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トマス ・‑ーディと彼のジュー ド
日 下 部 正 哉
1
1. トマ ス ・′、‑ デ ィ
文 学 観 ミルは 自由論で真理は時代によ って変 る。我 々はその様 に し て最後の真理に少 しで も近づ こ うと努力す る, と言 っている。 この相対的な見 方考え方は イギ リス人の感覚であ り知英 であろ う。相対的 とい うことと, さら に対照的 とはハ ーデ ィの文学観,′ J \ 説 の構成や内容 の著 しい特徴 である。
ハ ーデ ィ夫人の トマス ・ハ‑デ ィの前半生,同 じく後半生か ら若干彼 の文学 戟 (文学理論はない)を拾 ってみ る。
「或情景を詠 う詩はその情景を見 る人 々の心に従 って異なる 。」 ( 1 8 6 6 );
「′ J \ 説 の 目的は異常な ものへ の好奇心を満た して喜びを与え るにある。 ‑作者 の仕事は興味を呼ぶ異常な もの と現実の普通な もの との間の均衡を見出す こと である。そのためには人間性を異常に描いてはいかぬ,不信を招 き 入 れ る か ら。異常性は出来事に置 く 。」 ( 1 8 8 1 ) ; 「扱 う出来事を異常に した り通常の ものにす る手心を精確に心得てい る作者は芸術 の鍵 を遮 ってい る 。」 ( 1 8 9 3 )
; 「芸術は芸術家の特異性に最 も強 く訴える物事の特徴を力強 く表現す るため に物事の実際の釣合いや秩序を変えること‑斯様 に して実際の物事が含む重要 な 諸 特 質 を一層 明 らかに示す ことである 。」 ( 1 8 9 0 ) ;また レズ 1 )・スチー ブンの言葉 として 「詩人の窮趣の 目的は彼 自身 の心情を示 して読 者の心情に触 れ ることである 。 」( 1 8 7 9 ) と書留めてい る。以上は物事は相対的価値に於 て存 在す るか ら作者は 自分の特異性に従 って物事を見, 自分の特異性に よって見た ものの価値を定め,定めた価値を誇張 しそれを出来事の異常性に於て.非現実
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2
的印象を与 えない範囲で,描 き出す
。この様 に して読者の心情に触れ るべ きで ある. とい うことであろ う
。又 「悲劇 は宇宙に内在す る ものごとの或は人間が 作 った制度の.その何れかの敵対 し邪魔す る環象に よって創 り出されるであろ う 。」 (1 89 5)と言 う。 この宇宙に内在する もの,は 「自然の本性か ら産れた 何等かの 目的又は慾望 」 (1 88 5), 「 情熱,偏見,野心 」 (1 87 8)を意味す る であろ う
。以上は実作に即 した彼 の文学観 であ り,その まま彼 の文学の特徴を 物語 ってい る
Oその一つの系 として我 々は彼 に シェ リイや沙翁晩年の浪漫的想 像を期待 し得ぬ。事物の釣合いや秩序を変える ときも彼の眼は人生 と人間の平 常 の姿を離れ ないか らである。又彼が小説 で大切だ と言 う 「有機的形式美,保 留抑制の力,控え 目な表現が もつ強調 」 ( 1 91 3‑4)に成功 してい る とは言い 難いが, この古典主義的な考え も彼 の作品の‑特徴である。彼は又製作に関 し
「1 1 2 封の石を山環に押上げるのは成功で1 1 2 0 封の石を中腹 まで上げ るのは失 敗である 。 併 し後者は2・3 倍 も強い行為 である 。」 ( 1 9 07 。参 .1 86 5. 4;1 9 01
. 7. 8)と言 う。 これは,定見 の眠 りの中で抱 く真実 の見解 よ り努力 して 自ら思 考す る人の誤 りの方が真理 に貢献す るとい うミルの考え (自由論, 2章)に通 ず ると同時に,ノ、‑デ ィの人生探究 と芸術的噂好 とが通 じ合 う機微を示 し,更 に彼が書 く小説 の重点は人物の結末にでな くその人生過程にあることを教える であろ う。
時 ・偶 然 ・雰 囲 気 ウ ェセ ・ ・ Jクス小説集の第一作必死の弥縫莱 ( 1 871
)は章 と章を 日と時間でつなぎ,筋が出来事 と偶然に満ちている特異な作品で
ある
。印象は メロ ドラマ的であるが, 時 と偶 然 そ して.当然 これ らと結び付
き且つ文学観 で強調 してい る出来事,を この様 に使 った ことには, 「小説作法
を手探 りしていた とき 」 (弥捷策,序文)の試験的技法 と言 って片付け られ な
い ものがある。 これ よ り前に時 や 偶 然 を詠んだ詩があ って.之 等 は 彼 の 人
生 感 に 由 来 す る と 考え られ るか らである。 時 は美や恋愛を幻に化 して意
地悪 く人間を欺 くとい う考えは詩葉,小説 の到 る処に見 られ るが, 既 に 同 じ
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・ ∵■ : ・ L r I ・ 、 て ' 事 + ヽ 。
3 時 がアマベル ( 1 8 65 作) .急変 (1 86 6) .女の訴え, Ⅰ ( 1 8 6 6). 間色の風景
(1 86 7) に詠 まれ, 時 は 「残忍な暴君 」, 「 猟人」な どと呼ばれ てい る。偶 顔 (1 866) とい う詩 では 「鈍感な 偶 然 」 と 「慰みに賓を弄ぶ時 」を 「半盲の 宣 告 者 達 」 と呪い,小曲 ( 1 8 7 0) では 「我 々はみな偶 然 の奴隷だ」 と欺 く
。之等時 と偶 然 は更に愛の ジレンマを造 る 自然 (女のジレンマ 1 86 6) ,結婚で 愛を殺 し従 って愛を知 らぬ堕落 した子を産 ませて平然 と してい る「偉 大 な 母 」
自然 ( 括嬉式で 1 866 ) と結び合 って既 に彼の強い人生印象 に な っ て い る。
それが単なる感傷でない ことは幻の中をさまよって行った ( 1 86 6) の知性が傍 証す るであろ う。 この詩は私を光溢れ る蒼等の巨大な ドームの奥に据えて客観 化 し,恋人を 「沈黙を守 る荒涼た る宇宙」のなかに輝 く地球の上に置いて清 く 深い愛でつな ぐ。彼は之等の人生印象を基 に して,彼 の人生観を展開 して行 く ので,例えば時の笑い革の多 くの詩 は 時 が愛の幻 と希望,美 と恋愛を与えて 板 り上げ, 偶 然 と組んで人生に予測 し得ぬ悲劇 を もた らす と歌い.更に人間 に 自然な性情が過度 の情 熱 とな り,ために人間は思慮を失い自分 も他人 も不幸 にす るとい う人間性 の問題を加えている
。弥捷策の翌年その メロ ドラマ味を完全に脱 した美 しい緑林 の樹在が出る。併 し 1 8 8 7 年には , 人生は苦悩 , 暗黒,死だ。笑 うことな ど出来ない筈だ。笑 う時は 真実を忘れてい るのだ。 と書 きとめ緑林 の静かな生活を包む落着いた芸術的調 和の世界に安住 出来ず , 人生の悲惨か ら本能 , それは既に 自然 の観念が含んで いた ものであるがそ こか ら更に進んで,本能 と境遇の関係を主 な問題 とす る様 にな った よ うだ。 「普通の人の情熱.偏見,野心に よって産み出 され る悲惨 な 出来事を避け る骨折 りを人物が少 しも しないためそれ らの情熱, 偏見 , 野心か ら 生ず る境遇の中に漸次閉 じ込め られ て仕舞 うこか ら或筋又は悲劇が生ずべ きで ある .」 ( 1 87 8 .参 . 1 8 85. l l. 2 1 ) 。 この人性観は展開 してテ ィナスッの宇宙 観に到 る基本であるが , 今は, 彼が弥捷策のね らい 「神秘, もつれ,驚 き,品性 のゆがみ 」 (序文)の世界に帰 った ことを意味す る。 この本能 と境遇の関係を
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偶 然 を視点に簡単に調べ てみ よ う。
タイタニ ック号が造 られた時.凡ゆる ものを動か し促す 内在意志が‑氷 山を 造 った。二つは無縁に思え,互に鉾摸 し合 うとは誰 も知 らなか った。二つが符 合 した道筋を通 り‑やが て才月を織 りなす ものが今だ/ と言 った とき.完成の 時が きて南半球 を震揺す る (二物の収飲)。 これは偶然 と思える出来事の奥 に 働 らく必然の筋道を歌 った詩である。狂操の群を遠 く離れてで 52 章を 7 つの部 分に分け陰徴の中に次 の 5 3 章の悲劇へ進む幾族かの道を殊更 らに書いているの も同 じ考えに基づ く。併 しこの方は動機を持ち人間が過度な情熱に閑ぢ込め ら れ ることか ら起 り,偶発事 として驚 きの眼で見 られる悲劇 である。 マーテ ィは 偶然 ジャイJ t ,ズと一緒に夜明け前の道を歩いて来 る。 「夜明け前の 淋 し い と き,灰色の ものの蔭は.物 も心 も,本当に灰色である。だが しか し彼 ら夫 々の 孤独な道は決 して無縁な図柄を作 っているのではな くて. 白海か らケープ ・ホ ーンに到 る両半球にその時編み続けている人間の行為のあの大 きな網 のなかの 模様 の一部であ った 。」 (森の人々. 3 章)は 偶 然 が マ‑テ ィの情熱を煽 ‑ 9 て編み上げる悲 しい運命の影を暗示的に出 した ものである。狂操の群でガーゴ イルの位置か ら,雨が降れば ファニの墓に起 る事は因果 の自然現象であること を明示 しておいて.好色の結果罪の意識 に苦 しむ トロイにそれを神 の刑罰 と思 わせ る。 この頓の噴水 口の貌に作者が予め与えた,無気味な. 「周囲の風物を
′ 噺笑 して」いる如 き性格が,品性のゆがみか ら抜差 しな らぬ境遇に陥ちた トロ イの罪の意識 と結んで,運命 と神秘の濃い陰を醸す。 そ して合理 と神秘が奇妙 に混合 している弥錘策は相次 で起る偶然に,予感 と遠隔感応 (この二つを作者 自身後年経験 してい る).品性のゆがみ と驚 きを配 して運命 と神秘を渡 し出 し ているのである。
偶然 の起 る筋道.条件,時瓢 様態は予知出来ぬ。夫 自身神秘である。 この
偶 然 に就ての彼の概念には事物の自然過程 の必然的結果 としての出来事 と,
受ける影響か らこれに意味を投入 して解す る有意的出来事の二つがある。前者
' 。T ' 1 . i ‑ ‑ ト 芭 ■ 叩, h r Jやア呼
L'貰 .汀 ・IJr′′鼎 準 ,Jq, Jl≠Y:‑‑1 J I‑Lp tt葺lr ㌍ 二J:1i轄 :雷 撃 ぎー1,7 ミ5 は 「何事 もその発端 に於て約束 してい ることを実際には確証 しない世 の中 」 ( 1 8 82) とい う人生観や, 「歴史は‑・ 流れである
。・ ‑その展開に何等組織的な も のがない。 夕立が道端 に作 った細流 の様 な ものであ り藁切れ一本 で こっちへ砂 の小 さな集 りであ っちへ道を変 える 。」 ( 1 8 8 5 。参 ,1 8 84・1 0・2 0) とい う史 観の基礎観念になる。合理的に理解 され る前者だけで も人生を不安定な ものに す るのに,人間は過度の情熱 .野心,偏見な ど 「品性のゆがみ」か ら.抜差 し な らぬ境遇を 自ら作 り出 して, この 偶 然 に暗い運命の意味を与 える。 そ して この人間性 のゆがみに よって 「人間の行為 のあの大 きな網」 が編 まれ るのであ り,それは‑農夫 の滑稽 な雨乞いの迷信 (1 8 8 3・3・1 3)か ら奈翁 の大野心に まで拡が ってい るのである
。運命 の影が ウ ェセ ックス とい う土地 の迷信 と相通 じて醸す神秘,作 者が 自然 物 に与 える感覚や感情.村人達 に与 える自然な素朴 な性格.が彼の小説 の雰 囲 気 を作 ってい る。 それ は文学観 で明 らかな よ うに 「物事 の核心を捉えてそ こに 内在す る意味 」 (1 8 86) を捉 え る彼が. 自分 の心の中か ら作 り出 した一つの象 徴 である。従 って村 の生活 の変遷 とか特色,地誌 な どの特殊は明確 な心象を残 さない。代 りに田舎 , 自然 ,素朴が息づいてい る。 そ して彼は こ の 田 舎 , 冒 然.素朴に都会,文 明,堕落を常に対置 して彼の人生観 を展開す る
。だか らウ ェセ ックスの地誌 に興味を持ち過 ぎることはハ ーデ ィ文学か ら外れ ると思われ る。 ジュー ドの場面は殆 ど都会 であるが,従前の ウ ェセ ックスの雰囲完が浸透 して,作品の性格を成 してい る。 それは ジ ュ ‑ ドとス ‑の家系的遺伝 の強調 と彼等二人が板は ウ ェセ ックスの田舎 者であるとい う.それだけ の ことか ら産 れ る雰囲気 であ って, ここに我 々は彼 の ウ ェセ ックスの雰囲気 の殆 ど完全な象 徴 を見る と言える。
気質 この時 ・偶 然 ・自然 の観念の母胎 と して彼 の生来 の気 質が考え られ る
。ハ ーデ ィ夫人の本 に よる と. 4才の頃踊 り乍 らその曲に疾 し.5・6才 の頃 ジュー ドの様 に仰 向けに寝 て顔 の上 の麦藁帽を透す光線を見つめ乍 ら大人 ・
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に成 りた くない と考え,父が石で打落 した冬の鵜の羽毛の様 に軽い感触がず っ と心を離れなか った り ,13 才頃は他人の手が身体に触れ るのを嫌 った とあ る。
生来内気 で敏感で,感受性が強 く情の うるみ易い子供であって.既に人生の悲 しみを感 じてい る
。それは同時に彼の愛情が深い ことを物語 っている と共に,
< l 将来の彼の神秘的性 向の土台をな してい る
。「活動力を持たぬ経ての自然物が 時 々私には悲 しい物思いに言葉を失 っている様 に思える .」 ( 1 87 7) とい う後 年の言葉は この気質か ら産れ て来 る。併 しその間には進化論 の思想が加わ って い るであ う。更に後年 「ダーインは子供達 と野獣 との間に何の違い もない こと を原理で明 らかに してい る 」 (1 9 04), 「有機体 と無機物は相互 に湿 り合 う。
一つの 自然 と法則が之等を一貫 して働 らいてい るか ら 。」 ( 1 91 5) とい う言葉 になって表れ るもので,それが彼 の気質に思想 と信念の裏打ちを してい ると思 われる。屠殺 され る動物の輸送機関改善のため遺言で金を残 しているのは最早 少年の気質か ら来 る感傷ではない。同時に彼は小学生 として数学に優れた頭脳 を持 ち,長 じては着実 と合理の質を具えていた 。2 0 才建築志望で希臓文学をや 臥 2 2 才建築勉強に初めて倫敦に出た時, 6 ケ月後になって不用の復 り切符を 捨て,上京後流派画風の洞察を得 るため 国 立 美 術館で一度に一人の作品だけ を見つめる方法を立てた。生来の気質か ら苦 しむ ものに深い同情 を寄せ.人生 の悲 しみを強 く感 じた彼は,同時に着実 と究理の知性を もって人生を正視 し, 人生か ら美,幸福を取 り上げ る時 ・偶 然 の観念を持つに到 った と考え られ る。
「 勇気は理想祝されて来た。恐怖だ って理想祝 されていいではないか ?‑ 忠
怖は勇気 よ り高い意識であって,一層深い洞察に基づいている o」 (1 89 3)は
悲劇 と承知 し乍 らなお人生の現実を正視す る人のことを言 ってい る。 この悲劇
感 か ら,人生の悲劇的神秘に気付いた人には心で捉える抽象の姿の表現 こそ芸
術である( 1 88 7. 1 ) とい う人生 と芸術を一体 とした彼の自然,人生を貫 く悲劇的
神秘感の文学が産れ,ここか ら更に 「私は非合理的問題に興味を持つ,宇宙の
原理は非合理性であ るらしいか ら。それは正確に名付け得ない原理 であって,
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‑合理 と不合理の中間点に存在 してい る 。」 ( 1 9 01 ) とい う宇宙観 が 展 開 す る。
夫人の本 の諸所 に見え,昔の可愛い歌 な らどれ でもに歌 ってい る様 に,彼は 子供 の頃 の,知人,話や歌 な ど素朴な思い 出に誘 うものを始終懐か しみ,故郷 の古い風習や伝説に格別 の興味を寄せ てい る 。 磨 り減 った閥や壊れた器物 に前 の居住者を連想 して懐 か しむ詩,雪の石段を上 って くる猫 ,夕碁の鵜,其他生 物を歌 った詩.狂燥の群 の中の犬な ど. これ らは彼 の気質か ら産れてい ると同 時に.彼はそ こにひず んだ人生 の慰 めを見出 してい・ るのである。
彼 の文学は詩作で始 まったが .8 7 才 で死ぬ 前 日と当 日の夕方詩 の朗読を求 め た。彼 は詩が好 きだ った のである 。 世俗的野心が弱い人だ った ことは夫人の本 に明 らかだ し,彼 の気 質や人生観 に見て も当然 と思え る。併 し金を得 るために 小説を書 き.妻 に残す遺産 のために,そ して将来完本に戻す のを楽 しみに,削 除改寛 の労役に甘 ん じて,雑誌連載の 「単 なる 日傭仕事 」 ( 1 8 8 6) を つ ず け た。遺産が出来 ると,小説 と同 じ内容 を歌 って も 「ただ世人に頭 を振 らせ るだ け 」 ( 1 8 9 6. 1 0. 1 7) で済む詩 に帰 った。 この ことは彼の文学に於け る人生観.
宇宙観の重 さをそのまま立証 してい る。
人 生 観 暁闇, 夕陽な ども含めて彼が描 く自然は夫 々独 自の生命を持 ち彼の文学r )‑特 色をな してい るが,彼 の最大 の関心は人間であ り,それが彼 の気質 ,神秘感,人生観 に よって自然に まで拡が った と言え る。人生を悲劇 と 見てなお人生に顧組んだのは彼が人間に強い愛着を持 っていたか らである‑
「或 る場所に人間が建 てた もの或 は印 し付けた痕は無意識に 自然 が作 った こ の様 な ものの十倍 もの値打 ちがある 。」 ( 1 87 8 。参 . 1 87 8.4.2 2) のである。
併 し彼 の小説には内面心理 の易u てつがな く,性格の形成成長過程 の 描 写 が な い。彼は善意 をも含む人間性に視点を置いて色 々の性情 の人 々を作 り,彼等を 様 々な境遇に置 き,様 々の緊張 関係に彼等が如何に対応 し,夫 々如何 なる生涯 を送 るかを詩や小説に書 く
。人生の小 さな皮 肉はそれ を単純化 して見せた物語
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集 である。一般に人間の内面 その特異な姿に 目を置 くと社会や人生の実体への 突込みがぼやけ る。彼は人間 の本質を究明す るのでは な く,人生の美 と真実を 探究す るのである。彼はその気 質か ら人生を悲 しい もの人間を不幸 な存在 と見 たか ら,それ らを幸福 な美 しい ものにす る途 を求めた のであ って人生 とい うも の人生に於け る人間の在 り方が彼 の問題 にな ったのである 。
彼 が取扱 う人間の本能は主に恋愛,憧保.頑 固,野心,情慾,嫉妬 な どであ るが.それ らに支配 され て理性を失い悪意的に事物をゆがめ る愚か さを王の美 負 (王 は 運 命 の意味)に歌い,又心の中を覗 くと人 それ ぞれに違 った慾望が 動 めいていて表面の 和合調和 とは似 て もつかぬ万華鏡 を見せ るこ と を 1 8 8 8 年 7月8日の ノー トや詩 自己を見ずで指摘 してい る。他方 自分 自身の反省努力に よ って 自分の本能の欠陥を克服 し.成長 してゆ く姿は描かなか った。彼は人間性 の欠点 と人間の愚か さを指摘 し.夫等 と直結す る人生 の陥葬や悲惨を示 して世 人の反省 と自覚を願 ったのだ と考え られ る。
彼は 「よ りよきものへ の道があ りとす るな らは,それは最悪 の ものを全面的 に直視す ることを強要す る 」 (テネプ レ見に, J I) と歌い, 「悲観主義 とは先 づ人間の不幸 を正確 に診断 してその原因を確かめ,次 虹救済の遠があれはそれ を見つけ出 しに と りかか ることである 。」 (1 91 8) と言 う。 そ して次の‑堺の 詩其他には将来へ の希望がない。死.時,宿命が人生を支配 してい る人生に春 チ, 「人生 の裸 骨を まざまざ と見たあ と」 の合衆国への招待 を受けてや,質疑 の一夜,考える焦立 ちを解かれた らな ど.更に 1 8 89 年 2 月 2 6 日の ノ‑ トや 1 9 01 年 6 月 2 0日の手萩 な ど。
併 し同時に次 の‑聯 の詩 には.決 して華 々しい ものではないが,入校解放 の 根深い希望を歌 い,確信の響 きもきこえる 。1 9 6 7 , 希望の歌,空 に不思議が現
(
1 )
(2)われ た.宗教 の純化を歌 った死 んだ信条の墓場,真実 を見つ める英 知 に 信 頼
し,忍耐を力 として,やがて真実の言葉が世 の毒気 を貫いて遠 く拡が り真実が
世 の仮構を矯め人生は本来の価値を坂戻す であろ うとい う希望 を歌 うヂ ヨー ヂ
̲ノ .̲ ̲ / rI .
9
(3)・メレデ ィスや , 7Jlデ ィー ン, 誠実に暮すな ど (1 は シェ リイのプ ロ ミ‑ シ ゥ ス 3 幕 4 場 9 8‑ 2 04 行を, 2 は同じ く 4 幕 9‑34 行, 3 は 2 幕 3 場 3 6‑4 2 行を を想起 させ る。).更にオ‑ク, ウ ィンクポ ー. y, ク リム, ジュ‑ ドな どの人 間像を描いて,彼は人鞍の未来への希望を これ らの男 (女ではない)の生き方 が教えるものに託 したのだ と言える。
彼 の宇宙観に も 自 然 は 自然法則的に万物を造 り,造 った物の価値を認めず 時 に 命 じ て捨て させる (新年の前夜 ;神の教育),我 々はその厳然た る事実 をその まま受容れ よ うとい う諦念 (夢の中の質疑 ;イエラムの森の話)の詩 と 同時に, 「無意責 故の内在行為者」の遠 き将来の覚醒を歌 う詩 (打 撃 ;断 片) 自然 の 秘 密を知 る夕碁のつ ぐみの歓びの歌がある。尤 も打撃には人生を悲劇 に変えた打撃が人間の所為でない と判れ ば. とい う条件が付いて お り. そ れ は 「ボナ パ ル tの際限なき野心 と倣 鰻」 ( 僕達が知 っていた人)の如 きもの を言 ってい るが,それ も今では透視力を持つ魂.総てを理性の光に照 し出す思
い き くがみ
考が,共感慈愛を育てて人間は最早戦争 の熱を持たない (病める軍神)のであ る。大戦後 1 9 2 4年の詩 コンパ . ・ Jシヨンに も同 じ希望を歌 っている。
彼は シェ リイの様 に人生の苦痛か ら反射作用的に理想に飛び行 くことは しな い。 「現存す る善 きものを保守 し,悪 しきものは排除 して善 きものをそこに置 き換 える」 ( 1 8 7 9 ) 「 進化論的改善論 」 (最近の押付詩 とその前の押情詩.罪 論論) と.苦痛を共感す る ことに よって窮塩には 「隣人を汝 自身の如 く愛す」
(1 8f X) 。参 .思い起 させるもの) とい う希望 を持つ。 「生涯を通ず る誠意 」 (
或森の中で).生涯変 らぬ愛 (美 Lき人).親が子に寄せる情 ( 硬女の父),
「 厳 しく自己を滅却 した献身」 (故 ぶ壕のそばで)の尊 さな ど. 「思い遣 りあ る優 しい感情 ・胸 の奥か ら湧 き出る親切」は 時 も壊 し得ぬ もので,それがや がて科学的知識. 自由意志 と共に働 くことに彼 の希望を託 している ( 最近の拝 情詩 . ,弁讃論)
。「人生か ら総 ての偽 りのロマ ンスを板去 った後に も人生には 十分の詩がある。 自 然 も同様 である。それ らの欠点を新 しい精神 の光 で照 ら
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して. そ こに未知の美を作 り出す のが芸術であろ う 。」 ( 1 8 7 8 。参 ・1 8 7 7・6・
3) とい う言葉の板底 には ここに述べた彼 の人生観 の希望がある.だか ら 「無 意識 の内在行為者」 の覚醒 の希望 も産れ るのである。 これは彼が度 々言 ってい る 「 朝 の中に美を見 る」 ことであるが,人生の悲劇 に余 りに も強 く目を とられ
ヽ
たためであろ うか, 時 と老いを恐怖感 で詠い欺 き. エ ドリン老婆の素朴 で健 康 な心の他には.老醜 に, トの美を見た例がないのほ,筆者の年令の た め で な
く,ハ ‑デ ィとして物足 りない感 じがす る。
彼 の結墳観は要す るに,其 の結婚は魂 の結婚, 自我 と他我が一つに融合 した 状態にある愛 の結婚である,とい う. この様な結婚では , / レソーの理想主義 の結 婚 と異 り,処女童貞は問題 でない. オ ークや ウ ィンクポーンで示 した結韓であ る。 グレースの言葉 『今の貴方の大胆 さを私 の結婚前に半分で も見せ て下 さっ た らお古 じゃな くて,私を貴方の初 々しい新妻 になさ?ていたで しょ うに 。』
は ウ ィンクポ‑ ンには無意味である . 処が文明の中に育 った 「情緒繊細 な」ナ イ 1 ‑(青い双陣)や 「過度に鋭感 な」 クレア (テス)は愛のなかに冷た く固い 主我を立て通 して.魂 の結婚の出来ぬ人達 であった。
文明,都会 ,品性の病的歪み, と自然, 田舎,健康 な力は実に判 っき りした
対照をな してい る。 タ リムの顔 の文明の苦悩 を刻んだ深い筋は早 く弥建策の若
い エ ドワ‑ ドの額 に微かに表れ てい る (弥縫第, 2.4. 32) 。彼が最初に書い
た′ ト説貧 しい男 と貴婦人は郷里 と倫敦 との対鋲的生活経験 か ら生れ,中流上層
階級の生活.政治 ,宗教 を訊刺 した もの とい う。功名野心を知 らぬ素朴 な人 々
に寄せ る愛着を彼 の不滅,忘 られ る定めの人 々,後替者達 に歌い,彼女を定義
する言葉では愛は 「地味な」言葉で表 し 「平凡な」箱に大切に納め るべ きもの
と言 う. 自然 の錠に従 う蜂,ががんば了 晩 蝿 (八 月の真夜)は彼女の秘密
を感得 してお り.竃の鵜 ( 放 たれて帰って来 たつぐみ)や非情冷酷 な 自 然 の
中のつ ぐみ (夕暮れのつ ぐみ) は人間が知 らぬ希望 と歓びを知 って い る と 誘
える。又 「地方的感情は非常に貴い もので個性の本質に属 し,偉大 な思考や行
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1 1 為を させ るあの粗野な熱狂は大半 この感情か ら産れ る 。」 (1 8 8 0).田舎 の膿
しい生活は可成 り野卑だが 「都会の屑共をひ どく有毒 な ものにす るあの好色は 普通 田舎 にはない 。 」( 1 8 84) と言い.知人の非難に答 えて「人 と物を混 同す る ドーセ ッ 十の野蛮人的観念 と君が言 うものは,最高の想像力即ち詩人 の才に も 共通 である 。」 ( 1 89 0) と応酬 してい る。他方都会 と文明に就 て 「ロ ン ドン。
四百万希望 の捨場所 . /」 (1 88 9). 「ロン ドン.人間のあの熱い 鉄 板 . そ の 上 で我 々は初めいい気 に歌 い.次 に シュッS /ユツと蒸気 を出 し.次に固焼 きに な り.次に乾澗びて塵 と灰にな って仕舞 う . /」 ( 1 892) と言い.又物質的成長 と精神的成長の甚だ しい不均衡を漸次 に赤十字が直 して 「我 々の内面的進歩 と 外面的進歩 の諸関係か ら文明を非難す ることが よ り少 くな るか も知れぬ 。」 ( 1 9 0 0), 物質的進歩 は著 しいが 「兵 の文明 も同様 に進歩 した とは思えぬ。‑今 日 私心な き親切 は稀 である .」 (1 92 0)と言 う.更に 「人間が文明と呼び E Eれて い る ものに沿 って進 んでゆ くことに対す る 自 然 の無関心は此度の戦争 を被女 に とって何 の重要性 もない ものにす る。彼女 の持続に一つ の地理的 な傷を与 え た とい うこと以外 。」 ( 1 9 2 0) と言 って. 自然 と文明の乗離 を指摘 している。
運命の影の棲家 で暮 ら したは平凡極 まる運命 の男 も農場 を離れ町 の人 々に雑 る と孤独感 と共に野心が産れ ることを歌い.堕 落 した娘は田舎 出の娘を歌 って田 舎 の素朴.徳性 と都会の著惨.堕落を対話 の形で実 に克明に対照.列挙す る。
建築 の仮面は想高 く思念深 き人 々が住む と見える由緒づ きた る建物に実は守銭 奴が住んでい る。 と詠んで.古 き歴史の文明の外面 と実体の相違 を暴露す る。
これは彼 の宗教観 ともつなが り.又 ジ ュー ドの ク リス 十ミンスク大学を想起 さ せ る
.都会はル ソーが強調 しクウ/i‑が歌 った様に人間が 自然を離れて作 った ものであ り.その文明は野性 の力 と共に素朴,誠実.情愛を人間か ら奪い.野 心.焦燥 .好 色を育て.人為的に慣 習.因襲を作 り人間のなかの 自然 な ものを 抑圧 して. ものの真実 を見 るな. 「心に欺 くとき楽 しい と言い.信 じな くて も 信ず る と言え 」 (誠実に専 す) .虚偽を守 って人生を終え よと命ず る。 これが
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人生悲劇 の他の一つの原因 「人間が作 った制度 」 (2 頁参照)である 。 森の人 々に見る様に 自然界に も斗争がある 。 併 しその斗争は 自然法則に従 うもので, 物理的範囲を出ない 。 シ′ ェリイが歌 う様 に動物が行 う寮歌は空腹を満せは終 る が. 人間の野心,真慾には際限がないのである。
基督教は西欧精神文明の中核である。/、‑デ ィは基督教に就 て早 くか ら合理 主義の立場 にあった (参 .前半生 ,3 7 ‑ 9 頁)が,人生を洞察批判 し,宇宙観 を持つに到 って,彼の基督教批判は痛烈な ものにな った。 「宗教的又ハ宗教は
‑人道,心情の善.並びに偉大 さに向 っての新 しい よ り高貴 な感情を表す もの として用い らるべ し。 その語 の古い意味‑ 儀式,礼式‑ ほ滅びて」 ( 1 907 )。 「善神論は二千年を経て.今 日の欧州の‑不名誉な坑か しい状態を産み出
した。テ ィナスッの中にあるよ うな無善無悪の神を用いる方が よい結果を産む
であろ う 。」 ( 1 91 7) , 「羅馬帝国の下で人 々は他人や動物に対 し今 日よ り情
け深か った。基督教は 自ら敗北を告 白して,別の宗教が代 って くれ と何故言わ
ぬのか ?」 (1 91 9) と言 って基督教の因襲 と無力を攻撃 してい る。因襲に泥ん
だ僧の心には基督は住 まず僧職が権威 とな り職業にな り,勤行儀式は形式にな
って, しか も彼が説教す るときは神に就て一切 を知 るが如 くに語 る。 この神に
祈 る人 々の信仰は 空 想 であ り.光の国は 妾 憩 の轟 である (知覚なき人々)0
教会の窓ガラスの飾 り絵を描 き乍 ら因襲にあきた若 き職人は希臓の 神 々 の 姿
を夢み る (若いガラス染め職人)。人間への泣きごとでは,世 の欺 きを超えた
所 に祈 りの対象 として人間は慈悲の座を考え出 したが,私の徳 も力 も実は人間
の 内 部 に 在 るものなのだo真実を見透す 巨 利こ射疎 め られて最早私は薄い影に
な ってゆ く。人生は人間の心情だけに依存 し,人間の心情は友愛で 強 く結 ば
れ‥ 思い遣 りある優 しい愛情 ・胸の奥か ら湧 き出る親切に輝いている。 この事
実に,明 日に も人間は直面 して幻影の救いの神な ど忘れ去 る。初めか ら救いの
神 な ど作 って くれなか った らよか ったのだ (神の井式) と神は欺 く。ハ ーデ ィ
は 「私の魂が崇め得 る 主 が見つか る迄は,書 き仕事を崇め ま しょ う‑・ ・ ・ 」 (
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1 3 1 9 0 7 ) と言 って.人間の救済を,彼の小説 に もそ うである様 に.神に求 めず我
々の自覚 と愛 と理性に求 める。併 し彼が神の信仰を否定 しなか った ことは夫人 の本 に明 らかである。唯,人間の無知を利用 した寄鼠 人生苦を忘却 させ る麻 薬的欺隔, 『教義の麻薬で痔れ さす 』 (ジ ュー ド, 6部8章)不合理 ,と中世以来 の教会宗教の固定 した因襲を彼は非難攻撃 しているのである。
宇 宙 観 「私には哲学はない‑ 唯単に ごちゃ ごちゃ した印象の堆積
‑だけを持 っている。魔術の見せ物を見て困惑 している子供が持つ印象に似た ものだ 。」 ( 1 9 2 0) , 「詩 のなかで原 因 とか 神 々 とい う言葉で纏めているの は無数の無意識的 諸 原 因 だ と思 って欲 しい・ ・ ・ 私は一度 として科学 的 で あ ろ うと試みた ことはない 。」 ( 1 9劫) ,又テスの神 々 の主 宰 者 は文学的擬人化 なので人格神 な どではない。ただ人間を苦 しめる働 らきの根源 として共通 した ものを持 っているので.イ‑スキ ラスが ゼウス神 (シェリイで ジュピタ‑)に 用いた言葉を英訳 しただけである (後半生 ,3‑5 頁) と言 ってお り.彼の宇宙 観に明確 な概念を求 めることは困難 である。彼に宇宙観はあるが,その体系は ない。従 って彼の哲学を考え,殊に. 「詩の使命は印象を記録す ることである
」 ( 1 9 1 7 ) , 「‑聯 の個人的諸印象に形 と脈絡を与えてみ よ うとしただけの も の 」 (ジ ュー ド,序文) と言 う彼の文学か ら哲学を探す ことは間違 いである。
「名辞や措辞は先人哲学者か ら借 りねはな らぬ ことがあろ うが,その理論 を借 りては 自殺行為だ 。」 ( 1 9 0 1 ) と言 う彼が, 「正確 に名づけ得ない原理」だか ら仮 りに借 りた名辞 の故に, シ ョペ ン/、ウア等を云 々して/、‑デ ィを殺 しては いけない。併 し彼がベル グソンを反駁す る根拠が人生に実在す る苦痛にある ( 後半生, 1 6 8頁) ことか らも,又 「詩人は・ ・ ・ 彼 自身の思考を表現す べ き で あ る 。」 ( 1 9 1 8 ) と言 っていることか ら見て も,彼の 言 う 「印象」 は,既 述 し た様 に.生涯を通ず る彼 自身の人生経験 と思考 とを内容に してい る の で あ っ て,彼の人生観 , 宇宙観にはそ こに展開す る一本 の筋道が通 っている筈である。
悲劇的人生印象か ら,時 ・偶 然 の観念を持ち,人生経験か ら更に根源的に悲
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劇 の主原因 として人間性の歪みを認め,更に之等に基づいて彼の想像 と思考は その様 な人間性の創造者 として, 自然 を性格付ける。それは 「万事偽 善 。 自 然 は 偽 善 者の首魁だ。子供達は完全に編 され ている。大人達 も大かれ少なか れ ‑‑ ‑」 ( 1 8 83 。参 .ジュー ド,「万象の坤 きをまだ知 らぬ小 さな多 くの声 」) か ら始 ま り, 自 然 は 自分が造 った ものの苦痛を除 き得ないか ら 「彼女を非 難か ら救 うためには彼女は盲 目で自分の行為を批判 出来ぬ とす るか,或は 自動 人形で自分の動 きを自分で調節 出来ぬ と考える他ない 。」 ( 1 9 02)とい う考え に展開す る。要す るに,人生悲惨の主原因 として,我 々の考 うべ き問題は人間 性 とその母胎の 自 然 であるとい うことに帰結す る。彼女が住む処は 「荘漠た る広大界 」 (運命 と彼女), 「空間界」 (て リうそ達)で,天 運 命 の完全な 支配下にあるか ら盲 目である (姐喪)。その器用な指先 きに愛を こめて ものを 造 るが,盲 目だか ら万象はみな庇物である (欠如 した感覚)
。移 しい坤き声が 聞えて来る様に思 うが見 ることは出来ぬ。 運 命 に地球 の様 子を尋ね るが彼に は感情が無 く歓苦 , 正邪 の何た るかを知 らぬゆえ答えて くれぬ , 彼女は一人悲 し い推測に落ち込む (運合 と彼女)
。そ こで,地上のこの有様 を 目を覚 して見て 下 さい (眠 り職人) とい う願いにな り,既述 した人生観の希望 とつなが って, 愛 の手が何時迄 も自分 自身の子を苦 しめる筈はない (欠如 した感覚) とい う希 望にな り,更に万象は私を崇めて来たが,最後に最 も精妙に造 ってや った人間 は私の欠陥をあは き,私が与えた愛の火 も鬼火だ と言 う。 今私の こめかみには 理性 と透視の知力が荒れ廻 っている,讃歌な ども う耳に入 らない. とい う母の 覚醒の苦 しみ ( 母 は欺 く)になる
.彼はその気質の故に,初糾 ま 自 然 はわ ざ と人間を苦 しめ るもの と感 じたが,やがて 自 然 に憐偶の情が動 くと考え,終 には覚醒す るもの とい う希望を持つに到 った。
宇宙創成の始めか ら存在 し,一切の事物の生起 と変化がその中で生 じる永遠 の 時 の流れのなかで.孜 々として創造 の行為 を営む 自 然 と, その行為を律 す る無感情の運 命 又は 法 が彼の宇宙観 の核心をなす二要素である
。併 し 「‑
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1 5 般原理」(1 8 81)で彼が解明 してい る法 で も, 不可知 なる神の車の神 で も, テ ィ ナスッ の 根 元 力 に も, 両概念が混在 してい る。この混 同は他の場合に も見 られ 必ず しも明確 ではないが,私は之等を次 の様 に理解 したい。
「動作大部分 自動的,反射運動等。動機 と呼ばれ るものの結果で は な く ‑
p」 (1 8 81 )・ 「人 間 の 自 動作用或は衝動作用の史劇 を書 く‑ 即・案内者 であるべ き知識 の方が行為 よ りず っと後れている人 間行為 の有様 を 。」 (1 8 82 ). 「 社交の集 り,街路,部屋或は何処で も其処に居 る人達 を屡 々夢遊病的状 態にある人間の様に見 る。 その動 きを自動人形的にや ってい る人 々‑ その動 きが何を意味す るかをは っき り知 らないでい る人 々の様1 に 。」 (1 8 86), 「ナ ポ レオ ン劇 に用い る方法。推進力 ;情感,性癖。人物達は理性の影響下に行動 しない。」 (1 892), 「亡霊的力が一人の男に働いてい るのが見え る 。 彼はそ の力の支配下に行動 してい る‑ パ セチ ックな光景‑ この強制は 。」 (1 92 2
) 。
之等の覚書 きは,既 に 自己を見ずで紹介 した様 に,又彼 の全小説で主要な 内容をな してい る,強い本能的慾嬰の支配下にある人間の状体である。 「七霊 的力」は 「ボナパ/ レトの際限な き野心 と倣燥」を云 うであろ う。 ゲ ーテが 「デ モーニ ッシュ」 と言 って讃えた偉人は,/、‑デ ィに とっては本能に操 られ る自 動人形にす ぎない。併 し,亡霊的力 と言い デ ‑モ ンと呼ぶ もの も実体は一つで あ り,人間の一切 の創造活動の根源力を言 ってい る。 この根源力は,一切の生 癌の母 として考え られた 自 然 の根源力 と同質であ り,人間本能は人間におい て現れた 自 然 の‑様態である。/、‑デ ィは, 「テ ィナスッの根 元 力 の理論 と して用いた決定論的性質は集合意志 の性質 である 。 だか ら全体の各部分には全 意志間の均衡が存在 し,各部はそれ故厳密には何等かの自由を持つ。 その自由 は事実宇宙の爾余の全意志が平衡状体にある場合常に 自由な もの として働 く o
」 ( 1 91 4) と言 ってい るがナポ レオ ンの本能が宇宙の爾余 の全意志に衝撃を与 えてその平衡を乱す のである
。彼は 「宇 宙 意 志 に動か され支配 され ‑自己の 自由を失 う 」 (1 9 07)と共に他の 「 人物達」 を もその強い野心で引 きず って 自
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動人形にす るのである。 その同質関係に基いて,人間に具わ る情知を 自 然 に 移 し彼女に情感 と愛 と意識を期待す ることは無理ではない。 自 然 に情感 を与 え愛を想定す るなら, 欠点ある人間性を創 って , やむ ことな く人生を悲惨にす る 彼女 の創造行為は無 意識の働 らき, 彼女は意識の導 き即ち 目を欠 くもの, 盲 目と 見なければな らない
。若 し盲 目でない とす るな ら.地上に惨禍 を もた らした ナ ポ レオ ンが本能 の塊偏である横 に, 自 然 は何か内在 的な 自然律 に操 られ てい る自動人形 と見なければな らぬ ことになる。次に 「 集合意志」は 自 然 でなけ ればな らぬ。万物の母 自然 とい う概念は 自然 を生命者 行為者 と見 ることで あって,生命ある行為 者に情感意欲を想定 し,且行為 者を意志者 と見 ることは 無理ではないか らである。 そ して創造的本能 の慾求は生物が共有す る ものであ るか ら, この意志は 「集合意志」 であるとい う考え方が産れ る。以上 の理解に ょると, 自 然 が人間に与えると見える人生の悲惨は実は人間本能 の仕業であ るとい うことになるであろ う。併 し,人間は本能 の欠点を意識 し,理性によっ て本能を導 くべ きことに気付 き始めてい る。人間は 自覚 しつつ ある。従 って母 なる 自然 に も将来 の自覚を期待 し得 る。だか ら彼は 「宇 宙 の 無 意 識 の意 志 が 自己に 目覚めつつあるとい う考えは私が最初だ と言 って よい と信ず る‑ 私 は全体の部分に既 に起 っていることはやがて全集団に も起 り得 るとい う考えに よ ってここに到達 した :‑全 志 意 はそれに よ って意識的にな るのである。 そ して窮塩には共感的になると希望 して よい 。」 (1 9 07 1 と言 うのである。
法 は彼が事物の原因 と呼び, 「その原因は道徳的でも不道徳的で もな く.罪 道徳的である :〃無愛無情 〃と私はそれ を呼んだ 。」 ( 1 92 0) と言 っているも ので,原因 とい う言葉で推測出来 ,又道徳的云 々で判 る様 に行為者でな くて, 意志 ではな く, 宇宙の個 々の もの夫 々の発生 , 展開.変化 消滅の因果法則, 自 然界の因果律 である。運命 と彼女 の運 命 は この意味の 法 であると言 ってよい であろ う。
以上 ,/、‑デ ィは彼 の気質か ら時 ・ 偶 然 の観念を持ち,更に田舎 と都会の生
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1 7
活経験か ら人間性 の問題を加え.人間性 を中心に して 田舎 自然 と都会文明 とを 対比 しつつ ,人生観 を展開 し・その悲劇的人生は時 ・偶 然 とい う不 可 避 な も のとは別に人 間に内在す る 自 然 即ち本能 の働 きを主因 として起 る と 考 え . しか もその不幸 のやむ ときが ない事実か ら 自 然 は不完全 な もの,盲 目又は 自 動的 と考え,彼女を宇宙意志 ,坂元力其他 の名で呼び,彼 の気質 , 性 情 は こ れ の覚醒に希望を託 し,他方彼 の合理性がその盲 目又は 自動的 の原因 として 自 然 を律す る因果律即 ち法 又は 運 命 を立 てた とい う風 に考えて よいか と思 う。
Ⅰ.暗い運命の男 ジュー ト
第 1 部 1 章は出世 コースである ク リス トミンスク大学へ 入学 を志 して,小学 校教師 ヒロ トス ンが村を出 る ところで始 まる。移転 の荷物は少 く,数人 の手伝 いの男 も動 き廻 るでな く,移転 は明る く朝 の空気 に しず もる小 さな村 の閑散 な 感 じのなかで終了す る。章末 には古い建物が無惨 に壊 され て行 く跡が,現実生 活 の厳 しい移 り変 りを示 して,小説 の地 肌を暗示す るかの様 に叙述 してある
。併 し,移転 と同様 , この変化の叙述 も静かな村の空気 を乱す ものでは ない。 こ の静かな雰 囲気 に固有名詞 の き っか りした固い感 じが耗抗 しない様 に,例えは
「11才 の幼ない子が」 とあ って暫 くして ジ ュー ドとい う名が出て来 るとい う風 に,固有名詞 の導入に も総 て用意が払われ てい る。 その中で章 の焦 点は共 同井 戸 の ところに立つ ジ ュ‑ ドに合わ され てお り, ヒワ t ‑ス ンが発 った あ との ジュ ー ドの重 い憂いを明 るい朝 の空気が包んでい る。 その ジ ュー ドを突然戸 口か ら 叱 る大伯母 の声はあた りの静か さを一層深 くす る。別れ際, ジュ‑ ドに 『動物 や鳥を可愛いが るんだ よ,それか らよ く本 を読 むんだ よ 』 と言 うヒロ トスyi 羊 サ ・/ブ ・ヒロ愛の人 と言えるであろ う
。彼は ピア /を一台買 って持 ってい る が 中途 で熱が さめてやめたのは彼 の性格 の弱 きを示 していると言え よ う
。彼は 本好 きの 5 7ユ‑ ドに野心の芽 と,か弱い ものへ の愛情 とを残 して去 った。
頂 糊欄儲 濁 嶺 項 甥 過 濁凋 詔 頂 淵 項 讃 周 ヨ 欄胡 溺 周濁 儲湖 濁周 周 凋 欄欄 遇 周 欄
潤増 感 和眉 周簡 腰 湖儲 湖 闇 肇 遷 頑 WJft頚 謂 硝 当 増 ..t T t \L
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2 章は ジュー ドの 目を ク リス トミンスクに向け る動機がテーマ に な る。 フ ィクシ ョンの合理性を一本巧みに通 して物語 を展開 し,伏線を伏せつつ作者は ず っとジュー ドか ら目を離 さない.前章の静かな村 の空気 とジュー ドの憂いは ここに も続 いて,大伯母の昔語 りは内気 な彼 の心に 「 無用 な存在」 の意識を育 ててゆ く。彼が農夫 十ラウグムに痛 めつけ られ る ときも,騒 ぎは実 った穀物の 広い畑 の中に埋 もれ て,あた りは静 ま り返 っている℃ 身体 の痛み よ り心の痛み が堪え難 く,彼 は仰向 きに寝 て,顔 にのせた麦藁帽 を透す光線を見つめ乍 ら.
自分が生物や木に寄せ る愛情 (異教的崇物に通ず る自然感情) と生活 の厳 しい 現実 (人為的社会現実) との大 きなずれ を初めて自覚 し, 「大人 にな りた くな い」 と思 う。 ほ っそ りした身体つ きだが,彼には水 を張 ったバ ケ ツを両手 に, 休 まず家 まで運ぶ スタ ミナがある。 やがて 「自然な無邪気 な少年に見 る様 に, 失意を忘れ て とび起 きる。」。彼 の心には幻の ク リス T lミンスクがある . ひ っ そ りとしず もる村 の空気 と人生 の悲 しみ のなかで彼 の心に大 きな変化が産れた のである。 それ は直ちに ク リス T lミンスクの雨は 「こん なに陰気に淋 しく降 る な ど信 じられ ない 。」 (3 章),そ こは 「農夫の恐怖 も,障碍 も,世間の噺弄 もな く‑何か停大 な ことに従事出来 る ところであろ うか 」 (同) とい う少年の 憧憶にな って彼 を惹 く。
此 の章には ジュー ドが丘 の上か ら見 おろ して 『す ご く汚 ない とこだ な /』 と 言 う穀物畑に関 して,筋 の展開 と無関係に作者が回顧 を懐か一 しむ叙述 がある .
作者は一方では昔 この畑で営 まれた 自然 な素朴な村人達 の 「生 き生 き した人間 , 生活」 を懐か しむ と同時に,他方それを現在の 「卑い し功利的な有様 」 と比べ て, これ を ジュー ドの 自覚 に結び付け,更に この小説 の社会批判 を,前章未 よ
り一層判 っき り,出 したのである。
1 6 才 の時 ジュー ドの自己矛盾が初めて表れ る。第一志 望学者第二 志 望 僧 職
で,彼 が忙 しい毎 日か ら佳かな時間を作 って ギ リシャ文学 の猛勉強 を している
或 臼,ふ と路上に坐 り東 の満月を拝 し西の夕陽を拝む。彼は この 自然崇拝 の現
1 9 れを 「思い もかけず顔 を出 した迷信」 と思い,僧職を 目指す者 の常識 と慣 習か
ら離れた と考え,今迄 の文学書を新約聖書にかえる (5 章)。又 「有難 い こと にねは りが有 り余 る程 にあ り 」 (6 章), ク リス トミンスクに行 く時は人並以 上濃い顎髭の生えて いる (2 部 1 章)その 工ネ/ レギ‑で.生 活手段 の石造建築 勉強 と大学入学勉強 に出精 して宿願 の夢酎 なる 1 9 才の夏. ア ラベ ラとの偶然 の ヽヽ 出逢いが 「新鮮な激 しい喜び 」 (7 章)で彼を満た し,強 い力で 「宿命の ジュ
‑ ド 」 (同)を惹 く. それは今迄出世 の野心のため置 き去 りに されていた情慾 が無視 され ていた期間を埋め合せ る激 しさで 自己の存在を主張 した もので, ジ ュ‑ ドに表れ る第二の 自己矛盾 である. そ して 「ほんの一時 の本能に瞬間的に 捉え られ 」 (9 章)て営む ア ラベ ラとの結婚生活は,憧憶 と野心に燃 え る彼 を
「生涯鼓 にす る民 」 (同)であ って,彼は11才の 日の 自覚 に次 で不当 な社会慣 習のひずみを身に彦み て知 る
.22 才の ジュ‑ ドを ク リス T lミンスクに誘 う 「窮極 の動機 は知 よ り情 に一層近 い関係を持つ因縁 で 」 (2 部 1 章)あ って, アJ t ,フ t /ッドス t lンの下宿か ら或 時大伯母 の家に帰 った時暖炉 の上 にあ った ス ーの写真 である。 これ は 建 築 勉 強のため同所に出てか ら結婚まで即ち結婚前精 々一年内の ことである。 そ して
「その写真はず っと彼 の心について離れ なか った 」 (同)のだか ら, これは, (1) 心 にス‑を描 き乍 らアラベ ラと関係を続 けた とすれば, ジュ ‑ ドの内面心 理 の描写が不可欠である。併 しそれがないか ら (2) 遠 き思慕は手近かな情 慾 に完敗 した,それ程彼の本能は強い とい うことになる
.「因縁」は ス‑に寄せ る 「情」 であ り l , 情 が この情慾を秘めてい るな ら,メ ‑との関係に情慾が将来 重要 な意味を持つ であろ う。 その因縁に就て 「若 い者に よ くある様 に 」 ( . 同) とだけ附け加える作 者の簡単 な肯定的 な説 明は以上 の予想を一層強めるであろ
う。
ク リス トミンスク到着 の翌 日,石造建築 の仕事が学究に劣 らず尊 い ものだ と い う 「 兵 の啓示 」 (2.2)が閃めいたが出世慾が忽 ちそれを消 して仕舞 う。
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作者は 「これは近代人の通弊である焦燥 が彼に於て表れた 」 (同) 「社会的焦 燥心で.高貴 な才能か ら出た ものでな く,文明が垂. AJ だ純粋に人為的な轟物で あった。 ‑彼に比べれば,空虚な 日々を屈託な く送 る口腹の輩 の方が好ましい 人間であった 」 (3. 1) と言 う。 ジュ‑ ドは人類奉仕を念願 し,孤独は神の 意志 と考え , 死を思 って煩悩を超絶せん とす るが . その根拠は高教派の心酔であ り,そ こには奇蹟の礼讃 と楽天観が腰を据えている (参 . 2.2)
。又孤独か ら, スーは 「彼の理想的女性 とな り,幻に様 々の白昼夢を織 って着せ る 」 (同
) 。