• 検索結果がありません。

情報としての遺産と資源 : 世界遺産と文化資源の 比較考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "情報としての遺産と資源 : 世界遺産と文化資源の 比較考察"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

情報としての遺産と資源 : 世界遺産と文化資源の 比較考察

著者 中牧 弘允

雑誌名 国際理解教育

巻 15

ページ 122‑136

発行年 2009‑06‑01

その他のタイトル Heritage and Resources as Information : A Comparative Consideration of World Heritage and Cultural Resources

URL http://hdl.handle.net/10502/4533

(2)

日本 国 際 理 解 教 育 学 会 『 国 際 理 解 教 育 』VOL.15,2009.6

囎 。{塗 開.・ ● 峯 と 國 ・ 畿̀・ ・ 旨

情 報 と して の遺産 と資源

一世界遺産 と文化資源の比較考察 一

Special Studies

Heritage and Resources as Information : A Comparative Consideration of World Heritage and Cultural Resources

中牧 弘允

NAKAMAKI Ilirochika

ーー

 

1遺 産 と資源の情報化

近 年 、 博 物 館 学 や 文 化 行 政 の な か で「遺 産」や「資 源」と い う概 念 が 多 用 さ れ る よ う に な っ た 。 代 表 的 な例 と して は 世界 遺 産 や 文 化 資 源 とい う複 合 概 念 を あ げ る こ とが で きる 。 遺 産 も資 源 もそ の 保 存 や 活 川 を め ぐる 議 論 の な か か ら発 生 し、 そ れ ら を継 承 し研 究 す る現 場 の み な らず 、 地 域 社 会 や 国 家 を ま き こ み 、 ひ い て は グ ロ ーバ ル な市 場 の な か で 情 報 化 され て い る 。 そ して 、 情 報 化 され た 遺 産 や 資 源 は 一 方 で は積 極 的 な経 済 行 動 や 余 暇 活 動 を う なが し、 他 方 で は 保 存 と保 護 を 目的 とす る 施 策 を う み だ して い る。

遺 産 や 資 源 は 、 学 校 教 育 の なか で も教 材 と して 情 報 化 さ れ て い る。 国際 理 解 教 育 に お け るユ ネ ス コの 世 界 遺 産 もそ の ひ とつ で あ り、 人 類 が 共 有 す る(と 想 定 され た)普 遍 的 価 値 の 観 点 か ら授 業 が組み 立 て られ る。 ユ ネ ス コ 自体 も、 若 者 を対 象 に ワ ー ク シ ョ ッ プ を い ろ い ろ 開 催 して い る。 他 方 、

エ ラ

文 化 資 源 も大 学 や 大 学 院 教 育 の な か で 履 修 科 日 な い し専 門 コー ス と して一 定 の 地 位 を確 保 す る よ う に な っ た 。

筆 者 は 、 文 化 資 源 研 究 セ ン タ ー と称 す る研 究 部 門 を もつ 国 立 民 族 学 博 物

(3)

館 に所 属 して い る(た だ し、 同 セ ン タ ー の ス タ ッ フで は な い)。 他 方 、 世 界 遺 産 に つ い て の教 育 を担 当 した こ と は な い が 、 世 界 遺 産 の登 録 地 域 で多 少 の 現 地 フ ィ ー ル ドワ ー ク を実 施 した こ とが あ る。 そ う した 限 定 つ きの立 場 と経 験 か らで は あ る が 、 世 界 遺 産 と文 化 資 源 につ い て 若 干 の 考 察 を くわ え た い 。 とい うの も、 遺 産 と資 源 は似 て い る よ うで 、 そ の性 格 に は大 きな へ だ た り も存 す る か らで あ る 。 本 稿 で は遺 産 と資 源 の 概 念 に 由 来 す る 仕界 遺 産 と文 化 資 源 を取 り上 げ 、 情 報 と して の 観 点 か ら、 そ の 思想 と実 践 に 関 わ る い くつ か の 問題 点 を指 摘 した い 。

遺 産 は ふ つ う死 後 の 相 続 財 産 を意 味 し、 資 源 は 一 般 に生 産 活 動 の も と に な る物 質 ・資 金 ・人 力 ・エ ネ ル ギ ー な ど を さ して い る。 しか し、 博物 館 学 や文 化 行 政 で つ か わ れ る場 合 、 遺 産 は特 定 個 人 の 所 有 物 とい う よ り も共有 財 産 と して継 承 す べ き もの と考 え られ て い る し、 資 源 の 場 合 も 国家 防 衛 や 工 叢 生 産 の た め で は な く、 保 護 保 存 や 地 域 振 興 を 目的 とす る こ とが 多 い 。 概 念 が 時 代 や 社 会 の変 化 に対 応 して 拡 大 して い る の で あ る。

1止 界 遺 産 条 約 が 成 立 した の は 、1972年 で あ る。 イ ギ リス で 遺 産 を冠 した ミュ ー ジ ア ム や ビジ ター セ ン タ ー が 多 数 出現 し、文 化 遺 産 産業 が 盛 ん に な るの は1980年 代 後 半 か らで あ る 。 そ こ で は 政 府 観 光 庁 が 主 導 し英 国 病 を 克 服 す る手 段 と して文 化 遺 産 とカ ン トリー サ イ ドを取 り込 ん だ 観 光 が 地域 振

興 策 と して 打 ち 出 され て い る 。 日本 の 大 学 に文 化 資 源 学 の コー スが で き た の は2000年 で あ り、9巻 か ら な る資 源 人 類 学 の 論 集 が 出版 され た の は2007

年 で あ る。観 光 資 源 とい う よ うな 表 現 も21世 紀 に な って か ら顕 著 と な っ た 。 こ の よ う な動 向 は あ き らか に遺 産 と資 源 の 情 報 化 で あ り、 そ の情 報 の 共 有 化 で あ る。 そ れ が さ ま ざ ま な レベ ル で 進 行 し、 グ ロー バ ル に展 開 して い るの で あ る。 た だ し、 こ こ で い う情 報 化 と は狭 い 意 味 で のIT化 、lCT化 を 意 味 して い る の で は な い 。情 報 の本 質 と は 、感 覚 器 官 に よ る外 界 の 感 知 と、

脳 神 経 系 に よ る そ の 解 読 に あ り、 人 類 の 歴 史 と と も'に発 展 し、 い ま や情 報

が 環 境 を形 成 す る レベ ル に まで 達 して い る。 遺 産 と して登 録 し、 資 源 と し

て認 定 され る こ とで 、 情 報 は 蓄 積 し、 共 有 化 さ れ て 、 利 川 に 供 さ れ る 。 し

か も、 情 報 の利 用 範 囲 は ま す ます グ ロー バ ル に 拡 大 して お り、 か つ 地 球 意

(4)

識 に裏 づ け られ る よ う に な って い る 。 そ の好 例 が 世 界 遺 産 で あ る。

2世 界遺産 の情報化

ユ ネ ス コの 世 界 遺 産 条 約 採 択 の 背 景 と して は 、 次 の2点 が 重 要 で あ る。

第 一 に1954年 の「武 力 紛 争 の 際 の 文 化 財 の 保 護 の た め の 条 約(ハ ー グ条 約)」

に は じま る 一 連 の条 約 、勧 告 や 憲 章 で あ り、 第 二 に は ア ス ワ ン ・ハ イ ・ダ

らラ

ム の 建 設 に よ っ て危 機 に瀕 した ア ブ ・ア シベ ル 神 殿 の救 済 で あ る。 世 界 遺 産 条 約 の 原 点 に は文 化 遺 産 や 自然 遺 産 の保 護 と救 済 が あ る 。 ま た、 そ の実 施 に あ た っ て は10項 目 の作 業 指 針 が 適 用 され る。 文 化 遺 産 につ い て は6項

目、 自然 遺 産 に 関 して は4項 目の 顕 著 な普 遍 的価 値 を もつ とさ れ る 評 価 基 準 が あ る。す くな く と もそ の ひ とつ を満 た して い な け れ ば登 録 され な い し、

ふ つ う は複 数 の 基 準 が 適 用 され る。

世 界 遺 産 の登 録 に は膨 大 な情 報 の 集 積 が 要 求 され る。 まず 、 各 国政 府 が 暫 定 リ ス トを作 成 し、 ユ ネス コ に提 出す る 。 次 に 、各 国 政 府 は暫 定 リス ト の な か か ら優 先 順 位 の 高 い 案 件 を選 び 、仔 細 な登 録推薦 書 をユ ネ ス コに 提 出 す る 。 そ こで ユ ネ ス コ の協 力 機 関 で あ るICOMOS(lnternationalCouncil onMonumentandSites、 文 化 遺 産)とIUCN(lnternationalUnionfor

ConservationofNaturσ 、 自然 遺 産)が 候 補 案 件 の 審 査 を お こ な い 、 世界 遺 産 委 員 会 に技 術 的 な評 価 勧 告 を提 出 す る。 そ して 世 界 遺 産 委 員 会 が 当 該 国 の 登 録 推 薦 書 と専 門NGO(ICOMOSとIUCN)の 評 価 勧 告 に も とつ い て 審 議 を お こな い 、 最 終 的 な 結 論 を だ す 。

こ う して 詳 細 か つ膨 大 な情 報 と普 遍 的 価 値 に も とつ く評 価 を も と に 、 世 界 遺 産 委 貝 会 に よっ て 独 自 の 判 断 が 下 され る。 登 録 さ れ た 世 界 遺 産 は2008 年 の 段 階 で850を 越 え る。 日本 は1992年 に 世界 巡 産 条 約 に 参 加 し、 現 在 は 14件 の 世 界 遺 産 を有 して い る 。 日本 の 参 加 が 遅 れ た理 由 と して は 、 国 内 世 論 の 高 ま りが な く、 批 准 や 関 連 法 の修 正 に時 間 と事 務作 業 が か か る こ とが

あ げ られ て い る。 そ れ に くわ え、 文 化 財 保 護 法 な ど国 内 法 が 比 較 的 良 く整

備 され て い た こ と も 関係 して い る だ ろ う。 しか し、 い まで は 強 力 な 推 進 国

(5)

の ひ とつ に な っ て い る 。

世 界 遺 産 へ の 登 録 は 情 報 と して どの よ う な 意 味 を も っ て い る の だ ろ う か 。 ユ ネ ス コ は保 護 継 承 す べ き人 類 の遺 産 と して登 録 作 業 を に な い 、 そ の 保 存 状 態 を モ ニ タ ー し、「重 大 か つ 特 別 な 危 険」に さ ら さ れ て い な い か ど うか チ ェ ッ クす る。 そ して「危 機 に さ ら され て い る 世 界 遺 産 リス ト(危 機 リス ト)」に 記 載 さ れ た 場 合 は 、 必 要 な 手 段 に 訴 え て対 策 を講 じる 。 と こ ろが 、危 機 に さ ら され て い な い 世 界 遺 産 の 多 くは保 存 や 保 護 とい う本 来 の 目 的 とは い さ さか異 な る情 報 的 価 値 を 帯 び る。 た と え ば観 光 で あ り、 地 域 の活 性 化 で あ る。 ユ ネ ス コ が 集 積 し認 定 す る情 報 は 観 光 業 者 や 地 域 社 会 に は格 別 の 情 報 と して き わ め て 重 要 な意 味 を もつ の で あ る。

ア 

情 報 は 基 本 的 に そ こ に価 値 を見 出す 人 に と っ て 意 味 が あ る 。 猫 に と って 小 判 は 情 報 で は な い し、真 珠 も豚 に と っ て は情 報 た りえ な い 。 世 界 遺 産 も 同様 に、 あ る 人 に と っ て は 無 意 味 情 報 で しか な い が 、 別 の 人 に とっ て は き わ め て 重 大 な情 報 と な る 。 そ の あ た りの 事 情 を、 まず 熊 野 三 山 の 事例 か ら 検 討 して み よ う。

3熊 野三山の情報的価値

熊 野 三 山 は「紀 伊 山 地 の 笠 場 と参 詣 道」に ふ く まれ 、2004年 に世 界 遺 産 に登 録 され た。 霊 場 と は吉 野 ・大 峯 、 熊 野 三 山 、 高 野 山 を さ し、 参 詣 道 と は 大 峯奥 駈 道 、 熊 野 参 詣 道 、 高 野 山 町 石 道 を意 味 して い る 。 た だ し、 世 界 遺 産 に は「文 化 的 景 観」と い う観 念 が 新 た に導 入 され 、紀 伊 山 地 の 山や 森 、 川 や 滝 、 温 泉 や 町並 み な どが 日本 に お け る そ の 第 一 号 と して 登 録 さ れ た 。

世 界 遺 産 とな っ て か ら、熊 野 は ど う変 わ っ た か 。2007年 秋 に久 しぶ りに 同地 を訪 ね た が 、 も っ と も 目 につ い た 変 化 は世 界 遺 産 の 表 示 で あ る 。 熊 野 三 山(熊 野 本 宮 、 熊 野 新 宮 、 那 智 大 社)や 青 岸 渡 寺 の境 内 に は石 造 の 立 派 な モ ニ ュ メ ン トが た ち 、 熊 野 古 道 に も世 界 遺 産 の看 板 が あ ち こ ち に あ っ た。

「世 界 遺 産 地 域 ゴ ミは 、 各 自お 持 ち帰 り下 さ い 。」と の 注 意 書 き もみ られ

た 。 三 山 一 寺 の 社 寺 の 案 内 書 に は 肚 界 遺 産 の 頁 が くわ え られ 、 た ん な る

(6)

「社 寺 と道」で は な く「山 岳 信 仰 の 霊 場 と山 岳 修 行 の 道」で あ る こ とが 強 調 さ れ て い た。 そ の 一 方 、 紀 伊 山地 の 自然 もま た 良 好 な状 態 で 維 持 ・継 承 す べ き こ とが うた わ れ て い た 。 そ れ はユ ネ ス コ の さ だ め る「文 化 的 景 観」

の 条 件 に 沿 っ た もの で あ る。,

しか し、 当事 者 で あ る 熊 野 の宗 教 家 が 世 界 遺 産 を ど う位 置 づ け て い た か とい う と、 統 一 見 解 は な く ま ち ま ち だ っ た 。 い わ く、「遺 産」と い う言 葉 は好 きで な い 、 なぜ な ら生 きて い る宗 教 施 設 だ か ら。 い わ く、 世 界 遺 産 は 是 非 に と言 わ れ て 推 しい た だ くもの で 、取 りに い くも ので は ない 。い わ く、

那 智 の 滝 を 守 るの に 自然 保 護 は 大 切 で あ る 、 な どで あ る。 な か には 、 世 界 遺 産 は「黄 門 さ ま の 印 籠 の よ う な もの」で あ る とか 、「帽子 をか ぶ っ たみ た い な もの」と た と え る 宗 教 家 もい た 。 印 籠 や 帽 子 の 比 喩 はユ ネス コ の お 墨 付 き を得 た こ との 価 値 が どれ ほ どの もの か を あ らわ して い る。 社 寺 側 で は 世界 ブ ラ ン ドと して認 定 さ れ た こ と に象 徴 的意 義 を見 出 す 一 方 、 参 詣 者 が 大 幅 に 増 え 、 滝 の水 が 枯 れ な い 環境 が 守 られ た とい う実 質 的 意 義 を む し ろ歓 迎 して い る よ う に 感 じ られ た 。

他 方 、 行 政 の 側 は 真 剣 そ の もの だ っ た 。 世 界 遺 産 は和 歌 山 県 に とつ て

「命 綱 の よ う な もの」で あ る と表 現 す る担 当 者 す ら い た 。 県 レベ ル で は 旧 本 宮lllTの 庁 舎 を利 用 して 、そ の な か に和 歌 山県 世 界 遺 産 セ ン タ ー を設 置 し、

狭 い なが ら も展 示 空 間 を も う け て い た 。 また 世 界 遺 産 ゼ ミが ひ らか れ 、 熊 野 セ ラ ピー と称 す る心 身再 生 プ ロ グ ラ ム の 推 進 が は か られ て い た 。 後 者 は ス ロ ー ス テ イ(滞 在 型 〉 で 熊 野 の 自然 と文 化 か らパ ワ ー を も らお う とい う もの で あ る。 地 形 療 法 と もい わ れ 、 古 道 、 森 林 、 河 川 、 滝 、 海 、 温 泉 な ど が 癒 しの 源 泉 で あ り、 ス トレ ッチ や 瞑 想 、 そ れ に ウ ォー キ ン グ と入 浴 が 主

な メ ニ ュ ー と して 提 供 され て い た 。

日本 で は 行 政 が 宗 教 活 動 そ の もの に 参 画 す る こ とは で きな い 。 しか し、

癒 しな ら問 題 は な い 。 心 身 の ヒー リ ング が「文 化 的 景 観」に 対 応 した 行 政 の ひ とつ の プ ロ グ ラム で あ っ た 。 そ こ に は ユ ネ ス コ ー 日本 政 府(文 部 科 学 省 、文 化 庁 、環 境 省 、外 務 省 な ど)一 県 庁 一地 方 自治 体 とい う系 列 が あ り、

そ れ に 沿 っ て 世 界 遺 産 が あ らた な市 場 を 開 拓 して い る よ う に お も わ れ た 。

(7)

端 的 に は 、 過 疎 を食 い 止 め 、 地 域 の 活 性 化 につ な が る起 爆 剤 と して、 世 界 遺 産 は か け が え の な い 価 値 を も って い た の で あ る 。 世 界 遺 産 が 行 政 を動 か し、 行 政 が 世 界 遺 産 を動 か して い た の で あ る。 主 役 は 社 寺 で は な く、 あ き らか に行 政 で あ っ た 。

世 界 遺 産 登 録 の値 打 ち に「帽 子」か ら「命 綱」ま で 幅 が あ っ た の は 、 そ う した 理 由 に よる 。他 方 、勝 浦 温 泉 の有 名 な ホ テ ル も隣 接 す る複 数 の ホ テ ル をM&Aで 取 り込 み 、3000人 を収 容 す る 巨 大 ホ テ ルへ と変 貌 を とげ て い た。 観 光 産 業 も世 界 遺 産 に便 乗 して活 況 を呈 して い る よ う にみ え た。

実 際 、 参 詣 者 は大 幅 に増 加 した。 年 中 、 正 月 三 が 日 の よ う な 人 出 だ と多 少 大 袈 裟 な こ と を言 う 人 もい たが 、 秋 の 連 休 に は ウ ォー キ ング の 人 もふ く め 大 勢 の 人 た ち が 観 光 や 参 拝 にお とず れ て い た 。 年 間 で は100万 人 くら い に な る とい う。 そ う した 盛 況 ぶ りは 三 山 側 の経 営 努 力 とい う よ り も、 世 界 遺 産 の ブ ラ ン ド効 果 が お お き く作 用 し て い た し、 行 政 の 支 援 体 制 に世 界 遺 産登 録 以 前 とは 雲 泥 の差 が あ っ た 。

しか し、 観 光 は諸 刃 の 剣 で あ る 。 ユ ネ ス コ事 務 局 長 の 松 浦 晃 一 郎 氏 は世

  ラ

界 遺 産 の 脅 威 を7つ 指 摘 し、 そ の 最 後 に「観 光 事 業 の増 加」を あ げ て い る 。 そ れ に よ る と、 世 界 遺 産 に登 録 され る と観 光 客 の 数 は2〜3割 増 え る。 ま た 、 最 近 の傾 向 と して は 文 化 と環 境 が 中心 に 据 え られ 、 観 光 事 業 は世 界 全 体 で3兆 ドル 超 、 しか も年 率4〜5%で 成 長 を遂 げ て い る とい う。課 題 は 、

増 大 す る観 光 客 と周 到 な 保 護 管 理 体 制 の 両 立 で あ る と指 摘 して い る。

4サ ン テ ィ ア ゴ ・デ ・コ ン ポ ス テ ー ラ の 情 報 的 価 値

ス ペ イ ンの 有 名 な キ リス ト教 の 巡 礼 地 サ ン テ ィア ゴ ・デ ・コ ン ポ ス テ ー ラ(以 下 、サ ンテ ィ ア ゴ と略)の 旧 市 街 は1985年 に世 界 遺 産 に登 録 され た。

サ ン テ ィア ゴへ の 巡 礼 路 の 世 界 遺 産登 録 は ス ペ イ ン側 が1993年 で 、 フ ラ ン

ス 側 は1998年 で あ る 。 こ れ は 、「紀 伊 山 地 の 霊 場 と参 詣 道」に 先 駆 け て 道

が 世 界 遺 産 とな っ た歳 初 の例 で あ る 。 周 知 の よ う にサ ンテ ィ ア ゴ の大 聖 堂

に は キ リ ス トの12弟 子 の一 入 聖 ヤ コブ の も の とい わ れ る 聖 櫃 が あ る 。9世

(8)

紀 に そ の 遺 骸 が 奇 跡 的 に 発 見 さ れ 、11世 紀 か ら ロ マ ネ ス ク 様 式 の 大 聖 堂 の 建 設 が は じ ま っ た 。 そ の 後 、 ゴ シ ッ ク 、 ル ネ ッ サ ン ス 、 バ ロ ッ ク な ど の 様 式 が く わ え ら れ 、 ロ ー マ 、 エ ル サ レ ム と な ら ぶ 一 大 巡 礼 地 と し て 発 展 し た 。 と り わ け レ コ ン キ ス タ 、 す な わ ち キ リ ス ト教 徒 に よ る イ ス ラ ー ム 勢 力 に た い す る 失 地 回 復 運 動 の 前 線 基 地 と し て サ ン テ ィ ア ゴ は 重 要 な 機 能

を 果 た して い た 。

人 口 約9万 人 の サ ン テ ィ ア ゴ 市 は ガ リ シ ア 州 の 州 都 で あ り、500年 以 上 の 歴 史 を 誇 る サ ン テ ィ ア ゴ 大 学 を 有 す る 学 術 セ ン タ ー で もあ る が 、 世 界 的 に は カ ト リ ッ ク の 大 司 教 座 が お か れ た 巡 礼 地 と し て の 名 声 が 傑 出 し て い る 。 世 界 遺 産 は そ こ に ど の よ う な 価 値 を く わ え た の で あ ろ う か 。

まず 、 巡 礼 者 の 統 計 資 料 を 検 討 して み よ う 。

[図]巡 礼 者 数 の 変 遷(Registro  de la  Oficina de Acogida de Peregrinosよ り作 成)

大 多 数 の巡 礼 者 は安 価 な巡 礼 用 の 施 設 に宿 泊 す る。 そ こに チ ェ ック イ ン

す る と き に 、 国 籍 、 性 別 、 年 齢 、 職 業 、 移 動 手段 、 巡 礼 ル ー ト、 巡 礼 の 目

的 な ど を記 入 す る。 そ の た め 巡 礼 者 の 統 計 は 正 確 で あ る 。 そ れ に よ る と

1985年 の 市 街 地 の 世 界 遺 産 登 録 は 巡 礼 者 数 の 増 加 に ほ とん ど貢 献 して い な

い 。 また 、 当 時 の 巡 礼 者 が 年 間 で2500人 あ ま りだ っ た こ と も隔 世 の 感 が あ

る 。 そ れ が1993年 は サ ン テ ィア ゴ巡 礼 の「聖 な る年」に あ た っ て い た こ と

(9)

も あ り、10万 人 近 くに 急増 した 。前 年 が1万 人 弱 で あ るか ら,桁 違 い の 上 昇 で あ る 。 も っ と も 、 翌 年 に な る と1万5000人 台 に ま で 低 下 す る 。 そ れ で も巡 礼 者 は 右 肩 上 が りに伸 び て い る 。「聖 な る年」の1999年 には15万 人 を 越 え 、「聖 な る年」の2004年 は 約18万 人 に達 して い る。 ち な み に2006年 は 10万 人 、2007年 は11万 人 を越 え て い る。「聖 な る 年」は6年 、5年 、6年 、 11年 の周 期 で お とず れ る が 、 これ は ロ ー マ(ヴ ァチ カ ン)と の競 合 を避 け るね ら い が あ る。 他 方 、観 光 客 の統 計 デ ー タは な い が 、 い ま や300万 人 と い わ れ 、 世 界 遺 産 へ の 登 録 が 巡 礼 の 増 加 や 町 の 活 性 化 に果 た した 役 割 は き わ め て 大 きい 。

2008年 に 同市 を訪 問 した が 、 市 の 観 光 部 関 係 者 に よ る と カ トリ ッ クの 聖 職 者 は 保 守 的 で あ る とい う。 ミサ や礼 拝 で 多 忙 を き わ め 、 ボ タ フ メ イ ロ と よ ば れ る天 井 か ら吊 り下 げ られ た大 香 炉 を振 り子 の よ うに左 右 に揺 らす 伝 統 の 技 に満 足 して い る の だ ろ う か 。 教 会 側 の革 新 的 な取 り組 み は み られ な い とい う。 こ こ で も熊 野 同様 、 宗 教 界 は脇 役 に 甘 ん じて い る。 他 方 で 、 ブ ラ ジ ル の 著 名 な教 育 学 者 パ ウ ロ ・コエ リ ョの サ ン テ ィア ゴ巡 礼 に 関 す る著 作 や ドイ ツ の テ レ ビ キ ャス タ ー で あ る ハ ペ ・カ ー ケ リ ン グの ベ ス トセ ラ ー

   ラ

本 が 巡 礼 人 気 に拍 車 を か け て い る よ うだ 。 パ ウ ロ ・コ エ リ ョは サ ンテ ィ ア ゴの「大 使」で あ る との 賛 辞 す ら贈 られ て い た。 サ ンテ ィ ア ゴ巡礼 に あ ら た な宗 教 的価 値 を見 出 して い る の は 聖 職 者 や 神 学 者 で は な く、 巡 礼 の体 験 者 で あ る と こ ろの 外 国 の教 育 者 や ジ ャ ー ナ リ ス トで あ る。 そ の 感 動 的 な 情 報 に影 響 され て ブ ラ ジ ル や ドイ ツか らの 巡 礼 者 が増 え る とい う構 図 が 浮 か

び上 が っ て くる。

サ ンテ ィ ア ゴ市 の 観 光 部 も負 け て は い ない 。1999年 か ら2007年 まで 観

光 部 長 をつ とめ た フ ラ ン シ ス コ ・カ ンデ ー ラ氏 に よ る と、1999年 に は ツー

リス ト ・イ ンフ ォ メ ー シ ョ ンの 事 務 所 に1人 しか い な か っ た 職 員 が 現 在 で

は15人 か ら18人 に 増 加 した とい う。 そ れ ほ どに 観 光 行 政 に 力 を入 れ て きた

証 拠 で あ る が 、 同時 に か れ は 目標 を設 定 して 業 務 に取 り組 み 、 しか も仕 事

を楽 しむ とい う雰 囲 気 づ く りに腐 心 し た とい う。 実 際 、 ツ ー リス ト ・イ ン

フ ォ メーション の対 応 は懇 切 丁 寧 で 、 職 員 の仕 事 ぶ り も生 き生 き と して い

(10)

た 。カ ン デ ー ラ氏 は サ ン テ ィア ゴ観 光 に み る時 代 の 変 化 につ い て も言 及 し、

1960年 代 か ら1980年 代 に か け て は 太 陽 と海 岸 の ッ ー リズ ムが 主 流 だ っ た が 、1990年 代 は 巡 礼 ル ー トや 都 市 イ ン フ ラ の 整 備 に取 り組 み 、 そ れ を受 け て観 光 の 振 興 に つ と め た と語 っ て い た。 近 年 で はサ ンテ ィ ア ゴ大 学 に 観 光 の 修 士 コ ー ス が 設 け られ 、 観 光 研 究 セ ンタ ー も附 置 され る よ う に な っ た と い う。21世 妃 に な っ て観 光 の イ ノベ ー シ ョ ンが 進 ん だ こ とが 理 解 で き る。

巡 礼 者 の受 け 入 れ を 整 備 し、観 光 客 の誘 致 に尽 力 した 結 果 、 サ ンテ ィ ア ゴ市 は2010年 の 上 海 万 博 にお い て スペ イ ン を代 表 す るベ ス トシ テ ィ実 践 区 の ひ とつ に 選 定 さ れ た 。2000年 の ミ レニ ア ム の と き、 サ ン テ ィア ゴ市 は ヨ ー ロ ッパ の9つ の文 化 首 都 の ひ とつ に 選 ば れ 、多 彩 な 活 動 を く りひ ろ げ た 。 文 化 都 市 政 策 の 取 り組 み に もサ ン テ ィア ゴ市 は力 を注 い で い る の で あ る。

サ ン テ ィア ゴ市 は 世 界 遺 産 を通 じて 和 歌 山県 や 三 重 県 との連 携 も深 め て い る 。和 歌 山県 は ガ リシ ア 州 と連 携 し1998年 に「熊 野 古 道」と「サ ンテ ィ ア ゴ巡 礼 の 道」と の「姉 妹 道」提 携 を結 び 、2008年 に は10周 年 を記 念 して 和 歌 山 県 知 事 が サ ン テ ィア ゴ市 を公 式 訪 問 して い る。 また 、 展 示 会 を 通 し

ユ リ

た 交 流 も 活 発 に お こ な わ れ て い る 。

サ ン テ ィ ア ゴ 市 は ま た 、 世 界 遺 産 の ロ ー マ と エ ル サ レ ム と の 連 携 強 化 も は か っ て い る 。「人 類 の 遺 産 で あ る 聖 な る 都 市(Ciudades  Santos  de  Ia Humanidad:Holy  Cities,World  Heritage  Sites)」と い う 提 携 は キ リ ス ト教 の 三 大 巡 礼 地 を 結 ぶ も の で あ る 。2005年 に 締 結 さ れ 、 遺 産 の 保 護 と文 化 ・宗

教 的 活 動 の 推 進 を 目的 と して い る。 よ り具 体 的 に は 観 光 とイ メ ー ジ ア ップ 戦 略 の 共 有 化 を め ざ し、 都 市 行 政 で の 連 携 が は か られ て い る 。 た だ し、 こ

れ も ヴ ァチ カ ンの 文 化 政 策 で は な い こ と をお さえ て お く必 要 が あ ろ う。

5文 化資源の情報化

「文 化 資 源」と い う 言 い か た は 今 世 紀 の 変 わ り 目あ た りか ら 日本 で 使 用

ヒ ラ

さ れ る よ うに な っ た 。 まず 博物 館 学 の 分 野 で 言 わ れ だ し、 そ の さ きが け は

東 京 大 学 の 人 文 社 会 系 大 学 院 に2000年 に つ くられ た文 化 資 源 学 研 究 の コー

(11)

ス だ っ た。 国 立 民 族 学博 物 館 で も2004年 に研 究 部 門 の ひ とつ と して文 化 資 源 研 究 セ ン タ ーが 設 置 さ れ た 。 ま た2002年 に は文 化 資 源 学 会 が 設 立 され て い る 。 そ して2007年 に は 、 国 立 民 族 学 博 物 館 開館30周 年 ・東 京 大 学 創 立 130周 年 ・パ リ 日本 文 化 会 館 開 館10周 年 ・文 化 資 源 学 会 創 立5周 年 記 念 フ ォー ラ ム「文 化 資 源 とい う思 想:21世 紀 の 知 、文 化 、社 会」が 大 阪 、東 京 、 パ リで 開催 され た 。 そ の 文 化 資 源 学 会 の「設 立 趣 意 書」に ゆ み る 文 化 資 源 の

定 義 は 、 次 の と お りで あ る 。

「文 化 資源 と は 、 あ る時 代 の 社 会 と文 化 を 知 る た め の 手 が か り と な る 貴 重 な資 料 の 総 体 で あ り、 これ を わ た した ち は 文 化 資 料 体 と呼 び ま す 。 文 化 資 料 体 に は 、博 物 館 や 資 料 庫 に 収 め き れ な い 建 物 や 都 市 の 景 観 、 あ る い は伝 統 的 な 芸 能 や 祭 礼 な ど、 有 形 無 形 の もの が 含 ま れ ます 。」

「文 化 資 源」と は 国 宝 や 重 要 文 化 財 に か ぎ らず 、 文 献 資 料 や 映 像 資 料 、 さ ら に は民 族 学 や 民 俗 学 の 日常 生 活 の 資 料 もふ くめ た観 念 で あ る 。 ま た提 唱者 が 民 族 学 者 や 民 俗 学 者 、 あ る い は 社 会 学 者 や 文 献 学 者 で あ る と こ ろ に ひ とつ の 特 徴 が あ る。 そ の た め生 活 に使 用 され る民 具 や 民 家 な ど も、 特 別 にユ ニ ー ク な美 的 価 値 が な く と も、「文 化 資 源」と して 認 知 さ れ る 。 文 化 行 政 が 保 護 す る 国 宝(人 間 国 宝 をふ くむ)や 重 要 文 化 財 、 あ る い は能 ・歌 舞伎 ・文 楽 とい っ た伝 統 芸 能 以外 の もの も「文 化 資 源」と して あ つ か わ れ る。 そ の 点 、 ユ ネ ス コの 文 化 遺 産 保 護 活 動 の よ うに 、 文 化 を「芸 術 的価 値

ロ の

を有 す る もの」と して 狭 く規 定 す る立 場 と は異 な って い る 。博 物 館 は広 義 の 文 化 が 適 用 さ れ る 資 源 の宝 庫 な の で あ る。 そ して そ こ で は 普 遍 的 な価 値 に も とつ く評 価 は な され て い な い 。 つ ま り、 基 本 的 に優 劣 をつ けず に資 源

と して存 在 して い る の で あ る 。

しか し、「資 源 で あ る こ と」と「資 源 に な る こ と」を 区 別 す る こ と も重

ユ の

要 で あ る 。 なぜ な ら、 資 源 に は活 用 や 開 発 が つ き ま と う か らで あ る 。 た と えば 鉱 物 資 源 は 岩 石 や 鉱 脈 だ が 、 精 錬 され て 金 属 と な り、 さ ま ざ まな 用 途 に使 わ れ る。 博 物 館 の 文 化 資 源 もそ れ 自体 は た ん な る モ ノや 情 報 媒 体 にす ぎな い が 、展 示 され る こ とで 、来 館 者 に よ っ て は稀 有 で 貴 重 な 情 報 に な る。

展 示 さ れ た モ ノ か ら知 的 刺 激 を受 け 、 脳 の な か で シ ナ プ ス 反 応 が お こ り、

(12)

これ まで の 経 験 や 知 識 と融 合 され 、 情 報 に な っ て い くの で あ る 。 モ ノ 自体 に情 報 が そ な わ っ て い る とい う よ り も 、「感 覚 器 官 に よ る 外 界 の 感 知 と、

脳 神 経 系 に よ る そ の解 読」を とお して情 報 が 処 理 され 、 個 々 の頭 脳 の な か で情 報 が 創 造 さ れ て い くの で あ る。 文 献 の よ うな情 報 媒 体 も感 知 ・解 読 さ れ て 意 味 の あ る情 報 と な る 。

都 市 の 文 化 も似 た よ うな構 造 を もっ て い る。 資 源 に は個 人住 宅 や 公 共 建 造 物 、 会 社 や 学 校 、 病 院 や 寺 院 、 道 や 鉄 道 、 川 や 海 岸 、 広 場 や 公 園 な どい ろい ろ あ げ る こ とが で きる 。 文 化 に突 出 した資 源 の 宝 庫 と して は 図 書 館 、 美 術 館 、 劇 場 、 映 画館 、 音 楽 ホ ー ル な どが あ る。 ま た 、祭 りや イベ ン トが 都 市 で は多 彩 に く りひ ろ げ られ る 。 こ れ らの 資 源 を精 錬 し、 あ る い は 意 味 あ る もの と して 配 置(展 示)す る こ とで 、住 民 や 訪 問 者 に とっ て の 有 用 な 情 報 と な る 。 そ の よ う に文 化 資 源 を活 用 す る こ とが 、都 市 政 策 や創 造 産 業 の課題 とな る。

6文 化 資源 と しての世界遺産

文 化 資 源 の 価 他 を 再発 見 す る こ と に よ っ て都 市 を活 性 化 させ た例 は す く な くな い 。先 述 した サ ンテ ィ ア ゴ ・デ ・コ ン ポ ス テ ー ラ は そ の 好 例 で あ る 。 1993年 に「聖 な る 年」と 巡 礼 路 の 世 界 遺 産 登 録 が 同 時 に実 現 した こ どが 、 同市 に とっ て は特 別 の 意 味 を も っ て い た 。1993年 の情 報 的 価 値 を 文 化 資 源 の 再評価 に つ な げ た の で あ る 。 熊 野 古 道 の 場 合 も、 中 世 ・近 世 に は 盛 ん な 往 来 が あ っ た 巡 礼 道 だ が 、 近代 で は あ ま りか え りみ られ な か っ た もの を熊 野 と高 野 山 、 古 野 をつ な ぐ道 と して 再 評 価 し、 か つ 道 路 整 備 をほ ど こ して 世 界 遺 産 に ま で も っ て い っ た の で あ る。

「参 詣 道」や「熊 野 古 道」と い う表 現 もあ ら た に つ く られ た。 そ れ ま で

ドお へ ち み ち

「熊 野 道」と か「熊 野 街 道」と い う 言 い か た は あ っ た 。 南 紀 で は大 遍 地

な か へ ら こ へ ち い せ

(大 辺 路)、 中 辺 路(中 辺 路)、 小 辺 路(小 辺 路 〉 と よば れ 、 三 重 で は伊 勢

地(伊 勢 路)と 通 称 さ れ て い た 。 そ れ を「熊 野 参 詣 道」と か「熊 野 巡 礼 道」

と 言 い 換 え 、「参 詣 道」や「巡 礼 道」に は 英 語 でpilgrimageroutesが 当 て ら

(13)

れ た 。 さ ら に「熊 野 古 道」と い う呼 称 が 流 布 す る よ う に な っ た の で あ る 。 実 際 の 古 道 に は 山 道 が 多 く、 石 畳 の と こ ろ もあ れ ば。 石段 と な っ て い る と こ ろ もあ る 。 い まで は有 名 と な っ た 中 辺 路 も山伏 な どの行 者 が た ま に通 る こ と は あ っ て も、 通 常 は「き こ り道」な ど と よ ば れ 、 一 般 人 や 観 光 客 に は 縁 が薄 か った 。 そ れ が1990年 の熊 野 古 道 ピァ を きっ か け に脚 光 を裕 び は じ め 、1999年 の「ジ ャパ ンエ キ ス ポ 南 紀 熊 野 体 験 博」を 経 て 、 ひ い て は世 界

 の

遺 産 へ とつ な が っ た の で あ る。 ま さ に「創 られ た伝 統」で あ り、「文 化 的 景 観」の 概 念 に よ って 道 や川 、 滝 や 森 が 文 化 資 源 と して 再 評 価 さ れ た の で あ る。

近 年 、都 市 景 観 の 保 存 ・保 護 も ま た深 刻 な問 題 に な っ て い る。 ひ とつ の 有 名 な事 例 は「ボ ン ・デ ・ザ ー ル」で あ る。 こ れ は 、1996年 、 京 都 の賀茂 川 にパ リの セ ー ヌ 川 にか か る「ボ ン ・デ ・ザ ー ル」を モ デ ル に した橋 を架

け よ う とす る 市 側 の企 画 に 対 し、 そ れ に反 対 す る市 民 運 動 の 高 ま りに よっ

て 実 現 し な か っ た例 で あ る 。 そ の 後 、2007年 に京 都 市 は全 国 に 先 駆 け て 、 世 界 遺 産 の 周 辺100ヘ ク タ ー ル を風 致 地 区 に 指 定 し、 高 さ や デ ザ イ ンに き び しい 景 観 条例 を施 行 す る こ とに な っ た 。 ま さ に文 化 や 環 境 が 重 視 され る 時代 に突 入 した の で あ る 。

景 観 を 文 化 と して と ら え る立 場 は 日本 全 国 に広 が りは じめ て い る 。 そ れ は 、都 市 にお け る 観 光 都 市 か ら歴 史 景 観 都 市(美 観 都 市)へ の転 換 と1呼応

 ゆ

して い る 。 景 観 や 環 境 を文 化 資 源 情 報 と して と ら え る視 点 は ます ます 無 視 しえ な くな っ て い くに ちが い な い 。

7世 界遺産教育か ら地球情 報教育へ

ユ ネ ス コ の 世界 遺 産 条 約 は2004年 採 択 の 無 形 文 化遺産 条 約(伝 統 的 な音 楽 、 踊 り、 演 劇 、 風 俗習慣 、 工 芸 技 術 等 が 対 象)と2005年 に採 択 され た

「文 化 的 表 現 の 多 様 性 の 保 護 及 び促 進 に 関 す る 条 約」等 とあ わせ て 理 解 す る こ とが の ぞ ま しい 。 と くに 無 形 文 化 遺 産 条 約 を ス ピー デ ィー に批 准 した

  り 

日本 の役 割 は注 目 に値 す る 。 なぜ な ら、 日本 の文 化 財 保 護 法 は有 形 ・無 形

(14)

の 文 化 を 最 初 か ら対 象 と して い るか らで あ る 。 また 、 世 界 遺 産 自体 の多 様 化 も課 題 で あ り、 石 の文 化 を 中心 とす る価 値 基 準 も木 や 土 の 文 化 を視 野 に

お さ め た 評 価 に 移 行 しつ つ あ る。 そ の 過 程 で 果 た した有 形 ・無 形 文 化 遺 産

 の

の 保 護 をめ ざす2004年 の奈 良 に お け る「大 和 宣 言」は 決 定 的 だ っ た 。 有 形 ・無 形 を 問 わず 普 遍 的 な価 値 に立 脚 した ユ ネ ス コの 条 約 は多 くの 加 盟 国 の 承 認 を得 る よ う に な っ て い る。 世 界 遺 産 条 約 もユ ネ ス コ加 盟 国193 力 国 の う ちす で に185ヵ 国 が 批 准 して い る。 そ の こ と 自体 は 画 期 的 な こ と で あ る し、 世 界 遺 産 教 育 に よ る普 及 も不 可 欠 で あ る。 た だ し、 そ れ が 普 遍 的価 値 の押 し付 け や 、 支 配 従 属 関 係 の 強 化 につ な が ら な い よ う に注 意 を は

ら う必 要 が あ る 。

他 方 、 資 源 は普 遍 的 な価 値 を持 ち 出 さ な く と も、 あ る い は 価 値 の 優 劣 を 論 じな くと も、 そ の ま まで 存 在 が ゆ る さ れ る 。 資 源 か ら情 報 を取 り出 す の は 、 読 者 で あ れ 来 館 者 で あ れ 、 宗 教 界 で あ れ行 政 で あ れ 、 そ の 利 用 者 で あ る 。 しか し、 あ え て「資 源」と よん で 再 編 す る こ とは 、 本 来 の 所 有 者 に と

 

っ て は 収 奪 に つ なが りか ね な い こ と も指 摘 され て い る 。

自然 に は た ら きか け「文 化 的 景 観」を 形 成 し、 有 形 ・無 形 の文 化 財 や 文 化 資 源 を創 出 した 人類 は 世界 遺 産 と い う地 球 意 識 に さ さ え られ た財 産 を人 類 の 共 有 物 と して次 世代 に送 り込 も う と して い る 。 しか し、 そ こに 含 まれ な い 無 数 の 文 化 資 源 に か こ まれ て わ れ わ れ は生 活 して い る こ と も忘 れ て は な ら な い 。 世界 遺 産 の「バ ッ フ ァ ー ゾ ー ン(緩 衝 地 帯)」や「文 化 的 景 観」

に と どま ら な い の で あ る 。 そ の意 味 で 、 世界 遺 産 教 育 は文 化 資 源 教 育 に よ っ て補 完 され る こ とが の ぞ ま しい 。 あ るい は 、 両 者 を あ わせ て 地 球 情 報 教 育 と で も雷 うべ き高 次 の レベ ル に シ フ トす る必 要 が あ る の が も しれ ない 。

〈付 記 〉本 稿 の 一 部 は 日本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 補 助 金「産 業 と文 化 の 経 営 人 類 学 的研 究」(研 究 代 表 者:中 牧 弘 允 、2007‑2008年 度) に よ る熊 野 とサ ン テ ィア ゴ の調 査 に も とつ い て い る。

(国立 民 族 学1専物 館)

(15)

[注]

1)た と え ば2002年11月 に は イ タ リ ア で「遺 産 の 共 有 、 共 通 の 責 任(Shared Legacy,Common  Responsibility)」を テ ー マ とす る ワ ー ク シ ョ ッ プ が 開 催 さ

れ て い る 。Mobilizing  Young  People  for World  Heritage(World  Heritage  Paper8), UNESCO  World  Heritage Centre,2003.ま た 、PatrimoJlito(「遺 産 っ子」の 意 味)と 命 名 され た 子 供 の キ ャ ラ ク タ ー を使 っ て 各 種 の 教 育 プ ロ グ ラ ム や 教 育 キ ッ トが つ く られ て い る 。

2)塩 路 有 子 『英 画 カ ン ト リ ー サ イ ドの 民 族 誌 一 イ ン グ リ ッ シ ュ ネ ス の創 造 と 文 化 遺 産 』(明 石 書 店 、2003年)96‑98頁 。

3)総 合 編 集 内 堀 基 光 で 『資 源 人 類 学 』 が 全9巻 、 弘 文 堂 か ら2007年 に刊 行 さ れ た が 、 巻 毎 の タ イ トル は① 資 源 と 人 間 、 ② 資 源 化 す る 文 化 、 ③ 知 的 資 源 の 陰 と 陽 、 ④ 躍 動 す る 小 生 産 物 、 ⑤ 貨 幣 と 資 源 、 ⑥ 自然 の 資 源 化 、 ⑦ 生 態 資 源 と象 徴 化 、⑧ 資 源 と コ モ ン ズ 、 ⑨ 身 体 資 源 の 共 有 、 で あ る 。

4)梅 樟 忠 夫 『情 報 の 文 明 学 』(中 央 公 論 社 、1988年)194,207頁 。

5)松 浦 晃 一 郎 『μ1堺遺産一 ユ ネス コ事 務 局長 は 訴 え る』(講 談社 、2008年)66‑74頁 。 6)松 浦 、 前 掲 書 、60,93頁 。

7)コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に は 送 り手 と受 け 手 が あ る が 、 情 報 に は 受 け 手 しか 存 在 し な い と い う の が 梅 悼 忠 夫 の 晴報 論 で あ る 。 そ し て す べ て の 存 在 、 そ れ

自体 が 情 報 で あ る と定 義 さ れ る 。 梅 樟 、 前 掲 晋 、192‑193頁 。

8)順 番 に 、 自 然 の 劣 化 、 自 然 災 害 、 戦 争 や 内 戦 に よ る 破 壊 、 人 為 的 な 破 壊 、 経 済 開 発 優 先 に よ る 脅 威 、 都 市 開 発 に よ る 脅 威 、 そ し て 観 光 事 業 の 増 加 で あ る 。 松 浦 、 前 掲 ㌃1}:、175‑248頁。

9)イ 公孝 甫、1拘ヨ 易雫1芋 、241‑244三 宴。

10)コ エ リ ョや カ ー ケ リ ン グ に は 巡 礼 に 関 す る 数 か 国 語 の 著 作 が い くつ か あ り、

代 表 的 な もの は次 の とお りで あ る 。

• Coelho, Paulo El Pcregrino de Compostela (Ditirio de un mago) Barcelona:

Planeta,1990.

• Coelho, Paulo Pilgrim Stories: On and Off the Road to Santiago, Journeys Along an Ancient Way in Modern Spain. University of California Press, 1998.

• Kerlcling, Hape Ich bin darn mal weg: Meine Reise auf dem Jakobsweg. Malik

(16)

Verlag  GmbH,2007。

11)姉 妹 道 提 携10周 年 記 念 と して「祈 りの 道 サ ン テ ィ ア ゴ巡 礼 の 道 と熊 野 古 道」と 銘 打 つ 写 真 展 が 和 歌 山 県 情 報 交 流 セ ン タ ー 、 州 田 み つ を美 術 館 、 サ ン テ ィ ア ゴ ・デ ・コ ン ポ ス テ ー ラ 大 学 附 属 教 会 ギ ャ ラ リ ー で お こ な わ れ た 。 12)文 化 資 源 学 に 関 す る 詳 細 は 以 下 を参 照 。 佐 藤 健 二「文 化 資 源 学 の 構 想 と 課 題」山 下 晋 司 責 任 編 集 『資 源 化 す る 文 化 』(資 源 人 類 学02)(弘 文 堂 、2007 年)27‑69頁 。

13)あ え て相違 を あ げ れ ば 、 東 京 大 学 の文 化 資 源 学 は「お と ・か た ち ・こ と ば」

と い う観 点 か ら文 化 を 再 認 識 し よ う と し 、 大 学 共 同利 用 機 関 の 国 立 民 族 学 博 物 館 で は 有 形 無 形 の 資 料 の価値 を あ ら た に 見 出 し、 広 く社 会 と共有 して い こ う と す る 姿 勢 が 強 い 。 フ ォ ー ラ ム の 詳 細 は 『文 化 資 源 學 』6、2008年 、 91‑111頁 参 照0

14)松 浦 、 前 掲"1:、52頁 。

ユ5)森 山 工「文 化 資 源 使 用 法 一 植 民 地 マ ダ ガ ス カ ル に お け る 『文 化 』 の 『 資 源 化 』」〈山 下 晋 司責任 編 集 『資 源 化 す る 文 化 』 資 源 人 類 学02、 弘 文 堂 、2007 i,ll)65‑67頁

16)ホ ブ ズ ボ ウ ム 、 エ リ ッ ク&レ ン ジ ャ ー 、 テ レ ン ス(前 川 啓 治 ・梶 原景 昭 訳)

『創 ら れ た 伝 統 』(紀 伊 国 屋書 店 、1992年)。

17)ブ ル マ ン、 ク リ ス トフ(岡 美 穂 子 訳)「ボ ン ・デ ・ザ ー ル の 白 紙 撤 回 と 市 民 運 動 一 京 都 の フ ラ ンス 橋 は な ぜ 架 か ら な か っ た の か」(中 牧 弘 允 ・ミ ッ チ ェ ル ・セ ジ ウ ィ ッ ク 編 『日 本の 組 織 一 社 縁 文 化 と イ ン プ ォ ー マ ル 活 動 』 東 方 lLv仮、20̀}3イi⇒23‑36頁

18)拙 稿「創 造 的 な 文 化 都 市 を め ざ して 一 そ の 戦1略的 展 望」中 牧 弘 允 ・佐 々 木 雅 串 ・NIRA編 『価{111を創 る 都 市 ヘ ー 文 化 戦 略 と 創 造 当il市 』(NTT出1坂 、 2(,08イ ド)9ズ 〔 。

19)松浦、前掲書、59頁 。 20)松浦、前掲書、305頁 。

21)岩 本 通 弥「現 代 日本 の 文 化 政 策 と そ の 政 治 資 源 化 一 『ふ る さ と資 源 』 化 と フ ォー ク ロ リ ズ ム」(山下 晋 司 箕 任 編 集r資 源 化 す る 文 化 』 資 源 人 類 学02、

弘文

堂 、2007年)269頁 。

参照

関連したドキュメント

に転換し、残りの50~70%のヘミセルロースやリグニンなどの有用な物質が廃液になる。パ

 The World Cultural Heritage "Maya Site of Copan" is located at the town of Copan Ruinas, Honduras, Central America. A digital museum was established here in 2015

しかしマレーシア第2の都市ジョージタウンでの比率 は大きく異なる。ペナン州全体の統計でもマレー系 40%、華人系

 固定資産は、キャッシュ・フローを生み出す最小単位として、各事業部を基本単位としてグルーピングし、遊休資産に

粗大・不燃・資源化施設の整備状況 施設整備状況は、表−4の「多摩地域の粗大・不燃・資源化施設の現状」の

に文化庁が策定した「文化財活用・理解促進戦略プログラム 2020 」では、文化財を貴重 な地域・観光資源として活用するための取組みとして、平成 32

生活のしづらさを抱えている方に対し、 それ らを解決するために活用する各種の 制度・施 設・機関・設備・資金・物質・

宗像フェスは、著名アーティストによる音楽フェスを通じ、世界文化遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」とそれ