51
レイフィールド委員会(1976)の基本的視点
一現代イギリス地方財政問題への一接近一 徳 江 和 雄
目次
1 はじめに 皿 客観的背景
皿 レィフィールド委員会の基本的視点 A 地方支出増の評価
B r地方財政責圧体制(Iocal accountability)」の意味づけ C 地方財政責圧体制の危機とその原因の解釈
C 打開策
】y1レイフイールド報告の問題点(結び)
1 はじめに
1986年,サッチャー政府は人頭税poll taxと通称される税改革をふくむ地 方財政制度の抜本的改革案を発表した。グリーン・ペーパー,Paying for
Local Government(the Dep. of the Environment,the Scotland,
the Walish Office, Jan.1986)がそれである。これはLocal Govern一 ment Finance Act 1988として立法化され,本ユ989年4月からスコットラ ンドで施行され,また来年4月からイングランドとウヱールズで施行されよう としている。
われわれの究極の目的はこの改革案を解明することにあるが,このようにア クチュアルな問題であるだけにそれの十全な解明は今後の展開を待ってはじめ て可能となろう。そこでわれわれは,そのための準備的,基礎的な考察として 過去にさかのぼり,丁度10年まえに発表された地方財制にかんする政府報告書,
レイフィールド報告の内容を検討し,グリーン・ペーパー(1986)を解明する ための比較の基準を設定することを本小論で目指している。Local Govern一 ment Finace, Report of the Co㎜ittee of Enquiry(Chairman Frank Layfield, May 1976)がそれである。
レイフィールド報告までの経過を簡単に指摘しておこう。
1 第二次大戦後イギリスの福祉国家がスタートするが,それまでの期間に 産業の変化,人口の移動,生活や福祉の要求の多様化と増大がすすめられたが,
それにもかかわらず地方制度は小規模,林立という19世紀以来の体制を維持 していた。それゆえ,戦後福祉国家の展開は,中央政府と中央関連の諸機関が 地方政府から医療,道路,ガス,公的扶助,課税標準評価等の機能を奪いつっ,
?驍「は地方行財政をバイパスして,行われた。これは,1954年にWんロブ 1
ソンが「危機にある地方政府」としておこなった批判点である。
2 ところが地方政府は50年代以降,教育,住宅を先頭にしてイギリス福祉行 政の展開において主導的役割を果してくる。だがその過程でイギリスは60年代 後半から70年代にかけて主要先進国のなかで最も深刻なスタグフレーションを 経験し,ここで旧態然たる地方政府の体制が危機的状態に陥ることが誰の目に も明らかになる。そこで,地方自治体の改組が1972/73年に行われ,続いてレ イト(地方固定資産税)廃止の強い政治的要求をバックにしてレイフィールド 委員会が地方財政全般におよぶ検討をおこなって報告を発表した・ (われわれ は,1972/73年の改組を検討する余裕を持たないので,地方財政に焦点をあて,
必要なかぎりで行政組織に言及する。2)
E 客観的背景
ここで言う客観的背景とはイギリス地方財政をとりまく政治経済環境を指し ているのではなく,レイフィールド委員会が地方財政の危機の背後にあると考 える客観的傾向を指している。それは次の三点である。
A 長期にわたり地方政府の支出は他部門にくらべて急速に増大してきたこ
と。
B 他方,それに対する唯一の税源たる地方税,Rates収入は硬直的であり,
、 ゥくして「レート・ギャップ」が拡大すること。
C これをカバーするために中央政府による補助金Grantsが相対的に急速 に増大したこと。
以下われわれは,入手しえたデータを用いてこの傾向を確証するが,その場 合,マクロの政治経済との関連でこの傾向が如何なる含意を持つのかを明らか にすることがもう一っのねらいである。
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 53
図1 イギリス(UK)総国内支出に占める地方政府支出のシェア
12.3
12
(%
) 11 ,
10.4
10
総支出
経常支出 8 8.4
7.5765 5。2
4 3.9 3.9
R
2 2.3
1 資本支出 0.8
O
195860 62 64 68197072 74 76 78 198082 84 86
囲 1974年以後,改組により水道,下水,保健サービスが地区水道,地区保健 当局へ移される。また,北アイルランドの教育,警察,消防も中央政府支 出へ移される。
(出所)Local Gover㎜ent Financial Statistics,1983/84 Table18
表1 地方政府の経常支出(1973/74)
一rcotland England and Wales Salaries&Wages Loan Charges
as per一 as per貫
Tota監 Total centage centage Other
Expend i。 Expend i一 Expend i一 of totaI Expend i一 of tota1 Expend i一
ture ture tUfe in co1. ture inCO1. ture
〔3} {31
・ 11, ② {3} ㈲ {51 〔61 (71 {81
.£m川ion £mimon £million % £million % £million
Rate Fund Seτvices:
Education .. 353 3,357 1,828 55 302 .X 1,227
H6alth&Per一
so㏄l Soc童a1 一
Servies .. 69 716 411 57 41 6 264
Po, ice&Fi re.. 68 658 513 78 24 4 121
Higllways .. 65 560 185 33 89 16 286
Hous l㎎ .. 26 283 10 3 184 65 89
lEnvironmental 71 1,011 400 40 228 23 383
Other .. .. 88 1,133 656 58 38 3 439
Tbtal Ra te Fund
@Services ●. 740 7,718 4,003 52 906 12 2,809
Hbus i㎎距veme
Account .. 197 1,208 200 17 826 68 182
Other Tradi㎎.. 61 471 183 39 111 23 177
Tbta聖expendituτe
on Seτvies .. 998 9,397 4,386 47 1,843 20 3,168
Superamua t i on
&Special Ft函s 3 335 一 一 335
Tbta1 .. 1,001 9,732 4,386 45 1,843 19 3,503
2
@ (出所) レイフィールド報告,Annex 10, Table23
H
徳江:レイフイー一ルド委員会(1976)の基本的観点 55
表2 地方政府の資本支出(1973/74)
SCotland E㎎land and Wales
New Lar雌&Exisi㎎
Construction Bui ldi㎎s
as pe卜 as per一
Total Total centage centage Other
Expend i一 Expend l一 Expend i一 of total. Expend i一 of total Expend i一
ture ture ture in col. ture in col. ture
(3) (3)
{1} (2) (3) (4) (5} (6> (7) (8}
£million £million £million % £million % £million Rate Fmd
Services:
Education ., 58 479 325 68 74 15 80
Hous i㎎ .. 38 774 10 1 40 5 724
Highways ,. 44 329 257 78 56 17 16
Sewerage .. 29 286 251 88 2 一 33
Enviro㎜ental 34 257 146 57 85 33 26
Other.. .. 24 305 210 69 30 10 65
Total Rate Fmd
Services .. 227 2,430 1,199 49 287 12 944
Hous i㎎ .. 147 1,118 822 74 256 23 40
Other Tradi㎎ 23 292 193 66 38 13 61
Tota1 .. 397 3,840 2,214 58 581 15 1,045
(出所) レイフィールド報告,Annex 10, Table24
図1はイギリス(UK)の国内総支出(total domestic expenditure)
に占める地方財政の経常支出と資本支出のシェアを示している。ここから経常 および資本支出の合計シェアが1960年から1975年にかけて7。5%から12.3%へ
と急速に増大したこと,1968年までは資本支出が,その後75年までは経常支出 が相対的によりハイペースで増大したことが分かる。国内総支出はイギリス国 内の民間部門(個人,企業)と公共部門(中央政府,地方政府,公企業)とに よる消費支出と投資の総計であるから,図1は,75年までの戦後の福祉国家と 完全雇用の政策において地方政府が積極的な役割を果したことを示唆している。
そこで第1表を参照されたい。これは1973/74年のイギリス地方経常支出をサ 一ビス別(Great Britain),支出タイプ別(England&Wales)に示
したものであるが,ここから①総サービス支出は107偉ポンドに達し,その大
半は教育(36%),住宅(16%),保健・対人社会サービス(8%)に向けら
れていること,同時に②イングランドとウヱールズの支出タイプ面からこれら 主要項目,並びに警察,消防の支出内容は人件費が過半を占めていること・か
くして③「サラリーおよび賃金」はレイト・ファンドサービス支出の52%,総 サービス支出では47%に達していることが確認される。また表2は同様な形式 で資本支出を示しているが,ここから①資本支出は42億ポンドと総経常支出K 比してそれの39%に及ぶこと,②住宅(49%),教育(13%),道路(9%)
が圧倒的であること,③資本支出の58%が新規建設であることが分かる・かく て,イギリスの地方財政支出は教育,住宅,人的社会サービス,道路,環境が 主内容をなし,戦後の福祉行政の展開において積極的な役割を果したことが確 認される。
徳江:レィフィールド委員会(1976)の基本的観点 57
図2 イギリスの消費デフレーターの変化率と失業率
(P2)
飼 75(23。〔㍉4・1) 1955 − 1980
20
74 ヒ
(17.↓26)
80(15.軌7,4)
77、
(15.6,5.7)76
79i12a
57)
10
71
(8.5,2.7)73 78(&駄a8)
70 72(6.5,3.8)
65 69
63(1,a2.4)
0 60 59
5 10 U{%}
(注) P2=消費支出デフレーターの変化率iU=失業率
(出所)失業率=労働統計年報
消費デフレーター=Nat.Lnc.&Exp.,1959,67,75;Amu.
Abst.of Sta.,1982
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蓼憩徳江:レィフィールド委員会(1976)の基本的観点 5g
ところで図2は戦後におけるイギリスのマクロ経済のパーフォーマンスを示 している。ここから失業率は1975年までは5%末満であり,殆ど完全雇傭の状 態が維持されていたと判断される。この完全雇傭の達成にたいし,地方政府支 出の増大が如何なる役割を果してきたのかという問題は一つの論点であるが,
雇傭面から見るかぎり公共部門特に地方公共部門が積極的な役割を果したこと が第3表から示される。すなわち,①1961−66年におい既に製造業では雇傭減
(254千人)が始まっているが,サービス部門の大幅雇傭増(988千人)によっ て全部門の雇傭者は954千人も増加した。②サービス部門の増加は行政・専門 職の増(553千人)によるところが大きいが,後者のうちでは地方政府部門の 増(389千人)が注目される。③反対に,1966−71年においては全部門の雇傭は 減少(831千人)するが,これは製造業のひき続く減(253千人)によるだけ でなく民間サービス部門の減(表3になし)にもよる。だが,サービス部門の うち公共部門の増(564千人),なかんずく地方政府部門の増(393千人)が 解認される。総雇傭減にもかかわらず71年の失業率を3.5%に維持するのに貢 献したことが示唆される。④71−75年においてはオイル・ショックによりハイ パー・インフレの下で製造業は激減(545千人)するが,これを上回るサービ ス部門の激増(1,163千人)によって総雇傭は増加(565千人)した。中央政 府部門の増(353千人),地方政府部門の増(265千人)が大きく貢献したわ けである。
しかし図2が示すもう一つの側面はインフレーションである。問題はこれの 地方支出に及ぼす影響であるが,地方財政支出の主要項目が経常支出では人件 費,資本支出では土地,建設という具合に相対的により急速に価格上昇をとげ る特質をもつため,地方財政支出はインフレ下では実質タームのサービスを維 持するためにも一般物価の上昇率を上回る率で上昇せざるをえなくなる傾向が ある(後述される)。レイフィールド報告はこれを「相対価格効果」と呼んで いるが,これはインフレ下において実質タームのサービスを実現することを非 常に困難にしている事情であるき
表4 地方経常収入,国民所得小売価格の平均変化率(%)
1961/62 美1966/67 著1971/72 美1975/76 升1980/81 to1966/67 to1971/72 to1975/76 to1980/81 to1982/83
Ratable V 31.7 2.5 33.0 1.7 1.5L
Rate 10.1 9.6 17.1 16.5 19.3 Gov.grants 11.5 14.7 27.2 10.6 5.8F
Misc 9.4 19.1 15.3 20.8 10.5 tot.Inc 10.4 14.2 20.4 14.6 10.7 1961−66 1966−71 1971−75 1975−80 1980−83 Nat.Inc 6.3 8.8 17.0 14.3 8.9
Retail P 3.2 5.9 14.6 14.0 7.5
(ソース) 経常収入と諸要素=Local Goverment Financial Statistics 1971−2,1983/4;国民所得と小売価格指数は,1956−80が British Hist.Sta.(1988),1981−84がAnnnal abstract(1988)
そこで客観的背景のB,Cへ眼を転じよう。表4を参照されたい。これはイ ングランドの地方財政にかんして,レイト収入,中央補助金,その他(料金や 手数料収入)とそれらの合計からなる経常収入の年平均変化率を国民所得,小
・ 売価格指数のそれとともに,表3の時期区分に対応して算定したものである。
ここから,①1956/57−1974/75年にかけて経常収入は,インフレ率のみならず 国民所得の成長率をも上回って持続的に増大する傾向を持っていたこと,②し かし経常収入の中身に注目すれば,レイト収入はこの期間相対的に低い伸び率 であるのに対し,中央補助金が経常収入トータルを上回って伸び,これをカバ 一していることが確認される。そこで,これら諸項目の経常収入に占めるシェ アを示した図3に注目しよう。すなわち,レイト収入のシェアが70年代にかけ て低落する一方で補助金シェアが増大すること,そしてかかるギャップがこの ような伸び率格差によってもたらされたことが理解される。レイト・ギャップ は地方支出にたいするレイト収入のギャップだけでなく中央補助金に対するレ イト収入の伸び率のギャップをも意味することが理解される。それだけではな い。この①,②をそれぞれ図4,5で再確認しよう。ここから,①インフレー 経常収入(経常支出)増の連動関係とともに②レイト収入の増大がこれを上回
る補助金の増大を連動させる傾向を有したことが確認されよう。これは,従来 からの警察や交通へ特定された補助金に加えてユ967/68年に包括補助金制度 Rate SupPort Grant(RSG)が設立されたことになる。これの由来や内
徳江:レイフイールド委員会(1976)の基本的観点 61
容は後述されるが,マクロ経済管理の立場からは重大な問題をはらんでいたこ とが確認される。
図3 地方経常収入に占めるレイト収入,補助金,その他収入のシェア:イ ングランド
50
陶, ノ、 ° ! °\ !〜
45 ! \、.ノ 、
如 補助金ヅ ㌧、
●
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3° 〜 M 、 、%・・一その他一 /▽ノ\
25 ↑ 八/ ノ
レイト収入 20
1r561航581r6°19621航641r661続681歌7°1航721r741航761免781gl8°1航821r84.
57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85
(出所) LGFS,1971−2,1983/4
図4 地方経常収入,国民所得,小売価格の年変化率(%):イングランド
40
㈲ 地方総経常収入
ム・
20・@ ゴ 国民所得
0・
1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 8 1 1 雷 o 雪 1 書 1 9 1 1 1 曜
57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83
(出所) 地方総経常収人=LGFS,1971−2,1983/4
国民所得,小売価格=1956−1980はBrit,Hist. Sta.(1988),
1981−84はAnnnal Abstract (1988)
図5 レイト収入,政府補助金の年増加率(%):イングランド
50
陶 爵、
@ ノ 1
Fレ訟握/ 聖曜.■8°
0翌野響讐騨響脚讐響響腎
(出所)Local Goverment Fi㎜cial S tatistics,1971−2,1983/4
では何がレイト収入の相対的伸び悩みの原因であろうか。これに対して,中 央補助金は何故に急速に増大したのか。その理由が追跡されねばならない。
イト収入の相対的な伸び悩みは,それの基礎である課税標準rateable va1一 ueの再評価の停滞が決定的である。再評価は1948年にInland Revenueへ 権限が移行され,それ以来5年ごとの再評価が義務ずけられたにも拘らず,今
日まで1956,63,73年の3回しか行こなわれていない。しかも56年のそれは 1939年の賃貸価額rental valuesによる住居資産の再評価であり,1963年に はじめて経常賃貸価額CUrrent rental ValUeSによる再評価がおこなわれた カ㍉それに続く再評価はインフレの進行に拘らず10年後までもちこされるとい
う具合に硬直的であった。
1
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 63
図6 地方経常収入と課税標準の年変化率(%):イングランド 囲180 遷
16°
@ l l
140 ii 3:
ヒ 真 ll←繍墜m 塁 ハ欝 ハ 趣一llll 鐸 3 富 ・ ㌔。...甲...2 … ._...『。。…・… …・・…・一・・._._ __ ...昌.8 .
0 ..
20
1956 1958 19601962 1964 19661968 1970 19721974 1976 19781980 1982 1 雪 I l l l , 9 1 I l l I I
57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83
(出所) LGFS,1971−2,1983/4
表5 経常収入と諸要素の平均年変化率(%):イングランド 芙1956/57 弊1963/64 芸1973/74
tσ1961/62 to 1971/72 to 1982/83 Ratable V 2.7 2.5 1.5
Rate 8.4 10.1 18.7
Gov.grants 8.2 13.4 16.2
Misc. 8.0 15.9 16.8
tot。Inc 8.2 13.0 21.0
(出所) LOC, GOV. Fin.Sta.1971−2.1983/4
税標準の再評価が停滞する一つの理由は住居家賃の市場が現実に殆ど発展し ていないことにある。が,その結果,課税標準は表5に見るように70年代前半 までは2%台という資産ストックの構成変化を反映する伸び率にとどまり,他 方では,いざ再評価が行われた時には飛躍的に上昇し,イングランドでは伸び
は1963,73年で各177.8%,159.6%に達した(図6を参照のこと)。硬直な課 税ベースの下では,インフレを別にしても,増大するサービス需要をまかなう
6
スめに税率rate poundageの不断の上昇が要請される。だが,課税標準の再 評価が長期にすえ置かれた後の再評価の突然の大幅アップが課税総額rate
billの大幅引き上げ,っまり大幅増税をもたらし,レイト徴税が重大な政治問 題に転化したことに注意すべきである。すなわち,大幅増税は広汎な不満や抗
議を引き起し,歴代の政府はこの問題にたいし政治的に神経過敏にならざるを えなかった。
そこで中央政府による補助金は次の二つの理由にもとずいて増大したと考え ることが出来る。
①教育,住宅等の福祉行政が戦後立法にもとずくナショナル・サービスと して地方政府に要請され,また後者は実際にこれを充分果してきたことは既に 見たが,他面上記のようにレイト課税が限界を持つことを中央政府は充分承知
していたことによる。
② かかる事情を背景としっっも,課税標準の再評価の直後に起った大幅増 税や税率格差の拡大による政治的圧力の昂揚を中央政府は回避する必要を感じ ていたためである。
最後に,補助金増大の主な契機を要約すると次のようになる。
1。1963年の再評価時には大幅増税に対する広汎な抗議がまきおこり,アレ ン委員会の圧命(1964),そしてレート・リベート制の導入による低所得者にた いする負担軽減へと導いた。続いて1967/68年にはRates Support Grant
(R.S. G)が,1958年の一般交付金General Grantの発展的解消として設 立された。これは,地方ニーズおよび税源の均等化を目指すとともに住居資産 7 ヨのレイトを軽減する制度,domestic reIief systemを確立した。
2。10年後の73年の再評価では全資産は平均で153%(住居用159%,
8
、業用186%,工業用130%,その他資産112%)の引き上げをもたらした。
しかし今度は,ハイパー・インフレの進行,1972/73年の地方行政の改組(そ れに伴う諸費用の急増)というマイナス要因が加重され,税率の大幅アップと その地域間のバラツキは拡大した。それだけではない。1974年に時の保守政府 によるRSGの手直し(資金配分の変更)が一層の税率の引き上げと地域間の バラツキの拡大をもたらし,広汎な抗議をまねき特別の救済,special relief をおこなわざるをえなかった,という事態が加わる。しかし同年,後続の労働
党政府も同様の過程,RSGの手直し,税率アップとバラッキの拡大,を繰返 9しdomestic reliefの引き上げをおこなわざるをえなかった。
3。かくてRSGの住居レイト軽減措置は,イングランドで1967/68年RS G導入時のポンド当たり2p5dから1974/75年の13 p,1975/75年の18.5 pへ 10
ニ増大した。
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 65
班 レイフィールド委員会の基本的視点
本節はレイフィールド報告に流れる基本的視点を確定することを目的として いる。このため次の点を検討する。すなわち,同委員会による地方支出の増大 傾向の評価,「地方財政責圧体制」の意味づけ,地方財政の「危機」の解釈,
最後に,同委員会による打開策の4点である。
A 地方支出増の評価
前節でわれわれは地方支出増一レイト・ギャップ拡大一中央補助金比の増大 という傾向を検討したが,レイフィールド報告第2章が同じ傾向を述べており,
実際われわれもこれに依処したのである。しかし当委員会の特徴の一つは,地 方財政支出の増大傾向をやむおえない事情にもとずくものとして基本的に肯定 する立場を取っていることである。その事情として次の点があげられる。
① 地方財政支出増と雇用増の殆どは議会の立法にもとつくものであり,そ の背後にはより広範囲にわたる公共サービスへの大衆的期待,とくに主なサー ビス水準(standards)の向上への要請があった(ch.5, para.4,p65)。
②そこには世帯数や老齢人口の増大という人口学的要素による所与の水準での サービス支出の増大も含まれていた。③地方自治体や政府省庁は1960年代後半 から1970年代初めにかけてのサービス急増に慣れていた。④地方サービスは職 員数や共同利用施設などが主なものであるため,かなりな支出の突然の増減を 行うことが非常に困難な性格を有していた。⑤資本支出プロジェクトは,将来 多年にわたって人員増,債務返済増,運営費増を地方財政に課すことになった。
⑥地方自治体のコントロールの及ばない所で生ずるインフレーションや賃金増 加が支出を一層膨張させた。 (ch.2,para.35,68)
むろん,委員会は,部分的にみられた浪費や改組に伴う諸費用の急増(新庁 舎や管理用建物の新設,職員の給与や待遇を過去に到達した最高水準へ引き上 げたこと等)を鋭く指摘しているのを看過できない(ch.2,para.50〜52)。
しかし委員会は地方財政支出の増大傾向をやむをえぬものとして基本的に正当 視していることは,問題の所在が支出よりも収入(レイト,補助金)にあると
いう当委員会の基本的視点を示している。
B 「地方財政責任体制」 (local a6countabl l ity)の意味づけ
報告の第3章でレフィールド委員会がこれを定義する場合,まずlocal democracyによって基礎づけをあたえ,ついで市場に登場する買手のもつ accountabilityと対比しつつ,その内容を展開している。まず前者にかんし て,以下の文を参照されたい。
「地方自治体local authoritiesは,議会parliamentの外部にある唯一 の選出された政治団体である。それらは,それによって人々が自分の地域にお いてサービスや共同施設利用amenitiesにかんする決定に参加することが出 来るものである。それ故地方政府10Cal gOVernmentは固有の権利として民 主主義democracyを推進しうる価値を持っている。無数の地点で,さまざま な政治的志向や種々な背景をもった人々によって決定がなされることにより・
それは,政府の決定に含まれる画一性uniformityにたいする対抗物として働 く。それは政治的力量を拡大する。」(ch.4,P53,14パラ)
こうして地方政府はlocal democracyに立脚することが確認されるが,後 者がaccountabilityを保証するのは,地方政府が地域住民,地域選挙民に最 も近くにいることによってかれの意志や要求を直接に反映させることが出来る からである。だから地方財政責圧体制とは,地方政府が選挙民にたいして
accountableでなければならないことを意味するが,その場合,地方政府の サービスと支出の展開が地方のニーズや好みにもとずかねばならないだけでな く,同時にそれを賭う収入(税収入)も確保しうるものでなければならないと いう意味を持っている。 「支出の遂行に責圧を負うものは誰であれ,必要な収 入をあげるところにも責任を負うべきである。」 (ch.3,para.44,p62)
それ故マーケットに登場する買手の立場に近ずくほど10cal accountabil一 ityは増大するという考えに対して,レィフィールド報告はむしろ・種々の時 点における納税者とサービス受益者との利害の不一致を認めつつ,次のように 述べる。
「これらの対立する利害は,誰であれサービス提供のために多少の金を費や す決定に責任をもつものが,これに対応する多少の課税をすべきか否かを決定 することにも責任をもつならば,そのときにのみ満足が得られるように和解さ せられる。」 (レイフィールド報告,p50,3パラ)
市場の買手は,自らが行う買いという行為のaccountabilityを自分の財布
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 67
の中身によって,つまり支払能力によって自分自身にたいし 確証しなければ ならない。これは,収入→支出という一方的な規定関係である。これにたいし てレイフィールド報告では地方政府は収入面でも支出面でも選挙民にたいして accountableでなければならないが,両者の間には対立,アンバランスがあ りうること,しかしその場合,支出にふさわしい収入(税源)を確保する権限 をもつことによってこれを解決しうるとしている。つまり,収入→支出だけで なく,支出→収入という交互的な規定関係に他ならない。
では,地方政府は対立しうる両面をどのように調整するのか。逆に,如何な る理由によって両面の調整は不可能になるのか。これは実は危機の原因を問う ことに他ならない。これの解答を求めて,もうすこし委員会の言うところをフ オローしよう。
委員会は地方政府が10cal democracyに立脚すべきであるという保守,労 働の主張を引用することからスタートする。そして地方政府がサービス行政に おいて自由裁量discretiOnを発揮しうる地方税が不可欠であるとして,地方 税の条件(地方性,透明性perceptibility),選挙民への直接課税,課税査
定の統一性,理解しやすいこと(comprehensibility)を述べる(ch.4,
para.17)。だが,地方財政責任体制はあくまでもイギリスという単一国家内 でのそれであるから,中央政府と地方政府との関係が提起する次の問題が考慮 されねばならない。
①中央政府は全体としてのマクロ経済管理に責任をもつが,全体としての地 方財政支出はこれと整合するように中央・地方政府間の合同調整co−ordina一 tionが行われなければならない。地方財政責任体制は地方支出と地方収入の バランスだけでなく,全体としての地方財政のマクロ経済との調整も含意する。
②地方政府が提供するサービスにたいし,その支出を誰が賄うべきか,中央 政府か,地方政府か,という財政責任(financial responsibiIity)問題 が生ずる。これは,サービス行政を担う行政責圧とそれに対する支出を担う財 政責任との対応関係の問題である。委員会は言う,地方自治体が提供するサー ビスの支払いを誰が引き受けるべきかを決める基準は,そのサービス提供にお いて地方自治体が自由裁量を発揮しうる性格のものか,それとも完全に統一的 なやり方でしか提供されなない性格のものか,という点に求められる,と
(ch.4,pa ra 39,P60)。だから,支払いにかんする財政責圧の在り方は,サ 一ビス提供の属性の相違,Iocal discretionかnational uniformか,の
区別に対応する行政責任の在り方と統一して考えている。これを図示すると,
表6のようになる。
表6
Local accountability Central accountability
行政責任 地方自治体 中央政府
サービス Local discretion National uniform 財政責任 地方自治体 中央政府
税 LOCal taxes National taxes
Local responsibility Central responsibility
地方自治体が自由裁量を持ちうるサービスは当然地方自治体の行政責圧下に 置かれなければならないが,同時にそれの支出にかんする財政責圧も地方自治 体の下に置かれなければならないし,且つまた,そのために地方自治体は支出 を賄うにたる地方税を持たねばならない。おなじことは,中央政府にかんして も,national uniformに提供されるサービスにたいする中央政府の行政責 圧は,これを賄う国税による中央政府の財政責圧と結合されねばならない。
委員会のlocal accountabilityは,このように財政責任と行政責圧とが 一体となったシステムを想定している。それ故,地方自治体は支出,収入の両 面で選挙民にaccountableでなければならないが,両者のバランスを如何に 達成するのかという問にたいする答えは,このようなシステムによって保障さ れる,と委員会は考えていたと,われわれは判断する。何故なら,かかるシス テムが実現されるならば,それは同時に透明perceptibilityと明瞭性comp一
rehensibilityを伴い,財政の自律性,独立性を高めるから,と考えている 11
ゥらだ。
このような立場から,課税委託制preceptingをとる1972/73年の改組や国 税収入の地方割り当て方式は透明性や明瞭性を破壊し,かくてaccountability を破壊するものとして鋭く批判することは後述される。ここでは,local ac
accountabilityのかかる理解が,かかるaccountabilityを確立した地方自 治体にたいし強い自律性,独立性を与えることによって,中央責圧体制と地方 責圧体制へと責任体制を鋭く峻別する理解にっながると,考えられる。だが,
中央責圧体制と地方責圧体制への区分は,行政責圧の所在と同様にサービス提
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 69
供の属性によって決定される。だが,教育にせよ住宅にせよ,何処までが national uniformに提供され,何処までがlocal discretionaryに提供 されるのか。かかる区分を科学的に与えることは,今日まで不可能である。今 日までnational standardsとして認められてきたものは,議会内外の利害グ ループ,専門家集団,大衆の政治的プレッシャに対応して確立されたものであ
り,かかる圧力の変化にともなって不断に変化しているものである。責圧体制 を確立する残された道は,二者択一の政治的決断ということになる。しかし,
中央責任体制か地方責任体制かの二者択一方針は,サービスの定義の困難性よ りも,財政責任と行政責圧との統一としてaccountabiIityを捉える理解にも とずいている,とわれわれは考える。
C 地方財政責任体制の危機とその原因の解釈
前節ではレイフィールド委員会の「地方財政責任体制」を検討した。かかる 立場から前節でみた補助金比の増大傾向は,地方財政責任体制の崩壊過程とし て,また同時に中央集権化として捉えられる。本項ではこれの具体的な諸形態 を第3,5章によりつつ要約するが,後半では委員会が考える危機の原因を考 察する。
① まず,通常の財政収支の面からみて,地方財政が増大する支出を中央補 助金に益々依存しつつ賄うようになると地方支出は地方税収入とは無関係に増 大する(ch.5,para.23,p72)が,他方では補助金比が高かまるほど,補助 金の僅かな変動は,支出が変動することがなくても,これをカバーするために 税率の大幅な変動を不可避にする(ch.5,para.10,P67;Annex 13)。たし かに,RSGの増大は,居住資産課税を可処分所得比で2.4〜2.5%というよ うに低位安定化させた(Annex10, Table27,P386)が,納税者には支出・課 税関係を著しく不明瞭にしたし,他方では投票権を持たない非居住資産(商,
工)課税をアンバランスに増大させた。
② しかし,補助金の増大は,行政責圧と財政責任との分裂をもたらした
(ch.3,para 6,p40)。補助金比の増大は理論的には支出の変動を税率に敏 感に反映させるが,RSGのシステムによって今年の地方支出の実績が翌年の 補助金の大きさを決めるため,今年の支出増は翌年の補助金増に吸収され税率 に反映しない結果をもたらしている。かかる事態はcounsillorにとって支出
・地方税関係を不明瞭にするものがあるが,地方納税者にとってはなおのこと 地方支出増の真のコストを不明瞭にするものに他ならない。その根本的な理由 は,補助金の存在が地方行政責任当局から財政責圧を疎外していることにある。
③ なによりも補助金比の増大は地方政府の中央への依存意識を高めること になる。財政的依存の増大は地方政府自身が財政上の自律性autonomyを喪失 させ,支出にたいする管理能力を喪失させる傾向を生む。すると,それに代っ て中央政府による規制や指導が強化されざれをえなくなる(ch.5,para.25,
P72)。行政面においても地方政府は細部にわたり指導や勧告に益々依存する ようになり,自ら行政責圧を引き受ける意志を喪失させる(ch.5,para.19,
p70)。すなわち,補助金比の増大は,地方政府の方から中央集権化への土壌 を育成している面がある。
④ 60年代後半から70年代にかけてインフレーションが加速化すると中央政 府による地方支出の水準や税率水準をコントロールしようとする関心が急速に 高まった。レフィールド委員会は,補助金比と政府介入との直接的関係を立証 することは出来ないが,という慎重な言い回しをしつつ,7頁,18節にわたっ
て中央・地方政府間関係史における中央集権化の事実を力説するくbh 5,para. 127,p66)。以下4点を示そう。
1 1960年代,教育サービスにおいて増大する政治的圧力によって中央政府 は細部におよぶ介入を行った(ch.5,para.5,f.n.5)。1969年,住宅コスト 決定においてParker Morris Standardsがガイドラインとして導入された が,補助金制限,起債認可有資格費用への制限へと転化した(ch.5,para.15
P69)
11 r公共支出調査」 (Public Expenditure Survey)は1961年に地方 財政を含むマクロ経済管理のための予測と政策調整の手段として開発されたが,
(ア地方自治体の参加がないこと,(イ吟日では地方政府支出を規制するためのシ 一リングへと性格を転化させたという問題を持つ。
lli資本支出では包括起債認可(block loan sanction)のように規制緩 和の試みもあったが(ch.5,para.14,p69),基本的に資本支出とその配分 は狭い枠内に閉じ込められていた。認可決定は,予測される収入面への影響を
、 一 l慮するなく,つまり地方自治体と各省庁とがシステマチックなコーディ不一アイ
ングをすることなしに,バラバラに行われた。また,認可の際には過大申請の 傾向をもち,将来における地方経常収入を圧迫した(ch.3,para.12,p42;
、
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 71
ch.5, para.17,p70)
iv RSGは既に見たように,レイト上昇を緩和し,同時に地方政府に裁量 的支出を保障するための補助金として1967/68年に導入されたが,今やインフ
レと支出膨張の下で回状や勧告で細部にわたる指導,介入の機構へと転化した
(ch,5,para.19,p71)。基準支出(relevant expenditure)は補助金を 資格ずける支出として開発され,はじめは中央・地方の共同予測作業によって いたが,今や,それは政府の支出目標を実現するための手段に転化した(ch.
3,para.11,P41−42)。
だが,かかる中央統制の強化は,local accountabilityの崩壊に繋がる。
というのは,中央統制の強化は地方自治体の行政責任の形骸化に他ならず,こ れは,地方政府によるサービス,支出の決定があくまでも地方的ニーズ,地方 の選好preferenceにもとずいて行われ,そして地方税収入の決定もかかる支 出に関連して行われるという関係の崩壊に他ならないからだ(ch.5,para.24
P72)。
⑤ また,地方財政収入のうち中央政府によってさまざまに管理された補助 金のウェートが高まれば,地方政府が自由裁量的に行う支出の余地が狭められ るのは当然である(ch.7,17パラ)。つぎは地方自治体の現実を重苦しく伝え ている・「既存サービスの拡大や新規サービスの創造が益々政府によって決定 されることになるもう一つの結果は,地方自治体に利用可能な資源の大部分が 先取されることであった。これら中央決定の支出項目と,自分らの地方税源の 非弾力性との間の板ばさみを受け,貨幣支出における彼らの自由裁量は圧縮さ れた。」 (ch.5,para.8,P67)。
かくして,補助金比の増大とはレイフィールド委員会にとっては中央集権化 と地方財政責任体制の危機に他ならない。では,その原因は何処に求められる のか。結論を先取すれば,レイフィールド報告は,全体としての地方財政にか んする責圧体制の欠如(lack of a coherent system)に求めている(レ イフィールド報告,p49, p 238)。すなわち,単に地方政府があるいは中央 政府がというのでなく,両政府を含んで全体として地方財政にかんする責圧の 所在が不明確であること,あいまいであることambiguityに危機の原因を求 めている(ch.4,para.1,2P49)。
中央統制の強化につれて地方政府と地方選挙民の責圧が次第に失われていく ことは明らかである。だが,中央政府によるシーリング(PES)の設定やガ
イドラィンの通達が地方の特殊事情やトレンドを考慮しないものであることが これを促進している。しかし,かかる中央集中化は,同時に中央政府の側にお ける全体としての地方財政にかんする責任の不明確さと表裏の関係である。環 境省(the Dep.of Environment)は固有のサービスに加えて地方政府に かんする全般的責圧(overall responsibility)をとることになっているが
(ch.3,para.17,p44), R SG交渉において地方支出にかんする他省庁との 調整にあたるものの,RSGを越えては多くは行わない(the first Report
of the House of commons,Expenditur Co㎜itee,1975/76)。他方,
大蔵省(the Treasury)は,経済運営と政府部門内における資源配分の調整 責任はとるが,地方政府支出にかんして他省庁との協議を行う義務を感じてい
ない。
支出のコントロールを検討する第13章は,起債認可による資本支出規制とR SGによる地方支出のコントロールにたいし,①これらは明示的に経済運営を サポートするように企画されたものでないし,②revenue expenditureにた いするコントロールが欠如している,と批判する(ch.13,para.14,15,p241)。
なぜなら,マクロ経済管理のための地方政府の総支出にたいする規制は,補助 金の地方政府間への配分や諸サービス間への資金配分という個別規制とは別箇 に行われねばならないからである(ch.15,para.47)。
かくて,「現在の混迷confusion」を検討した第3章は次のように結んでい
る。
「地方政府の被選出議員たちは,表向きは自分たちが責圧を有する諸問題 が益々自分らのコントロールの及ばない外部事情によって決定され,かくして かれらは自らが欲し且つ自らの選挙民が期待するようにそれらの諸問題に影響 を及ぼすことが出来なくなっていると感じている。しかし,政府とその省庁に おいても自覚された責任の増大は見られない。」 (ch.3,para.27,p46)。
こうして,レイフィールド報告は,地方財政にかんする全制度(whole system)が責圧があいまいなものであると断罪する。が,かかる認識は同時 に,戦後スタートした福祉国家にたいする認識に通じる面をもっ。というのは,
地方財政にかんする責圧のあいまいさは,福祉国家の成立に伴って,あるいは これと前後して,歴史的に形成されて来たからである。まず,福祉サービスの 展開が教育,住宅の拡充として立法にもとついて行う建前となり,地方政府は その中心的役割を担いつっ支出を拡大したのであるが,他方,これをファイナ
徳江:レイフィールド委員会(1976)の基本的観点 73
ンスする地方税制度は19世紀以来の硬直性をそのまま維持していたという,福 祉行政制度の在り様が根本的に問われるわけである。このことと,福祉国家を 担った歴代の政府がこのギャップをうめるため補助金を利用することを当然の こととして容認してきたこととは不可分であり,ここに責圧のあいまいさの根 源が求められる(ch.5,para.12,p68;ch.14,para.17,p262)。それ故,
全体としての地方財政支出にかんする責圧のあいまいさは,福祉行政の戦後に おける展開が地方財政の制度的対応を抜きにして,あるいは地方行財政をバイ パスして行われてきたという,本論「はじめに」で指摘したRobsonの批判点 に繋がるわけである。
D 打開策:地方所得税の導入と政治的決断
前項Cでは地方財政責任体制の危機の原因が,全体としての地方財政にかん する責圧のあいまいな体制にあることを見た。それ故,レイフィールド報告は,
具体的な財政改革案を提示するまえに,はっきりした責圧体制の確立が不可欠 であると考え,中央責圧体制かそれとも地方責任体制かの,二者択一の政治的 決断を迫る(ch.5,para.31〜49;ch.15)。そしてそれぞれのモデルに照応す する財政メカニズムの提案を行っているが,言うまでもなく,委員会の選好す るのは地方責任体制モデルである。それは,レイトと補助金からなる現行方式 に新たに地方所得税(Local Income Tax;LIT)の徴収権を地方政府に付 与することを軸としてほぼ以下のような内容を持っ。
1 LIT,レイト,補助金の配分は,二層制をとる地方行政組織をふまえ 以下のように行われる(ch.14,para62)(但し,課税委託権preceptingの 廃止も合わせて行う,ch.12,para.54〜60,Fig.7。またロンドンは別箇に 検討されるべきとしている,ch.14,paras.60,70;ch.15,para.57)。
LIT−→メトロポリタン・ディストリクト,ノンメトロポリタン。カウ
激Cト∠ζて鰯脇1二肋ζト。ポリタン.デ,ス,
リクト,スコットランド・ディストリクト 補助金一→全体
2 補助金は,block grant方式を維持するが, L I Tの導入によって 1975/76年の67%(補助金プラスレイト収入に対する比)から40〜50%へと半 分以下への縮少がはかられる。単一補助金制度Unitary grant SyStemとそ の完全均等化full equalisationが選択されればこの縮小は促進される(ch・
12,para.28)。そして,何よりも補助金水準の長期的な確定,補助金配分の基 礎の少なくとも一年前における確定,補助金の決定と地方予算策定とを統合す
を良好なタイム・テーブルの作成が企図される。(ch.13,paras・44,55)。
補助金の割合は地方ニーズにもとつくが,補助金の際限ない膨張を避けるため に,ニーズ測定に関連して各地方政府の支出水準の特定化が行われ・これを越 える支出に対しては補助金割合の削減が目論まれる(ch.15,par・46)。
3 レイト収入は,農業部門における建物,土地へと摘要範囲を拡大される。
また,住宅資産の課税標準を賃貸価額rental valueから資本価額capital valueへと転換し,より頻繁な再評価を義務ずける。そして,住宅資産には公 約数divisorを適用し,住宅と非住宅資産との間のレイトの相対比の安定化を はかる (ch.10,para.32,96;ch.12,paras.43,44)。
4 マクロ経済管理に関連しての地方支出のコントロール,RSG配分, L IT導入にともなって必要となる中央・地方政府間の調整等にかんして中央。
地方政府間の調整機関,Forumを独立機関として設立し,中央・地方政府間 の一層良好な理解を実現する。ここでPESは地方政府の参加のもとで作成さ れる。LITが源泉徴収としての性格をもち,また所得増に対応する buoy一
ancy を有することから,マクロ経済プランとの整合性は一層強く要請され,
Regulatorの導入(基準normsを超過する支出に対し超過地方税への中央 税賦課 ch.13,paras.42,43),経常収入によってファイナンスされる資本 支出比の確定(ch.13,para.48),地方のPWLBからの借入にたいする直 接規制の導入(ch.13,para.49)によって支出のコントロールがはかられる。
同時に,独立した機関としてのlocal auditの機能が一層重視される。
(ch.13,paras.44〜47;ch.15,paras.21,47)。
われわれは,上記のlocalist modelの細目をくわしく検討することが出 来ない。ここでは,委員会の基本的視点に関連して,次の点を指摘しておく。
① LITの導入による補助金比の縮減方針がlocal discretionの基礎を 一層拡大することにより,基本的に地方財政の危機的状況の打開を目論んでい