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直接投資 とホス ト国の戦略的輸出政策

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Academic year: 2021

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直接投資 とホス ト国の戦略的輸出政策

要 約

自国と自国に立地する多国籍企業が第 3国 市場において他の国の企業 とクルーノー競争を行っている状況が想定される。自国政府が自国企業 と自国に立地する多国籍企業に差別的な政策を行わない状況において, 自国政府の最適輸出政策が考察される。

各企業がそれぞれ一社 しかない状況では多国籍企業の費用が他の企業 の費用に比べて十分に大 きい場合には自国政府の最適政策は輸出補助金 となり,そ うでない場合には輸出税 となる。また,各 企業の費用が同じ 状況において多国籍企業の企業数が他企業に比べて十分に小 さい場合に は補助金,そうでない場合には輸出税が最適政策となることが示 される。

│まじめに

戦略的貿易政策の分析 は Brander and Krugman(1983)及 び Brander and Spencer(1984,1985)を晴矢 としてこれ まで さまざまな状況の下で 分析がなされて きた。それ らの分析 の中で Dixit(1984)で得 られた結果 は,企 業が立地 していない第 3国 の寡 占市場 において各企業が数量で競 争す る場合 には自国企業 に対 して補助金 を与 えることが各国政府の戦略 的政策 とな り,ま た企業が価格 で競争 を行 う場合 には,各 国政府の戦略

(1)

(2)

論 説

的政策は輸 出税 を課す とい うものであった。数量競争の場合 には戦略的 代替 関係 にあ り, 自国政府 は 自国企業 に補助金 を課す ことによ り自国企 業の生産量 を増加 させ,そ の ことによ り外 国企業の生産量 を減少 させ る のである。 また,価 格競争の場合 には戦略的補完関係 にあ り, 自国政府 が 自国企業 に課税 をすることにより自国企業の価格 を増加 させ,そ の こ

とによ り外国企業の価格 も増加 させ るのである。

しか し,近 年多 くの大企業あるいは多国籍企業は直接投資により外国 市場に供給を行 うケースが増加 している。このような直接投資の政策ヘ の影響を扱ったものにJaneba(1998),Ish五(2001),落合 (2004)が挙 げられる。Janeba(1998)に おいては自国と外国の間で企業の生産プラ ントの移動が費用なしに行える場合には最適輸出補助金はゼロとなるこ とを示 した。落合 (2004)は企業が外国にプラントを設置する際にコス トがかかるならば,市 場における競争が数量で行 う場合には政府の最適 政策は補助金 となり,そ の率はある程度までプラント設置コス トととも に増加す るとい うことを示 した。また,Ishii(2001)は Brander and Krugman(1983)及 びBrander and Spencer(1984)の相互ダンピング モデルに企業の直接投資の可能性を導入 した。その結果は政府の最適補 助金はゼロとなるというものであった。

以上の文献においては政府は直接投資を自国あるいは他国に誘導する ために補助金あるいは課税 を行 うケースが考察されていた。 しかし,多

くの場合にはすでに自国に立地 している企業に対 してはどのような政策 を行 うのがよいのかといったことが問題 となろう。このようなことを分 析 しているのが Lai(2002)で ある。L」 (2002)においては優れた技術 を持つ外国企業が直接投資により自国企業に立地 し, 自国企業に対 して 技術がスピルオーバーする状況が分析 されている。この技術のスピル オーバーが外国企業の生産量の増加関数であるあると仮定され,第 3国 で競争する自国企業 と外国企業に対する最適政策が分析 されて,そ の結

(3)

直接投資とホス ト国の戦略的輸出政策 果 ス ピルォーバ ー の影響 が大 きい場合 には外 国企業 に対 して補助金 を貸 すことが自国政府の最適政策 となることが示 されている。

Lai(2002)の分析においては自国企業 と外国企業の間で自国政府は差 別的な政策を行 うと想定されていた。こういった想定を行 うと早晩技術 のスピルオーバーの影響はなくなり,そ の結果自国政府は外国企業の生 産量をゼロするような禁止的な課税 を行 うことが最適な政策となろう。

本稿においてはすでに自国市場に外国企業が立地 し, 自国政府が自国に 立地 している企業に対 しては同率の税金あるいは補助金を課すケースが 想定される。自国と自国に立地する多国籍企業が第 3国 市場においてそ れ以外の企業 とともに数量において競争を行っている場合に,各 企業の 生産コス ト及びそれぞれの企業の企業数の違いが自国政府の最適政策に

どのような影響を及ぼすのかが考察される。

本稿の以下の構成は次のようになる。2.1において諸仮定が提示 され る。2.2で は市場に存在する企業の生産コス トが異なる場合の戦略的輸 出政策が分析 される。また,2.3に おいては各企業の生産コス トはすべ て同じであるが, 自国企業,他 国の直接投資企業及び外国企業の企業数 に違いが有る場合の自国政府の戦略的輸出政策が どのようになるのかが 考察される。最後に3に おいて若干の結論がまとめられ,今 後の課題が 述べ られる。

2.諸 仮 定 とモ デル 2.1 諸仮定

ある産業において自国企業 と自国へ直接投資により立地 した多国籍企 業と自国以外に立地する企業が存在 しているとする。それぞれ,自 国企 業,多 国籍企業および外国企業 と呼ぶ。自国企業,多 国籍企業および外 国企業はそれぞれ %z,π〃および %ο社存在すると仮定する。 したがっ

(3)

(4)

論 説

て,こ の産業全体 に存在 す る企業数 は Ⅳ=%二十π〃+%。 であ り,ま た,自 国 に立 地 して い る企 業 数 は πf=%z+π 〃 とな る。すべ ての企 業 は一定 の 限界 費用 で生 産 で きる技術 を持 つ とす る。 自国企業 はすべ て 同 じ技術 を 持 ち,そ の 限界 費 用 を εzで 表 す。 同様 に多 国籍 企 業 及 び外 国企 業 の 限 界 費用 を θ″,θ。とす る。

これらの企業は第 3国 市場 (自国および外国以外の市場)でクールノー 競争を行っているとする。第 3国 市場における逆需要関数を夕=α一bχ

とする。ここで夕は価格 を表 し,X=π ノι+%ノぼy+%ο″。は市場全体の 供給である。ただし,″ι,″〃及び″。はそれぞれ対称的均衡における自 国企業,多 国籍企業及び外国企業の生産量をあらわすとする。

以下で考察されるゲームは次のような2段 階で行われると仮定する。

まず,第 1段 階において自国政府が自国に立地 している企業に対 して課 す補助金あるいは税金を決定する。その後,第 2段 階において第 1段 階 において自国政府により決定された課税 あるいは補助金 と他企業の生産 量を所与 として,各 企業は自企業の生産量を決定するものとする。この ゲームは通常行われるように第 2段 階からバ ックワー ドに解かれる。

2.2 費 用格差 と最適政策

この節では企業間の費用格差が自国政府の最適政策にいかなる影響を 与えるのかを考察するために自国,多 国籍及び外国企業の企業数を 1と する。まず,第 2段 階の企業の生産量の決定を考察する。各企業は自国 政府の補助金率 と他の企業の生産量を所与 として, 自企業の利潤を最大 化する。このとき,自 国企業 と多国籍企業の利潤は補助金 πが与えられ

るので,

π′= 0 ‑ ε′十% ) ″,   J = { 二, 〃〕      ( 1 )

とな る。 また,外 国企業 の利潤 は 自国政府 か ら補助 金 が与 え られ ないの

l l

(5)

て[ ' ,

πο= ゛―εθ) ″ο

となる。利潤最大化 の 1階 の条件 はそれぞれ

= α一b X 一の十% 一b ″f = 0 ,

聖整= α̲ b x ̲ θ。―" 。= 0

直接投 資 とホス ト国の戦略的輸 出政策

( 2 )

={二, 14         (3)

(4)

とな る

。( 3 ) , 1 4 ) から, こ のケ ース にお け る各 企 業 の均 衡 生産量 ( ″: , グ= { L , M O } ) は それぞれ

α+2%‑3ε z+θ ″+ε θ

∬E=

″抒=

″2=

4 b

α+2%‑3じ 〃+θz+θ θ 4 b

α‑2z‑3̀ο 十 ̀二十̀〃

4b

(5)

(6)

(7) となる。(5)〜(7)から,各 企業の生産量 はその企業の限界費用 の減少 関数 であ り,他 企業の限界費用 の増加 関数である。 また, 自国企業 と多 国籍 企業の生産量 は自国政府の補助金率の増加 関数であ り,外 国企業の生産 量 は補助金率の減少関数 となっている。

次 に第 1段 階に戻 って, 自国政府の補助金政策 を考察す る。 自国政府 の 目的は自国の経済厚生 を最大化す ることにあるとす る。すなわち, 自 国政府 は自国企業の利潤か ら補助金 を引いた ものを最大化す る。 自国の 経済厚生 を ωェで表す と,

W二=πz %け 二十″勁

( a l Z u - S c r * cu* cdz _ u(a*Zu- ct- cu* co) 1 6 ら      2 b

となる。(8)の最大化 のための 1階 の条件 は = 二 土

f 二

呉奏デ= 2 量三互一生

= 0 ( 9 )

( 5 ) (8)

(6)

論 説 とな る

。 ( 9 ) を整 理 す る と,   自 国 の最 適 補 助 金 は

〆 = (10)

というように求め られる。(10)から, 自国の補助金率は自国企業 と外国 企業の限界費用の減少関数,多国籍企業の増加関数 となることがわかる。

これは次のように考えられる。自国政府は補助金を与えることにより, その戦略効果,(自国企業の反応曲線をシフ トさせ,外 国企業の生産量を 減少 させること)に より自国の経済厚生を高めようとする。このときに 自国企業の市場シェアが大 きいほど,ま た外国企業のシェアも大 きいほ ど戦略的効果 も大 きくなる。また,多 国籍企業への補助金は自国にとっ て二重の意味で経済厚生の損失を意味する。多国籍企業への補助金は直 接的に補助金額だけ自国の経済厚生を押 し下げる。また,間 接的には補 助金による多国籍企業の生産量の増加が市場価格の低下をもたらす。自 国の最適戦略が補助金 となるのは(10)が正 になる場合である。すなわ ち,̀〃>(α+θ二十θο)/3が成立するケースとなる。 したがって,多 国籍 企業の費用が自国企業 と外国企業に比べてかなり高い場合にのみ補助金 を与えることが最適政策 となる。すべての企業の費用が全 く同じケース ではこの条件は θ>α とな り,成 立 しない。すなわち企業が同じ技術 を 持っている場合には課税を行 うことが最適政策 となる。

2.3 市 場における企業構成 と最適政策

ここでは市場に存在する企業数がホス ト国の輸出政策にどのような影 響を与えるか考察するために企業間に費用格差 はない とする。すなわ ち,す べての企業は同一の技術を持ち,各 企業の第 2段 階における生産 量の決定から考察 しよう。第 1段 階において自国政府は自国に立地 して いる企業に対 して単位あた り%の 従量補助金③ を課 しているとする。

そのとき自国に立地 している代表的企業を企業 fと すると,そ の利潤は

(7)

πο=夕″ο

となる。( 1 1 ) , ( 1 2 ) の最大化 の ための 1 階 の条件 は

直接投 資 とホス ト国の戦略的輸 出政策

tr t:(plu)nr (11)

となる。外 国に立地す る代表的企業 を企業 0と すると企業 0の 利潤 は ( 1 2 )

( 1 3 )

χ′=

″6 = 澁

πЪ=解

=α ―bX+%一 b″f=0

= α―b X レ ο= O         l 1 4 1 となる°

。(13),(14)と同じ国に立地する企業は同じ生産量を選択する対 称的均衡を仮定すると, 自国と外国に立地する企業の生産量をそれぞれ

″r,″θとすると,対 称的均衡における生産量は

となる。(15),(16)から,自 国政府の補助金 は自国に立地す る企業の生産 量 を増加 させ,外国に立地する企業の生産量 を減少 させ ることがわかる。

また,自 国 と外国に立地する企業の利潤 を πr,ποで表す と,対 称的均 衡 における各企業の利潤 は

π′= [α十 %(πθ+1)]2 b ( Ⅳ+ 1 ) 2

は9

(16)

(10

(18) となる。

次に,第 1段 階に戻って自国政府の補助金率の決定を考察 しよう。自 国政府の目的は自国の経済厚生を最大化することにあるとする。ここで 自国の経済厚生は考察 している市場 は第 3国 にあると仮定 しているの で, 自国企業の利潤から補助金を引いたもので表される。

(7)

(8)

(20)

論 説

形式 的 には 自国の経済厚生 を ωιとす る と, ω二=π ιπ′一%π」rr

=     ―

″ f         m

となる。(19)を最大化するために%に ついて偏微分すると,社 会的厚生 最大化の条件,

等=2鶴 器争型

= 0 となる°

。(lo)から, 自国の最適政策 は

%″ = [ 2 % ι( π。+ 1 ) 一 πI ( Ⅳ+ 1 ) ] α

2(nort)tn'(NM

となる。(21)の右辺の分母は正であるので,最 適政策が補助金となるの か, 金 となるのかは分子の符号に依存する。(21)の右辺の分子のカッ コ内を書 き換え びとぉ くと,

U : (n t- n *)(n o * l) - (n t* n a)z (22) となる。yが 正 となる必要条件の一つは πz>%″ となることでぁる。す なわち,自国企業数が自国に立地する他国の企業数を上回ることである。

また,υ が正であるためにはそれに加 えて,(22)を変形 して, 幼 > 訃 ‑ l         o 。

πι

が成立 しなければならない。以上のことを整理すると, 自国政府が自国 に立地す る企業 に補助金 を与える条件は自国に立地する多国籍企業より も自国企業数が多いこと,か つ外国企業数がある一定数以上市場に存在 す ることでぁる。

これは次のように説明することができる。 自国政府が補助金を与える ことによ り自国に利益 を得るのは補助金の戦略的効果により外国企業の 生産量 を減 らす ことによって自国企業の利潤 を高めることにある。 もし

( 8 )

(21)

︱ ︱

︱ ︱

(9)

直接投資とホスト国の戦略的輸出政策 外国企業が存在 しないケースにおいて自国に立地する企業に補助金 を与 えれば戦略的効果がないので,  自国政府か ら補助金 を与 えた企業への移 転 となる。 この補助金の一部は自国に立地する多国籍企業へ行われるの であるが,そ れは自国にとって経済厚生のマイナス要因 となる。また, 補助金 は企業の限界費用 を低 めるので,補 助金 をうけた企業の生産量 を 増加 させ ることになる。 この効果 はさらに財価格 の低下 をもた らし,  自 国企業の利潤を減少させるだろう。以上のことか ら補助金が最適な政策 となるためには自国に立地する多国籍企業が相対的に少なくかつ外国企 業の数が多い場合だけとなる。

3.結 論 と今 後 の課 題

自国と自国に立地する多国籍企業がその他の国の企業 と第 3国 市場に おいてクルーノー競争を行っている状況が想定され, 自国政府が自国企 業 と自国に立地する多国籍企業に差別的な政策が行われない状況におけ る自国政府の最適輸出政策が考察された。その結果,各 企業がそれぞれ 一社 しかない場合に多国籍企業の費用が他の企業の費用に比べて十分に 大 きい場合には自国政府の最適政策は輸出補助金 となり,そ うでない場 合には輸出税 となり,ま た,各 企業の費用が同じ場合に多国籍企業の企 業数が他企業に比べて十分に小 さい場合には補助金,そ うでない場合に は輸出税が最適政策 となることが示された。

本稿における仮定は第 3国 市場におけるクールノー競争であったが, 多国籍企業の目的が自国の需要を目的としているなら自国市場における 競争を仮定するのが適当であろう。その場合には自国政府の目的に消費 者余剰 も考慮 しなければならない。その結果 自国政府はそうでない場合 よりも自国市場への供給量 を増やすことにより厚生 を高めることがで き,それは自国に立地する企業に補助金を与えることにより達成される。

(9)

(10)

論 説

以 上 の こ とか ら自国 にお け る競争 を想定 した場合 には,補 助金 が最適 と なる場合が広がるであろう。

今後の課題 としては本稿の想定は同質財のクールノー競争であった が,差 別化財の場合に拡張 し,特 にベル トラン競争の場合に分析の結果 が どのように変わるのかが興味あるところである。また,各 企業の企業 数の変化 (企業合併)が 政策に与える影響なども考察の対象 となろう。

0 利 潤極対 ヒのための 2 階 の条件 は

幼 , C = ム M の

た されて いる。

( 2 ) 社 会的厚生極大化のための 2 階 の条件 は = ―

: < 0 と な り, 満 た されてい る。

( 3 ) 以 下で は便宜的に% を補助金 と呼ぶが, こ れが正 の ときは補助金, 負 の ときは 税金 である と考 える。

( 4 ) 利 潤最大化 の 2 階 の条件 はそれぞれ 翌 牙= 翌

= ‑ 2 b < 0 と な り, 満 た され てい る。

( 5 ) 社 会的厚生最大化 のための 2 階 の条件 は

摯 =ズ"ο+lllzLl笏+⊃痢+」<oとな呪満

参 考 文 献

B r a n d e r , J a m e s   a n d   P a u l   K r u g m a n ,A   R e c i p r o c a l   D u m p i n g   M o d e l   o f l n t e r n a t i o n a l T r a d e , " . ルπt t αJ グ ル″薙αt t παJ   E θθπθ解たS 1 5 ( 1 9 8 3 ) . 3 1 3 ‑ 2 3 .

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(11)

直接投 資 とホス ト国の戦略的輸 出政策 Dixit, Avinash K., International Trade Policy for 01igopolistic lndustries,"

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落合 隆 ,「企業 の移動可能性,複 占市場,課 税 競争」三重大学法経論叢』第 21巻 2号 ,2004年 2月 。

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参照

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