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序章 問題の所在と研究領域

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序章 問題の所在と研究領域

1.問題の所在

本稿は、 「住民の生活満足度は政策によって向上させることが可能か」との問題意識から、

地方自治体が実施した意識調査結果を活用しながら、生活満足度と政策の因果関係を定量 的に把握する手法を検討するとともに、得られた定量的因果関係を活用することで、住民 の生活満足度向上のための新たな政策分析手法を検討することを目的としている。その研 究の背景は以下のとおりである。

政策分析は、Weimer and Vining(2010)の”Policy Analysis”の中で、”client-oriented advice relevant to public decisions and informed by social values.”と説明されているよ うに、効率的、効果的政策形成過程において重要な位置を示すものと考えられてきた。宮 川(1994)によれば、政策分析に対しては一部に、政策決定を正当化するための政治的道 具となっている(Horowitz 1970)といった批判があるものの、政策決定者が公共政策の 質を改善する助けとなりうる(Dye 1976)、ますます稀少になりつつある公共的資源に対 して競合する要求を評価し均衡させるために欠くことのできない方法を提供する(Moore 1980)など、その意義を指摘する論及も多い。例えば細野(2005)は、政府の審議会の場 で脆弱な根拠による議論の横行を「根も葉もない神話」、 「神学論争」と呼び、その払拭の ために統計データに基づいた政策分析の必要性を強く主張する。また、宮嶋(1994)は、

経済性、効率性に基づく意思決定を「経済的合理性」、社会的価値の調整に基づく意思決定 を「政治的合理性」と表現し、従前の公共政策の決定原理は主として「政治的合理性」に 依拠してきたものの、公共政策の範囲の拡大に伴い必然的に「経済的合理性」の導入、す なわち、定量的政策分析が要請されるようになってきたと指摘する

1

。特に地方自治体

2

で は、財政逼迫化による公共的資源の制約や地方分権の進展、住民ニーズの多様化等による 公共政策の範囲拡大に伴い、「科学的証拠に基づく政策立案」(evidence-based policy

making)の必要性は、近年一層の高まりを見せている

3

科学的証拠に基づいた政策分析に対する要請の高まりを背景に、多くの地方自治体では、

地域住民を対象に社会調査(以下「意識調査」

4

という)を実施することで、生活全般に対 する満足度(以下「生活満足度」という)や政策に対する満足度などの主観データを蓄積 させてきた

5

。その背景には、行政にとって社会全体の生活満足度の向上が最終の政策目標 であり、政策の実施が生活満足度に何らかの影響を与えているという暗黙の理解がある。

しかし、これらの主観データを活用し、生活満足度と政策の関係性を定量的に検証した研 究や、その関係性を政策分析に反映させる試みは極めて少なく、主観データが「科学的証 拠に基づく政策立案」の基礎データとして広く活用されているとは言い難い

6

生活満足度と政策の定量的関係性が明らかにされない中で、地方自治体では、意識調査

で得られた生活満足度の時系列変化や地域間格差

7

が政策的課題として掲げられてきた

8

(2)

しかし、仮に、生活満足度の変化に対して政策の影響が確認できない場合、生活満足度の 時系列変化や地域間格差は政策的に大きな課題とならない。さらにその場合、生活満足度 を把握することの意義や、住民の生活満足度の向上を行政の最終目的として政策展開する ことの妥当性自体が大きく損なわれてしまう懸念すらある。

そこで本稿では、冒頭でも既述したとおり、「住民の生活満足度は政策によって向上さ せることが可能か」との問題意識から、第一の目的として、生活満足度と政策の定量的因 果関係(以下「因果構造モデル」という)を把握する手法を検討する。本稿では特に、生 活満足度の分析が進んでいない地方自治体レベルを分析対象とし

9

、地方自治体が実施した 意識調査結果を用いることで、地方自治体で政策的課題となっている生活満足度の時系列 変化、地域間格差に対する政策の影響度の有無、その定量的規模に注目する

10

同時に、第二の目的として、上記で得られた生活満足度と政策の定量的因果関係、すな わち、因果構造モデルを活用することで、新たな政策分析手法を検討する。主観データを 活用した政策分析が進まない中で、多くの地方自治体が実施する意識調査の結果を活用し、

汎用性の高い政策分析の可能性を示すことで、統計データに基づいた政策分析の更なる普 及とともに、既に蓄積されている意識調査データの有効活用が期待できる。なお、ここで の政策分析手法の提案とは、本稿で明らかになった因果構造モデルの活用方法の提案であ り、政策立案過程での具体的な活用策や、生活満足度を高めるための具体的政策の提案ま でを意味するものではない。

以上が本稿の主たる目的である。これら 2 つの目的を達成するためには、これまで解消 されてこなかったいくつかの検討課題が残されていることから、これらの目的について議 論するのに先立ち、各章において、それらの課題について以下のとおり検討していく。

検討課題の一つ目は、地方自治体が実施する意識調査の実態と、これまで政策分析に活 用されてこなかった背景の把握である。本稿の分析対象は地方自治体が実施する意識調査 であることから、各地方自治体における意識調査の実施目的、調査設計を確認するととも に、意識調査がこれまで政策分析に活用されてこなかった背景を整理することで、分析対 象データとしての妥当性を検証する必要がある。これらは、主に第 1 章で検討される。

二つ目は、生活満足度研究の現状と課題の把握である。本稿は、生活満足度と政策の定 量的因果関係の解明を一つの目的としていることから、先行研究で既に解明されている生 活満足度の概念やその規定要因、生活満足度を分析にするにあたっての課題を整理する必 要がある。これらは、主に第 2 章で検討される。

三つ目は、生活満足度と個人属性の関係性の把握である。本稿は、既述したとおり生活

満足度の時系列変化、地域間格差と政策の関係性の解明を試みるが、それらが個人属性の

偏在によってもたらされているものであれば、生活満足度の時系列変化や地域間格差は政

策的に大きな課題とならない可能性がある。そこで、生活満足度に対する個人属性の影響

を確認したうえで、属性を調整した上での、生活満足度の時系列差、地域間格差の有無を

解明する必要がある。これは、主に第 3 章で検討される。

(3)

以上の課題認識を踏まえ、本稿では次の構成で議論を展開する。

第 1 章では、「地方自治体が実施する意識調査の現状と課題」とのテーマで、一つ目の 検討課題の解明、すなわち、地方自治体が実施する意識調査の現状と課題を整理し、意識 調査を政策分析に活用することの妥当性を検証する。

第 2 章では、「生活満足度に関する諸理論」とのテーマで、本稿で議論する生活満足度 の概念を定義するとともに、二つ目の検討課題の解明、すなわち、生活満足度の規定要因 分析に関する先行研究をレビューすることで、本稿の分析の意義や理論的背景を整理する。

第 3 章では、「生活満足度に対する個人属性の影響度分析」とのテーマで、三つ目の検 討課題、すなわち、生活満足度と性別、年齢などの属性との関係を明らかにするとともに、

それらの属性を調整したうえで生活満足度の時系列差、地域間格差は存在するか否かを検 証する。

第 4 章では、「生活満足度構造の同定とその応用」とのテーマで、本稿の分析目的であ る、生活満足度と政策項目に対する満足度(以下「政策項目満足度」という

11

)の定量的 因果関係を示した因果構造モデルの構築手法を検討するとともに、そのモデルを応用した 政策分析手法を検討する。

第 5 章では、「生活満足度に対する政策の影響度分析①-因果構造モデルの属性間比較

-」とのテーマで、生活満足度の時系列変化、地域間格差に対する政策の影響の有無を検 証するため、第 4 章で明らかになった手法を用いることで、岩手県が実施した意識調査を 対象に分析する。具体的には、第 4 章で示された因果構造モデルの構築手法と活用方法を 用いることで、生活満足度の属性差が因果構造モデルの差に起因したものであるか否かに ついて、実証的に検証する。

第 6 章では、「生活満足度に対する政策の影響度分析②-因果構造モデルと限界生活満 足度を用いた要因分析-」とのテーマで、第 5 章に引き続き、第 4 章で明らかになった因 果構造モデルの活用方法を用いることで、生活満足度の時系列変化、地域間格差に与える 政策の影響の有無、その規模について、岩手県の意識調査を対象に実証的に検証する。

そして終章では、「本稿のまとめと課題」とのテーマで、各章の結論と成果、政策的含 意、今後の研究課題を指摘する。

さらに、生活満足度の関連研究をレビューした第 2 章の補論として、「我が国における 主観的満足度指標の変遷-政府による「豊かさ」論と社会経済状況との関係を通じて-」

とのテーマで、政府による「豊かさ」論の変遷と我が国の社会、経済情勢との関係性につ いて整理する。本稿は主観的な生活満足度を分析対象としているが、我が国では古くから 豊かさ論に基づく客観的な満足度指標(社会指標)の開発が注目されてきたことから、生 活満足度の概念整理の参考としてその変遷をまとめる。

また、生活満足度の因果構造モデルの構築方法を検討した第 4 章の補論として、「地方

自治体が実施する意識調査における重要度情報の意義」とのテーマで、地方自治体が実施

する意識調査において重要度情報を把握することの意義について整理する。近年、満足度

(4)

と重要度、期待度の関係性が解明されつつあり、地方自治体で実施する意識調査の多くで も、満足度と同時に重要度、期待度が把握されている。そこで、満足度と重要度の関係性 を整理することで、本稿において重要度情報を含めずに満足度情報のみで分析を行うこと の妥当性を検証する。

以上の本稿の構成を図示すると、図 0-1 のとおりとなる。

なお、本稿では、行政の第一義の目標が住民の生活満足度の追及であるという見解を前 提としている。この見解には賛否双方の意見があり得るが、概ね広く理解が得られる前提 であると言えるであろう。例えば、日本国憲法では第 25 条で「国は、すべての生活部面 について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と 規定しており、また、第 5 次国民生活審議会報告(1974)では、冒頭で、「国民の福祉水 準の向上は経済社会政策の究極の目標である。」としていることからも、政策の最終目的が 生活満足度や幸福度の追求であるという考えは、大きな矛盾を伴わない。他方、個人の生 活満足度の総和が社会全体の便益と一致するとは限らないことも事実である。特に、自然 環境保全や資源枯渇等の外部性が強く作用する政策領域において、個人の私的な便益の総 和と社会的な便益が食い違うこと、また往々にして個人の満足は前者のみを反映すること を考えると、個人の生活満足度向上を一義とすることは妥当性を欠くとの批判もあり得る。

また、財政、労働力等の資源が制限されつつある現状において、世代間や地域間での生活

満足度のトレードオフが生じる可能性も否定できない。このように、社会全体の生活満足

度の追及に対する政治学的あるいは社会学的側面については、今後の研究課題となる。

(5)

図 0-1 本稿の構成

(出所)筆者作成

■終章:本稿のまとめと課題

 本稿のまとめと成果、政策的含意、今後の 課題を整理する

■序章:問題の所在

 研究の背景、目的と研究領域の設定

■第6章:生活満足度に対する政 策の影響度分析②-因果構造モ デルと限界生活満足度を用いた 要因分析-

 第5章の分析結果に基づき、生 活満足度の地域差、時系列差に 対する政策の影響度を定量的に 検証する

■第1章:地方自治体が実施す る意識調査の現状と課題  地方自治体が実施する意識調 査の意義と現状を明らかにすると ともに、政策分析に活用すること の妥当性を検証する

■第3章:生活満足度に対する 個人属性の影響度分析  生活満足度と個人属性の関係 性を明らかにするとともに、個人 属性を調整した上での、生活満 足度の地域差、時系列差を検証 する

■第5章:生活満足度に対する政 策の影響度分析① -因果構造モ デルの属性間比較-

 第3章、第4章の分析結果に基 づき、属性間における因果構造モ デルの差を比較することで、生活 満足度の属性差が因果構造モデ ルの差(住民選好の差)によるもの であるか否かを定量的に検証する

■第4章:生活満足度構造の同 定とその応用

 生活満足度と政策項目満足度 の因果構造モデルを構築するとと もに、因果構造モデルを用いた政 策分析手法を検討する

■第2章:生活満足度に関する諸 理論

 生活満足度の定義を明らかにす るとともに、生活満足度に関する 先行研究をレビューすることで、本 稿の分析の意義や理論的背景を 整理する

検討課題 の 解消

分析目的 の 達成

影響度

分析

(6)

2.研究領域の設定

本稿は、生活満足度と政策の定量的因果関係を解明する手法を示すとともに、その関係 性を活用した新たな政策分析手法の検討を目的としていることから、本稿の最終的な目標 は、本稿が検討した政策分析手法が現実の政策形成過程で活用されることにある。

そこで、本稿が分析対象とする生活満足度と政策の因果関係(研究領域)及びその因果 関係と政策形成過程(研究領域外)の関係をイメージ化したものが、図 0-2 である。政 策形成過程をモデル化した場合、宮嶋(1994)によれば、その段階は、①住民選好把握、

②政策目標の設定、③政策代替案の作成、④政策決定、⑤政策実施、⑥政策評価、の 6 段 階に分類することができる

12

。具体的には、図 0-2 の右側「政策形成過程」のとおりとな り、 「①住民選好把握」で得られた住民のニーズをもとに「②政策目標の設定」で政策目標 を設定し、 「③政策代替案の作成」で目標達成のための政策代替案を作成するというモデル となる。そして、①から③までは何度も行き来をすることで複数の政策代替案が作成され、

さらに、「④政策決定」で実行可能性、効率性などを勘案しながら政策を選択し、「⑤政策 実施」の政策実施を経て、 「⑥政策評価」で政策の成果を把握し次の政策立案につなげるた めの評価を実施することとなる。よって、本稿の政策分析は、図 0-2 において左側(住 民意識)から右側(政策形成過程)に矢印が出ているように、 「住民選好情報の政策形成過 程への反映」として、主に①住民選好把握、②政策目標の設定、⑥政策評価の各段階での 活用が期待される。

本稿が分析対象とする生活満足度と政策の因果関係のイメージは、図 0-2 の左側「因 果構造モデル」のとおりとなり、それは住民の主観的意識に該当する。そこでは、右側(政 策形成過程)から左側(住民意識)の矢印が出ているように、政策の実施によって住民の 周辺を取り巻く生活環境が変化し、 「政策実施に伴う環境変化」が住民の政策項目満足度や 因果構造モデルそのものを変化させる。政策の影響を受けた政策項目満足度は、他の政策 項目満足度と相互に影響を与えながら最終的に生活満足度を変化させる、というモデルを 想定している。政策と生活満足度の因果関係を示した左図を「因果構造モデル」と呼び、

因果構造モデルは、 「政策の実施に伴う環境変化」以外にも、時間経過、地域特性、個人属 性等の影響を受ける可能性がある。なお、図 0-2 の左図の「因果構造モデル」は、本稿 の分析前の仮説的なイメージ図であり、本稿の分析結果を踏まえた最終的な構図は、終章 に改めて示す。

以上のとおり、本稿では生活満足度と政策項目満足度の関係(因果構造モデル)に注目

していることから、政策の実施が政策項目満足度や因果構造モデルに与える影響(因果構

造モデル外の関係)については論及せず、政策項目満足度の変化は政策の効果であるとし

て議論を進める。

(7)

図 0-2 本稿の研究概要(仮説イメージ)

(出所)筆者作成  因果構造モデル

(生活満足度と政策の定量的因果関係) ⑥政策評価

住民意識(研究領域) 政策形成過程

(研究領域外)

①住民選好把握

②政策目標の設定

③政策代替案の作成

④政策決定

⑤政策実施

個人属性

【目的2】因果構造モデルを用いた政策分析手法の検討

生活満足度

住 民 選 好 情 報 の 政 策 形 成 過 程 へ の 反 映

政 策 実 施 に 伴 う 環 境 変 化

政策項目

満足度

A

政策項目 満足度C 政策項目

満足度B

施 策 項 目 満 足 度 7 施 策 項 目 満 足 度 6 施 策 項 目 満 足 度 5 施 策 項 目 満 足 度 4 施 策 項 目 満 足 度 3 施 策 項 目 満 足 度 2 施 策 項 目 満 足 度 1

時間経過 地域特性

【目的1】生活満足度と政策の定量的因果関係を解明する

     手法の検討

(8)

[注]

1

この見解は、公共政策の意思決定を政治的合理性から経済的合理性に完全に転換するべ きと主張しているわけではない。宮嶋(1994)は、政治的合理性に頼りがちであった決定 原理に、経済的合理性をある程度加味していく必要性を指摘している。

2

本稿では、都道府県、市町村などの地方公共団体を総称して「地方自治体」と表現する。

3

総務省(2009)は、特にも重要政策は統計を始めとして客観的論拠に基づき合理的に政 策立案される必要があると主張する。また、統計法(平成 19 年法律第 53 号)では、公的 統計(国の行政機関、地方公共団体又は独立行政法人等が作成する統計)は住民にとって 合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報であると位置付けている。

4

地方自治体では「ニーズ調査」、「満足度調査」、「アンケート調査」、「世論調査」

など様々な名称で調査を実施しているが、本稿では個別の調査名称以外は「意識調査」に 統一して表現する。

5

ほぼ全ての地方自治体で意識調査を実施していることが知られている。地方自治体にお ける意識調査の実施の意義、実施状況については、第 1 章を参照のこと。

6

この背景には、調査の実施主体である地方自治体自体において、意識調査を「形式上「意 見を聞いた」という都合のよい住民参加の道具として扱われている」(大谷 2002)とい う傾向があり、そもそも主観データを活用しようという意識が希薄であったという根源的 原因が考えられる。これは、通常の統計データと異なり、地方自治体での主観データの把 握(意識調査の実施)が住民参加の一手法として導入されたことが背景にある。また、地 方自治体が実施する意識調査は多くの技術的限界を持つため、学術的な分析対象として選 ばれてこなかったことなども理由の一つに挙げられる。詳しくは、第 1 章を参照のこと。

7

一般に、 3 時点以上の時点データを時系列データと表現するが、本稿では、2 時点データ

(2 カ年データ)についても便宜上時系列と表現する場合がある。なお、以下では、生活 満足度の時系列差、地域差を政策的課題として取り扱う場合、「時系列変化」、「地域間 格差」と表現し、分析課題として取り扱う場合、「時系列差」、「地域差」と表現する。

8

生活満足度を把握する地方自治体の多くは、報告書の中で、生活満足度の時系列変化と 地域間格差を掲載していることからも、地方自治体が生活満足度の時系列変化と地域間格 差に注目していることがわかる。なお、政策の展開を時系列、地域別に変化させることは 可能であるが、性別、年齢別などの個人属性別に変化させることは困難である(一定のコ ストを要する)ことから、地方自治体が政策課題として時系列変化、地域間格差に注目す ることは十分妥当性がある。

9

第 3 章でも後述するように、生活満足度の規定要因分析において、全国レベルを対象と した研究は進展しつつあるものの(例えば大竹(2004)、筒井他(2009)など)、地方自 治体レベルを対象とした研究は極めて少ない。なお、生活満足度と政策の関係性を定量的 に明らかにした研究は、全国レベルを対象とした研究を含めても皆無である。生活満足度 の規定要因に関する先行研究について、詳しくは第 2 章を参照のこと。

10

なお、一定期間中(例えばマニフェスト期間中の 4 年間など)の生活満足度に注目する

場合、政策が単年度で生産、消費されるならば、毎年の生活満足度の最大化を追求するこ

とで期間中の生活満足度の最大化を図ることができるが、長期間にわたり消費されるイン

(9)

フラを伴う政策の場合、期間中の生活満足度を計測するためには毎年の生活満足度に時間 割引率を反映させる必要も生じる。本稿では、各時点での生活満足度に注目しているため 時間割引率については考慮していないが、異時点での生活満足度の合計値に注目する場合

(例えば 4 年間の生活満足度の合計値を最大化する場合など)には、当然に考慮する必要 性がある。

11

ここでの政策項目満足度とは、政策に対する満足度(政策に対する評価)ではなく、政 策が目的とする社会状況に対する満足度である。例えば、雇用政策に対する満足度(政策 に対する評価)ではなく、雇用の現状に対する満足度(政策が目的とする状況に対する満 足度)のことを示す。詳しくは、生活満足度と政策項目満足度の関係性を分析した第 4 章 を参照のこと。

12

その他にも、宮川(1994)などは政策過程を、①政策問題の確認、②アジェンダ設定、

③政策立案(代替案作成)、④政策決定(政策選択)、⑤政策実施、⑥政策評価、に分類

しているが、その基本的概念は宮嶋(1994)と大きな差はない。

(10)

[参考文献]

大竹文雄(2004) 「失業と幸福度」、 『日本労働研究雑誌』、528:59-68。

大谷信介(2002) 『これでいいのか市民意識調査』 、ミネルヴァ書房。

総務省(2009) 『公的統計の整備に関する基本的な計画』 。

第 5 次国民生活審議会調査部会中間報告(1974) 『社会指標-よりよい暮らしの物差し』 。 筒井義郎、大竹文雄、池田新介(2009) 「なぜあなたは不幸なのか」、『大阪大学経済学』、

558(4) :20-57。

細野助博(2005) 『政策統計「公共政策」の分析ツール』、中央大学出版部。

宮川公男(1994) 『政策科学の基礎』、東洋経済新報社。

宮嶋勝(1994) 『公共政策の基礎』 、東京工業大学宮嶋研究所。

Dye, Thomas R.(1976). ”Policy Analysis”, University of Alabama Press.

Horowitz,L.(1970). ”Social Science Mandarins : Policy Making as a Political Formula”, Policy Science, 1:339-360.

Moore, M.(1980). ”Statesmanship in a World of Particular Substantive Choices”, In Robert Goldwin, ed., Bureaucrats , Policy Analysis ,Statesman: Who Leads!, American Enterprise Institute.

Weimer, D. L., and Vining, A. R.(2010). ”Policy Analysis 5th ed”, Longman.

(11)

第1章 地方自治体が実施する意識調査の現状と課題

1.はじめに

意識調査

1

は、人々の動向、意識を知る有用な手法として、また、理論や仮説の実証的検 証の手段として、研究機関、行政、マス・メディア、企業等様々な機関において頻繁に実 施され、その結果はしばしば世間の注目を集めてきた。特に、地方自治体における活用は 幅広く、内閣府が編集している『全国世論調査の現況』 (2008)によると、2006 年度に実 施された意識調査数 1,270 件のうち、都道府県、市の実施調査は 975 件と全体の 4 分の 3 以上を占めていることからも、地方自治体が意識調査を重視していることがわかる

2

。そし て、意識調査の普及の背景には、後述のように、相応の政策的目的が存在していると考え られる

3

本稿では、地方自治体が実施する意識調査結果を対象に分析を進めていくが、地方自治 体が実施する意識調査については、調査により全ての課題が解決されるとの見解から、調 査では何も課題解決に至らないという見解まで、それへの評価が多様である。このように 賛否が分かれる理由として、 調査実施の意義について必ずしも共通認識が得られておらず、

その限界や分析対象としての妥当性が明らかにされていないことがあげられよう。

そこで本章では、第 3 章以降で地方自治体が実施した意識調査を対象に分析していくに あたり、 序章で設定された検討課題の一つとして、 地方自治体が意識調査を実施する意義、

実施状況、そして意識調査が活用されてこなかった背景を明らかにする

4

本章の構成は以下のとおりである。まず第 2 節では、先行研究を、地方自治体が実施す る意識調査の実態に関する研究と、調査の意義に関する研究の 2 つに大別してサーベイし ていく。後述のとおり、調査の意義に関する先行研究では、理論的な側面からの分析や調 査の限界についての議論がなされておらず、また、調査の実態に関する先行研究では、調 査目的に着目した実態把握がなされていない。そこで第 3 節では、地方自治体において意 識調査を実施する意義を理論的側面から検討するとともに、 調査の限界を指摘する。 また、

地方自治体で意識調査が普及した変遷を把握することで、意識調査が導入された政策的目

的と理論的意義、限界との関係を整理し、意識調査のあり方を検討する。さらに第 4 節で

は、ウェブページを用いた調査により、都道府県で実施される意識調査の実態を把握する

ことで、各調査の特徴を把握する。そして第 5 節では、地方自治体が実施した意識調査が

これまで活用されてこなかった背景を整理するとともに、その解消可能性を検討すること

で、地方自治体が実施した意識調査を分析対象とすることの妥当性を説明する。最後に第

5 節では、これまでの議論を踏まえ、地方自治体が実施する意識調査の意義、限界、あり

方について結論を導く。

(12)

2.地方自治体が実施する意識調査に関する先行研究

地方自治体が実施する意識調査に関する研究は、あまり多くない。特に、その意義や限 界について理論的に論じた研究は、筆者が知る限り稀有である。ここでは、地方自治体が 実施する意識調査に関する先行研究をサーベイするに当たり、それらの実施状況を網羅的 にまとめた調査実態に関する研究と、調査意義に関する研究に分けて概観していく

5

2.1 調査実態に関する研究

全国の意識調査の実施状況を網羅的に把握する資料としては、内閣府大臣官房政府広報 室(旧総理府広報室)によって編集される『世論調査年鑑』や『全国世論調査の現況』が よく知られている

6

。これらの資料は、政府機関、都道府県、市、大学、マスコミ、企業等 を対象とした調査票調査をもとに編集されており、回答のあった調査を、①調査方法・テ ーマなどによって分類した集計表(要約)、②調査対象・実施方法などをまとめた概要(一 覧) 、③一部調査の質問文、単純集計結果、などに分類して掲載している。これらは、我が 国の意識調査の現況を把握する資料として非常に有力な情報源ではあるものの、利用に当 たっては制約も多い。例えば、発行が年度単位であるため掲載調査のデータが古い

7

、町村 が実施する調査が除外されている

8

、一部の調査目的しか掲載されないなど情報が少ない、

などである。また、意識調査を実施した機関の一部が、当該調査に回答していない可能性 も否定できないため、時系列比較の際には注意が必要である。

社団法人中央調査社調査部では、 『世論調査年鑑』、 『全国世論調査の現況』に掲載されて いる都道府県、市が実施する意識調査の実施状況、調査方法、回収率等の過去数カ年を時 系列で要約し、毎年報告している

9

。しかし、当然に『世論調査年鑑』 、 『全国世論調査の現 況』の制約を共有することとなる。

また、山田(2007)は、都道府県、政令指定都市の意識調査の実施状況を、ウェブペー ジに掲載された調査を対象として分析した。山田(2007)によると、2006 年実施分の調 査でウェブページに掲載されていた意識調査は、都道府県が 34 調査、政令指定都市が 23 調査であった

10

。そして、調査方法と回収率の関係を時系列で把握することで、近年回収 率が低下傾向にあること、特に調査方法が面接法や留置法から郵送法に変更されることで、

回収率が大幅に低下していることを明らかにした。しかし、その研究は調査目的について 把握しておらず、地方自治体個別の状況も明らかにしていないため、調査目的、調査設計 などの相互関係を把握できない。

2.2 調査意義に関する研究

大谷(2002)は、総務省(旧自治省)等がまとめた実態調査の結果を紹介しながら、意

識調査が多くの市町村で幅広く実施されており、その導入目的から、市町村における意識

調査は、行政ニーズの把握、特に総合計画を代表とした行政計画に住民の選好を反映させ

る手法としての意義を持つことを指摘した。さらに大谷(2002)は、大阪府内 44 市町村

(13)

が総合計画策定のために実施している意識調査の実態を、調査票調査、 電話聞き取り調査、

特定市町村のヒアリング等から丹念に分析した。その結果から、分析対象となった調査は、

調査方法論上多くの誤りを有していること、形式上「意見を聞いた」という都合のいい住 民参加の道具として扱われているため、結果が有効に活用されていないことなどを明らか にすることで、意識調査における住民選好把握としての意義が形骸化していることを指摘 した。

また、山田(2004)は、ウェブページに公表されている調査を対象に、町村等による意 識調査の実施状況を把握した。これは、既述した『世論調査年鑑』に町村が実施する意識 調査は収録されていないため、これまで町村が実施する意識調査の状況が考察されてこな かったこと、当時市町村合併の検討過程において多くの町村で意識調査が実施されている こと、などを背景にしている。調査は 2004 年 3 月に実施され、市町村が実施する意識調

査は 2001~2002 年以降急速に増加したことを明らかにし、調査のテーマなどから、この

増加は市町村合併に関連した住民選好把握を目的としていることを指摘した。さらに山田

(2004)は、調査テーマと調査対象者の選定方法(抽出調査か全数調査かの選定)の関係 を把握することで、調査テーマが合併関連の場合には全数調査の比率が高くなることや、

抽出調査は合併協議の早い段階で実施されるケースが多いのに対し、全数調査は合併の是 非を最終的に決定する段階に実施されることを示し、全数を対象とした意識調査と住民投 票の類似性を指摘した。

2.3 先行研究の限界

調査実態に関する研究として紹介した『世論調査年鑑』 、 『全国世論調査の現況』や山田

(2007)は、地方自治体が実施する意識調査の概要を把握する上で貴重な資料であるもの の、調査目的の把握がなされていないため、意識調査の意義を論じるための資料としては 十分ではない。

調査意義について論じた、大谷(2002) 、山田(2004)は、ともに、意識調査には住民 選好の把握という意義があることを認めながらも、理論的側面からの分析や調査の限界に 関する検討を行っていない。さらに、大谷(2002)は、議論の対象を市町村に限定してお り、調査実施による住民選好把握の実効性も否定的に捉えている。山田(2004)は、町村 が実施する調査のみを議論の対象としており、選好把握の目的を市町村合併に限定して議 論を進めている。

このように、地方自治体が実施する意識調査を対象とした研究は非常に少なく、その意

義、限界について理論的かつ網羅的に議論した研究は見当たらない。

(14)

3.意識調査の意義

3.1 意識調査の理論的意義

行政の政策決定は、行政サービスをいかに合理的、効率的に提供するかという観点から 実施されなければならない。行政サービスの効率的な提供にあたり、住民の選好把握が不 可欠であることは、 経済学における公共財供給の議論で説明することができる。ここでは、

公共財の効率的資源配分の観点から、最適な公共財供給量の達成過程における住民選好把 握の必要性について整理し、その手法としての意識調査の有効性と限界について検討する。

行政活動は複数の「事業」の集合として立案、実施されている。これらの事業は、それ ぞれ固有の便益と費用(予算)を持っており、その便益(成果)は住民にあまねく均等に 行き渡る、という意味で公共財ないし地方公共財としての性格を持つ

11

仮に、 これらの事業が市場的に供給されるとするならば、 この便益へのアクセスに対し、

住民(顧客)は一定の対価を支払わなければならない。しかし、このアクセスは当然任意 で行われ、それは住民の便益と価格の差額である消費者余剰が正である場合にのみ起きる。

対して、事業の提供者は利益、すなわち、消費者(顧客)数に価格を乗じたものと費用(予 算)との差額が正である場合、換言すれば生産者余剰が正である場合にのみ事業を提供す る。そして、両者間のパレート最適解

12

において、価格はサービス供給の限界費用に一致 することになる(図 1-1 参照。この結果、価格は均衡価格P

*

に、需給量は均衡需給量Q

*

に一致する) 。しかし、公共財の場合、あまねく便益が波及することから、 (混雑現象を無 視するならば)原理的に限界費用はゼロであり価格が形成され得ない、すなわち、価格を シグナルとして最適な供給量を達成することは出来ないということになる

13

このため、事業実施に関する意思決定は、行政により計画的に実施される必要がある。

具体的には、予算制約のもとで得られる総便益を最大化するような事業を採択しなければ ならない。個々の事業の費用と便益が既知である限り、その命題は、費用便益分析の条件、

すなわち、①費用便益比の高いものから採択する、②費用便益比が 1 を超えないものは採 択しない、により概ね達成できる。この状態は、公共財に関するサミュエルソンの効率性 条件

14

を満たし、パレート最適であることが知られている。このように、 (個々の事業費用 は行政により把握可能であることから、)公共財の最適な供給量の達成には、事業に対する 住民選好(便益)の把握が不可欠となる

15

しかしながら、現実には膨大な個々の事業について住民便益を貨幣単位で計測すること は、作業量的にも技術的にも極めて難しい。そこで、対象を個別事業ではなく各事業の属 するより大まかな施策分野とすることで、量的課題を軽減することが考えられる。また、

便益と費用負担の意思を序数的に計測したり、対象事業間の優先順位を把握することで便 益計算に代えるという試みにより、便益の基数的把握という技術的課題を軽減することが 考えられる。そして、これらの情報を可能な限り低廉に取得できる手法のひとつが意識調 査であると言える。

このように、地方自治体における意識調査の意義を、新たに便益計算の代替手段として

(15)

の選好把握と捉えた場合、以下のような限界のあることが直ちにわかる。

(a) 本来は個別の事業について便益を計測する必要があるが、量的課題の軽減からそ れよりも大まかな施策分野に関して便益を問うことにより、事業の結果、成果との 関連性が不明確となる。この点を是正するため、行政内部で独自にロジック・モデ ルを構成する、事後的に便益評価を行う

16

、などの追加的作業が必要となる。

(b) 本来必要とされる選好情報は貨幣単位による便益評価であるが、これを意識調査 で計測することは極めて難しい。そこで、費用負担の意思としての便益を序数的に 計測する(事業の優先順位を把握する)ことにより、簡便的な費用便益を計測する ことが考えられる。しかし、その優先順位自体は費用(予算)情報と独立であり、

住民は予算を意識した上で選好を表明するわけではない。したがって、この手法で はサミュエルソン効率性条件は満たされず(非採択の基準までは得られない)、ゆ えに、採択順序決定にあたっては行政による裁量を要することになる。

(c) 意識調査による優先順位付けは、擬似的な投票行動とみなすことができる。した がって、その成果にはボーエン=ブラックの中位投票者定理

17

が成立する。ゆえに、

結果的に得られた優先順位は中位投票者にとって都合の良いものであるものの、 こ こから外れた効用関数を持つ者にとっては不都合な結果となる

18

。このため、中位 投票者と異なる効用関数を持つ者の選好を、追加的に把握する必要がある。

図 1-1 市場(完全競争)による需要と供給の均衡

(出所)筆者作成

P:価格

Q:量 P*:均衡価格

Q*:均衡需給量

限界費用曲線

=市場供給曲線

限界需要曲線

=市場需要曲線 消費者

余剰

生産者 余剰

(16)

3.2 意識調査普及の背景

(1)住民参加手段としての意識調査

前節では、行政の効率的政策決定における意識調査の不可避性と限界について、公共経 済学的な側面から指摘した。この文脈での意識調査は、時代の変化や行政を取り巻く環境 とは独立した意義を持ち、 いわば行政の政策形成過程に本質的に求められる機能といえる。

しかし、冒頭でも既述したように、これまで実施された意識調査の変遷を鑑みると、行 政機関による意識調査の実施には政治過程上の意図が込められてきた。その一つとして、

住民参加要求に対応した意識調査が挙げられる。

我が国の住民参加の隆盛は、 1960 年代から高度経済成長に伴う公害や都市問題の発生を めぐり住民運動が萌芽し、行政に対する参加要求が高まったことが契機とされる。そのよ うな社会的潮流の中で、 1963 年頃からいわゆる革新地方自治体が群生し、その革新地方自 治体を中心に様々な住民参加が実施され、その一つとして住民を対象とした意識調査が実 施された

19

。また、望ましい国民生活を実現するための基本的な政策方針について検討し た第一次国民生活審議会では、 1966 年に公表した答申の中で、住民対話の視点から政策立 案過程において意識調査を含む広聴機能の重要性を指摘した。このように、当時の住民参 加要求に対する解決策として「広聴活動充実の必要性」が求められており、その一手法と して意識調査が実施されてきたと考えることができる。

(2)総合計画策定手段としての意識調査

地方自治体における意識調査は、既述したとおり住民参加の広聴手段としての導入を端 緒としているものの、地方自治体に広く普及したのは、総合計画策定過程における導入が 契機であった。

市町村の総合計画は、1969 年の地方自治法改正によって、いわゆる計画条項を根拠に、

市町村での総合計画の策定が法制化されたことに一つの起源を持つ

20

。この規定によって 総合計画策定が義務付けられた市町村は、住民選好把握のために様々な形態で住民参加を 試みており、その一つとして意識調査が実施された。例えば、当法制化に先立ち、旧自治 省(現総務省)の市町村計画策定方法研究会では、計画策定過程における住民参加の手法 として「審議会の設置」 、 「公聴会の開催」 、 「アンケート調査の実施」の 3 つを例示してお り、同研究会からの提言に「アンケート調査の実施」が含まれていたことで、地方自治体 に意識調査の実施が普及したと言われる

21

ここで、総合計画策定と意識調査との関係を把握するため、地方自治体における意識調

査の実施状況を概観してみよう。総合計画策定過程における住民参加手法の推移を比較し

たものが表 1-1、現在の実施状況をまとめたものが表 1-2 である

22

。表 1-1、表 1-2

から、総合計画策定過程で意識調査を実施する地方自治体は、法制化間もない 1975 年か

らおよそ 10 年間で急増し、2002 年時点で都道府県の 7 割、市区の 8 割近くに達している

(17)

ことがわかる

さらに、総合計画だけでなく、各種計画策定過程における意識調査の実施状況をまとめ たものが表 1-3 である

23

。ここから、多くの自治体計画で意識調査が実施されており、計 画策定の企画立案手段として意識調査が一般的に普及していること、特に総合計画策定過 程での実施割合が高いことがわかる。

以上のことから、地方自治体における意識調査は、総合計画策定の法制化を契機に普及 し、企画立案手段として総合計画策定を中心に実施されてきたことがわかる。

地方自治体において、総合計画は制度的に行政運営の最も基本となる計画である。した がって、総合計画の策定過程は最適な資源配分を目指した政策形成過程と同義であり、こ こで求められる住民選好情報は、3.1 節で指摘したとおり、施策の優先順位や費用便益情 報と同一のものとなる。

表 1-1 総合計画策定過程における住民参加の実施状況(市町村)

(出所)人見剛(2000) 「住民参政・参加制度の歴史的展開」 、辻山幸宣『協働型の制度づく りと政策形成』 、ぎょうせい、をもとに筆者作成。

表 1-2 総合計画策定過程における意識調査の実施状況(都道府県、市区)

(出所)財団法人日本都市センター(2000)『自治体の計画行政に関するアンケート調査』

(注 1)当アンケートでは、都道府県の基本構想策定時における意識調査の実施状況につい

ては把握していない。

(注 2)n は回答のあった都道府県、市区数を示す。

表 1-3 計画策定過程における意識調査の実施状況(都道府県、市町村)

(出所)財団法人地域活性化センター(2003) 『「住民参加」に関するアンケート調査結果』

(注) n は回答のあった都道府県、市町村数を示す。

審議会 アンケート調査 市民集会 公聴会

1975年 70% 12% 6% 5%

1987年 85.6% 67.9% 23.0% 18.7%

都道府県(n=41)市区(n=523)

基本構想 - 79.3%

基本計画 70.7% 73.4%

実施計画 14.6% 9.2%

総合計画

(n=608)

環境基本計画

(n=138)

男女共同参画 計画

(n=208)

都市計画マス タープラン

(n=256)

中心市街地活 性化基本計画

(n=129)

自治基本条 例・住民参加 条例(n=16)

割合 85.9% 76.8% 75.5% 69.9% 65.1% 12.5%

(18)

(3)政策評価の手段としての意識調査

これまでの議論から、地方自治体における意識調査は住民選好把握としての意義を持ち、

住民参加としての広聴手段や計画策定過程の企画立案手段として広く実施されてきたこと が明らかになった。近年ではさらに、地方自治体における政策評価導入の潮流を受け、政 策評価過程(事後評価過程)に意識調査結果を使用するケースが増加している

24

政策評価の導入が進んだ背景には、次の 4 つの要因があると言われている。一つ目は深 刻な財政危機、二つ目は行政に対する信頼の欠如を発端とするアカウンタビリティの必要 性、三つ目は地方分権一括法の制定などによる地方分権の推進、四つ目は住民の価値観の 多様化や行政サービス向上の要望、である。このことから、政策評価では、 「恣意性の排除」 、

「アカウンタビリティ」、 「客観性の確保」などの観点から定量的な手法が求められてきた

25

。 そして、既存の統計や業務データでは把握できない、住民の生活や行動に関する事実や状 態、政策に対する主観的評価を把握するための手段として、意識調査の活用が注目されて いる

26

ここで、政策評価に対する意識調査の活用状況について把握する。政策評価において、

意識調査結果を指標化(又は指標化を検討)している地方自治体の数とその割合をまとめ たものが表 1-4 である。同表によると、都道府県では 3 割以上、市区では 4 割近い地方 自治体が政策評価過程に意識調査結果を導入している(導入を検討している)ことがわか る

27

。この間、市町村合併等により地方自治体数が大幅に減少しており、また、当調査は 回収率の増減が大きいことから単純な時系列比較には注意が必要であるが

28

、総合計画策 定過程に比べると、政策評価における意識調査の活用の進展は鈍いことが見て取れる。

なお、意識調査を政策評価に使用する場合、当然、評価指標(手法)に応じた調査設計

がなされなければならない。その一つとして、計画過程(plan)で把握した優先順位等の

選好情報を事業実施(do)後に把握した同一情報と比較することにより、両者の差を政策

効果として評価(check)することが考えられる。この文脈では、前節の(2)で指摘した

計画策定過程は事前評価と同じ機能を持つ。このことは同時に、政策評価機能としての意

識調査は、調査が事業実施後に行われる点を除けば、計画策定過程におけるそれと同一の

ものとなる可能性を示唆する。

(19)

表 1-4 意識調査結果を指標化している又は指標化を検討している地方自治体の割合

(出所)2003 年~2007 年調査結果は、株式会社三菱総合研究所(2007)、1999 年結果は 島田(1999)

(注)割合は、意識調査結果を指標化している又は指標化を検討している地方自治体数を、

政策評価を導入済み又は導入を検討している地方自治体数で除して算出している。

3.3 意識調査の活用可能性

これまでの議論から、地方自治体が実施する意識調査は「住民の選好把握」として普遍 的意義を持つものの、その導入の系譜から、理論的意義とは別に「住民参加としての広聴 手段」 、 「総合計画策定等の企画立案手段」 、「政策評価手段」として実施されてきたことが 分かった。

本稿の議論から、新たに明らかになった意識調査の意義と限界、そこから想定される活 用可能性を整理すると以下のとおりとなる。

(ⅰ) 地方自治体における意識調査は、効率的政策決定のための住民選好把握の手法と して普遍的な意義を持つ。

しかし、意識調査によって、膨大な個別事業の便益を基数的に把握することは作 業量的、技術的に極めて難しいため、この情報だけでサミュエルソン効率性条件(効 率的政策決定)を達成することはできない。現実的には、施策の優先度やニーズ度 の把握により、効率的政策決定に近似するための情報を得る必要がある。したがっ

1999年 2003 2004 2005 2006 2007

政策評価 10 12 13 11 8

(割合) (40.0%) (57.1%) (59.1%) (47.8%) (32.0%)

施策評価 17 13 14 12 12

(割合) (41.5%) (32.5%) (35.9%) (29.3%) (28.6%)

事務事業評価 9 6 6 5 4

(割合) (20.5%) (13.3%) (13.6%) (12.2%) (9.5%) 全体(割合) (21.4%)

1999年 2003 2004 2005 2006 2007

政策評価 52 51 70 52 54

(割合) (32.7%) (19.8%) (34.0%) (25.0%) (29.3%)

施策評価 91 97 129 133 137

(割合) (34.9%) (35.9%) (39.6%) (36.6%) (38.6%)

事務事業評価 74 74 82 70 75

(割合) (19.3%) (19.2%) (18.7%) (15.1%) (16.4%) 全体(割合) (19.4%)

都道府県

市区

(20)

て、効率的政策決定を達成するには、意識調査のほか行政において追加的な政策形 成過程を設定することが求められる。

このことから、意識調査結果を有効活用するためには、更なる分析を加えること で調査結果から新たな知見を得る必要がある。

(ⅱ) 意識調査による選好把握には中位投票者定理が成立する。したがって、結果的に 選択された施策は中位投票者にとってのみ最適であり、異なる効用関数を持つ者に とっては最適な選択ではない。このことから、中位投票者と異なる効用関数を持つ 者の選好を把握することで、多様な選好に応じた選択を実現する必要がある。具体 的には、集計した平均データだけでなく、属性別(例えば性別、年齢別、職業別)

や公共財提供単位別(例えば地域別)の選好把握などが求められる。

(ⅲ) 地方自治体における意識調査の実施には、理論的意義、限界があるものの、その 導入や普及の背景は政策的影響が強かった。しかし、様々な背景で実施され、 「住民 参加」 、「企画立案」、「政策評価」の手段として実施される意識調査は、当然に選好 把握として同一の意義を持つとともに、同一の限界を併せ持つことになる。したが って、このことは、調査目的や調査手段が変容しても、選好把握の意義が変容しな い限り、基本的調査設計は変容する必要がないことを意味する。

すなわち、多くの地方自治体で実施される意識調査は、多少の目的の違いがある にせよ、ほぼ同様の内容である可能性が高く、意識調査を活用した政策分析手法の 汎用性は高いと推測できる。

4.意識調査の実態

前節では、意識調査の意義と限界、そこから想定される意識調査のあり方について、主 に理論的視点から議論してきた。

ここでは、これまで議論してきた意識調査の意義、限界そして意識調査のあり方につい て、より具体的に議論していくため、地方自治体ではどのような目的で調査を実施し、目 的達成のためどの程度の規模で調査を実施しているのか、との視点から、主に調査目的、

調査規模を中心にその実態を調査していく

29

4.1 調査対象と把握方法 4.1.1 調査の対象

本節では、意識調査の地方自治体間比較を目的としていることから、比較対象の地方自 治体が同質であることが望ましい。よって、本調査では、地方自治体の中で最も意識調査 の実施率が高く、意識調査の実施目的とされた総合計画の策定、政策評価の導入の割合が

ほぼ 100%に近い「都道府県

30

」を対象とした

31

。都道府県はその広範な行政範囲により、

市区町村に比べ地域的特殊要因の影響が小さいと考えられることから、他の地方自治体に

(21)

比べ比較分析が容易であるという利点もある

32

また、一般に、地方自治体で実施する意識調査の調査方法には、郵送調査、訪問面接調 査、訪問留置調査、電話調査、インターネット調査などがあるが、本調査では、自治体住 民を対象とした無作為抽出調査を対象とした。したがって、電話保有者を調査対象者とし ている電話調査、回答者が地方自治体住民に制限できず、調査対象者がインターネット利 用者に限定されるインターネット調査、公募のモニター調査は対象外とした。

さらに、本稿は、個別事業に特化した意識調査ではなく地方自治体が実施する施策を網 羅的に調査対象とした意識調査を分析対象としていることから、調査名称に特定の政策課 題を含む調査(例えば「治安に関する意識調査」など)は対象外とした。

4.1.2 対象の把握方法

都道府県が実施する意識調査の概況については、 『世論調査年鑑』を参考に収集すること が可能であるが、既述したとおり調査目的が把握できないなど利用上大きな制約があるこ とから、本章では、各都道府県が開設するウェブページから個別に情報を収集した

33

。調 査時期は 2008 年 4~5 月、収集した情報は、 「名称」 、 「頻度」 、 「対象数」 、 「回収数」 、 「回 収率」 、 「方法」 、 「最新データ年度」 、 「担当部門」 、 「調査目的」である。

対象調査は、各都道府県ウェブページにアクセスし、ウェブページ内の検索エンジンで、

「意識調査」 、 「世論調査」 、 「満足度調査」、 「選好度調査」、「課題調査」、 「ニーズ調査」 、 「ア ンケート」をキーワードに検索し、該当した調査とした。

名称、対象数、回収数、回収率、方法、最新データ年度は、該当するウェブページに掲 載されている調査報告書や調査票など(以下「調査報告書等」という)から判断した。な お、年に複数回実施している場合は、最も新しい調査を対象とした。

担当部門は、調査報告書等(特に、調査の問い合わせ先)から判断した。したがって、

複数の課が共同で調査を実施(設計)している場合、代表課だけが担当部門として扱われ ている可能性がある。また、原則、課名で判断しているが、担当グループ・班の名称が課 名と異なる場合は、担当グループ・班の名称で判断した(例えば、 「企画課広聴グループ」

で実施している場合は、企画担当部門ではなく、広聴広報部門とした) 。具体的な判断基準 は表 1-5 のとおり。

頻度は、調査報告書等の記載から判断した。報告書に調査頻度が記載されていないもの であっても、ウェブページに掲載された過去の実績から、直近 2 カ年連続で実施している ものは「毎年」と判断し、前回調査年を把握できるものの 2 カ年連続実施でないものは「数 年に 1 度」と判断した。前回調査年を把握できないものは「不明」とした。

調査目的は、調査報告書等に掲載されている調査目的、調査概要などから判断した。具 体的な判断基準は表 1-6 のとおり。なお、本章では意識調査実施の意義を総合計画と関 連させて議論していることから、 「政策評価」のほか「計画進行管理」の項目を設定した。

実際の「計画進行管理」は、 「政策評価」と同義である場合が多いと思われる。

(22)

表 1-5 担当部門の判断基準

(出所)筆者作成

表 1-6 調査項目の判断基準

(出所)筆者作成

4.2 意識調査の実施状況

ウェブページに掲載された情報をもとに、各都道府県の意識調査の実施状況を一覧にし たものが表 1-7、それを項目別件数に要約したものが表 1-8 である。

実施団体数から、3.1 節で指摘したとおり、多くの都道府県で意識調査を実施している ことがわかる。反面、必ずしも全ての都道府県で、本章で規定する意識調査を実施してい るわけではないことも明らかになった

34

。このことから、住民選好把握の手法として、意 識調査とは別の方法を選択している地方自治体があることがわかる。

調査目的は、 「企画立案」が 35 都道府県と最も多く、 「計画管理」 「政策評価」はそれぞ れ 11 都道府県、7 都道府県となっている。このことから、3.2 節で指摘したとおり、意識 調査を政策評価に活用する動きが見られるものの、現段階では企画立案を目的とした実施 が主流であると言える。また、 「政策評価」を目的とした都道府県の多くは、他の目的とし て「企画立案」を併記している。これは、3.3 節で指摘したとおり、意識調査の目的が企

分類 判断基準

広聴広報部門 担当課名に「広聴」「広報」「県民の声」が含まれている場合

企画担当部門

担当課名に「政策推進」「企画」が含まれている場合。よって、企画担当課内の 広聴部門、評価部門、統計部門で実施している場合であっても、企画担当部門と して分類される場合がある。

評価担当部門 担当課名に「評価」が含まれている場合 統計担当部門 担当課名に「統計」が含まれている場合 その他 上記以外

分類 判断基準

企画立案 調査目的に「企画立 案」 「政 策推 進」 「県 政運 営の 参考 」が 含ま れて いる場合

総合計画策定

調 査 目 的 に 「 総 合 計 画 策 定 の た め 」 が 含 ま れ て い る 場 合 ( 「総 合計 画」という名称では なく ても 、総 合計 画に 相当 する と想 定さ れる 計画 は対象とした(○○プランなど))

政策評価 調査目的に「評価」「業務の見直し」が含まれている場合 計画進行管理

調査目的に、「~計 画に もと づき 」「 ~計 画の 進捗 状況 」等 が含 まれ ている場合、又は設 問の 大項 目に 、計 画に 関す る項 目が 含ま れて いる 場合

その他 上記以外

(23)

画立案から政策評価に移行した場合であっても調査設計は変容しない可能性を示唆する。

調査の実施頻度は、 「毎年実施」の都道府県が最も多い。 「年複数回」と合わせた 1 年に 1 回以上実施している都道府県は 7 割近い(29 都道府県)。実施頻度は調査目的別であま り差がなかった。仮に、総合計画策定を目的に意識調査を実施する場合、総合計画を毎年 策定するとは考えにくいことから、 意識調査の実施頻度は毎年である必要はない。 しかし、

企画立案、政策評価を目的に意識調査を実施する場合、それが不断に実施されることを鑑 みれば、住民選好の把握は一定頻度で(1 年に 1 回以上)実施される必要がある。したが って、数年に 1 回しか意識調査を実施しない都道府県があるとの結果は、地方自治体によ っては意識調査以外の住民選好把握の手段を有している可能性や、意識調査の位置づけが 異なる可能性を示唆する。

回収数は「1,000~1,999」の都道府県が最も多いものの、「1,000 未満」 「2,000 以上」

の都道府県も散見される。回収数は調査目的別であまり差がなかった。調査報告書が得ら れた都道府県の多くで属性別クロス集計を実施しており、3.3 節で指摘したとおり、多様 な属性による選好を把握していると判断される。一方、他都道府県と極端に回収数が異な る都道府県があることは、同じ目的であっても地方自治体によって結果の分析方法が異な る可能性を示唆する。

調査の実施主体は、 「広聴広報部門」が 27 都道府県と最も多く

35

、次いで、 「企画部門」

「評価部門」と意識調査を活用する部署で調査を実施している都道府県も多かった。その 一方で、意識調査を、調査活用部門と独立した部署であり、各種の意識調査の実施や分析 を所管する「統計部門」で担当している都道府県は、岩手県のみであった。

なお、本稿では、第 3 章以降で都道府県が実施した意識調査を対象に分析を進めていく が、分析に当たっては、対象となる都道府県の意識調査を選定する必要がある。分析対象 となる意識調査は、分析結果の汎用性を高めるため、最も一般的な手法である郵送法によ る調査で、分析の精度を高めるため、回収数が大きく回収率が高い調査であることが望ま しい。本章の結果から、最も回収数が大きい意識調査を実施しているのは岩手県であり、

同調査は、回収率も郵送法で実施している調査のうち、長野県(72.0%) 、高知県(63.6%)

に次いで 63.0%と高いことから、以下では、岩手県が実施した意識調査結果を分析対象と

する。

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