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第2章 高度利用地区の概要

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Academic year: 2021

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高度利用地区の活用による土地利用が周辺地域に与える影響に関する研究

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU13602 岩崎 啓介

第1章 はじめに

高度利用地区内の建築物の配置は、開発事業者 が計画敷地内の地権者だけでなく、自治体や周辺 敷地の地権者とも調整を行い決定されることも ある。

その際に、周辺環境への配慮の方法について明 確な定めがないために、開発事業者、自治体など の主張が異なり、決定までに多くの時間を有する 場合もあり、取引費用が大きいのが現状である。

ただし、明確な定めがないために、調整を行って いるものの、最終的には開発事業者の希望に近い 形で建物の配置が決定されることも多くある。

高度利用地区内の建築物は大規模なものが多 いため、その形状の違いにより、周辺地域に与え る影響は大きく異なってくると考えられるが、開 発事業者の希望に近い形でのみ配置が決定され てしまうと、その周辺地域への外部不経済が懸念 されることもある。

そのため、自治体は高度利用地区内だけでなく、

周辺地域を含めた街区全体での環境向上に努め るためにも、建築物の形状の中でも周辺地域に影 響を与える可能性の高い要因については、一定の 基準を示す必要があると考えられる。

第2章 高度利用地区の概要

2-1 高度利用地区の概要

高度利用地区とは、用途地域内の市街地におけ る土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能 の更新とを図るため、建築物の容積率の最高限度 及び最低限度、壁面の位置の制限などを定める地 区のことである(都市計画法第9条第18項)。

高度利用地区は、用途地域などと同様に都市計 画法における「地域地区」の一つであり、都市計 画決定の手続きは区市町村が主体となっておこ なわれる。

そのなかで、東京都が定めている高度利用地区 の指定方針によると、指定対象区域は、第一種低 層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域以 外の用途地域が指定されている地域のうち、土地 の健全な高度利用を促進すべきような区域など とされている。また、指定要件は、地区の最低規 模を満たしていること、道路境界線から1m以上 の壁面後退の制限を定めることなどがある。詳し くは東京都高度利用地区指定方針及び指定基準 を参照されたい。そして、該当地域において、指 定要件を満たすことで容積率の緩和を受けるこ とが可能となる。

2-2 高度利用地区の指定にあたり重視すべき要因 高度利用地区内に建設される建築物には、いく つかの基準が定められているものの、次に示す距 離の基準については明確に定められていない。そ れは、敷地内に建設される建築物の高さが異なる 場合に、その最高高さが指定された時の敷地境界 からその壁面までの距離である(図1(A))。

建築物 周辺地域

最高高さ

(A)

高度利用地区

図1

(2)

2 最高高さが指定された時の敷地境界からその 壁面までの距離(以下「特定の距離」という。)

は、その大きさの違いによって周辺地域に与える 影響が大きく変わってくることが想定される。も っとも、敷地内に建設される建築物の高さが全て 同じ場合には、1m以上の壁面の位置の制限が適 用されることとなる。

特定の距離は、周辺地域に大きな影響を与える 要因と考えられるため、参考基準値等を策定し、

それを考慮のうえ、高度利用地区の指定について の都市計画決定をすることが望ましいと考えら れる。

第3章 高度利用地区活用による周辺地域への影響分析

3-1 高度利用地区の効果分析(分析1)

(3-1-1)分析概要

高度利用地区が都市計画決定され、高度利用地 区内に建築物が建設されたことによる、高度利用 地区内および周辺地域が受ける影響について分 析をおこなう。なお、便益が地価にキャピタライ ズするというキャピタリゼーション仮説に基づ き、高度利用地区内に建築物が建設されたことに よる外部性は地価に帰着すると考え、ヘドニッ ク・アプローチにより以下の分析を行う。他の分 析においても同様の考え方を用いるものとする。

分析にあたっては、36の高度利用地区について、

高度利用地区が都市計画決定され、建築物が竣工 してから1年後、2年後、3年以降についての影 響を、固定効果モデルを利用して DID 分析をお こなった。

(3-1-2)推定式、被説明変数、説明変数 分析1における推定式を式1に示す。

被説明変数は、高度利用地区内または周辺地域 の路線価の対数値とする。

説明変数のDkoudoは、高度利用地区内建築物竣

工ダミー変数(竣工して1年後, 2年後, 3年以降 で確認した)、Deikyouは、影響範囲ダミー変数(ト リートメントグループを 1, コントロールグルー プを0とするダミー変数)、Dkoudo・Deikyouは両説 明変数の交差項であり、高度利用地区内に建設さ れた建築物の効果をみるための変数である。

(3-1-3) 推定結果

分析1における推定結果を表1に示す。高度利 用地区内建築物竣工ダミー変数と影響範囲ダミ ー変数の交差項について、高度利用地区内の建築 物が竣工して3年以降についての路線価の変化を みると、高度利用地区内では、建築物が竣工する 前(以下「従前」という。)と比較して約8.7%上 昇していることが分かる。一方、周辺地域におい て3年以降についての路線価の変化をみると、従 前と比較して約1.9%下落していることが分かる。

3-2 特定の距離の変化による影響分析(分析2)

(3-2-1) 分析概要

高度利用地区内に建設された建築物において、

その特定の距離の違いによる高度利用地区内お よびその周辺地域に与える影響の変化をみるた めに、以下のとおり OLS 分析をおこなう(高度 利用地区内および周辺地域においてそれぞれ分 析する)。なお、被説明変数とする路線価につい ては平成24年度のデータを利用した。

(3-2-2)推定式、被説明変数、説明変数 分析2における推定式を式2に示す。

標準誤差 標準誤差

(1年後) 0.14969 *** 0.01718 0.02182 * 0.01322

(2年後) 0.15488 *** 0.01876 0.02270 0.01448

(3年以降) 0.08677 *** 0.01192 -0.01975 ** 0.00913 周辺地域路線価

(対数値)

係数

【 省略 】 3,614 0.6092 自由度調整済み決定係数

3,391 0.5446 高度利用地区内

建築物竣工ダミー *影響範囲ダミー

年次ダミー 等 【 省略 】

高度利用地区内 路線価(対数値)

被説明変数 説明変数

観測数

係数

表1 推定結果(分析1)

y = β0+ βiXi

8 i=1

+ β9D1+ β10D2+ β11Di+ εi

y = α

0

+ α

1

D

koudo ,it

+ α

2

D

eikyou ,it

+ α

3

D

koudo ,it

∙ D

eikyou ,it

+ α

4

D

t

+ ε

it

y = α

0

+ α

1

D

koudo ,it

+ α

2

D

eikyou ,it

+ α

3

D

koudo ,it

∙ D

eikyou ,it

+ α

4

D

t

+ ε

it

(注) *** , ** , * はそれぞれ 1% , 5% , 10%の水準で統計的に有意であることを示す

(式1)

(式2)

(3)

3 被説明変数および説明変数を表2に、説明変数 の一部を図2に示す。

(3-2-3) 推定結果

分析2における推定結果を表3に示す。

特定の距離における推定結果をみると、高度利 用地区内では係数が-0.00378 と負の値を示して いる。統計的にみると 10%水準で有意であった。

つまり、高度利用地区内の建築物の特定の距離を 大きくするほど高度利用地区内では便益が低下 することが分かる。

一方、周辺地域についてみると、係数が0.00519 と正の値を示している。統計的にみると10%水準 で有意であった。つまり、高度利用地区内の建築 物の特定の距離を大きくするほど、周辺地域では 便益が上昇することが分かる。

(3-2-4) 分析に基づく考察

分析2におけるOLS分析の結果より、特定の 距離が大きくなるほど、高度利用地区内には負の 効果があり、周辺地域には正の効果があることが 分かる。

ここで、特定の距離の変化による、高度利用地 区内及びその周辺地域の限界費用・限界便益につ いて考えると、図3のように示されることが想定 される。図3から、高度利用地区内の建築物の特 定の距離が大きくなると、高度利用地区内の限界 費用は増加する一方で、周辺地域における限界便 益は減少することが分かる。

ここで、図3に示す点Xが望ましい特定の距離 となるが、現実には、取引費用が多くかかること、

また特定の距離についての明確な定めがないた めに、必ずしも高度利用地区内の建築物が点Xの 特定の距離を確保しているとは言い難い。

被説明変数

説明変数 標準誤差 標準誤差

特定の距離 -0.00378 * 0.00227 0.00519 * 0.00270 最大壁面後退距離 0.00613 0.00606 0.00632 0.00717 最小壁面後退距離 -0.00739 0.00971 -0.00487 0.01145 最高高さ 0.00442 *** 0.00121 0.00259 * 0.00143 空地面積 -0.00002 0.00007 -0.00005 0.00009 周辺用途地域ダミー -0.11708 0.10211 0.01115 0.12256 主要道路接道ダミー 0.20433 *** 0.06763 -0.09972 0.08147 住宅戸数 -0.00093 *** 0.00026 -0.00138 *** 0.00031 敷地面積 0.00003 0.00004 0.00006 0.00004

地区ダミー 等 観測数 自由度調整済み

決定係数

高度利用地区内 路線価(対数値)

周辺地域路線価

(対数値)

係数 係数

0.7430 0.5611

【 省略 】 【 省略 】

106 103

表3 推定結果(分析2)

X 限界費用

・限界便益

←高度利用地区内の建物の 特定の距離の変化から受 ける高度利用地区内の損失

←高度利用地区内の建物の 特定の距離の変化から受 ける周辺地域の便益

特定の距離

図3 特定の距離の変化に伴う限界費用・限界便益の変動

表2 被説明変数、説明変数(分析2)

図2 説明変数の一部(分析2)

(注) *** , ** , * はそれぞれ 1% , 5% , 10%の水準で統計的に有意であることを示す

⑤最高高さ

②特定の距離

③最大壁面後退距離

④最小壁面後退距離

⑩周辺用途地域、

⑪主要道路接道

高度利用地区

主要道路

(被説明変数) ① y : 路線価

② X1 : 特定の距離

③ X2 : 最大壁面後退距離

④ X3 : 最小壁面後退距離

⑤ X4 : 最高高さ

⑥ X5 : 空地面積

⑦ X6 : 住宅戸数

⑧ X7 : 敷地面積

⑨ X8 : 周辺100m以内マンション平均階高

⑩ D1 : 周辺用途地域ダミー

⑪ D2 : 主要道路接道ダミー

⑫ Di ,Dn : 地区ダミー、北側ダミー

(説明変数)

(4)

4 3-3 最適な特定の距離の算出(分析3)

(3-3-1) 分析概要

最適な特定の距離を算出するために、高度利用 地区内および周辺地域の地価の合計の対数値を 被説明変数として考え、説明変数に、分析2にお ける説明変数に特定の距離を2乗した説明変数を 追加する。そして、被説明変数を地区内及び周辺 地域の便益の総計と考え、それを最大とする特定 の距離を算出する。

ただし、算出は、特定の距離の2乗及び特定の 距離の2つの説明変数が統計的にみて有意である ことを確認した後に行うものとする。また、高度 利用地区及び周辺地域の敷地を東西南北に分割 のうえそれぞれ検討する。

(3-3-2)推定式、被説明変数、説明変数 分析3における推定式を式3に示す。

分析3における被説明変数は、高度利用地区お よび周辺地域における地価の合計値を対数に変 換したものとする。説明変数は、分析2の説明変 数に特定の距離の2乗を加えたものとする。

(3-3-3) 推定結果

分析3における推定結果を表4に示す。敷地南 側及び敷地西側において特定の距離の2乗及び特 定の距離が統計的にみて有意であった。

ここで、敷地南側、敷地西側で算出された特定 の距離の 2 乗及び特定の距離の係数をもちいて、

便益の総計を最大とする特定の距離の値を算出 した結果、敷地南側では 21.59m、敷地西側では 23.08mであった。

なお、分析対象である高度利用地区における現 状の特定の距離の平均値、最大値は、敷地南側が

9.5m、40m、敷地西側が 8.5m、45m であった。

また、高度利用地区の面積を円に置き換えた時の 平均的な半径は54.7mであった。

第4章 政策提言

自治体は、高度利用地区の指定をおこなうにあ たり、分析2によって得られた高度利用地区内及 びその周辺地域におけるそれぞれの関数式を用 いて、高度利用地区内の建築物の特定の距離が変 化することで高度利用地区内の損失および周辺 地域の便益がどのように変化するのかを考慮し ておくことが望ましい。そのうえで、上述した内 容を考慮し、便益が地価にキャピタライズすると いうキャピタリゼーション仮説に基づいた分析 3 の手法により、最適な特定の距離を算出し、都市 計画決定が行われる前段階の打ち合わせなどの 際に、最適な特定の距離を参考値として開発事業 者に提示することが望ましい。

第5章 今後の課題

今回の分析においては、敷地南側および敷地西 側における最適な特定の距離を算出することが できたが、敷地北側および敷地東側については統 計的に有意な値を得ることができなかった。その ため、サンプル数を増やし全ての方角における最 適な特定の距離の算出を今後の課題としたい。

また、最適な特定の距離よりも特定の距離を大 きくした場合、または小さくした場合に、高度利 用地区内と周辺地域における便益の総計が減少 しているがこのことの理由について具体的な事 例をもとに分析を重ね、より精緻な考察をしてい くことについてもあわせて今後の課題とする。

被説明変数

説明変数 標準誤差 標準誤差

特定の距離の2乗 -0.00104 * 0.00048 -0.00585 *** 0.00107 特定の距離 0.04509 * 0.02036 0.27468 *** 0.04982

他説明変数、

地区ダミー 等 観測数 自由度調整済み

決定係数

24 25

0.9156 0.9166

敷地南側 敷地西側

係数 係数

【 省略 】 【 省略 】

表4 推定結果(分析3)

y = γ0+ γ1 X1 2+ γ2X1+ γi+1Xi 8

i=2

+ γ10D1+ γ11D2+ γ12Di+ εi

y = γ0+ γ1 X1 2+ γ2X1+ γi+1Xi

8 i=2

+ γ10D1+ γ11D2+ γ12Di+ εi (式3)

(注) *** , ** , * はそれぞれ 1% , 5% , 10%の水準で統計的に有意であることを示す

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