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日本における中国人学部留学生の異文化経験とその後の影響に関する考察 [ PDF

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1. 目次 序章 問題と目的 1 問題所在 2 研究目的 第二章 調査方法と内容 1 調査対象 2 調査内容 第三章 結果と考察 1 調査対象者 A の結果と考察 2 調査対象者 B の結果と考察 3 調査対象者 C の結果と考察 4 調査対象者 D の結果と考察 5 調査対象者 E の結果と考察 第四章 総合考察 1 本研究の概要 2 研究のまとめ 資料 謝辞 2. 序章 問題と目的 ⑴問題所在 2008 年第 169 回国会における福田内閣総理大臣の施 政演説により、「留学生30 万人計画」の留学生を受け入 れる政策が打ち出された。日本への留学生の増加に伴い、 近年、留学生の異文化適応に関する研究や留学生政策と 実態に関する研究が盛んに行われ、留学生への関心を集 めるようになってきた。しかしながら、これらの研究の 多くは留学生の適応状況の全体像やその国の留学生政策 の実施状況の概観について研究されたものであり、留学 生を個々人として取り扱ったものは少ない。個々人の留 学生が留学先国における異文化経験をどのように解釈し、 その後どのように受け止めたかについて、具体的にとら えていくことは、異文化適応を考える際に重要な視点で あるが、それについて触れる質的研究が極めて少ない。 すなわち、在日留学生の異文化を受容するプロセスの検 討についての不十分さがあると考えられる。本研究の目 的の一つは、中国人学部留学生を対象に、留学生活に出 会った様々な困難をどのように受け止めたのかを明白す ることである。 ⑵研究目的 本研究は、留学生は自らが置かれる異文化状況で現出 した出来事を把握し、調査対象者達はその出来事に対し て、当時どのような思いを持ち、対応し、現在どのよう に解釈し、どのような影響を及ぼしているかについて明 らかにすることを目的するものである。筆者は一留学生 として異文化に接触している一当事者として研究をすす め執筆している。留学政策や受け入れる制度のマクロレ ベルの分析研究では、ほとんど個々人は取り扱わないが、 本稿は個人の文脈で生じる異文化接触における適応の問 題を取り扱い、ミクロレベルの研究として位置づけられ るものである。 ⑶扱う言葉の定義 横田・白圡(2004)によると、留学について、次のよう に述べている。「留学」とは、「従来の意味で言えば、個 人が異郷の地に留まって、その先進的制度・文物を学び、 故郷に持ち帰ることである。」1それだけではなく、留学 ということ自体、異文化に接触するものであり、文化間 移動でもある。従来自分を取り巻く文化の中では当たり 前のように意識しない部分について、異文化経験を通じ て新たな気づきも生まれてくると考えられる。 本研究では、留学先国あるいは異郷の社会のことを異 文化社会であると捉えている。文化移動後の着地点とし て留学先国であり、その土地にあったすべての出来事を 異文化経験として考える。 「留学生」の定義について、「『出入国管理及び難民認 定法』に定める「留学」の在留資格により、我が国の高 等教育機関(大学、大学院、短期大学、高等専門学校、 専門学校)に在籍する外国人学生」を指す。2本稿で はそれに従う。 ⑷異文化社会に適応する必要性 山岸(1997)によれば、社会環境の一部を構成する個々 人が見せる様々な心理特性は、個人がその環境の中で有 利に生き抜く為の「適応」の結果である。3 言い換えれば、ある国の中に生まれてきた文化、人々 の心理的特性はそれらの人々にとって使いこなしている もので、そしてその環境の中で生きていく上で有利なも

日本における中国人学部留学生の異文化経験とその後の影響に関する考察

キーワード:異文化経験,中国人留学生,適応,学部時代,影響 所 属 教育システム専攻 氏 名 王 星

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のでもある。他国からやってきた異文化体験者達は新し い環境で有利に生きていく為に、その社会の文化に適応 する必要があるし、その社会の中に生きている人々の行 動様式や心理特性が分かる必要があると考えられる。 第二章 調査方法と内容 ⑴調査対象 国立大学の在日中国人学部留学生(合計5名、香港・ マカオ、台湾という出身地域の者がいない)を対象にイ ンタビュー調査を行う。 全員が国立大学出身で、日本に長年滞在し、一定の日 本語能力を有する者である。また、各対象者の経済状況 の支出の見比べの際に、国立大学の一学期の学費は 30 万円未満であるため、生活状況が想像しやすい。故に、 国立大学出身者を調査対象者とした。 今回調査対象者は全員学部の終了年限は4年である。 学部という4年間の区切りをもって考察する理由として、 次に挙げられる。彼らは、短期留学・交換留学などの異 文化経験者の目的と違い、大学を卒業することが大前提 であって、暗黙の目標となっている。また、近年母国で 大学を経て、大学院を目指し留学する者も少なくない。 しかしながら、大学院2年間より大学学部4年間の方が ライフストーリーの厚みが変わってくる。長くホスト国 に滞在すればするほど、そのホスト国の社会文化に対し て、自分なりの考えが構成され、自分なりの理解が深ま る。調査対象者全員は未だに日本に滞在し続けている。 今回学部の4年間についての振り返りインタビュー調査 を通して、過去の異文化体験についてより客観的かつ積 極的に考えてもらい、語れると考えられる。 次に、世界各国から日本へ留学してきた者の中で、今 回取り扱う文化圏を特定し、出身国を中国にした理由は 次のことからである。 現在の留学生数135,519 人(平成 25 年 5 月1日のデ ータ)であり、出身国(地域)別留学生数上位5位は中 国81,884 人、韓国 15,304 人、ベトナム 6,290 人、台湾 4,719 人、ネパール 3,188 人である。留学生総数におい て大きな割合を示している。中国の留学史は既に142 年 を有し、現在世界最大の留学生送り出し国である。在学 段階別留学生数からみて、大学院 39,567 人、大学(学 部)67,437 人、短期大学 1,438 人、高等専門学校 464 人、専修学校(専門課程)24,586 人、準備教育課程 2,027 人である。4大学(学部)在学段階の留学生数が最も多い ことが分かる。ここで、中国人学部留学生を選ぶことを 通して、大多数の留学生の留学生生活に遭遇する出来事 を共有し、共感・参考できる経験をまとめることに努め ることができると考えた。 日本と中国は古くから切っても切れないような縁があ り、一衣帯水と言えるほどの地理的親密性があり、留学 生に求められている能力水準が、他国の留学生と比べて、 比較的に高いと考えられる。例えば、南米のような漢字 が全く使わない文化圏からやってきた学生は、まず日本 語を話すことができるようになれば、それが一応の成果 として認められ、読み書きができるまでの余裕をかなり 長く与えられる。来日後、第三産業へのアルバイトする 経験も少なく、国からの奨学金体制(奨学金の競争率) も違ってくる。それに比べて、同じ文化圏にいる中国人 留学生長く滞在すればするほど、語学に対する期待も高 くなり、仕事上においても日本人と同じようになるよう に振る舞うと求められる。こういった文化的適応の期待 が高い反面、国の文化背景が違うことへの配慮が薄くな っていく。日本と中国は確かに漢字を扱う国であるが、 場合に、同じ字であっても、意味が異なることが多々あ る。通じるように見えるが、実際にはお互いによく分か らないという盲点がある。このように、両国の文化にお いても「似ているが、少し違う」「違うが、少し分かる」 という特徴は他の国との間に生まれにくい、日中両国の 間にしか生まれないものがあると考えられ、中国という 所を選んで取り上げる意味が非常にあると言えよう。 ⑵調査内容 インタビューを通して、大学学部の生活を振り返って もらい、彼らの留学生活について語ってもらった。彼ら の学部時代のライフストーリーはどのようなものであっ たか、学部時代にどのような困難に出会い、どのように 対応していたかということを把握し、学部時代にあった 出来事に対して、現在振り返ってどのように思い、評価 しているかということを明らかにする。その上で、過去 の出来事は現在にどのように影響を及ぼしているかを考 察する。 調査対象者は筆者と同じ出身国であるので、インタビ ュー調査の際に、双方母国語を使い、言葉の意味の行き 違いを防げ、より正確的に深層的な心境まで聞き出すこ とができるという効果が期待されている。 インタビューの時間について、時間の制限を設定しな いが、インタビュー調査項目を全部聞き取れることを前 提とする。対象者はインタビュー項目に含まれないもの を述べていくことを想定されているので、手法として半 構造化インタビューを選び、調査対象者一名対筆者一名 で実際に面会する(face to face)という形で行った。その 際に、調査対象者の承諾を得て、話した内容を録音した。 インタビューの内容は、次のように設定した。

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① いつ日本に来ましたか。 ② どうして日本を選びましたか。 ③ 今何をしていますか。 学部時代のことを振り返ってもらいます。 ④ 学部時代に印象に残ったことは何でしょうか。 ⑤ 大学生活の一日の流れを教えてください。 ⑥ 学部時代の経済状況を教えてください。 学部時代に周りとの関わりについて ⑦ 当時どんな友人が居ましたか。 ⑧ 所属していた研究室、サークル、もしくはバイト先 にいる方々とどのような付き合いをしていました か。 ⑨ あなたにとって、日本での留学生活の難しいと感じ るところは、どんなものでしょうか。 ⑩ 学部時代の留学生活にとても適応していたと思いま すか。 ⑪ 今考えてみると、学部時代の留学生活は今のあなた にとってどんな影響を与えていると思いますか。 井上(1999)によれば、「一般的に、留学生は日本人 学生に比べて解決すべき課題をより多くもった存在であ り、それ故にケアが必要となることも多い」と言える。 すなわち、日本人学生と同様な①青年期の課題や②勉学 の成就といった課題を持つだけではなく、③日本語の習 得、④日本文化・社会(特に人間関係)への適応、そし て⑤経済的自立(私費留学生)など留学生に特有の課題 が加わる。これらの課題は、一つずつ順番に現れるわけ ではなく、同時にやってくるので、同時に対処しなけれ ばならない。さらに、周囲に助けてくれる支援者(親や 昔からの友人)がいないので、文字通り自分だけで解決 していかなければならないことが多い。このような五つ の課題は、留学の初期から帰国に至るまでの全期間にわ たって大なり小なり課題であり続ける。」と指摘している。 5本研究のインタビュー項目は、この五つの要因を踏まえ た上で構成した。 また、インタビューを実施する際に、筆者はナラテイ ブ・アプローチの視点を意識し、調査に臨んだ。森岡 (2013)によれば、ナラテイブについて、次のような視点 に立っている。「語るという行為は自己そのものを成り 立たせ、支えている。語りとは現在によって過去を語り、 過去において現在を見る実践である。ナラテイブは特定 の時間の枠組みの中で体験の素材を捉え、再現し、体験 の世界を一貫して表現する形式である。」6体験の想起、 語り直しを通じて、現実を作るという基本の考えにある。 生活の事実としては同一の出来事であっても、その出来 事が繰り返し語られることによって、出来事の意味付け や描写の細部が変化する。このように、筆者はインタビ ュー調査の際に、単なる聞き取りにてデータ収集するだ けではなく、調査対象者の語りと筆者との会話のやり取 りにより、調査対象者の過去の物語を構成していく。 ナラテイブの視点を導入することの積極的意義につい ては、以下の3 点に絞られる。 ① 個人の体験を資料として活かす。 ② 変化のプロセスを記述する ③ 体験の現実を再構成する 第三章 結果と考察 調査対象者5名はA、B、C、D、E と記載し、筆者は インタビュー結果をまとめ、各自から聞き取った話題に ついて、分析を行った。 考察は以下の通りである。 まず、どの調査対象者にも日本語の難しさは大学入学 後に直面する最初の課題であることが分かった。次に来 日大学受験に関して、5人のうちに4人の語りでは、中 国国内での大学入試の競争の激しさに触れ、その原因か ら来日の道を選んだことも明らかになった。 また、各調査対象者にとって、日本という異文化環境 に滞在すればするほど、ある種の適応状態に達してない と、居られにくいと考えられる。この適応状態は現実生 活の中にどのような形に現れているかに関して、それぞ れ異なると考えられる。 調査対象者A にとって学部時代の思い出は遠く昔のよ うな存在として語りの中で再現され、今の社会人生活と 比較すると、相当充実しておりよく慣れていたことが分 かった。 調査対象者B にとって、友人のいじめ自殺ということ により、自分が痛い目にあわないということを意識し、 研究室の先輩仲間と衝突し、ある意味で勝っていくたび に、自分自身をよく守ったというスタンスで生きている ことが明らかになった。 調査対象者C に関しては、忙しさや自分の選んだ道の 大変さを克服することによって自己有能感が増し、経済 状況を安定させることによって、適応者として自分のこ とを認めていくこととなった。 調査対象者 D は来日当時の右も左も分からない状況 から大学時代に学生をまとめる立場になっていくような 変身を通して、留学生活や将来の発展についての考えが より深まったことが伺えた。また、調査対象者D にとっ て、日本に滞在するのであれば、いつになっても、実質 的リーダーにはなりにくく、永遠の2番手に終わってし まうという考えを持っている。それでも滞在する異文化

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社会に適応する必要があり、適応することはイコール試 練でもある。一弱者として適応せざるをえないことが語 りに反映されている。 調査対象者E は仲がいい日本人の友人ができたことに よって、自分が恵まれたと感じ、自分自身を認めること となった。また自分が一番目立たなくても、一つ一つの ことを無難にこなし、クリアするによって、自己を肯定 的に評価している。 以上、各人は適応の支えは異なるものではあるが、そ の中に共通のものもみられた。 それはどの調査対象者も日本での留学生活経験を最後 に肯定的な方向で語り、たとえ学部時代に大変な出来事 があったとしても、ポジティブな面に目を向けているこ とである。文化間移動を行った後に、現地に長く滞在す るにあたって、現地社会の規範に従い、現地の人々の考 えを理解する必要があり、現地の状況に適応せざるをえ ない部分があると思われる。彼らの留学生活に関する前 向きな考えは無論望ましい話であるが、一方で、日本で 長く滞在していくのに必要な精神、必要な考えであると 考えられる。 第四章 総合考察 異文化の「外」からみると、違う国の人は違う特徴を 持っている。国によって人々は各自持っているイメージ がある。これは異文化に踏み込んでいかないと、ステレ オタイプ的な考えを維持したままだが、異文化に接触す ることによって、自分の今まで気づいていない部分に気 づき、固定観念から広角的視点によってものごとをとら える可能性が生まれてくる。 文化間移動して、異文化の「内」に滞在していくと、 これまでの考えが崩れていくと考えられる。とりわけ長 く滞在する人にとって、異文化社会にやってくる前の考 えについては、やっぱりそうだと再確認できる部分もあ るが、前に思ったことと違うと気づくこともある。こう いったイメージと現実のズレは異文化社会に足を運ばな いと、なかなか実感できるものではない。 そして、留学生の異文化体験に関して、量的調査報告 ではその出来事はその留学生のただ百パーセントの何十 かのように示していることに対して、個々人の現実生活 において、その本人の留学生にとってほぼ百パーセント の出来事になってしまう。 例えば、奨学金の例からいえば想像しやすい。月生活 費用額の半分に相当する奨学金がもらえるか、もらえな いかということは、留学生本人の経済状況にとって天と 地の差があると言っても、過言ではない。本研究であげ られた5名の調査対象者の語りの事例は、他人にとって 重大な問題に見えないかもしれず、また、留学生の典型 的な経験であるとはいえないが、当時のその留学生本人 にとって切実な問題である。 最後に、今回調査対象者の出身地域選択にあたって、 筆者と同じ出身国の5名を選んだが、今後違う地域の協 力者の語りを集めることに期待される。あるいは、基本 情報のスタンダードラインにおいて、より条件が揃って いくような形で調査に臨む必要があると考えられる。 留学生の規模拡大は今日において、まだ続けていくと 考えられるが、異文化に一歩踏み込み、多角的な視点を 持ち、自国の文化と他国の文化を見ることができると考 えられる。 参考・引用文献: 1 横田雅弘・白圡悟(2004)『留学生アドバイジング− 学 習・生活・心理をいかに支援するか− 』ナカニシヤ出版 まえがき 2文部科学省(2008)「「『留学生 30 万人計画』の骨子」 2文部科学省(2008)「「『留学生 30 万人計画』の骨子」 とりまとめの考え方に基づく具体的方策の検討(とりま とめ)− 留学生を引き付けるような魅力ある大学づくり と受入れ体制− 」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4 /houkoku/attach/1249706.htm アクセス日 2014 年7月 14 日 3 山岸俊男(1997)「心と社会の均衡としての文化— 関係 の固定性と内集団ひいき」柏木恵子・北山忍・東洋編『文 化心理学— 理論と実証』東京大学出版会, pp.198-219 4 同注1 5 井上孝代(1999)『留学生担当者のためのカウンセリ ング入門』JAFSA ブックレット、アルク新曜社 6 やまだようこ・麻生武・サトウタツヤ・能智正博・秋 田喜代美・矢守克也(2013)『質的心理学ハンドブック』 新曜社pp.276-285

参照

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