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職場におけるユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)職場におけるユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程 キーワード:レジリエンス、ユーモア、人間関係、ユーモア感情喚起 行動システム専攻 劉 瑩 問題. レジリエンスに関する研究の概観. あるが、普通の従業員に対象とされる研究はあまりな されていない。深刻な状況からの立ち直りのみならず、. 我々は、生きていく中で様々な困難に遭う。事故、. レジリエンスが個人の日常生活に果す役割についても. 事前災害、愛する人やものとの離別(失恋、離婚、死. 検討す る意義があ ることが指 摘されてい る(高辻、. 別、独立など)、失業や退職、社会不安、経済的な問. 2002)ため、本研究は、普通の従業員を対象者とする。. 題、病気や怪我など、様々なことが起きる。困難な出. 普通の従業員は、日常仕事の中で多くの困難や苦痛を. 来事を経験せずに生きていくということは不可能であ. もたらすような出来事を経験する可能性がある。例え. る。. ば、一つのことに打ち込み、高い目標に向かってきた. これまでの研究から、このような生活上の様々なネ. 人が、その目標が達成されなかったときの挫折感、あ. ガティブなライフイベントが個人の精神的健康に深刻. るいは達成されたときにも目標を失った不安感、無力. な影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、この. 感に陥ることがある。この無力感、挫折感によって、. ようなネガティブなライフイベントを経験した人が誰. やがて心も体も疲れ果ててしまい、仕事への意欲も失. でも精神を病み、不適応的な状況に陥るわけではない。. い、ついには精神的不健康な状態へと陥ってしまう。. ネガティブなライフイベントを経験しながらも、精神. 困難を乗り越え適応していくレジリエンス特性は職場. 的不健康状態や不適応状態に陥らず、その状況を乗り. の人間に求められる特性であり、従業員のレジリエン. 越え、心理的、社会的に良好な状態を維持でき適応的. スが解明されれば、抑うつやバーンアウト予防はもち. な生活を送ることが出来ている人もいるだろう。. ろん心身健康の維持に貢献するとともに、仕事の質の. 困難で脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応す る過程・能力・結果のことをレジリエンス(resilience). 向上も期待できると考えられる。 ユーモアと精神的健康に関する研究の概観. という(Masten et al.,1990)。そしてレジリエンスの状. ユーモアは、コミュニケーションの一つであり、身. 態にある者とは、このような困難で脅威的な状況にさ. 体的・心理的・社会的各側面でより健康的な状態を高. らされることで一時的に心理的不健康な状態に陥って. める方法の一つであることが指摘されている。. も、それを乗り越え、精神病理を示さず、よく適応し ているもののことをさしている(小塩ら、2002)。. 上野(1992)は、自己や他者を楽しませるための日 常的でたわいのない遊戯的ユーモア、自己や他者を攻. 本研究では、レジリエンスは、個人内特性の中の心. 撃したり中傷することで楽しむ攻撃的ユーモア、自己. 理的特性として捉える。レジリエンスは発達的であり、. や他者を励まし、許し、心を落ち着かせるための支援. ほかの要因によって促進されたり抑制されたりするこ. 的ユーモアというように、ユーモアを3つのタイプに. ともできる、「ストレスフルな状況でも精神的健康を. 分類している。二宮(2006)は、看護士のユーモアに. 維持する、あるいは回復へと導く心理的特性」と定義. ついて研究したことにより、ストレスリダクションと. する。. して作用するのは遊戯的ユーモア及び支援的ユーモア. レジリエンス研究は、心理学、精神医学、教育など. であると述べ、攻撃的ユーモアが多い職場では看護士. 多方面からなされており、これまでレジリエンスを扱. のストレス度が高いことを示した。ストレス対処に有. った先行研究の対象とされる職業としては、学生を扱. 効である以上、ユーモアがレジリエンスに影響を及ぼ. ったもの、看護士や教師を扱ったものなどさまざまで. すと考えられる。本研究で検討する。.

(2) ユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程. とを通し、レジリエンスに正の影響を及ぼす。. 先行研究によって、ユーモアが精神的健康に及ぼす. 遊戯的ユーモアは駄洒落や言葉遊びなど遊戯的な形. 影響は明らかにされてきているものの、なぜユーモア. 態のユーモアである。他者を楽しませたり、関係を促. が精神的健康に影響を及ぼすのか、その影響過程を検. 進したり、対人間の緊張を和らげる。そしておもしろ. 討した研究はまだ少ない。特にユーモアがレジリエン. いことを言ったり、冗談を言ったり、気の利いたこと. スに影響を及ぼす研究は皆無に等しい。先行研究によ. を言う傾向があるため、人間関係を円滑にしやすく、. ると、本研究は2つの仮定される影響過程を提出した。. そしてポジティブなユーモア感情を喚起しやすいと推. 第1が、人間関係影響過程である。従来、ユーモア. 定される。精神的健康に有益なものとして、レジリエ. 表出は、受け手に好意的に評価され、親しみやすさを. ンスを促進することもできると考えられる。. 高めるといった知見が存在したことから、支援的ユー. 仮説2a:攻撃的ユーモアは人間関係を悪化することを. モアと遊戯的ユーモアは、周囲に対して好印象を与え、. 通し、レジリエンスに負の影響を及ぼす。. 関係性を円滑にすることを通して、精神的健康にポジ. 仮説2b:攻撃的ユーモアはユーモア感情喚起を抑制す. ティブな影響を及ぼすと指摘されていた(深田、2011)。. ることを通し、レジリエンスに負の影響を及ぼす。. しかし、攻撃的ユーモアは、表面的に侮辱や攻撃の形. 攻撃的ユーモアは皮肉やからかいなどの攻撃的な形. 態をとるため、周囲の関係において危険が伴う。この. 態のユーモアである。他者を批判したり、操る目的の. ようなユーモアは、他者に悪い印象を与え、周囲の関. ために用いる傾向がある。このようなユーモアは、表. 係を悪化させることを通して、精神的健康にネガティ. 面的に軽蔑や攻撃の形態をとるため、社会的関係にお. ブな影響を及ぼすと考えられる(葉山・櫻井、2008)。. いて危険が伴う(葉山・桜井、2008)。悪い人間関係. したがって、ユーモアの形態によって、人間関係を通. やネガティブなユーモア感情を引き起こし、レジリエ. して、レジリエンスにポジティブ・ネガティブな影響. ンスの形成にも抑制作用があると考えられる。. を及ぼすと考えられる。. 仮説3a:支援的ユーモアは人間関係を促進することを. 第2が、ユーモア感情喚起過程である。これは、ユ. 通し、レジリエンスに正の影響を及ぼす。. ーモアを使用することで使用者自身に喚起するユーモ. 仮説3b:支援的ユーモアはユーモア感情を喚起するこ. ア感情が、精神的健康に影響を及ぼすという過程であ. とを通し、レジリエンスに正の影響を及ぼす。. る。ユーモア感情は、基本的にポジティブ感情である. 支援的ユーモアは他者や自己を支援するためのユー. と指摘されている(野村・丸野、2008)。このような. モアである。このユーモアは、ネガティブな事象への. ポジティブな感情は、抑うつや不安などのネガティブ. 耐性を高めることを通して抑うつを低減する機能があ. 感情を低減させると実証されている。そのため、ユー. る(宮戸・上野、1996)ため、職場の人間関係が悪く. モア感情喚起がレジリエンスの促進に有効であると考. ても、調整したり我慢したりすることにより維持でき. えられる。. ると推定される。良い人間関係と維持することや、ポ 目的. 本研究では、人間関係とユーモア感情喚起を通し、. ジティブなユーモア感情を引き起こすことにより、レ ジリエンスの形成を促進すると考えられる。. ユーモアがレジリエンスを促進、もしくは抑制する過 程を検討することを目的とする。職場におけるユーモ. 方法 調査対象者. アを使用することにより、ストレスや不安などのネガ. 調査対象者は、職歴のある中国人計 324 名。最終的. ティブな状況を減少し、レジリエンスの形成を促進す. には、310 名(女性 153 名、男性 157 名、不明なし)の. ると考えられる。. 回答が有効回答となった。調査対象者の年齢は 10 代~. 仮説1a:遊戯的ユーモアは人間関係を促進することを. 70 代、勤続年数は 1 年以下~20 年以上であった。. 通し、レジリエンスに正の影響を及ぼす。. 調査期間. 仮説1b:遊戯的ユーモアはユーモア感情を喚起するこ. 2012 年 9 月~10 月の一ヶ月半ぐらいであった。.

(3) e .16**. 調査手続き 中国の「問卷星」というウェブサイトで質問紙調査 を実施した。友達に依頼し、質問紙の回答を求めた。 調査内容. .32*** 遊戯的. 原因分析力. 人間関係. .36***. -.18 ***. 心の強さ. ユーモア ***. .19. 表1 質問紙の構成. e e. .32***. ***. .23. 1.フェイスシート 2.The. Resilience. チャレンジ. ユーモア. Quotient の日本語版尺度(長内・. 感情喚起. 精神. .27***. e. 古川,2004)[Q33] 3.人間関係尺度(渡辺,1982)[Q9]. e. 4.ユーモア感情喚起尺度(深田ら,2011)[Q3] 5.ユーモア態度尺度(上野,1996)[Q24]. 結果 因子構造の検討 1.レジリエンス: ・第1因子:原因分析力(α=.82)「顔の表情を見 れば、その人がどんな気持ちでいるのか分かる」など。 ・第2因子:心の強さ(α=.77)「ほとんどの困難 は私にはどうすることもできないものだ(逆転項目)」 など。 ・第3因子:チャレンジ精神(α=.74)「チャレン. ***p<.001. χ2(4)=3.721,p=.445,CFI=1.000,RMSEA=.000. 促進することを通し、レジリエンスの原因分析力とチ ャレンジ精神の2側面にポジティブな影響を与えた。 一方、遊戯的ユーモアは、レジリエンスの心の強さの 側面に直接ネガティブな影響を与えた。本研究は塚脇 他(2009a)の「遊戯的ユーモア表出に関しては、一貫 して心理社会的健康とポジティブに関連する」という 結果と一致した。仮説1a と仮説1b は一部支持された が、仮設以外の結果も出てきた。. 攻撃的ユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程. e .16**. など。. 攻撃的. -.32. 4.ユーモア: ・第1因子:遊戯的ユーモア(α=.82)「だじゃれ を言うのが好きだ」など。 ・第2因子:攻撃的ユーモア(α=.80)「友人を軽. e. .36***. ***. 心の強さ. ユーモア. .13***. の言ったことで、とても楽しい気分になることがある」 など。. 原因分析力. 人間関係. 2.人間関係:1因子構造(α=.84)「私は職場の人. 3.ユーモア感情喚起:1因子構造(α=.84)「自分. *p<.05. 遊戯的ユーモアは、人間関係とユーモア感情喚起を. ジとは自分を高めたり、何かを学んだりすることだ」. から好かれていると思う」など。. **p<.01. e. .37***. ***. .22. チャレンジ. ユーモア 感情喚起. e. .27*** ***p<.001. 精神 **p<.01. e. *p<.05. χ2(4)=2.806,p=.591,CFI=1.000,RMSEA=.000. く皮肉ったりして楽しむことがある」など。 ・第3因子:支援的ユーモア(α=.74)「友人を励 ますために笑わせようとする」など。 ・第4因子:調整的ユーモア(α=.72)「嫌なこと があっても笑いとばせる」など。 以上の変数間の関連を検討するために、AMOS17.0 を使用し、共分散分析を行った。 遊戯的ユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程. 攻撃的ユーモアは、人間関係への有意な影響が見ら れないにかかわらず、人間関係からレジリエンスの原 因分析力とチャレンジ精神の2側面へのポジティブな 影響力を持つことが明らかとなった。一方、攻撃的ユ ーモアは、ユーモア感情喚起を通し、原因分析力とチ ャレンジ精神の2側面にもポジティブな影響を示した。 仮説2a と仮説2b は支持されなかった。.

(4) 本研究は、攻撃的ユーモアは、レジリエンスの一部. ャレンジ精神の2側面にポジティブな影響を与えた。. にポジティブな影響を与えているという結果が示され. したがって、よく調整的ユーモアを使用する人は、他. た。これは多くの先行研究と逆の結果である。しかし、. 者との人間関係がより良く、自分自身にユーモア感情. 本研究の結果は、塚脇・平川(2012)の「攻撃的ユー. 喚起がされやすい。また調整的ユーモアを使用する人. モア表出と心理社会的健康との関連は、ユーモア表出. は、他者との人間関係がよければよいほど、自分自身. の動機によっては有益な効果をもつ」ことを支持した。. に楽しいユーモア感情が多ければ多いほど、原因分析. 支援的ユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程. 力が強く、チャレンジ意欲もより高いことが示された。. e. 考察 .17**. ***. .38. 原因分析力. 人間関係. e. 本研究は、310名の中国人を対象者とし、職場に おける4つのユーモアタイプ(遊戯的ユーモア、攻撃. .37***. 支援的. 的ユーモア、支援的ユーモア、調整的ユーモア)がレ. 心の強さ. ユーモア. .26***. e. ***. .29. ンジ精神)に与える影響過程を明らかにした。「調整. ***. .31. チャレンジ. ユーモア 感情喚起. 精神. .24***. 的ユーモア」の存在は、中国人が笑いを使い、自分自. e. 身の気持ちや他者との関係を円滑的に調整したり、仲 をとりもったりしている特徴を表していた。 攻撃的ユ. ***p<.001. e. ジリエンスの各側面(原因分析力、心の強さ、チャレ. **p<.01. *p<.05. ーモア以外、遊戯的ユーモア、支援的ユーモアと調整. χ 2(5)=7.292,p=.200,CFI=.993,RMSEA=.035. 的ユーモアは3つとも人間関係を促進する機能がある ことが示された。また、4つのユーモアタイプは全て. 支援的ユーモアは、人間関係とユーモア感情喚起を 通し、レジリエンスの原因分析力とチャレンジ精神の 2側面にポジティブな影響を与えた。レジリエンスの 心の強さの側面はほかの要素から影響を受けていなか った。本研究の結果は、支援的ユーモアの精神的健康 に対する有益な作用を支持した。. ーモア感情喚起を促進することを通し、心の強さ以外 のレジリエンス側面にポジティブな影響を及ぼした。 したがって、従業員のレジリエンスを高めるため、ユ. ア感情の喚起が有効な手段になると言えるだろう。し. e. かし、心の強さを高めるために、遊戯的ユーモアと攻 .13*. 人間関係 *. .14. 原因分析力. e. 心の強さ. ユーモア. .15**. e. .33***. .49*** チャレンジ. ユーモア. .23***. 撃的ユーモアの使用をやめたほうがよいだろう。 最後、今後の課題について、本研究では、ユーモア がユーモア表出者自身のレジリエンスに及ぼす影響過. .31***. 調整的. 感情喚起. が示唆された。職場におけるユーモアは人間関係とユ. ーモアの表出、良い人間関係の維持及び楽しいユーモ. 調整的ユーモアがレジリエンスに及ぼす影響過程. .39***. ユーモア感情の喚起にポジティブな影響を与えたこと. 精神. 程を検討したが、レジリエンスがユーモア表出への因 果関係も視野に入れながら検討すべきである。 主要引用文献. e. Wag nil d ,G. M .& Yo u n g ,H.M .1 9 93 Dev elo p men t an d psychometric evaluation of the Resilience Scale.Journal. e. ***p<.001. **p<.01. *p<.05. χ 2(4)=1.571,p=.814,CFI=1.000,RMSEA=.000. 調整的ユーモアは、人間関係とユーモア感情喚起を 促進することを通し、レジリエンスの原因分析力とチ. of Nursing Measurement,1,165-178. 小塩真司・中谷素之・金子一史(2002).ネガティブ な出来事からの立ち直りを導く心理的特性. -精神. 回復力尺度の作成-カウンセリング研究,35,57-65..

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参照

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