在留外国人との地域交流の可能性について
―図書館での子どもへの多言語読み聞かせの実践を通して―
浜 口 美由紀
Creating a Good Relationship with Local Foreign Residents
― Reading Multilingual Picture Books to Children through Library Programs ― Miyuki HAMAGUCHI
要 旨
日本人の子どもたちを対象とした外国人を読み手とする絵本を使った多言語での読み聞かせの 活動を図書館で実践してきた。この活動は、図書館の児童サービスの一環でもあるが、特に図書 館での多文化サービスに重点を置いて活動してきた。筆者が 6 年間取り組んできた多言語絵本の 読み聞かせの活動「世界の国からこんにちは」と題して行い、その実践報告を行う。その前にま ず全国の公共図書館の多文化サービスの実態調査報告書から見た日本の公共図書館での多言語お はなし会の調査結果を紹介する。そして、「世界の国からこんにちは」は様々な国の読み手を得 て、33言語での読み聞かせを行った。この活動の中では子どもたちが未知の言語への興味や参加 していた大人たちも異文化への関心を持つなど日本人の反応に変化が見られた。最後に、この活 動を通して地域に居住する多様な文化や言語を背景に持った人々と共に活動できる場所としての 図書館の可能性について考察する。
キーワード:多文化サービス 図書館 多言語読み聞かせ 在留外国人 多言語
1.はじめに
訪日外国人観光客の増加に伴い国内の有名観光地は様々な言語の日本ガイドを手にした観光客 が数多く訪問しており、絶景が望める交通不便な場所であっても日本旅のリピーターと思われる 外国人観光客が訪れる様子がテレビやネットで頻繁に取り上げられており、国内の様々な地域で 外国人旅行者を目にする機会が増えている。長崎においても大型客船の寄港1)回数は、2018年は 220回を数え市内観光地や繁華街で外国人観光客がいる風景は日常となっている。また、コンビ ニや外食チェーンなどでは外国人スタッフが働き、私たちの生活には欠かせない人材となってい る。さらに、2019年 4 月改正の「出入国管理及び難民認定法」により日本は本格的な外国人労働 者受入のスタートを切ったと言えよう。現在、在留外国人は約273万人2)(2018年12月末現在)
となり統計の上でも多くの外国人と隣り合わせに暮らしていることがわかる。
2 .公立図書館における多言語おはなし会の概要
筆者が所属する日本図書館協会多文化サービス委員会では、「民族的、言語的、文化的少数者
(マイノリティ)の文化や言語の面から図書館利用に障害のある人たちÜに対して知る自由、
読む権利、学ぶ権利を資料・情報の提供によって保障していくための図書館活動である多文化社 会図書館サービス(多文化サービス)を進めていくため」3)調査、出版、講演などの様々な活動 を行っている。図書館のあるべきサービスの1つとして多文化サービスの広報や啓発活動も行っ ている。
2015年に多文化サービス委員会は、全国の公立図書館および大学・短期大学・高等専門学校を 対象に 3 回目となる「多文化サービス実態調査」を実施し、その調査内容を『多文化サービス実 態調査2015報告書』4)(以下「実態調査2015」と記す)を2017年 3 月に出版した。日本図書館協 会は毎年刊行の図書館統計である『日本の図書館 統計と名簿』5)の付帯調査として1988年・
1998年の 2 回にわたり多文化サービス実態調査を実施しており、 3 回目の『実態調査2015』は17 年ぶりの全国調査であった。1988年の第 1 回調査から約30年近く経過している。今回の調査では、
以前の調査と比べて日本の図書館における多文化サービスが変わってきたのか、新しい多文化 サービスの動きが見られるのか、多文化サービスの課題は何かなどを中心にアンケートを実施し た。同調査は、「公立図書館の多文化サービス」と「留学生等への図書館サービス」の 2 つの調 査報告を 1 冊にまとめている。公立図書館から1,182館回収、大学・短期大学・高等専門学校の 図書館から956館回収。
公立図書館の多文化サービス調査報告で、外国人を対象とした事業の中におはなし会も含めた 事業を問う次の設問が設定されている。
『多文化サービス実態調査2015報告書』より6)
この設問に、おはなし会を図書館が主催し図書館内で実施している図書館は、回答した312館 中118館で、図書館主催ではないが図書館内で実施しているものを含めると167館であった。図書 館外で他と共催、図書館外で図書館は関係していないを含めた合計は213館であった(表 1 )。
(4)外国人のための事業内容と実施方法
第 2 部 問6-2 外国人のための日本語教室、外国語によるおはなし会などをおこなってい る場合、実施している事業と実施方法についてお答えください。 (複数回答可)
実施している事業
a)おはなし会 b)日本語教室 c)その他の催し(具体的に)
実施方法
ア)図書館内実施(図書館主催) イ)図書館内実施(図書館と他の共催)
ウ)図書館内実施(図書館は会場提供のみ)エ)図書館外実施(図書館主催)
オ)図書館外実施(図書館と他の共催) カ)図書館外実施(図書館は関係していない)
外国語によるおはなし会の実施頻度、読み手の言語、おはなし会対象者などを問う設定をして いないので詳細は分からない。催しの内容について「その他の催し」に具体的な回答が63館から あり、その中には多言語での読み聞かせについての記述があり次に紹介する。
ア)図書館内実施(図書館主催)4 件
・読み聞かせ(外国語絵本の読み聞かせ、手遊び、おはなし会、ALT(外国語指導助手)
による読み聞かせなど)
・外国語通訳付きブックスタート
・出張おはなし会等
・日本人向けの「英語のおはなし会」や「英語カフェ」を実施(外国人の参加も可能)
イ)図書館内実施(図書館と他の共催)3 件
・市国際交流協会と共催で「世界の絵本を楽しもう!」を開催し、母語での読み聞かせ、絵 本の紹介などを行っている
・えいごでたのしむおはなし会
・誰でも参加できる、外国の遊びと体験と外国語と日本語で聞くおはなし会
ウ)図書館内で実施(図書館は会場提供のみ)2 件
・「おやこでにほんご」子育て中の外国人女性のための交流の場
・高校生による英語絵本のおはなし会
エ)図書館外で実施(図書館主催)1 件
・外国語通訳付きブックスタート
オ)図書館外で実施(図書館と他との共催)1 件
・区内の絵本フェスタで、多言語での読み聞かせ
表 1 外国人に対するおはなし会実施状況 (単位:館)
実施方法
ア)図書館内実施(図書館主催) 118 イ)図書館内実施(図書館と他の共催) 38 ウ)図書館内実施(図書館は会場提供のみ) 11 エ)図書館外実施(図書館主催) 12 オ)図書館外実施(図書館と他の共催) 9 カ)図書館外実施(図書館は関係していない) 25 合計 213
カ)図書館外で実施(図書館は関係していない)2 件
・英語おはなし会、絵本の読み聞かせ(資料の選定・提供などに図書館が協力)
・小学校で英語を交えたおはなし会を実施
多言語によるおはなし会は、図書館内で開催している図書館主催と図書館主催ではないが他と の共催の 2 つの合計は168館であり、回答した公共図書館1,182館全体の14%であった。多言語の おはなし会は公共図書館では一般的なサービスとしては充分に普及していないことがデータから 伝わってくる。一方で実施している168館ではどのような取り組みを行っているのか詳細な実施 内容を知りたいところである。
「その他の催し」の記述を見ると、多言語おはなし会は ALT(外国語指導助手)7)の協力や
「英語」のおはなし会は多く見られる。ALT は英語圏出身が多く、この時のおはなし会も英語 だったと思われる。その他の外国語は記載されていないが、全体的に英語を中心とした外国語の 印象が強い。子どもを対象としていない催しや外国人の参加も可能とする日本人を主な対象とし ていると思われる催しもある。
なお、本稿では「読み聞かせ」と「おはなし会」の 2 つの用語を使用しているが、図書館で開 催されている「おはなし会」は「読み聞かせ」も含まれており、ほぼ同じ内容として記している。
3 .多言語読み聞かせ「世界の国からこんにちは」の実践記録
筆者は、日本人の子どもたちを対象とした外国人を読み手とする絵本の多言語読み聞かせを 2012年に開始し2018年までの 6 年間活動に関わってきた。ここではその実践について報告する。
この多言語絵本の読み聞かせは公民館図書室の児童コーナーで行い、現在も継続して開催されて いる。この活動は地域の読み聞かせボランティアグループとの協働で行ってきた。
3 . 1取り組みの背景
勤務していた国際交流基金関西国際センター8)は、海外の日本語学習者を支援する国際交流基 金の日本語研修施設として1997年 5 月、大阪府泉南郡田尻町に設立された。海外の様々な国の外 交官、公務員、日本語資料を取り扱う司書や日本研究を行う研究者などを日本に招へいし、研修 後の職務や研究に役立つ専門日本語研修を行っている。また、海外の日本語学習者(高校生・大 学生など)を奨励する訪日研修も実施している。年間約500名の外国人研修参加者を受け入れ、
同敷地内の日本語教育機関、図書館、宿泊棟が一体となった施設が整備されており、彼らはそこ に滞在している。
筆者が「世界の国からこんにちは」の活動を始めたきっかけは、目の前に多様な文化背景を 持った人々がいる環境を活用して、日本の子どもたちに彼らの文化や言語に触れる機会を、子ど もたちが日常的に利用している図書館の場で作れないかと考えたからである。そして、子どもた ちが親しんでいる絵本を使って伝えられないかと思い、企画を考えたのが2011年であった。もう 1 つの理由は、日本の子どもたちに海外には英語以外にもたくさんの外国語があり、世界には子
どもたちが聞いたことがない言語を話す人々がいることを幼い頃から知る機会を作りたいと考え ていた。
読み手として協力してくれた人は、母国での業務に日本語を必要とする職業に就いている外交 官、公務員、図書館司書や日本の人文・社会科学に関する研究課題を持つ大学院生や研究者達で、
その中には家族を残して日本語研修に参加している人もいる。彼らの中には日本人の子どもたち と触れ合いたいと希望する人も多くいた。そして、長期滞在の研修という点を生かして、授業の ない土曜日に読み手として参加してもらった。この企画は、大阪府泉南郡田尻町を中心として20 年以上活躍しているボランティアのおはなし会「はっぴぃぶっく」と協力して、準備から当日の 企画、そして運営を行った。本来は公共図書館での開催を強く望んでいたが、人口約 9 千人の田 尻町(2019.9現在)にはまだ町立図書館が設置されておらず、公民館図書館室がその役割を担っ ており、地域住民に一番身近な公民館図書室でおはなし会を実施した。
2012年10月20日(土)に「世界の国からこんにちは」と題して第 1 回目の多言語読み聞かせ「世 界の国からこんにちは」を開始した。2018年 2 月まで合計15回で68名の外国人が読み手として参 加、出身国は44ヶ国、使用した言語は約33言語であった。
3 . 2 先行調査について
実施前には、公共図書館で開かれていた多言語おはなし会などにも参加し、おはなし会の進行、
絵本の選択、読み手について、参加した子どもの反応などを見学することができた。その際、図 書館やボランティアグループによっても開催方法や進行など独自のやり方で行っていることが分 かった。例えば、子どもたちの目の前に外国語絵本を並べて、子どもたちに気に入った絵本を選 ばせてそれを外国人の読み手の人が、子どもと向かいあって読んであげているおはなし会もあっ た。長年東京の区立図書館で多言語おはなし会を主催している「多言語絵本の会 RAINBOW」9) 代表の経験談や活動記録10)などが参考になった。
一方、2011年、2012年当時関西地域で外国人による絵本の読み聞かせを行っている図書館は少 なく、また定期的に開催している図書館もわずかであり、見学先の図書館を探すのが難しい状況 であった。
そして問題点として挙げたのはまず、「世界の国からこんにちは」を実施する時に、読み手の 外国人の母語は多種類と予測されたので、全ての言語に対応した絵本を国内で揃えることは不可 能であった。次に、NPO 法人が主催する多言語おはなし会に参加した時、母語で書かれた絵本 や出身国の昔話を外国人が読み聞かせてくれた。その時に長い物語の絵本はお話しの展開や登場 人物の行動などが理解しにくく、途中で日本語の説明が入るとおはなしのリズムが保てないと感 じ、そのような読み聞かせ方は子どもたちには難しいと思った。そして、図書館や NPO のおは なし会に参加した経験を通して、外国人にも絵やテーマが分かりやすい日本語の赤ちゃん絵本を 中心として紙芝居も入れて利用する方針を立てた。
3 . 3 読み手である外国人参加者について
読み手の外国人は、 2 つの日本語研修コースの参加者を対象にしており、 1 つは大学院生・研
究者コースで、すでに日本語を学習しており来日時には日常会話に困らないレベルの日本語が話 せる人が多い。 2 つ目は外交官・公務員コースで、多くは日本語学習経験がなく毎年 9 月の来日 後に日本語学習を始めてから 6 〜 7 ヶ月の学習期間を経ると日本語を話すことが楽しくなり、そ の時期に多言語読み聞かせへの参加を依頼した。各コース毎に出身国と言語が異なる人を各 4 〜 5 名ずつ募集した。
65名の読み手の中には、出身国の公用語の他に家族間で話す地域言語を持つ人も多く、 1 人で 3 〜 4 言語話すアフリカやアジアの国々の人がいたが、この会では 1 人 1 言語での使用をお願い した。フランス語、スペイン語、中国語などを話す人も多いが彼らの出身の地域や国が異なると、
同じ言語でありながら単語の意味、アクセントなどが変わってくる(表 2 )。年齢も20〜40代ま で幅広く、独身者も多いが子どもを持つ父親や母親である人もいた。日本語という難易度の高い 言語を取得するプレッシャーを感じている人も少なくなく、日本語の授業を離れて日本人の子ど もと接することを楽しみにしている人が多かった。
出身国の図書館で働いている司書の参加もあり、絵本の読み聞かせに慣れており、子どもを絵 本に引き付ける読み方や手遊びなどで子どもを集中させる方法が際立って上手かった。
日本でも有名なウクライナ民話の絵本『てぶくろ』(エウゲーニー・M・ラチョフ絵、内田莉 莎子訳、福音館書店)をロシア語で読んでくれた人は、最後に日本の絵本とロシアの絵本は結末 が異なると話すと、参加していた保護者達から大きな驚きの声が上がった。
次に参加者の内訳を記載する。出身国や言語が多様であることが分かる。
表 2 44ヶ国の出身国と33言語の内訳(地域別)
アジア地域 インドネシア(インドネシア語)、カンボジア(クメール語)、韓国(韓国語)、
タイ(タイ語)、台湾(中国語)、中国(中国語)、ネパール(ネパール語)、
ブータン(ゾンカ語)、ベトナム(ベトナム語)、モルディブ(ディベヒ語)、
モンゴル(モンゴル語)、ラオス(ラオ語)
北米・中南米 ガイアナ(英語)、カナダ(英語)、キューバ(スペイン語)、パナマ(スペイ ン語)、ブラジル(ポルトガル語)、ホンジュラス(スペイン語)、メキシコ
(スペイン語)
大洋州 ソロモン(ピジン語)
ヨーロッパ アゼルバイジャン(アゼルバイジャン語)、アルメニア(アルメニア語)、イギ リス(英語)、イタリア(イタリア語)、グルジア(グルジア語:当時)、スペ イン(スペイン語)、ドイツ(ドイツ語)、ハンガリー(ハンガリー語)、フラ ンス(フランス語)、ロシア(ロシア語)
中東 イエメン(アラビア語)、イラン(ペルシア語)、トルコ(トルコ語)
アフリカ エチオピア(アムハラ語)、ギニア(フランス語)、コートジボワール(フラン ス語)、ジンバブエ(ショナ語)、トーゴ(フランス語)、ブルキナファソ(フ ランス語)、ブルンジ(キルンジ語)、ベナン(デンディ語)、南スーダン(マ リ語)、モザンビーク(ポルトガル語)、モーリタニア(アラビア語)
3 . 4 「世界の国からこんにちは」の準備
読み手決定後に読み聞かせの練習を行うが、彼らは参加意思を表明したものの、母語を使用し ての日本人の子どものための読み聞かせの経験がないので、誰に、何を、何語で、どうやって行 うのか大変戸惑いの表情を見せることが多かった。多言語読み聞かせの主旨を日本語でゆっくり 分かりやすく説明を行うが、理解してもらうことが難しい場合もあった。しかし、 3 回目以降は 第 1 回、第 2 回の読み聞かせをスマホで撮影した動画を見せて、日本語の絵本を使ってページの 絵に対応して母語で読むとそれを日本人の子どもが楽しそうに反応をしている様子が映っており、
彼らは動画を見てこの会の趣旨と絵本を使っての母語での読み聞かせをすることが理解できた。
準備の日は、おはなし会(土曜日)の 2 〜 3 日前に筆者の勤務していた図書館事務室に集まり、
約 1 時間かけて説明と練習を行った。絵本はボランティアの人が、読み手人数の 2 〜 3 倍の冊数 の絵本を公共図書館から借りてきた。読み手は、たくさんある絵本の中から読みたい絵本を 1 冊 選んだ。数冊の英語の絵本も入っていたが、公共図書館所蔵の英語絵本が少ないため選択の幅が 狭く、また英語を母語としない読み手が多かったので英語絵本を選択する人も少なくなり、やが て使用されなくなった。
ボランティアの人は、絵本の持ち方、ページのめくり方、絵本の見せ方を示して、声を出して 読む練習を行った。また、会の構成によって、全員で同じ絵本を読むことがあるので、一緒に掛 け合いの部分を各言語で大きな声で言う練習を行った。そして、外国人の顔触れや彼らの持ち味 を参考にして、選択した絵本の内容から読み聞かせ会の構成を組み立てて、おはなしの順番を決 めていった。
3 . 5 おはなし会で使用した絵本
紙芝居を 3 回導入し、絵本と紙芝居と合わせて57冊使用した。短くてストーリーや内容が分か りやすい赤ちゃん絵本を中心に使用した。絵本は数字、動物、生き物、果物、色、形などが展開 している内容を選んだ。くり返しの言葉が多い絵本は、ページをめくるたびに同じ言葉が何度も 出てくるので絵本を読み終わった時、その言語が子どもたちの耳に残り、口ずさむ子どもたちが
準備風景 絵本を選ぶ 準備風景 絵本の持ち方の練習
いた。同じ絵本が選ばれることも多く、別々の回で読み手が異なる言語で読むと子どもたちは毎 回喜び大好評であった。
また、全員で 1 冊の絵本『おおきなかぶ』の有名なフレーズ「うんとこしょ、どっこいしょ」
の部分を各言語に置き換えて交代で掛け合いも行った。同じ絵本を 1 ページずつ日本語を先に読 み、続けて外国語を読むということを繰り返し、言葉の面白さを子どもたちは交互に楽しんでい た。絵本に出てくる動物や食べ物について、読み手の出身国に存在しない栗や梨、たぬきなどが 登場すると、その場合は該当する単語がないと言うと子どもたちは驚き、その反応を見た読み手 も驚くといった双方に楽しむ場面も多く見られた。
次は使用した絵本のリストの一部である。 6 年間で合計38冊使用した。そのうち 1 回のみの絵 本のリストは割愛し、 2 回以上使用したものを紹介する(表 3 )。
表 4 は、 1 冊の絵本を使って読み手達の母語で一緒に掛け合いに使った絵本のリストである。
種 類 タイトル 著 者 出版社 回数
絵 本 きんぎょがにげた 五味太郎 福音館書店 7
絵 本 おおきいちいさい 元永定正 福音館書店 6
絵 本 ぴょーん まつおかたつひで ポプラ社 6
絵 本 おつきさまこんばんは 林明子 福音館書店 5
絵 本 くだもの 平山和子 福音館書店 5
紙芝居 おおきくおおきくおおきく
なあれ まついのりこ ポプラ社 4
絵 本 とってください 福知伸夫 福音館書店 3
絵 本 ねこがいっぱい グレース・スカール 福音館書店 3
絵 本 10パンダ 岩合日出子 福音館書店 2
絵 本 いぬがいっぱい グレース・スカール 福音館書店 2
絵 本 いるいるだあれ 岩合日出子 福音館書店 2
絵 本 かおかおどんなかお 柳原良平 こぐま社 2
絵 本 かんぱーい 山岡ひかるアリス館 2
絵 本 でてこいでてこい 林明子 福音館書店 2
絵 本 なにのこどもかな やぶうちまさゆき 福音館書店 2
絵 本 ぶーぶーぶー こかぜさち 福音館書店 2
表 3 2 回以上使用した絵本・紙芝居のリスト
『うしはどこでも「モ〜!」』は、犬や鶏などの動物の鳴き声が国によって異なり、擬音語を交 えて書かれた絵本である。動物の鳴き声を子どもの目の前にいる読み手達が様々な鳴き声で紹介 するので、子どもと大人の反響の大きかった本であった。
3 . 6 「世界の国からこんにちは」の構成
土曜日の午前11:00〜11:30をおはなし会の時間として、田尻町公民館図書館室 4 階の児童 コーナーを会場として設定。広報方法は、田尻町の広報誌に掲載、田尻町公民館、保育所などの 子ども関連施設にボランティア作成の案内ポスターを提示した。「はっぴぃぶっく」のボラン ティアメンバーの口コミの広報活動の影響も大きかった。
会場で配布するチラシは、ボランティアが作成し、読み手の外国人の名前、出身国、あいさつ の言葉と紹介する絵本のタイトルを掲載した。外国人は子ども用椅子に座って子どもたちと向か い合い、国と名前が大きく書かれた名札を付ける。
まず導入として、 1 人ずつ日本語で簡単に名前と国の自己紹介をした後で、日本語の世界地図 を広げて出身国の位置を示して日本から出身国までの飛行時間を話した。
タイトル 著 者 出版社
おおきなかぶ A. トルストイ再話 福音館書店 うしはどこでも「モ〜!」 エレン・スラスキー・
ワインスティーン すずき出版 What color ? Katumi Komagata 偕成社 表 4 全員で参加した絵本のリスト
世界地図を広げて 私の国はここです
次に「こんにちは」とホワイトボードに母 語で書き、書き順と文字を見せてから、それ を読み、次に子どもたちと一緒に声に出して 読む。すると、読み手も子どもたちも一気に 緊張がほぐれてくる。ホワイトボードに書い た文字を見せることは、最初は行っていな かったが、数回目から取り入れるようになっ た。文字の持つ力や書き方なども各国の文化 を反映しているので、アクセント記号の多い 文字、文字に見えない文字、右から左に書く アラビア文字などどの文字も子どもや大人に も関心が高く好評であった。
その後で進行役のボランティアがおはなしのローソクに火をつけると、児童コーナーが一瞬に して楽しい雰囲気に変わり、読み手も子どもたちも一緒に変化を楽しんでいた。 1 回目、 2 回目 では、ボランティアが冒頭に日本語でストーリーテリングを入れていたが、 3 回目から導入は読 み手の紹介に変わっていった。
多言語絵本の読み聞かせの間に各国の言葉遊びや歌やダンスなどを取り入れて構成した。各国 の言葉遊びや歌は、読み手の中に希望者がいる時に取り入れているため、毎回異なる構成となっ た。
ネパール語でこんちには
おはなしのろうそくを 誕生月の子どもが吹き消す
インドネシア語で読み聞かせ
最後は、「さようなら」を 各言語で紹介して、子どもた ちと一緒のそれぞれのことば で「さようなら」と言って読 み聞かせの会を終わるという 流れであった。
研修参加者の滞在時期に合 わせた活動であるため、秋と 冬と春の年 2 〜 3 回ほどの開 催となった。
キルンジ語で読み聞かせ 一緒に手遊び歌を歌う
当日配布のチラシの一例
3 . 7 参加者や読み手の反応
参加者や読み手の外国人たちの感想や反応などを紹介する。
【口コミの影響】
1回目は、地域の子どもや保護者に馴染みのない多言語読み聞かせの内容が伝わりにくかった と思われ残念ながら子どもの参加者は 3 名であったが、一緒に来ていた保護者やボランティア達 には、初めて出会う国の人から聞く言語や文化に興味を示して、読み手と一緒に声を出して楽し む様子が見られ好評であった。 2 回目は 1 回目の大人の参加者の口コミの影響かあったと思われ 親子連れの参加者が増えた。
【参加者数】
小さな自治体である田尻町では、「世界の国からこんにちは」の開催日と小学校・幼稚園・保 育所の運動会や父兄参観や町内の子ども向けの行事が重なることもあり、参加が少ないことも あった。保育所から多数の園児が参加することもあり、毎回蓋を開けてみないと参加人数が分か らなかった。平均約20名の参加者があった。子ども連れの父親の参加も多く見かけた。
【多言語への出会いと驚き】
子どもたちは、読み手が母語であいさつすると「英語じゃない!」と声に出して驚き、様々な 国の読み手の顔を食い入るように見つめることが多かった。初めての言葉を集中して聞き、くり 返しの言葉遊びに一緒に大きな声を出していた。父親たちも子どもと共に初めて会った国々の人 たちが発する母語に関心が高く、毎回楽しみに参加する親子も見られた。終了後は、覚えた外国 語の単語やあいさつを口にして帰る子どもがいた。よく参加する親子からは、数日後、または数 か月経った後で突然子どもが知らない言葉を家の中で口ずさんでいることが度々あると話してく れた。子ども達の未知の言語習得の能力の高さは運営する私達が驚かされた。
子どもたちに馴染みのある絵本を知らない言語で読み進むので、不思議な顔をしながらもとて も集中して聞いていた。
【参加者の年齢】
公共図書館で通常実施しているおはなし会は、乳幼児、 3 〜 5 歳、小学生など年齢別に開催し ているが、「世界の国からこんにちは」は子どもの年齢を限定しなかったので、乳幼児から高校 生までの幅広い参加者が見られた。30分の読み聞かせの時間に集中できない小さな乳幼児は途中 で泣いたりぐずったりしたこともあったが、父親である読み手の一人はお母さんから赤ちゃんを 抱っこさせてもらい母語で子守唄を歌って眠らせたりと予定外のハプニングによって会場が和や かになったこともあった。多言語に関心を持っている中学生・高校生が小さな子どもに混ざって 参加していることもあった。
近隣地域のおはなし会ボランティアグループの見学も何組かあった。「世界の国からこんにち は」の構成や運営などを見に来て「はっぴぃぶっく」に質問したり、居住する地域で多言語読み
聞かせを開催できないか検討していた。
【読み手たちの感想】
15回実施する中で、母国で児童サービスを担当する外国人司書だけ 2 回参加したが、他の64人 は毎回初参加であった。読み聞かせが始まる前は緊張していたが、子どもたちが児童コーナーに 来ると全員が笑顔になり、恥ずかしそうにしている子どもたちに手を振っていた。この会が終了 した時には読み手たちに子どもや一緒に来た父親や母親から話かけられて、そこで小さな交流が できたことも多かった。65人全員が楽しかった、またやりたい、子どもが喜んでくれて嬉しいと 興奮して感想を話していた。日本人の子どもや子ども連れの親子と接する機会が少ない彼らは、
絵本を通して楽しい交流が生まれ、日本人の前で出身国や母語を紹介できたことの誇りも感じて いたようである。
【きっかけと広がり】
はっぴぃぶっくは定期的に公民館図書室でおはなし会を開いており常連の父子がいた。父親は 2 人の子どもを連れて参加していた。外国出身の妻はおはなし会に子どもを連れて来たことはな かった。「世界の国からこんにちは」が始まって数回後、その常連の父子がこのおはなし会に来 た時に偶然にも妻と同じ母語の読み手がいて、夫はその場で妻に電話すると、彼女は直ぐに駆け つけて参加してくれた。その時にボランティアグループの人は初めて妻に会ったそうであった。
妻は多言語読み聞かせを楽しみ、その後はほぼ毎回参加するようになった。妻と同じ母語の読み 手が、その子どもたちに「この動物の名前は〇〇語で何ですか?」と聞くと 2 人の子どもたちは 元気よく「〇〇!」と母語で答え、会場の子どもたちからは感嘆の目で見られていた。おはなし 会終了後に妻は同じ母語の人と話をして、そこでの出会いがきっかけとなってその後友人同士と なったようである。
その他にも日本人配偶者の外国人も子どもを連れてこの会に参加して、子どもに日本語と母語 で話して楽しんでいる様子が見られた。
4 .考 察
多言語読み聞かせの課題と可能性について考察する。全国の公共図書館、国際交流センター、
多文化共生センター等の NPO が実施している多言語おはなし会の抱える課題は、外国人の読み 手を探すのが難しいと聞いている。筆者の職場が日常的に多数の外国人と接する職場であったた め読み手募集に困ることはなかったが、これは非常に特殊なケースであった。その利点を活用し て、多様な文化背景を持った外国人の協力を得たことは、「世界の国からこんにちは」が継続的 に実施できた要因の 1 つであった。その他の要因は、スタート後の試行錯誤からある程度のノウ ハウを生み出すためには、図書館での読み聞かせの実績と絵本に精通しているおはなしボラン ティアとの協働作業であったことである。そして、地域の公民館図書室の理解と広報活動が相 まった結果だと思う。
では、多言語読み聞かせを公共図書館で実施するためには何が必要か。外国人の読み手を探す ことが難しいこと、それは、外国人の協力者とのコンタクトが簡単ではないと思われているから である。しかしながら、在留外国人統計でも分かるように全国津々浦々にまで在留外国人が居住 し、どの地域にどこの出身の国の人が居住しているか、統計データや自治体の HP 上で公表され ている。二つの点をつなぐ方法として、公共図書館やおはなしボランティアの人が地域に居住す る外国人コミュニティーに出かけて、多言語おはなし会の読み手として協力してもらうきっかけ を作ることができれば地域とのつながりができる。在留外国人は SNS などで同国や同じ言語の 人々との強いつながりを持っており、協力してくれる外国人ができればそこをスタートとして今 後のネットワークが生まれ、次の読み手を探してくれる可能性がある。
前述の外国出身の配偶者が同じ母語の読み手がいた時に子どもを連れて参加したことがきっか けで、その後も継続して参加するようになった。次はその参加者に読み手として協力依頼をして みることもできるであろう。日本人との活動へ誘うきっかけを作り、居住するコミュニティーの 中で日本人との交流が生まれる可能性がある。
公共図書館は、異文化理解のための資料を豊富に所蔵している。読み手の外国人の国や文化や 歴史、言語を紹介するための展示コーナーの設置などは、図書館の得意とするところである。図 書館の中で自国文化を日本人に紹介する場を提供してくれることは、外国人のアイデンティティ の維持や誇りにもつながっていく。そして、地域の日本人と接する機会なく暮らしている外国人 や日本社会に溶け込めずにいる人も活用しているSNS などで、公共図書館は外国人が利用でき る資料があること、誰でも使える場所であり、居場所であり、多言語読み聞かせの読み手として 協力依頼を行うなど情報発信できないだろうか。
5 .おわりに
多文化サービスに取り組み先進的な活動を行っている公共図書館は、その自治体に居住する在 日外国人や外国人コミュニティーへ図書館が出向いて積極的に働きかけ接点を持って活動してお り、東京都内で最も外国人の人口が多い新宿区大久保図書館の取り組み11)12)や日系ブラジル人 を中心とした外国人が18%の人口を占める群馬県邑楽郡大泉町立図書館13)などの先例に学ぶと ころが多い。多文化サービスが行われている図書館では、在留外国人の子どもたちへの多言語読 み聞かせも行っている。
日本の図書館多文化サービスの普及活動は、IFLA(国際図書館連盟)多文化社会図書館サー ビス分科会14)のガイドライン15)を参考に進めてきた。ガイドラインには多文化図書館の原則に ついて次のように宣言している。「文化的・言語的に多様な状況下での図書館・情報サービスに は、あらゆる種類の図書館利用者に対するサービスの提供と、これまで十分なサービスを受けて こなかった文化的・言語的集団を特に対象とした図書館サービスの提供という両面がある。文化 的に多様な社会の中で多くの場合取り残される集団、すなわち、マイノリティ、保護を求める人、
難民、短期滞在許可資格の住民、移住労働者、先住民コミュニティに対しては特別な配慮が必要 である。」16)同ガイドラインの翻訳に関わった平田泰子は「地域住民全てに平等なサービスを提
供する公共図書館は、文化的に多様な社会の仲介者としての役割がある。しかし現実には文化 的・社会的に不利な立場にあるマイノリティへの図書館サービスはまだ十分とは言えない。」と 2008年の論文の中で述べている17)。同論文発表から 7 年後に実施した『実態調査2015』では、
その文章を実証した残念な結果が散見される。まだ道半ばであるが、日本における多文化サービ スの実践は文化・習慣・言語・宗教の違いや互いの価値観を学び相互理解が深まると言えよう。
「世界の国からこんにちは」は多文化サービスの一つの試みである。多言語読み聞かせには決 まったルールはなく自由に展開できる取り組みであると考える。そして、この取り組みは、子ど もための語学教育と期待する保護者がいるがそうではなく、小さい頃から異なる文化・言語を知 り互いの違いを理解し認め合う一歩になるであろう。そして、赤ちゃん絵本を多言語読み聞かせ の中心に持って来たことは、世界共通の暮らしや文化を子どもたちに分かりやすく伝えることが できる道具としての発見であった。
各地の在留外国人と公共図書館やおはなしボランティアとの協働から多文化サービスの新しい 形が生まれてくることを願っている。日本人の子どもを対象としたおはなし会は図書館の児童 サービスとして定着し、ほぼ全ての公共図書館で定期的に開催されている。各地に居住する在留 外国人の子どもの数は増加傾向にある。在留外国人の親子が参加できる多文化サービスとして多 言語読み聞かせは必要なサービスであるという認識が図書館界に広がることを期待している。
注・参考文献
1 )長崎港ホームページ http://www.nagasaki-port.jp/index.html 2019/9/18
2 )在留外国人統計 2,731,093人(2018.12.31)http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.
html 2019/9/18
3 )日本図書館協会多文化サービス委員会 http://www.jla.or.jp/committees/tabunka/tabid/202/Default.aspx 2019/9/18
4 )日本図書館協会多文化サービス委員会編『多文化サービス実態調査2015報告書』日本図書館協会 2017 5 )『日本の図書館 統計と名簿』日本図書館協会図書館調査委員会編 日本図書館協会
6 )4)と同書 p.56-58
7 )Assistant Language Teacher の略。一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)が実施するJET プログラムの 中の ALT(外国人指導助手)は全国の学校、または教育委員会に配属され、日本人外国語担当教員の助手と して外国語授業に携わっている。
8 )国際交流基金関西国際センター https://kansai.jpf.go.jp/ 2019/9/27 9 )多言語絵本の会 RAINBOW https://www.rainbow-ehon.com/ 2019/9/27
10)石原弘子「図書館で多言語の読み聞かせを―多言語絵本の会 RAINBOW―」『こどもの図書館』Vol.56 No.1 p.2 2009.1
11)米田雅朗「新宿区立大久保図書館の多文化サービスの取り組みについて」『専門図書館』No.287 p.9-14 2018.1
12)2017年10月14日(土)NHK ETV 特集「アイアム ア ライブラリアン〜多国籍タウン・大久保」にて米田雅 朗館長の多文化サービスへの取り組みが紹介された。
13)糸井昌信「大泉町立図書館の児童向け多文化サービス」『こどもの図書館』Vol.56 No.1 p.5 2009.1 14)International Federation of Library Associations and Institutions の1つの分科会として1986年から多文化社会
図書館サービス分科会(Section on Library Services t Multicultural Populations)が結成されている。
15)国際図書館連盟多文化社会図書館サービス分科会編;日本図書館協会多文化サービス委員会訳・解説「多文 化コミュニティ―図書館サービスのためのガイドライン―」日本図書館協会 2012
16)同書 p.8
17)平田泰子「公共図書館の多文化サービスを進めるために−情報ニーズ調査の必要性−」『カレントアウェアネ ス』No.296 2008年 6 月20日 https://current.ndl.go.jp/ca1661#ref
(2019年10月 7 日受理)