博 士 ( 水 産 科 学 ) 西 岡
純
学位論文題名
Application of size
―fractionatlonmethodtOStudy
biogeOChemiCaldynamiCSOforonintheNOrthPaCifiCOCean
( サイ ズ分 画測 定法 を利 用した 北太平洋における
鉄 の 生 物 地 球 化 学 的 挙 動 に 関 す る 研 究 )
学位論 文内容の要旨
鉄は植物プランクトンが増殖するために必用な微量栄養物質であり、近年、海洋の高 栄養塩低生産海域の生物生産をコントロールする重要な物質として注目されている。し かし、鉄は海水中で極めて低濃度で存在し、汚染を受けやすいため、分析が極めて困難 である。また、海水中で熱力学的に反応性が高く、複雑な化学形をとる。このため、海 水中における鉄の存在形態やその分布、植物プランクトンの利用可能な形態、海洋生態 系内における挙動など、鉄と生物生産の関係は未解明の部分が多く残されている。近年 になって感度の高い測定法が開発され、最新のクリーン技術をもって使用することで、
ようやく信頼できる値が得られるようになった。しかし、形態別の情報としては、電気 分析 の知 見か ら海 水中 の溶 存鉄 の99 %が 有機 錯体として存在していると考えられて いるのみで、低濃度の外洋域では未だ統ーした見解は得られていない。海洋表層ヘ供給 された鉄がどのような形態をとり、各形態が植物プランクトンの増殖や取り込みにどの ように関わっているのかを明らかにすることは、海洋における鉄の生物地球化学的循環 を解明する上で重要な知見となる。
本研究の目的は、外洋の高栄養塩低生産域である東部北太平洋亜寒帯域を対象とし、
従来の定義では溶存態に含まれてくるコロイド粒子に着目して鉄の分画定量を試み、植 物プランクトンの利用可能な形態や、植物プランクトンの増殖に伴う形態別濃度の変化 を解析し、海洋中の鉄の挙動を明らかにすることである。
ま ず初 めに 、従 来の 溶存 態(0.2Hm 以下 )に 含まれる微細なコロイド状鉄を分画す るた めに 、分 画分 子量 約200kDa のポ リエ チレ ン性 中空糸 フイ ルタ ーお よび
0.2Umテ フロンメンブレンフアルターを用いてサイズ別分画測定法を確立した。分画装置は汚染 を避けるためインラインの形で構成し、クラス100 以下の環境で船上においても使用可 能なものとした。分画したサンプルの鉄濃度の分析は、キレート樹脂濃縮ー化学発光検 出法による自動分析計を使用した。
本研究で作成した分画装置を用いて海水中の鉄のサイズ別分画測定を行なったとこ
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ろ 、InM以 下 の 外 洋 レ ベ ル の 鉄 濃 度 を 、 汚 染 無 し に 、 変 動 係 数11% 以 下 で 分 画 す る 精 度 を 持 ち 、 処 理 速 度 も7m1/min以 上 で 外 洋 水 の 船 上 分 析 に 十 分 適 用 で き る も の で あっ た 。 本 装 置 を 用 い て 、 海 水 中 の 鉄 を 粒 子 状 鉄 ( >0.2ルm) 、 コ ロ イ ド 状 鉄(0.2 m‑
200kD)、溶存鉄(く200kDa)の3つの形態に定義した。
次 に 、 こ の分 画 測 定法 を 使 用し て 、 東部 北 太 平洋 亜 寒 帯域 に お け る海 水 中 の鉄 の 分布 を 形態 別 に 測 定し た 。 その 結 果 、外 洋 の 中・ 深 層 には コ ロイ ド状鉄 が存在し ており 、0.2 um以 下 の 鉄 の13‑50% を 占 め て い る こ と が 分 か っ た 。 こ の 結 果 を 従 来 の 知 見 と 合 わせ て 考察 す る と 、海 洋 の 中・ 深 層 には コ ロ イド 状 の 有機 配 位 子が 存 在 す る可 能 性 が考 えら れ る 。 一 方 、 表 層 混 合 層 内 に 極 低 濃 度 で 残 存 し て い る 鉄 は 、80% 以 上 が200kDa以 下 の 溶存 鉄 で あ るこ と が 明ら か に なっ た 。 東部 北 太 平洋 亜 寒 帯域 に 含 ま れる ア ラ スカ 湾で は 、沿 岸 に 近 づき 鉄 濃 度が 高 く なる に っ れ、 コ ロ イド 状 鉄 が高 い 濃 度 で含 ま れ てお り、
大 陸 か ら 供 給 さ れ る0.2um以 下 の 鉄 の 大 部 分 が コ ロ イ ド 状 の 形 態 で あ る こ と が 明 ら か となった。
東 部 北 太 平洋 亜 寒 帯域 の 外 洋表 層 に おけ る 鉄 の供 給 源 とし て は 、 大気 を 通 して 運 ばれ る 陸 起 源 土 壌 粒 子 に 含 ま れ る 鉄 や 、 冬 季 の 水 深100mに 及 ぶ強 い 鉛 直混 合 に よっ て 中 層 か ら供 給 さ れ る鉄 が 考 えら れ る 。そ こ で 、外 洋 表 層ヘ 供 給 され 得 る 鉄 の海 水 中 にお ける 存 在形 態 と 、 植物 プ ラ ンク ト ン の増 殖 に 及ぼ す 影 響を 調 べ るた め 、 大 気粒 子 を 含む と考 え られ る 降 雨 およ び 中 層水 を 表 層水 ヘ 添 加し て 船 上培 養 実 験を 行 っ た 。表 層 水 に添 加し た後の主要な鉄の形態は、降雨を添加した場合と、中層水を混合した場合とで明瞭な違いが見ら れた 中層水の 添ルロでは、主に200kDa以下の溶存鉄が供給され、これらの鉄が植物プランクト ンの増殖に寄与していることが示唆された。この溶存態の画分は光に対して閲若陸が高く、容易 にコロイド状に変化することが分かった。また、降雨の表層海水中への添ルロによって生成する鉄 の形態は、主にコロイド冫伏鉄であり、この形態も植物プランクトンの増殖を促進することが確認 され た。これ らの結果 、表層 水に供給 された コロイド 状鉄は 、植物プランクトンの増殖に何 らかの役割を持っている可能性が高いとが示唆された。
従 来 の 知 見で は 、 海水 中 の 植物 プ ラ ンク ト ン が増 殖 の ため に 取 込 める 鉄 の 形態 と して は 鉄イ オ ン が 報告 さ れ てい る が 、実 際 の 海域 に 存 在す る 鉄 イオ ン の 量 は極 め て 少な い。
船 上培 養 実 験 で示 さ れ たと お り 、海 洋 表 層ヘ 供 給 され た コ ロイ ド 粒 子 など の 形 態が 何ら か の役 割 を 持 って い る 可能 性 は 高い 。 そ こで 、 本 研究 で 確 立し た サ イ ズ分 画 測 定法 を用 い て 室 内 培 養 実 験 を 行 い 、形 態 別 の海 水 中 鉄濃 度 が 珪藻Chaetoceros sp.の増 殖 に 伴つ て どの よ う に 変化 し て いく か を 調べ た 。 実験 の 結 果、Chaetoceros sp.の増殖 期間中に コ ロ イド 状 鉄 の 顕著 な 減 少が 見 ら れ、 コ ロ イド 状 鉄 が枯 渇 す ると 他 の 形 態の 鉄 が 残っ てい る にも か か わ らず 増 殖 が停 止 し た。 こ の こと か ら 、コ ロ イ ド状 鉄 が 利 用可 能 な 鉄の 供給 に重要な働きを持っことが明らかとなった。
分 画 さ れ た形 態 別 の鉄 が 、 プラ ン ク トン 生 態 系内 で ど のよ う に 除 去さ れ て いる か は、
海 洋の 鉄 の 鉛 直分 布 を 決定 す る 要因 を 明 らか に す るた め の 重要 な 情 報 にな り 得 る。 ボト ル によ る 培 養 実験 で は 、鉄 が 海 水中 で 受 ける 複 雑 な生 物 間 相互 作 用 を 含め て 実 験す るこ と は難 し く 、 挙動 お よ び除 去 過 程に は 未 解明 な 部 分が 多 く 残さ れ て い る。 本 研 究で は、
比 較的 鉄 の 挙 動を 解 析 しや す い 沿岸 海 域 にお い て 閉鎖 生 態 系実 験 を 行 い、 珪 藻 のブ ルー
ム期間中の形態別鉄濃度の変動を観測し、除去までの過程を定量的に解析した。その結 果、珪藻のブルーム前には、従来の溶存鉄の中に高い割合(約78%)で含まれていた コロ イド 状鉄 が、 ブル ーム の発 達と ともに 大きな25um以上の粒子に変化し、ブルー ム期間中高い濃度で海洋表層に保持された。ブルームが終わると植物プランクトンの沈 降とともに、高濃度の鉄が下層ヘ沈降した。25 11 1TI以上のサイズに変化した鉄のうち、
生物的に取り込まれサイズを大きくした鉄は約18一26%であり、その大部分がブルー ム開始直後に植物プランクトン粒子ー吸着したか、化学的に凝集したものと見積もられ た。
船上培養実験の結果との比較から、外洋生態系に供給された鉄についても低濃度レベ ルで同様の挙動を示し下層ヘ除去されていると考えられ、このような高い鉄濃度を含ん だ大型粒子が中・深層で分解再生し、コロイド状鉄や溶存態鉄を再生していることが示 唆された。
現在、海洋の生物生産にとって鉄の重要性が再認識されており、海洋の生物地球化学 を理解するためには、鉄と生物生産の関係を明らかにすることが急務となっている。本 研究によって、従来の0.2弘m以下の溶存鉄に含まれるコロイド状の鉄は、植物プラン クトンが利用可能な鉄の供給源として重要な働きを持ち、一方では海洋の鉄の生物地球 化 学 的 循 環 を 理 解 す る 上 で も 重 要 な 画 分 で あ る こ と が 示 さ れ た 。
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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
松永勝彦 久万健志 簗田 満 工藤 勲
学位論文題名
Application of size
‐fractionation method to study
biogeochemical dynamics of oronin the North Pacific Ocean
(サイズ分画測定法を利用した北太平洋における
鉄 の 生 物 地 球 化 学 的 挙 動 に 関 す る 研 究 )
鉄は植物プランクトンが増殖するために必用な微量栄養物質であり、近年、海洋の 高栄養塩低生産海域の生物生産をコント口ールする重要な物質として注目されている。
海洋ヘ供給された鉄がどのような形態をとり、各形態が植物プランクトンの増殖や取 り込みにどのように関わっているのかを明らかにすることは、海洋における鉄の生物 地球化学的循環を解明する上で重要な知見となる。
本研究では、外洋の高栄養塩低生産域である東部北太平洋亜寒帯域を対象とし、従 来の定義では溶存態に含まれてくるコロイド粒子に着目して鉄の分画定量を試み、植 物プランクトンの利用可能な形態や、植物プランクトンの増殖に伴う形態別濃度の変 化を解析し、海洋中の鉄の挙動を解明することを試みた。
初めに、従来の溶存態
(0.2彫m 以下)に含まれる微細なコロイド状鉄を分画するた めに、 分画分子量 約200kDa のポリェ チレン性中空糸フィルターおよび0.2 〃m テフ ロンメンプレンフアルターを用いてサイズ別分画測定法を確立し、海水中の鉄を粒子 状 鉄( >
0.2ロ
m)、 コロ イ ド状 鉄
(0.2ロ
m―
200kD) 、 溶存 鉄(く
200kDa)の3 つ の形態に定義した。
この分画測定法を使用して、東部北太平洋亜寒帯域における海水中の鉄の分布を形
態別に測定した。その結果、外洋の中・深層にはコロイド状鉄が存在しており、0.2 〃
m以下の鉄の
13一50 %を占めていることが分かった。この結果を従来の知見と合わせ
て考察すると、海洋の中・深層にはコロイド状の有機配位子が存在する可能性が考え
られた。一方、表層混合層内に極低濃度で残存している鉄は、
80%以上が200kDa 以
下の溶 存鉄 であ るこ とが 明ら かに なっ た。 東部 北太 平洋 亜寒帯 域に含まれるアラスカ 湾では 、沿 岸に 近づ き鉄 濃度 が高 くな るに っれ 、コ ロイ ド状鉄 が高い濃度で含まれて おり、 大陸 から 供給 され る0.2ロm以下 の鉄 の大 部分 がコ ロイド 状の形態であることが 明らかとなった。
また 本研 究で は、 外洋 表層 ヘ供 給さ れ得 る鉄 の海 水中 におけ る存在形態と、植物プ ランク トン の増 殖に 及ぼ す影 響を 調べ るた め、 大気 粒子 を含む と考えられる降雨およ び中層水を表層水へ添加して船上培養実験を行った。表層水に添加した後の主要な鉄の形 態は、降雨を添加した場合と、中層水を混合した場合とで明瞭な違いが見られた。中層水の添 加では、主に200kDa以下の溶存鉄が供給され、これらの鉄が植物プランクトンの増殖に寄与 していることが示唆された。この溶存態の画分は光に対して反応性が高く、容易にコ口イド状 に変化することが分かった。また、降雨の表層海水中への添加によって生成する鉄の形態は、
主にコロイド状鉄であり、この形態も植物プランクトンの増殖を促進することが確認された。
これらの結果、表層水に供給されたコロイド状鉄は、植物プランクトンの増殖に何らかの 役割を持っている可能性が高いとが示唆された。
さら に、 本研 究で 確立 した サイ ズ分 画測 定法 を用 いて 室内培 養実験を行い、形態別 の海水 中鉄 濃度 が珪 藻Chaetoceros sp.の増殖に伴ってどのように変化していくかを調 べた。 実験 の結 果、Chaetoceros sp.の増殖期間中にコロイド状鉄の顕著な減少が見ら れ、コ ロイ ド状 鉄が 枯渇 する と他 の形 態の 鉄が 残っ てい るにも かかわらず増殖が停止 した。 この こと から 、コ 口イ ド状 鉄が 利用 可能 な鉄 の供 給に重 要な働きを持つことを 明らかにした。
ま た、比較的鉄の挙動を解析しやすい沿岸海域において閉鎖生態系実験を行い、珪 藻のブ ルー ム期 間中 の形 態別 鉄濃 度の 変動 を観 測し 、除 去まで の過程を定量的に解析 した。 その 結果 、珪 藻の ブル ーム 前に は、 従来 の溶 存鉄 の中に 高い割合(約78%)で 含ま れ て いた コロ イド 状鉄 が、 ブル ーム の発 達と ともに 大き な25〃m以上 の粒 子に変 化し、 プル ーム 期間 中高 い濃 度で 海洋 表層 に保 持さ れた 。ブル ームが終わると植物プ ラン ク ト ンの 沈降 とと もに 、高 濃度 の鉄 が下 層へ 沈降し た。25〃m以 上の サイ ズに変 化した 鉄の うち 、生 物的 に取 り込 まれ サイ ズを 大き くし た鉄は 約18−26%であり、そ の大部 分が ブル ーム 開始 直後 に植 物プ ラン クト ン粒 子へ 吸着し たか、化学的に凝集し たものと見積もられた。
本研 究に よっ て、 従来 の0.2〃m以下 の溶 存鉄 に含 まれ るコロ イド状の鉄は、植物プ ランク トン が利 用可 能な 鉄の 供給 源と して 重要 な働 きを 持ち、 一方では海洋の鉄の生 物 地 球 化 学 的 循 環 を 理 解 す る 上 で も 重 要 な 画 分 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 審査 員一 同は 申請 者が 博士 (水 産科 学) の学 位を 授与 される 資格のあるものと判定 した。