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新興国マレーシアの老親扶養と人口高齢化

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新興国マレーシアの老親扶養と人口高齢化

大学生の老親扶養意識調査結果を基にして

染 谷 俶 子

1.は じ め に

マレーシアは 1963 年にマラヤ連邦から独立した、建国 50 年あまりの若い国である。

2016 年現在の人口は 3172 万人で、日本とほぼ同じ面積の国土におよそ日本の 4 分の 1 の人口が居住している(1)。国土はマレー半島とボルネオ島のおよそ半分に大きく 2 分され ているため、同国籍であっても地理的な隔たりと経済格差から、市民間には区別意識が感 じられる。マレーシア政府(Department of Statistics)の人口統計によると、2015 年現在 において、マレー系 67%、中華系 25%、インド系 7%からなる多民族国家である。イス ラム教を国教とし、マレーシア語を公用語としているが英語も共通語として使われ、義務 教育では中国語と英語も第 2 国語として教えられている。

建国時は顕著な差がなかったが、現在ではマレー系がおよそ 3 分の 2 を占める。その理 由に、中華系の出生率低下に比べてマレー系の出生率の低下が緩やかなこと、また、シン ガポールの独立をはじめとし、華人の国外への移民が絶えないことなどがある。

1960 年における合計特殊出生率は 6.2 であったが、半世紀後の 2010 年には 2.2 に減少 している。平均寿命については、1970 年に男性は 63.1 年、女性は 66.0 年であったが、

2012 年には男性 72.6 年、女性 77.2 年に至り、2015 年の推計では、男性 72.5 年、女性 77.4 年になっている。2015 年における 65 歳以上の人口割合は 6%で、また高齢化社会入 りはしていないものの、1960 年の出生率が 6.2 に対し、2014 年には 1.9 に低下し、今後 の急速な人口高齢化が予測されている(2)

なお、人口高齢化の区分として用いられている、65 歳以上人口の 7%から 14%への変 化に関し、日本は 1970 年から 1996 年の 26 年間で果たし、西欧先進諸国と比較し顕著に 短期間であった。一方、マレーシアでは 2020 年から 2043 年に 14%になり、その期間は 23 年と推計されている。したがって、2020 年を直前に控え、その後急激に高齢化が進行 することになる。他の新興国も同様にして、日本より短期間に人口高齢化が生じると予測 されている(3)

マレー系、中華系、インド系の 3 民族間には、平均寿命のみならず、経済的、文化的な 差異も見られ、国全体の平均として語ることは難しい多民族国家である。公務員は圧倒的

(2)

にマレー人によって占められ、経済活動は華人を中心に営まれている。国家宗教としての イスラム教は、政治と行政を掌握し、国民生活にイスラム文化を浸透させている。国の法 律とは別に、イスラム法がイスラム教徒の間では適用される、という複雑な状況が存在す る。そのような環境で、華人はビジネスを中心に中華文化を維持し、仏教徒に限らずキリ スト教徒も多い。また、イスラム文化、中華系文化において、高齢者の子ども家族との同 居と老親扶養は子ども達の役割、という親族扶養意識が台頭している。

華人のみならず、ムスリム女性においても少子化が進み、また既婚女性の就業は一般化 している。そして家族介護意識が強いといえ、中所得層以上の家庭では、農村部、または フィリピン、インドネシアからの女性を住み込み家事ヘルパー(live-in maids)として雇う ことが一般化している。住み込みの家事ヘルパーは低賃金で雇われ、家事、育児、高齢者 介護を担い、既婚女性の就業維持に大きく貢献している。

このような状況で人口の高齢化が直前に迫る中、介護福祉サービスの必要性が次第に増 加している。本稿では、2015 年度〜2016 年度にかけて実施した、現地における資料収集、

聞き取り調査、そして大学生の老親扶養意識調査の結果をもとに、マレーシアの高齢者扶 養の実態を明らかにしていく。

Source: Tengku A. Hamid, power point, Indicator of Population Ageing ޛࡑ࡟࡯ࠪࠕߩੱญࡇ࡜ࡒ࠶࠼ޜ

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(3)

2.マレーシアの人口動態と社会経済的背景

マレーシアは世界的な錫とゴムの産地であるゆえに、英国の植民地となり、自国の経済 発展が阻まれた歴史的背景がある。その豊かな資源を目的に、第 2 次世界大戦中、日本軍 は 1942 年に英国領マラヤを占領し、1945 年の敗戦時までマレー半島を支配していた。そ の後独立運動が起こり 1957 年にマラヤ連邦が成立し、1963 年にはマレーシアとして独立 した。しかし、マレー人中心の国政に対する民族対立から、1965 年にシンガポールは華 人を中心とする都市国家として独立し、その後著しい経済発展を遂げた。第 2 次世界大戦 後マレーシアは長年の植民地支配から独立し、ASEAN の一国として、目覚ましい経済発 展を成し遂げている。また経済発展と並行して人口の高齢化も徐々に進展し、周辺アジア 諸国と同様に、今後、急速な人口の高齢化が予測されている。

1970 年当時における日本では、65 歳以上高齢者のおよそ 80%が子ども家族と同居を し、三世代家族を構成していた。第 2 次世界大戦後の民法改正により、長男の老親扶養義 務は無くなったものの、当時の国民の間には、依然として長男が親を扶養するという意識 が浸透していた。それゆえに当時の若い女性たちにとって、長男と結婚することは夫の両 親と同居し、とりわけ姑を最後まで看取ることであった。それに対し、次・三男との結婚 は新しい核家族を形成することになり、住む家は自分たちで取得せねばならず、車を買う 経済的ゆとりも難しかった。当時最も理想的な結婚を、世間では「家付き、カー付、バ バー抜き」と、揶揄していた(4)

その後、老親との同居は徐々に減少し、2014 年現在、高齢者世帯中で最も多いのは

「夫婦のみ」の世帯 30.7%で、老親との同居についても「3 世代同居」は高齢者世帯の 13.2%と、「親と未婚の子」世帯の 20.1%より少なくなっている。また 65 歳以上の「独 り暮らし」世帯は 25.3%で、今後、夫婦世帯のどちらかが欠けることから、独り暮らし 世帯はさらに増加することが予測される(5)。また近年では、子ども世代との同居は、息子 よりも娘家族が好まれるようになり、実際にその割合も増加している(6)

欧米先進諸国と同様に、アジアの一国である日本においても、少子高齢化にともない老 親扶養の社会化が進んできた。1961 年に発足した国民皆保険、国民皆年金制度の成熟は もとより、2000 年度からは介護保険制度がスタートした。40 歳以上の国民は毎月掛け金 を応能負担し、65 歳以上すべての住民が要介護度に応じた介護サービスを利用できるよ うになった。多くの課題を抱えながらも、介護保険制度は、今では無くてはならない介護 サービスの基盤になっている。

それに対しマレーシアの人口高齢化の現状は、日本の 1970 年当時に近い。また、徐々 に少子化が進み、現在の高齢者の多くは子どもたち家族と暮らしているものの、既婚女性

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はほとんど働いており、中間階層以上の家庭では住み込みの家事ヘルパーが、老親の介護 を担っている。また、とりわけ教育に熱心な華人の家庭には、子どもたちが海外に留学し て帰国しない、または職を求めて海外に移住している場合も多い。そのような状況で家族 による高齢者の介護の一翼を担っているのは、低賃金で雇われている東マレーシア(ボル ネオ島)、および近隣諸国からの住み込み家事ヘルパーである。

マレーシアの高齢者の識字率、最終学歴については、現在の高齢者が幼い頃、国の政情 が安定しておらず経済的に貧しかったこと、また多民族国家で多文化・多言語・多宗教であ ることから、識字率は低く自由に情報を得られない高齢者は少なくない。日本は江戸時代 から寺子屋が普及し、庶民においても読み書きがかなり普及していた。また明治政府も義 務教育徹底に力を入れてきたことから、日本では誰もが新聞を読め、文字が書けるという 認識がある。しかしマレーシアでは、1960 年代まで公立学校が普及していなかった。そ の 結 果、2000 年 の 国 勢 調 査 に よ る と、60 歳 以 上 人 口 の 48.6% が 未 就 学 で、男 性 は 32.8%、女 性 は ほ ぼ 2 倍 の 63.0% で あ る。し か し 年 齢 構 成 か ら み る と、60〜64 歳 は 37.4%(男性 23.2%、女性 51.6%)、それに対し 75 歳以上は 67.9%(男性 53.0%、女性 78.2%)である。60 歳以上においても、後期高齢者と 60 歳代とに著しい変化が見られ、

今後急激に高齢者の教育レベルと識字率が向上するといえる(7)

1960 年代以後の教育制度の急速な普及により、次世代の識字率には目覚ましい改善が 見られる。さらに現在の大学進学率は女性の方が高く、次世代高齢者間には顕著な男女の 教育格差は無くなることが予測できる。しかし現在においても、都市と農村による経済格 差、人種間で異なる言語を持つことは、とりわけ高齢者に情報が普及しにくい要因であ る。

3.マレーシアの家族の変容と老親扶養の現状

日本では現在においても性別役割分業意識が払拭されず、家事・育児そして介護は主に 女性の肩にかかっている。しかし同じアジアの国、とりわけ日本と同様の漢字文化圏であ る華人社会では、伝統的に女性も就業し、日本と比較して、介護は「長男の嫁」の仕事と いうより、むしろ「家族全体」で、という意識が強いようである。

現在のマレーシアには、高齢者の経済的自立をもたらす公的皆年金制度はないが、公務 員については非常に優遇された退職年金制度が存在する。在職中の拠出金は無く、すべて 公的資金で成り立ち、最終時の収入の 5 分の 3 を限度としている。公務員以外の被雇用者 に対しては、確定拠出積立基金(Employee Provident Fund: EPF)がある。EPF は雇用者 と被雇用者の拠出による、個人ごとの強制積立貯蓄制度で、現在では 60 歳を迎えると年 金型、一時金、またはその組み合わせ型として受け取ることができる。これはシンガポー

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ル政府が実施している強制貯蓄制度の CPF と同様の制度である。しかしながら一時金と して受け取り、普段持ちつけないまとまった資金を使い果たし、その後の生活費に困窮す る場合がかなりあるという。一時金を受けた人たちは平均 5 年以内に使い果たしている、

という指摘もある(8)。EPF には零細企業、自営業も任意加入することができる。しかし 2011 年現在において、実際に積立拠出しているのは 1,341 万人で、対象年齢層のおよそ 半数である。EPF を実施していない企業もあり、無年金、また生活を支えるに足る年金 を受給していない高齢者も多く、今後も子どもたちからの扶養が欠かせない高齢者が存在 し続けるであろう。

マレーシアの高齢者個人の収入源には、労働・年金による定額収入、資産の流用、家族 からの援助の 3 種類がある(9)。毎月の収入源として最も高い割合を占めるのは、息子たち からの援助で、男性が 29.37%、女性は 40.38%である。それに対し、娘たちからは男性 19.61%、女性 26.37%である。年金収入については、男性 20.12%、女性 6.88%と、年 金収入のある人の割合は著しく低く、この調査からも圧倒的に子どもたちからの支援に大 きく依存していることが分かる(10)

医療に関しては、元英国植民地であった歴史ゆえに、宗主国の制度をモデルとした国民 皆保険制度がある。英国同様に多々の課題があり、マレーシアにおいても富裕層は民間健 康保険に加入し、民間病院を利用している。このような問題を抱えてはいるものの、質の 高い医療を提供する公立病院もあり、国民の誰もが公立医療機関で初診料 1 リンギット (2017 年 5 月現在、1 リンギットは約 26 円)で、医療を受けることができる。

さらに、高温多湿の熱帯雨林気候のもとでは、粗末な家に住んでいるとしても、寒さに 凍えることは無い。たえず植物は育ち、基本的な食料は安価に入手でき、貧しくても飢え る心配はほとんどない、という自然環境が存在する。

以上、国民皆保険と老後経済を支えるための EPF は施行されているものの、現在の高 齢者の経済的自立度はまだかなり低い状況にある。したがって現在では、大多数の高齢者 は経済的自立が困難なため、子どもからの支援が必然的になっている。

また、子どもが十分に対応できない、要支援、要介護高齢者に対し、介護施設および高 齢者居住施設(nursing homes, retirement homes)は、既に存在している。大都市には有料 のホーム、または慈善団体の運営するナーシングホームが存在するものの、まだ十分な居 住環境を満たすものは少ない。筆者が訪問した 10 カ所以上の施設に関しては、クワラル ンプール市内のカトリック教会が運営する Little Sisters for the Poor のみが、入居者の居 住が個室化されていた。海外のカトリック教団の資金によって建設され、全室個室対応型 で、設備の整った落ち着いたホームであった。ここ以外の、過去数年間に筆者が訪問し た、クワラルンプール、ペナン、ジョホール・バル地域における 10 カ所以上の介護施設

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は、大きな部屋にベッドが列を作って並んでいるか、または 1 部屋に数個のベッドが詰め 込まれ、虚弱高齢者が寝かされたままになっている、という現状であった。また、高齢者 ホームで個室を備えているところは、外国人入居者を対象にしたもので、屋外プールを備 え、数人ごとにお世話をするメイドがいる、という高額入居料を求める民間企業であっ た。

人口高齢化がほぼ 7%に達しようとする状況で、国家宗教であるイスラム教の影響は顕 著である。イスラム社会では、結婚をして子どもを多く育てることが、自明の理とされ て、子どものいない夫婦、独身者は少ない。現状では、マレー系、中華系、インド系の、

それぞれの文化において、家族による高齢者介護が主流をなし、社会的介護ニーズはまだ 一般的ではない。しかしながら人口高齢化と少子化は着実に進行しており、高齢者扶養と 介護の社会化への対応が目前に迫っていることから、研究者の間では、介護の社会化への 対策が論じられている(11)

4.マレーシア大学生の高齢者扶養意識調査から見る世代間支援と扶養

近年においても、日本では老親扶養の役割は、経済的な扶養を男児、とりわけ長男に、

そして介護役割は娘および長男の配偶者に期待が集まる傾向がある。そこでマレーシアの 都市部における状況について、University Putra Malaysia(UPM:首都クワラルンプール 郊外の総合大学)の学部学生を対象に実施した、老親扶養意識に関するアンケート調査結 果から考察していきたい。調査は 2016 年 2 月に、協力を得られた授業の終了後、アン ケートの協力を求めて同意のあった学生に回答してもらった(12)

回収された調査票は 192 票で、内訳は女性 150 人、男性 40 人、無回答 2 人であった。

人 種 に つ い て は、マ レ ー 系 134 人 (69.8%)、中 華 系 45 人 (23.4%)、イ ン ド 系 4 人 (2.1%)、その他 7 人(3.6%)、無回答が 2 人である。宗教別では、イスラム教 139 人 (72.4%)、仏教 38 人(18.8%)、キリスト教 12 人(6.3%)、ヒンズー教 4 人(2.1%)、その 他が 1 人(0.5%)である。

学生の居住形態に関しては、核家族世帯が 123 人(64.1%)、3 世代世帯は 9 人(4.7%)、

独り暮らしが 3 人(1.6%)、学寮暮らしは 42 人(21.9%)、その他 5 人(2.6%)、無回答が 10 人(5.2%)であった。調査対象学生の 6 割以上が核家族世帯に属し、3 世代世帯は数 パーセントに過ぎない。この背景には、学生の親世代は兄弟姉妹が 6 から 7 人が一般的 で、孫世代の祖父母と同居は少ないことにある。したがって、学生世代から見ると、祖父 母との同居は 13 人中 1 人程度という結果になったと考える。

一方、学生自身は、兄弟姉妹が 2 人または 3 人以上が半数を超え、5 人以上も 16.1%あ る。一人っ子は 1 人に過ぎないが、兄弟姉妹が 1 人は 29.1%で、学生のおよそ 3 分の 1

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は兄弟姉妹が 2 人であった。

主な質問項目として、1) 支援が必要な祖父母に対し、親世代の誰が支援するか。2) 親 世代は子ども(調査対象の学生)に対し、どのような老後支援を期待しているか。3) 調査 対象学生たちは、将来の自分自身の老後に対し、どのように対応しようと考えるか、を取 り上げた。以上の 3 項目に焦点を当て、3 世代の老親扶養状況と老親扶養意識、マレー系 と中華系の人種別、性別によるクロス集計から分析を行った。

1) 学生の親世代は老親(学生の祖父母世代)の介護に、どのように対応しようとしてい るか。最も多い回答は、介護は「近くに住む子ども」(46.8%)、次は「可能な子ども」

(29.1%)、「配偶者」(10.1%)、「長男の妻」(6.3%)という順で、長男、または男子に回答 が傾いていない。したがって、学生の親世代が自分の老親を扶養する状況に、性別による 差異は見られず、距離的、経済的に可能な子どもが担う、という傾向が現れた。

また老親介護を人種別に見ると、マレー系で最も多いいのは「近くに住む子ども」

44.1%、次に「可能な子ども」8.8%であった。中華系については「可能な子ども」が 31.3%で最も多く、続いて「近くに住む子ども」の 18.7%であった。マレー系が 3 分の 2 を占めるという大きな偏りがあるものの、学生の親世代の老親介護意識に、性別による差 異はほとんど現れていなかった。

親世代の老親に対する経済的援助に関しては、「すべての子どもが平等に負担する」

(65.4%)、次に「息子・娘を問わず、経済的に支援できる子」(18.1%)であった。したがっ て、経済的援助に関し、長男、男子に対する傾きは見られず、男女平等に、または可能な 子どもが行うという傾向が顕著に見られた。

人種別では、「すべての子どもが平等に」について、マレー系は 76.5%と圧倒的に多 く、中華系は 37.5%。続いて中華系では「息子・娘を問わず、経済的に支援できる子ど も」25.0%、「長男」と「最も経済的に優位な息子」が 12.5%と男児の責任意識も見られ た。

2) 次に、学生の親が要介護状態になった時、親が学生たち(アンケート対象者)に寄せ る 介 護 期 待 は、「可 能 な 子 ど も」が 54.2% で 最 も 多 く、「同 居 ま た は 近 く の 子 ど も」

13.2%、「子ども全員が平等に負担し介護人を雇う」7.1%であった。

人種による分析では、マレー系では「可能な子ども」55.2%、「同居の子ども」8.2%、

「家事ヘルパーを雇い、子どもたち全員が負担」5.2%である。他方、中華系では「可能な 子ども」が 55.6%、「家事ヘルパーを雇い、子どもたち全員が負担」15.6%、「同居の子 ども」6.7%の順で、中華系の方が子どもたちの負担で介護する人を雇う、という傾向が 強く表れている。

また、性別で比較すると、男性で最も多いのは「可能な子ども」45.0%、続いて「同居

(8)

している子ども」「家事ヘルパーを雇い、子どもたち全員が負担」ともに 10.0%であっ た。それに対し女性は、「可能な子ども」57.3%が最も多く、順に「同居している子ども」

8.6%、「家事ヘルパーを雇い子どもたち全員が負担」が 6.0%で、女性の方が可能な子ど もが介護をする、という回答が多少多く見られた。

同様に経済的支援に関しては,「子どもが平等に支援」82.0%、「息子たちに平等に」

4.4%、「長男に期待する」「最も豊かな息子」がともに 3.4%と、圧倒的に子どもたちに 平等に支援を期待している。

これを人種別にみると、「すべての子どもが平等に負担」はマレー系が 82.8%、中華系 が 88.9 と、ほとんど差異が見られない。性別では同様に「すべての子どもが平等に負担 する」が最も多く、男性 77.7%、女性 85.3%と、多少女性が性別を超えた平等を支持し ているが、男性は「息子たちが平等に負担」が 7.5%あるのに対し、女性は 2.0%であっ た。

3) まだ現実的に考えることは困難であろうと思われるが、アンケート対象者である学 生たちは、自分自身の晩年を想像し、どのように対応するか、について答えてもらった。

その結果、「同居の子どもから」34.2%は約 3 分の 1 を占め、続いて「配偶者から」

27.7%、「近所に住む子ども」19.1%であった。これを人種別にみると、マレー系は「同 居の子ども」35.8%、「近所に住む子ども」22.3%、「配偶者」20.2%の順である。それに 対し中華系は、「配偶者」33.3%、「同居の子ども」26.7%、「近所に住む子ども」15.6%

である。学生世代では、マレー系は子どもとの同居、中華系は配偶者へと、期待の相違が 見られた。また性別では、男性は「同居の子」35.0%、「配偶者」22.5%、「近所に住む子 ども」12.5%に対し、女性は「同居の子」32.7%、「配偶者」24.7%、「近所に住む子ど も」22.0%の順である。回答者の学生に、マレー系女性への顕著な偏りがあるものの、将 来の介護は配偶者より同居の子への期待が寄せられ、性別役割期待は見られない。

また学生自身の晩年の経済的支援について、「可能なら自立したい」(43.5%)、「可能な ら子どもから支援を受けたい」(41.0%)、「子どもには全く期待しない」(10.3%)であった。

これを人種別にみると、マレー系では「可能なら子どもから支援を受けたい」45.5%、

「可能なら自立したい」38.0%、「子どもからの支援は全く期待しない」8.2%であるのに 対し、中華系では「可能なら自立したい」が半数を超えて 55.6%、続いて「可能なら子 どもから支援を受けたい」31.1%、「子どもからの支援は全く期待しない」11.1%であっ た。中華系の若者は、マレー系よりも子どもからの扶養期待は少なく、自立を望んでい る。さらに性別でみると、男性は「可能なら自立したい」が 47.5%で半数弱を占め、「可 能なら子どもから支援を受けたい」35.0%、「子どもからの支援は全く期待しない」

12.5%の順であった。それに対し女性は、「可能なら子どもから支援を受けたい」が最も

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多く 44.0%、つづいて「可能なら自立したい」40.7%、「子どもからの支援は全く期待し ない」8.0%で、男性の方が経済的自立を望んでいる。

回答者に女性が圧倒的に多い理由として、女子学生の方がアンケートに協力的であった のか、と考えた。しかし研究協力者の Rahimah Ibrahim および UPM 老年学研究所所長 の Tengku A. Hamid によると、UPM 学生全体の男女比はおよそ 4 対 6 程度で、すでに 在学生総数に女子大学生の割合が多い 、ということであった。興味深いことに近年のマ レーシアでは、当大学のみならず、女性の方が大学への進学率が明らかに高いとのことで ある。さらに、老親扶養役割について、どの世代においても、マレー系、中華系の両者と もに、経済的扶養は長男または男子に、介護については嫁、または女子、という性別役割 分業の傾向が見られない。しかも性別によらず、平等 、または 可能な子ども に期待が 寄せられている。

それに対し、産業が発展し、経済発展の進んだ台湾は、国民のほとんどが中華系である が、マレーシアの中華系の人々とは異なる現象が見られる。先進的中華文化圏である台湾 では、家族が高齢者扶養の主たる役割を果たし、また、父系性家族意識に基づいた老親扶 養が維持されている。老親扶養は息子たちの役割という社会意識(役割意識)が強く、息子 たちの責任(役割規範)が存在している。同様に韓国においても、家を継いでいく男児が老 親扶養の責任として役割を果たしている。その状況を、Ju-Ping Lin は 東アジアの世代間 関係 として論じている(13)

また、50 年前にマレーシアから独立した中華系の都市国家で、現在アジアで国民一人 当たり年収の最も高いシンガポールでは、老親扶養に関して家族主義が貫かれている。シ ンガポール政府は皆保険・皆年金制度を施行していない。普遍的福祉サービス発展に力を 尽くさずに、国民の税負担を低くし、家族の責任(familyism)としている(14)。以上のよう に、アジアの中華系社会の中にも、老親扶養に差異が現れている。

5.アジアの新興国、マレーシアの老親扶養の課題

既に述べているように、マレーシアの人口はまだ若いものの、65 歳以上人口は 2020 年 に 7%を超え、2043 年には 14%に達すると予測されている。急激な人口高齢化を直前に して、研究者の中ではその対応が喚起されている(15)

マレーシアは、英国の NHS をモデルとする国民皆保険制度を完備している。公立の医 療機関は、国民にほとんど無料の医療を提供している。しかし晩年の生活を支える医療制 度は整っているものの、経済的保障、介護サービスの普及はこれからの課題である。今 後、EPF 加入者は増加すると推測されるが、加入対象はあくまでも企業で、また任意加 入である。この制度に参加していない中小・零細企業の被雇用者、および自由業・自営業者

(10)

は EPF の対象にならない。とりわけ女性は男性よりも長寿で、経済的自立度は低い。宗 教、家族主義に支えられた老親扶養意識は維持される可能性が強いと考えるものの、少子 化と女性の教育レベル向上に伴う女性就労の増加に伴い、どのように家族内で家事・育児・

老親介護を担っていくことができるのか。このような状況から、現在マレーシアが抱える 高齢化社会への対応に関し、今後、社会保障と福祉サービスをどこまで進められるか、と いう課題が浮上する。

社会福祉体制には、対象者を社会的弱者に限定した狭義の福祉としての選別的福祉と、

国民全体を対象とした生活保障としての普遍的福祉がある(16)。マレーシアでは、医療は 建国当初から普遍的医療制度が施行され、豊かな天然資源から得られる財源によって支え られてきた。しかし近年、石油の需要と価格の低下により、国家財政は困難に直面してい る。国の歳入縮小は、社会保障発展に大きな支障となる。アラブ諸国、ブルネイなどの産 油国の特例を除き、福祉国家の手厚い社会保障制度は、国民の重い税負担によって成り 立っている。今後国民が増税を受け入れ、高齢者の社会保障と福祉サービスの普及を選択 するかどうか、そこに大きな問題解決の鍵があると考える(17)

家族主義の一環として、マレーシアに限らず、香港、シンガポール、そして近年では韓 国、中国の発展都市部においても、外国人家事労働者の雇用が進んでいる。フィリピン、

インドネシア等の近隣諸国から、女性労働者が低賃金で有期雇用され、住み込みで家事、

育児、介護を担っている。近年、筆者はアジアの高齢者研究を進めてきたことから、親し いアジアの研究者仲間が増えてきた。彼らは、住み込みの外国人家事労働者(maids)を雇 うことを当然と考え、「どうして日本は外国人家事労働者を雇わないのか」「高学歴女性が 家事・育児・介護で就労を阻まれるのは、国としても損失ではないか」と、しばしば問われ ることがある。もちろん日本語という言語問題があるだけではなく、海外から住み込み家 事労働者を雇うことが、日本の高齢者介護の最終的解決策になるとは思えない。労働ビザ 発行如何の問題だけではない。日本には最低賃金制があり、低賃金で外国人労働者を雇う ことは違法になる。個人の家庭で差別のない賃金を払い、住み込み外国人家事労働者を雇 うことは現実的ではない。

今後、発展途上のアジア諸国は、日本より急激に人口高齢化が生じ、経済発展に伴い当 然賃金も上昇する。近い将来、わざわざ海外に出稼ぎに行くメリットは減り、自分の親、

自国の高齢者の介護負担も増加する。そして必然的に、国境を越えて住み込み家事労働を 希望する人口は減少すると考える。日本は高度経済成長期において、農村部から都市部へ の、住み込み家事見習い女性労働者が、急激に姿を消したことを経験している。今後、発 展途上国は経済発展に伴い自国内雇用は拡大し、国境を越えた住み込み家事労働者は減少 すると予測する。また、現在の外国人住み込み家事従事者は、大多数が高度な教育を受け

(11)

る機会を欠いた人たちで、非専門的労働者として外貨を稼ぎ、自国の家族を支えている。

しかも彼女たちの多くは、自分の子どもや老親を祖国に置いて、海外出稼ぎをしている。

今後の経済発展とともに、教育水準も上がり、自国の雇用機会も増加する。彼女たちに は、言語、文化の異なる人も多く、さらに高齢者介護の専門家でもない。発展途上国から の住み込み家事労働者に、高齢者介護の役割を頼ることは長期的な解決策にはなり得な い。

日本の人口高齢化が 7%に至った 1970 年は、幸いにして高度経済成長を遂げた後で、

また、コンピューターによるグローバリゼーションはまだ起こっていなかった。マレーシ アをはじめとする新興諸国は、世界の経済競争の渦中で、社会保障、福祉制度を整備し、

急増する人口高齢化に備える、という大変厳しい状況に置かれている。さらに資源に頼っ た財政ゆえに、低い税率に慣れている国民でもある。増税による普遍的な高齢者福祉サー ビス発展を推進する、という政策を施行するには、かなりの国民の抵抗と困難があるに違 いない。

以上のことから、マレーシアに限らず多くのアジア諸国では、今後も選別性の高齢者福 祉を拡大し、普遍的福祉政策を施行しない可能性が高い、と考える。老親扶養役割を家族 に委ね、また経済的にゆとりのある階層のみが個人的に有料介護サービスを利用する、と いう形態で対応するのではないか。それゆえにマレーシアの次世代においても、女性のみ に介護役割が重くかかるのではなく、家族全員が高齢者を支える 、という家族主義(fam- ilyism)に基づく、必然的な家族中心主義老親扶養 が維持されると推測する。

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参照

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