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Academic year: 2021

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     博 士 ( 医 学 ) 伊 藤 侯 輝      ′

学 位 論 文 題 名

統 合 失 調 症 の 治 療 抵 抗 性 へ の 進 展 過 程 お よ び そ の 防 止 メ カ ニ ズ ム に つ い て の 実 験 的 検 討

〜 精 神 刺 激 薬 モ デ ル の 観点 から〜

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  統合失 調症 では 幻覚 や妄 想た どの 出現 以前 に、 抑う っや 不眠などが続く発病前段階が存在 す る。多 くの 統合 失調 症患 者で は思 春期 以降 にな って 幻覚 や妄想が顕在化し、この時点で抗 精 神病 薬の 服用 を開 始す る。 初発時 には 、治 療を 開始 する と数 週か ら数0月で 多く の患 者が 寛 解する 。し かし 、再 燃・ 再発 を繰 り返 すと 薬剤 への 反応 性は低下し、寛解レベルの低下や 認知機能障害の進行などが起こることがある。

  ヒト にお いて 、methamphetamine(METH) など のド ―パ ミン放 出亢 進を 主作 用と する 精神 刺 激薬の 乱用 によ って 幻覚 や妄 想が 誘発 され る。 一度 これ らの症状が出現すると、一定期間 薬 物 の 使 用 を 中 止 し て も 、 些 細な スト レス さえ も幻 覚や 妄想の 再発 誘因 とな る。 またMETH に よ っ て 誘 発 さ れ る 幻 覚 や 妄 想に 対し ては ドー パミ ンD2受容体 遮断 が有 効で ある 。ー 方ラ ッ ト にMETHを 投 与 す る と 移 所 運動 量が 増加 する 。処 置を 反復す ると 次第 に移 所運 動量 は増 強 し、十 分な 断薬 期間 後で あっ ても ほば 永統 的に 感受 性は 亢進する。この現象は行動感作現 象 と 呼 ぱ れ る 。METHの 行 動 感 作現 象の 発現 過程 は定 型抗 精神病 薬に よっ て阻 止で きる 。以 上 から、 覚醒 剤動 物モ デル は統 合失 調症 の再 燃・ 再発 脆弱 性モデルと位置づけられる。これ に 対 し 、 ヒ ト にketamineな ど のNMDA受 容体 遮断 薬を 投与 すると 、統 合失 調症 の陽 性症 状だ け で は な く 陰 性 症 状 や 認 知 機 能障 害 な ど も 惹 起 さ れ る 。 一 方 実験 動物 にPCPやketamineな ど を投与 する と、 移所 運動 量の 増大 、プ レパ ルス イン ヒビ ションの障害などが引き起こされ る 。 こ れ ら の 動 物 や ヒ ト に お けるNMDA受容 体遮 断薬 によ る行動 異常 や精 神症 状に はド ーパ ミ ンD2受 容 体 遮 断 薬 に は 反 応 不良 で あ る が 、NMDA系 伝 達 促 進 作用 を有 するclozapineに反 応 する 。Clozapineは 治療 抵抗 性統 合失 調症 に有 効で ある 。した がっ て、NMDA受容 体遮 断薬 動 物 モ デ ル は ド ー パ ミ ンD2受 容体 遮断 薬に 対す る治 療抵 抗性動 物モ デル であ ると 位置 づけ られている。

  以上 から3つの 病態 仮説 を立 て実 験を 立案 した 。統 合失 調症患 者で は脳 内の ドー パミ ン伝 達 が亢進 して おり 、こ の程 度が それ 程高 度で ない 場合 、た とえこの状態が繰り返されたとし て も ド ー パ ミ ンD2受 容 体 遮 断 薬に 対す る反 応性 は保 たれ るが( 仮説 @) 、あ る一 定以 上高 度 な場合二次的にグルタミン酸放出増加などの神経伝達系の変化を伴う(仮説◎)。さらに、

放 出 増 加 し た グ ル タ ミ ン 酸 に よるNMDA受容 体の 反復 刺激 の結果 、NMDA受 容体 機能 の低 下が 引き起こされる(仮説◎)。そこで、まず高用量のMETH(2.5mg/kg)と低用量のMETH(1.Omg/kg) を 設定し た。 それ ぞれ をラ ット に投 与し 、側 坐核 にお ける 細胞外ドーパミン濃度とグルタミ ン酸濃度を脳内微小透析法を用いて測定した。その結果METH(2.5mg/kg)とMETH(1.0mg/kg) の 両群に おい て投 与後 まも なく 同部 位の 細胞 外ド ーパ ミン 濃度が上昇した。また、その濃度

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上昇の程度は低用量よりも高用量のMETHの方が有意に大きかった(結果@)。さらにMETH(2.5 mg/kg)では、細胞外ドーパミン濃度の上昇が終局しつっある、METH(2.5mg/kg)投与約2時 間後から遅発性に同部位の細胞外グルタミン酸濃度が上昇した(結果◎)。次に側坐核にお いて細胞外グルタミン酸濃度が上昇に至るメカニズムを解明するため、METH(2.5 mg/kg)投 与20分前にドーパミンD1受容体遮断薬であるSCHー23390(0.05 mg/kg)を腹腔内投与し、

側坐核における細胞外グルタミン酸濃度を脳内微小透析法を用いて測定した。その結果、

SCH―23390(O.05 mg/kg)はMETH(2.5mg/kg)に誘発性の細胞外グルタミン酸濃度上昇を阻 止した。よって過剰放出されたドーパミンによるドーパミンDi受容体への強い刺激がドー パミンーグルタミン酸神経ネットワークを介してこのグルタミン酸濃度上昇に関与した可能 性がある。 次にこの二 種類のMETHを隔日 で5回 反復投与し、12日後、少量のMETH(O.15 mg/kg)および選択的非競合性NMDA受容体遮断薬MK―801(0.2mg/kg)を投与して、移所運 動量を赤外線センサーを用いて測定した。その結果METH(2.5mg/kg)反復投与群、METH(1.O mg/kg)反復投与群の両群において、METH自体に対する行動感作が同程度成立していた。一 方、MKー801(0.2mg/kg)に対しては、METH(2.5mg/kg)反復投与群でのみ行動上の感受性が 亢進(交叉行動感作現象)していた(結果◎)。以上の実験結果から、側坐核で細胞外グル タミン酸濃度を上昇させるほど高度なドーパミン過剰な状態が反復されると、ドーパミン神 経系のみならずグルタミン酸神経系の機能にも影響し、MK一801に対して感受性が亢進した ことが示唆された。さらに、このMK−801(0.2mg/kg)に対する感受性亢進の発現過程のメ カニズムを解明する目的で、MK−801(0.2mg/kg)を投与した際の側坐核における細胞外グル タミン酸濃度とドーパミン濃度を脳内微小透析法を用いて測定した。その結果、細胞外グル タミン酸濃度に関してはMK−801(0.2 mg/kg)投与によって全ての群において上昇が認めら れたが、METH(2.5mg/kg)反復処置群だけに効果の延長がみられた。一方、同部位における 細胞外ドーパミン濃度に関しては全ての群において変化はみられなかった。したがって、METH

(2.5 mg/kg)の反復によって形成されるMK−801に対する行動上の感受性亢進は、側坐核にお ける細胞外グルタミン酸濃度上昇の延長と関連し、同部位のドーパミン濃度には関係しなぃ 可能性が考えられた。さらに、上述した仮説◎から、MKー801に対する行動上の感受性亢進 がNMDA受容体機能の低下に基づくことを想定し、ラットに競合性NMDA受容体遮断薬である CPPを投与した20分後にMKー801(O.2mg/kg)を投与し、移所運動量を赤外線センサーを用 いて測定した。その結果CPPを前投与したラットに韜いて、MK―801(O.2mg/kg)に対する行 動上の感受性が亢進していた。よってMETH(2.5mg/kg)誘発性のグルタミン酸濃度の上昇 が反復されたことで側坐核や前頭前野などの神経ネットワークにおけるNMDA受容体機能低 下 が MKー 801の NMDA受 容 体 遮 断 作 用 に 重 畳 さ れ た 可 能 性 が 考 え ら れ る 。   Valproate(VPA)は、GABA系抑制性神経伝達を促進することがその主要な薬理効果のー っであるが、統合失調症の治療において.も使用されることがある。METH(2.5mg/kg)の2時 間後にVPA(50 mg/kg)を投与し、上述のMETH(2.5mg/kg)誘発性の側坐核における遅発性細 胞外グルタミン酸濃度の上昇、METH(2.5mg/kg)反復投与によって形成されるMK―801(0.2 mg/kg)に対する交叉行動感作現象の成立の2点を指標として、それぞれのVPAの阻止効果を 実験的に検討した。その結果、2つの指標ともにVPAによって阻止された(結果◎)。よっ てVPA(50 mg/kg)が高用量のMETH(2.5mg/kg)反復投与によるグルタミン酸神経系の機能 変化を阻止する可能性が示唆された。

  基礎実験を臨床に反映することは慎重でなくてはならないが、以上の実験結果を踏まえ精 神刺激薬モデルの観点から統合失調症の薬物治療を考えてみると、ドーパミンD2受容体遮 断薬は、現存する横断的な幻覚や妄想症状の改善効果に加え再燃・再発の阻止効果を持っ。

またドーパ ミンD2受容体 遮断薬にVPAを併用することで、この病気の縦断的な病態進行、

治療抵抗性への進展や人格水準の低下が阻止できる可能性があると考えられる。VPAはドー

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パミン

D2

受容体遮断薬との併用で統合失調症治療における横断的な効果を有する。その為、

今後は臨床の場で、この薬剤の統合失調症の縦断的な治療抵抗性への進展阻止効果を検討す る価値があるものと思われる。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   小 山   司 副 査   教 授   渡 辺 雅 彦 副 査   教 授   吉 岡 充 弘

学 位 論 文 題 名

統合失調症の治療抵抗性への進展過程および その防止メカニズムについての実験的検討

〜 精 神 刺 激薬 モ デ ルの 観 点か ら 〜

  統 合 失調 症 で は、 当 初の 精 神 病性 エ ピ ソー ド にお い て ドー パ ミンD2受容 体遮断薬 を主作 用 とす る 抗精 神 病薬が著 効しても 、再燃や再 発を繰り 返すこと でその効 果が消失 たいしは 低 下 する 一 群が 存 在し、臨 床上の深 刻な問題と なってい る。本研 究では、 この一患 者群に注 目 し 、そ の 進展 過 程および 防止メカ ニズムを解 明するこ とを目的 として、 精神刺激 薬モデル を 用 いた 実 験的 検 討を行い 、以下の ように臨床 ・基礎研 究の両方 の観点か ら総合的 な論文と し て まと め た。 ま ず (I)統 合 失調 症 患 者の 典 型的 な 経 過を 述 べ、 (u) 問 題点・着 目点を確 認 した 。 次に 、 病 態モ デ ル研 究 の 目的 を 明確 にする ために(m)精神刺 激薬動物 モデルの 位 置 づけ を 述べ た 後 、(IV) 臨 床 的な 知 見 から 基 礎研 究 立 案に 至 る過 程 を 説明し、 国際雑誌 Psychopharmacologyに 報 告し た 二編 の 論 文か ら、実 験結果を引 用して述 べた。最 後に(V) こ れ ら の 結 果 を 臨 床 の 統 合 失 調 症 治 療 の 場 に 反 映 す る こ と を 意 図 し て 考 察 を 加 え た 。   質 疑 応答 で は、 吉岡充弘 教授から 、断薬が統 合失調症 の再燃・ 再発に及 ばす影響 の有無に つ いて 質 問が あ っ た。 こ れに 対 し て申 請 者は 、過去 の報告で は抗精神 病薬の断 薬から1年 以 内 に90%以 上 の 患者 が 再発 し 、 薬剤 の 服 用で そ の危 険 性 が軽 減 され る と 解答した 。次にド ー パミ ンDi受 容 体の 阻 害作 用 が 病態 の 進 展を 阻 止す る 可 能性 に つい て 質 問があっ た。これ に 対し 申 請者 は 、 この 観 点か ら は ドー パ ミンDi受容 体 の 阻害 作 用も 必 要 であると 考えられ る が、 臨 床上 で は横断的 に認知障 害を悪化さ せること も報告さ れている ことから 、ドーパ ミ ンD2受 容 体 遮 断薬 に 加 え、 ド ー パミ ンDエ 受容 体 の 作用 を 調節 す る 作用 が 必要 で あ ると 解 答 した 。 またvalproate (VPA) の メ カニ ズ ムに 関して、GABA神 経の効果 増強とPKCの 阻害作 用 だけ で あれ ぱ 、他の薬 剤でも代 用が可能で はないか との質問 があった 。これに 対し申請 者 は 、VPAの 効 果 は 、こ れ ら 以外 に もNMDA受 容 体 の発 火 頻度 を 減 少さ せ る 、前 頭 前野 に お け る セロ ト ニン や アセチル コリンを 増加させる など複数 の作用が 報告され ているが 、本実験 に 関して は、同様の 薬理効果 をもつ他 の薬剤に おいても有用性がある可能性があると返答した。

次 いで 渡 辺雅 彦 教 授か ら 、GABA神 経 を 賦活 さ せる こ と でNMDA受 容 体を 介 した興 奮性アミ ノ 酸 の伝 達 が下 が り、逆に 悪影響を 及ばす可能 性はない かとの質 問があっ た。これ に対して 申 請 者は 、 統合 失 調 症で はGABA神経 の 機 能低 下 が言 わ れ てい る が、 そ の 賦活 の程度に よって は 悪影 響 を及 ば す可能性 は否定で きず、十分 な評価に 基づぃた 薬剤の選 択と使用 量の決定 が 必 要が あ ると 解 答 した 。 次に 、 グ ルタ ミ ン酸 の 上 昇に よ っ てNMDA受 容 体が 刺激され 、機能

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が低下 するメカニズムとして、NMDA 受容体のinternalization の可能性はないかとの質問 があった。これに対して申請者は、覚醒剤の投与によって前頭前野や側坐核でのNMDA 受容 体のサ ブュニットの蛋白量の低下が報告されているが、NMDA 受容体のinternalization な どにより受容体数が減少している可能性は十分に考えられると解答した。また覚醒剤によっ てドーパミンの上昇が起こるとのことだが、ドーパミンの受容体は脳のどの領域にあるのか との質問があった。これに対して申請者は、統合失調症と深く関係している腹側被蓋野、側 坐核、内側前頭前野に脳内のドーパミンの80 %が含まれ、同部位に多くドーパミンDi 受容 体、D2 受容体が存在しているが、それ以上の詳細は未だ不明である点が多いと解答した。

次いで小山司教授から、ドーパミンの過剰からグルタミン酸の上昇、NMDA 受容体機能低下 という病態の変遷と脳の形態学的な変化はお互いに関係があるように考えられるが、このよ うな観点からの将来の研究の方向性に関する質問があった。これに対して申請者は、脳機能 画像や認知機能検査などを組み合わせて、VPA などの薬剤の効果を前方視的に検討すること が必要であると解答した。

  

この論文は、統合失調症においてドーパミンD ユ受容体遮断薬に対して治療反応性の状態 から治療抵抗性を形成する一患者群の臨床上の特徴をよくとらえ、これを正確に基礎実験に 反映している。また、その理論の展開も精巧かつ現実的で、最終的には実験結果を臨床に反 映させる考察もなされている。上述した患者群の病態メカニズムの解明とその防止に関する 臨床及び基礎研究の総合的な論文として高く評価される。今後、統合失調症患者の病態の進 行防止に関する前方視的な調査などの臨床応用によって、本患者群の病態進行の防止が可能 となることが期待される。

  

審査員ー同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位なども併 せ 、申 請 者が 博 士(医学) の学位を受 けるのに充 分な資格を 有するもの と判定した 。

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