる。  題材の領域は「2.資質・能力や生徒の実態から題材 を考えるための必要事項(題材における PDCA サイクル)」 と同様に、絵、彫刻、デザイン、工芸等、鑑賞の何れか が示されている。領域によって学習指導要領の指導事項 等の指摘対応に相違がある。  学習の目標については、育成を目指す資質・能力が示 されており、これが授業において学習活動を行う際の核 となるのである。  材料や用具等については、領域や育成を目指す資質・ 能力、前段階までの表現活動の経験値に応じて変わる が、具体的な物ではなく、技能に関することとして捉え ることが大切である。また作品や活動、作品の題名、作 品の紹介等については、あくまでも参考となる作品や活 動であるため、これらを目指して作品を制作したり、表 現活動を行ったりする訳ではないことに留意する必要があ る。  さらに教科書および付随の指導書等には、授業を行う 際に生徒たちが資質・能力を働かせるための発見ポイン トや拠り所となる事項か記載されていること、そしてポイ ントとなることとして、思い通りに活動や制作を行うこと ができるように 用具の使い方のポイントやつくり方のポ イント、つまり技能に係わる事柄が記載されているのであ る。  これらに対して学習の検証や振り返りとして、育成を目 指す資質・能力に沿って、題材を通しての表現活動の過 程を顧みる事柄が記載されており、これを踏まえて題材 を組み立てることが今後求められていくであろう。 ⅱ . 教科書等の題材を発展させることについて  教科書等には、表現活動に対して主体的に係わる態度 と姿勢、更なる興味・関心といった発展的なことも記載 されている例もある。  例えば、粘土を使った立体に表す題材において、焼成 する経験に結び付け系統的に表現活動が展開できること などが記載されていたり、1人で行う題材をペアやグルー プ等で共同制作へ展開させる内容などが記載されていた り、〔共通事項〕における新たな分野・メディアの活動の 展開として、様々な材料・用具の活用により行う場合が 記載されている。また、教科書等の題材を生徒の実態 や学校の実態、地域特性、環境などに合わせてアレンジ することは当然のこととして捉えるべきである。特に地域 の美術館や施設、行事等と関連させて題材を実施したり、 地域特性としての地産物を材料として活かした題材にア レンジしたりすることも考えられる。しかし大切なことは、 生徒たちにどのような資質・能力の育成を目指すかといっ たねらいを明確にもつことである。 1.題材に適した活動場所設定のための必要事項  美術科の授業において、授業を行う場所が非常に重 要な意味を持つのである。安全面においても重要であり、 準備や後片付けを、決められた時間内に行うための効率 的でスムーズな活動にも関係するのである。準備の段階 で制作の途中や終了時の鑑賞活動をどのような形態で行 うかも事前に考慮しておくと、より効果的な鑑賞を行うこ とができるであろう。また様々な活動が予想される〔共通 事項〕においては、活動場所が材料と同様に重要な意 味合いを持つのである。場所の特徴や特性は、イメージ を広けることに大きく関わってくるからである。

Ⅲ.美術科の授業における授業準備ポリッシュ力

11 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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ⅰ. 美術室(教室)に置ける机のサイズ感と配置の工夫 について  美術室では、比較的自由に机の配置を変えたり、大き な作業用の机を使用したりすることができる。大きな机 や小さな机を移動させて4~5名のグループにすることで、 自然に周囲のクラスメイトの活動が目に入り、制作中に自 分の表現の参考や刺激になることがある。活動中に他者 の活動や表現を意識させるような言葉や問いかけを行う と、より効果的である。抽象的であったり、大きく捉え る必要があるものや物理的に大きなものをつくったりする ことなどをテーマに設定しておくことにより、作品をつな げて共同制作に発展・展開していくような活動が広がる 可能性も考えられる。  教室では、材料や用具を整理整頓し置いておくことも 重要である。様々な材料や素材、用具と道具などを思い 付いた表現に合わせて選択し、使用できるように、分か りやすく管理しておくことと、表現の幅が大きく広がりを 見せることがある。また、ICT 機器の活用による調べ学 習等に使用される教室内のパソコンやグルーガン(ホット ボンド)、電動糸のこぎり(テーブル型ジグソー)などのよ うに数が限られている設備、用具や道具については、専 用のコーナーを設定することで、使いやすさと管理、安 全面での配慮ができるようになる。  一般的には、美術室では机が大きく、水道の流しが複 数あり、美術で使用する材料や用具なども収納されてい るため、活動だけでなく準備や後片付けが行いやすいと いう利点がある。  それ以外にも、机やいすの形が木工の制作に適してい る形をしていたり、コンセントが複数用意されていたりし て、非常に活動しやすい環境である。  また美術科の題材には、〔共通事項〕においても記載 されている光源を活用する内容もあるため、教室に暗幕 等が設置されているのであれば、暗室として使用し、光 の様々な効果を活用することなどが考えられる。 ⅱ . 多目的(特別)教室の活用について  少子化等による生徒数の減少により、空き教室が増え てきている現状から、各校において多目的(特別)教室 として活用している場合が多い。この教室の活用を考え ると、場所や環境が変わることで生徒たちの気分や物事 への思考、興味・関心なども変わると考える。美術室に 展示してある過去の作品例を活用し、環境を変えること や実物や本物に接することで、生徒たちは活動内容を具 体的にイメージして表現を行いやすくなる傾向もある。  また、天井から吊り下げたり、壁面や移動式パネル、パー テーションを利用して鑑賞会を開いたりすることができる ことも、多目的教室(美術室を含む)を活用した学習活 動といえよう。  また教室ではないが、多目的という観点から屋外に活 動場所を設定すると、広々とした空間に風通しがよく、木々 や草花などの植物がたくさん生息していることや日光が活 用できることなど、場所のもつ特徴、特性を活かした表 現が可能となるのである。生徒たちの日常の学校生活の 様子を観察しておき、どのような活動をするかを予想して 活動場所を考えることで、生徒たちは予想以上の豊かな 表現を見せてくれるであろう。 2.ねらいに対応した材料や用具を準備するための必 要事項  美術科の授業では、題材の内容と材料や用具の選択 は表裏一体の関係にあるといえよう。指導のねらいに合 致した材料や用具が準備されていることにより、生徒た ちは新たなイメージを思い付いたり広げたりすることがよ り一層可能となるのである。また、思い付いた表現を具 現化しやすく、生き生きと表現活動を行うことが可能とな るのである。 ⅰ. 指導のねらいや生徒の活動を想定して準備する  絵に表す題材では、テーマに合った描画材を選択する、 あるいはテーマに合った表現方法を行うことができる用具 は何かを考える必要がある。下描きを鉛筆で行うことと、 コンテやペン・割り箸ペンで行うこととでは、技術的なタッ チが全く異なること以前に表現活動としての意味合いが 違ってくのである。また、着色・彩色についても、複数の 描画材から選んだり、組み合わせたりすることにより、表 現の幅は大きく広がり、育成を目指す資質・能力へつな がるであろう。生徒たちが、どのような表現方法を経験 しているかを事前に確認しておくことにより、描画材にお ける様々な選択肢が考えられるであろう。  活動の場の設定も重要であり、生徒一人一人に十分な 活動スペースがあることが理想的であるが、あえて 1 つ の作業テーブル(机)においてグループによる制作を行う ようにすることで、友達の表現を参考にしたり、アドバイ スを出し合ったりすることも期待でき、アクティブ・ラーニ ングとしても有効的である。また、〔共通事項〕の活動では、 活動場所の特徴や特性が表現の一部となる可能性を含ん でいるため、生徒たちが様々な発想や構想を生み出しや すく、考えられる場所を想定したり、見付けておいたりす ることが重要となるのである。 ⅱ . 持ち物を事前に生徒に伝える準備指導  生徒たちが日常生活している身の回りには、美術の授 業で活用できる材料の候補が溢れているとともに、小学 校図画工作科からの身近なものを使うといった連続性か らも、身近で身の回りにある物を活用することは大切なこ とである。生徒たちに、次の美術の授業で材料として使 う物を家庭や地域で集め、持ち物とすることで材料を集 めることができる。わざわざ購入してまでも用意する生徒 もいる可能性があるが、原則は家庭で不要になったもの が活用できないかを考えて見付けるように働きかけること 12 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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である。生徒たちは日常生活から意識し、工夫して材料 を集めるようになることが大切である。  必要な材料を積極的に集めてくることは、美術の意欲 や関心、態度の育成にもつながり、材料を収集する過程 で材料の魅力に触発され、制作意欲が自然と湧き出し、 授業での制作がスムーズになることもよくあることである。 授業が終わった後も、身近な材料を使った表現が可能で あることを意識付けることで、正課外活動における表現 活動が定着しやすくなるであろう。  生徒たちに必要な材料を伝える際に、作品例などを提 示すると、どのようなものを収集すればよいかが分かりや すく伝わる。しかしその半面、表現への発想が規制され たり画一的になったりする可能性もあるであろう。生徒の 実態等を把握し、対応することも重要となるのである。  美術室等にスペースが確保できるのであれば、普段か ら表現に使えそうな材料をストックしておく場所をつくって おくことも有効的に働くと考える。  学年毎の美術の授業で余った材料を当該学年やクラス 以外に活用するなどの工夫も十分な量の材料を準備する ために必要となる。 3.事前に授業の見通しを持つための必要事項  美術の授業を行うに当たって、授業を行う前に教師自 身が題材となる作品を制作してみることは非常に重要で ある。日常の学務や業務に追われ、忙しい中、制作活 動することは敬遠してしまうことが多いであろう。しかし、 生徒たちが制作するよりも短時間で取り組み完成させら れるとともに、何よりも教材研究としての意味が大きいの である。一度制作してみることで、気付かなかった発見 や予想されるつまずき、留意すべき点など、授業の展開 において必要である事項を確認できるとともに、表現す る面白さや楽しさ、醍醐味を美術の専門家として味わう ことができるのである。 ⅰ. 生徒が感じることを理解する  教師自身か面白さを感じていることは、生徒たちに必 ず伝わるはずである。実際に表現を行うと、想像し考え たように表現できないことが分かる。生徒がつまずき面 白くないと感じることと同じであるため、それに対する指 導や助言をどのようにすればよいかを考えることができる ようになるのである。また、題材に関連する話、例えば、 話題になっている美術展やアートイベント、作家とその作 品についてなどを生徒たちに話すことにより、美術そのも のと文化に対して興味や関心をもたせやすくなり、主体 的に係わる意欲を活かした題材で授業を行うことへとつ ながり、豊かな表現が生まれ根源となる。 ⅱ . 準備する物を把握する  授業の準備物等は、教科書付随の指導書などを参考 にすることが多いと思われる。しかし、実際に授業を進 めていくと、生徒たちの活動の発展、進展により想定外 の物が必要となる可能性がある。生徒から表現活動に合 わせて要求され、準備不足により代用品により対応する ことがないよう、事前に制作活動を行っておくと、その 段階で具体的に何が必要か気付くことができる。つまり、 生徒たちの活動の様子や進め具合の見通しをもって授業 や準備が進められるためのポリッシュ力である。 ⅲ . 授業における指導の流れを把握する  事前に教師が制作した作品は、作品例として提示する こともできるであろう。生徒たちは実物の作品例を見ると、 何をして、何を目指し、そのためにどうするのかといった 題材に対する目当てを明確にすることができ、イメージが 湧きにくい生徒にとっては、大きなヒント、方向性が示さ れた安心感が抱かれる。制作する作品は、完成させるま でつくることが大切ですが、完成作品を作品例として提 示するだけでなく、可能であれば数点制作する取り組み をし、制作過程が分かるような途中段階のものを準備し ておくことで、その時間の目標を示すこともできる。ただ し、事前につくったものを必ず作品例として提示しなくて はならないわけではない。生徒たちの表現が作品例と類 似する可能性もあるからである。生徒たちにとって、作品 例が到達度目標となる危険性があるということを認識し た上で、柔軟に対応することを勧める。  また、用具の使い方も、教師が自信をもって実際に目 の前で実践することにより、指導も適切に行うことができ るであろう。さらに、表現する上での様々な具体的な選 択肢を生徒個々の表現や活動段階に合わせて提示するこ とも可能となるであろう。このことは、生徒たちが自信を もって表現したり、表現する楽しさを感じなから制作した りすることにつながると言えよう。 4.材料・用具の状態や活動場所の調整のための必要 事項  美術室にある用具は共用であるため、適切に定期的な メンテナンスや補充を行う必要がある。破損したままの用 具は危険であり、使いにくく表現に支障が出る場合があ り学習環境を考えると適切とは言えない。題材への取り 掛かりや授業を始める前に前もって点検する習慣を付け ておくことが大切である。  また、学校の共用施設・場所を活動の場とする場合は、 他の学年や他の教科の授業で使用する場合があるため、 事前に管理職や教務主任の先生に確認をとり、必要であ れば職員会議等において、職員間で情報の共有と共通 理解と認識をしておく必要がある。 ⅰ. 用具の状態を事前に確認する  主に使用する用具は、個人の持ち物が多く、事前に使 用できる状態のものを準備しておくように連絡しておくこ とで、支障なく活動を行うことができると考えるため、事 13 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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前連絡は少なくとも 1 週間前が望ましいと考える。周知 徹底はどのような場合でも完全な状況はないので、念の ために教師が予備の用具も準備しておくと安心である。  学校で共用している用具は、著しく状態が悪かったり、 数が不足していたりする場合には、次年度に向けて計画 的に補充していく必要がある場合もある。事前に確認し ておき、学校内で情報を共有しておくことが大切である。  材料や用具は、新しい技術や素材が使われた新製品 が出ている場合もあるので、教材カタログをチェックする など、情報を得ることも有効であると考える。 ⅱ . 活動後までを見通して場所を設定する  運動場や体育館では、ダイナミックな活動が可能とな るであろう。遊具や植え込み、渡り廊下などでも、その 場所ならではの表現ができる可能性を秘めている。校内 での活動後は、そのまま作品を展示し、他学年や他のク ラスの生徒たち、保護者などの地域の人たちなどに鑑賞 してもらい、感想カードやワークシートなどを活用した新 たな評価の形の可能性につながる。  屋外で活動を行う場合には、安全に行うために予め活 動範囲を明確に指示しておくことが重要である。また、 どのような行為が危ないかを具体的に例示しておくこと も、安心に体全体を使った表現活動させるためのポイント となるのである。  校内で他の学級・学年に負担をかけすぎずに適切な場 所を確保するために、校内行事や他学年の大きなイベン トに関する情報を前もって集めておく気遣いは学校組織 の中では必要となる。年間学習計画に則り、数カ月程度 前から準備を始めるつもりで題材に取り組む姿勢が重要 となるのである。  新しい社会構造である「Society 5.0」における人材 像、学校や学びの在り方など、今後の教育の方向性と 学校教育を取り巻く状況は、大きく変わろうとしている。 STEAM 教育2 は、アメリカのオバマ元大統領が演説で 取り上げたことで注目されるようになったと言われ、科学 や芸術分野の教育に力を入れていくことを国家戦略のひ とつとして掲げ、AI などの科学技術を活かして社会に 革新を起こすような人材の育成を目標とし、これは世界 的な課題となっており、日本においても産業・経済界等、 社会からの美術を含む芸術全般への期待が高まってきて いる。  本研究ノートは、考察を行うことにより研究としてまと め上げる計画の第一歩としてのものである。引き続き研究 ノートにおける提案Ⅱとして、実際に授業を運営する上で 必要となる具体的な指導・授業ポリッシュ力を研究するも のである。これらの研究の成果は、令和元年 12 月 26 日 に本学で開催される、芸術系教科等担当教員等を対象 に、学習指導要領の趣旨を踏まえた理論研修・実践研 修を実施し、指導方法や評価方法等の工夫改善等につ なげ、初等中等教育の芸術系教科等における指導の充 実に資することを目的としている全国研修会(東京・京都) 及び、各地区でのブロック研修会の「令和元年芸術系教 科等担当教員等研修会」(文化庁主催であり全国芸術系 大学コンソーシアム及び協力大学共催事業)における東 海地区ブロック研修会(常葉大学造形学部担当)のプロ グラムにおいて研修内容として提案し、現職の美術科教 員への提案および提示により、ブラッシュ・アップしたも のとする計画である。   さらに、 先に取り上げた STEAM 教 育についても 研究をすすめ、小学校、中学校、高等学校において、 STEAM 教育の考え方における造形・美術教育の在り方 やその意義を根源とした具体的かつ実践的な提案を教育 内容や活動内容を中心に行い、本来教科として潜在的に 備わっている美術による教育の力を探究するものである。 参考文献・資料等 ・文部科学省(2018)『中学校学習指導要領解説 美術 編 平成 29 年告示』 日本文教出版 ・デビット・A・スーザ ( 著 ) トム・ピレッキ ( 著 ) 胸組 虎胤 ( 訳 )(2017)『AI 時代を生きる子どもの ための STEAM 教育』幻冬舎 ・文部科学省(2017)「教師力向上事業 初歩的な授 業スキル 測定指標」  http://toss.gr.jp/kyoushiryoku/wp-content/ uploads/2017/04/bu01.pdf ・文部科学省(2018)「OECD Education 2030 プロジェ クトについて」(文部科学省初等中等教育局教育課 程課教育課程企画室)  https://www.oecd.org/education/2030-project/ a b o u t / d o c u m e n t s / O E C D E d u c a t i o n 2 0 3 0 -Position-Paper_Japanese.pdf  本文書の原文の URL  http://www.oecd.org/education/2030/OECD%20 Education%202030%20Position%20Paper.pdf 2 STEAM 教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering (ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の 5 つの 単語の頭文字を組み合わせた造語で、これら 5 つの領域を 重視する教育方針を意味する。この教育方針の目的は、現実 の問題を解決に導く力や今までにないものを創造する力を育 むことであり、元々はアメリカが、科学技術分野での競争力 を高めるために推進してきた教育方針である。

― おわりに ―

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・埼玉県戸田市教育委員会(2018)文部科学省委託事 業「教科等の本質的な学びを踏まえたアクティブ・ ラーニングの視点からの学習・指導方法の改善に関 する実践研究」  http://www.mext.go.jp/component/a_menu/ education/micro_detail/__icsFiles/afieldfi le/2018/06/08/1405850_0_1_1.pdf ・ベネッセ教育総合研究所 カリキュラム研究開発室 (2017)「アクティブ・ラーニングを活用した指導と 評価研究」 研究成果のまとめ  https://berd.benesse.jp/ict/research/detail1. php?id=5147 15 中学校美術科における授業ポリッシュ力についての提案 Ⅰ ー 実践的な視点から考える指導する力について ー 〈研究ノート〉   合津正之助

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