個別支援を必要とする児童への学校教育的支援策の 検討
著者 池島 ?大, 吉村 ふくよ
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 18
ページ 9‑15
発行年 2009‑03‑31
その他のタイトル The Case Study of School‑based Functional
Analysis Methods for the Child Who Doesn't Fit in Class at a Primary School
URL http://hdl.handle.net/10105/1015
1.はじめに
近年、小中学校においては、通常の学級で個別に配 慮を必要とする児童生徒に対する特別支援教育が全国 的に展開されてきている。しかし、教育現場の現実を みてみると、欧米と比べて学級の人数が多く、また特 別支援教育を担当とする教員が十分に配置されていな いなど、円滑な教育的支援が行えているとは言い難い 状況にある。そのため、学級担任教師にはかなり大き な負担がかかっているのも事実である。
文部科学省が平成14年に実施した「『通常の学級に在 籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関 する全国実態調査』(http://www.mext.go.jp/a̲menu/
shotou/tokubetu/001.htm)は、学習障害(LD)、注意 欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等、学習 や生活の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒 が約6パーセント程度の割合で通常の学級に在籍して いる可能性がある」との結果を示した。しかし、同調 査結果には次のような留意事項も示された。それは、
「(本調査は)担任教師による回答に基づくもので、
学習障害(LD)の専門家チームによる判断ではなく、
医師による診断によるものでもない。従って、本調査 の結果は、学習障害(LD)・ADHD・高機能自閉症の 割合を示すものではない」というものである。このこ とは、逆に言えば前出の学習障害(LD)・ADHD・高 機能自閉症と明確に診断できない、ボーダーかあるい
個別支援を必要とする児童への学校教育的支援策の検討
池島
大(奈良教育大学大学院教育学研究科専門職学位課程)
吉村ふくよ
(天理市立井戸堂小学校)
The Case Study of School-based Functional Analysis Methods for the Child Who Doesn't Fit in Class at a Primary School
Tokuhiro IKEJIMA
(School of Professional Development in Education,Nara University of Education)
Fukuyo YOSHIMURA
(Idodou Elementary School)
要旨:本研究では、学級の中で変わった子として疎外される可能性があり、個別支援を必要とするB児への対応を事
例的に検討することを目的とした。具体的には、B児の(問題)行動がどのような機能や目的を果たしているのかを、デムチャックら(1996)が開発した「問題行動に対する機能的アセスメント」のステップを参考に評価した上で、B 児の行動の変化を行動的産物記録法によって記録・分析し、対応策を検討した。機能的アセスメントの導入によって、
B児特有の発言や応答の機能が特定され、周囲の子どもたちから変わった子としてのスティグマ(烙印)が与えられ ないように、「こだわり応答」を問題行動の第1順位として、その行動特性に対する機能分析が試みられた。その結 果、B児への個別支援策として、①筋の通った応答をしたら褒める、②的外れの応答をしたら受容しながら意図的に 無視する、③突拍子もない発言は少し我慢させ、我慢できたら褒める、の3点が見出された。また、「こだわり応答」
の直後に起こるクラスみんなからの嘲笑への対応として、担任は「こだわり応答」を受けとめながら意図的に無視す る消去手続きを導入したところ、まわりの子どもたちからB児を嘲笑するなどの行動がほとんどみられなくなった。
また、代替行動としてB児の「反芻応答」や「確認応答」を積極的に活用し、否定的と思われるB児の行動に積極的 な意義を与えたところ、B児の自己有用感が増していることが見出された。
キーワード:授業中変わった行動をする子 the child who doesn't fit in class, 個別支援 individual support,
機能的アセスメント functional assessmentはそれに近い子どもたちが存在し、現在の学校教育が 困難な状況であることを裏付けているといってよいで あろう。
上野(2008)は、今日の学力の低下問題、いじめ、
不登校、授業崩壊など、さまざまな問題が公教育で山 積していると述べた上で、「『発達障害』はこれらの問 題の背景要因としても色濃く関係していると思われる」
とも指摘している。 この点について、河村(2008)
は、自ら開発した「学級集団分析尺度Q−U」の調査 データから、特別支援が必要な子どもが在籍している 学級の子どもたちの学級生活の満足度が有意に低いこ と、さらに、通常学級に在籍している特別支援が必要 な子どもの学級生活の満足度が、他の児童・生徒と比 較して著しく低いことなどの知見を得ている。特に後 者は、個別に支援を必要とする子どもたちが通常学級 の子どもたちから新たな二次的問題を受けている可能 性を示唆しているもので、憂慮すべき事態といってよ いであろう。
池島(1997)がかつて指摘したように、特別に配慮 を要する児童・生徒は、いじめの対象になることが少 なくない。このような特性は、ヴァルネラビリティ
(Valunerability:攻撃誘発性)と呼ばれ、容易にいじ めの標的にされやすい傾向性を意味する。我々は、何 としてもそのようなことを食い止めるべく、支援策を 検討していかねばならない。
そこで本研究では、個別支援を必要とする児童が学 級の子どもたちに受け入れられていくための支援策に ついて、応用行動分析学の知見をもとに事例的に検討 を行う。
2.方法
デムチャックら(1996)が開発した「問題行動に対 する機能的アセスメント」のステップを参考に、個別 の配慮が必要とされるB児に機能的アセスメントを実 施し教育的支援策を構築する。さらに、機能的アセス メントに基づいた支援の実際を提示し、B児の行動の 変化を行動的産物記録法によりデータ処理し考察を行 う。
3. 対象児童のプロフィール
3.1 対象児
B児、小学校4年生。発達障害(アスペルガー傾 向)が疑われる児童である。
3.2 プロフィール
B児は、父母と姉の4人家族。1学期、学年当初の 引き継ぎで、前担任からは聴覚認知に問題があり、的 はずれな会話や応答が多いとの情報を得ている。学力
は高い。
3.3 学級児童との人間関係
4月当初、B児の的はずれな会話や応答に対して、
クラスの子どもたちはすでに慣れている様子であった。
B児の突拍子もない発言に対して、「ははは。また、
そんなこと言うてる」とか、「おい、それと違うやろ」
などと返している子もいれば、「B、いちいちやかま しい!」とか、「B、もう黙って!」「Bちゃん、う るさいで!」などと、イライラした様子をあからさま に示す子らも見られた。ただし、B児をよく知るC君 は、「Bの言うことにいちいち言い返してたら、Bは なんぼでも言い出すから構わんほうがええで」と、授 業中、みんなに声をかける場面もしばしばみられた。
また、B児のことを「可愛いから大好きや」という子 どもも2人ほどおり、グループ学習や遠足の時などに もB児と行動をともにする友だちがいるなど、学級内 でさほど浮いた存在ではなかった。
3.4 個別支援が必要とされる理由
B児の的はずれな言動や授業中の応答は、学習の進 行を遅れさせたり、学習している友だちの勉強を妨げ たりするなど、2学期になってから多くみられるよう になった。今は温かく関わっているなかまであっても、
将来、疎外される可能性があることが予想された。そ の傾向として、「B、やかましい!」「B、うるさ い!」「B、黙って!」と、B児を呼び捨てにし、し かも吐き捨てるような言い方をする児童が増えてきた ことがあげられる。しかし、B児はそうした馬鹿にし たような発言をした側の気持ちとは違ったとらえ方を している様子で、さほど気にすることもなく平気な顔 をしていた。
これらのやりとりから、今後、人間関係の変化によっ てB児が知らず知らずのうちにいじめの対象となって、
ヴァルネラビリティを有する児童になりかねないこと が懸念された。現に、9月に本学級に転校してきて間 もないD児は、B児の言動に対して「あいつ、ちょっ とおかしいのとちがうか」「あいつ、また変なことゆ うてるで」などと言い出し、B児の仲良しの児童から も、「Dちゃん、そんなこと(B君に)ゆうたりなや
(言わないように、の意)」とたしなめられる場面も みられた。また最近、「先生、○○君がB君のことを 変な奴やって言います」と訴えに来る子も見られるよ うになった。
B児の母親は、4年生に進級したはじめての学級懇 談会の席で「うちの子は変わった子なので、みんなと うまくやっていけるかどうか心配です」と、自分の不 安を学級の他の保護者に投げかけ、担任に対しても特 別な配慮を要請している。
担任は、学級の子どもたちの人間関係を形成するた
めの開発的プログラムとして、ピア・サポートトレー ニングを4月以来導入してきたが、B児を含むスキル の獲得が不十分な児童に対して、どのような個別支援 策が必要であるかを検討しておくことが学級担任教師 として必要であると考え、B児の(問題)行動に対す る機能的アセスメントを実施することとした。
4.機能的アセスメントとは
ここで、「機能的アセスメント」について、若干説 明を加える。
4.1 機能的アセスメントとは
機 能 的 ア セ ス メ ン ト(Functional assessment)と は、ONeill.R.E.etal(1997)によると、「行動的な支援 の効果性と効率性を最大限にするために用いられる情 報を収集する過程」とされる。野呂(1997)は、機能 的アセスメント情報収集のための方法として、次の3 つを挙げている。1つは関係者への「インタビュー」、
2つめは行動観察にもとづく「記述的分析」、3つ目 は、系統的に関連する変数を操作することによる「実 験的分析」である。
機能的アセスメントとそれに基づく介入を通常学級 で適用する場合には、その実行者は通常、学級担任が 行う。
4.2 問題行動に対する機能的アセスメントの 基本仮説
デムチャックら(1996)は、問題行動に対する機能 的アセスメントの基本仮説として次の3点を示してい る。
①問題行動は、特定の機能(目的)を果たしてい る。例えば、注目を得る、モノや活動を得る、感 覚やフイードバックを得るという目的である。
② 問題行動はむやみやたらに起きるものではなく、
環境をコントロールする機能を持っている。
③ 問題行動はその行動の前後の出来事に関して お り、また行動の直前の出来事だけではない「セッ テイング事象」も影響を及ぼしていることに 留 意すべきである。
このように、ある行動がどのような状況において生 じ、また維持されているかを見極める(ないしは観察 する)ことによって、その行動自体がどのような機能
(働き)をもっているかを推察していくのである。こ の推察が、問題行動に対する機能的アセスメントの基 本仮説となる。
次に、具体的な個別支援の実際を示す。
5.機能的アセスメントの実際
5.1 実施担当者
B児が在籍するA学級担任(以下担任)、A学級に 在籍する障害児の学級担当教員(以下、障担)、A学 級の少人数指導教員(算数科・書写担当)の3名であ る。X年11月27日(月)、上記3者で、実施期間・実 施内容・実施方法について打ち合わせを行った。
5.2 実施期間
1回 目(Pre 調 査)X 年12月4日 〜8日、2回 目
(Post調査)X+1年3月13〜20日。以上のそれぞれ 5日間実施。
5.3 実施内容
実施した観察内容は、「A- B- C分析記録」、「散 布図データ記録」、「問題行動のコミュニケーション の意図を観察するための記録」の3つである。
5.4 観察対象時間及び対象教科
主に、担任と障担の2人で観察を行った。算数と書 写の時間は少人数指導教員が担当しているため3名で 実施した。
観察対象教科・領域は、当該学級の時間割に従っ て、国語、算数、理科、社会、書写、図工、音楽、体 育、道徳、学級活動の時間(以下、学活)、総合的な 学習の時間(以下、総合)である。いずれも授業時間 は、1単位時間45分間である。
6.実施手順
デムチャックら(1996)の5つの「機能アセスメン トの実施手順」を参考に、下記の6ステップで実施手 順を立てた。
ステップ①:問題行動を特定する。
ステップ②:問題行動に優先順位をつける。
ステップ③:問題行動を定義する。
ステップ④:仮説を立てるために「系統だった観察」
をする。
下記の情報収集シートを使用する。
1 A- B- C分析記録用紙 2 散布図データ記録用紙
3 問題行動のコミュニケーションの意 図を観察するための記録用紙 ステップ⑤:仮説を立てる。
ステップ⑥:アセスメントの結果と指導介入方法を 見つける。
1 代替行動を見つける 2 結果事象を操作する 3 先行事象を操作する
7.結果と考察
7.1 ステップ①:問題行動の特定
実施者3名の協議により、問題行動を次の4つの視 点から特定した。
①B児は、授業中下記3つの応答行動を行ってい る ことが特定された。
a)教師の応答に対してそのまま同じ言葉を使って繰 り返し応答している。この行動を「反芻応答」と 命名した。
b)教師の発問に対して応答する。この行動を「確 認応答」と命名した。
c)場違いな応答をする。この行動を「こだわり応 答」と命名した。
②応答行動の頻度が特定された
・教室場面で多く見られ、教師が指示したあとに必 ず上記いずれかの応答を「かん高い声」で繰り返 すことが分かった。
③応答行動の強さが特定された
・教室移動の指示をすると、さらに「かん高い声」
で、上記いずれかの応答を繰り返すことが分かっ た。
④応答行動が典型的に起こる活動及び状況が特定 された
・遊び時間はほとんどなく、授業中にほとんど起こっ ている。
・授業中、教師の指示があった直後に3つの応答を 行っている。
・今までの学習からすでに理解されたものとして次 の課題に進む指示を出したとき、反芻応答、確認 応答、こだわり応答のいずれかを行っている。
7.2 ステップ②:問題行動の優先順位
教師の指示後すぐに起こるB児の応答は、周囲の子 どもたちから変わった子としてのスティグマ(烙印)
が与えられやすい。特に「こだわり応答」は、教育的 意図をもった介入を行わない限り友だちから疎外され ていく可能性が憂慮されるため、「こだわり応答」を 問題行動の第1順位とした。
7.3 ステップ③:問題行動の定義
一斉授業のなかで起こるB児の場違いな応答行動 を、「こだわり応答」と定義した。
7.4 ステップ④:仮説を立てるための観察の実施
ステップ④では、仮説を導くための情報収集を実施 した。具体的には、問題行動が起こっている状況を特 定し、仮説を導くために、実施担当者間で情報交換を 行った。その結果、問題行動の直後にいつも起こって いる事象について検討した。B児の問題行動である「こだわり応答」は、大抵の 場合、授業中に起こっており、また、B児が「こだわ り応答」をした直後に、周りの子どもたちが笑い声と 共に「ははあ、また変なことゆうとる」「そうとちが うやろ!」「B、うるさいなあ」「Bは、先生の話を 聞いていない」「おかしいのとちがうか」などと、口々 にしゃべり出してしまう状況が見られた。担任は、B 児の発言直後におこるB児への非難に対してBを傷つ けまいとするあまり、B児の応答がずれているのが分 かっていても、それなりに話を繋いだり、繋がらない ときには、B児に「その話、あなたの机に掛けてあ る、その袋にちょっと入れておいてくれる?、後で続 きの話をしようね。」などと切り返し、何度かフォロー してきた。そして、授業が終わってからB児に話しか けた。「さっきの話、袋から出してくれる?」と尋ね ると、B児は「別にもういい」と言って、話の続きに はほとんど関心を示さないことがしばしば見られた。
このような事象から、B児のこだわり応答は、授業中 に周りの友達から注目を得るための方法として行なわ れているのではないか、という仮説を導くことができ た。一方、B児の発言後に必ず生起するまわりの子ど もたちからの嘲笑などへの対応が、課題であることも 示された。
7.5 系統だった観察の実施
さらに、仮説を明確なものにするために、系統だっ た観察を実施した。系統立った観察には、デムチャッ クら(1996)が示した、「A-B-C分析記録用紙」「散 布図データ記録用紙」「コミュニケーションの意図を 観察するための記録用紙」の3つの情報収集シートを 使用した。
7.5.1 A-B-C分析
Table.1は、X年12月に実施したB児の1週間のA- B-C分析のデータである。B児の「こだわり応答」に先 だって起こる先行事象(A)は、クラス全員の子ども たちが着席し静かな雰囲気で学習をしている状態のと きに起こっている。結果事象(C)は、周りの友達が B児の「こだわり応答」に対して、笑っているか大笑 いしているときに起こっている。つまり、B児の行動 は、クラスのみんなに注目されることを期待した行動 であると推察された。
7.5.2 散布図データの分析
「こだわり応答」は、どのような教科学習の時間に 見られるかを観察した。生起頻度の計数は、アセスメ ント実施者(2名以上)がB児の「こだわり応答」の 頻度を、5日間の全授業についてカウントした。授業 担当者も計数者として加わっていたため、計数担当者 がカウントした記録のなかで最も多い計数値を生起頻
度とした。それを授業ごとに合計し、5日間で行われ た授業回数で除して当該授業科目1時間あたりの生起 頻度とした。なお、5日間の中で1時間しか行われて いない音楽科と道徳の時間については、その時間だけ の生起である可能性を排除するためデータから除外し た。
Fig.1 に見られるように、X年12月の時点では、
ターゲットとするB児のこだわり応答の頻度は、各教 科1単 位 時 間 あ た り、算 数 科(4.62回)、国 語 科
(2.85回)、総 合 的 な 学 習 の 時 間(2回)、社 会 科
(1.33回)、体育科(0.5回)であった。この時期に行 われた算数・国語科の授業は、座学による一斉授業方 式が取られており、反面、観察されなかった理科・図 工・学活では、実験や工作といった活動が導入されて いた。つまり、B児の「こだわり応答」は、クラス全 員が机に座って静かに思考する時間に集中して生起し ていることが判明した。ただし、ここでは観察の対象 とはしなかったが、反芻応答や確認応答はどの時間に も多く見られた。
7.5.3 コミュニケーションの意図
3人の観察者が持ち寄ったデータから、B児の「こ だわり応答」は、「注目」を意図するメッセージであ ることが推察された。
7.6 ステップ⑤:仮説の特定
以上のデータから、B児の問題行動(こだわり応 答)は、級友の注目を得るための行動となりうると仮 定された。
しかもB児のこだわり応答は、クラス全員が着席し
静かな環境の中で、学級の子どもたちが教師の発問に 耳を傾け始めたときに起こることが特定された。
7.7 ステップ⑥:指導介入方法の提示
7.7.1 代替行動を見つける
B児の「反芻応答」や「確認応答」は、他児の注意 を喚起し学習へのモティベーションを高める機能を有 している行動であるととらえ、「こだわり応答」の代 替行動とした。その理由は、反芻・確認応答によっ て、学習内容を明確にするという機能を有していたも のと考えられたためである。「反芻応答」や「確認応 答」が発せられた場面では、教師側から積極的なコン プリメント(賞賛)を行い、クラスのみんなからも拍 手で賞賛を受ける機会を増やした。(Table.2)
このような代替行動を見つける作業は、学校教育臨床 上、極めて大切な作業である。B児とその子を取り巻 く子どもたちが、B児を応援する支援策として機能し ていく必要があるためである。Table.3にみられるよ うに、教師の応答は、いわばB児へのかかわりモデル としての機能を果たしたといえるだろう。
7.7.2 結果事象の操作
さらに、B児の「こだわり応答」の直後に起こるク ラスみんなからの嘲笑への対応を図るため、筆者は
「こだわり応答」を受けとめながら意図的に無視する 消去手続きを導入した。(Table.3)
「受容しながら意図的無視」のモデルを教師が示した ことで、まわりの子どもたちからB児を嘲笑するなど の行動がほとんどみられなくなった。B児にとっては、
教師・仲間からの発言 B児の発言
教師の発言
Bちゃんそれいい応答やね。(と、コンプリメント) そう、何の劇をする のかなあ。(と言って、話を続ける)
何の劇するの?
劇をしましょう。
Bちゃん、今言ったこととぴったりの応答やね。(みんなで拍手する)(B 児は図書委員で、読書タイム の時間に図書室を開けようと考えていたらし い)
図書室いつ開けますか?
読書タイムです。
はい、いります。図工の話とぴったりのいい応答やね。(と、コンプリメ ントし、拍手する)
先生、絵の具いりますか?
今 日 の 図 工 は、絵 の続きですよ。
Table. 2 代替行動(反芻・確認応答)へのコンプリメント
結果事象(C)
行動(B)
先行事象(A)
みんなが笑う
「うんこ」や「うんこ」や 教師:文章を読んで答えましょう。
(と言ってパンの絵を黒板に 描く)
一同大笑い
「3がおしりに見える」
教師:3番の問題をしましょうと言っ て「3」の数字を板書する。
クラス全員笑う
「うんことげろ」「しかの ちんちん」
教師:「食べ物に関係ある言葉は?」
と発門する。
Table. 1 B児の「A-B-C分析」
「こだわり応答」よりも代替行動としての「反芻応 答」や「確認応答」の方が、結果的に受け入れられて いると実感することが多くなったように思われる。B 児の持っている資源を有効に活用した支援が実施でき たのではないかと考えられる。
7.7.3 先行事象の操作
B児への個別支援策の知見から、視覚に訴える指示 方法を取り入れるようにした。板書に対応したワーク シートを持たせるなどの工夫である。また、一日の行 動が見通せるように大きめの時間割を作り、予定表の 貼り替え作業をB児が所属する学習係の仕事にし、毎 日、黒板に磁石で張り出させた。担任は、クラスのみ んなを着席させ、静かになった環境で今日の予定と学 習内容を伝えた。この場面でもB児から「反芻応答」
と「確認応答」は見られたが、それがかえって一日の 学校生活の見通しを意識づける機能としての効果が生 まれた。
B児の応答は、結果的に教師や周りの子どたちから 褒められることにつながっていった。教師の話を聞き 逃していた他の児童にとって、B児の反芻・確認応答 は大いに役立ったといえる。その結果、B児には自己 有用感が増し、クラス全体には次の行動への指示が行 き渡るという効果が得られた。機能アセスメントによ り、先行事象や結果事象を変容させ、B児の問題行動 である「こだわり応答」は激減した。(Fig.1)
8. 全体的考察と今後の課題
機能的アセスメントによってB児の問題行動に対す る個別の支援策をまとめると、以下の3点が見い出さ れた。
①筋の通った応答をしたら褒める。
②的外れの応答をしたら受容しながら意図的に無視 する。
③突拍子もない発言は少し我慢させ、我慢できたら 褒める。
学校教育においては、個別支援が必要な子どもが学 級から「浮く」ことのない支援策を講じていく必要が ある。
井上(2007)も、この点に関して次のように述べて いる。少し長いが引用する。「現在、教育現場で特別 支援教育が推進され発達障害に対する理解や行動特性 に対する知識が徐々に浸透しつつある。しかし筆者は 一方で、困った行動の原因を障害特性のみに帰着させ られてしまうことを危惧している。つまり、困った行 動の生起要因を個人因子のみに帰着させることで、学 校や教室環境、教師の接し方や指導方法などの環境因 子の改善が見過ごされてしまうという危険性が生じて
教師・仲間からの発言 B児の発言
教師の発言
(さりげなく)秋の遠足の話は、遠くへ置いときましょうね。
先生秋の遠足はどこ?
(全員に向かって)
春の遠足の話をしま す。
(受容しつつ)熱心やね。
それは後でね。今は算数ですよ。
先 生、図 書 室 の 鍵、い つ 開けたらいいですか?(B 児は、図書委員であるた め、そのことがとても気に なっていたらしい)
(全員に向かって)
今 日 の 算 数 は、大 きい数の勉強です。
(受容しつつ)じゃ、後で臭いかがせてね。
さあコンパス出ましたか?
わ あ、こ の 消 し ゴ ム、フ ルーツポンチの臭いやー。
(全員に向かって)
コ ン パ ス を 出 し ま しょう。
(意図的に無視して)ノート出ましたか?
昨日弟がオチンチン出しま した。
(全員に向かって)
さ ぁ、ノ ー ト 出 し て。
Table.3 受容しながら意図的無視
Fig.1 B児の1単位時間あたりのこだわり 応答の頻度とその変化
いるように感じている」。このような状態では、発達 障害などの子どもはまさに浮いてしまいかねない。
本研究では、B児特有の発言や応答の機能を特定し て、周囲の子どもたちから変わった子としてのスティ グマが与えられないように、「こだわり応答」を問題 行動の第1順位として、その行動特性に対して機能分 析を試みた。
そして、B児の「こだわり応答」の直後に起こるク ラスみんなからの嘲笑への対応を図るため、担任は、
「こだわり応答」を受けとめながら意図的に無視する 消去手続きを導入した。そのモデルを教師が示したこ とで、まわりの子どもたちからB児を嘲笑するなどの 行動がほとんどみられなくなた。また、代替行動とし て「反芻応答」や「確認応答」を積極的に活用し、否 定的と思われるB児の行動に積極的な意義を与えるこ ととなった。B児の自己有用感が増したのは当然であ ろう。「反芻応答」や「確認応答」の活用によって、
クラス全体に次の行動への指示が行き渡るという効果 も得られている。しかし、何よりも担任の暖かい言葉 かけや配慮が大きかったといえる。
個別の発達特性や行動特性によって、簡単に受入れ ることが容易でない場合もあろう。しかし、問題行動 の機能に着目し、アセスメントを実施して対応してい くことが、今後ますます求められよう。アセスメント ができると、チームによる支援体制もより機能してく る。
援助資源を有効に活用し、個別の配慮を必要とする 子どもと周りの子どもたちとの関係性を豊かに育んで いくことは、今後の学校教育においてますます重要な 課題となってくるであろう。
(謝辞)本研究に事例概要として発表をご承諾くださ いました、保護者ならびに関係者の皆様に感謝申し上 げます。
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