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【実践報告】上級会話クラスにおけるディベート実践報告

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Academic year: 2021

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『言語習得と日本語教育』第 1 号(2021) 〔実践報告〕. 上級会話クラスにおけるディベート実践報告. 朝 倉 郁 子. 1.はじめに. 本稿は 2020 年前期に行った日本語学校における会話授業内でのディベート活動の. 実践報告である。文野(1994)によると、話す活動のうち、ディベート活動はテーマ. に添った相互交渉や発話量が確保できるとされている。そのため、意見交換を目的と. するディスカッションより学習者の口頭発表能力を向上させるとしている。本実践で. は、上級会話クラスで行ったディベート活動において、実施後に行う振り返りシート. をもとに学生自身が内省および振り返りを行った。そして、振り返りシートで設定し. た自身の目標にむけて次に自分がどうすべきか、という意識を促すことができたか、. ディベート活動が学生の口頭表現や論理的思考、傾聴、情報収集、分析力などを向上. させ、学習者の学習に対する態度や人間関係における態度に変化がみられたか、教師. の観察を交えて考察する。. 2.実践の背景. ディベートとは、「一つの論題に対して、対立する立場をとる話し手に、聞き手を論. 理的に説得することを目的として議論を展開するコミュニケーションの形態」(松本,. 2001)とされている。近年、日本語教育の現場でもディベート活動が口頭運用能力を. 伸ばすだけでなく、説得力のある意見を述べることに一定の効果が見られ、論理的な. 思考を高めるものとして注目されている(宮永,2019)。吉川・小川(2000)によれば、. ディベート活動で期待される教育的効果として①調査・研究活動への動機づけ、②視. 点の複数化、③人前で話す練習、といった一般的な効果に加え、④情報収集、⑤情報. 分析、⑥論理的思考、⑦説得力のある口頭表現、⑧傾聴、⑨(相手の論の)矛盾点か. ら反論への発展を挙げており、ディベートによって、読む、書く、聞く、話す、考え. るの総合的な言語活動が習得できるとしている。. 萩原他(2005)によると、中級話者が上級話者になるまでに足りないこととして、. 話題について相手が何を期待しているかわからない、何を言いたいのか伝わりづらい、. 話題に応じた語彙や表現が使えないことを挙げている。実施校の会話授業では、ディ. 166. ベート活動によって中級話者が上級話者になるために足りない問題点を克服すること. を目的とし、会話授業の授業の総仕上げとして実施している。ディベート活動を通し. て、よい話し手、聞き手について考えられるようになることを目指している。. 3.実践の概要. 3.1 上級会話授業について. 上級会話授業では「日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現」を使用し、. 中級までの場面に応じた短いやりとりではなく、話すべき内容を意識しながら自分の. 意見を明確に伝えられるよう授業を構成している。会話授業は週に 2 回行われ、2 名. の教師が担当する。1 回の授業は 2 コマ(計 100 分)で、1 学期間(6 カ月)におよそ. 44 コマ実施される。テキストに加え、学期の後半にはそれまでの内容を総括し、活動. を行う。前期はディベートで、後期は面接練習などの活動を行う。テキストは前期・. 後期で進みにばらつきがないよう前期に偶数課、後期に奇数課を行い、1 年で本冊を. 終了する。表 1 は上級会話授業のスケジュールの目安である。. 表1 会話授業スケジュールの目安. 回 前期 後期. 1~11 テキスト『上級話者への道』. 偶数課. テキスト『上級話者への道』. 奇数課. 12~22 活動(ディベート) 活動(面接練習等). 活動前の授業は教科書に沿って進めるが、各課にある到達目標を明確にし、必要な. 語彙、会話の構成、談話力を身に着けることに重点を置いている。さらに、人間関係. や話題にも配慮しながら、話し手・聞き手としての役割も意識できることを目指す。. 各課終了後に到達目標を確認し、自身の会話の内省・振り返りを行うことで学習者に. 会話の構成を再度、意識させる。ディベート活動は会話授業で積み上げたスキルを実. 践する場として設定している。. 3.2 ディベート活動の概要. ディベートの試合は全 3 回実施した。対象学生は上級クラス I・II に在籍する留学生. 24 名である。国籍は中国・台湾・ベトナム・韓国であった。19 歳から 35 歳までの学. 生で、社会人経験者や国の大学等でディベートを経験している学生もいた。上級 I ク. ラスは N2~N1 レベルを学ぶクラスで、約半数が N2 を取得している。上級 II クラス. は全員 N2 を取得し、N1 レベルを学ぶクラスである。. 会話授業は上級 I・II クラスをランダムに二つに分け、ディベート活動ではさらに 4. 167. 人のグループを 4 つ作成した。グループは試合ごとに新しく作成した。. 3.3 ディベート活動の流れ. ディベート活動に入る前にはオリエンテーションを行った。文野(1994)ではディ. ベートによる口頭運用能力の向上にはディベート活動のルールや課題、語彙・表現の. 効果的なインプットが欠かせないとしている。本実践は、会話授業で学んだスキルを. 運用する場であることから、活動前のオリエンテーションで活動の目標を明確に説明. 必要がある。ディベートを行う際、試合の勝敗にこだわってしまい、本来の目的が達. 成されない可能性も考えられるため、学生には本実践が会話授業の一環であることを. 徹底させた。本実践の目標は以下の通りである。. ① 自分の意見を論理的にまとめることができる。. ② 自分の意見を相手に冷静に伝え、相手(審判)を説得することができる。. ③ 相手の意見を聞き、メモを取り、その場で情報処理をすることができる。. ④ 情報収集と情報処理の仕方を学び共有することができる。. ※ 「ディベートができるようになること」が目的ではない。 . 次にディベート活動の流れについて述べる。1 回目のディベートに使用するプリン. トには、あらかじめテーマと論点が記載されていた。ディベートに関して理解が浅い. 学生に流れや準備について理解させる必要があるため、立論からまとめまでの形式が. 入ったプリントを用意した。学生は各グループで話し合ったことを台本形式で記入す. る。それに沿って準備をすることで、ディベートの流れを学ぶ活動を取り入れた。2. 回目以降のディベート準備、論点から試合までは基本的に学生のみで進め、教師は支. 援者に回った。ディベート本番の後、「振り返りシート」に内省と次に向けた目標設定. を記入させた。表 2 は準備から試合・振り返りまでのディベート活動の流れである。. 表2 ディベート活動の流れ. 流れ 具体的な活動. 1.テーマの発表 ・1 回目 2 回目は教師がテーマを決定する。. ・最終回は学生がテーマを決める。. 2.資料を読む ・テーマについての理解を深める。. ・資料取集を行う。. 3.「論点」を考える ・テーマの「何について」話し合えるかクラスで考える。. 168. 4.「論拠」を考える ・肯定、否定の立場に分かれたクラスで意見を作りシェアする。. ・教師により表現を直す。. 5.役割分担 ・グループを決める。. ・役割の無いときの司会、タイムキーパーを決める。. 6.グループ準備. ・グループでの立論の一論点を絞り「作戦ノート」に書く。 . ・相手の立場や反駁を予測し、自分たちの意見を考える。 . ・反駁用の「作戦シート」を書く。. ・自分で調べて必要な資料を A4 の紙にまとめ試合までに用意. する。. 7.試合. ・発表者は一人ずつ前に出て審判に向かって話をする。 . ・審判は発表者の話したことをメモし、点数をつける。. ・タイムキーパーは「残り 3 分」「残り 1 分」を発表者に知らせ. る。発表が時間内に終わったかどうかメモを取る。. 8.振り返り. ・振り返りシートに記入する。. ・「自分は何ができたか/できなかったか」「クラスメイトはどう. だったか」を考え、「自分は次にどうしたいか」で自分の目標. 設定をする。. ・毎回、自分の目標がどれくらい達成できたか自己評価する。 . ・試合の論理展開はどうだったか、表現はどうだったかクラス. 内で振り返る。. ・前回、自分で設定した目標が達成できたかどうか振り返る。 . 表 3にディベート授業に充てた 12回のスケジュールを示す。ディベート 3の試合は、. 他のクラスの学生が見学できる公開ディベートとし、記録のために録画した。表中の. A は肯定、B は否定チームを指す。. 表3 ディベート授業のスケジュール. 授業予定. 1 回目 オリエンテーション・DVD. 【ディベート 1】 ・資料読み/論点の整理. 2 回目 【ディベート 1】 ・論点の整理・グループ準備. 3 回目 【ディベート 1】 ・グループ準備・リハーサル. 4 回目 【ディベート 1】 ・試合 ①A1×B1 ②A2 ×B2. 5 回目 【ディベート 2】 ・論点の整理 ディベート 1 全体の振り返り. 169. 3.4 テーマの選出. ディベートのテーマ選びには①ディベートする価値があるか、②参加者に適してい. るか、③予想される議論の種類や数が適当であるか、④資料があるか、⑤本番までに. 決着がつかないか、などを考慮するべきとされている(松本,2001)。本実践では 1. 回目と 2 回目のテーマは担当教師によって決められたが、3 回目のテーマは学生が決. めた。. 1 回目のテーマは毎学期『学校は制服を使用するべきだ』を使用している。学生の. 背景は様々だが、制服使用に関してほとんどの学生が経験や意見を持つと考えられ、. 松本(2001)にある考慮すべき点が押さえられていると言える。肯定と否定の意見が. 分けやすい点も、ディベートの流れを学ぶことに適していると言える。2 回目は学期. ごとに担当教師がテーマを決定する。過去のディベート資料から、肯定と否定が偏り. がちなテーマは避け、話題性があり学生の関心度が高いものを選んだ。それによりテ. ーマを理解し、背景知識を共有できると考えたからである。3 回目のテーマは 2 回目. のディベート本番前に学生に希望のテーマ 1 人 3 つずつ募り、その中から教師が 4 つ. に絞ったものを多数決により学生に選ばせた。表 4 に本実践で扱ったテーマと 3 回目. のテーマ選びで学生から出たテーマの一例を示す。. 表4 2020 年前期ディベートのテーマ. テーマ. 1 回目 『学校は制服を使用するべきだ』. 2 回目 『SNS の投稿は実名でするべきだ』. 3 回目 『来年の東京オリンピックは開催するべきだ』. 3 回目その他の候補 『結婚するべきだ』『動物園は廃止するべきだ』. 『安楽死を認めるべきだ』『育児休暇を取るべきだ』. 『監視カメラは必要である』など. 6 回目 【ディベート 2】 ・グループで準備. 7 回目 【ディベート 2】 ・グループで準備・資料集め. 8 回目 【ディベート 2】 ・試合 ①A1×B1 ②A2 ×B2. 9 回目 【ディベート 3】 ・論点の整理 ディベート 2 全体の振り返り. 10 回目 【ディベート 3】 ・グループで準備. 11 回目 【ディベート 3】 ・グループで準備・資料集め. 12 回目 【ディベート 3】 ・試合(公開ディベート) ①A1×B1 ②A2 ×B2. 170. 3 回目のテーマ『来年の東京オリンピックは開催するべきだ』を候補として入れた. のは、学生が興味を持てること、資料が豊富であること、さらに話題性が挙げられる. ためである。多数決により学生 24 名のうち 11 名がこのテーマに投票しており、少な. からず関心があると思われた。. 学生自身が論題を探して決めることについて内藤他(2015)は、学生のモチベーシ. ョンが上がるというメリットがある一方で、適当なものを学生が選ぶことの難しさを. 指摘しているが、今回学生から出された案は、ディベート活動に活用できるテーマが. 数多く挙がったことから、ディベート活動を理解しているというメリットの作用があ. ったと考え、学生が選んだテーマを採用することとした。さらに、テーマを選ぶ活動. を通して様々な意見が見られ、活動に積極的に取り組み、ディベート活動へのモチベ. ーションが高まっていることも窺えた。. 3.5 ディベート授業の進め方. 学生を 2 クラスにランダムに分けた。その後、教師により肯定・否定を指定し、さ. らに 4 人グループを 4 つ作った。グループ分けは、国籍、日本語能力、学生の性格を. 考慮し教師が行った。1 回目から 3 回目まで、なるべく同じ学生と再度グループにな. らないよう、また、1 回目は発揮されなかったリーダーシップを 3 回目で出してもら. いたい、というような教師側の希望などもグループ分けには取り入れた。ディベート. の役割である司会者とタイムキーパーは学生が決めた。担当が偏ることもあるが、そ. れも学生が考えた作戦のひとつとして認めた。ディベートの試合の流れは次の通りで. ある。また、ディベート授業での配置図を図 1 に示す。. 【授業での学生の役割とディベートのルール】. ◇役割:司会者:1 人. タイムキーパー(TK):1 人. 肯定側グループ:発表者 4 人(立論・第 1 反駁・第 2 反駁・まとめ). 否定側グループ:発表者 4 人(立論・第 1 反駁・第 2 反駁・まとめ). 審判:試合のない学生 6 人. ◇ルール. ①肯定側立論 (3 分). ②質問:否定側から肯定側に質問 (2 分). ③否定側立論 (3 分). ④質問:肯定側から否定側に質問 (2 分). ⑤作戦タイム (3 分). 171. ⑥否定側第 1 反駁 (3 分). ⑦肯定側第 1 反駁 (3 分). ⑧作戦タイム (3 分). ⑨肯定側第 2 反駁 (3 分). ⑩否定側第 2 反駁 (3 分). ⑪作戦タイム (3 分). ⑫肯定側まとめ (3 分). ⑬否定側まとめ (3 分). ⑭審判の集計と判定 (3 分). ⑮審判の判定発表. . 判定発表を行う審判長は、当日学生が決める。審判長は勝敗の点数と良かった点、. 減点したことを発表し、全体のまとめを行った。また、時間内に的確に双方の振り返. りをする力が求められた。. 3.6 振り返りシートの実施. ディベート終了後は学生に「振り返りシート」に記入してもらった。シートの内容. は次の通りである。. ① 自分では何ができたか/何ができなかったか. ② グループのメンバーはどうだったか. ③ 自分は次にどうしたいか(自分で目標を決める). 審判・タイムキーパー. 肯定側 否定側. 司会者 発表者. 図1 ディベート授業の配置図. 172. シートに記入することで、①で内省し、②で他者を見る目を持ち、③で次に自分が. どうするべきかを意識させ、次への具体的な目標を決める。今回は、ディベート 1 回. から 3 回まで行う過程で、学習者にどのような変化がみられるかをシートから考察し. た。. 4.振り返りシートと教師の観察からの考察. 4.1 振り返りシートから見た活動の効果. ディベート終了時に記入した「振り返りシート」は、学習者の日本語能力によって. 傾向に違いが見られた。口頭運用能力が低く自分の言いたいことがまだ上手に表せな. い学生を学生 C 群、口頭運用能力が高い学生を学生 D 群とする。表 5—1、表 5—2 は学. 生 C 群と学生 D 群の記入例を抜粋したものである。. 表5-1 振り返りシート記入例(学生 C 群). 【①自分は何ができたか/何ができなかったか】. 1 回目 ・発音がはっきり聞こえないかなと思った。. ・内容は準備が足りなかった. 2 回目 ・資料の準備が足りない。. ・緊張して発音もちょっと・・。. 3 回目 ・言いたいことが頭にあるけどなかなか出ない。. ・反駁を予想したが、違ったので緊張した。. 【②グループのメンバーはどうだったか】. 1 回目 ・みんながよく準備してよかったと思う。. ・声が小さくて立論はできていなかった。. 2 回目 ・みんなよく頑張った。. 3 回目 ・みんなよかった。特に○○さんが準備をよくしてくれた。. 【③自分は次にどうしたいか(自分で目標を決める)】. 1 回目 ・もう一度見直す。緊張しない。. 2 回目 ・今度はいろいろ論点を出そうと思う。楽しんでやる。. ・他の役割をできるようにしたい。. 3 回目 ・大勢の人の前で話すことをもっと練習したい。. ・グループと一緒に考えるようになりたい。. 173. 表5-2 振り返りシート記入例(学生 D 群). 【①自分は何ができたか/何ができなかったか】. 1 回目 ・しっかり反駁できなかった。. ・自分の意見を整理してうまく伝えなかった。. 2 回目 ・ちゃんと準備してやった。まとめた意見をチームや審判に共感してもらう. ことができた。. ・資料を準備しながら論点を支えた。. 3 回目 ・相手の意見を聞きながらまとめることができた。 . ・チームをまとめるよう努力した。. 【②グループのメンバーはどうだったか】. 1 回目 ・メンバーたちは自分の順番が終わってもメモをしてくれた。 . ・意見を出してくれた。. 2 回目 ・メンバーと協力して楽しく準備した。意見交換がよくできた。. ・メンバーたちが資料をよく活用した。. 3 回目 ・メンバーは自分の意見をよく伝えた。最高だった。協力はもちろんみんな. やる気があって、私も頑張ることができた。. 【③自分は次にどうしたいか(自分で目標を決める)】. 1 回目 ・はっきり意見が伝わるように練習する。. ・日本語で速くメモができるようにする。. 2 回目 ・まとめをすることに自信を持てるようになったので、次もメンバーと協力. してやりたい。. ・作戦タイムでしっかりまとめる役をしたい。. ・みんなをまとめて、資料をうまく使いたい。. 3 回目 ・書くのに忙しくて、話し合いがうまくいなかった。. ・もっと準備していい表現を使って述べたい。. 表 5—1、表 5—2 にもあるように、ディベート 1 回目の振り返りシート①②では、学. 生 C 群は「発音がはっきり聞こえないかなと思った」や「声が小さくて立論はできな. い」といった発音や聞き取りやすさ、声の大きさなど、個人の内省に関する記述が多. かった。一方学生 D 群は「自分の意見を整理してうまく伝えられなかった」「メンバ. ーがメモしてくれた。意見を出してくれた」など、相手にわかりやすく伝えるために. 必要なことに対するコメントが多く見られた。. 振り返りシート③自分は次にどうしたいか、の実施によって、自分の目標を認識し、. 実施後に目標を再度意識することができ、コメントシート全体に変化が見られている。. 174. 2 回目以降、学生 C 群では表面的な技術に関する内容は少なくなり、「資料が足りなか. った」、「言いたいことがうまく伝わらない」など、チーム全体を見る目が持てるよう. 変化した様子が見られた。振り返りシート③では、「ほかの役割をしたい」「グループ. と一緒に考えたい」といったチームでの役割を目標に設定するようになり、毎回自身. の目標を意識することで、活動自体が向上していく事が窺え、自身の目標の意識化が. 大切な要素であると言える。. 学生 D群では振り返りシート③で発表内容やグループでの自分の立場や関わり方に. 触れている記述が多かった。2 回目以降は資料作成やグループの善し悪し、グループ. の中で自分に何ができるか、といった役割について反省も踏まえて考察し、次の目標. を立てる学生も見られた。しかし、学生 D 群にはグループ内の学生に対し優劣をつけ. る記述も一部見られ、場合によっては協調性を左右してしまう記述も見られた。本実. 践ではグループをまとめるリーダーは特に設定していないが、学生 D 群の 2 回目の振. り返りシートには「作戦タイムでしっかりまとめる役をしたい」「みんなをまとめて資. 料をうまくつかいたい」といった記述も見られている。振り返りシート③で「作戦タ. イムでしっかりまとめる役をやりたい」と記述した学生は、日本語能力の差といった. 状況から生まれたリーダーではなく、自分でグループをまとめたいという意思をもっ. て行っていたことが教師の観察からもよくわかった。. 4.2 教師の観察から見る活動の効果. 1 回目のディベート活動では準備から本番まで教師の助けを多く必要とするが、2. 回目以降は基本的にすべて学生が主体的に進め、教師は言語表現や進まなくなった時. の助言に徹した。学生はお互い助け合いながら、その中で自分の役割やしなければな. らない事を発見することが求められる。本実践では意見交換の際に意見をまとめるこ. とが難しい学生には、教師から指示がなくとも、自然と誰かが付き添いながら助けて. いる様子が多く見られた。振り返りシートにも「グループのメンバーが助けてくれた」. との記入が複数あり、ディベートという活動がこのような協調性を生み出しているこ. とが窺えた。. しかし、2 回目のディベート準備の際、一部勝敗にこだわる学生により論点の整理. が進まず、グループの輪が乱れたことがあった。自分が考えた論点なら勝てると思い. 仲間の話を受け入れず、グループの協調を欠いたことが原因であると思われた。そこ. で教師は再度、会話授業におけるディベート活動の目標を説明し、さらにグループ作. 業の際にも細かく進捗を確認した。活動目標が改めて明確になったことで、学生同士. が声を掛け合い、勝敗ではなく「どう相手を説得できるか」に焦点を当てた作業がで. きるようになった。その結果、意見交換の活動は以前より活発になり、これまであま. りグループ内で発言が少なかった学生も進んで発言する姿が見られた。さらに、グル. 175. ープ活動の変化によって、今まで一部の学生だけで進めがちとなっていた情報収集や. 口頭表現が、グループ全体で共有されることとなった。様々な学生がグループ内で積. 極的に発話するようになり、日本語能力が高い学生の傾聴も多く見られるようになっ. た。これらの相乗効果で 3 回目のディベートは前回に比べ資料作成や作戦シート作成. などに良い影響を与え、論理的で説得力のある試合へと変化した。また、各自が目標. を達成するために意識をもって試合を行った結果、3 回目のディベートでは作成タイ. ムの際に全員で話し合っている姿が見られた。. 5.おわりに. 本稿では、上級会話クラスでディベート活動を行い、「振り返りシート」により内省. を図った。それにより口頭表現や論理的思考、傾聴、情報収集、分析力などにどのよ. うに変化が現れたか「振り返りシート」の内容と教師の観察によって考察した。「振り. 返りシート」を見ると、学生の中には目標設定の達成を意識しながら活動を進めてい. ることがわかった。目標設定を再度意識することによって、広い視野で活動を進める. ことができ、自分の意見を倫理的に伝え相手を説得することや、相手の意見から情報. を処理しようとするスキルが習得されていくと考えられる。. 2 回目の活動中に本実践の目的を再確認したところ、グループでの意見交換が活発. になった。ディベート活動の目的の理解度が活動において重要であることが窺えた。. しかし、口頭運用能力の差による表現や会話量の差は見られ、口頭運用能力が低い学. 生が発言の場を奪われないよう、教師は授業運営の際に注意することが重要であると. 考えられた。. グループでの作業が活発になった際に見えたことは、異なる文化を持つ国での情報. 共有であった。岬(2012)は、ディベートを「異文化コミュニケーション」の手段と. して位置づけており、異文化に触れることで個人にとって自明であったり無意識であ. ったりした文化的相違を顕著化させ、相互理解を深めると述べている。本実践でもグ. ループ作業で国を超えた相互理解を求めたゆえに、活発な意見交換が生まれることと. なった。そして「振り返りシート」と教師の観察からも、回を重ねるごとに、学生同. 士の意見交換の有無や、相手に納得させることに意識が変化していったことが窺えた。. 今回のディベート活動は口頭表現や論理的思考といった技術の習得が目的であった. ため、立論や反駁の正確性やわかりやすさに関しては足りない部分もあった。今後は、. さらに語彙や表現を広げ、談話能力、コミュニケーションスキルを習得することで、. ディベート活動にどのような変化が見られるか調査したい。また、ディベート活動に. よって会話力がどのように向上したか客観的な分析は行えなかった。ディベートの効. 果をより明確にするためには、活動前と活動後による会話力の変化、及び学習者のモ. チベーションの変化を見る必要性があると考える。. 176. 〈謝辞〉. 投稿にあたりこのような機会を作っていただいた橋本ゆかり教授に深く感謝いたします。ま. た、本論文の原稿をお読みいただき適切な助言を頂きましたことに対して、査読者の皆様に感. 謝いたします。. 〈参考文献〉. 荻原稚佳子・増田眞佐子・齊藤眞理子・伊藤とく美(2005)『日本語上級話者への道』スリー. エーネットワーク. 鄭愛軍・谷森正寛(2012)「日本語教育におけるディベート授業の試み―青島理工大学におけ. る実践より―」『鳥取大学教育研究論集』, 2, 45-54.. 内藤・西村・竹内(2015)「ディベートの論題選びについての実践報告」『日本語教育方法研究. 会誌』, 22-2, 32-33.. 永井涼子(2009)「初級におけるディベート準備の試み」『日本語教育論集』, 24, 85-94.. 文野峯子(1994)「日本語教育におけるディベート活動の利点」『日本語教育方法研究会誌』, 1-2,. 32-33.. 松本茂(2001)『日本語ディベートの技法』七寶出版. 宮永愛子(2019)「上級日本語授業におけるディベート活動の実践」『大学教育』, 16, 46-53.. 吉川尚美・小川小百合(2000)「ディベート授業の実践とその効果」『日本語教育方法研究会誌』,. 7-1, 14-15.. あさくらいくこ(横浜 YMCA 学院専門学校 専任講師). 177

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