医師の 階層帰 属 意 識 に つ い て
一病院医師の場合一
小 野 能 文
1 序
現 代の 日本 社 会は豊か な高 度 産 業 社 会であ り, 人々 の 消 賓 生 活 水 準 も高 くなっ て い て, 高 学 歴 化も進んでい る が, その階層構造に焦 点を当てた時, か な り複雑で あっ て そ れ を科学的に精 密に と ら え分 析して行 くこ と はなかなか出 来に くい 。 しか るに, 主 婦の就 労の増 加 あるい は情 報化社会の進 展等に よ り, そ の構造が ま渉ま す複雑に なっ て来てい る。
こ の階 層 構 造に お ける階 層の上下は, 富 永 健一ら1)
の階 層 構 造の研 究 に基づ けば,所 得 要 因, 職業の社会的 地 位や威信要因, 学 歴 要 因, 財 産要因, さ ら に は生 活 様式要因, 勢力要 因 等に よ
っ て形 成さ れ て来る と考え ら れ る。
この よ う な要 因 (地位変数)は そ れ ぞ れ重 要であ り互 い に関連 してい る面も少な く ない が,
筆者は職業, 特に医師の職業生 活と意識につ い て研究し てい るの で, 本論で は医師職とこ の よ うな地 位変数や階 層構造 との 関 係に焦点を当て て論じて行き たい。
医 師は,比 較 的 古 くか ら専 門職 (プロ フ ェ ッ シ ョ ン )としての 地 位 を確 立し て来た職 業で あ り, 高 度な水 準の専 門 的 ・技術 的な仕 事 を行な う た め, 職業の社会 的地位や威信, 職 業 収入の 水 準, な らびに学 歴 水 準が高い の で, 現 代の 日本 社 会の医 師の所 属 する階 層は比 較 的 高い と考 え ら れ る。
医師は, 現代の 日本社会に おい て そ の数が急 速に増え て来て お り, 現在推計で は約18万 人で あり,人口10万 人に対し150人 以上 になっ て来て い る2)。 需 要に対 応して増 設さ れて来 た 医 師 養 成のた めの医科大学 ・医学部は, 昭 和56年に一県に つ き一医科大 学が実 現してい るの で, 今後 も医 師は毎 年 増え続 け, 厚 生 省の予 測で は, 昭和60年 代の前 半には20万 人 を突 破 する も の と予 想さ れ てい る。 その結 果, 医師の過剰, 特に都市 部で の医 師の過 剰が懸念さ れ る よ うになっ て 来て い る。 従っ て, 今 後は, 高 水 準にある医 師の収 入の相対的低 下 も起 こっ て来る も の と予 想
さ れ, そ の社会的地位も変化し てい く も の と考え ら れ る。
それで,現 在,医 師は 自分が どの よ うな 階 層に属 してい る と思っ て いるか とい う問題, つ ま り階層帰属意識は どの よ う で あっ て, そ れ が どの よ う な要因によっ て規定さ れてい る か とい う
ことが社 会 学 的に興 味があり重 要な問 題である。
筆者 昭 和 年 秋 医師 階 層 帰 属 意 識 を実 証 的 え 社会学的 質 問紙調査を行っ た。 調査研究の主な ね らい は, 現代日本社会の 医師の 階層帰属意識を明 らか に し, その階 層 帰 属 意 識 を規 定 する主 な 要 因 を実 証 的に解 明 する こ と で ある。
医師の うち病院医師 (病 院 勤務医と病院開設医)を対象と し た が, その選択理 由は, 医学の 発 達や医療の高度化に伴っ て病 院 勤 務医師を中心に病院医師が ど ん ど ん増加し て来て, 最近で
は診療所開業医師よ りも数が多く なり今後も増加して行 くこと が予想さ れ, その重要 性が ます ます 増 大し てい る か らである。それにもか かわらず 病 院 医 師の社 会 学 的 な調 査 研究が ほ と ん ど 行 わ れてい ない か らで も ある。
様々 な職業の全国の成人 を 対象とする階層帰属意識 調 査は, SSM (社会階 層と社会移 動 )調 査 を 始め として し ぼ し ば行 な わ れて来てい るが, 医 師を対 象とする階 層 帰 属 意識調 査は ほ と ん
ど行わ れて お らず, 特に, 前回 昭 和53年の夏に筆 者が行っ た調 査が嚆 矢である とい える3〕。 昭 和 56年の調 査は, そ の昭 和53年の調 査が比 較 的 小 規模 (317人対象 )で主に都市部の病院の医師が 対象で あっ たの で, 大規模に発展させ, よ り精密に し ようと し た もの で, 都市圏の中心か ら遠
く離れ た町村部の病院の医師も含む1,088人の病院医師を対象と し た もの で あ り,
一県一 医 科 大 学が実 現し た年の秋に行っ た もの である4)。
調査研究にお け る仮説は, 1.医師が帰属意識を持つ 階層は, 医師職の社会的 地 位が高 く5),
収 入の水 準 や 学 歴 水 準 も高いの で, 比 較 的高い。2.医 師の階層帰属意識を規定す る要因の う
ち で最も規定力の 大き な要 因は, 調査対 象が医 師 職の人だ けで, 医 師の学 歴は ほ と ん どすべ て
が 高 等 教 育 学 歴で あり, 財 産 要 因に関し て は今回調 査 してい ない の で, 収入 の額 (所 得 )であ る。 3.下の階層に帰属 意識を持つ 医師は非常に少ない 。
本 稿は,こ の調 査 研 究の結 果とその分 析につ い て論じて行 くが, ことに医 師の階層 帰 属 意識
を規定す る諸要因の規定力の大 小を数量化理論第II類によっ て解析し て, 仮 説を検証し て行こ うと思 う。
2 階層帰属 意 識 調 査の 概 要
(1> 調 査 対 象
調 査対象は兵庫 県内の一般 病院の常勤医師1,088人 で あ る。 1,088の標本抽出につ い ては, 次
の よ う に行っ た。
まず, 兵庫県内の, 医育機関 附属病院や会社附 属病院を除く一般病院の中か ら, 規模お よ び 経営形態の点で層別に抽出し100の病院を選ん だ。
す な わ ち,規 模の点で, 20床 以上100の床未満の病 院 を54病 院, 100床 以上40 床 未 満の病 院 を
37病院, お よび400床以上の病院を 9病 院選ん だ。 昭 和55年末の全 国の一般 病院に おい て は, 病 院の数は多い が 一病 院 当り常 勤 医 師 数の少ない 20床 以上 100床 未 満の病 院に常勤 医師の16 .3%,
100床 以上400床未満の病院に35.6%, そ し て400床以 上 の病院に48.1%が働い てい る の で6), こ
一 90 一
小 野 :医師の階層帰属 意識につ い て の ように選ん だ。
経 営 形 態の点で は,全 国の一般 病 院に お い て
,国立病 院が5 ,5%,都 道府県市町村立病院が12.5
%, 日赤と済生会病院が2.1%, 社会保険関係団体の病 院が1.7%, 公 益 法 人の病 院が3.6%,医 療法人 の病院が29.5%, そ の他の法 人の病 院が2 .9%, 個 人 病 院が38 .7%およびその他が3 .5%
で あるの で, 国 立4病 院,県 ・市 町立15病 院, 日赤 と済 生 会4病 院, 社会保 険関係 団体1病 院, 公益法 人 2病院, 医療法人病院23病院, その他の 法人 2病院, お よび個 入 病 院49病院を選
ん だη。
以上 の ように して 選ん だ100の病院の常勤医師の全 員1,088人 を調 査対象と し た。
調 査 方 法
調査 方 法は郵送 法であっ て, 社 会 全 体の中で 「上の上」,
「上の下」,
「中の上」,
「中の 中」,
「中 の下」,
「下」 とい う6つ の 階 層の ど の階 層に属してい る と思う か, とい う質問を始め, 月収の 額, 診 療 科 目, 年 齢 層, 職 階 あるい は博士号の有無, さ ら に は当直実態等に関する27の質問項
目か ら な る調 査 票を,兵庫県 内の一般 病 院の常 勤 医 師1,088人に郵 送 し,返 信 用 封 筒で回 収 し た。 (3)調 査期間
調 査は, 昭和56年 (1981年 )10月22日か ら11月 4EI まで の期 間に行っ た。
(4) 回 答率 ・回収率 ’
回 答率 (回収数)は497で あっ た。 1,088の調 査 票を病 院の住 所宛で郵 送 し た が, 宛名人 医師
の退 職 などで返 送さ れ て来た ものが49票あ り, す ぐ再発送 し た調 査 票が13票 あり, 差 引き36票 が減 少し たこ と になり, 実 質1,052票 送っ たこ とにな り,実 質 回 収率は47.24%であっ た。
なお,記 入 もれ な どの無効票が 7票あっ たので, 集 計 と解 析には490票 を用い た。
ここ で回答者の代表性を検討し た。 すな わ ち, 20床 以 上100床 未 満の 病 院の医 師に調査 票の 15.1% (159票 )配っ て ,回 収 数全体の13.1%回収で き, 100床以 上400床未満の病院の医師に42.0
% (442票 )配っ て, 回収数全体の49 .8%回収で き, ま た400床 以上 の病院の 医師に42 .9% (451
票)配っ て, 回収数 全 体の37.1% 回 収で き た。 し た が っ て, 回答者は配 票し た調査対象の医師 をほ ぼ 正確に代表し てい る とい え る。
回答し た医師の属 性
医 師 経 験 年 数の点で は, 経験年数が10年 以 上20年 未 満の医 師が一番 多 く,31.2% を 占め,二 番 目に多い の は20年 以上30年 未 満の医 師で, 19 .4%で あ り, 三番 目は30年以 上の医師で , 15,7
%, 四 番 目は 7年 以上10年 未 満の医師で13.3%である。
一番少ない の は 3年未満の医師であ り,
その比率は8.4%であっ た。 従っ て, 経 験 年 数の長い人 も短い人 もバ ラ ン ス よ く含 まれて いる と 考 え られ る。
次に, 診療科目の点で は, 内科 ・循環 器内科 ・ 消 化 器 科が一番多く, 27 .9%, 二番 目に多い 科が外 科 ・脳 外 科 ・心 臓 外 科の26.5%, 三番 目は小 児 科の9,4%, 四番 目は産 婦 人 科の9 .2%,
五番目は整 形外科 ・形 成 外 科の7,6%,六 番 目は皮 膚 科 ・泌 尿 器 科の5,1%であっ た。
一番少な
い 科は放 射 線 科の2 、4%で あっ た。
こ の よ う な構成比率は, 全国の病院医師の診療科目別構成比率8), 内科 ・循環 器内科 ・消化器 科 約33%, 外 科 ・脳 外 科 ・ 心 臓 外 科 約21%,小 児 科 約 8 %,産 婦 人 科 約 8%,整 形 外 科 ・形 成 外 科 約 8%, 皮膚科 ・泌 尿 器 科 約 6%, 放射 線 科約 2%にほ ぼ対 応 して い る。
勤 務 病院の規模の点で は, 20床 以 上100床未満の病院が13.1%, 100床以 上400床未満の病院が 49 .8%, お よび400床以上 の病院が37 .1%で, 此の結 果か ら中規模病院で働く医師が一番 多い と
いえ る。
これ を全 国の一般 病院の常 勤 医 師の病 院 規 模 別 構 成 比 率9}と比べ る と, 20床以 上100床未満の 病 院の医 師は, 全 国 平 均の16 .3%よ りや や少な く, 100床 以上400床 未 満の病 院の医 師は, 全 国 平 均の35.6%よ り多 く, 400床 以 上の病 院の医師は全国平 均の48 ,1%より も少ない が,此れ は全 国平均の場合に は医育機関 附 属 病 院が含ま れ,その附属病院には400床 以 上の病 院が多い た め に 此のよ う な結果が出 たの である。
職階の点で は,
一般 職の医師が一番多く, 33.4%, 二 番 目に多い のが管 理 職 (院 長 ・病 院 開 設 者 以 外 )の 医 師の 28 .4%であり,三番 目に は中 間 管 理 職 (管 理 ・幹 部 会 議で の議 決 権のない 管理職)の25.7%,
一番少ない の が院 長 ・病院開 設者で, 12 ,5%である。 ただしこ の 中の病 院 開 設 者は全 員 医師で あ る。
年齢層の点で は,
一番多い年齢層が30歳以 上35歳未満の19 ,4%であ り, 二 番目に多い の は35 歳 以 上40歳 未 満の14.5%, 三 番 目は40歳 以 上45歳 未 満の14.3%で,
一番少ない の が70歳以 上の
1.2%であっ た。
20代の医 師は12 .4%,30代の医 師は34,0%,40代の医 師は25,3%, 50代の医師は22.O%そ し
て60歳 以上の医 師が6 .3%で ある。
平 均 年齢につ い て は約42.6歳と な り, 全 国の病院医師 (医育機関附属病 院除く)の平均年 齢
の約43 .3歳 (昭 和56年末)’ °1に対 し て, 大体同程度の年 齢構成である こ と が わかっ た。
以上が 回答し た病院医師の属性で あ り, 偏 りの ほ と ん ど見 ら れ ない サ ンプル で ある。
3 階 層 帰属 意識 調査の結果と その分析
医師は, 社会階層と社会移動 (SSM ) 全 国 調 査で, 職業威信が上位 (82の職業中第 4位>10
に ラン ク されてい て非常に高く, 収入の点で もトッ プレ ベ ル にあ り、12) 学 歴 水準の点では、 ほ と ん ど全員が高等 教 育 学 歴 なの で他の職業に比べ 最 も高く、生活水準の点で も大変高い ので、 医師が帰属 意 識を持つ 階 層の水 準は、全 般 的に高い もの と推定さ れ る が、前回の意 識 調 査で は、
「上 」の階 層に帰 属 意 識 を持つ 病 院 医 師は10 .3%、「中 」の階 層の帰 属意識 を持つ 医師は89.2
%、「下」の階層に帰属意識 を 持つ 医師はO.5%であ り、「中の上」の階 層に帰 属 意 識 を持つ 医 師
ぷ60.3%と最も多く、 水準と し て は高か っ た。 13)
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