Self‑recognition of one's own fall recruits the genuine bodily crisis‑related brain
activity
著者 Atomi Tomoaki
journal or
publication title
PLoS One
volume 9
number 12
page range e115303
year 2014
その他のタイトル 転倒の自己認知は身体的危機に関連する脳領域を活
性化させる
学位授与機関 首都大学東京
学位授与番号 22604A633
URL http://hdl.handle.net/10748/7739
doi: http://doi.org/10.1371/journal.pone.0115303
博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
直立二足歩行を獲得し高次機能をも獲得したヒトは、一方で転倒による生命の危機に も晒されることとなった。このような身体的不安定状態におけるヒト神経機構の解明は、
身体不安のみならず精神不安の神経基盤を理解する上で重要である。今日、脳機能イメ ージング法はきわめて有効であるが、装置内で身体を不安定にすることは不可能である ことから、身体不安定性の神経基盤に関する研究は今日に至るまでほとんどなされてこ なかった。本研究では、このような直接的研究戦略では身体不安定性の脳機能研究は困 難と考え、従来の自己認知研究パラダイムの視点に基づいたあらたな視点で、本研究課 題について詳細な検討がなされた。
被験者は右手利き健常男性
13
名(24.7±4.3
歳)
であった。各被験者にはfMRI
実験実施1
ヵ月以上前に、1
個のコロ(
円柱)
上に置かれた板の上でバランスをとる動的不安定条件
(DU: dynamically unstable)
、2
個のコロ上に置かれた他動的に動かされている板の上でバランスをとる動的安定条件
(DS: dynamically stable)
、安定な台(
四角柱)
の上に置かれた 板の上で立つ静的安定(SS: statically stable)
条件を課題として実施してもらい、その際の 動画が撮影された。同動画は、fMRI
実験時の動画刺激として編集・作成された。fMRI
実験では、被験者は上記3
種類の動画×
自他(2
種類)
の合計6
種類の動画刺激をランダム に提示され、その際の脳活動が3TfMRI
によって撮像された。実験終了後は、同動画刺 激を再度被験者に見てもらい、その際に感じられる感情などについての主観評価がなさ れた。その結果、主観評価では、各条件間では有意差が認められたが、自他における有意差 は認められなかった。脳活動解析の結果については、自己における
DU vs. DS
では、右 側の背側運動前野(PMd: dorsal premotor area)
、頭頂-
島前庭皮質/
側頭頭頂接合部(PIVC:
parieto-insular vestibular cortex/temporo-parietal junction)
、下頭頂領域(inferior parietal area)
、 被殻(putamen)
、尾状核(caudate nucleus)
、左側の縁上回(supramarginal gyrus)
前部および両 側の紡錘状回(fusiform gyrus)
に有意な活動が認められた。一方、他者におけるDU vs. DS
では、右側のEBA(extrastriate body area)
と左上頭頂領域(superior parietal are)
に有意な活 動が認められた。これらの結果から、他者の動的不安定性(DU vs. DS
で表現される脳活 動)
に関する処理は基本的視覚情報処理にとどまる一方、自己の動的不安定性の脳内情 報処理過程は、視覚情報(
紡錘状回、下頭頂領域)
→自己の身体・運動情報(
被殻、尾状核、縁上回、背側運動前野
)
→自己の前庭情報(
頭頂-
島前庭皮質/
側頭頭頂接合部)
という変 換・評価過程となることが明らかにされた。とくに自己の身体・運動情報処理のステージでは、
allocentric
座標→egocentric
座標へのという変換過程が示唆された。さらに、身体不安定性における自己特異的活動についての検討がなされた。すなわち、
(Self: DU vs. DS) vs. (Others: DU vs. DS)
のコントラストでは、右側の吻外側前頭前皮質(RLPFC: rostro-lateral prefrontal cortex)
、下前頭接続部/
腹側運動前野(IFJ/PMv: inferior
frontal junction/ventral premotor area)
、島後部皮質(posterior insula)
、傍小脳脚核(PBN:
博士学位論文審査の要旨
parabrachial nucleus)
、左側の舌状回、紡錘状回、海馬傍回が有意な活動を示した。末梢からの身体不安定性に関する基本的かつ重要な情報は前庭神経によって上位に送られ るが、
PBN
は前庭神経と双方向性に連絡するともに視床を介して島後部皮質に連絡す るほか扁桃体にも直接神経連絡が存在する。さらに、右の島後部皮質は交感神経系と関 連する。また、IFJ/PMv
は自己の身体近傍で生じる危機から身を守るための防御運動反 応に関連する。以上から、PBN
、後部島皮質、IFJ/PMv
は、身体的危機に関する情報の 検知・処理・防御反応までの身体不安定性に関する一連の情報処理に関与することが示 唆された。なお、RLPFC
はメタ認知に関与することから、自己が自己の身体不安定性 を認知するメタ認知処理に関与することが示唆された。以上の結果から、自己身体の不安定性認知においては、とくに、「
PBN
⇔後部島皮質・PIVC
⇔IFJ/PMv
」が重要な役割を果たすことが示されるとともに、従来不可能であった身体不安定に伴う脳活動が自他認知研究のパラダイムの適用によって観測可能になる ことが示された。さらに、この「
PBN
⇔後部島皮質・PIVC
⇔IFJ/PMv
」においてはいず れも右側優位であることもきわめて興味深い結果であった。同論文は、”Self-recognition of one’s own fall recruits the genuine bodily crisis-related brain activity. PLoS ONE 7(5): e37901.
doi:10.1371/journal.pone.0037901 (impact factor = 3.234, 5-year impact factor =3.70)”として 2014
年に原著論文として公表された。さらに、跡見友章氏は、口頭発表および質疑応答の形でおこなわれた最終試験において も、明解な発表をおこない、審査員からの質問に対しても適切な応答をおこなうことがで きたことから、同氏は博士(学術)の学位授与に値するものと判断した。