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戦後日本の内部統制の制度導入に関する考察

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戦後日本の内部統制の制度導入に関する考察

内部統制と会社財務不正事件を中心に

鈴 木 芳 治

キーワード:内部統制,取締役,企業の不正事件,会社法,金融商品取引法

1

.はじめに

本稿は,内部統制(1の実効性を適正に検証す る必要性があるとの認識に基づいて,日本の内部 統制に内在している課題を明らかにするため,内 部統制に関する実効性に着目し,日本の企業活動 のグローバル化を踏まえた会社財務と不正事件の 観点から,望ましい内部統制の在り方に関する示 唆を得ようとするものである。

現在の内部統制は,2001年12月に発覚した米 国のEnron(以下,「エンロン」と称す)事件(2 やWorldCom(ワールドコム)事件(3とそれら の会計監査を担っていたArthurAndersenLLP

(アーサー・アンダーセン会計事務所)事件(4が きっかけとなってサーベンス・オックスレー法

(Sarbanes-OxleyActof2002), いわゆる企業 改革法(5(以下,「SOX法」と称す)が制定され たことにより始まった(6

しかし,米国では2008年に投資銀行リーマン・

ブラザースの経営破綻に始まった金融危機が発生 して,それが世界各国に多大な影響を及ぼし,日

本では2011年に大王製紙やオリンパスにおける 経営トップが直接関与した不正会計事件が発覚し た。そのため現在,コーポレート・ガバナンスの 枠組みとしての委員会設置会社や社外取締役・監 査役等をめぐる役員体制および「公開会社法」等 の法令の改正議論が活発になっており,2011年 12月に会社法改正の中間試案,2012年8月には 法務省法制審議会会社法制部会から具体的な改正 案「法制の見直しに関する要綱案(案)」(7も公 開されてきている。

内部統制の概念に関する「トレッドウェイ委員 会支援組織委員会(CommitteeofSponsoring OrganizationsoftheTreadwayCommission: 以下,「COSO」と称す)の動向では,2011年12 月に現行の内部統制フレームワークを改正する

「案」の公表とパブリックコメントを募集する手 続きが取られ,それらのコメントを踏まえた改定 案を2012年9月に公表した(8。この中で最も注 目されるのは,現行では財務情報のみとされてい る対象が,財務情報と非財務情報という区分で拡 大される点である。

本稿の目的はこうした,なぜ米国のエンロン事 目 次

1.はじめに

2.内部統制の概念とその定義の背景 3.日本における内部統制の導入

(会社財務不正事件を中心に)

4.内部統制制度における取締役の役割 5.おわりに

(2)

(9などのような経営トップによる不祥事件の 再発防止や是正改善対策が財務報告に係る内部統 制制度なのか,それをなぜ日本の企業に適用する のかという問題の解明を試みるために,日本の内 部統制について第二次世界大戦後の1950年以降

(以下,「戦後」と称す)の企業の会社財務不正事 件と内部統制の制度導入に関する考察を踏まえ,

特に内部統制における取締役の役割を中心に解明 を試みるものである。

2

.内部統制の概念とその定義の背景

内部統制という概念は,米国においては「海外 不正支払防止法(1977年)」の規定に導入された

「法的に認知された概念」である。1970年中頃に ウォーターゲート事件に関わる調査の結果,米国 の多国籍企業において発生した外国高官に対する 贈賄が発覚し,そのような多国籍企業による不正 を防止するための措置として「内部会計統制」概 念が導入されることとなった(10。現在の内部統 制のフレームワークへの流れに導いた源流は 1987年にトレッドウェイ委員会(TheTreadway Commission)(11がとりまとめた報告書Reportof theNationalCommissiononFraudulentFinan- cialReporting(New York:AICPA,1987.)(12に 遡ることができる。しかしながら,この報告書 には「関係者が共有できる内部統制の定義ない し枠組みがなかったので,COSOが,1992年に

『COSO報告書』を公表した」(13のである。そし て,その後の2002年SOX法において「内部統 制報告書」の作成義務を経営者に負わせている。

日本では,1997年12月8日の大和銀行株主代 表訴訟担保提供命令に対する即時抗告事件(大阪 高裁)における決定文で「内部統制システム」と いう用語にはじめて言及し,その後2000年9月 20日における大和銀行株主代表訴訟判決(大阪 地裁)において,内部統制システムの構築と評価 に対する法的責任が,取締役や監査役の職務との 関連で明示されるに至った(14。そして,2004年 に西武鉄道株式会社(以下,「西武鉄道」と称す)

の株主名義の偽装事件が発覚し,2005年の会社

法の制定と2006年のライブドア事件(15の発生を 経て,米国の「SOX法」にもとづく制度に倣っ た内部統制の枠組みが,証券取引法ほかの関連法 律の再編成により「金融商品取引法」において制 定された。

これらを踏まえた筆者のコーポレート・ガバナ ンスと内部統制概念は次の通りである。

コーポレート・ガバナンスの根本的な目的は,

企業のゴーイング・コンサーン(事業継続)を図 ることであり,事業継続を実現するということは,

事業活動に伴うリスクをコントロールしながら最 大利益を得ることであるから,そのための株主に よる経営執行に対しての経営執行権の委託方法と これによって生じる経営執行の「忠実義務」,「善 管注意義務」等に対する監督・監視がコーポレー ト・ガバナンスであり,経営執行にその機能の十 全な遂行がなされるように図るのが内部統制であ る。

すなわち内部統制は,経営執行を担う経営陣が コーポレート・ガバナンスの枠組みにおいて方向 づけられた経営方針を適切・適正に実行するため の制度的担保の仕組みとして制度化されたマネジ メントの枠組みであり,経営陣によりコントロー ルされる機能として整備される。つまり,内部統 制(InternalControl)はコーポレート・ガバナ ンス(CorporateGovernance)としての適切な 経営体制にもとづいて,適切・適正に整備・運用 されてこそ,本来それに期待されている機能を発 揮できるものである。

コーポレート・ガバナンスと内部統制とが相互 に密接な関係にあることは,頻発する上記のごと き企業不正事件が示すところであり,これらの事 件の再発防止対策として会社法における社外取締 役や委員会の設置等のコーポレート・ガバナンス 体制に関わる規定の改定や「金融商品取引法」の 中に内部統制報告制度(金融商品取引法第24条 の4の4)等の不正防止効果を期待した条項が制 定されるに至った。

本稿では,この内部統制報告制度導入に関する 経緯を踏まえたうえで,内部統制を規律づけてい る会社法および金融商品取引法の制定に関わる事

(3)

例として,次章にその論拠を示しているとおり,

大和銀行事件及び神戸製鋼事件並びに西武鉄道事 件及びライブドア事件を対象としている。また,

上記2法の制定後の内部統制と取締役制度との関 係からオリンパス事件(2011年)を対象として いる。

戦後直ぐの内部統制

戦後,日本では1948年(昭和23年)に米国の 制度に基づいて公認会計士法が制定され,1950 年(昭和25年)証券取引法改正により会計監査 人(公認会計士)による財務会計監査を上場会社 に義務づけられた(証券取引法第193条ノ2)の であるが,この時期に財務会計監査制度の導入に 並行して,監査を合理的,効率的に実施するため の財務会計上の処理に対する試査の範囲を決定す る方法としての内部統制の仕組みが導入されていっ た。

すなわち,日本では1950年7月に経済安定本 部企業会計基準審議会中間報告として,米国の監 査制度に準じた「監査基準」が公表され,そこに おいて「内部牽制組織」と「内部監査組織」から 成る「内部統制組織」が示され,その「監査実施 準則」では,試査の範囲の決定は「内部統制」の 信頼性の程度に応じてなされることが「監査手続 きの選択及び適用,2監査手続きの適用」で示さ れている。

1951年5月には,当時の通商産業省産業合理 化審議会が公表した「企業における内部統制の大 綱」(以下,「大綱」と称す)において「ここに内 部統制とは,企業の最高方策にもとづいて,経営 者が,企業の全体的観点から執行活動を計画し,

その実施を調整し,かつ実績を評価することであ り,これらを計算的統制の方法によって行うもの である」ことをその「1.内部統制の意義」で示し ている。これら監査基準と大綱との「内部統制」

の枠組みに違いはあるものの,その基本的な考え 方は,これらが米国の占領下において米国の制度

に基づいて導入された概念及び制度であるため,

同じく米国製であるCOSOの内部統制の基本的 な考え方に通じるものがあり,現在の内部統制に つながるルーツといってよいと考えられる。

しかし,ここで留意しておくべき点は,この会 計監査を行う監査人は,監査の実施に際して,一 定の限られた決算手続期間内に合理的且つ効率的 に監査を実施するために「試査」による監査実施 方法を主流とした。つまり,この時期の内部統制 は会計監査人による会計監査を円滑・効率的に実 施する為に財務諸表等の財務情報の信頼性等を担 保する会社内部のコントロールが,主たる目的で あったと考えられる。したがって,現在のCOSO によるフレームワークをベースにした内部統制と の比較では,目的の範囲が会計監査人の監査の便 宜上のものに限定されていたといえる点で,より 限られていた。

このように,日本における内部統制という用語 や概念は会計監査制度とともに上陸し,この後し ばらくは専ら会計監査と原価計算制度や管理会計 等の領域で論じられていくが,その後,多くの不 正経理事件,例えば,山陽特殊製鋼事件(1965 年会社更生法申請)等が発生したことなどにより 1966年(昭和41年)公認会計士法の改正で監査 の独立性や組織化による監査力の強化を図るなど の目的で監査法人制度が認められた。

しかし,その後も不正経理事件が多く発生した ため,1974年(昭和49年)には商法改正と「株 式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」

によって,会計監査人監査が制度化されるととも に,監査役に対して会計監査権に加えて,1950 年(昭和25年)商法改正で監査役の権限から外 した業務監査権を復活させて付与した。このよう に会計監査に関わる会計士監査や監査役監査の法 的制度が頻繁に変更されてきたが,内部統制が法 律上で制度化されることはなかった。

そして,1990年代に入ると,内部統制の問題 にかかわる事件として,本業では十分経営が成り 立っていたのにデリバティブ取引絡みの大損失が 大企業の財務に壊滅的打撃を与えた事例が多数生 じている。日本では大和銀行(1995年),住友商

3

.日本における内部統制の導入

(会社財務不正事件を中心に)

(4)

事 (1996年), ライブドア (2006年), 発覚は 2011年だが本来であれば1995年前後に損失が計 上されているはずのオリンパス,海外では英国で のベアリングス銀行(1995年),ドイツでのメタ ル・ゲゼルシャフト(1993年),米国ではエンロ ン(2001年),そして,リーマン・ブラザース

(2008年)やアメリカンインシュアランス・グルー プ(AIG)(2008年)などである。日本ではこの ような事件のうちから,特に以下に取り上げた西 武鉄道事件,大和銀行事件,神戸製鋼事件及びラ イブドア事件の発生を経て,ようやく内部統制の 法制度化へと動いた。

内部統制と西武鉄道事件に影響を与えた 主な時代事象

戦後のGHQ(16による財閥解体等の経済民主化 政策による会社の株式所有構造の急変等(17によ る混乱した時期に,いわゆる乗っ取りの防止策と して,旧財閥系企業同士の株式持合いを中心とし た安定株主創りが行われた一方で,この財閥解体 直後に,このような混乱した環境を背景に,会社 側に取得した株価よりも高く買取らせることを目 的とした買い占めといわれる行為が多発した(18

このような時代事象のもとに,1948年に改正 証券取引法が制定されたが,この改正で有価証券 届出書と有価証券報告書の制度による情報開示制 度も新たに創設されたため,1949年5月に東京 証券取引所(以下,「東証」と称す)が業務再開(19 を果たしたときにおける企業各社の上場登録手続 時に,名義貸しが横行したことに始まっているこ とが,西武鉄道事件の根底問題として,指摘でき る。2004年に西武鉄道における株主名義の偽装 事件が発覚し,「名義貸し」が不正行為として注 目されたが,西武鉄道事件はまさにその是正を怠っ ていたことが,そもそもの原因であった。そして,

その後のITの発展によるインターネット取引の 機会の発展・拡充で「東証」が有価証券の電子デー タベースシステムを構築しペーパーレス化を開始 したが,このことが「名義貸し」の継続を困難に した結果,その実態が露呈し,西武鉄道事件発覚 の引き金を引いたことになる。

西武鉄道のコーポレート・ガバナンス及び内部 統制の環境は,株式会社コクド(以下,「コクド」

と称す)という非上場の事実上の持株会社が西武 鉄道の株式の議決権所有比率71.3%を保有(20し,

さらに西武鉄道の株主上位10社の持株比率が80

%を超えていた状況で,創業者の息子であり,個 人的に大株主(コクドの株式の36%を保有)で もあった者が会長職を務め目名実ともに支配をし ていた。他のすべての取締役(21たちは彼に使え る「使用人」として,西武鉄道グループ(子会社 97社,関連会社4社の計102社)ぐるみの不正 に対して,むしろ積極的に関与していた。すなわ ち,「名義貸し」という違法行為を会社が継続し ていることに対して会社内部,特に取締役たちが なんらの是正行動をとらなかったことにおいて,

後に会社法で規定される内部統制としての「取締 役の職務の執行が法令および定款に適合すること を確保するための体制」の不備が指摘できる。

内部統制と裁判例(大和銀行株主代表訴訟 事件)

そして日本で,内部統制概念が法的認知を初め て受けたのは,大和銀行株主代表訴訟事件(22(大 阪地裁)(以下,「大和銀行事件」と称す)が本案 訴訟である1997年12月8日大和銀行株主代表訴 訟担保提供命令に対する即時抗告事件(23(大阪高 裁)(以下,「大和即時抗告事件」と称す)におけ る決定においてであり,次の抜粋の通り,日本で 初めて「内部統制システム」という表現が決定文 に用いられたことが,知られている事件である。

「・会社の管理者ないしその監督機関である取 締役ないし監査役にとって,内部統制システ ムの構築及び実施は,会社の組織づくりの基 本にかかわる事柄である。

・担当取締役,担当外取締役及び監査役のず れにとっても,金融機関である大和銀行の基 本的な組織運営にかかわる問題として,チェッ ク体制ないし内部統制システムに常に関心を 払い,業務執行対象ないし監視対象とするべ き事柄であった」(24

この大和即時抗告事件は,大和銀行事件の提訴

(5)

に対して銀行側が行った原告らに対する担保の提 供を求める即時抗告の申立に対して大阪地裁が原 告らに担保の提供(約13億円)を命じたため,

原告が控訴した事件である。

この大和銀行事件の訴訟概要は,大和銀行ニュー ヨーク支店の行員(現地採用の特別嘱託。以下,

「当該行員」と称す)が,頭取あてに自らの12年 間に及んだ不正取引によって約11億ドルの損失 を抱えている事実を告白する書面を送付したこと により,銀行は不正を知ることとなった(25。当 該行員の告白を受けた銀行の頭取,副頭取,その 他の取締役たちは日本の大蔵省には報告を行った ものの,米国の金融当局には報告をせずに損失の 一部を日本にある本店に付け替えるなどの隠ぺい 工作を行ったが,結局ニューヨーク州連邦準備金 制度理事会の知るところとなり,連邦捜査局(以 下,「FBI」と称す)が捜査を開始していた。FBI 等の捜査の結果,大和銀行の米国における信託子 会社ダイワ・バンク・トラストにおいて,1984 年~1987年にかけて同社が米国国債簿外取引に よって約9700万ドルの損失を出しており,その 損失をケイマン籍の子会社に「飛ばす」ことによっ て処理していたことが明らかになっている。

この大和銀行事件は,この損失に対し,東京及 び大阪の個人株主2人が,元役員を相手取り会社 に損害を与えたとして,元役員49人に対し損失 した約11億ドルと米国捜査当局に支払った罰金 3億4000万ドルを含む総額14億5000万ドル

(1551億円)を会社に賠償するよう求めた株主代 表訴訟を行ったというものであった。

当該行員の告白によると1983年に変動金利債 の取引で約5万ドルの含み損失が生じたことをきっ かけに,その損失を挽回しようと考えて米国債の 簿外取引を行い,書類を偽造して利益が出ている ように装ったことが不正のはじまりであったが,

当該行員は「債券取引の記帳,伝票作成,払い込 み決済のすべてを担当していたので,この損失を 計上せずに1年間でも先送りすることが,行内で チェックされることなく容易にできた」(26と述べ ている。

内部統制の観点からこの「1年間でも先送りす

ることが,行内でチェックされることなく容易に できた」ということに注目すると,次のように考 えられる。銀行の場合には外部の会計士による会 計監査や社内の監査役監査という法定監査のほか に,社内の検査部署による定期・不定期の主に社 内ルール違反等の事務検査を目的とした実地検証 を含む内部検査が1年から数年の周期で実施され る(27。そして,銀行における1つの「事務ユニッ ト」(28である支店内では,自己検証の体制が整備 されており,例えば金融市場取引として債券売買 を締結できる行員は予め人事制度上の発令(いわ ゆるディーラーやトレーダーと称する職務を命じ られること)をもって指定され,その職位や経験 等に応じて独断で締結できる金額の上限等の一定 範囲での権限が付与されることになるが,この大 和銀行ユーヨーク支店の場合には,当該行員は

「売買の事前に本部の許可を必要としない極度枠 を有するトレーダーとしての権限を付与されてい た」(29のである。

しかし,他方では当時(1993年~1995年前後)

の銀行内部の管理体制としては一定のルールの整 備はされていた。すなわち,当該行員が制限なく 取引を締結する権限が与えられていたとしても,

「店内ルールとして約定日に支店長宛報告書を提 出することになっていたが,当該行員は債券取引 の記帳,伝票作成,払込決済のすべてを担当して いた」(30ので,その報告書を操作することが自由 にできる「権限」をも銀行から付与されていたと いうことになる。このために,本来適切な職務分 離体制のもとに既定の店内ルールに従った事務処 理がなされていたならば,1年どころか取引締結 の当日から1週間,長くてもせいぜい1か月程度 しか誤魔化せない不正行為であったといえるので あって,当該社員自身もその点を認識しているこ とから,「1年間でも先送りすることが行内でチェッ クされることなく容易にできた」(下線を筆者加 筆)といわしめたものと考えられる。

例えば取引を締結するフロント部門に対して,

その取引の事務処理を行うバック部門は取引内容 をチェックするとともにフロント部門の不正な取 引等を予防すべき牽制する機能を発揮すべきであ

(6)

るから,フロント取引担当者とバック部門担当者 とは,職務を分離し,別な人物の担当のもとにお いて管理させる必要があるということである。ゆ えに無制限に市場取引を締結する権限を付与した ディーラー職に対して,不正の抑止力となるはず のバック・オフィスの権限までも単独で与えてし まっていたということは,内部統制上の問題であ り重大な不備といえるものである。特に組織体制 の整備という項目である点に注目すれば,これは 取締役会または担当取締役の業務の範疇のことで あると考えられる。

そして,「大和銀行事件」及び「大和即時抗告 事件」ではまさに,この点が訴訟上の争点となり,

上記①に引用した決定文の抜粋のとおり,この組 織的な体制の構築及び実施を「内部統制システム」

と表現して「取締役ないし監査役」にその責任が あることを明確にしたことで画期的な裁判であっ たと評価できる。

なお,ここで1つ注目すべき点は,当該行員に 認められていた「事前に本部の許可を必要としな い極度枠」ということの意味についてである。こ の本部の許可を必要とするということは,支店の トップである支店長の決裁権限を越えるというこ とを意味しており,通常はさらにその上位者であ る本部の部長等管理者から担当取締役や代表取締 役へのステータスに応じて決裁可能な取引額(ま たは極度枠等)等が拡大されるかたちで事前に取 締役会の決議事項として決められているものであ る。ところが,当該行員の場合には極度枠の制限 すらなかったということになると,一行員(すな わち,商業使用人)が代表取締役並みの権限を付 与されていたといえることになる。

すなわち,取締役の権限というものは株主から の委任に基づく(会社法第330条)ものであり,

取締役の選任は株主総会に議案として提出され承 認を得ることが必要とされる普通決議(会社法第 329条第1項,第309条第1項)による。したがっ て,銀行が締結する取引が取締役の権限に相当す るものであるということは,会社としてはそれが 重要な取引に該当するというものであって,つま り,取締役の職務を使用人である行員に「再委任」

していることになるから,当然にその行為の結果 の責任は,取締役や取締役会にあると解するべき であろう。そして,この論点が会社と取締役との 間の,つまりコーポレート・ガバナンスとしての,

善管注意義務(会社法第330条,民法第644条)

と忠実義務(会社法第355条,最判昭和45年6 月24日),さらに加えて監視義務(会社法第357 条)の問題として,大和銀行事件においての注目 点となった。

この訴訟の判決は,2000年9月20日に大阪地 裁で言い渡され,その判決内容は株主側の主張を 一部認め,当時の取締役ニューヨーク支店長に単 独で5億3000万ドル(567億円),当時の取締役 ニューヨーク支店長及び頭取を含む現・元役員 11人に計約2億4500万ドル(約262億円)を支 払うよう命じた。賠償額は総額7億7500万ドル

(約829億円)に上り,株主代表訴訟として過去 最高額となるものであった。

裁判長は,当時の取締役ニューヨーク支店長に のみ「取締役としての注意義務及び忠実義務に違 反した事実が認められる」とし,取締役に一社員 の犯罪行為を防ぐ義務があったとの判断を下した。

「米国での司法取引で有罪を認め罰金を支払った ことについては,当時の取締役11人の任務懈怠 責任を認め,それぞれの責任の度合いに応じ,連 帯して計2億4500万ドルを払うよう命じ,役員 に健全経営を迫った判決といえよう」(31というも のであった。

内部統制と裁判例(神戸製鋼所 総会屋利 益供与事件)

では,内部統制システムが構築されていれば取 締役は責任を免れるのかといえば,そうではない。

内部統制システムが整備されていても,会社の規 模や業務内容に応じて会社の業務の適正を確保す るために不十分なシステムであったり,実際には 遵守されていないのにそれを放置していたり,会 社の実情の変化によって機能しなくなったシステ ムを放置しているような場合には,やはり任務懈 怠として責任を問われることになる。

例えば,神戸製鋼所総会屋利益供与事件(32(以

(7)

下,「神戸製鋼所事件」と称す)において,被告 である取締役(副社長)は,一定の内部統制が構 築されていたことを主張した。しかし,これに対 し裁判所の所見は,「総会屋に対する利益供与や 裏金捻出が長期間にわたって継続され,相当数の 取締役及び従業員がこれに関与してきたことから すると,それらシステムは十分に機能していなかっ た」とし,「実効性のある内部統制システムの構 築及びそれを通じての社内監査等を十分に尽くし ていなかったとして,関与取締役は関与従業員に 対する監視義務違反が認められる可能性もあり得 る」(平成14年4月5日和解による訴訟終結の際 の所見)とした。つまり,取締役は,一定の内部 統制を構築するのみでは足りず,実効的に機能す るシステムを構築しなければ,責任を問われる可 能性があることを示している。この事件は,①元 取締役会長が経営トップとしての責任を認め,3 億1000万円の和解金を支払うこと,②元専務取 締役が利益供与についての法的責任を認め,1億 5000万円の和解金を支払うこと,③同社は,再 発防止のためのコンプライアンス委員会を立ち上 げ,新聞紙上で決意表明を行う,という条件で和 解により解決された。この神戸製鋼所事件が,内 部統制の面で注目された理由は,和解に際して裁 判所から示された「訴訟の早期終結に向けての裁 判所の所見」(以下,「所見」と称す)である。

この所見の中で,「神戸製鋼所のような大企業 の場合,職務の分担が進んでいるため,他の取締 役や従業員全員の動静を正確に把握することは事 実上不可能であるから,取締役は,商法上固く禁 じられている利益供与のごとき違法行為(中略)

等が社内で行われないよう内部統制システムを構 築すべき法律上の義務があるというべきである」

と示したのである。簡潔にいうと,規模が小さな 会社は,経営陣が社内に目を配ることにより会社 を適切にコントロールできるが,大規模な会社で はそれが困難となるので,その代わりに経営陣が 内部統制システムの構築を決定することによって,

適正に会社を経営執行する必要があるということ である。さらに,「企業トップの地位にありなが ら,内部統制システムの構築を行わないで放置し

てきた代表取締役は,社内における違法行為につ いて『知らなかった』という弁明だけでその責任 を逃れることができるとするのは相当ではない」

としている。

裁判例における取締役の法的責任の問い方 と内部統制概念について

日本の内部統制は,この2000年9月20日大和 銀行事件(大阪地裁)判決および2002年4月5 日神戸製鋼所事件(神戸地裁)和解における司法 判断によって,法的認知が確立された(33,とさ れており,特に内部統制と取締役・監査役の職務 との関連について,次の3点(34が確立されたと 考えられている。

1.内部統制システムを構築する義務は,代表 取締役にあること

2.取締役会(取締役)には,代表取締役が内 部統制システムの構築義務を履行している かどうか監視する義務があること

3.監査役は,取締役が内部統制システムを構 築・整備しているかどうかを監視する職務 を負っていること

しかし,大和銀行事件や神戸製鋼所事件ともに 事件の主犯者が従業員であったことから,上記一 連の司法判断の中で言及された内部統制が,コー ポレート・ガバナンスと連動した現代的な意味で の内部統制概念であったものとは言いきれず,従 業員の業務を対象とした従来の不正行為の予防を 柱とする内部統制概念であったものと考えられ,

COSOの示した概念(35による内部統制とは性格 を異にすると考えられる。

すなわち,COSOにおいては,「内部統制は,

業務の有効性と効率性,財務報告の信頼性,法規 の遵守の範疇に分けられる目的の達成に関して合 理的な保証を提供することを意図した,事業体の 取締役会,経営者およびその他の人々によって遂 行されるプロセスである」(36と定義している。そ して,このCOSOの内部統制の特色は,構成要 素を「統制環境」・「リスクの評価」・「統制活動」・

「情報と伝達」・「監視活動」の5つに区分し,そ れらを行う責任を負う主体を従業員から取締役等

(8)

の経営陣を含めたすべての構成員らまで拡張し,

それらを合理的な保証(assurance)を提供する 機能として,それを遂行するプロセスであるとし ている点にある。

この点に対して,大和銀行事件の判決では,取 締役に対してリスク管理体制としての内部統制の 構築義務を認めてはいるものの,それも「取締役 の善管注意義務及び忠実義務の内容をなすもの」

としており,個々の取締役について各自の「任務 懈怠の責任」を問うということになっている。こ の結果,一方で代表取締役頭取及び同副頭取らに 対しては,「監督義務懈怠の責任を負うことはな い」と判断し,「検査部及びニューヨーク支店の 指揮系統に属さない取締役に就いても取締役とし ての監視義務を認めることはできない」とした。

他方,主犯ディーラーの直属の上司にも該当する 取締役兼ニューヨーク支店長,内部検査の実施部 門であった米州企画室担当取締役らに対しては

「任務懈怠の責任を負う」と判じているのである。

つまり,犯人からの指揮系統上の「距離」によっ て,取締役に対する監督責任の有無を判断してい ると解されるのであって,内部統制を上述したプ ロセスとして認識して代表取締役や取締役会に対 する責任を問うという構図にはなっていないと考 えられる。

これに対して,神戸製鋼所事件では,途中で和 解が成立したために最終的に裁判所の判断が示さ れたものではないが,和解調書のうちに「所見」

が示されており,「企業トップの地位にありなが ら,内部統制システムの構築を行わないで放置し てきた代表取締役は,社内における違法行為につ いて『知らなかった』という弁明だけでその責任 を逃れることができるとするのは相当ではな い」(37とも示した点においては,2000年の大和銀 行事件から2002年の神戸製鋼所事件に至るまで の変化が表れている。大和銀行事件の時点では,

銀行及び代表取締役らは「海外支店の一ディー ラーの起こした事件に関しては,自分たちは知る 立場になく,知らなかった」ことを自らの弁明と して記者会見等の場においても「自分たちはむし ろ被害者である」と主張していたが,裁判所の判

断もそれを追認するように頭取らの監督責任は否 認している。それに対して,神戸製鋼所事件では 上記のとおり「所見」として明確にそれを否定し ているのである。神戸製鋼所側が和解に応じた背 景にはこれが判決として下されることを回避した といえるであろう。また,神戸製鋼所事件の和解 成立日は2002年4月5日であるが,この2002年 には商法改正による商法特例法で「委員会等設置 会社」の制度が創設され,委員会等設置会社では,

取締役会は,監査委員会の職務の遂行のため必要 な事項として法務省令で定める事項を決定しなけ ればならないとされている(商法特例法第21条 の7第1項第2号)。ここで「監査委員会の職務 の遂行のため必要な事項」とは,「監査委員会が 監査権限を発揮できるよう内部統制システムを整 備すること,及びそれを監査委員会が利用できる ための制度的担保」を意味する。すなわち,委員 会等設置会社においては「取締役会が内部統制シ ステムの内容の決議及びその実効性に責任を負う こと」が監査委員会の機能の実効性を担保するた めの仕組みという限定したものながら条項として 規定された。このような法制度の動きも和解に向 けた影響を与えたものと考えられる。

この両裁判の判決,和解の所見の中で言及され た内部統制は,このように従前からの従業員の不 正行為の予防を柱とする概念であり,COSOの 定義に示されたような,経営トップも含めた体系 化され組織化された概念として示されたとはいえ ないと考えられる。

ライブドア事件と複雑な金融取引の拡大 ライブドア事件における内部統制の問題の背景 として取り上げるべきこととして,米国のインベ ストメント・バンク(投資銀行)の活動がある。

ライブドア事件とは,単に日本国内における,日 本人同士による,日本企業の買収合戦であった,

という構図のみではない。ライブドアがニッポン 放送株を取得した時に,その資金を供給していた のは米国のインベストメント・バンクであるリー マン・ブラザースであった(38,ことが判明して いる。それは資金の供給というよりは,資金調達

(9)

手段のツールである金融取引のノウハウを提供し ていたというほうが的確であろう。ライブドアが ニッポン放送株を買占め始めた際に,リーマン・

ブラザースを引受とするユーロ円建ての価格修正 条項付転換社債型新株予約権付き社債(39(以下,

「MSCB」と称す)を発行して800億円を調達し ていたが,これには株式への転換価格が1週間ご とに見直され,時価の90%になるという条件が 付けられていた。これはライブドアの株価が下が るほどリーマン・ブラザースはより多くの株式を 取得できるということである。このためにリーマ ン・ブラザースが,MSCBから転換したライブ ドア株を市場で売却したことによって,株価が 500円から300円前後にまで値を下げてリーマン・

ブラザースは巨額の利益を得た(40のである。こ のような自社の資本を減損することがカウンター パーティーの利益に直結するという危険なスキー ムの金融取引を締結することに対して会社内部で の牽制が働かなかったことが,ライブドアの内部 統制の不備,すなわち会社の「資産の保全」を図 るという,後に金融商品取引法によって示される 内部統制の目的の1つが少なくとも果たされてい なかったと指摘できる。

会社法と金融商品取引法における内部統制 このような裁判の流れを経て,日本の会社法(41 では,すべての株式会社の業務の適正を確保する ため「取締役の職務の執行が法令および定款に適 合することを確保するための体制その他の株式会 社の業務の適正を確保するために必要なものとし て法務省令で定める事項」(会社法第362条第4 項6号,会社施行規則100条)を取締役会の専決 事項として定め,特に大会社である取締役会設置 会社に対しては「決定しなければならない」と取 締役会に対して義務づけている(会社法第362条 第5項)にすぎない。

また,委員会設置会社については,規模の制約 が撤廃されたため(42,会社規模にかかわらず取 締役会は「執行役の職務の執行が法令および定款 に適合することを確保するための体制その他の株 式会社の業務の適正を確保するために必要なもの

として法務省令で定める体制の整備(会社法第 416条第1項1号ホ,同法施行規則第112条第2 項)を決定しなければならない」と規定している。

したがって,会社法および会社法施行規則では内 部統制という表現は用いられていないものの,こ こでいう業務の適正を確保するための体制整備等 が内部統制と考えられる。

これに対して金融商品取引法では,「財務報告 に係る内部統制の評価及び監査の基準(2007年2 月15日企業会計審議会公表)」(43(以下,「内部統 制評価・監査基準」と称す)において,「内部統 制とは,基本的に,企業等の4つの目的(①業務 の有効性及び効率性,②財務報告の信頼性,③事 業活動に関わる法令等の遵守,④資産の保全)の 達成のために企業内のすべての者によって遂行さ れるプロセスであり,6つの基本的要素(①統制 環境,②リスクの評価と対応,③統制活動,④情 報と伝達,⑤モニタリング,⑥ITへの対応)か ら構成される。このうち,財務報告の信頼性を確 保するための内部統制を「財務情報に係る内部統 制」と定義し,本規則では,この有効性について 経営者による評価及び公認会計士等による監査を 実施する際の方法及び手続きについての考え方を 示している」(「内部統制評価・監査基準」の内 部統制の基本的枠組みより)である。

金融商品取引法では,2008年4月1日以後に 事業年度が開始する,金融商品取引所に上場して いる有価証券の発行会社等(以下,「上場会社」

と称す)に対し内部統制報告制度として法律(金 融商品取引法第24条の4の4)による内部統制 報告書の作成を義務づけ,それを有価証券報告書 と併せて内閣総理大臣に提出することを義務づけ ている。この金融商品取引法の開示義務化は,会 社法による内部統制の構築を前提としたものであ ると解される。

内部統制をプロセスとして監査を実施すること が求められているのは金融商品取引法に基づく監 査人による会計監査と会社の内部統制監査部門に よる内部統制報告制度に係わる内部監査である。

内部監査部門は通常,経営トップである代表取締 役社長又はそれに準じる代表取締役に直属の部門

(10)

として設置されていることが最も望ましい形であ る。この内部統制の体制の整備においては,会社 法および金融商品取引法の制定当初において,少 なからぬ企業でそのための過剰な負担を強いられ たと経営者が主張しているが,果たしてそうであ ろうか。内部統制の整備はもともとが,会社内部 の経営資源である業務ノウハウや人材を活用して 実施される業務であり,基本的に当該業務のため に新たな資源を外部から求める必要性はない。もっ とも,少なからずの会社では,特に内部監査部門 の人材として適任者が内部にいないとの判断から 外部から人材を求めた事実は生じたが,いずれに しろ,内部統制の体制が一旦整備できれば,それ 以降はそのメンテナンスを行う程度でよいはずで ある。特に会社法では大会社の場合に,取締役会 が決定しなければならないと定めているものの,

その他の行動については特段の要求を定めている ものではない。

4

.内部統制制度における取締役の役割 法定化された内部統制とその実効性に

ついて

日本においては,さらに2011年にオリンパス において長期間の「損失飛ばし」による損失隠し が発覚し,改めて,コーポレート・ガバナンスの 議論が活気づいたのである。この事件も原因は

「財テク」として行われたデリバティブ取引によ る損失を隠蔽したものであり,その隠蔽方法が,

デリバティブ取引に係わる証券化スキームを悪用 したものであったことが明らかにされた。

このオリンパスの事例においても社内・社外を 問わず取締役および監査役らは,この事件の予防・

発見・処理にも,全く貢献していないことが事件 発覚後に設置された第三者委員会の調査報告書か ら読み取れる。事件の発覚に至る最初の行動は,

社内の役員又は社員(匿名として公にはなってい ない)である会社内部の者が,個人的な交際のあっ たジャーナリストに対してこの社内の不正行為を 話したことである。そしてそのジャーナリストが 記事にした内容を読んだオリンパスの経営トップ

であるCEO(代表取締役社長)に就任したばか りのマイケル・ウッドフォードが,大手監査法人 にその疑わしいM &A取引について調査依頼を し,その結果等をもとに取締役会などで問題提起 したこと(44から,一連の解決へと向かった。

したがって,オリンパスの事例から理解できる ことは,西武鉄道やライブドアの事件とは異なり,

会社法および金融商品取引法が成立し,取締役会 等における内部統制の整備と運用が義務化された にもかかわらず,長年にわたり是正されずに継続 された不正行為であったとともに,事件発覚は

「内部告発」であり,それを契機に事件を知った 経営トップの「法令等を遵守した行動」が,一方 では株価の下落によって株主に損害を与えたとい う訴えは生じているものの,他方では,本来の制 度的に期待されている内部統制の機能が働いたと 評価されるべき事例であったことである。

内部統制における社外取締役,内部通報制 度,内部監査制度の役割

会社法の改正案における大きな争点として,社 外取締役の義務化の是非があり,また日本独特の 制度である監査役,監査役会の存在との関係と役 割の問題,さらに証券取引所の規則でいう独立取 締役の届け出の件も併せて(以下,「社外取締役 等」と称す),日本における内部統制の骨格に当 たる社内体制の構築上の重要な課題となっている。

社外取締役等については,例えば欧米やアジア のAsian Corporate Governance Association

(以下,「ACGA」と称す)とその共同提唱機関 として連署しているような多くの主要な国(英国,

米国,カナダ,オランダ)において,日本におけ る独立取締役(社外取締役)制度の改善すべき課 題を彼らの価値観に基づき提言している。

これによるとコーポレート・ガバナンス原則の 1つとして「上場企業の所有者は株主であり,経 営者ではないこと」を示し,日本では「経営者は,

すべてのステーク・ホルダーの利害調整人である」

と考えているとし,自分たちの考え方である「株 主をコーポレート・ガバナンス構造の最高位に置 く体系」とは異なっていると主張している。

(11)

しかし,オリンパスなど社外取締役のいた企業 での不正事件が発覚しているように,株主の嗜好 に応えるマーケティングとしてではなく,リスク・

マネージメントとして考えた場合に,社外取締役 制度の実効性については大きな疑問が抱かれる。

むしろ,これらの事件の発生はその実効性,その ものを否定しているのではないかと考えられる。

そして,本稿で取り上げた代表的な事例は,いず れもその発覚の原因は主犯者の自首(大和銀行),

逃亡(ベアリングス銀行)であったり,取引銀行 からの照会による内部調査(住友商事)であった り,内部告発(エンロン,オリンパス,大王製紙,

HP社)であったりと,いずれの場合も社外取締 役が活躍したわけではなく,内部従事者からの告 発等が事件発覚の契機となっていることが確認で きた。

前章までの分析を踏まえて本稿で指摘すること は,リスク・マネージメントとしての内部統制の 観点からいえば,平常時や非常時におけるコンサ ルティングやアドバイザーとしての役割は別段,

会社財務に関わる企業不正事件のような当該犯罪 を行っている社内事情にも通じた者による犯行を 暴いたり,予防したりするためのより効果的な手 段の候補として,内部告発者の保護制度の拡充や 内部統制の構成要素の一つであり,既に多くの上 場会社等で備えられている「内部監査部門」設置 の法律による義務化等のほうが,社外取締役等の 義務化よりも合理的であり,実効性があると考え られる。

5

.おわりに

本稿では,戦後日本における内部統制の制度導 入について,内部統制の枠組みを規律づけること となった会社法および金融商品取引法導入と会社 財務不正事件の関連を中心に分析を行った。

複雑化・高度化した金融取引を中心に巨大化し た金融リスクが業種・業態を問わずに経営破綻に も至る危機を招く事例が急増した。この過程で,

資本市場における株主構造も大きな変化を遂げ,

安定した法人間による「株式の持合い」の割合が

減少し,機関投資家,外国人株主も含めた個人投 資家が増加し,コーポレート・ガバナンスの在り 方も変化が求められ,財務情報の開示に始まり,

現在では非財務情報の適切な開示の必要性も一層 と高まっている。これに伴い,会社・企業集団の 業務全体を適切にコントロールする仕組みとして の内部統制の重要性が急速に認知されてきている。

この企業における望ましい内部統制の在り方に ついては,今後の改正によって期待される会社法 と金融商品取引法の歩み寄り,例えば金融商品取 引法が内部統制の整備と運用状況の報告を求めて いるのに対して,会社法では内部統制の整備のみ を義務付けている現行規定から運用状況に関わる 事項の事業報告書への記載を求める報告内容の拡 充などの金融商品取引法の現行規定との連係や統 一化等,これから新しい局面が展開される段階へ と移行しており,今後のさらなる研究課題である。

《注》

(1) 本稿では,「内部統制報告制度における内部統 制および/または内部統制システム」という概 念を念頭におきつつ,「内部統制」と表現してい る。

(2) 2001年に経営破たんした米国のエネルギー事 業会社。現在につながる近代的デリバティブ取引 を推進した事業者といえる。その絶頂期にはコー ポレート・ガバナンスの模範と称されていた。

(3) 2002年に,直近5四半期にわたり不正に営業 費用38億ドルを設備投資として計上していた事 実を開示し, 不正会計が発覚した。Kenneth

(2004)pp.8687

(4) 奥村(2002)181頁。2002年,エンロンの会計 監査を担当していた同会計事務所が,エンロンに 関する資料を破棄したとして,米国司法省がテキ サス州の連邦地方裁判所に告訴した。

(5) 正式名称は,Anacttoprotectinvestorsbyim- provingtheaccuracyandreliabilityofcorporate disclosuresmadepursuanttothesecuritieslaws, andforotherpurposes。

(6) カーティス(2009)279頁。

(7) 法務省ホームページhttp://www.moj.go.jp/

content/000100819.pdf(2012年8月26日アク セス)。

(8) COSOホームページhttp://www.ic.coso.org/

default.aspxおよびhttp://ic.coso.org/downlo

(12)

ad.aspx(2012年9月30日アクセス)。

(9) 2001年に経営破たんした米国のエネルギー事 業会社。現在につながる近代的デリバティブ取引 を推進した事業者といえる。その絶頂期にはコー ポレート・ガバナンスの模範と称されていた。

(10) 鳥羽(2007)13頁。

(11) 同上書260頁。アメリカ公認会計士協会・全米 会計士協会(管理会計士協会の前身)・アメリカ 会計学会・財務担当経営者協会・内部監査人協会

(IIA)の5つの団体が共同で組織し,財政的支 援を行った独立委員会である。

(12) 同上書162頁。トレッドウェイ委員会報告『不 正な財務報告』。

(13) 鳥羽(2007)6頁,7頁。COSO,InternalCon- trol-IntegratedFramework(JerseyCity,NJ:

AICPA,1992and1994).

(14) 鳥羽(2007)13頁。

(15) 2006年1月,東京証券取引所マザース市場に 上場していたライブドアの社長ら幹部4名が証券 取引法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

(16) GeneralHeadquartersoftheSupremeCom- manderfortheAlliedPowers(連合国軍最高 司令官総司令部)の略。

(17) 箕輪(1997)94116頁。戦後の財閥解体によ る株式所有構造の変化を詳細に分析している。

(18) 奥村(2006)例えば,1952年の陽和不動産株 の買い占めがあり,1980年代には上場会社の1 割近くがこの「日本的買占めの」にあっていると いわれた。8688頁。

(19) 終戦後1948年1月まで立会場が米軍に接収さ れていた。 東証ホームページ 「東証の歴史」

http://www.tse.or.jp/about/history/floor/ind ex.html(2011年7月15日アクセス)。

(20) 西武鉄道の平成17年3月期決算短信(連結)

による。上位10社の保有割合は80.8%であった が,西武グループの上位3社で73%であり,そ れ以外は全て信託銀行におけるグループ会社の退 職金信託口等の金融機関保有であった。

(21) 同上決算短信。平成17年3月期末において,

西武鉄道に社外取締役はおらず,監査役4名のう ち3名は社外監査役であった。

(22) 大阪地判平成12年9月20日, 判例時報第 1721号3頁。

(23) 大阪高決平成9年12月8日,商事法務第166 号138頁。

(24) 同上書138頁,鳥羽(2007)441頁。

(25) 井口(1999)1516,148150頁。

(26) 同上。

(27) 同上書4749頁。当時の大和銀行の場合は,

1993年から毎年1回年支店のすべての部署が

(本部の)米州企画室の内部検査を受けるルール となっていた。( )内は筆者が加筆した。

(28)「事務ユニット」というのは筆者の造語である。

この意味は,銀行業務である対顧客の各預金・融 資・為替・両替業務は支店内のプロセスで基本的 に完結する仕組みとなっており,各店舗が統一さ れた共通ルールで処理することが原則となってお り,それを内部統制上の1つの独立したプロセス を区別する単位として「ユニット」と称する。

(29) 井口(1999)1516頁,148150頁。

(30) 同上。

(31) 日本経済新聞2000年9月20日朝刊。

(32) 神戸製鋼所が,株主総会で円滑な議事進行に協 力してもらう(他の総会屋が出席しないようにす る)謝礼として,総会屋に対して利益供与を行い,

また同社加古川製鉄所において裏金が捻出され,

その一部が利益供与に用いられたという事件であ る。会社に計3億5400万円の損害を与えたとし て株主代表訴訟が提起された。

(33) 鳥羽(2007)439445頁。

(34) 同上。

(35) 同上書7頁。COSO,InternalControl-Inte- grated Framework(Jersey City,NJ:AICPA, 1992and1994).

(36) 鳥羽・八田・高田(1996)による翻訳文4頁。

(37) 鳥羽(2007)439445頁。

(38) 奥村(2006)191193頁。

(39) 江頭(2009)717頁。MSCBは通常であれば公 募による資金調達が困難な会社が多く利用してい る。また,株式の空売りにより権利行使価額を下 げようとする動きを呼びやすいこと,などが問題 視されている(671頁,655659頁,751752頁)。

(40) 奥村(2006)191193頁。

(41) 江頭(2009)507頁,519520頁。

(42) 同上書506511頁。会社法施行前の「委員会等 設置会社」は,商法特例法上の大会社(商法特例 法第1条の2第1項)またはみなし大会社(同法 第1条の2第3項2号,2条2項)であることが 要件とされた。しかし,会社法では,ベンチャー 企業等には小規模でも委員会設置会社となるニー ズがあるとの理由から,規模の制約は撤廃された。

(43)「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基 準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査 に関する実施基準の設定について(意見書)」の うち,『財務報告に係る内部統制の評価及び監査 の基準』をいう。なお,同意見書は2011年3月

(13)

30日に改訂された。

(44) ウッドフォード(2012)1521頁。山口(2012) 1822頁。

参考文献

1.江頭憲治郎『株式会社法(第3版)』有斐閣 2009 2.奥村 宏『エンロンの衝撃 株式会社の危機』

NTT出版 2002

3.小高泰雄「経営管理形態における内部統制制度の 発展」『三田商学研究』第1巻1号慶応義塾大学 商学部 1958 1528頁。

4.カーティス・J・ミルハウプト編著『米国会社法

(U.S.CorporateLaw)』有斐閣 2009 5.鳥羽至英 『内部統制の理論と制度』 国元書房

2007

6.鳥羽至英・八田進二・高田敏文 共訳 トレッド ウェイ委員会組織委員会編『内部統制の統合的枠 組み(理論編)』白桃書房 1996

7.根箭重雄「内部統制監査について:A.I.Aの報告 書を中心として」『同志社商学』(同志社大学商学 部創立5周年記念論文集) 同志社大学商学会

1953 86103頁。

8.マイケル・ウッドフォード 『解任』 早川書房 2012

9.箕輪徳二『戦後日本の株式会社財務論』泉文堂 1997

10.箕輪徳二「取締役制度改革とコーポレート・ガバ ナンス」『年報財務管理研究』No.9 日本財務管 理学会 1999

11.箕輪徳二・三浦后美 編著『株式会社の財務・会 計制度の新動向』泉文堂 2011

12.山口義正『サムライと愚か者 暗闘 オリンパス 事件』講談社 2012

13.Asian Corporate Governance Association

(ACGA)「ACGA日本のコーポレート・ガバナ ンス改革に関する意見書(日本語版)」2009 14.KennethA.Kim JohnR.Nofsinger DeekJ.

MohrCorporateGovernance PearsonEduca- tion 2004

15.TheRoleoftheBoardofDirectorsinEnron・s Collapse,U.S.SenateReport10770,July8, 2002 pp.6,5259.

参照

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