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平成 25 年度修士論文 褐藻カジメ属 2 種カジメ,クロメの高温耐性

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平成 25 年度修士論文

褐藻カジメ属 2 種カジメ , クロメの高温耐性

鈴木 裕也 海洋生物科学講座 藻類学教育研究分野

平成 25 年 3 月

(2)

2

目次

序論・・・・・・・・ 3

材料と方法・・・・・ 6

結果・・・・・・・・ 13

考察・・・・・・・・ 18

要約・・・・・・・・ 23

謝辞・・・・・・・・ 24

参考文献・・・・・・ 25

(3)

3

序論

近年地球温暖化が問題視されており、それに伴う海洋における海水温の上昇が水産資 源に影響を及ぼす可能性が危惧されている。そこで農林水産省は2009年度より農林水 産技術会議の「農林水産分野における温暖化緩和技術及び適応技術の開発」の委託プロ ジェクト課題「地球温暖化が水産分野に与える影響評価と適応技術の開発」を開始し、

様々な研究や調査が行われてきた。本研究室では2009年度よりこの委託プロジェクト 課題に参加し,主に日本に分布する暖海性コンブ目の大型褐藻についての高温域の温度 特性についての研究を開始した。本研究はこのプロジェクトの一環として行われた。

地球温暖化によって日本の年平均気温は2012年までのおよそ100年間で約1.15℃の 割合で上昇しており,日本近海における海水温は2012年までのおよそ100年間で約 1.08℃の割合で上昇している(気象庁 2013)。一般的に水温は海藻の水平分布に影響を

及ぼす重要な要因であり(Lüning and tom Dieck 1989)胞子体および配偶体の生育限界 温度や生育最適温度が種の水平分布を決定するとされている(Lüning and Neushul 1978 , Lüning 1980, 1984,Van den Hoek 1984, Bolton and Leutt 1985, Yarish et al .1986, Breeman 1988, Dieck 1993)。これまでにも上記のようにコンブ目もしくは他の大型藻類について の温度特性は調べられてきた。しかしこれらの研究では2-5℃刻みの実験であり,生活 史全体の温度特性を調べたものではなく,地球温暖化に対する影響を評価する上では今 後の海水温の上昇率から考えると不十分と考えられる。そこで本研究室では生活史全体 の温度特性実験を1℃刻みで正確に制御できる培養装置を用いて(森田 2004),主に本州 中南部に分布する暖海性コンブ目藻類について生長,成熟に関する詳細な温度特性を明 らかにすることを目的とし実験を行ってきた。これまでに暖海性コンブ目藻類であるア ラメ,サガラメ,アントクメ,ヒロメ,ワカメ,アオワカメについての詳しい温度特性 が明らかにされてきた。しかしまだカジメ,クロメ,ツルアラメのデータが不十分であ るため,そこで本研究では特にカジメ,クロメを取り上げて生活史全体における高温域

(4)

4 の詳しい温度特性を明らかにし,これまで研 究されてきた種類と比較することにより,暖 海性コンブ目藻類の温度特性,特に高温耐性 と分布について明らかにしようとした。

本研究で用いた実験材料のカジメ

Ecklonia cava Kjellman (Fig.1) は,コンブ目カ ジメ科カジメ属に属する多年生大型褐藻で ある。カジメは全長が1-1.5mになり,葉状

部,長さ0.5-1mの茎部,および付着器から

なる。さらに葉状部は中央葉と側葉に分けら

れる。付着器で海中の岩礁に付着し生育する。本種は太平洋側では千葉県房総半島から 高知県沿岸,日本海側では長

崎県から山口県に分布する 代表的暖海性コンブ類の一 種であり,沿岸岩礁域に海中 林と呼ばれる密な群落を形 成する。海中林は沿岸生態系 において主要な一次生産者 であり,窒素・リンを固定し,

水質浄化作用を示す。また,

魚介類の産卵場や生育場,植 食動物の摂餌の場として沿

岸生態系の基盤となる働きをしている。カジメはFig.2で示したようにコンブ目藻類一 般にみられる異形世代交代を行い,大型の胞子体世代と,微小の配偶体世代をもつ。我々

Fig.1.カジメ胞子体

Fig.2.代表的なコンブ目の生活史 茎部

付着器 側葉 中央葉

葉状部

夏 秋

胞子体

(3-4年)

幼胞子体 芽胞体 雌性配偶体 受精

精子

雌性配偶体

雄性配偶体 遊走子

子嚢斑

遊走子嚢

胞子体世代 配偶体世代

(5)

5

が普段海で目にするカジメは胞子体であり夏から秋にかけて成熟し,葉状部に遊走子嚢 の集まりである子嚢斑を形成する。遊走子嚢から放出された遊走子は基質に付着し雌雄 の配偶体になる。雌性配偶体が卵を,雄性配偶体が精子を形成し,受精した卵は発芽し 芽胞体となり,遊走子放出から約7ヶ月で幼胞子体を経て成体になる。成体は3-4年の 寿命を持つ。

クロメEcklonia kurome Okamura (fig.3)も カジメ属に属する多年生大型褐藻である。クロ メは全長が40-50cmになり,葉状部と,長さ

25cm-50cmの茎部と付着器からなる。さらに葉

状部は中央葉と側葉にわけられる。付着器で海

中の岩礁に付着し生育する。クロメはカジメに比べて全長が短く,側葉にしわがみられ る点で区別される。本種は日本海側の中部から九州にかけて、および瀬戸内海、太平洋 側は千葉県や三重県などに局所的に分布する暖海性コンブ類の一種であり,カジメ同様 に沿岸岩礁域に海中林と呼ばれる密な群落を形成する。生活史はカジメと同様に典型的 なコンブ目の生活史を示す(Fig.2. 参照)。

これまでの研究に用いた種類の生育上限温度は多くは28-29℃であり,生育場所の夏 季の高水温期にこの温度に近くなってきている。したがって今後地球温暖化による海水 温の上昇がこれら大型褐藻の分布に大きな影響を与える可能性が予想される。今後の地 球温暖化の影響を評価するためには,現状を詳しく把握することが必要と考えられる。

葉状部

側葉

付着器 茎部

中央葉

Fig.3.クロメ胞子体

(6)

6

材料と方法

カジメ幼胞子体の高温耐性

実験材料のカジメ幼胞子体は,2003 6 27日に三重 県志摩市麦崎より採集したカジメ胞子体を研究室内で成熟 させることにより放出させた遊走子から培養した三重大学 藻類学研究室で20℃,12L:12D,10 m photons m-2s-1の条件 下で保存培養されていたカジメ配偶体由来のものである

(Iwao 2010,山口2005)。保存培養していた雌雄配偶体を ミキサーで細断し,懸濁液を20mL20%PESI培養液を注 いだシャーレに滴下し,15℃,12L:12D の条件下で培養を 行った。約7日後に配偶体は卵を形成し(Fig.4),約20日後

には1-2mmの芽胞体(Fig.5)が見られた。

予備培養では芽胞体を250mL容のプラスチック培養容器 に移し15℃,12L:12D,100m photons m-2s-1の条件で培養 を続けた。全長 5mm ほどに幼胞子体が生長した段階で,

500ml 容の丸型ガラス製培養容器に移し通気培養した。そ

の後生長に合わせて1L,2Lの丸型ガラス製培養容器に移し 通気培養を行い,幼胞子体が4-5cm の大きさになるまで培 養を続けた(Fig.6)。生長実験に用いた幼胞子体は上部を切 断し全長を約3cmに切り揃え60個体を高温耐性実験の材料 として用意した。

本実験での温度条件は1回目に10-35℃の5℃間隔(10,15,20,25,30,35℃)の6 段階の水温で行い,2回目に25-30℃の1℃間隔(25,26,27,28,29,30℃)の6段階 で行った。幼胞子体の培養は,厳密な温度管理が必要なため,Morita et al.(2003b),森 Fig.4.雌性配偶体の成熟

Fig.5.カジメ芽胞体

Fig.6.カジメ幼胞子体の 予備培養

芽胞体

1cm

50μm 50μm

(7)

7

田(2004)と同様に 6 連温度勾配培養装置を使用した。この装置は温度精度が±0.05℃

の温度調節器を用いることによって±0.1℃以内の精度で培養容器中の水温を設定する ことができる。幼胞子体はそれぞれの実験区で5個体づつ用いて,実験は2 L容の丸型 ガラス製培養容器でおこなった。期間中の光周期および光強度は,予備培養と同様にそ れぞれ12L:12D,100 m photons m-2s-1とした。光強度は,水中用球形光量子センサー

(LI-193SA,LI-COR)を取り付けた光量子計(LI-250A,LI-COR)で測定した。培養 液の交換は2日ごとに行い,培地は20%

PESI 培養液を使用した。また培地交換 時にすべての幼胞子体についてデジタ ルカメラ(DMC-G2’ Panasonic)で写真撮 影を行った。幼胞子体は形や大きさによ り個体識別を行い,1 日おき(0,2,4,

6,8日目)に面積を個別に測定した。

幼胞子体の生長は,面積の増加によっ て評価した。面積の測定はFig.7に示し たようにMorita et al.(2003a)の方法に 従った。幼胞子体の画像データをパソコ

ンに取り込み,藻体全体を画像処理ソフト(Photoshop CS3, Adobe)を用いて黒く塗 りつぶした。その後,面積測定ソフト(LIA for Win32)を用いて, 1cm2を基準に黒く塗 りつぶした部分の面積を求め,胞子体の投影面積とした。胞子体の生長は相対生長速度

(Relative growth rate)で表し,相対生長速度は以下の計算式によって求めた。

Relative growth rate (day-1) =loge (final area / initial area)/T T=培養日数

Fig.7.カジメ幼胞子体の同一個体の生長 A:0日目の幼胞子体,B:8日目の幼胞子体

A’:黒く塗りつぶした0日目の幼胞子体,

B’:黒く塗りつぶした8日目の幼胞子体

1cm2

0日目 8日目

A B

A’ B’

(8)

8 カジメ胞子体の成熟

本研究ではカジメ胞子体の成熟過程を室内実 験で確認,評価しようとした。そこでFig.8に示 したように2011 915日に志摩市麦崎より 採集した全長約1m,3齢のカジメの大型藻体よ りコルクボーラー(直径 2.1cm)を用いて葉片を

30枚打ち抜き実験材料とした。葉片を打ち抜いた部分は,カジメの持つ約20-30枚の側 葉のうち下から3-5番目の成熟していない側葉の中央部(Fig.1参照)を用いた。葉片作製

20℃,12L:12D,の条件下で3日間2L容の培養容器で予備培養を行った。実験を通

して培地は20%PESI培養液を用いた。予備培養時における培地交換は,葉片作製3 間後と,6時間後に行い,その後は一日ごとに交換し

た。

本実験は胞子体の葉片を5 枚づつ6 段階(25,26,

27,28,29,30℃)の温度条件で 58 日間培養を行っ

た。光周期および光強度は,それぞれ12L:12D,100m photons m-2s-1とした。実験は Fig.9 に示したように 800mL 容 の PET ボ ト ル 製 自 作 培 養 容 器(山 口 et al .2005)を用いて行った。この培養容器を用いること により葉片が培養容器の壁面に付着することを防ぐ

ことができ,葉片が側面に付着し葉片の培養の妨げになる問題を解決することができた。

葉片の写真撮影は初めの1ヶ月間は10日ごとに,その後は2日ごとに行った。葉片が 成熟すると葉片の厚みが増しFig.8に示したように,目視で確認することが可能な子嚢 斑と呼ばれる色の濃い部分が形成される。子嚢斑は遊走子嚢の集まった部分である

(Fig.2参照)。成熟率は5個体中の成熟が確認された個体数の割合で求めた。

0日目 30日目

子嚢斑

Fig.8. コルクボーラーで打ち抜い

たカジメ葉片および子嚢斑の形成

Fig.9. PETボトル製自作培養容器

2cm

2cm

(9)

9 クロメ幼胞子体の高温耐性

クロメ幼胞子体の高温耐性実験の方法は,基本的にカジメ幼胞子体の高温耐性実験と 方法はほぼ同じである。実験材料のクロメ幼胞子体は,三重大学藻類学研究室で20℃,

12L:12D,10m photons m-2s-1の条件下で保存培養されていた20101119日に山口 県熊毛郡平生より母藻を採集し,遊走子より培養したクロメ配偶体由来のものである

(Iwao 2010)。保存培養していた雌雄配偶体をカミソリで細断し,懸濁液を20mL20%

PESI培養液を注いだシャーレに滴下し,15℃,12L:12Dの条件下で培養を行った。約7 日後に配偶体は卵を形成し,その約20日後には1-2mmの芽胞体が見られた。

予備培養として芽胞体を250mL容のプラスチック培養容器に移し15℃,12L:12D,

100m photons m-2s-1の条件で培養を続けた。全長5mmほどに幼胞子体が生長した段階

で,500mL容の丸型ガラス製培養容器に移し通気培養した。その後生長に合わせて1L,

2Lの丸型ガラス製培養容器に移し通気培養を行い,幼胞子体が 4-5cmの大きさになる まで培養を続け,生長実験に用いた幼胞子体は上部を切断し全長を約 3cm に切り揃え 60個体を培養実験の材料として用意した。

本実験での温度条件は1回目に10-35℃の5℃間隔(10,15,20,25,30,35℃)の6 段階の水温で行い,2回目に25-30℃の1℃間隔(25,26,27,28,29,30℃)の6段階 で行った。幼胞子体の培養は,カジメ幼胞子体の高温耐性実験と同様に6連温度勾配培 養装置を使用した。幼胞子体はそれぞれの実験区で5個体づつ用いて,実験は2 L容の 丸型ガラス製培養容器でおこなった。期間中の光周期および光強度は,予備培養と同様 にそれぞれ12L:12D,100m photons m-2s-1とした。光強度は,水中用球形光量子センサ ー(LI-193SA,LI-COR)を取り付けた光量子計(LI-250A,LI-COR)で測定した。培 養液の交換は2日ごとに行い,培地は20%PESI培養液を使用した。また培地交換時に すべての幼胞子体についてデジタルカメラ(DMC-G2’ Panasonic)で写真撮影を行った。幼 胞子体は形や大きさにより個体識別を行い,1 日おき(0,2,4,6,8 日目)に面積を個

(10)

10 別に測定した。

幼胞子体の生長は面積の増減により評価した。面積の測定はカジメ幼胞子体の高温耐 性実験と同様の方法を用いておこなった。

クロメ配偶体の高温耐性

実験材料のクロメ配偶体は,三重大学藻類学研究室で20℃,12L:12D,10 m photons m-2s-1の条件下で保存培養していた20101119日に山口県熊毛郡平生より採集した クロメ由来のものを用いた(Iwao 2010)。まず,保存培養していた雌雄配偶体をカミソリ を用いて細断した。細断した配偶体懸濁液は 25mL 20%PESI培養液を注いだ 50mL 容のメッシュ付プラスチック製培養容器に滴下した。培養容器への付着を促すために 20℃,12L:12D,100 m photons m-2 s-1の条件下で3日間の予備培養を行った。

本実験は予備培養と同じ光条件で行った。予備培養後,換水を行い1回目に10-35℃

5℃間隔(10,15,20,25,30, 35℃)の6段階,

2回目に26-31℃の1℃間隔(26,27,28,29,30,

31℃)6段階の温度条件に移し,8日間培養した。

培養液の換水は測定中行わなかった。光強度は水 中用球形光量子センサー(LI-193SA,LI-COR)を 取り付けた光量子計(LI-1000,LI-COR)で測定し た。メッシュ付きプラスチック製培養容器底部に 付着している配偶体の中からメッシュ内の付着位 置を記録することにより雄、雌それぞれ15個体ず つ選び培養容器の生育場所を記録し個体識別を行

った。配偶体の生長は1日おき(0,2,4,6, 8日目)の面積の増加によって評価した。測

定方法はFig.10に示したようにMorita et al.(2003a)の方法に従った。個体識別した配

偶体を倒立顕微鏡(CK2, OLYMPUS)に取り付けた顕微鏡カメラ(WRAYCAM G500,

A’ B’

0日目 8日目

50μm Fig.10.クロメ雄性配偶体の生長 A:0日目の配偶体,B:8日目の配偶体 A’:黒く塗りつぶした0日目の配偶体

B’:黒く塗りつぶした8日目の配偶体

A B

(11)

11 WRAYMER)で撮影した。次に画像データをパソ コンに取り込み,配偶体部分を画像処理ソフト

(Photoshop,CS5, Adobe)を用いて黒く塗りつ ぶした。その後,面積測定ソフト(LIA for Win32)

を用いて, 黒く塗りつぶした部分の面積を求め,配 偶体の投影面積とした。Fig.11に示したように雌性 配偶体は成熟して卵を形成するが,配偶体上に形 成される卵は次世代であると考え,雌性配偶体の 面積は卵を除いた部分とした。配偶体の生長は相 対生長速度(Relative growth rate per a day)で表した。

生残率は、回目の生長実験26-31℃の1℃間隔(26,27,28,29,30,31℃)と平

行してその実験の8日目に測定した。測定方法は、個体識別した雌と雄それぞれ15 体のうち,生き残った数をそれぞれ15個体数で除して求めた。

クロメ配偶体の成熟率

実験材料のクロメ配偶体は,三重大学藻類学研究室で20℃,12L:12D,10 m photons m-2s-1の条件下で保存培養していた20101119日に山口県熊毛郡平生より採集した クロメ由来のものを用いた(Iwao 2010)。予備培養として,保存培養していた雌雄配偶体 をカミソリを用いて細断した。細断した配偶体懸濁液は20%PESI培養液を注いだ50mL 容のメッシュ付プラスチック製培養容器に滴下し,培養容器への付着を促すために20℃,

12L:12D,100 m photons m-2s-1の条件下で3日間の予備培養を行った。

予備培養後,換水を行い,配偶体を6連温度勾配培養装置(Morita 2003a,b)を用いて1

回目に20,25,26,27,28, 29℃の6段階,2回目に20-25℃の1℃間隔(20,21,22,

23,24,25℃)の6段階の温度条件に移した。光周期および光強度は,それぞれ12L:12D,

100 m photons m-2s-1の条件で25日間培養した。培養液の換水は7日おきに行った。成

0日目 8日目

A B

A B

A’ B’

Fig.11.クロメ雌性配偶体の生長 A:0日目の配偶体,B:8日目の配偶体 A’:黒く塗りつぶした0日目の配偶体 B’:黒く塗りつぶした8日目の配偶体

50m

0日目 8日目

(12)

12

熟率は,約130個体の雌性配偶体における卵を形成した割合から求めた。成熟率の測定 は,4日目から1日おきに行った。

(13)

13

結果

カジメ幼胞子体の高温耐性

Fig.12にカジメ幼胞子体の水温10-35℃の5℃

間隔で測定した本培養8日後の相対生長速度の 結果を示した。10-20℃では温度の上昇に伴い相 対生長速度は高くなった。20℃で最も高い相対 生長速度を示し,25℃では相対生長速度は低下

した。30℃では藻体は実験開始2日目に枯死し,

35℃では実験開始後1日目に枯死した。幼胞子

体の色が健全な茶褐色から濃緑色もしくは黄白 色に変色した段階で枯死と判断した。この 実験から生長限界温度は25-30℃の間にあ ることがわかった。

次にカジメ幼胞子体の水温25-30℃の1℃

間隔で測定した本培養8日後の相対生長速 度の結果をFig.13に示した。25℃以上では 温度の上昇に伴い相対生長速度が低下し,

29℃では先端が枯死するものの藻体全体が 枯死することはなかった。30℃では実験開 始後2日目にすべて枯死した。したがって 生長の限界温度は28℃と判断した。

0 0.02 0.04 0.06 0.08

10 15 20 25 30 35

Fig.12. 10-35℃におけるカジメ幼胞子体の 相対生長速度 Bar=SE

-0.02 0 0.02 0.04 0.06

25 26 27 28 29 30

Fig.13. 25-30℃におけるカジメ幼胞子体の 相対生長速度 Bar=SE

×

×

×

相対生長速度相対生長速度

温度(℃) 温度(℃)

(14)

14 カジメ胞子体の成熟率

カジメの胞子体の葉片の成熟率をTable.1 に示した。すべての葉片が成熟するかまた は枯死した段階で実験を終了した。実験開 29日目以前のデータは写真が不鮮明で あったため29日目以降のデータを用いた。

すべての葉片が成熟するのは25℃では58 日後,26-28℃では46日後,29℃では29

後と,温度の上昇に伴い成熟は早くなった。29℃では29日目で100%の成熟率であっ たが,46日後では全て枯死した。30℃では29日目以前にすべて枯死した。したがって 成熟の限界温度は28℃,成熟の適温は26-28℃であることがわかった。

Table.1. カジメ胞子体葉片の成熟率(%)

(15)

15 クロメ幼胞子体の高温耐性

Fig.14にクロメ幼胞子体の水温

10-35℃の5℃間隔で測定した本培養8

日後の相対生長速度の結果を示した。

10-20℃では温度の上昇に伴い相対生 長速度は高くなった。20℃で最も高い 相対生長速度を示し,25℃では相対生 長速度は低下した。30℃では藻体は実 験開始2日目に枯死し,35℃では実験 開始後1日目に枯死した。したがって生 長限界温度は25-30℃の間にあることが わかった。

次にクロメ幼胞子体の水温25-30℃の

1℃間隔で測定した本培養8日後の相対

生長速度の結果をFig.15に示した。25℃

以上では温度の上昇に伴い相対生長速 度が低下し,28℃では先端が枯死するも

のの藻体全体は枯死しなかった。29℃では実験開始後3日目に枯死し,30℃では実験開 始後2日目に枯死した。

したがって生長限界温度は 27℃と判断した。

-0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

25 26 27 28 29 30 0

0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

10 15 20 25 30 35

Fig.15. 25-30℃におけるクロメ幼胞子体の 相対生長速度 Bar=SE

Fig.14. 10-35℃におけるクロメ幼胞子体の 相対生長速度 Bar=SE

温度(℃)

温度(℃)

× ×

相対生長速度相対生長速度

× ×

0.10 0.10

(16)

16 クロメ配偶体の高温耐性

クロメ配偶体の生長を水温

10-31℃の1-5℃間隔で測定した

結果を雌雄別に. Fig.15とFig.16 に示した。雄性配偶体(Fig.16)は

10-28℃の範囲で生長し,20-27℃

で高い生長率を示した。29,30℃

で生長はしなかったが,一部分が 枯死した配偶体が見られた。ま

30℃では,枯死した配偶体も

あったが,全ての配偶体が枯死 することはなかった。31℃では 全ての個体が枯死した。

雌性配偶体(Fig.17)は10-28℃

の範囲で生長し15-27℃で高い 成長率を示した。29,30℃で生 長はしなかったが,一部分が枯

死した配偶体が見られた。また30℃では枯死した配偶体もあったが,全ての配偶体が 枯死することはなかった。31℃では全ての個体が枯死した。

したがって雌雄配偶体の生長限界温度は28℃であることがわかった。

-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

10 15 20 25 26 27 28 29 30 31

×

Fig.17. 10-31℃におけるクロメ雌性配偶体の 相対生長速度 Bar=SE

相対生長速度

温度(℃) -0.05

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

10 15 20 25 26 27 28 29 30 31 温度(℃)

×

Fig.16. 10-31℃におけるクロメ雄性配偶体の 相対生長速度 Bar=SE

相対生長速度

(17)

17

また29℃と30℃では配偶体は生長

せず,配偶体の一部が枯死したり,一 部の配偶体が枯死したため,25-30℃の 8日目に生残率を測定し,Fig.18に雌 雄別に示した。雄性配偶体は25-29℃で の生残率は100%となり,30℃では 60%の生残率となった。雌性配偶体は 25-28℃での生残率は100%となり,

29℃では93%,30℃では40%となった。

31℃では雌雄配偶体共に生残率は0%

となった。よって雄性配偶体のほうが 雌性配偶体よりも高温耐性が高いこと がわかった。

クロメ配偶体の成熟率

クロメ雌性配偶体の14日目の20,

21,22,23,24,25℃における成熟 率をFig.19に示した。Fig.19より14 日目の成熟率は水温 20℃では 100%

であったが,それより高温では成熟率

は低下し 21℃では 34%,22℃では

14%,23℃では6%,これ以上の温度

では成熟率は24℃では1%,25℃では0.8%と極端に低くなった。よって成熟の限界温

度は23℃と判断した。

0 50 100

20 21 22 23 24 25 26 Fig.19.雌性配偶体の成熟率 温度(℃)

成熟率(%)

0 50 100

25 26 27 28 29 30 31

0 50 100

25 26 27 28 29 30 31

生残(%)

温度(℃)

Fig.19. 20-26℃におけるクロメ 雌性配偶体の成熟率

温度(℃) 温度(℃)

Fig.18. 25-31℃におけるクロメ 雌雄配偶体の生残率

上;雄性配偶体 下;雌性配偶体

×

×

(18)

18

考察

一般的に藻類の水平分布は水温に影響されることが知られている(Lüning. K. 1990)。

胞子体および配偶体の生育限界温度や生育最適温度が種の水平分布を決定するとされ ている。藻類の温度特性を研究したものはLüning and Neushul (1978) Lüning (1980,

1984),Van den Hoek (1984), Bolton and Leutt (1985), Yarish et al (1986), Breeman (1988),

Dieck (1993)があり,主に大西洋に分布する藻類の胞子体や配偶体の温度特性について の研究例である。これらの藻類の研究例によって藻類の分布は温度による影響を大き く受けることがわかっている。また日本沿岸に生育する海藻の生育や成熟の温度特性 に関する研究については谷口・秋山 (1982),

山(2001),吉田(2005)等が行ってきた。地球の温 暖化がこのまま進行した場合,気象庁(2013)の予

測では Fig.20 に示したように日本近海の水温上

昇は1-2℃とされている。これまでの温度と藻類

の生長や成熟に関する研究においては,ほとん

どの場合2-5℃間隔の実験であり,地球温暖化の

影響を評価するには不十分であった。地球温暖 化の影響を評価するためには 1℃きざみのより

詳しい温度特性を明らかにする必要がある。しかしこれまでに 1℃きざみでの詳しい 温度特性実験は三重大学藻類学研究室が中心となってMorita et al.(2003a,b),森田 (2004),森 (2004),山口 (2004),栗原 (2008),下條 (2010),鈴木 (2011),戸瀬 (2013) 等が,それぞれワカメ,ヒロメ,アオワカメ,アラメ,アントクメ,サガラメ,カジ メ,ツルアラメについて行っている。

本研究では本研究室で研究がおこなわれていないカジメ胞子体・幼胞子体,クロメ 幼胞子体・配偶体を用いて,生長や成熟の 1℃きざみの詳しい温度特性実験を行い,

Fig.20. 平均海面水温上昇の予測

(℃/100年,気象庁 2008)

(19)

19

温暖化対策を行う上での基本データづくりを目的として研究を行った。温度特性を1℃

間隔で行うためには,温度精度を±0.1℃程度にしなければならない。そこで本研究で は,Morita et al.(2003a,b)と同様に6連温度勾配培養装置を用いることにより詳し い温度特性実験を実施することができた。

本研究で得られたカジメ,クロメの生育上限温度データと,これまでに本研究室内で 得られたコンブ目の生育上限温度データの一覧をTable.2に示した。Table.2より多年生 5種の温度特性を比較した場合,雌性配偶体の生育上限温度は28℃であり違いはみられ ない。しかし雄性配偶体ではカジメとクロメ,ツルアラメが 28℃であるのに対しアラ メとサガラメは 30℃となっていることから雄性配偶体についてはカジメやクロメ,ツ ルアラメよりもアラメやサガラメのほうが高温に対する耐性が高いことがわかる。卵形 成の上限温度についてはカジメが27℃で最も高くなり,サガラメとツルアラメが26℃,

アラメが25℃,クロメが23℃となった。胞子体の生育上限温度についてはアラメとサ

ガラメは29℃であるのに対し,カジメが28℃,クロメは27℃であった。クロメやカジ

メよりアラメとサガラメのほうが高温に対する耐性が高い。子嚢斑形成の上限温度はア ラメとサガラメが29℃,カジメは28℃であった。カジメ,クロメと他の多年生3種で

Table.2. コンブ目胞子体,配偶体の生育および成熟の上限温度(℃)

アラメ・サガラメ温度特性データ:森 2004より

ヒロメ・ワカメ・アオワカメ温度特性データ:森田 2004より アントクメ温度特性データ:栗原 2008より

カジメ配偶体温度特性データ:下條 2011より ツルアラメ配偶体温度特性データ:戸瀬 2013より

※:未測定

(20)

20

比較した場合温度特性についてはほぼ同じであった。

また一年生の4種とカジメ,クロメの温度特性を比較すると,雌性配偶体の生育上限 温度においてアントクメは30℃,ヒロメとワカメ,アオワカメは28℃となった。雄性 配偶体においては雌性配偶体と同様の温度特性がみられた。このことよりアントクメの 雌雄配偶体が一年生4種のなかでもっとも高温に対する耐性が高いことがわかった。こ れはアントクメが一年生 4 種の中で最も南まで分布していることに関係していると考 えられる(栗原 2008)。しかし卵形成の上限温度についてはヒロメが 25℃ともっとも高 く,アントクメとアオワカメが24℃となりワカメが23℃であった。胞子体の生育上限 温度はアントクメとワカメが27℃,ヒロメとアオワカメが 26℃であった。子嚢斑形成 の下限温度はアントクメで 22℃以上であった。カジメ,クロメの胞子体の温度特性は 一年生の種の胞子体の温度特性と比較するとカジメ,クロメが若干高くなっている。し かし配偶体の温度特性についてはカジメの卵形成の上限温度を除き大きな違いはみら れない。

多年生と一年生の温度特性にみられた違いは,一年生の種は胞子体世代が冬から春に のみ生育し,配偶体世代は夏から秋にのみ生育しているのに対し,多年生の種は胞子体 世代が通年生育し,配偶体世代は秋から冬にのみ生育するという生活史の違いが関係し ていると考えられた。多年生と一年生の胞子体生育上限温度を比較した場合,多年生の ほうが一年生のものよりも若干高くなっており,高温に対する耐性をもっている。これ は多年生のものは高水温になる夏季に胞子体として存在していることに関係している と考えられる。また多年生と一年生の配偶体世代を比較した場合,雌雄配偶体の生育上 限温度に大きな違いはみられないが,雌性配偶体の卵形成においては多年生のもののほ うが一年生のものより若干高温で成熟することができるということがわかった。しかし 胞子体の温度特性にみられたような明確な違いはみられなかった。一年生の種の配偶体 の温度特性が多年生の種の配偶体とほぼ同じ温度特性になるのは,一年生の種が夏を配

(21)

21 偶体世代で過ごす生活

史を持っていることに 関係していると考えら れた。

本研究室で得られた 多年生のコンブ目の水 平分布と 8 月の平均海 面水温の分布(気象庁 2013)を重ね合わせた

ものをFig.21 に示した。

多年生のコンブ目の生 育 上限 温度 にお いて カ ジメ,クロメは水平分布

をみるとアラメやサガラメに比べるとより南に分布しているが,生育上限温度データを

みると 28℃,27℃となりアラメやサガラメより低くなった。これはアラメ,サガラメ

はカジメやクロメの生育している場所よりもより高温になる低潮線付近から水深5m 度の浅所に生育していることに関係していると考えられる (Maegawa 1988)。また多年 生コンブ目 4 種は夏季の 28℃の等温線より南には生育していないことから,温度が水 平分布を決定する大きな要因であるということが明確である。Fig.21に示した多年生コ ンブ目藻類の水平分布と夏季の表面水温データを比較すると,多年生コンブ目藻類の水 平分布の南限と夏季の 28℃の等温線が重なり,温暖化による海水温の上昇はこれら藻 類の水平分布に重大な影響を与えると考えられる。

藻類の水平分布を決定する要因は高温耐性だけではなく藻類の生育場所や一年生も しくは多年生といった生活史の違い,また配偶体世代へと繋がる胞子体の成熟またはそ

Fig.21. 日本における多年生コンブ目の水平分布と

夏季(8月)の表面水温(℃)

気象庁 2013のデータより一部改編

25 25

28

アラメ カジメ クロメ

サガラメ

8 20

20

26

27 26

27

(22)

22

の成熟時期といったことを考慮しなければならない。今後,より詳細な藻類に関する生 理・生態的な研究を行う必要があり,高温耐性だけではなく低温に対する温度特性を調 べ,さらに光条件ついても詳しく実験を行う必要がある。さらに地球温暖化の影響を評 価するためにはカジメやクロメだけでなく,まだデータづくりがされてない他のコンブ 目科植物で南方域に分布するツルアラメ等の胞子体や配偶体の温度特性を調べる必要 がある。

(23)

23 要約

コンブ目に属するカジメやクロメの大型褐藻は,主に本州中南部の水深 2-10m の岩盤 上に生育し,海中林とよばれている密な群落を形成している。藻類の水平分布は主に水 温によって制御されるため,地球温暖化による影響を受けやすいと考えられ,温暖化の 影響を調べるためには生活史全体についての詳しい温度特性を知る必要がある。カジメ やクロメは大型の胞子体世代と,微小の配偶体世代をもっており,異形世代交代である ので温暖化の影響を評価するためには両世代の詳しい温度特性を明らかにする必要が ある。そこで本研究ではカジメ属 2 種のカジメやクロメの胞子体・配偶体を用いて生 育・成熟の 1℃きざみの詳しい温度特性実験を行い,温暖化の影響を評価する上での基 礎データづくりを目的として研究をおこなった。本研究によりカジメ胞子体とクロメ胞 子体,配偶体の高温域の温度特性を明らかにすることができた。その結果,カジメ胞子 体の生育上限温度と成熟上限温度は共に 28℃,クロメ胞子体の生育上限温度は 27℃で あり,クロメ配偶体の生育上限温度は雌雄共に 28℃,成熟の上限温度は 23℃であった。

多年生コンブ目藻類の水平分布と夏季の表面海水温データを比較すると,夏季の28℃

の線と分布域の南限が重なり,明らかに高水温はこれら藻類の分布の南限を制限してい た。地球温暖化による海水温の上昇はこれら藻類の水平分布に重大な影響を与えると考 えられる。

今後地球温暖化の影響を評価するためには,より詳細な藻類に関する生理・生態的な 研究を行う必要があり,高温耐性だけでなく低温に対する温度特性を調べ,さらに光条 件についても詳しく実験を行う必要がある。これまでの本研究室で明らかにしてきたカジ メ属藻類の温度耐性実験を考慮し,最終的に温暖化が進んだ場合の分布域の変化予測が可 能となる。

(24)

24 謝辞

本研究を行うにあたり,ご指導とご助言をいただいた前川行幸教授,倉島彰助教に深 く感謝致します。また,研究を行うにあたり協力していただいた水産大学校村瀬昇教授,

阿部真比古助教,ならびに三重大学藻類学研究室諸氏に深く感謝致します。

(25)

25

参考文献

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27

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参照

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