奈良教育大学学術リポジトリNEAR
理科学習の意義や有用性を実感させるための指導法 の検討 ─小学6年「てこの利用」に爪切りを導入す ることの効果─
著者 石井 俊行, 桝本 有真, 南口 有砂
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 69
号 1
ページ 125‑131
発行年 2020‑12‑25
URL http://doi.org/10.20636/00013383
1.はじめに
平成20年中央教育審議会答申における理科の改善の方 針に,「理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会 をもたせ,科学への関心を高める観点から,実社会・実 生活との関連を重視する内容を充実する方向で改善を図 る。(以下省略)」と記され,また小学校の改善の具体的 事項の中に,「生活科の学習を踏まえ,身近な自然につ
いて児童が自ら問題を見いだし,見通しをもった観察・
実験などを通して問題解決の能力を育てるとともに,学 習内容を実生活と関連付けて実感を伴った理解を図り
(以下省略)。(中央教育審議会,2016)」と記されている。
このことから,理科の学習内容を実生活と関連付けると ともに,理科を学ぶことの意義や有用性を実感させてい く必要があるといえる。
児童・生徒に理科学習の意義や有用性を実感させる取
理科学習の意義や有用性を実感させるための指導法の検討
─ 小学 6 年「てこの利用」に爪切りを導入することの効果 ─ 石 井 俊 行
奈良教育大学理科教育講座(理科教育)桝 本 有 真
奈良教育大学学部生(現 大和高田市立高田小学校)南 口 有 砂
栃木県宇都宮市立桜小学校Effect of Teaching the Mechanism of Nail Clippers in Elementary School “Leverage Theory” Class :
In Order to Promote the Students’ Awareness of Usefulness of Science
ISHII Toshiyuki
(Department of Science Education, Nara University of Education )
MASUMOTO Yuma
(YamatoTakada City Takada elementary School)
MINAMIGUCHI Arisa
(Utsunomiya City Sakura elementary School)
Abstract
We think that nail clippers are easy for elementary school teachers who are not good at teaching science to use as a teaching tool because they are familiar to the students and their mechanism is not complex.
We examined whether elementary school students are aware of the usefulness of science through learning the mechanism of the nail clippers. The principle of levers was taught only to the experimental group through understanding the mechanism of nail clippers. It was not taught to the control group.
As a result of this experiment, the students in the experimental group showed significantly higher score in the question, “Are levers useful in our daily life?” than those in the control group.
Therefore, we concluded that teaching elementary school students the mechanism of nail clippers could promote the students’ awareness of usefulness of lever class.
キーワード:理科学習の有用性,てこ,爪切り Key Words: usefulness of science, nail clippers, leverage theory
石 井 俊 行・桝 本 有 真・南 口 有 砂 126
組として,中島(2012),生地(2011)の授業実践が挙 げられる。中島(2012)は,小学6年「電気の利用」の 単元で,習得した知識をもとにして「発光ダイオード」
「コンデンサー」「ペルチェ素子」などの学習を取り入れ ることが,児童に理科を学ぶことの意義や有用性を実感 させるうえで効果的であると報告している。また,生地
(2011)は,小学5年「温度による金属の状態変化」の 単元で「ハンダ」を,小学4年「閉じ込めた空気とその 利用」の単元で「ドッジボール」を,小学6年「土の中 の生物とつながり」の単元で「土壌生物」を用いた授業 実践を行い,それらにより児童が自然や生活との関わり に気づいたり,理科は大切だと感じたりすることができ たことを報告している。
これらの報告は,理科学習の意義や有用性を児童・生 徒に実感させられたことに言及はしているものの,統計 的な有意性にまで触れていない。加えて,これらの実践 には,理科に関する専門的知識が必要で,かつその準備 に多くの時間を要する。このため,理科の指導をあまり 得意としない小学校教員には実践は難しい。
一方, 平成20年版小学校理科学習指導要領の改訂で,
「てこの規則性」は小学5学年から小学6学年に移行さ れ,新たに「てこの利用(身の回りにあるてこを利用し た道具)」が加わり,「てこ」が生活に役立っている実例 にもふれさせることになった(文部科省,2008)。この 学習活動で,児童に理科学習の意義や有用性を実感させ られれば,実社会・実生活と関連させた内容になる。
「てこ」に関して,本多(2011)は,児童は「てこ」
の学習後の,身の回りにある「てこのきまり(法則性)」
を利用した物を探す場面で,生活と「てこ」とを結びつ けて考えられるようになったことを報告している。ま た,谷原(2012)は 「てこのはたらき」を題材に授業実 践を通して,児童の素朴概念や概念変換に関する実態調 査を行い,「てこ」の学習に関する素朴概念について指 摘している。また,猪狩(2006)は「てこ」のはたらき を実感させるために,「くぎ抜き」や「軽自動車の持ち 上げ」などの体験学習の授業実践を,松瀬(2008)は木 の棒でおもりを持ち上げる体験の授業実践を行ってい る。しかし,上述の「てこ」の授業実践は,児童・生徒 の理科学習の意義や有用性については言及していない。
そこで,本研究では,「爪切り(2つのてこが連結し た「連結型てこ」)」の仕組みの特別学習を導入すること により,児童の理科学習の意義や有用性を実感させるこ とができるという仮説のもと,実験を行った。その結果,
新たな知見が得られたので報告する。
2.目的
小学校第6学年理科「てこの利用」の授業で,身近に ある「爪切りの仕組みに着目させる特別学習」を導入す ることの理科学習の意義や有用性を実感させる効果につ いて検証する。
3.方法
3. 1. 調査対象
被験者は,公立小学校第6学年2クラス(48名)で,
そのうちの1クラス24名を統制群に,残りの1クラス24 名を実験群とした。なお,いずれかのテストを欠席した 児童については,対象から外したため,検定は統制群24 名,実験群19名の結果を用いて分析を行った。
3. 2. 調査の流れ
本研究の流れは,図1に示した通りであり,2015年12 月中旬にプレテストとして,「てこの仕組みに関するテ スト」と「てこと理科についての意識調査」を行った。
その後,12月下旬に45分間の授業(内容については次項 で詳しく述べる)とプレテストと同様のポストテストを 両クラスに行い,さらに,1ヶ月後の翌年1月下旬に同 様のテストを行った。なお,プレテストを実施する段階 で対象の児童は,A「物質とエネルギー」の(3)「てこ の規則性」のア「水平につり合った棒の支点から等距離 に物をつるして棒が水平になったとき,物の重さは等し いこと」とイ「力を加える位置や力の大きさを変えると,
てこを傾ける働きが変わり,てこがつり合うときにはそ れらの間に規則性があること(文部科学省,2008)」の 学習を終えていた。
図 1 調査の流れ
3. 3. 授業の内容 3. 3. 1. 共通の授業
授業は,主にパワーポイントとワークシートを用いて 行ったが,実際に道具に触れさせたり,考えさせたりす る時間を設け,児童にとって実感を伴った理解となるよ
うに配慮した。授業の流れは,導入で「支点・力点・作 用点」の意味についての復習を行った。その後,「ペン チ」「空き缶つぶし」「毛抜き」(1)を例に,身の回りの道 具における「支点・力点・作用点」の位置と「加える力 と作用する力の大小」について考えさせた後,説明を 行った。「空き缶つぶし」では,教卓近くに児童を集め,
希望した児童に実際に空き缶をつぶす実体験をさせた。
「毛抜き」では各班に「毛抜き」を1本ずつ配り,児童 に観察させた。
3. 3. 2. 爪切りの仕組みに着目させる特別授業
実験群に対しては,両群共通の学習内容に加え,約10 分間の「爪切りの仕組みに着目させる特別学習」の授業 を行った。なお,統制群は,この特別学習の授業がない 分,実体験や考える時間を多く設け,両群共に45分間 の授業を行った。「爪切り」の仕組みの授業は,まず「ペ ンチ」などと同様に,「爪切り」における「支点・力点・
作用点」の位置を考えさせた。この時,「爪切り」が2つ の「てこ」が連結している(連結型てこ)ことに児童た ち自身で気づけるように配慮した。2つの「てこ」を「1 つめのてこ」,「2つめのてこ」とし,それぞれの「てこ」
における「支点・力点・作用点」の位置を確認させ,図 2のようなスライドを見せて「爪切り」の仕組みを説明 した。最後に,「2つめのてこ」に類似した「毛抜き」だ けではつめを切ることができないことを実感させると共 に,これらの2つの「てこ」が連結し合っていることで, 小さな力でも簡単につめを切ることができることをまと めた。
図 2 爪切りの仕組みに着目させる特別授業で使用した スライドの一部
3. 4. 調査問題
3. 4. 1. てこの仕組みに関するテスト
「てこの仕組みに関するテスト」は,大問3つで構成 した。大問1は,模式的な「てこ」に関する基本的な問 題である。大問2の(1)(2)は,授業内容が定着してい るかを確かめる問題である。また,大問2の(3)は,授 業で取り扱わなかった道具について,授業の知識を活用 して考えられるかを問う問題である。大問3は,「クリッ パー」という2つの「てこ」が組み合わされた道具の「支
点・力点・作用点」を,模式的な「てこ」に照らし合わ せて考えることができるかを問う応用的な問題である。
それを付録1に示す。
3. 4. 2. てこと理科に関する意識調査
「てこと理科に関する意識調査」は,5段階評価で尋 ねた8つの質問と記述式の1問で構成されている。それ を,付録2に示す。
4.結果
4. 1. てこの仕組みに関する理解 4. 1. 1. 授業前の両群における等質性
「てこの仕組みに関するテスト」の全13問の各問いを 1点として,統制群と実験群におけるプレテスト,ポス トテスト,1ヶ月後テストの各テストごとの合計点の平 均値を表1に示す。表1のプレテストにおける平均値を t検定で両群間を比べた。その結果,両群の間に有意な 差は認められなかった(t=1.08, p>.05)。このため,両 群は「てこ」の理解において等質であるとみなせる。
4. 1. 2. ポスト, 1 ヶ月後テストでの特別学習の効果 前項でプレテストでは両群の「てこ」の理解は等質で あった。「爪切りの仕組みに着目させる特別学習」を導 入した実験群と導入しなかった統制群とで「てこ」の理 解で差が生じたのかを表1に示したポストテスト,1ヶ 月後のテストでの平均値をt検定で比較した。その結果,
表 1 統制群(24人),実験群(19人)ごとのプレ,ポス ト,1ヶ月後の「てこの仕組みに関するテスト」の 平均値
表 2 統制群(24人),実験群(19人)ごとのプレ,ポスト,
1ヶ月後テストの正答者数(人)とその正答率(%)
石 井 俊 行・桝 本 有 真・南 口 有 砂 128
両群間で有意な差は認められなかった((42)=1.08, t p>.05,(42)=0.94, t p>05)。このため,両群間で「てこ」
の理解の差はなく,「爪切りの仕組みに着目させる特別 学習」は学力向上には影響を及ばさないことがわかった。
4. 1. 3. 児童にとって理解が難しい箇所
表2に,設問ごとの正答者数とその正答率を示す。こ の表から分かるように,全体的に概ね70%以上の正答率 を保っていることがわかる。一方で,大問2の(2)②,
大問2の(3)①②③と大問3の②は,正答率が70%に満 たず, 大問2の(3)①②③は特に低い傾向にあることが わかる。
大問2の(2)②の,道具「毛抜き」で作用点に働く力 と力点で加える力の大きさを比較する問題では,作用点 で働く力が力点で加える力に比べて小さくなることの解 答が難しかったことを示している。大問2の(3)①②③ は,「空き缶つぶし」「毛抜き」「ペンチ」それぞれの道 具について,「支点・力点・作用点」の並び方が同じ道 具を選ぶ問題である。それらの解答を詳細に分析した結 果を表3に示す。表3から明らかなように,①「空き缶 つぶし」については,「裁断機」が同じ並び方だと判断 できるのに対し,「栓抜き」を選ぶことができず,誤答 の「ステープラー」(2)を選ぶ児童が多いことがわかる。
また,②「毛抜き」については,「トング」が同じ並び 方だと判断できるのに対して,「ステープラー」を選ぶ ことができない児童が多いことがわかる。また,③「ペ ンチ」については,「はさみ」は同じ並び方だと判断で きるのに対して,「バール」を選ぶことができない児童 が多いことがわかる。さらに,大問3の「クリッパー」
のような「連結てこ」の応用的な問題では,①の「てこ 1」については概ね理解ができるが,②の「てこ1」に 連結した「てこ2」については理解し難いことがわかる。
4. 2. てこの学習による児童の意識 4. 2. 1. 授業前の両群における等質性
意識に対する各項目に対して,「とてもよく当てはま る」,及び「とてもそう思う」を5点,「まったく当ては まらない」,「まったくそうは思わない」を1点として,
1点刻みで重みをつけて,項目ごとにマン・ホイットニ
-のU検定を行った。その結果,表4に示したように,
ポストテストではどの質問項目においても有意な差は認 められなかった。このことから,授業前の両群には意識 面での差があるとはいえない。
4. 2. 2. ポスト, 1 ヶ月後テストでの特別学習の効果 各質問項目について,ポストテスト,1ヶ月後テス トの結果について, マン・ホイットニ-のU検定を行っ た。表4に示すように,ほとんどの質問項目で有意な差
は認められなかった。しかし,注目すべきことに,「て こが日常で役立っていると思いますか」という質問項 目のみにおいて, ポストテストではp= 0.035(同順位補 正,両側確率)という結果が得られ,統計的に有意な差 があることが確認された。また,1ヶ月後テストでは,
p= 0.056(同順位補正,両側確率)という結果が得られ,
統計的に有意傾向(3)があることが確認された。このこと から,「爪切りの仕組みに着目させる特別学習」は,「て こ」に対する有用感を高揚させることにつながり,その 有用感は1ヶ月後も保持される傾向にあることがわかっ た。さらに,この質問項目において,各群同士の「プレ テストとポストテスト」,「プレテストと1ヶ月後テスト」
のそれぞれについて,ウイルコクソン符号付順位和検定 で調べた(本研究のデータの組数は25以下の小標本であ るため,有意点を用いて判定した)。その結果,統制群
表 3 大問 3 ①~③の道具と支点・力点・作用点が同じ 並びだと選択した道具
表 4 「てこと理科の意識調査」の項目ごとの検定結果 (p値)
における前者では,T値が34(両側検定での有意水準5%
のT値の下側有意点は13,上側有意点は65),後者では,
T値が18(両側検定での有意水準5 %のT値の下側有意 点は5,上側有意点は40)のため,前者後者共に有意水 準5 %の帰無仮説の棄却域に入らず統計的に有意な差が あるとはいえないことが確認された。
一方,実験群における前者では,T値が5(両側検定 での有意水準5 %のT値の下側有意点は8,上側有意点 は47),後者では,T値が19.5(両側検定での有意水準5%
のT値の下側有意点は21,上側有意点は84)のため,前 者後者共に統計的に有意水準5%の帰無仮説の棄却域に 入り統計的に有意な差があることが確認された。このこ とからも,「てこが日常で役立っていると思いますか」
の質問項目で,実験群の児童の意識は統制群の児童に比 べ高揚していることが認められた。
4. 3. 身の回りのてこの列記数 4. 3. 1. 授業前の両群における等質性
「身の回りにあるてこを利用した道具で,あなたが思 いつくものを書きましょう」の質問項目で,両群におけ る児童が回答した道具(爪切りと誤答を除いた道具の み)の列記総数の平均値を算出した。その結果を表5に 示す。両群間の列記総数においてt検定を行った結果,
プレテストにおいてはその平均値に有意な差は認められ なかった((42)=1.31, t p>.05)。
4. 3. 2. ポスト, 1 ヶ月後テストでの特別学習の効果 ポストテストの列記総数において,両群間でt検定を 行った結果,その平均値に有意な差は認められなかった が((42)=0.72, t p>.10),1ヶ月後テストでは,有意傾 向が認められた((42)=1.73, .05<pt <.10)。このことか ら,1ヶ月後の実験群の児童は統制群の児童に比べ,身 の回りにある「てこ」に関して関心を高めさせる傾向に あるといえる。
表 5 統制群と実験群のプレ,ポスト,1 ヶ月後テスト の列記総数の平均値
5.考察
5. 1. てこの理解に対する特別学習の効果 5. 1. 1. てこの仕組みの理解に対する効果
「爪切りの仕組みに着目させる特別学習」を導入する ことによるてこの仕組に関する理解に差はなく,「爪切 りの仕組みに着目させる特別学習」は「てこ」の理解の 促進にはつなげることができないことがわかった。
5. 1. 2. 大きな力を小さくするてこの理解
大問2の(2)②の「毛抜き」のように,作用点で働く 力が力点で加える力の大きさに比べて小さくなることの 理解が難しいことが明らかになった。児童にとって,「て こは,加えた力よりも大きな力を作り出す道具」であ り,「毛抜き」「ピンセット」「トング」等は,その逆の
「大きな力を小さくする道具」である。「てこ」の学習で,
教師は「毛抜き」のように大きな力を小さくするという 逆の作用をする「てこ」もあることも理解させていく必 要がある。
5. 1. 3. 外見に捉われ易い児童の思考
「空き缶つぶし」「毛抜き」「ペンチ」それぞれの道具 について,「支点・力点・作用点」の並び方を問う問題 では,「空き缶つぶし」では「裁断機」を,「毛抜き」で は「トング」を,「ペンチ」では「はさみ」は選び易い 傾向にあることがわかった。逆に「空き缶つぶし」では
「栓抜き」を,「ペンチ」では「バール」を選び難い傾向 にあることがわかった。このことは,児童は道具の「外 見が似ているもの」で選ぶ傾向にあり,「てこ」の「支 点・力点・作用点」の位置とその意味まで理解が至って いない可能性がある。
5. 2. 児童の意識に対する特別学習の効果
5. 2. 1. 理科学習の意義や有用性を実感させる効果
「てこと理科に関する意識調査」のほとんどの質問項目 では両群間で有意な差が確認されなかったが,「てこが日 常で役立っていると思いますか」という質問項目のみに おいて,ポストテストで5%水準の有意な差が確認され,
1ヶ月後テストでは有意傾向があることが示された。
一方で,この質問項目において,「プレテストとポス トテスト」を,「プレテストと1ヶ月後テスト」を各群 同士で検定したところ,実験群のみで前者は有意な差,
後者は有意傾向が認められた。このことから,「爪切り の仕組みに着目させる特別学習」は,理科学習の意義や 有用性を実感させるのに一定の効果がある可能性があ り,併せて1ヶ月後までその効果は維持できる可能性が ある。
石 井 俊 行・桝 本 有 真・南 口 有 砂 130
5. 2. 2. 理科への関心を高めさせる効果
「てこを利用した道具で,あなたが思いつくものを書 きましょう」の項目で,ポストテストでは実験群の児童 の列記総数の平均値が統制群の児童の列記総数に比べ有 意な差はなかったが,1ヶ月後テストでは実験群は統制 群に比べ有意傾向にあることがわかった。これは,実験 群の児童は,「爪切り」が2つの「てこ」が連結された 連結型の「てこ」という学習を通して驚きや感動を覚え,
授業外で「身の回りには他にも「てこ」が使われている のではないか」と,統制群の児童に比べて身の回りの道 具への関心が高められた結果ではないかと考えられる。
この意味で「爪切り」は児童に身の回りにある「てこ」
に関心を高めさせる教具になり得る。
6.おわりに
本研究の目的は,小学校第6学年理科「てこの利用」
の授業に,身近にある「爪切り」の仕組みに着目させる ことで,児童の理科学習の意義や有用性を実感させる効 果があるのかを検証することにあった。その結果,「爪切 りの仕組みに着目させる特別学習」は,児童に理科学習 の意義や有用性を実感させるのに一定の効果があること が実証された。また,併せて身の回りの「てこ」への関 心も高めさせる効果も期待できることが明らかになった。
現在,「爪切り」は,一部の教科書にコラムとして取 り上げられているが,指導計画には含まれていないのが 現状である。本研究の結果より,教師が「てこの利用」
で,実際に「爪切り」に触れさせながら,その仕組みに ついて考えさせる時間を設けることで,児童に理科学習 の意義や有用性を実感させられることが期待できる。
註
( 1 ) 身の回りの多くの道具の中で,あえて「空き缶つぶし」
と「毛抜き」を取り挙げた理由は,「爪切り」を2つの「て こ」(てこ1とてこ2)に分解したとき,「てこ1」が「空 き缶つぶし」,「てこ2」が「毛抜き」に類似しているた め,「爪切り」の仕組みを考えさせる際にヒントになり やすいと考えたためである。
( 2 ) 本文中では「ステープラー」という用語を用いたが,付 録1の調査問題【2】(3)では,児童がこの用語では理解 できない可能性があると考え,あえて「ホッチキス」と いう用語を用いた。
( 3 ) 本論文では,田中・山際(1992)に基づき,「出現確率p」 が,.05<p<.10の場合は「有意傾向にある」という表現 を用いた。
文献
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猪狩英究(2006):授業が広がる! 導入教材 てこのはたらき を実感させる授業,理科の教育,10, 48.
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中島慶太(2012):理科を学ぶことの意義や有用性を実感させる 授業づくり~習得した知識の効果的な活用方法の工夫~,
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田中敏・山際勇一郎(1992):新訂ユーザーのための教育・心理 統計と実験計画法~方法の理論から論文の書き方まで~,
教育出版.
谷原一弥(2012):理科における児童の概念変換を目指した授業 の考え方~第6学年「てこのはたらき」を題材として~,山 形大学大学院教育実践研究科年報,3,262-265.
令和 2 年 4 月 8 日受付,令和 2 年 8 月12日受理 付録1
付録2
次の質問について,下の5つの中からあてはまるものを選んで○を付けて下さい。
(4)は,□の中に書いてください。
(1) あなたは,「てこ」の授業を受けて,驚いたり感動したりしましたか。
1. とてもあてはまる 2. あてはまる 3. どちらともいえない 4. あてはまらない 5. まったくあてはまらない (2) あなたは,「てこ」が日常生活で役立っていると思いますか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない (3) あなたは,「てこ」を利用した道具のしくみについて理解できていると思いますか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない (4) 身の回りにある「てこ」を利用した道具で,あなたが思いつくものを書きましょう。(いくつでもかまいません。) (5) あなたは,「てこ」を利用した道具をもっと知りたいと思いますか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない (6) あなたは,「てこ」の学習が楽しいですか。理由も答えてください。
1. とてもあてはまる 2. あてはまる 3. どちらともいえない 4. あてはまらない 5. まったくあてはまらない (7) あなたは,理科が好き( 楽しい )ですか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない (8) あなたは,理科で学んだことが,日常生活で役立っていると思いますか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない (9) あなたは,理科で学んだことが,将来,社会に出たときに役に立つと思いますか。
1. とてもそう思う 2. そう思う 3. どちらともいえない 4. そうは思わない 5. まったくそうは思わない