水泳指導における安全管理
(4km遠泳の安全と完泳)
体育研究室 大 西 国 男
教育学部体育研究室・坂井望教授を中心とする研究グループの,水泳に関する研究体制 の概要と研究経過を紹介する。
ここでは,泳力面と心理面の考察について研究経過の中間報告をしたが (文責・大 西)その他の部門についてもそれぞれ研究担当者を中心として逐次発表することにしてい
る。
目 次
国 研究の意図
①安全指導②指導計画③実験的研究の必要
[2]研究課題
① 遠泳の安全と完泳 イ),安全性 ロ),積極的計画 ② 科学的判定の必要 イ),泳力と持久力 ロ),フォームとスピード ハ),精神的効果
③ 計画の整備 囮 研究体制の概要
① 水泳実施計画 イ),水泳指導と測定及び検査 ロ),救助法 ハ),持久泳ぎ ② 遠泳の実施と経過 ③ 実験計画と実施要領 イ),実験計画の必要 ロ),測定,検査の実施要領
圏 結果から得た仮説
① 泳力の考察 イ),泳力テスト ロ),遠泳の安全と完泳 ハ),結果から得た仮説 ② 心理面の考察 イ),遠泳申し込み ロ),心理調査 ハ),結果から得た反省
32 教育研究所紀要第二号
団 研究の意図 ①安全指導
水泳は,時代の要請により個人の要求によって,往時からさかんに推奨されて来た。そ してまた,水泳指導に関係する組織や団体,連盟やクラブなどは,それぞれ企図する目的 を持っている。すなわち,それは野外生活活動・レクリェーション活動を主目的とするも のもあれば,泳力やスピードの養成,あるいは家元や泳法など文化継承を目的とするもの などである。
然し,きするところは豊かな生活と健康安全の確保であり,野外活動や余暇の善用のた めであり,生命保全のためである。これらの点で公共の立場と個入や営利とを問わず,積 極的な啓蒙と奨励がなされている。
体育科専攻学生の専門教科として,夏期集中講義水泳が,自己の泳力を伸ばし,各種泳 法水泳理論を習得することは勿論のこと,指導力の向上を期することは,将来体育教師・
水泳指導者となる学生の立場から必須の要件である。
また,学習指導要領の学習領域においては,特に従来の指導段階から一歩進めて,すで に小学校二年生で水に浮くことを初歩的技能として要求し,五年生では長く泳ぐ,六年生 ではある程度長く速く泳ぐことを要求している。
かくの如く,水泳のもつ個人的必要からも社会的意味からも,また,教員養成大学にお ける水泳実習の必要性からも,より積極的な参加や学習指導が要望される。水泳実習にお いても臨海学校においても,参加者の生命の安全を確実に全うすることが指導者の第一の 心構えであることは当然のことである。
水泳には,1危険な要素と事故誘発の可能性が他の種懸の運動よりも多い。しかも,生命 にかかわる事故に発展する可能性をもっている。計画上のミスや指導上の不注意が,人命 を失う事態に発展することがあるとすれば,それによって水泳実施の國的も,意図する計 画もすべてが水泡に帰したというべきである。
茨城大学における教科専門実技水泳の指導と計画については,教育学部紀要(第17号,
昭42)に発表されたが,水泳実施に関するいろいろの現状に応えるために,現在の指導計 画の検討や整理が必要となった。
② 指導;計画
茨城大学における教科専門水泳は,8日間(前段5臼はプールにおいて基本的指導,後 段3日は麻生町天王崎水泳場における水泳と遠泳)の実技及び理論を課している。必修単 位の認定条件は到達目標4筋〜8伽の遠泳を完泳することである。
従って,遠泳の完泳を目的とする指導計画をたてることを考えるべきである。そしてそ の過程において,各種泳法や目標記録到達による水泳級の認定が行なわれる。
対象として,1年〜4年までの学生を受け入れ,最終段階では遠泳参加が必要であるた め,遠泳参加と安全な完泳の面で重要な研究課題が残されている。
すなわち,前段では泳力を高めるための指導計画と指導法の問題,後段では遠泳参加の 許容者の認定と遠泳実施の要領であり,すべては安全な完泳という点で集約される。
③実験的研究の必要
指導の過程における泳力(フty・一ム,スピード)の問題は,遠泳に参加する場合の距離 時間,持久力,疲労,安全性などに連なる重要な事柄である。
特に遠泳は,スピードよりは泳ぎの持続性を生命とする泳法であるから,競泳と異なっ た角度から泳力と安全について信頼度の高い仮説を実験的方法によって発見することが必 要である。
遠泳の安全と完泳に関する条件として,不慮の事故の防止,泳者の泳力,指導者の経験 や指導管理の問題がある。絶対安全と考える指導者の判断と泳者の自信が,第一条件であ る。この条件をうらづけるものとして,科学的資料を整えることが必須の事柄と考えられ
る。
囮 研 究 課 題 ①遠泳の安全と完泳
必須単位の関係と泳力と安全性の問題が,現行の遠泳参加の許否を決する場合と,遠泳 実施に当って計画立案する場合の課題となる。
イ),安全性本学の場合では,チーム遠泳の立場で遠泳のシステムを考えて来た。従 って,隊飯を組んでグループで完泳できる泳力,体力(持久力),精神力が要求される。
この点で,従来では著しく隊列から遅れるもの,泳力や泳法のために指揮・監視船の配概 が乱れること,甚だしく泳力の劣る者に対する危険性など,安全を目的とする遠泳の完泳
とは云い難い面が多かった。
泳力,持久力の問題がスピード・フォームe疲労という観点から,安全と完泳という立 場で再検討される必要がある。即ち,従来の経験的処置の面に対して,泳者個人の遠泳参
加に当っての自己判断と指揮者の判断が,適切な指導と泳者の納得で共通的理解に立つこ との出来る資料を提示する必要がある。
ロ),積極的計画 遠泳の計画が安全第一主義で貫かれていることは,最も強調されな ければならない。このために万全の対策と配慮を必要とするのは当然である。
34 教育研究所紀要第二号
危険な事故の発生は,直接その状況に接することを避ければ起らないことであるが,安 全性の強調はややもすると遠泳の計画を消極的なものにする。消極的な安全主義では事故 の防止は出来るが,遠泳の価値や効果は減少するであろう。
遠泳計画の安全性は,積極的・活動的に危険な状況を克服することによって大きな価値 が生まれ効果が発揮される。そして,そのためには危険な事態を正しく認識し,適切な判 断によって処理できるよう,万全の安全対策を講ずることで臨むべきである。
② 科学的判定の必要
同一距離の遠泳においても,上級者と初級者では身体疲労も異なり,所要時問も異なる わけであるから,水泳実習期間と体力や泳力の関係から遠泳計画を樹立すべきである。
目標とする距離を完泳するためには,精神的な努力を要することが多い。完泳するか落 伍するか,己に勝つか負けるか二者択一の道しかない。すなわち,遠泳中におこるすべて の悪条件は自ら克服するよりほかにない。
遠泳を完泳するために絶対安全と考え得る鋼製,持久力について,泳者個人を対象とし ての測定,検査による資料と指導者の経験や指導力,過去の記録などをもとにして整理し 実施の方針を明確に示す必要がある。
イ),泳力と持久力 泳げるものも溺れる。この原因の主なるものは疲労と急病であ る。測串の弱い者は疲労の多い事は当然考えられる。泳者個人がどれだけ頑張りを発揮で きるかは,泳力と精神力と諸器官機能と筋持久力である。
この点で,実験計画による測定及び検査にもとつく科学的判定の必要が認められる。
ロ),フォームとスピード 遠泳は平泳ぎで参加することを前提とする。従って,平泳 ぎのフォームとスピードの調節が問題となる。すなわち,足の蹴りで十分推進力をつけ得 るか,手足の動作のバランスによって伸びと浮きをとって泳げるかによって,スヒ.一ド調 節が可能となる。このことが長距離の持久泳ぎに適する事柄である。
この点で,正しい(合理的な)フォームの指導,矯正,監察が必要であり,掻き手,蹴 り足,スピードの計時を利用する方法が求められる。
ハ),精神的効果 長距離を泳ぐ場合においては,脚力や体力的な持久力の強さが要求 されるが,同時に精神的強さを要求されることが多い。
遠泳に参加しこれを完泳しようとするときは,好むと好まざるとにかかわらず,いろい ろの悪条件がしかも単一ではなく重ねて起ることが多い。途中で休むことの出来る他の運 動種目と異なり,一種の限界的な状況の中におかれ,しかもその状況には生命にかかわる
きびしさがある。
遠泳に参加するに当って,その意欲的態度や心理的,身体的面や泳力的な面における自
信や不安について打診してみる必要がある。それは,遠泳を成功させるために精神的効果 が期待されるからである。
③ 計画の整備
実施計画の中で,特に人選,配船,時期,場所,距離,コース,耐水時間,泳速,環境 条件,実施要領など配慮すべき事柄が多い。それに,水泳参加の対象者や必須単位として の扱い方の問題も加えて,再検討すべきである。
完泳できる泳力の判定は,何を基準にすることが妥当であるか。コース,風向,流水,
船の配置,隊伍の組み方,指揮,泳者の状況や途中乗船の時機判断など,泳者を対象にし た面の安全管理が必要となる。
この点で,参加者を選ぶ場合や隊伍における位置の決定など,信頼度の高い資料を求め るべきは当然である。
圖研究体制の概要
① 水泳実施計画
本学の体育科専門水泳集中講義では,水泳の技術と指導技術の向上をはかると共に水に 対する安全度を高め,合宿による集団生活の仕方を体得させる目的をもって,毎年夏期休 業に入った最初の月曜日から8日間実施する。
必修科目として単位を認定するには,4肋遠泳(麻生町天王崎〜浮島)の完泳を必要条 件としているため,その意図のあらわれた計画表や指導体制,受講態度をみることができ
る。計画表に意図された事柄として,
イ),泳法指導と測定,検査 個人の得手,不得手を無視するのではないが,計画面の 中に一律に近代泳法の学習プロを組み入れると共に日本泳法を課し,随時自由泳ぎ,復 習,リレー,計時を実施することによってフォームの矯正,持久力,スピードの養成をは
かる。
実施内容と到達基準は遠泳参加者の選考資料とする。
ロ),救助法 水難事故防止と救助法の観点から泳力,救助技術,安全管理についての 演習を随時行ない,その成績によっては日赤水難救助員の資格を申請し適任証を付与す
る。
ハ),持久泳ぎ 遠泳に備えて,30分前後の持久泳ぎを実施し隊形,スピード調節,呼 吸法,体力の調整をはかる。大学プールにおけるプールまわりと麻生町天王崎水泳場にお ける小遠泳の計画による。
36 教育研究所紀要第二号
② 遠泳の実施と経過(昭和44年度)
(昭和44年7月20日,快晴,風波なし,気温28。,水温26。)
8伽(麻生町天王崎一浮島一回忌崎)
時 間
8:00 9:55
11:03
11:07 K.
時 8:40 8:55 9:IO 9:25 9:30 9:35 9;45 9:50
10:00
10:10
経 過 出 発 1折返し
到 着
(3時間3分)
到 着
(3時間7分)
島圏
[
バ
ン メ ♂よO小○ →り
♂ ♂
K
︿6 ︿6
小O ︿A︶
4 km(浮島一天王崎)2班
間i経過 メンバ
ーO:35
10:23
10:25
出 発 M.30m遅れ M.IOOm遅れ
W.307,?遅れ
M.250洗遅れ W,列に復帰 W.50ηz遅れ M.300ne遅れ W.70加遅れ M.3QO加遅れ W.100m遅れ M.300m遅れ W.250規遅れ 到着(1時間35分)
⑰到着
(1時間43分)
⑪.到着
(1時間45分)
Gt) ,.. ,..
g
8K. 9 S.
9B. 9M.
9W. 8 E.
8Y. 8 H.
︵凹速
4痂(浮島一天面白)1班
時間降 過
8:40出 発 9:25Y.呼吸苦し くなる 9:420.けいれん を訴える
10:02 至iJ 着
(1時間22分)
︵回一
メンバー
,//X
? (1) 80,
回♂♂2
Y.8 S
ts 8 8 8 8
︑留8
(備考) 100m平泳ぎの記録では,次のよう な実態であった。
A,2/36i・3〜3/03ii2※(上昇記録型)
T, 2/45ク0〜2/511■4 K:, 2i35ii7〜3/05ク2
S,2/2:7ク0〜2/52 O
B, 3/04■iO〜3/13iiO⑭, 3!03 0〜3/37ii4
⑰, 3/39ク0〜3!52 2
E, 2/57 4〜3123 2 Y, Y26 isivl 28 i3
H, 1!45ii8〜1/54ク○(経験者)
(上昇記録型)
(緩上昇記録型)
(プール前半の記録)
(上昇記録型)
(緩上昇記録型)
(上昇記録型)
(Wと伴泳)
(Mと伴泳)
※(プール5日間における100m平泳ぎの記録 の幅とその変化の過程によって注釈を加え
た)
③ 実験計画と実施要領
従来の遠泳実施に当っては,プールにおける泳力(平泳ぎ100mの記録)とフォームを 勘案し,100m平泳ぎが2分30秒前後であれば大丈夫安全とする基準と,最終学年では単 位取得の必要から蛮力の劣る学生の参加要求が強かったという点から,現状として次のよ
うな反省がなされた。
イ),実験計画の必要 ①参加の基準を明示できる資料を得て,指導者は学生に対して
それぞれ安全参加の自覚を持つと共に,相互に納得了承のうえ実施できるようにすべきで
ある。
②チーム遠泳のため,泳力の差異から遠泳の隊伍が乱れ,指揮船,監視船との連けいが 不十分となり泳者の資力や疲労の状態,途中上船の時機を失する恐れがある。
③学生の水泳参加がより積極的になるような指導,ガイダンスによって,遠泳参加の段 階では自信をもって完泳できるようにすべきである。
以上のような概略的な反省事項から泳速,持続力,心肺機能,筋持久力,疲労と回復に 関する実験計画が立案された。
この時,測定。検査に要する時間によって泳ぎの指導にマイナスを及ぼす事はないか,
また,測定の時間,条件,正確度についても実施上の考慮が必要であることに留意した。
ロ),測定・検査の実施要領 各種測定に関する実施要領と担当教官は次の通りである。
○泳力テスト ①IOO nz平泳ぎ(大西国男)25 mのラップタイム及び蹴りの回数の測定。
(イ),自由泳ぎ(ウォーミングアップIO分)の後15分の間(9:30ん9:45)で実施する。
(m),蹴りの回数は,スタート及びタ卵白ンのキックを回数に加える。
の,記録員,計時員,回数読みの係を組として交互に測定する。(以下同様)
○心肺機能測定 ②心電図(内山源)
③肺活量(熱田緑)(イ〉,朝プールに落いた時と午後帰る時に廻転式肺活量計で行なう。
(ロ〉,パルモテスト(野田洋平・大西国男)毎日午前の課業終了後(昼休み昼食前)に実 施する。
④止息時間(江戸徳寿)プールサイドにつかまって潜水し,止息計時する。午前2回,
(入水時と午前の終了時)午後2回(午後入水時と終了時)
⑤脈博(長須賀政智)握力測定後ただちに擁骨動脈の触診法で行なう。測定時間は15分 継続測定(15秒値を読み,45秒休む)
○疲労測定 ⑥握力(江戸徳寿)lOO m平泳ぎ計時終了後直ちに行なう。測定時間は2分 間。IO秒毎に測定し,測定(スメドレー握力計)3秒前に「ヨーイ」の合図をして行 なう。測定は自己の利腕とする。
⑦体重測定(熱田緑)台秤(ヘルスメータ)により,朝プール到着の時と午後帰る時に 行なう。
⑧フリッカーテス1・(野田洋平)IOOm平泳ぎ測定終了後プールからあがった直後に行 なう。
⑨疲労自覚症状調査(野田洋平,笹部桂子)第1回(午前)プールに到着後,水蒲に替 えてプールサイドで記入する。第2回(午後)解散後,プールサイドで記入する。
38 教育研究所紀要第二号
○心理調査(内山源。大西国男)(イ),遠泳参加申し込みの記入をする。遠泳に関する諸注 意ののち(前夜)記入させる。
(m),遠泳参加に当っての態度や心理状況の調査をする。
(A>,遠泳参加後,さきと同様の内容のものを実施後の心理状況調査に書き替えて調査す る。
圏結果から得た仮説
(1)勢力の考察
測定および検査の結果に対する考察を試み,実施に当っての目的と測定結果の利用価値 の関連で検討する。
イ),泳力テスト 測定記録の結果から①lOO m平泳ぎの記録を(イ)2分30秒まで(ロ)3分 までの3分以上に分類して考察する。
② ラップタイムを(イ)短縮型@増大型の一定型に分けて,体力や持久力,スタミナの配 分などを対象として考察する。
③ 遠泳参加の条件として検討し,完泳のための時間経過や過程の実態を反省する。
i),記録分類 完泳所要時間と泳力の観察,平泳ぎのフォームなどを考慮すると,lOO〃m を2分30秒前後から3分までを安全圏とし,3分以降では隊列から離れる場合が多い。こ れ以降では次第に危険率が増大する。
ii),ラップタイム型分類 lOOm平泳ぎの記録において,25 mのインターバル毎に記録 の速くなっているものと,日毎に測定記録の短縮するものがある。この潤たちが,3分以 下で遠泳に参加することを許可するか否かの分れるところである。
一定型は,2分以内の記録者に多く,安定した泳力を持つものと判断される。増大型は 全体の記録は短縮されるが,インターバル毎にラップタイムが増大するものであり,力の 配分や持続性,泳力やフォームに問題点が残っている者である。
ロ),遠泳の安全と完泳 さきに,泳力,持久力,スピード,フォーム,疲労の観点か ら安全と完泳を考えてみる必要に触れたが,本学の場合では距離と泳法と泳速を基準とし た実施要領の如何が,安全性を左右すると云うことができる。
i),泳法と響町※ 遠泳の場合に用いる平泳ぎは,スピードよりは持続性をその生命と する泳法である。平泳ぎのエネルギー代謝によると※(体育学研究第3巻,第1号,石河)
25 mのプールを4D秒台で泳いだ場合,初心者のエネルギー代謝量は,上級者に比べてかな り大きいことが明らかである。この場合では,上級者にとっては25 mを40秒台で泳ぐとい う緩泳のため,却って泳ぎにくく余分な力を必要とする条件が加わることが考えられる
が,同一泳法と同一泳速で一定距離を泳ぐ場合に,技術の差があれば初心者はそのエネル
% 一をより多く消費することは明らかである。
高速と酸素需要量の関係によれば,各泳法ともスピードが増加するにつれて,酸素需要 量が飛躍的に高まりその代謝量が増大するが,同時に泳法が異なるときは,同一のスピー ドでも酸素需要量が異なる。たとえば,クロールは他の泳法よりも酸素需要が少なく,ま たスピードの面でも酸素需要が少ないため,速いスピードでは有利な泳ぎであることがわ かるのである。
平泳ぎは,他の泳法に比べてより多くの酸素が必要な泳ぎであるといわれるが,しかし 分速35 m前後のゆっくりしたスピードでは,最も酸素需要量の少ない泳ぎであることがわ かる。このように分速35 m前後のスピードでは,平泳ぎが最も力の消費の少ない経済的な 泳ぎであることを知ることができる。
平泳ぎで分速35 mz前後の速さで泳ぐとき,最もエネルギー代謝量が少ないということは 遠泳の場合に重要なことである。この限りにおいては100mを3分程度の速さで泳ぐとき エネルギーの代謝量が少なく,遠泳のスピードに適当であるといえる。
遠泳における泳ぎの基準を平泳ぎにおく考え方は,従来から水泳指導の中心におかれて いるが,特に持続性や疲労の観点から考えるとき足の蹴りによる推進力と,手の動作のバ ランスが重視される。いわゆる伸びをとった泳ぎの出来不出来が,スピードの調整や時闘 や距離の完泳のために必須条件となる。
足の蹴りによる推進力の判定を,距離と蹴る回数によって判定する試みが今後の実験で 取り上げるべき事柄であろう。
すなわち,25 mの計時と同様に蹴りの回数を計って資料とする必要があると考える。
の,泳速と距離※ チーム遠泳は競泳と異なって最も経済的なスピードで泳ぎ,そのス ピードを出来るだけ長く持続する必要がある。
プールと海とで夫々2時間の遠泳を行ない,その際のエネルギー代謝の測定結果による と※(体育学研究,第2巻,第7号,小田)遠泳時のR.M. R(エネルギー代謝率)は,
6.58(海水)から10.38(プール)の闘であり,個入差が著しい。測定時の泳速は毎分22.5 mから最高30mまでであり,いずれも1ノットよりは遅く,経済速度(分速35 m前後)よ
りはやや遅いスピードである。また酸素の消費量は遠泳開始後急速に高まり,8分後ごろ から定常状態に入ると説明されている。
1時間に1マイル(1, 852 2iD )の二二は1ノットである。いまかりに分速31 mで泳く・と 1時間に1, 860 mの距離を泳ぐことであり,即ち約1マイルの泳速である。この事は,平 泳で1ノットの速さで泳げば,最もエネルギーの消費が少なく経済的であるということに
40 教育研究所紀要第二号
なる。
遠泳を完泳するに一要する時間は,泳速と距離の関係でとらえる事ができるから,茨大に おける現行の遠泳の距離を4纏とすると,完泳に要した時間に対する参加者のスピードの 記録を必要最少限度どの程度の記録におくのが安全であるか,第一に判定すべき事柄であ
ると考える。
(遠泳記録) 茨 城 大 学
参
間⁝
時
蹴
人 年 4
和
昭
加37h縣5分
員 29(女.6を含む)
3(途中乗船)
時 間 8 伽
参野
人 員 備 考
38
1040i
2時間49分 17
25(女.5)
3(途中乗船)
2。53ノ 1239 階い1鶴船) 2040i 12
40 41
43 44
i29(女.9)
lo48/
11(途中乗船) 2050i
1045i
Ilo29/
ll lO33ノ
115(女.4)
IO(女,5)
2(途中:乗船)
2。43ノ
船︶︶乗54下女女途︵︵︵
95︵φ
8(女。2)
13(女.2)
1(途中乗 船)
11・22・ill(女.○)
I
II 1。35/ i10(女・5)
3003ノ
IO(女.1)1綴四脚門ll雰到着
桀羅:ε曇彌
4肋最終,1時間57分
4haX終(女・2020 ・ 2030 )}
(例)
f各騰
気温,28。
快晴
水温,2ア。
1の最終 1時間42分 間の最終 2時間04分
築羅: 鵬
R.最終時間45分
。コース
4勧(浮島〜天王崎) 8加(天王崎〜浮島〜天王崎)(スヒ。一ドと距離)
(その1)
(平泳)i距離1
き
IOO涜の記録 所要時間4肋z
2分3・叢濃物師・分4一一汲翌浴
Fm
?f
2分40秒
4 1cnt
3分00秒塒間50分1
2時問00分}
(スヒ。一一ドど距離)
(その2) (43年度遠泳)
籏翻泳瞬間29分一塒騨分
左記は,過去の実績と43年度遠泳実施に要し た時間とlOOm平泳ぎの記録の関係を表示した ものである。即ち4肋を1時間40分で完泳する ものは(※)100 mを平均2分30秒で泳ぐ必要が あると云う考え方である。
平泳ぎ100m 平均スピード
2分32不少〜2分48季少
2分39秒〜3分32秒錘凝泳い噸3那薦醐
左記は,43年度遠泳においてa例は1班の到 着までに要した時間,b例は2班の到着までに 要した時間をlOOm平泳ぎの平均時間に按排し
たものである。学生の泳力(1 OO〃m igi一泳ぎの計
時記録)と所要時間から遠泳距離を算出して
3.5肋と推定した。
ハ),結果から得た仮説 遠泳の隊列を組んで完泳ができた一団のグループを基準とし て,遠泳参加者が調整出来る最も安全で経済的なエネルギーの消費による楽なペースの目 算を集団の到蒲に要した時間から推定して次の仮説を得た。
①本学における遠泳においては,IOO m平泳ぎの計時で2分30秒前後の記録をもつ泳 者は,安全に完泳できる。
3分以降の記録保持者になるにつれて,遠泳の隊列から離脱し遅れを示す。3分30秒以 降の泳者の参加はチーム遠泳の管理と安全指導に支障がある。
② 遠泳参加希望者のうち,lOOm平泳ぎの記録が3分30秒台の泳者では,遠泳参加に 当って泳法,フォームと体力,精神力の面で慎重な検討が必要である。3分40秒以下の泳 者では,遠泳参加を許可することは危険である。
③ 本学における遠泳の場合においても,学力が最も重要な条件である。特にスピーード とフォームに関連する技術の養成が肝要であると考えられる。
実際に行なう遠泳では,実施条件は多様であるから,同一距離を泳いだ場合でも個々の エネルギー代謝量には変化があるのは当然である。しかも遠泳は短かくて1〜2時間,長 ければ数時間に及ぶのが普通である。従って遠泳においては,エネルギーの消費量は極め て大きいと考えなければならない。
④ 遠泳は持久泳ぎである。泳力,体力,精神力の瀬養によって,エネルギーの需要を 最少限に止め持続力を増大すると共に,泳ぎに対する自信と自分に勝つ克己心により遠泳 の安全な完泳に導くことができる。
男子は耐水力と寒さに対する抵抗力を,女子は腕力,脚力の養成など体力,持久力の面 と疲労に関連する点からの検討が必要である。
水泳実施計画の検討や指導法の研究と共に,水泳カリキ=ラム中の遠泳実施の方法や実 施時期を考慮することは課題である。
※平泳ぎのエネルギー代謝
泳げる者
初心者
TI ヨ
ヨ
MM隔陸瀬無腰時剛鞭糧iR・・M・・R
i25mベストI iタ イ ム1
∩◎21り乙ハ∠︵∠︵∠︵∠
25m
25
2545. 5sec 40. 0 42. 0
55
︵∠︵∠ 40. 840. 0
10. 47ca1 12. 79 14. 38
15.37以上 12.94以上
︵b3π﹂
3︵◎011︵∠24.0以上 20,7以上
33. 6 28. 6 24, O
(体育学研究 第3巻第1号,石河)
42 教育研究所紀要第二号 遠泳における毎分時02消費量
プ⁝ル
縢糠護望∵1…熟熟一岬岬毒一
1i 30..8
1123.3
3i 22.2
4i 26・7
1一一..1
246 =066 1266 1 1
268 i125zt ]669
1 278 1 825 34752ss i 146sl 2272
1 [2612 1795 1626 2538
海日 水2i
20921 21ggl lgg31 21331 1346
?9611 19841 1813i ;8011 15?7
E
ll翻lll脇l l聯1111
1 1 1 3s7 bsssb6s21i 16sol
.坐_、翌21い280−486・
13i41 3 ss21 2096
.r Li iZL !6.3fillli 9i51111i 208i
17761047 935
s721
366 638 579781
35Zii
382 385
361
350(体育学研究 第2巻第7号,小田)
遠泳時エネルギー一代謝 被検者 身長詠重
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(体育学研究 第2巻第7号,小田)
※ 遠泳一指導と海の知識一佐野清次郎 1968(不昧堂書店)引用転記した。
(2)心理面の考察
遠距離を泳げば必然的に疲労が増大する。同一動作の反復,単調と心理的不安からも疲 労は増す。長時間水申に浸っていることは,寒さに対する抵抗力が次第に弱まり,手足の 感覚も正常でなくなる。これに加えて,風や波や流れに悩まされ,次第に不安と恐怖が生
じて来る。
遠泳参加中に落伍する者の中には,大抵の場合にいろいろの条件に対して精神的に打ち 負かされるものが多い。ここでは,遠泳参加に当っての心構えや態度など心理的状況の調 査により,その結果を指導の資料とする必要が考えられる。
イ),遠泳参加申し込み 遠泳についてのガイダンスと実施に当って,さきに述べた通 り必修水泳単位認定には4加〜8加の遠泳を完泳することが必須条件である。従って大学 プールにおける5日間の実習は,遠泳の安全な完泳を目標とする水泳への基礎的才力の養 成にある。また,麻生町天王崎水泳場における前日の小遠泳は,現場における泳者のレデ
ィネスのためである。
遠泳参加申し込みに当って考慮すべき事柄について,検討された注意事項は十分に徹底
すべきであり,遠泳の完泳を目的とするためには不可欠の条件である。
遠泳に関する諸注意事項のうち,コース,距離,配船,所要時間,100nt平泳ぎの個人 記録などは,参加申し込みに当っての遠泳諸注意と共に必要なことである。
また,遠泳計画と安全管理の側からは,希望コースの調査,参加者のコンディシ。ンに 関する調査及び調査・実験の個票は,遠泳参加申し込み者の実情判断の資料とすべきであ
る。
そして,申し込み者に対するアドバイス,ガイダンス,参加・不参加に関する要請の材 料とすることが出来ると共に,泳者に対する指導と安全管理の立場から,その実情を判断
し処理するための重要な資料とすることができる。
(昭.44) 遠泳申し込み(希望者調査と個人カード)調査整理 茨:城大学 設
問 摘
要}不参加5名1・ k・i7名飾14名?
2
3
4
5
6
100m平泳ぎ
(自己最高記録)
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無、 2(2)1 g(2)
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気になるところが有
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フaf.一ムに無理があ
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44 教育研究所紀要第二号
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(備考)
()の中は含まれる女 子の人数
〒4男女
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男. 13
女。1 男.4名を
4㎞へ (昭和44年7月19日)
ロ),心理面の調査 疲労,不安,恐怖を克服し悪条件に打ち勝ってこそ,遠泳の完泳 を果すことができる。これは,泳者個人の自信にまっところが大きいのであって,泳力,
疲労,体力に関する自信と遠泳に対する積極的な態度や旺盛な気力による取り組みがあっ てこそ安金な遠泳を達成することができる。
〔遠泳参加申し込み者心理調査〕
(設問)内山 源
1.今日の遠泳にはa,十分自信がある。
b,まあまあ自信がもてる。C,なんだか自信はない。
2.遠泳をするに当って,どんな不安を感じるか。
① 途中で力がなくなって溺れるのではないかとa,つよく不安を感じる。b,ときど き不安になる。C,平気,不安はない。
②途中でけいれんをおこすのではないかとa,つよく不安を感じる。b,ときどき不 安になる。C,平気,不安はない。
③途中で心臓マヒをおこすのではないかとa,つよく不安を感じる。b,ときどき不 安になる。C,平気,不安はない。
④ 途中で天候が急変して風や波が強くなったらとa,つよく不安を感じる。b,とき どき不安になる。c,平気,不安はない。
⑤足を藻草にとられて引き込まれるのではないかとa,つよく不安を感じる。b,と きどき不安になる。C,平気,不安はない。
⑥ 湖の底から人の死体やばけものが足を引っぱるのではないかとa,つよく不安を 感じる。b,ときどき不安になる。 C,平気,不安はない。
3.今日の遠泳にはa,死力をつくして泳ぎぬきたい。b,体調をみて不安を感じたら止 める。C,少しでも不安になったら止める。4,その他。(以上その理由)
4 遠泳の前の疲労感はa,いつもよりはとても疲れを感じる。b,いつもよりやや疲れ を感じる。C,いつもと変らない。
5
6
7
あなたは運動やスポーツなどでa,非常に根性のある方だ。b,やや根性のある方 だ。C,普通である。 d,やや劣る方である。 e,全く根性がない方だと考えている。
あなたは陸上競技の方では,どちらかと言えばa,短距離型。b,長距離型。 C,両 方。d,その他,ですか。
あなたは水泳において,平泳,潜水,自由型,バック,遠泳のうちa,他の者より 非常にすぐれていると思う。b,ややすぐれている。 c,普通である。 d,やや劣る方 である。e,とくに劣る。(○印をつける)
(昭.44) 遠泳申し込み者心理調査(個人カードの整理) 茨城大学
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教育研究所紀要第二号
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ハ),画一果から得た反省 ①遠泳参加に対する基本的条件として,100m平泳ぎの記録 を重視して来た。参加申し込みのうち,個人の最高記録からA班(100m平泳ぎ2分30秒 以上)B班(100m平泳ぎ2分34秒以下)の二班に分けた。
②4肋参加希望者のうち,理容やフf、 一一ムの欠点から参加を許可しなかったもの(男 1名,女2名)と病気のため参加を許可できずと判定されたもの(女2名)が5名であっ
た。
③8伽参加希望者のうち,経験不足,泳法及び身体e精神面の不安から4伽参加へ希 望がえ許可したもの2名と,8肋遠泳経験者と特にすぐれた泳者を興野童児の補助泳者と
して特に要請したものが2名であった。
④心理面の調査によると,遠泳実施に当って「何だか自信がもてない」と答えたものは 4肋希望者に多かったが,これは次の不安に因ると考えることができる。
不安については,身体面で「けいれん」や「体力の消耗」が,泳力面の不安「平泳ぎが 他の者よりやや劣る,特に劣る」と共に多くの領域を占めている。
また「天候の急変による不安」を回答したものが多かった。
以上については,遠泳実施以前,あるいは実施中にその不安を除去し積極的な取り組み に誘導することが可能であると考えている。泳者がパニックを起すような要因を与えない ようにすることである。
⑤女子に心臓障害と神経性障害が発見された。「死力をつくして泳ぎ抜く」ような回答 がだされる点からも,個別に十分な調査と面談が必要である。
「全く根性のない方だ」と回答したものに関しては,これが単に個人の主観的回答であ ったとはいえ,六日に取り扱うべき事柄である。遠泳が持続性と忍耐と克己心を最も必要 とするためである。
⑥持続泳ぎや遠泳では,エネルギーの消耗のみでなく精神的な面の逃避も考慮されな ければならない。目的達成のための保守性や依存心の働き合いの作用は,所謂心的葛藤
となる事に留意すべきである。この点についてはさきに,遠泳における精神的効果に関連 して述べたが,これに関する実験的研究の必要はなお強調されるべきである。
すなわち,向性検査や恒常性検査との比較やクレペリン検査(内田クレペリン検査一性 格・適正検査)による作業曲線と意志発表力の相関値から,参加学生の人となりを掌握し 指導の実際に活用することが必要である。これらが精神作業の質・量測定の基準や判断の 資料として利用される事が課題であると考えている。(未完)