まちづくりプログラム mju08054 野上雅浩
【背景及び問題意思】
構造計算書偽装事件による建築・住宅市場における混乱の再発を防ぐために、平成 19 年に建築基準法の大改正が行 われた。主な改正内容は、瑕疵担保責任履行法による生産者責任の明確化、建築士への罰則の強化、検査項目の強化、
検査機関の指定要件強化(検査責任履行の資力確保を含む)等である。この法律整備のうち、瑕疵担保責任履行法によ って、建築・住宅市場の混乱収束と、住宅市場の厚生水準が向上するかという観点で次の問題を分析する。
【分析の流れ】
1. 住宅瑕疵担保責任履行法による保険及び供託によって瑕疵担保責任履行について資力面での改善が見込まれる が、供託と保険の選択によって品質管理の注意水準がどう変化し、全体の社会的余剰に差異が生じる可能性につ いてモデルを用いて分析する。
2. 現在のマンション市場において、供託制度を利用すると想定される資力の潤沢な住宅事業者におけるプレミアム の有無と、構造計算書偽装事件以降の変化について分析する。
1.保険と供託による厚生水準についての考察
【分析の目的】
構造計算書偽装事件についてこれまで、経済学的見地 から様々な分析がなされた。しかし、2009 年 10 月に完 全施工される瑕疵担保責任履行法については、必ずしも 先行研究で実証されている効率的な内容とはなってい ない。そこで、確定後の瑕疵担保責任履行法において厚 生水準が最大化される注意水準について分析する。
【モデルを用いた分析】
モデルを用いて、瑕疵担保責任履行法の下で選択可能な 供託と保険について、住宅事業者、保険法人が利潤を最適 化するときの注意水準とその社会的余剰について分析し た。
モデルの定義
・ 住宅価格:
B
・ 建設費:
C b
・ 住宅の価値その他住宅により生じる余剰の総和:
S
・ 瑕疵の部位特定や責任所在の確定に必要な取引費用:
U
・ 住宅事業者の品質管理における検査における注意水準:
x b
・ 保険法人の検査における注意水準:
x i
・ 保険検査料収入:
w
w
については適切な水準で設定される・ 品質管理コスト:
C x x
住宅事業者が品質管理の注意水準を上昇させた場合、品質管 理コストが増加することは自明であるため、
C x
はx
の増加関数であると考えられる。本分析においては単純化して
x
の一次関数とする。なお、住宅事業者については
C x b b x b
、保険法人については
C x i i x i
とする。・ 瑕疵が生じた場合の損害賠償費用:
L
・ 適切でない品質管理に起因する瑕疵発生確率:
P x
はx
の減少関数であると考えられる。P x
x 0
P
、P x 0
、P 0 1
、lim 0
P x
保険制度利用は
P x b x i
、供託制度利用のはx P x b
保険制度利用のモデル
・建築主余剰
b i
ins
owner
x S B UP x x
S
_
・住宅事業者余剰
b b b i b bins
builder
x B C w LP x x x
_( )
・保険法人余剰
i i i b i
insurance x w x LP x x
( 1 )
・社会的余剰
b
b i b b i iins
x S U C U L P x x x x
SW ( )
供託制度利用のモデル・建築主余剰(供託)
b
dep
owner
x S B UP x
S
_
・住宅事業者余剰(供託)
b b b b
b depbuilder
x B C x LP x
_
・社会的余剰(供託)
b b b b
bdep
x S UP x C x LP x
SW
【モデル分析結果】
・ 供託制度を利用するほうが保険制度を利用するより、
社会的余剰が大きくなる可能性が高い。
・ 供託制度は瑕疵の損害賠償に対する備えを自己資金 等で対応している十分な資力の住宅事業者が前提。
・ 保険を利用する住宅事業者において保険法人と瑕疵 の発生時の責任分担を明確にしない場合にモラルハ ザードを起し。十分な注意水準が発揮されない可能性 がある。
住宅瑕疵担保履行法における供託と保険の選択に係る経済分析
【モデル分析のまとめと限界】
モデル分析より保険制度において、保険者と被保険者で 適切なリスク分担を事前に決めていない場合、保険は公共 財的性質をもちフリーライドが発生することが推察され る。また、供託を用いた際の瑕疵の損害賠償のための自己 保険費用等を正しく見積もらない場合、本来保険を選択す べき事業者が供託を選択肢、住宅取得者に対する瑕疵の損 害賠償が不十分となる可能性が懸念される。
なお、今回のモデルについては、保険リスクを集約する ことによる大数の法則の効果や、供託時の瑕疵発生時の損 害賠償のための自己保険費用等を考慮していないため、さ らに詳細な分析を行なう場合、その点についても考慮が必 要となることが課題である。
b b b b
bdep
x S UP x C x LP x
SW
b
b i b b iiins
x S U C U L P x x x x
SW ( )
i
b
x
x y
b b
x y
x LP y
0 y UP x x
*b x
*ix
*b2.マンション価格動向から推察する消費者のリスクプレ
ミアムに関する実証分析 (表 2) 基本推計式計算結果
【本論文における仮説】
[仮説]
供託を行うに十分な資力を有すると想定されるデベロ ッパーのマンションにはプレミアムがあり品質管理に 関する期待の強まりが予測される 2005 年以降そのプレ ミアムが拡大していると予測され、その分析を行う。
平均分譲価格(万円/㎡) Coef. Std.Err.
major7 ダミー 6.9510 *** 0.5095 平均床面積(㎡) 0.1318 *** 0.0058 最高階数(階) -0.9480 *** 0.0238 20 階以上 30 階未満ダミー 11.8253 *** 0.4627 30 階以上 40 階未満ダミー 22.7645 *** 0.6872 40 階以上ダミー 39.6542 *** 1.0403
総戸数 -0.0082 *** 0.0006
工期(月) 0.2653 *** 0.0163
建設資材価格指数 0.2045 *** 0.0244 バス便(分) -1.0193 *** 0.0285
徒歩(分) -0.5656 *** 0.0151
都心からの鉄道乗車時間(分) -0.2654 *** 0.0071 都心 8 区ダミー 16.9215 *** 0.2401 23 区外東京都ダミー -5.5680 *** 0.2785 さいたま市ダミー -12.0930 *** 0.3812 埼玉県ダミー(さいたま市以外) -15.5291 *** 0.2891 千葉市ダミー -16.1549 *** 0.4416 千葉県ダミー(千葉市以外) -18.1953 *** 0.2760 横浜市ダミー -7.6070 *** 0.2493 川崎市ダミー -8.3166 *** 0.2963 神奈川県ダミー(横浜市、川崎市以外) -8.3693 *** 0.3598 土地権利形態 -2.8011 *** 0.7481 1995 年販売ダミー 11.9104 *** 0.4312 1996 年販売ダミー 9.2624 *** 0.4190 1997 年販売ダミー 8.7450 *** 0.4165 1998 年販売ダミー 7.3813 *** 0.3982 1999 年販売ダミー 4.4317 *** 0.4221 2000 年販売ダミー 1.6737 *** 0.4543 2001 年販売ダミー -0.0839 0.4623 2002 年販売ダミー 0.9177 * 0.4909 2003 年販売ダミー 1.0930 ** 0.4895 2004 年販売ダミー -0.0519 0.4409 2006 年販売ダミー 2.9759 *** 0.4066 2007 年販売ダミー 7.9285 *** 0.4199 2008 年販売ダミー 10.5007 *** 0.5039 major7×1995 年販売ダミー -3.0481 *** 0.7628 major7×1996 年販売ダミー -2.2008 *** 0.7829 major7×1997 年販売ダミー -1.8925 ** 0.7881 major7×1998 年販売ダミー -4.1223 *** 0.7741 major7×1999 年販売ダミー -0.4780 0.7481 major7×2000 年販売ダミー -0.7638 0.7528 major7×2001 年販売ダミー 0.2995 0.7513 major7×2002 年販売ダミー -2.1791 *** 0.7215 major7×2003 年販売ダミー -0.1134 0.7125 major7×2004 年販売ダミー -0.6471 0.6935 major7×2006 年販売ダミー -0.1085 0.7339 major7×2007 年販売ダミー 3.7469 *** 0.7430 major7×2008 年販売ダミー 1.3578 * 0.7643
47.7942 *** 2.4573
※ ***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%の水準で有意で あることを示す。
Number of obs 34616 F( 48, 34567) 1054.83
Prob > F 0
Adj R-squared 0.5937
【分析の方法】
major71物件の価格におけるプレミアムを分析し、2007 年における変化を観察する。消費者が「安心」に関するリ スクプレミアムをつけているという仮定の下、その安心の 対象を、「倒産リスク回避」と、「品質管理への期待」とし て分析する
【分析に使用するデータ】
(株)不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」に よる分譲マンションデータ(1995 年 1 月~2008 年 8 月)を 基本として、着工月の建設コストの変動を表す指標として 建設資材価格指数(財団法人経済調査会)等を用いた。
【基本推計モデル式】
基本モデル及びその説明変数等については、次のとおり。
k
k k
j j j i
i i h
h
h
X a LD a YD a M D YD
a D M a a
Uprice
0 17
2 3 4 37
Uprice D M 7
:㎡あたり分譲価格(万円/㎡)
:メジャー7ダミー
事業主体にメジャー7運営会社が含まれるマンションの ダミー。JV プロジェクトで1社以上メジャー7運営会社 が含まれる場合も含む。
X h
:主要説明変数建設資材価格指数 着工日の属する月の値を使用 平均面積 一戸あたり専有面積の平均
階数 (階) 複数棟ある場合は最高層棟地上階数 超高層ダミー 20 階以上 30 階未満、30 階以上 40 階
未満、40 階以上で区分 総戸数 (戸) 建物(団地)全体の総戸数
バス便(分) 最寄り駅からバス使用の場合の時間 徒歩(分) 最寄り駅からの徒歩時間
鉄道乗車時間(分) 都心から最寄り駅までの乗車時間 土地所有権分類 D 区分所有権以外の敷地なら1
LD i
:地域ダミー都心 8 区(千代田,中央,港,新宿,文京,台東,渋谷,豊島)、
その他東京都区部、さいたま市、埼玉県(さいたま市以外)、
千葉市、千葉県(千葉市以外)、横浜市、川崎市、
神奈川県(横浜市、川崎市以外)
YD j
:販売年ダミー期毎の販売開始日の属する年(1 月から 12 月で区分)
このモデル式について OLS にて分析を行った。その結果 は表 2-1 のとおりで、係数は予測される結果と一致した。
【推計モデル式の拡張】
基本モデル式に分析したい項目のダミーを設けて、各年 ダミーとの交差項を設けて分析し、そのダミーによる各年 の変化を観察する。当該ダミーと各年ダミーの交差項の和 をその年の観察対象のプレミアムとする。なお推計結果に ついて、基本推計モデル式と同じ説明変数についてはわず かな変動が観察されたもののほぼ同様の傾向が観察され たため本概要での説明を省略する。詳細については本編を 参照のこと。
1 メジャーセブン:新築マンション販売情報とマンション選び関連情報 を提供する新築マンションポータルサイト。
2000
年4
月に開設。住友不 動産株式会社、株式会社大京、東急不動産株式会社、東京建物株式会社、藤和不動産株式会社、野村不動産株式会社、三井不動産レジデンシャル 株式会社、三菱地所株式会社の不動産大手
8
社で共同運営。【基本推計モデル式における各年の平均単価の変化】
-2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
(万円/㎡)
-6.0 -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
(万円/㎡)
Major7
Major7 かつ JV 事業
JV 事業
(図 2-1) 平均分譲単価の推移
その他の条件一定のとき 2001 年から 2005 年までの平均 分譲単価は低い水準であった。2006 年から 3 年間の間に 平均分譲単価は上昇した。この間マンション供給戸数は減 少傾向にあるにも係らず、成約率も低下していることから、
需要による値上がりでなく建設コストや地価の上昇等に 起因するものと予測される。
(図 2-4) JV 事業プレミアムの推移
1997 年から 2003 年にかけて一定のプレミアムが存在し ていたことが観察された。しかし、2003 年以降そのプレ ミアムが減少しその後平均分譲単価への影響は小さいま ま推移している。
【major7 のプレミアムの変化】
【品質管理に関するプレミアムの分析】
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
(万円/㎡) 施工会社についてもその規模から市場撤退コストが大
きく適切な施工監理が期待されるスーパーゼネコンと準 大手ゼネコンについて分析を行なった。
-5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
(万円/㎡)
Major7 スーパーゼネコン施工
Major7 準手ゼ ネコン施工 (図 2-2) major7 プレミアムの推移
1995 年から 2008 年にかけて事業主が major7 である物 件の平均分譲単価にはプレミアムが確認された。また、長 期的に観察すると上昇傾向にあることが観察された。プレ ミアムの対象としては、設計・設備・立地条件・アフター サービスの良さ、安定した所得層が集まるコミュニティへ の期待、事業主の経営の安定性、品質管理への期待、思い つく範囲で列挙してもあげられる。そこで、2007 年に major7 のプレミアムを突出して上昇させた要因を、買い 手のマンションの安全に対する期待の強まりと予測した。
スーパーゼネコン
Major7
準大手ゼネコン
(図 2-5) スーパーゼネコン施工プレミアム等の推移
【倒産リスク回避に関するプレミアムの分析】
(1)スーパーゼネコンの分析 親会社の資力が十分である大手私鉄系デベロッパーと
倒産リスクが分散される JV 事業について分析を行った。 施工会社がスーパーゼネコンである物件については、プ レミアムの存在が有意に確認され、さらに 2007 年には事 業主体が major7 である物件と比較してさらに大きなプレ ミアムが生じていることが観察された。
(1)大手私鉄系デベロッパーの分析
- 1 0 . 0 - 5 . 0 0 . 0 5 . 0 1 0 . 0 1 5 . 0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
( 万 円 /㎡)
(2)準大手ゼネコンの分析
施工会社が準大手であるマンションについては、2007 年において有意なプレミアムは観察されなかった。しかし、
他の推計式と比較して各年の変化は少なく小さい値では あるが安定してその他のマンションより高い値を示す。
Major7
【実証分析まとめ】
消費者が事業主体の経営安定性に期待を寄せる倒産リ スク回避を想定した推計結果より、同じくプレミアムが予 測される、大手私鉄系デベロッパーの物件及び JV 事業の 物件に 2007 年にプレミアムは観察されなかった。
私鉄系デベロッパー
一方、消費者の品質管理への期待に関する推計結果から は、施工会社がスーパーゼネコンである場合プレミアムが 存在し、2007 年においても上昇していることが観察され た。
(図 2-3) 大手私鉄系デベロッパープレミアムの推移 1995 年から 2007 年の期間において明確なプレミアムの 存在を観察することはできなかった。
そもそも major7 プレミアムについて、その要因は倒産
(2)JV 事業の分析
リスクの低さや品質管理への期待のほかに、前述のとおり さまざまであるが、2007 年において急激に上昇している 要因としては、品質管理に関する情報の非対称性から大手 事業者や施工会社に期待していることが実証分析の結果 から推察され、予測どおり供託が想定される資力が十分見 込まれるデベロッパーのプレミアムが 2007 年上昇してい ることが観察された。
そこで、住宅瑕疵担保責任履行保険によって品質管理等 における情報の非対称性等が改善される可能性について 検討する。
3.住宅瑕疵担保責任履行保険を選択するメリット
【住宅事業者の保険と供託の選択】
供給戸数が増加する場合、保険料金はほぼ比例的に増加 するのに対して、1 戸あたりの供託金額は少なくなる。保 険金額が 6 万円から 9 万円となっているため、10 年間で 6000 戸を超える住宅事業者については、瑕疵発生時の損 害賠償金の準備を考慮しない場合、流動性の観点からも供 託が有利となる。
逆に供給戸数が少ない場合供託金を準備することは手 持ち資金の流動性を失うため厳しい。故に、保険市場は中 小工務店を中心として形成されることが見込まれる。また、
不適切な注意水準の住宅事業者に対して、適切な注意水準 の住宅事業者の保険金を再分配することになり、モラルハ ザードの原因となり得る。
【住宅取得者にとっての保険のメリット】
住宅に瑕疵が発覚した際、住宅の所有者は補修に当たり 住宅事業者と調整が必要となる。住宅相談実績や紛争処理 に関する資料等によると、解決までに多大な労力と費用の 発生が見込まれる。供託制度利用の場合、住宅事業者の責 任による瑕疵補修がなされるため、瑕疵の査定や工事範囲 の確定まで、当事者間でやり取りをする必要が生じる。し かし、住宅瑕疵担保責任履行保険を利用した場合、保険法 人の査定や支払いといった第三者による支援の他、住宅の 品質確保促進法に定められた指定紛争処理機関による調 停や仲裁による紛争処理の支援を受けることが可能とな る。このことによって、住宅取得者の瑕疵発生時の取引費 用は大幅に低減される。
【その他想定される供託の問題点】
事業規模とコストの観点から、住宅瑕疵担保責任履行法 が完全施行された場合に、住宅事業者の多くは供託を利用 することが想定される。しかし、共同住宅で供託を利用し た場合、一件の瑕疵の発覚が一棟全体に及ぶことから、同 一設計者等の瑕疵に起因し複数棟で同時に発生し事業者 が倒産した場合等資力が十分でないとき、供託金で損害賠 償が賄いきれない可能性が懸念される。
また、供託制度を利用した場合であっても、消費者に瑕 疵担保責任履行法が浸透し保険利用時のメリットのみが 強調されて認識された場合に、コストかけ適切な品質管理 を行っていた住宅事業者の物件についても消費者が保険 を求めることで、これまで品質管理にかけてきたコストが 正しく評価されなくなる恐れが生じ、その事態が慢性化す ると住宅事業者は保険に移行し、その際にはこれまでより 低い注意水準を選択する懸念がある。
【まとめ】
保険を用いた場合、紛争処理の支援を受けることが可能 なことから瑕疵発生時の取引費用が少ないことが期待さ れ、これまで品質管理へのプレミアムを見出していた住宅 取得者が保険を強く希望する可能性がある。しかし、同時 に実証分析でプレミアムが観察された企業は供託を選択 することが予想されるため、市場の縮小が懸念される。
4.まとめとインプリケーション
まとめ
緊急措置として瑕疵担保責任履行のための資力確保措置 が図れたため、効果的である。
品確法における住宅の重要な部位における 10 年間の瑕 疵担保責任履行について事業主が倒産したときの資力確 保を供託と保険によって措置しことは、消費者保護の観点 で評価される。また、住宅事業者にとってもその供給戸数 に応じてリスク管理を内部化することが最適な場合は供 託制度を、保険を利用することが最適な場合は保険制度を 選択可能としたことも評価される。ただし、損害賠償の対 応費用を準備していない事業者が供託を選択した場合や、
保険を利用する際のモラルハザードの問題などが解決さ れることで、更なる構成水準の改善が見込まれる・
紛争処理体制の整備は効果的である
住宅に瑕疵が発覚した際に補修が完了するまで住宅事 業者とのやり取りは非常に負担が大きく、指定紛争処理機 関が利用可能となる効果は大きい。保険金を住宅所有者が 直接請求することが可能となることで、更なる厚生水準の 改善が見込まれる。
インプリケーション
可変保険料率の可能性について
モデル分析の結果から保険より供託を利用した場合に 住宅事業者の注意水準は上昇し、社会的余剰が大きくなる ことが観察された。ただし、保険は加入者が多いほど大数 の法則により費用を抑えることが可能となる。
また、実証分析から供託を行うのに十分な資力を有する 大手デベロッパーにはプレミアムが存在し、2007 年にも プレミアムが上昇していることから品質管理への期待が 増加しているものと推察した。また、供託制度において、
適切な品質管理の事業主体とそうでない事業主体を消費 者が識別することは難しいため情報の非対称性が解消さ れない。
その問題点を解消する手段として、保険制度の活用が想 定される。大手以外のデベロッパーでも低い可変料率の住 宅瑕疵担保責任履行保険が付保できることで。品質管理に 対する情報の非対称性が解消され、現在のマンション市場 における契約率の低迷が改善される可能性が見込まれる。
適切な品質管理と適切な瑕疵発生時の対応を行うこと で、保険金の支払いを低く抑えた被保険者に低い保険料率 を設定することは保険情報が蓄積されれば可能となる。こ のとき、消費者は保険料率から事業主体の品質管理に関す る水準を把握することが可能となり、保険によって品質管 理等に関する情報の非対称性が解消されることが期待で きる。
任意制度として、住宅取得者が被保険者となるスキーム 資力を有する住宅事業者は経済的合理性から供託を選 択し効率的に社会的余剰は最大化される。しかし、供託制 度においては住宅事業者の品質管理についての情報の非 対称は改善されない。また、マンションの場合瑕疵が発生 したときに 1 棟で同時に発生するため供託制度では対応 しきれない可能性がある等の問題点もある。
しかし、多くのデベロッパーは供給戸数が多いため供託 ではなく保険を選択することは経済的合理性を欠く。
そこで、仮に瑕疵担保責任履行保険を消費者の選択によ って任意加入を可能とした場合、消費者が自己責任におい て対応できるため、リスクプレミアムを見出す消費者だけ が保険を利用することで消費者余剰は上昇することが考 えられる。この場合において、保険会社と住宅事業者の責 任配分を明確にすることが不可欠である。
また住宅所有者を被保険者とするとき、瑕疵担保責任履 行保険で消費者に支払った保険金は事業者が存続する場 合、保険法人は事業者に求償することとし、さらに前述の 住宅事業者ごとの可変料率を設定し住宅事業者に適切な 注意水準と瑕疵発生時の対応を行うインセンティブを設 けることが不可欠といえる。