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絵一語干渉課題での干渉量に見られる表記差効果の発達的検討 林

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絵一語干渉課題での干渉量に見られる表記差効果の発達的検討

龍平*

はじめに

 表記された単語が,どのような心的過程を経て同定され意味が引き出されるのかは,読みの認知心 理学的研究における重要な課題の1っである。単語認知の過程に影響すると思われる要因にはいろい

ろあるが,表記方法もその1っである。単語表記の方法は,そこで用いられる個々の記号が,その言 語において用いられるいくつかの限られた基本的な音韻を表わす,いわゆる「音標文字」に基づく

ものと,個々の文字が音韻よりむしろ個々の意味を表わす「三三文字」に基づくものとに大別でき る。前者の代表的なものとしては,インドーヨーロッパ系の種々の言語(英語やフランス語,独語な ど)で用いられるアルファベットがあげられよう。そこでは,個々の文字がそれぞれ基本的音素に対 応しており,それらの組み合わせで単語が作られる。また日本語を表記するのに用いられる「かな」

も,個々の文字の表わすものが音素ではなく音節であるごとを除けばアルファベットと同様の音標 的表記システムと考えられる。これに対して中国語や韓国語,そして日本語を表記するのに用いら れる「漢字」は,語標文字の代表的なものの1つである。世界中の書きことばの多くは,このような 音標文字システムか語学文字システムの何れか一方を主に用いて表記されるのが普通であるが,日 本語および韓国語だけは両表記システムを併用する点で独特の書きことばであると言える。もちろ んインドーヨーロッパ系の言語においても語標(logograph)あるいは表意文字がまったく用いられな いわけではない。例えば,アラビヤ数字や$,%,&等の記号は,それらの言語でよく用いられる表 意文字の例である。しかし,例えば英語の表記システム全体から見ればその割合は非常に小さいも のである。これに対して,特に日本語では語標システムと音標システムとが完全に併用されている

と言っても過言でない。

 さて,以上のように世界には2つのまったく異なる表記システムが存在するわけだが,そのことが 単語認知の研究に提起する問題は,そうした異なる表記システムに基づいて書かれた単語は,その 処理過程そのものも異なるのだろうかという事である。すなわち,アルファベット表記された単語

(例えば英語の単語)の認知のされ方と漢字表記された単語の認知のされ方は違うのだろうか。Stroop 色一語干渉課題(Stroop,1935)とそこで見られる干渉効果は,この問題の解明のための有効な手がか りを与えてくれる道具になると考えられてきた。Stroop干渉効果とは,刺激の色名呼称にかかる時間 が,刺激をX印にした時に比べ,呼称されるべき色名とは矛盾する色名語を刺激とした時(例えば,

赤い色で書かれた:「あお」という単語を刺激とするような場合)に長くなる現象を指している。この 現象は,2っの拮抗する刺激(色と単語)が入力,出力,および意味的処理段階の何れかで競合する

ことが原因と考えられるので,表記の違いによる単語の認知過程の差異を調べるのに最適な課題と 考えられてきた。すなわち,妨害単語の表記の違いがもたらす干渉効果のパターンの違いを比較検

*茨城大学教育学部学校教育講座教育心理学教室

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討することで,各々の表記様式における単語の処理過程の差異を検討することができると考えられ たのである。

 こうした考え方に基づいて,この課題を利用し,異なる表記システム間での単語認知の違いを明ら かにしょうとする研究がこれまでいくつか行なわれてきている。その結果,語二文字である漢字表 記語でのStro◎p干渉:量が,音標文字であるアルファベット表記語やかな表記語での干渉量よりも大

きくなることが明らかにされ,両表記システムの処理過程には,入力レベルで何らかの質的違い(主 に大脳半球機能差に依拠する違い)があることが示唆された(Biederman&Tsao,1979;Fang, et・al.,

1981;Morikawa,1981)。しかしながら,他方では,両表記システム間に見られる干渉量には差がない とする研究も見られたので(Smith&Kirsner,1982),林(1988)は,さらにこの問題についての検討を 行なった。その結果,Stroop干渉量に見られる表記差効果の生起は,被験者の反応様式および標的刺 激一妨害刺激闇の意味的関連性の程度に依存することが示された。そして,特に後者の結果から林

(1988)は,表記の異なる単語の認知過程に違いがあるとすれば,それは意味処理段階での違いに求め られるべきであると結論した。すなわち,語標文字である漢字表記でのStroop干渉量が音標文字で あるかな表記でのそれよりも大きくなるのは,単に語標文字と色の処理が知覚的水準で競合するか らではなく,漢字表記された方がかな表記された時よりも意味を特定し易いことによることが示さ れたのである。絵画型のStroop干渉課題を用いた林(1986,1988)の実験結果1さ,この結論をさらに 裏付けるものであった。

 このようにStroop干渉量の違いを手がかりに,単語認知過程における表記差効果の有無とその背景 にある機序とを明らかにしょうとする研究がこれまで行なわれてきたのであるが,この問題の十分 な解明のためには,さらにもっと別の側面からの視点も必要なように思われる。そのような視点の 1つとして挙げられるのは,単語認知過程における表記差効果のに発達的な検討である。もし,漢字 表記語とかな表記語によるStr◎op干渉量の違いが入力段階や反応段階での問題であるのならStroop干 渉量に見られる両者の関係は発達的に変化がないはずである。しかし,両表記語による意味的な機 能の差がその背景にあるなら,Stroop干渉量に見られる両者の関係は年齢とともに変化することが予 想されよう。またこれまで,表記の違いによる単語認知過程の違いを発達的に検討した研究はほと んど見当らない。この意味でも単語の認知における表記差効果を発達的に検討することには価値が あると思われる。そこで,本研究は絵画型のStroop干渉課題を用い, Stroop干渉量にそもそも妨害語 の表記差による違いが見られるのか,またもしそれが認められるのなら,どの年齢段階からその違 いが現われ,年齢とともにどのような変化を示すのか否かを探ることを目的とした。

方法

 被験者 小学生180名(2年生65名,4年生55名,6年生60名),中学2年生66名,及び大学生66 名が実験に参加した。

 刺激材料 動物(羊,馬,象),花(桜,菊,朝顔),体の一部(足,耳,目),建物(城,寺,家),

衣類(手袋,着物,帽子),乗り物(車,船,飛行機)の各カテゴリーから()内に示した3事例ずつ 計18事例を選び,それらを線画にしたものを妨害語なし条件での絵刺激セットとした。

 次に,妨害語として用いるため,これらの絵の事例名を明朝体のかな,あるいは漢字で表記した ものを18語ずつ用意した。妨害語付きの絵刺激のセットは2組作られ,1組はその絵の事例名そのも

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のを線画の上のほぼ中央に重ね書きしたものであった(絵牽一致語条件)。もう1組は,その絵とは 異なるカテゴリーに属する絵の事例名を重ね書きしたものであった(絵÷不一致語条件)。両条件の いずれにおいても,妨害語を,かな,および漢字表記したセットが作られた。従って絵刺激のセッ トは,絵のみ条件用,絵+かな表記一致語条件用,絵+かな表記不一致語条件用,絵+漢字表記一致 語条件用,絵+漢字表記不一致語条件用の5種類が用意されたことになる。

 この5種類の絵刺激セットにもとづいて各条件下の刺激冊子がそれぞれ作成された。この刺激冊子 は,1ページ当り絵刺激を6行×7列に並べたものが12ページから成るもので,各行の一番左端に標 準刺激として絵のみ(絵のみ条件の場合)あるいは妨害語を重ね書きした絵が配置されていた。その 横に並べられた6種類の絵は,標準刺激と同じカテゴリーからの別の絵に他の5っのカテゴリーから 各1事例ずつを選んで組み合わせたものであった。一番左端に置かれた標準刺激と2番目の絵との問 および各行との間は線分で区切られていた。刺激冊子は,妨害語の表記および標準刺激のタイプご とに別々に作られていて,1冊の冊子中では,標準刺激のタイプは全て同じであった。

 手続き 2(妨害語の表記;かなvs.漢字)×5(学年;小2vs.小4vs.小6・vs.中2vs.大学生)×3(標準 刺激になる絵のタイプ;絵のみVS.絵÷一致語VS.絵+不一致語)の実験計画が用いられた。この内,最 初の2っの要因は被験者間要因であった。本実験での被験者の課題は,刺激冊子の各ページの一番左 端にある標準刺激絵と同じカテゴリーに属すると思われる絵を同じ行に並べて配列してある6っの絵 の中からできるだけ素早く捜し出して○印を付すことであった。

 各被験者は,かな表記あるいは漢字表記された妨害語が重ね書きされた絵を標準刺激とする条件を 2つと,絵のみ刺激を標準刺激とする条件の計3条件でこのカテゴリ・一・一一・マッチングを行なったこと になる。各条件の遂行順序は被験者ごとに相殺されるように配慮した。小学生,および中学生の被 験者では,それぞれ同じ学校の当該学年の2クラスがこの実験に参加し,1クラスはかな表記妨害語 条件,1クラスは漢字表記妨害語条件に割り当てられた。実験は集団で実施された。その実施手順は 以下のようであった。

 まず最初に手続き等を説明した文章を載せた教示冊子を各人に配布しそれにもとづいておおよその 説明を行なった。その後,実験で使用されている線画刺激の命名をこの冊子上で行なわせ,続いて 本実験での課題についての簡単な練習をさせた上で質問がないかを確認し,本実験に移った。課題 は,時間制限法で行なった。すなわち,刺激冊子1冊につき1分間の時間を与え,その間できるだけ たくさん課題を遂行するというものである。課題の開始と終了の合図は実験者が口頭で行なった。最 後に,本実験で用いられていた事例名を漢字表記したものの読み方を書かせる課題を行なって実験 はすべて終了した。この間,およそ30〜35分程度であった。

結 果

 正答数での分析 各被験者ごとに時間内に遂行できた試行数から誤答数を除いた数を求め,これに もとづいて条件ごとの平均正答数を求めてみた。これを示したのが表1である。この結果に基づいて 3要因の分散分析をを行なった。その結果,学年の主効果(F(4,302)= 29i.43, p<O.001),標準刺激絵の タイプの主効果(F(2,604)・175.09,p<0.001),学年×標準刺激絵のタイプの交互作用(F(8,604)m2.65,

p<0.01),および妨害語の表記×学年×標準刺下絵のタイプの交互作用(F(8,604)罵L94, p<0.05)が有 意であった。

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表1各年齢段階における各条件別の正答数

かな表記語条件 漢字表記語脈件

絵のみ 致   不一致 絵のみ 致   不一致

小学2年生 4年生 6年生 中学2年生 大学生

22.67

28.79

34.73

35.31

45.e9

23.06

28.68

34.33

33.81

44.88

19.48

23.64

27.55

30.84

42.30

20.69

27.48

32.11

37.53

44.42

21.31

27.59

32.74

36.74

44.03

18.34

23.48

2s.oe

31.18

39.85

 そこでまず,学年の主効果について下位検定を行なうと5つの学年段階全ての間で有意な差が認め られ,年齢とともに成績が有意に上昇していたことが示された。また,標準刺激絵のタイプの主効 果についての下位検定の結果,絵+不一致語条件の成績が,絵のみ条件と絵+一致語条件のいずれの 成績よりも有意に低く,後者2条件の間には有意差が認められなかった。これは標準刺激としての絵

と意味的に不一致な語が絵とともに提示されることで,標準刺激絵の意味処理が妨害されたことを 示している。次に学年×標準刺激絵のタイプの交互作用について下位検定してみると,中学2年生に おいてのみ絵のみ条件と絵+一致語条件の間に有意な差異が認められ,これがこの交互作用をもたら

していたことが示唆された。

 最後に,妨害語の表記×学年×標準刺激絵のタイプの交互作用について分析してみると妨害語がか な表記された場合の絵のみ条件と絵+一致語条件の成績における学年の効果が,他の各条件での学年 による効果とは異なっていたことが示された。すなわち,これら2条件の下では小学6年生と中学2 年生との成績の間に差が認められなかった。さらにまた,各学年ごとに,各標準刺激絵のタイプ別 に表記差の効果を調べると,一部の条件を除いて全て有意差は認められなかった。この一部の例外 に当たるのは,小学6年生での絵のみ条件(F(1,906)=4.71,p<0.05),中学2年生での絵牽一致語条件

(F(1,906)=5.89,p<O.05),大学生での絵+不一致語条件(F(1,906)=4.12, p<0.05)であった。また,中 学2年生の絵のみ条件において有意傾向が認められた(F(1,906),p<0.1)。さらにまた,全ての学年の いずれの表記条件においても,絵÷不一致語条件が残りの2条件よりも有意に成績が低く,後者2条 件間には有意な差がないという点は全ての条件で一貫して認められた。

 干渉量での分析 各被験者ごとに,その正答数のデータにもとづいて,絵のみ条件と絵+一致語条 件および,絵+不一致語条件での成績との差異を求め,これを干渉量とした。その結果を示したのが 表2である。

 この結果に基づいて正答数の場合と同様の分析を行なった。その結果,学年の主効果(F(4,302)瓢25,

p<0.05),標準刺激絵のタイプの主効果(F(1,302)=245.44,p<0.001),学年×標準刺激絵のタイプの交互 作用(F(4,302)=2.80,p<0.05)および妨害語の表記×学年×標準刺激絵のタイプの交互作用

(F(4,302)=2.62,p<0.05)が有意になった。そこで次に有意になった各々について下位検定を行なって みた。すると,学年の主効果に関しては,小学2年生と中学2年生の干渉量の間にのみ有意差が認め

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表2 各年齢段階における条件別の干渉:量

かな表記語条件 漢字表記語条件

不一致 不一致

小学2年生 4年生 6年生

気学2年生 大学生

O.36

一 O.Il

一 O.39

一 1.50

一 O.21

一 3.21

一 55e

一 7.i8

一 4.47

一 2.79

O.63

O.11

O.63

一 O.79

一 O.39

一 2.34

一 4.00

一 4.e7

一 6.35

一 4.58

られた。さらに学年×標準刺激絵のタイプ間の交互作用について下位検定を行なうと,どの学年に おいても絵+不一致語条件での干渉量が有意に大きいこと,また学年による違いは絵+不一致語条件 にのみ認められることが示された。この点についてさらに分析してみたところ,小学2年生での干渉 量が小学4,6年生,中学2年生のいずれよりも有意に小さく,大学生での干渉量が小学6年生およ び中学2年生での干渉量よりも有意に小さかった。

 最後に,妨害語の表記×学年×標準刺激絵のタイプの交互作用について下位検定してみると,干渉 量の学年による違いは絵+不一致語条件についてのみ認められ,その傾向は妨害語の表記のタイプに ようて異なることが示された。すなわち,かな条件では,小学2年生から4年生へと干渉量が増加し 小学6年生で最大となる。そして,中学2年生や大学生での干渉量の大きさは小学2年生のそれと比 べて有意差がなかった。これに対して,漢字表記妨害語条件では小学2年生での干渉量が他の4学年 での干渉量に比べて有意に小さく(P<0.05),干渉量が最も大きくなるのは中学2年生で,ここでの干 渉量は小学4年生や6年生での干渉量に比べて大きくなる傾向(P<O.1)が認められた。また大学生で の干渉量と比べても大きくなる傾向が認められた(Pく02)。次に各学年別に,それぞれの標準刺激絵 のタイプごとの妨害語の表記差による効果を検討してみた。その結果絵+一致語条件では全ての学 年で有意な表記差効果は見られなかった。他方,絵+不一致語条件では小学6年生において有意な表

記差効果が認められ(F(1,604)=6.83,P<0.01)た他に,中学2年生と(F(1,604)=2.50, Pく0.2)大学生にお いて(FG,604)=2.26, P<0.2)干渉量における表記差効果の有意傾向が認められた。

考 察

 本研究の目的は,単語の認知過程に及ぼす表記差(ここでは漢字表記とかな表記の差)効果をStroop 型の課題を用いて発達的な視点から検討することであった。Stroop干渉量に現われるとされてきた表 記差効果とは,漢字表記語での干渉量がかな表記語での干渉量より大きくなるというものである。こ うした現象が生起する理由としては,次のようなことが指摘されてきた。すなわち,漢字は音標文 字から成る語で想定されるような媒介的な音韻高温符号化の過程を経ることなく,それ自体の形態 的符号を全体的に処理した結果から直接意味的符号にいたる処理を受ける。こうした処理のされ方

(6)

は,ある意味で非言語的であり,色の処理のされ方に近いと考えられる。このため漢字表記語の処 理は,そもそも入力段階で色の処理と競合することになる。これが結果として上述のような漢字表 記語とかな表記語との間での干渉量の差異をもたらすというのである(Biede㎜an&TsaQ,1979;

Morikawa, 1981; Morikawa & Kashiwazaki, 1987).

 しかしながら林(1988)の結果は,このような入力水準,あるいは知覚的水準で表記差効果を解釈し ようとする立場に疑問を提起するものであった。すなわち,Stroop干渉量に見られる表記差の効果,

延いては漢字表記語とかな表記語の認知過程に見られる差異は,意味的な水準での両表記語聞の機 能的差異を反映したものとして解釈する方がよいことが示唆されたのである。そこで本研究では,さ らにこの点を明確にするための新たな実験が計画された。単語認知過程における表記差効果の生起 の場所が意味的水準にあることを示すという本研究の目的から,ここでは色一語Stroop課題にかえ て,ターゲット刺激と妨害刺激の意味的関係を操作し易い絵一単語型のStroop課題が用いられるこ とになった。また被験者に求める反応としても,ターゲットの単なる命名ではなくカテゴリー水準 での照合反応を採用した。これはこの反応においては,刺激の意味的水準での処理がより一層必要 になるだろうと思われたからである。さらにまた,被験者の年齢段階も組織的に操作された。

 本実験での結果に関して立てられた予想は次のようなものであった。すなわち,Stroop干渉量に見 られる表記差効果が従来言われてきたように知覚的水準での問題なら,年齢段階の違いに関係なく 漢字表記語による干渉量はかな表記語による干渉量を上回るであろう。なぜなら,漢字表記語の処 理様式が形態符号に基づく全体的なものであることは,どの年齢段階でも共通するはずだと考えら れるので,入力段階での色処理との競合もまた年齢段階に関わらず共通して起こるだろうと予想で きたからである。しかしながら,もしStroop干渉量における表記差の効果が意味的水準における両 表記語の機能の違いに基づくのなら,両表記語がStr◎op干渉量に及ぼす効果は年齢とともに変化す るはずである。なぜなら,我々は読み学習の初期においては漢字表記で単語を表記することよりも むしろ,かな表記することに慣れており,このためその時点における意味水準での両者の働きには 差が無いか,場合によってはかな表記語からの方がむしろ意味を引出し易いということすらあるか もしれないと考えられたからである。表記差による効果とは別に,Stroop干渉量そのものの年齢によ る変化についても,次のような予想が立てられた。すなわち,読書能力の増大,言い換えれば,単 語認知能力の上昇に伴いStro◎p干渉縞も増加していくはずである。しかしながら,認知的葛藤場面

において拮抗する2っの課題を調整する能力も同時に増していくと考えられるので,Stroop干渉量の ピークは大人(ここでは大学生)でよりもむしろそれ以前の年齢のどこかで認められるであろう。

 本研究で得られた結果は,上述のような種々の予想を概ね支持するものであった。まず正答数での 分析結果を見てみると,年齢や表記の条件に関わらず常に不一致条件での成績が悪く,Stroop干渉効 果の生起がどの年齢段階でも示された。本研究の主たる関心事であった表記差効果に関して言えば,

中学2年生での一致条件において漢字条件での成績が,かな条件での成績を上回っており,一種の促 進効果が見られたことを示していた。他方,大学生の不一致条件では漢字表記語条件での成績が,か な表記語条件での成績よりも有意に悪く,漢字表記語でのStro◎p干渉量がかな表記語に比べ大きく なるという従来からの結果を追認するものであった。このように,Stroop干渉効果そのものにいずれ の年齢段階でも認められたにも関わらず,Stroop干渉量への表記差による影響は特定の年齢段階にな らないと認められなかったということは,Stroop干渉量への妨害語の表記差による影響は意味水準に 働くという本研究の当初の予想と一致するものだった。この点は,干渉量による分析結果からも同

(7)

様に裏付けられた。

 本研究で得られたStroop干渉量は,小学2年生で最も小さく,年齢の関数として増加していくが,

そのピークは小学6年生から中学年生の年令段階で現われていた。これは読書能力の増加と認知的調 整能力の発達の関係から予想された結果に一致するものであったと言える。しかしながら,Stroop干 渉課題を用いて読書能力の発達を組織的に検討したSchadler&Thissen(1981)の研究結果では, Stroop 干渉量のピークは小学4年生前後に現われており,本研究での結果とはずれを示している。この理由 はよく分からないが,彼らの課題は従来からの色名呼称であり,そのような課題の違いがこうした 差の原因かもしれない。

 さて,表記差の効果に関連してここで興味深い点は,干渉量のピークに表記条件闇でずれが見られ たことである。すなわち,かな表記語条件では小学6年生に,他方漢字表記条件では,中学2年生に 干渉量のピークが認められ,それぞれにおいて干渉量に有意な表記差効果が認められたのである。こ のこともまた,本研究の作業仮説であるStroop干渉量への表記差の効果が,それぞれの表記語の意 味的水準での働き方の差異を反映するという考え方に一致する結果であった。なぜならこれは低い 年齢段階は読み学習の初期に当り,そこではかな表記語の意味機能が漢字表記語よりむしろ優勢で あるためかな表記語からの意味的干渉効果が顕著であるが,年齢が上がるにつれてそれが逆転して いくことをこの結果は示していたのだと解釈することができるからである。

 以上のように本研究の結果は,単語の認知における表記差による効果を意味的な水準での問題とし て捉えようとする立場を概ね支持するものであったと言える。しかし本研究は,そこで用いられた 漢字刺激の一部に小学2年生の学習範囲以外から選ばれたものを含んでいたという方法的な問題点を 含んでいた。従って,この刺激の選択の仕方に留意した上で今後さらにこの問題を検討していく必 要があると言えよう。その際日本語の音韻特性から必然的に派生する同音異義語の問題を考慮す

ることもまた必要であろうと考える。

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付記

 本研究を実施するに当たっては,日立市立水木小学校および石岡市立国府中学校の教職員ならびに 生徒の皆さんのあたたかいご協力をいただきました。御礼を申し上げます。また本研究の資料収集 のため,稲葉晶子(茨城大学大学院生),三次多喜子(茨城大学教育学部,平成3年度卒業生,現在日 立システムエンジニアリング),蛯原浩司(茨城大学教育学部,平成3年度卒業生,現在ライオン油 脂)の各氏に協力を得ました。ここに記して深く感謝いたします。

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