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河 野 豊 弘

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(1)

河 野 豊 弘

1.意  義

 市場占有率とは,1つの会社の売上高が,

その業種の全国売上高にしめる割合である。

それは「自社占有率」 「業界に占める地位」

「対全国生産比」「Share of Market」などと も呼ばれ,また集中の度合いという見地から は「生産集中度」,「企業の集中度」ともいわ れる。自由経済体制のもとにおいて,もし競 争が自由に行われれば,どの会社の製品を選 ぶかは全く消費者の自由な選択にまかされる のであり,いわばその投票によって会社の市 揚占有率がきまる。すぐれた会社の製品には 多くの投票が集まり,市揚占有率も高まるこ

とになる。

 市場占有率は企業の方針決定という立場か らも研究されるし,また独占の理論やその評 価という見地からも研究される。しかしこの 論文では前者の見地に立ち,企業として市場 占有率について,どのような方針をたて,ま た占有率を維持したり増大するために,どの ような計画をたてることが必要かを研究す る。企業にとって市場占有率の研究は次ぎの 目的のために必要である。

 イ.自社売上高の予測と計画のために。自 社売上高は,商品ごとの全国売上高に自社占

有率を乗じて得られる。

 ロ.自社占有率を目標的に定めたとき,そ れを確保するためにはどのような対策をたて

ることが必要であるかを知るために。相手の 5

出方に対して自社がどのような手を打って行 くか。市場占有率を規定する要因は何であ り,その各要因がどのようなウエイトをしめ るか。これらを知ることが必要である。

 ハ.シェアー争いは利益なき拡大であると しばしばいわれる。占有率を無理に上げよう とすると価格を下げたり,広告宣伝費を増大 したりすることが必要となり,時にはそのた めに利益が低下し,遂には損失を生ずる。反対 にあまり低い占有率も,限界生産者となり脱 落のおそれがある。そこで企業にとって最も 有利な占有率がある。少なくとも占有率の最 低限と最高限とがあり,その中間において,

目標を設定することが必要となる。

2.占有率の種類

 市場占有率と商品占有率

 市場占有率は代替品の市場において問題と なう。例えば明治製菓は菓子と食品と薬品と を生産しているが,その売上高の合計と菓子 の全国売上高との比率をとっても意味がな い。菓子の売上高について,自社と全国売上 高との比をとって意味がでてくる。菓子の占 有率,食品の占有率,薬品の占有率とにわけ て考えるべきである。

 ところが菓子にも種々の種類があり,チョ

コレート,チューインガム,キャラメル類等

       N それぞれについて占有率を考えうる。一般的

には商品を細分するほど自社占有率は上が

(2)

る。

 中小企業でも1つの製品については非常に 自社占有率の高いことがありうる(専門メー カーや,一定の商域圏における小売店など)。

そしていくつかの製品を一括して広い製品ラ インの市場占有率を考える場合には,それぞ れの商品の代替品における商品占有率と,そ の商品の市場占有率との積の合計によって綜 合的な市揚占有率が定まる。即ち,

 自社の市揚占有率R・=riai+r、a、+r、a3+…

 但し,r…商品ごとの自社占有率, a…商  品占有率。

 この場合には,綜合的な自社占有率を上げ るには,商品占有率の高い製品において,高 い自社占有率をしめることが必要になる。ま た有望な新製品の開発を積極的に行なえば自 社占有率も上がる。ここに新製品開発と市場

占有率との関係がでてくる。

 市場占有率をどの程度細分化し,また綜合 して考えるかは,市場占有率を使用する目的 によって異る。自社需要の予測に用いるとき には,その需要予測の商品グループに合わせ るべきである。このときには,製品の代替性 によって分類することが望ましい。テレビと 冷蔵庫とは代替関係にたつとは言い難いの で,それらを一括して家庭用電気機具の市場 占有率をみることは望ましくない。これに対 して,市揚占有率の分析の目的が自社の競争 力の分析にあり,企業の成長の目標を達成す るにはどうしたらよいかの戦略をたてるため のものであるときには,競争力の共通性によ って分類する。即ち同一の生産設備,技術,

要員などが使えるものは,一括する。それら は生産の規模を増大し,原価を下げて,競争 力を強めるからである。同様に,同じ広告,

同様の販売組織,同様の会社イメージの用い うるものは一括する。これらは販売の上で共 通の戦力となるからである。この見地にたつ

と,製品の範囲はややひろくなる。

 地域別の自社占有率

 自社占有率も地域別にわけるといくつもの 種類を生ずる。例えば

 国内生産量における市場占有率  国内需要量における市揚占有率  輸出における市場占有率

 これらは,輸出や輸入が大きいとそれぞれ 変わってくる。また国内需要量も地域ごとに わけると相異っている。そして地域需要を求 める場合にも次ぎの2つの方法がある。

 (イ)全国需要×自社占有率=自社需要      自社需要×地域への配分率=地域      別の自社需要

 (ロ) 全国需要×地域への配分率=地域別      の需要

     地域別の需要×地域別の自社占有      率=地域別の自社需要

 この2つの方法による予測値は同じではな い。(イ)の揚合には地域への配分率におい て,過去の占有率の実績を加味する必要があ り,(ロ)の場合には,地域別の自社占宥率 と実績を加味して地域ごとに変える必要があ る。自社の競争力の弱い地域は全国平均より1 も低いことになる。その低い地域は,もし戦 線が拡大してカの分散にならなければ,上げ る可能性をもっている。反対に規模の小さい 企業の場合には,むしろ拠点主義により,あ る地域の占有率を高くした方が有利な場合も

ある。

3.自社占有率を規定する諸要因

 買手は何故にある会社のブランドを選択す

るか。食パンや缶詰の揚合には,主に価格の

安いものを選ぶ。自動車のガソリンの場合に

は,スタンドが近くにあることや価格の安い

こと,サービスがよいことなどが選択の基準

となる。また自動車のような高価な耐久財の

場合には,品質・機能がよく,またスタイル

のよいことなどが問題となり,価格は多少高

くともよい製品を選ぶ。このように商品の選

(3)

択の基準にはいくつかあり,また商品ごとに その要因の重要さが異っている。この選択の 基準が市場占有率を規定する直接的要因とな る。企業からみた場合に,これを市場吸引力 要因と名づけうる。このような要因をいくつ かあげてみると次ぎの如くとなる。

 直接的要因と間接的要因

 直接的要因どは,商品選択の基準となり,

企業からみると吸引力要因として戦力の差を 生ずるものである。これには,品質とか価格 などがある。これに対して,間接的要因又は インプットは,このような直接的要因を生む 原因となるものであって,品質の原因となる 技術研究費の支出高や,価格差の原因となる 製造原価の差などである。技術研究費の投入 量の相違や,原価の差は結局において市場占 有率の差を生ずる。

 吸引力を制約する要因

 以上のような吸引力を制約するものがあ る。先ず企業の設備能力がある。如何に吸引 力が強くとも,設備能力以上にはつくれない から,自社需要が自社供給能力を上回る場合 には,供給能力が市場占有率を規定する。ま た市場全体として需要が供給を上回るときに は設備能力が市場占有率を規定する。さら に,設備投資について自主調整の行なわれる 業界にあっては,この設備能力が市場占有率 を定め,また設備投資の権利を獲得すること が市場占有率の変更を可能にする。同様に輸 入外貨の割当が行なわれ,その輸入原料によ って生産の行なわれる場合には,その外貨割 当が市場占有率をきめる。そのほか,特許に よる独占,既存企業による新参企業(ニュー

・エントリー)の制限,官庁による制限など もこれに当たる。これらは占有率をきめる上 に極めて重要な役割を演ずる。しかしこの小 論ではこれらについては研究しない。

 吸引力の背後にあるもの

 吸引力の根源となる要因としては,企業の 体質と,戦略の質とがある。企業の体質は,

7

経営者の能力や,労働者の質や,設備の質な どであり,吸引力の基礎となる。企業の体質 がよいと同じ規模でも低い製造原価とするこ とを可能とし,また同じインプットでも異っ た直接要因を生む。

 例えば同じ技術研究費を投入しても,異っ た品質の製品を生む。この意味では市場占有 率の相異は企業体質の相異に根本的な原因が あるといえる。また企業の戦略の質は,デザ インをする揚合に,どのように巧みにデザイ ンをするかとか,広告宣伝をする揚合にもど のようなコピーを用い,またテレビを用いる か新聞を用いるか等の選択を言う。このよう な戦略の質の良否は,同じインプットでも非 常に異った効果を生む。どのような戦略がよ いかはマーケティング全般の問題となる。

 この小論では,このような企業の体質や戦 略の内容も殆ど問題にしない。ここでは専ら 直接的な吸引力要因と,それを生むためのイ ンプットとに限定して研究することとする。

 3・1 直接的吸引力要因

 直接的な吸引力要因には次ぎの如きものが

ある。

 (1) 品質・機能…品質のよさ,機能のよ さなど。商品化としてのデザイン,大きさ,

色彩などもこれに入る。

 (2) 価格…品質・機能が同じであれば安 い方が市場吸引力は強い。しかし品質・機能 が他社と異っているときには,品質・機能と のかね合いとなる。品質・機能がすぐれてい れば,価格が高くとも売れる。しかし1円当 たりの機能がすぐれていればいくら高くても よいというわけではなく,他の商品と均衡の とれた「値ごろ」であることが必要である。

 (3)販売促進…販売促進には,広告宣伝

と,セールスマンによる勧誘と,サービスと

の3種のものがある。サービスには,買手に

対するアフター・サービスなどのほか,中間

商人に対する種々の援助を含む。卸売商及び

(4)

小売商に対するマージンの大きさや,リベー ト(Quantity Discount)も販売促進の一部 と見なしうる。

 支払条件も販売促進の1つと考えられる。

これは現金払いか,月賦払いか等の条件であ る。これは買手の購買力の制限をひろめ,自 社製品に対する購買意欲を増大する。

 (4) 販売組織の強さ…自社の製品の販売 を推進する卸売店と小売店の数がいくつある か。専属販売店の場合には,その質が強く,

数の多いほど強いことになる。専属販売店で ない場合には,自社の製品を優先的に販売す る販売店が多いほど強い。直売の場合には,

自社のセールスマンの数の多いほど強いこと になる。自社セールスマンの人的販売促進は 販売促進の強さともいえるし,販売組織の強 さともいえる。一般的に販売促進と販売組織 の強さとの境界は不明瞭であり,会社が直接 的に消費を勧誘すれば販売促進となり,販売 経路が勧誘を行なえば販売経路が強いことに なる。また,両者の間には相互補強的な関係 があり,広告宣伝が強く,リベートが大きい と販売経路は熱心に販売を行なう。販売促進 には常に費用がかかるが,販売組織は,いっ たん出来上がると,費用はとくにかからな

い。

 (5)消費者のもつイメージや態度…これ は企業の製品の過去の品質・機能の実績か ら,A社の製品は信用できる,とか, B社の 製品は高級品であるとかの固定的観念ができ 上がる。それは単に過去の製品の実績からば かりでなく,会社の広告宣伝によっても形成 される。このようなイメージとそれにもとつ く態度が会社にとって有利である場合と,不 利である場合とある。有利なイメージや態度

をもたれている場合には,それは会社にとっ て大きな資産であり,市場吸引力の上で大き な力をもつ。それは過去の吸引力の時間のお くれであり,また累積であるともいえる。従 って定量的分析においては,上の4つの要因

の時間のおくれとして処理しうる。要するに 消費者は,その時々の品質や価格にもとつい て判断することが困難であるために,過去の 経験にもとづき,1つの固定的観念をもち,

一定の方針をたてて行動する。その固定観念 や方針がイメージである。

 このような要因のうちどの要因が重要であ るかの定性的な調査の方法としては,次ぎの いくつかの方法がある。

 第1之は市場調査によって,消費者がどの ような見地から銘柄の選択を行なうかを調べ ることである。第3・1表はカメラについての 実例であり,これによると,カメラの場合に は製品の品質・機能(実物をみての感じ),会 社に対する態度(信用のおける会社のものか どうか),販売経路(店の人の意見)などが 重要であることがわかる。もっともこの質問 の設計は,情報の経路にのみ重点があり,真 の選択要因を把えることが難かしい。例えば

「他人のすいせん」というのは購入の直接的 動機となるであろうが,その基礎にはそのカ メラの品質・機能についてのよさなどがあ る。このような要因があらわれてこない。

第3・1表 カメラ購入時に重視した点     (326人の答の割合)

1回答・割合

実物を見ての感じ

信用のおける会社のものかどうか 店の入の意見

他人のすいせん 広  告 カタログ

専門誌

雑誌の解説

49.7%

42.0 38.7 28.2 23.9 20.2 11.0 5.8

(注) 毎日新聞杜「カメラ・毎目市場研究シリ【一   ズNo.3」(昭和39年), P.46.

 この調査の結果は製品によつて異ってい

る。そこで自社のカメラだけでなく,他社の

カメラについても調査する必要がある。

(5)

 市場調査によって占有率の定性的要因を分 析する場合には1つの限界がある。それは消 費者の目にうつることだけしかあげられない ことである。例えば価格に差があるとそれが 非常に重要になるはずであるが,各社の価格

に差のないときには質問の答としてあまり出 てこない。また広告宣伝によって態度や意見 が形成された揚合には,その選択の要因が広 告宣伝にあるにかかわらず,その広告の内容 がそのまま選択の要因となってくる。さらに また,市場調査は後向きである。新らしい製 品を開発すれば非常に市場占有率が増大する 可能性がある場合にも,その新らしい製品の 魅力については,それが実在しないためにわ かちない。つまり,これから買おうとする人 の,新製品についての選択の理由はあげられ ない。従って過去における占有率の規定要因 を知ることはできても,将来における占有率 の規定要因を知ることはできない。

 第2の方法は過去における変化の要因を探 究することである。第3・2表は小型4輪自動 車(乗用車と小型トラックと相半ばする)の 占有率の推移を示す。占有率の減少する企業 と,維持する企業と,増大する企業とある。

第3・2表 小型4輪車の市場占有率の推移

その他 東洋工業

ダイハツ 日野

プリソス いすず 日産 トヨタ

藷髭賀髭第毯毯鴛

4933294  4

50 35  2  9  3        1 46 34  2 10  3  1  3  1 41 34  3 10  3  1  7  1 39 34  5 10  3  1  6  1 38 34  7  9  5  2  6  2 37 35  7  7  4  3  7  0

3831763468

 トヨタが31年ごろ50%近V・占有率をしめた のはトヨエース(29年)とトヨペット・クラ ウン(30年)と2つのヒット製品を発売した からである。日産が確実に占有率を維持して いるのは,次ぎ次ぎと新製品を次ぎのように 開発してきたからである。

 ダットサン110型…30年, オースチン国産 化…31年,ダットサン・キャブライト…33 年,ダットサン・ブルーバード…34年,ニッ サン・セドリック35年,ブルーバード新型…

38年,しかもこれらはオースチンを除きすべ て月産5,000台以上のヒット製品であった。

しかしその割合に占有率の増大しなかったの は,常に設備能力の制約があったからであ る。トヨタと日産がこのように高い占有率を しめているのは,製品の品質・機能のすぐれ ていること,それが大量生産による低いコス トに支えられていること,販売組織の強いこ となどによる。しかしそれにもかかわらず,

ニュー一・エントリーの多いのは,自動車は,

そのライフ・サイクルにおいて成長期にあ り,需要が急増しているためであると考えら れる。

30 R1

ソ333435363738鎗40

100 100 100 100 100 100 100 100 100

《注) 自動車工業会調べ

9

 %  100

 90  80 占 70

有60  50  40  30  20  10

第3・3図 ビールの占有率の推移          宝  サントリー

  29 3031 32 33 34 35 36 37 38 39 40

    1Ll2月 年次

    一一一6月

(注)日興証券「事業要覧」(39年)による

 第3・3図はビールの市場占有率の変化を示

す.季節ごとに変化があるのは,夏季の贈答

(6)

第3・4表石鹸・洗剤の占有率

花  ラ  第  旭  日  ミ  鐘   そ i1電擁雅・計鹸  脂  薬  化  脂  脂  学   他

全国生産︵千トソ︶

占 昭和34年有率     37年

34.5%  17.7   15.7   9.2   13.1   9.3    1.3     −    100% 434 S48

己;︐

薮広讃占副・・・・・・・・・・・… 4−一…誤売上高比193・・・・・・… 4 − 一 一

一一

(注) 日興証券「事業要覧」(昭和39年)による。広告量は昭和37年。

用として使用される量の如何による。キリン は贈答期に在庫が不足し,朝日は在庫を充分 にもつので,両者は反対の変化を示す。長期 的にみるとキリンがやや増加し,朝日に減少 の傾向がみられる。これはキリンの「ポロに がい味」のイメージが好まれているのに対し て,朝目の場合には甘い味のイメージがもた れていることに原因があると考えられる(実 際には味に差はないが,イメージに差があ る)。宝ビールやサントリービールが殆ど占 有率を増加しないのは,ビールについての既 成のイメージがあり,それと異るイメージを もたれたからであるとも考えられる。また販 売組織の強さにも差があり,新らしいビール はその点では非常な不利となる。

 第3には一時点における市場占有率の各社 の相異を分析することである。この場合には 時系列データによる分析よりも対象は少ない が,その要因についていっそう詳細に検討す ることができる。第3・4表は石鹸・洗剤の例 であり,昭和34年を参考として掲げられてあ る。花王とライオン油脂との2社の占有率の 高いのは,この2社の製品は洗濯機用の合成 洗剤に主力があり,その合成洗剤の成長率が 非常に高いためである。他の会社の製品は固 型石鹸や,粉末石鹸に重点があり,そののびは 小さい。ここに占有率の相異に大きな差のあ る原因があり,製品構成の相異,つまり製品

の品質・機能の相異に最も大きな原因がある といえる。第3・4表でみるように広告宣伝費 にも大きな差がみられ,その広告宣伝費の占 有率と売上高の市揚占有率とは相関関係がみ られる。しかしもし広告宣伝費が売上高の一 定割合として支出されるならば,広告宣伝費

り占有率は,市場占有率のむしろ結果であつ・

て原因ではないことになる。

 3・2 間接的な吸引力要因としての投入量  間接的な吸引力要因は前にあげた直接的な 吸引力要因の原因となるものであり,それに は次ぎのようなものがある。

  (直接的な吸引力要因)礪艶吸)(投入量〉

(1) 品質・機能

(2) 価格の下限

(3)販売促進

(4) 販売組織の    強さ

(5)イメージ

技術研究 市場調査な

製造原価 販売促進活 動

組織化の努

過去におけ る諸活動

技術研究費 市場調査費 など 製造原価 販売促進費

売掛金への・

投資及び販.

売促進費の 一部 過去の諸投 入

このように,市場占有率を高める吸引力要

(7)

因を形成するには,そのための投入を必要と し,それぞれにコストがかかる。端的に言え ば,市場占有率を高めること自体はそれほど 困難ではないが,できるだけ少ない投入でで きるだけ高い占有率をしめて,適正利益を確 保することが難かしいのである。ここにどの 項目に費用をいくら投入したら最も有利に市 場占有率を高めることができるかが問題とな る。また市場占有率のみを高めても,利益な き拡大となる揚合があり,そこに市場占有率 の限界を生ずる。

 直接的要因のなかにはあまり費用のかから ないものと,非常に費用のかかるものとあ る。例えばデザインをよくすることにはあま り費用がかからないかも知れない。このよう な要因は先ずできるだけ改善することが有利 である。しかし非常に費用がかかるがその効 果も大きいものがある。そこで各要素にどの ように配分したらよいかが問題となる。この 場合には投入→各吸引力要素への効果→占有 率への効果という関係を考えて配分すること が必要である。

 投入要素のなかでも原価は他の要素とやや 異っている。原価には製造原価と,管理販売 費とある。製造原価は少ないほどよい。そし て製造原価は価格を通じて占有率に影響しな がら,また一方生産規模の大きいほど製造原 価は低く,したがって市場占有率が逆に製造 原価に影響を与える。つまり市場占有率7製 造原価という相互依存関係がある。この場合 には,市場占有率を高めれば高めるほど有利 であるという関係が生ずる。一方において製 造原価以外の管理販売費には,技術研究費や 販売促進費などがあり,これは,少なければ 少ないほどよいというものではない。

 このような投入要素の諸特徴は,直接的要 因の特徴と相侯って,市場占有率の有利な大 きさを規定する。この理論については次ぎの 節で研究する。

11

4.市場吸引力の諸要素の特徴

 市場占有率と売上高及び利益

 吸引力の諸要素が,売上高及び利益にどの ように影響を及ぼすかを簡単なモデルによっ て示すと,第4・1表のようになる。これは価 格と販売促進費のみによって市場占有率がき まると仮定したモデルである。この表の各欄 の一番上の数字は販売の物量を示す。販売の 物量,つまり市場占有率は,価格の低いほど そして販売促進費の大きいほど大きくなる。

各欄の2行目の数字は売上金額を示す。これ は売上物量に価格を乗じたものである。売上 金額にはピークがあり,無限には増大しな い。価格が4万円付近がピークである。しか し販売促進費を増加すると次第に増加する。

各欄の3行目の数字は利益を示す。利益は利 益=売上金額一販売促進費一製造原価によっ て示される。製造原価はこの表ではすべて比 例費で一定であり,1単位について1万円で あるとする。利益にもピークがあり,価格が 4万円で,販売促進費が40万円のとき利益額 が75万円で最高である。それ以外の組合わせ はすべてこれよりも低い。また利益額55万円 以上を保って売上高を最高にする組合わせ は,価格が4万円で,販売促進費が80万円の

ときである。

 この表を図形であらわすと第4・2図のよう になる。等売上高線は山脈となって北に登っ てゆく(矢印は傾斜の方向を示す)。 等利益 線は実線で示す。それには最高のピーク(△

印)がある。一定の利益をえて,売上の最大 の点は,この点線と実線との接点の組合わせ にある。M線の利益の高さが目標利益である とすれば,目標利益を確保して,売上高を最 大にする組合わせはM点付近にあることにな

る(注4・1)。

 コストプラス法によって価格を設定した場

合には,一定の利益を製造原価+管理販売費

(8)

第4・1表 価格と販売促進費とに応じた売上数量,売上金額及び利益

費 ︵万円︶

140

120

100

80

60

40

20

0

 92

 0

−232

 90

 0

−210

 88

 0

−188

 85

 0

−165

 80

 0 −140

 70

 0

−110  60

 0

−80 50

 0

−50

 90  90

−140

 88  88

−140

 85  85

−100 80 80

−80 70 70

−60 60 60

−40 50 50

−20 4∠− 000

78 156

−62 75 150

−45 70 140

−30 65 130

−15 60 120  0 50 100 10

000 482 000 3ρ000

70 210  0 65 195 10 60 180 20 50 150 20 45 135 30 40 120 40 35 105 50 25 V5 T0

50 200 10 49 196 27 48 192 44 45 180 55 40 160 60 35 140 75 30 120 70

FOOFD −ρり﹂4

40 200 20 39 195 36 37 185 48 35 175 50 30 150 60 28 140 72 25 125 80

FO︻00 9一2

37(売上数量)

222(売上金額)

45(利  益)

35 210 55 30 180 50 25 150 45 20 120 40

POOFDlQゾ3 000 1ρ0り0 000

0 1 2 3 4 ・1・

価 格  (万円)

に加えて価格を設定することになる。プラス するべき利益が55万円であるとすれば,M点 を通る等高線上の組合わせのみが問題とな る。この場合に売上高の最大の点はやはりM 点ということになる。

 この図では,相手の戦略は一定としてある が,もし相手が広告宣伝費を増加したり,ま たは価格を引下げると,自社の占有率は低下 し,この山の高さは全体として沈下する。し かしそれによって限界生産者が脱落すると占 有率が増加し,山はまた浮き上がることにな

る。このような問題については,また後に研 究する。

 第4・1表から明らかなことは,市場占有率 の最大と,売上高の最大とは異っていること である。販売物量の増加は,価格が変わる揚 合には売上高の増加を必らずしも意味しな い。(価格に対する自社需要の弾力性が1より も小さい場合には価格を下げるとかえって売 上高が減少する)また第4・2図から明らかな ことは,売上高の最大と,利益の最大とは異 ることである。ここに最も有利な占有率が問

題となる。(注4・2)

(9)

第4・2図 価格および販売促進費に応じた等売     上高線および等利益線

販売.促進費

(注) 矢印は低い方向 価 格

  等

ピ冗  上

 4・1 価格と製造原価

 第4・1表では,価格や販売促進費の市場占 有率に対する効果は逓減的であると前提され ている。しかし実際的には,常に逓減的であ るとは限らず,直線的のものもあるし,また 逓増的のものもある。ここに占有率が集中し たり,分散したりする原因を生ずる。以下に は個々の要因について,これを分析すること

にする。

 価格の市場占有率に対する効果は一般的に は逓増的である。その効果を図によって示す

と,第4・3図のようになる。相手の価格をP、

とする。(注4・3)

 競争相手が多数ある場合には,市揚の平均

P西  イ

第4・3図 自社需要曲線

販売物量

価格がP、であるとする。ddノは市場価格が P、に固定されたときの自社需要であるとす る。DD!は左軸の平均価格に対する全国需 要であるとする。他社の価格がP,に固定し たときの市場占有率はdd の縦軸に対する距 離とAP、との比率によって測定される。自 社の価格がP、よりも高いと急速に市揚占有 率を失う。反対にP、よりも低いと急速に市 場占有率を増大する。中央の立った区間は,

製品の差別化による無反応領域である。ここ で,このように価格を下げうるか否かは,こ の企業の原価がどのようなものであるかによ る。他の企業に比してすでに原価が低いと か,又は,占有率の増大によって生産規模が 増大して原価が下がるとかの要件を備えるこ とが可能か否かによる。ここに原価が問題に

なる。

 一方において,このように占有率を増大し うるのは,相手が追随しない場合に限る。こ のようなことは実際にはあまり起こらない。

もし相手が追随し,市場には均一な価格しか 成立しない場合にはどうなるか。この場合に は各企業の価格には差異がないわけであるか ら,価格が市場占有率を規定することは全く なくなってしまう。このとき自社需要曲線は dd!!のようになる。値上げには追随しないか

ら上半分には変わりはない。

 ここで相手が追随しうるか否かは結局相手 の原価がどうであるかによる。それは自社が 下げうるか否かの規定要因でもある。もし自 社は原価の点から下げえて,相手が下げえな いか,又は原価の高い限界生産者が追随して 脱落すれば, 占有率は増大する。このときに は,再び自社需要は諮のようになる。ここ で原価が問題となる。

 そこでわれわれは,原価に目をむけよう。

原価(長期平均費用)を企業のある特定の製

品の販売量及び全国需要量と相関させてみる

と,第4・4図となる。(注4・4)第4・4図では全

国需要との対比もみられる。この長期平均費

13

(10)

原価・価格

第4・4図 企業の規模と平均費用

Q,  Q2Q・   Q,   需全 特定の製品の企業の販売量   要国

用には,製造原価のみならず,管理・販売費 をも含む。ここで2つの原価の型があり,A 型は,大規模生産の利益が大きく,費用が逓 減し,全国需要との大きな割合を2,3の企業 が寡占的にわけ合うことに適している。原価 が最低に達する生産量のQ、以下の生産者は 限界生産者であり,値下げに追随できない。

ここでは結局,如何にして占有率を増大して Q、以上の販売量に早く達するかが問題とな り,いったんQ、以上になると,その低い原 価を利用して低い価格を設立し,さらに占有 率を高めることができる。しかしこの揚合に も,過大な規模になると,例えば不利な地点 への輸送費が嵩み,また販売促進費などが増 大して費用が増大に転ずると,Q、が占有率 の限界ということになる。もし需要が無限に 横ばいであれば,1社の独占も可能になる。

 一方において,B型は全国需要の割合に早 く最低コストに達し,限界生産者は少ない。

比較的に容易にQ、の生産量に達する。この ような業種においては,ニュー・エントリー が比較的容易であり,占有率は分散する。販 売量がQr以上の企業が多く,原価に差があ まりないので,価格引下げによる占有率の増 大はあまり効果はない。限界生産者も少ない

めで,それを倒して占有率を増大することも 困難である。しかしそれにもかかわらず,会 社数が多いために価格競争はしばしば行なわ

れる。

 かくして次ぎのことが一般的に言える。品 質や,マーケティングに差がなく,価格のみ

が市場占有率をきめる製品については,価格 競争を通じて,大量生産によって製造原価の 下がる産業ほど市場占有率は集中する。反対 に大量生産による最低コストの規模が需要に 比して小さい場合には,市場占有率は集中し ないで分散する。そして,

 最低原価に達する生産量

      =最低の占有率    全国需要量

平均費用が増加に転ずる生産量

全国需要量 =最高の 占有率 ということになる。

 大量生産にょる原価の低下の著しいために 市場占有率の集中する例として,化学工業,

製鉄業などがあげられる。その実例としては 次ぎのようなものがある。

石  油

(原油処理)

セメソト

鉄 鋼

(高炉銑)

(粗鋼)

日カグ  をル  ア 石ク1

・スプ 19.5

小野田

17.5 八

幡 27.2 20.6

エグ

 ノレ

ソ1

●プ 16.5

日セ  メ  ソ 本ト

光 13,9

シグ ェル ル1

・プ 13.4

セメソト イワキ

阪 16・ 4113・ 18・8

士 24.2 16.3

本 鋼 管 15.2 10.8

川 崎 製 鉄 11.6

8. 7

善 9.8

父 7.2

住友金属爲

5 社 計  %

73.1

5社計

63.0 5 社 計 85.8 64.1

考 37年

37年

37年 37年

(注) 日興証券「事業要覧」(昭和39年)

 このような産業においては,市場占有率を できるだけ高めることが有利な方針となる。

また市揚占有率を高めると,それが有利な条 件になって,ますます市場占有率を高めるこ とができる。反対に市場占有率が最低コスト の規模よりも低い企業は,脱落する。

 一方において,最低コストに達する生産規 模の小さい企業においては,占有率は分散す

る。その例として食用油があげられる。

(11)

食用油 吉原目清豊年日華味の素

6.0 5.0 3.7 3.5  2.5

5社 計 20.7

37 N

(注) 目興証券「事業要覧」より計算

 4・2 品質・機能

 自動車や,機械のような品質・機能に大き な差のある製品においては,品質・機能のす ぐれていることが市場占有率をきめる上に大 きな影響を及ぼす。問題は,品質・機能を改 良するために支出がどのように増大するかで

ある。

 品質・機能を改良するための支出としては 次ぎのいくつかがある。

 (1)品質・機能の水準を上げるために製 造原価を増大する。

 (2) 品質・機能を低い原価で生産しうる よう,研究開発を行ない,技術研究費を投入 する。また,生産管理の研究によって改善す

る。

第4・5図 品質価格水準と売上物量

品質・価格水準

売上物量

 このうち第1のものは,品質・価格水準を どのように選ぶかの問題であり,高級品をつ くるか,または低級品をつくるかの問題であ る。所得階層別の世帯や人口の分布に応じて 高級品から低級品まで,第4・5図のようにほ ぼ,正規分布に近い形の売上分布をもつこと が多い。従って,品質が変り,それに応じて

15

コストが変り,従って価格も変ると,購…買層 が変って,売上高が変り,市場占有率も変 る。従ってどのような品質政策をとるかは市 揚占有率と重大な関係をもつ。自動車の場合 にも,400cc程度のミニカーに主力をおくか,

または700ccのパプリカ級に主力をおくか,

または1,200ccに主力をおくか,1,500cc−

2,000ccに主力をおくかによって,その会社 の市場占有率が異ってくる。ここで市場占有 率をきめるものは,結局,品質水準ごとの需 要量がいくらあるかである。

 しかしそのような品質水準の同じクラスの もののなかにも競争があり,市場占有率の争 いがある。ここにできるだけ低い価格で,よ い品質の製品の出来ることが問題になる。し かもこのような品質や機能を向上するために は,技術研究費を多く投入したり,技術導入 のために支出をしたり,また生産管理に費用 を投入し,品質管理の研究をしたいなど,費 用がかかる。そこでこのような費用の投入が 各社ともにほぼ同じような効果を生むと仮定 した場合に市場占有率はどうなるかが問題と なる。(以下では研究開発のための支出,技 術導入のための支出,生産管理のための支出 などをすべて技術研究費と称する)

 品質・機能の良さの相異は市場占有率にど のような効果をもたらすか。それは一般的に 第4「6図のAのような効果をもたらす。即ち,

自動車のように,品質差が重要であり,かつ その差が比較的明瞭である製品については,

品質・機能のよさは,市揚占有率の上に大き な差をもたらす。.品質・機能のQ。の高さ は,他社の平均の高さを示す。この図でみる ように,価格が同じでQ。よりも悪いと,市 場占有率は急速に下り,反対にQ。よりも良 いと急速に上昇する。

 一方において,品質・機能の改良のための技

術研究費の支出が品質・機能を改良する度合

いは収穫逓減であると考えられる。しかしそ

の逓減の度合いは弱く,むしろ支出に応じて

(12)

 0 %10 市場占有率

第4・6図 品質・機能とそのための支出と占有率       %       100

品質・機能

(A) 品質・機能と市場占有率

品質

採ム同

隻ヒヒ

研究費支出

(B) 研究費支出と品質機能の

  向上

市場占有率

  研究費支出  100     の占有率  %

(C) 研究費支出と市場占有率

ほぼある程度までは直線的に向上する。そこ で技術研究費と市場占有率とを直接結びつけ ると,技術研究費の占有率が高まると,市揚 占有率は高まり,両者の関係はほぼ直線的,

どちらかというと収穫逓増であると考えられ る。ここで技術研究費の占有率とは, 自社 技術研究費÷各社の技術研究費の合計=自社 の技術研究費の占有率  であるとする。

 この考え方からすると,技術研究費は費用 逓増ではなく,むしろ費用逓減である。

 したがって,できるだけ多く投入して,市 場占有率を高めることが有利になる。いった ん高まった市場占有率は,さらに一層市場占 有率を高めるための有利な武器となる。

 このような製品の例として,フィルム,時

計,カメラなどをあげることができる。

 しかも生産量の増大による費用の逓減が著 しく,量産の最低の規模が全国需要に比して 大きい場合には,市場占有率は集中する。即 ち企業の戦略としては市場占有率をできるだ け拡大することが有利になる。このような産 業の典型的なものとして,自動車,オートバ イなどをあげることができる。

 一方において,品質差は大きく占有率を左 右するが,注文生産であって,量産に適しな い産業の場合には,むしろ市場占有率は分散 する。このような産業が労働集約的である場 合には,あまり占有率を上げて生産規模を大 きくすると,むしろ費用逓増となって原価が 上昇し利益が低下する。さらにまた,注文生

写真フイルム

時 計

ピアノ・ナルガ ン(台数)

富士フイル

 74

精 工 舎 53。3

日本楽器

55.0

小 西 六 35

シチズソ

32.0

河合楽器

24.5

オリエソタ

ノレ

  1

オリエソト 7.3

天竜楽器

3.5

リ  コ  ・t一

7.4

3 社 計 100%

畠4 祉 計 100%

3 杜 計 83.O%

37年

38年

37年

(注) 日興証券「事業要覧」(昭和39年)

(13)

2輪車(台)

 車車  

動型通 車

 小普 c自

自  動  車

(アメリカ)

本田技研

61

ト  ヨ  タ

 37  22

GM

42. 8

鈴 11

日 FO4001

Ford

22.2

ヤ  マ  ハ

8

日 4Qソ

Chrysler

21.8

ブリヂスト

  5 プリソス   6

Studebaker

4.1

東京発動機 3

い す y

  7

 27 Nash

2.8

5祉計

88%

5社計

 89  72%

5社計

93.7%

37年

37年 37年

1951

(注) 自動車工業会;アメリカはBain:Industria10rganization(1959), Chap・4

産の場合には,各社は比較的に独占的な市場 をもち,品質・価格についての情報が充分に 伝わらない。このような業界の例として,建 設,印刷,工作機械などをあげることができ る。また中小企業で特殊な製品をつくってい る専門メーカーの大部分はこれに属するとい

える。

建  設

工作機械

印  刷

麟鷲酬・社計

2・・・・・・・…2・・ … 1・2%

東機日精大鉄池豊工 芝械立機隈工貝田業

8  7  5  4  4 大印凸印共印図印光印日真

日       本印 本刷版刷同刷書刷村刷写刷 4.94.61,10.40.30.2

・5社計 28%

6祉計

11. 5%

37年

37年

37年

える。

 販売促進の市場占有率に対する効果は,最 初逓増,次いで逓減であると考えられる。そ の形態は第4・7図の如くである。即ち少量の 販売促進(例えば新聞の1行広告)では殆ど 売上増大の効果はないが,その効果は販売促 進費を増大してゆくに従って(例えば新聞1 頁広告)増大する。しかしある程度をこえる と,それほどi効果は上がらず,他の要因,例 えば品質や価格によって制約されることにな る。(販売促進費→販売促進活動→市場占有率 という関係を短縮したのは,販売促進活動は 販売促進費に直線的に比例すると考えられる からである)そこで総平均費用は第4・8図の

ような形をとる。

 先ず売上増大によって単位当りの販売促進

k・

 このような業種にあっては,価格競争が行 われ難いために,各社とも比較的高い利益を

うることができる。

 4・3 販売促進

 広告宣伝や,セールスマンによる勧誘など が重要である業種にあっては,市場占有率は どのようになるか。ここに販売促進費とは広 告宣伝,セールスマンによる勧誘のほか,販 売経路に対する援助,リベート,支払条件の 改善のための費用(月賦販売の利子や集金費 用な ど)などをすべて含むものとして広く考

17

oo 1

市場占有率

第4・7図 販売促進費の効果

販売促進費占有率

(14)

平均費用

第4・8図 販売促進費と平均費用

売上高

販売促進費

←製造原価

費も製造原価も減少し,総平均原価も低下し 横ばいとなる。これは,いわゆるマス・マー ケティングの利点である。大量に販売される 薬の新製品の場合に,消費者が時折広告を認 識し,その名前を覚えるには月に5,000万円 乃至1億円の広告宣伝費を投入することが必 要であるから,年間6億円乃至12億円程度が 大量に販売される製品の最も効率の高い販売 促進費の規模であるといえる。これは総売上 高でみると少くとも年間20億円乃至30億円以 上となることが必要である。いったん知名度 が高まれば,翌年以後はその「効果の時間の 遅れ」を利用できるから,それ程使わなくと もよv・。従って継続的に20億円乃至30億円売 れば,最低コストの規模に到達したことにな る。このようなマス・マーケティングの利点 は,薬品,石けん,化粧品,菓子などのムー

ド的製品について特に大きい。

 マス・セールスの利点は然しながらその限 界がある。広告宣伝の効果は既にのべたよう にある量をこえるとそれ程効果が上らず,収 穫逓減,従って平均費用が増大する。

 たとえ製造原価は減少しても,販売促進費 は次第に増加してくるために,市揚占有率を 無理に増大して売上を増大しようとすると,

利益なき拡大となる。このような製品につい ては,市揚占有率を拡大するよりも,むしろ

「適正」な市場占有率に抑えることが利益を

増大するためには有利である。一定の利益を えて最大の売上をもたらす方針の場合にも,

利益の点から限界を生ずる。このような業種 に属するものとしては菓子,医薬品,商業な どがあげられる。(注4・5)

菓 子

医薬品

明製森至鰐

治菓永豪崎コ

8.3  8.34.6  3.8  一

中外

塩野義 田辺

三共 武田

16.1 6.6 5.0 5.0 4.4

4社計

25.0

5社計

37.1 37年

37年

 製品のライフ・サイクル上の位置が次第に 成熟期から停滞期に近づくに従って,各社の 製品の品質・機能の差がなくなり,販売促進 が市場占有率を規定する上に重要になってく る。テレビや,電気冷蔵庫はこのような製品 である。この場合には市場占有率は互いに接 近してくる。何故ならば,販売促進費の効果 は収穫逓減的であるからである。このような 場合には,市場占有率の低い製品については 市場占有率を高め,市場占有率の高い製品に ついてはその維持が困難であるから,むしろ それを下げることが有利である。なお,ライ フ・サイクルと市場占有率の問題については,

後に検討される。       

 しかし逆に,もし広告宣伝によって有利な イメージの形成に成功し,製品の差別化が行 われたときには,販売促進費は収穫逓減とな らず,占有率は数社に集中する。占有率の高 い会社の広告宣伝費は低い会社の売上1円当 り宣伝費よりもむしろ低い。このイメージの 問題については後に検討する。

 4・4 販 売 組 織

 販売組織の強さは,市場占有率を維持し,

高める上に非常に重要である。

 販売組織の強さは次ぎの3つの点において

(15)

重要である。第1は販売組織はそれが弱いと非 常に大きな欠陥となることである。販売店に 自社の製品が置かれていなかったり,またセ

・一

泣Xマンが購買者や販売経路に対して働き かけない場合には,他の吸引力要因が備わっ ていても少しも売れず,占有率も高まらない。

書店にない書籍,販売店にない冷蔵庫は殆ど 売れない。第2に,販売組織の強さについて は会社の間に大きな差のあることである。こ れは販売経路の重要性についてあまり認識さ れていなかったために,各社の間にこの施策 について大きな差があるからである。一般的 に言えば,占有率の大きさ,ブランドの強い 製品は販売経路が強いから,占有率をむしろ 集中させる傾向はある。しかし占有率の高い 企業でも組織の強化の努力を怠った会社は占 有率カミ低下する。第3には,販売組織の強化 には費用がかからないことである。費用が全 くかからないわけではないが,費用の増加す る面と減少する面とあって,巧みに行えばむ しろマーケティング・コストを節約すること ができる。例えば販売店を集約すると,取扱 いの費用が節約される。専属的な販売経路と すると,1店当り売上高を増大し,回転率を 高めてマージンを減少せしめることができ

る。

 したがって販売組織を強くするほど原価が 高まるといったことはなく,努力すればする

ほど販売組織は強くなる。

 販売組織の強さはすべての製品について重 要であるが,とくに最寄品よりも買廻品,買 廻品よりも特別品において重要であり,とく に自動車や家庭用電機器具などのアフター・

サrビスの必要な製品について重要である。

また古い製品よりも新製品において重要であ る。新製品の初期においてはどうしても売上 高が少なく,販売経路が積極的に売り込まな いからである。

4・5 イメージや消費者の態度

19

 これは,過去の品質・機能や,販売促進の 記憶が消費者の観念に固定して,それが市場 占有率の上に大きな効果をもつ揚合である。

品質・機能や,販売促進の時間のおくれとも いうことができる。食料品や化粧品などのム

・一一

h商品において顕著であり,いったん出来 た市揚占有率はなかなか変わらない。ビール の市揚占有率はこれに属し,すでに第3・3図 でみたところである。ビールは「ホロにがい もの」というイメージができている場合に,

サントリーが他の味を宣伝しても少しも市場 占有率をひろげることができない。また他の 例としてマヨネーズの例があげられる。キュ ーピーは戦前から市場占有率の90%以上をし めていたのであるが,最近水産会社が進出し,

宣伝を開始した。しかしキューピーの占有率 は少しも変わらず他社の広告宣伝によって売 上はどんどんのびた。日本のマヨネーズの味 は,戦前から何十年とかかって,キューピー によって形成されたからである。キューピー はまた同時に価格の値下げによって市場占有 率を防衛したが,これも大きな効果をあげた

と老えられる。(注4・6)

 このような製品は,他の会社にとって,市 場占有率の増大は非常にコストのかかること であり,有利ではない。少くとも,品質やイ メージなど,既存の生産者のそれと差異を区 別するのは賢明ではなく,むしろ類似を強調 すべきである。一般的にみて,このような製 品についてはよいイメージづくりに成功した 会社に市揚占有率が集中する傾向がある。化 粧品業界における資生堂(占有率約30%)も その例である。

 4・6 ライフ・サイクルと市場占有率  製品には寿命があり,導入期,成長期,成 熟期,停滞期,衰退期などの5つの時期があ

る。

 製品のライフ・サイクルど,利益,価格,

生産者数,売上高を図表にしてあらわすと第

(16)

第4・9図 ライフ・サイクルと利益・業者数・価格

導入期   成長期 成熟期

\\業者数

4h.N....h一

    鞠一利益

停滞期 衰退期

4・9図の通りである。(注4・7)

 利益は成長期から成熟期にかけて最も大き い。価格はライフ・サイクルの初期にやや大 きく下り,次いで水平,末期にはまた次第に 下ってゆく。成長期には価格が横ばいである のに量産によりコストが下るので利益は大き い。業者の数は利益の大きさに比例して増加 し,成熟期に最も大きい。停滞期に入ると競 争が激しくなり,価格競争も行われ,脱落す る会社があらわれて,業者数も減少する。従 って市場占有率も一般的には,集中一分散 一集中という形をとる。

 ライフ・サイクルの各期の競争の特徴をあ げると次ぎの通りである。

 導入期 1社または2社の先駆的な会社,

即ちモルモット会社の独占によって出発す る。製品の改良がつぎつぎに行われ,各社間 の製品差も大きい。研究開発費,製造原価な どが嵩み製造原価は高い。また市場開拓のた めの販売促進費もかかるので,利益があまり ない。とくに量産を前提としてた市場浸透価 格政策の場合には利益が上がらない。

 成長期 需要が急増するから,平均製造原 価も平均販売コストも下り,利益は大きい。

製品差は依然として大きく7それが主として 競争の武器となる。業者数が増加し,占有率 は次第に下る5

 成熟期 業者数は最も多く,占有率も最も 20

下る。技術も安定し,製品差がなくなるから,

販売促進費による競争が行われる。販売促進 費の効果は収穫逓減であるので,占有率を高 めようとすると非常に費用が嵩み,利益なき 拡大となるおそれがある。このために占有率 は分散する。さらに,各社の販売促進の効果 は互いに相殺しあうので,その費用が多く使 われる割合には効果がなく,このことも利益 を低下させる原因となる。

 停滞期 売上がのびないために,また製品 差が少ないために,ついに価格競争が行われ,

利益は急速に減少してゆく。脱落する会社,

合併する会社などのために会社数カミ減少し,

市場占有率は集中する。占有率の相対的に高 い原価の最も低い企業に占有率は集中する。

この期における占有率の規定要因は,価格で

あり,量産によるコストの低下である。この

時期には従って市場占有率については相対的

にコストの高い企業はむしろ市場占有率を低

めて,他の新製品に転出することが有利であ

る。また占有率が高く相対的にコストの低い

会社は,競争や合併によって市場占有率を高

めて,いっそう原価を下げることが必要にな

る。今やマーケティングによる競争はあまり

有効ではなく,価格競争であるから,市場占

有率を高めることが有利である。以上のよう

なライフ・サイクルと市場占有率の推移の実

例を示すと第4・10表の如ぐである。(注4・8)

(17)

第4・10表 ライフ・サイクルと市揚占有率の推移(37年)

初期のため高いもの  (1) 特許による         口 ナテビア イトニク

ロリ ソソソル

(2) 特許によらぬ

   合成樹脂加工

    ピ・アノ。ナルガソ 中期のため低い

  洋     紙   テ   レ   ビ*

末期のため高い   人  絹  糸

  ミ   シ    ソ

  2  輪  車

東洋レイヨソ 74%

東洋レイヨソ 51%

倉i敦レイヨソ 70%

旭 化 成 30%

日本レイヨソ26%

帝      人 49%

大   日  紡 30%

三菱ボソネル27タ6

積水化学 33%  住友ベークライト 15%

日本楽器55% 河合楽器25%

十松 条 16%  王 下 19%  東

%% 15 P8

子芝

帝    人 27%

リ ヅ カ ー 33%

本    田 61%

旭   化   成 27%

蛇   の   目 28%

鈴      木 11%

2祉占有率100%

2社占有率100%

2杜占有率100%

4社占有率100%

5社:占右 率  72%

3社占有率 83%

T

5社占有率 50%

5社占有率 71%

5社占有率100%

5社占有率 92%

5社占有率 88%

(注)主として日興証券「事業要覧」(昭和39年)による。

 * 昭和35年,5杜の占有率は相当集中しているが各社伯仲している。

5.競争の激しさと占有率及び利益

 競争の激しさは主として競争者の態度によ ってきまる。協調的態度が一般的であるほど 競争は少なく,反対に互いに占有率を増大し ようとして相手を打倒しようとする態度の強 いときには競争は激しくなる。競争者の数は 競争の激しさと必らずしも関係ない。競争者 の少ない寡占的状態においても激しく競争が 行われる。とくに,固定費が大きく比例費の 少ない設備産業においては激しく行われるこ とがある。しかし競争者の少ないときには,

話合いの行われ協調的態度は形成され易い。

(それが独占禁止法にふれるか否かはここで は,問題でない)これに反して競争者が多い とどうしても協調が少なく,競争は激しくな

る。

 競争の激しさは,価格の引下げ,品質向上 の競争などによって行われるほか,販売促進 の強化,販売組織の強化などによっても行わ れる。競争が激しいと占有率は激しく変動す

21

る。激しくないと占有率はあまり変動しな

v、o

 競争の激しさと占有率との一般的関係は次 ぎの如くである。事柄を簡単にするために,

販売促進費だけで考えるものとする。第5・1 表は競争相手と自社の販売促進費の相対的な 関係によって,如何に市場占有率がきまるか を示す。市場占有率は相手の出方によってき まる。自社の販売促進費が同じ5であって も,相手の販売促進の金額に応じて,占有率 は0.8から0.3まで変化する。また同じ占有 率0.5を維持するためには,相手の出方によ って,3の販売促進費から10までいろいろと 変化しなければならない。このように相手の 出方によって販売促進費など市場占有率の規 定要因の市揚占有率に与える効果の異ってい ることを認識することは非常に重要である。

 第5・1表を図表であらわすと,第5・2図の等

占有率線であらわすことができる。この等占

有率線は一種の等高線であり,この線上の販

売促進費では,占有率は変らない。占有率は

矢印の方向に低くなる。つまり,矢印の方向

(18)

第5・1表 販売促進費と市場占有率

自社占有率     \

競争相手販売促進費

3 5 10

促進費 自社販売 567 ααα \ 350   1 O. 4

0.5

0. 6

0.3 0.4

0. 5

有率の断面の高さはAよりBが低く,Bよゆ

もCが低v・。

 利益はどうなるか。簡単な数字であらわし てみると第5・4表のようになる。これは表5・1 第で全国需要が一定として計算したものであ る。これを図形であらわすと第5・5図のよう になる。

第5・4表 相手の出方と売上・売上利益・純利益 第5・2図 相手の出方と市場占有率の等しい線

 C  B  A 相手の販売促進費

(低)

等占有率線   〆

(高)

自社の販売促進費

自杜販売促進費 3

5

10

競争相手販売促進費

3 5 10

574

574 1 1

259臼

8Qゾ44 1 1

111 21 930 8Gゾ4 1 252 1 57・2 1 ﹁072 1 ワμ﹁00 1 8Qゾー 1 一 930 21売上高.

11売上利益

1純利益

8Q︾1 1 一 ワβFOO

1

5700 1 一 ﹃り73 1 一

→競争相手

→自  社

第5・3図 第5・2図の断面の高さ

市場占有率

自社の販売促進費

他社販売促進費

第5・5図 相手の出方と売上及び利益

自社販売促進費 に行くほど占有率線の平面に対する高さは低

くなる。そこでABCの3つの点で断面をつ くり,それの断面の高さを図にすると第5・3 図のようになる。相手がAからB,BからC

と販売促進費を増加してゆくに従って市場占 有率は下ってゆく。第5・3図でみるように占

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 これらの図表から明らかなことは,販売促 進費を共に増加すると,共に利益が減少し,

遂には損失に至る。つまり競争が激しすぎる

と共に損失を生ずる。しかし相手に対して自

社が販売促進費を少くしすぎると,占有率が

参照

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