茨城大学教育学部教育研究所紀要19号(1987)99−104
99教授用「のこぎり」の切削作用観察装置
佐 藤 英 雄
(1986年11月5日受理)
壌.はじめに
木材加工においては「切る」「削る」という作業は,最も基本的な作業であり,のこぎりはかんなと 並び不可欠な工具である。のこぎりについて,中学校の木材加工の中ではrのこぎりを適切に使用でき
るように指導する。その指導に当っては,木材の繊維方向とのこぎりびきの方向との関係に留意させる
こと,また,のこぎりの切削作用については,たてびき用とよこびき用の歯の形の違いを中心に取扱い,
あさりの必要性にも触れるようにする』1)となっている。のこぎりの切削作用については,一般にたて びき用の刃は「のみ」のような形をしており,木材の繊維方向に切削しやすくなっている。また,よこ びき用の刃は「小刀」のような形をしており,木材の繊維方向に対して直角やななめ方向に切断しやす
くなっていると言れれている1)3)4)中学校の教科書5)6)でも同様な説明がなされており,のみで繊維方
向に削っているところや小刀で繊維方向に対して直角に切っているところの図が示されている。のこぎりは多数の刃で連続的にある速度をもって繊維を切断しているため,使用中に刃先部分を注視しても,個
々の刃がどのように繊維を切断しているのかわかりにくい。従って,生徒は刃の構造と繊維との関わり を客観的に理解することがむずかしく,必ずしも理にかなった使い方をしているとは言えない。時々た てびき用の刃で繊維方向に対して直角方向に使用したり,あるいはその反対に,よこびき用の刃で繊維 方向に使用している場面を見ることがある。刃の構造が一見してはっきりわかり,繊維をどのようにの こ歯が切削しているのかを明示することが可能であれば,のこぎりの切削作用を実証的に理解させるこ とができ,理論と実践がかみ合った実習が展開されると思われる。しかし,のこぎりの切削作用を明示し,理解させるための装置は未だ開発されてなかった。
そこで,のこぎりの刃を手動ねじの回転によって移動させ,微速度で木材を切削し,その切削作用を 動的に観察できる装置を考察試作した。刃はのこ身に刃わたりをもたせ,通常のたてびき用とよこびき 用ののこ歯を備えたものと,たてびき用とよこびき用ののこ歯の形の違いを,それぞれ一見して確認で きるように個別化して大型に作ったものとの2つのタイプがあり,それらはお互いに容易に交換するこ
とができるように,固定ねじで簡単に装着できる機構になっている。
なお,本装置は第23回日本産業技術教育学会(1980年,於徳島)において,口答発表7)したもので
ある。
2.のこぎりの切削機構観察装置の構造
本装置の構造を1図および2図に示す。i図は正面図と平面図であり,2図は1図のA−A線断面図
である。構造的には切込量設定機構部,刃物台横送り機構部,刃物台および刃物ホルダー部,材料固定部などから成っている。各部機構についてつぎに述べる。
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茨城大学教育学部教育研究所紀要19号(1987)
(1)切込量設定機構部
切込量の設定は,刃物台詞送り案内杯(10)をY軸方向に移動させるための機構である。.1図におい
て,鋼板の基体(1)に2対の主柱(2a)(2a ),(2b)(2b )を固定し,この主柱の上部外側にはそれぞ れ(3)(3 )の軸受が固定されている。この軸受には,両端にそれぞれ小かさ歯車(駐車)(4)(4 )を
固定した駆動軸(5)が軸支されている。この駆動軸の左端には,回軸操作用の円型ハンドル(6)が取付けられている。さらに主柱には(7a)(7aノ),(7b)(7b )の2対の軸受が上下に固定されている。この 軸受には,互いに平行な一対の従動軸(8)(8 )が上記駆動軸に対して直交状に軸支され,これら従動 軸の上端には,それぞれ大かさ歯車(従車)(9)(9ノ)が上記小かさ歯車(4)(4 )にかみ合って連結さ れている。そして従動軸(8)(8 )には,それぞれ同ピッチの雄ねじが該まれており,この雄ねじには,
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1図 のこぎりの切劇作用観察装置の構造
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4図 よこびき爾の刃
角棒状の刃物台横送り案内杵(10)の左右両端がね
じ接合されている。なお,上記従動軸の雄ねじは,
一方が左ねじになっている。ただし,小かさ歯車
(4)(4 )の一方を大かさ歯車の内側に位置するよ
うにして,二つの小かさ歯車の向きを同じ方向に取 付けるとその必要はない。切込量の設定は,円型ハンドル(6)を回すことにより,小かさ歯車(4)(4!)
の回転が大かさ歯車(9)(9ノ)に伝導され,同時に 従動軸(8)(8 )が回転して刃物台替送り案内粁(10)
が平行に上下に移動し完了する。
(2)刃物台糖送り機構部
刃物台横送り案内秤(10)には,両端側面に一対
の軸受(11)(11ノ)が左右に固定されており,この軸 受には刃物台駆動軸(12)が軸支されている。この刃
物台駆動軸には,軸受間の部分に雄ねじが該まれており,右端には回転操作用の円型ハンドル(13)が取
けられている。また,この刃物台駆動軸には,網野刃物台送り(14)(14ノ)がねじ接合されて,刃物台 の一部(15)(lS )を左右から挾み,刃物台駆動軸
(12)の回転によって往復運動し,刃物台をX軸方
向に移動させる。
(3)刃物台及び刃物ホルダー
刃物台(15)〜(18)は刃物横送り案内粁(10)
を囲んで左右に移動できる機構になっている。(15)
(15ノ)は刃物台送り(14)(14ノ)が左右に移動する
力を受ける部分で,刃物台駆動軸(12)に離間して上下に位置している。このように(14)と(15)は固
定させないことで,刃物台駆動軸(12)の微細な 回転振れが直接刃物台に伝わらないで吸収される構造になっている。(18)にはのこ身あるいは刃物ホル ダー(3図および4図)を取付けるための4ケの雌 ねじが該んである。
刃物ホルダーは,たてびき用(3図)とよこびき 用(4図)があり,それぞれ個別化したのこ歯が4
本ずつ装着できるようになっている。刃物ホルダーの 基板(22)には,刃物台に固定する取付け穴(23)
がある。
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中板(24)はたてびき用およびよこびき用の刃を取付ける溝が4ケ形成されている。(25)はのこ歯固定ふ たであり,(26)のねじで中板に固定されている。のこ歯は(27)のねじで固定され,(28)の刃先調整ねじ で頭部が押えられている。なお,のこ歯が基板(22)と接する部分の上部と下部に紙等を挾み,刃先を振
り分けて「あさり」をつけることができる。また,刃物ホルダーを用いず,通常のたてびき用あるいは よこびき用ののこ歯を備えたのこ身(写真2参照)を,直接刃物台に取付けて切削することもできる。(4>材料固定部
材料(19)は材料押え(20)(20ノ)で2対の蝶ねじ(21)によって,基板(1)に固定されている。材料は切削
作用の観察中,切削場所を変えるために材料をずらしたり,あるいは,繊維方向を異にする材料と交換したりすることが多いので,容易にその操作ができ,しかも,確実に固定できるようになっている。
(5)使用法
最初に刃物の調整を行う。個別ののこ歯を刃物ホルダーに固定する場合,刃先の高さはすべて同一に するのでなく,どの刃も切削の作用をするように進行方向から順に後継する刃を出すように,刃先調節 ねじ(28)で調節する。また,写真2のような通常ののこ歯を備えたのこ身を固定する場合は,取付け用 の穴を大きくあけて余裕を持たせておき,のこ歯の後方をやや下げて取付ける。刃物の調整および刃物
台への固定が完了した後,ハンドル(13)を操作して刃物台を端に移動させる。つぎにハンドル(6)を操 作して刃物を下げ,所望の切込量を設定する。これで準備が完了したことになり,ハンドル(13)を操作
して刃物をX軸方向に移動させて切削すると切削作用の観察ができる。
3.結 果
試作したのこぎりの切削機構観察装置は,のこ歯をハンドルの回転操作によって微速度で移動させて 切削するもので,刃先が木材の繊維をどのようにして切削するのかを,動的にしかも分析的に観察する ことができる。従って,切削状態を見ることによって,たてびきおよびよこびき用のこ歯による切削作
用が一目瞭然で理解できる。
つぎに試作した装置および切削しているところの例を示す。写真1は個別化したのこ歯を装着した全 景であり,写真2は通常ののこ歯を備えたのこ身を装着した全景である。前述したように,これらの刃
日記
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単体の「のこ歯」を取付けた切削 写真 2、のこ身を取付けた切削
佐藤:教授用「のこぎり」の切削作用観察装置
1 03物の交換は4本の固定ねじによって行うことができる。写真3は個別化したたてびきのこ歯によって切 削しているところであり,繊維方向に「のみ」で切削する場合と同じような作用で,個々の刃によって 切削していることが理解できる。写真4は同じくよこびきのこ歯によって切削しているところであり,
繊維方向に対して直角に「小刀」と同じように,刃先で繊維を切断しながら切削していることが理解で
きる。これらは両者とものこ歯を拡大して個別化し,刃の構造をわかるようにしたところに特徴があり,
個々の刃による切削状態が明瞭に観察できる。
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写真 3.たてびきのこ歯(個別)による切削 写真 4.よこびきのこ歯(個別)による切削
写真 5.通常のたてびきのこ歯による切削
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写真 6.通常のよこびきのこ歯による切削
写真 7.たてひきのこ歯による木材のよこびき
写真5および写真6は,通常のたてびき用お よびよこびき用の歯と全く同様な状態で切削し ているところである。両者とも連続したのこ歯
によって切削しながらのこくずを排出して行く
様子がわかる。写真7はたてびきのこ歯を用い て繊維に対して直角方向に刃を移動した場合の 状態であり,繊維をむしり上げながら切削して いる様子がわかる。従って,この刃物は繊維に対し直角方向の切削には適しないことがわかる。
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4. ま と め
本装置はのこぎりの歯を機械的に移動させ,切削機構を観察できるようにしたものであり,つぎのよ
うな特徴がある。
①②③④⑤
本装置は中学校の木材加工ばかりでなく 本学の授業の中でも使用しており,
会等でも使用し興味を示された。
なお,本装置は教具として製品化の運びとなり,
のこ歯が微速度で移動するので,たてびきとよこびきの切削作用の特徴が明瞭に理解できる。
のこぎりの切削作用を動的にしかも分析的に観察できる。
のこ歯が1つ1つ分解できるので,たてびき用とよこびき用の歯の構造の理解が容易である。