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メイの低価法

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(1)

メイの低価法

その他のタイトル May's Cost or Market Rule

著者 清水 宗一

雑誌名 關西大學商學論集

3

2

ページ 117‑139

発行年 1958‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00021805

(2)

展のあとを示しており︑四七年以後の時期においてすぐれて動態的傾向をおびるにいたっている︒このような後入② 先出法観の発展のうちにわれわれは彼の会計学的思考の動態的傾向の深化をみとめることができる︒ところで︑こ

のような動態的傾向が彼の棚卸資産会計論全般をつらぬいているかというと必ずしもそうではない︒われわれは彼

の低価法観を考察することによって彼の動態観が徹底したものでないということ︑しかして︑彼の費用計算意識が

メイの後入先出法観は︑

0年から四三年にいたる時期と︑一九四七年以後の時期との間において発 まず決定し残留分を収益に賦課するという接近法が会計思想において支配的であった時代に低価法が生成したので 貸借対照表が第一次的に重要であると考えられ︑したがって︑資産として繰りこされなければならない原価分を

o l

このことは︑損益計算書が第一次的に重要であると考えられ︑原価の配分にさいして収益に賦課されなけれ

ばならない原価分をまず決定し残留分を資産として繰りこすという接近法が会計思想において優位を占めるように

なった時代において後入先出法が成立し発展したのとあくまでも対賠的である︒

(3)

③ 徹底していないということを知るのである︒小稿は彼の低価法観が一九三0年代から五0年代にかけていかなる内

容的発展を示しているかを追跡し考察することを主題としているのであるが︑右にのべた意味においてまず予備的

段階として彼の後入先出法観を概略考察したのち︑低価法観の考察に進んでいくことにしよう︒そうすることが彼

の棚卸資産会計論全般を理解するのに好都合であると思われるからである︒

Ge or ge .     0M ay ,  A cc ou nt in g  i n   T im e  o P f   ri ce   I n f l a t i o n ,   Th e  A cc ou nt an t̀ Oc t.   1 8 t h ,   1 9 5 2 ,   p . 

4 4 3 .  

このような動態的傾向の深化は四八年以後の彼の会計公準論のなかにもみとめることができるのであり︑このことにつ

いては︑日本会計研究学会第十七回大会における報告の内容をとりまとめた拙稿﹃会計公準論の一考察ーメイの所説を中心として—』(「会計」最近号)において明らかにした。小稿は「企業会計」第十巻•第七号所掲の拙稿『メイの後入先出法観』の続論をなすものである。しかし、単独の論文

であるがゆえに︑後入先出法については第二節において概略論述した︒詳細は右の拙稿を参照されれば幸いである︒

討することにしょう︒

まず︑彼が四0年に後入先出法をいかに考えているかをみると︑彼はまず損益計算書の観点から後入先出法を考

察している︒彼の見解では︑後入先出法は価格変動時において利益を平準化する大きい長所をもっていると考えら

れているが︑後入先出法が同一価格水準的に費用を収益と関連させる方法であるという認識にはまだ到達していな

い︒これに対して︑貸借対照表の観点からは後入先出法の採用によって︑棚卸資産の貸借対照表価格が古い原価

(3) 

(2)  (1) 

0年から四三年にいたる時期と︑

一九四七年以後の時期とにおける彼の後入先出法観を比較検

(4)

② しか表示せず無意味な数値となると考えられている︒けれども︑彼はこの弱点のゆえに後入先出法を排斥している

のではなく︑後入先出法を採用する場合には再調達価格で棚卸資産を貸借対照表に表示すべきであるとする説につ

ぎのように応酬している︒即ち︑企業の価値を決定するのは企業の利益であり︑利益は最近の原価にもとづいて最

もよく算定されるのであり︑企業が経営される限り実質的に維持されなければならない棚卸資産の再調達価格が企③ 業の価値に無関係であるのは設備の再調達価格が企業の価値に無関係であるのと同様である︑というのである︒要

するに︑損益計算書を重視する観点から後入先出法を弁護しているのである︒彼のこのような態度は︑アメリカの③ 会計思想の上に起っていた貸借対照表より損益計算書への重点の変化︑価値より原価への重点の変化という地盤に

おいて筆をとったためであろう︒しかし︑この時期の彼はまだ損益計算書重視の立場に徹底していないようであり︑

このことは︑彼が貸借対照表の観点から後入先出法の弱点を認める点にも認められるが︑後入先出法が棚卸評価に

おける原価主義原則の拡張となるとしている点や後入先出法の発展の重要な含蓄的意味は固定資産に関する歴史的

原価主義の採用であると説いている点にも認められる︒いままず第一点を考察すると︑どういうわけで後入先出法

が棚卸評価における原価主義原則の拡張となると考えられているかが問題とされるべきであるが︑後入先出法によ

ると棚卸資産として繰りこされる原価は手許にある財貨の原価ではなく︑すでに何回となく取替えられてしまった

財貨の原価であるから︑取得原価概念の拡張を行わない限り後入先出法を原価法として理解できないというように

考えているのではなかろうか︒つまり︑彼にとって重要なのは︑手許在高に附せられる原価であって︑払出した財③ 貨に附せられる原価ではないようである︒つぎに︑第二点を考察すると︑彼は後入先出法によって棚卸資産が評価

されなければならないとすれば︑固定資産が取得原価で評価されなければならないことになると考えている︒損益

(5)

から著述せんとした態度のあらわれとみてよかろう︒

計算書を重視する観点から後入先出法を弁護する彼であるが︑固定資産会計との関連ということになると︑後入先④ 出法が貸借対照表に影響する面のみに着眼して後入先出法の採用は固定資産の原価主義評価を支持するといった静

つぎに︑四三年の主著の時期において後入先出法をいかに考えているかをみよう︒ここでも彼は損益計算書と貸

借対照表との両方の観点から後入先出法を考察している︒彼は後入先出法によって棚卸資産が古い時期の原価で貸借対照表に計上される結果になることを認めているが︑後入先出法を擁護する議論として彼がのべていることが四

0年の所説と同趣旨であるところからみて︑時価で棚卸資産を貸借対照表に表示すべきであるという見解には与し

ていないと思う︒この点は︑四0年の所説とほぽ同一であるが︑主著を特色づける所説がないわけではない︒即ち

管理的または財務的観点から後入先出法を考察し︑この方法が好況時の繁栄の錯覚を防ぐ反面不況時の危険をあい

まいにする点を指摘していることがこれである︒ところで︑四0年に後入先出法が原価主義原則の拡張と考えられ

ていると我々が把握した点がここでいかに考えられているかをみるに︑彼は︑後入先出法によると手許在高に附せ

られるべき原価が︑最近に取得されて手許にあるものの原価でなく︑古い時期に購入されてすでに販売または消費

された同種棚卸資産の原価であることに眼をつけ︑準として理解できないというふうに考えているのではないかと思う︒

一九四七年以後の時期における見解をみよう︒この時期には彼の後入先出法観に展開のあとがみられる

が︑このことは︑インフレ下にあって︑企業利益研究会の研究顧問としての彼が︑従来より以上に損益計算の見地 態的な見解をのべるにとどまっている︒

コンヴェンションにもとづくことなしには後入先出法を原価基 0

(6)

最初に︑会計研究公報第二九号を批判した四七年の論文によって彼が後入先出法をいかに考えているかを検討し

よう︒彼は︑この公報が会計の最も重要な目的は利益を算定することであり貸借対照表価格は残留分であるという

見解を承認しているとなし︑一歩すすんで︑棚卸資産に関して収益に賦課されるべき費用を決定するさいにとられ

るべき方法に関する議論としてその公報を書き直すことを提案しようと考えたのである︒このようなすぐれて動態

的な見解に立って︑後入先出法を費用計算の一方法としてつぎのように説いている︒

益に賦課する費用を決定する一方法である︒しかして︑後入先出法の下では棚卸資産は現在の原価または価値のい

ずれにも無関係な無組織の残留分であるにすぎない︒したがって︑後入先出法をアメリカの会計へ導入するにあた

って︑収益に賦課する費用の決定を第一次的処置として取りあっかい棚卸資産を残留分として取りあっかい︑公報

第二九号が過去の実践にしたがってやっているようにこの問題の反対の接近法を固守することをしない︑のが正しし﹂と︒アメリカの会計実践では後入先出法が期末棚卸額の評価法として考えられ︑ ︑ ︒

の計算が第二次的に顧りみられるにすぎない状態にあり︑しかも︑そのような状態を同公報が容認していると考え

た彼は︑右のような見解を披握することにより︑棚卸資産会計の理論と実践の改善を推進しようとしたのだろう︒⑨ しかして︑彼は︑後入先出法を﹁原価要素の流れに関する仮定﹂として把握する同公報の見解には同調せず︑特別

nW

 

h"

i 

の利益概念を表わすものであるとの見解をのべている︒後入先出法と結びつく特別の利益概念とは何であるかがこ

こで問題とされるべきであるが︑同じ年の別の論文において︑後入先出法の発展が企業利益を貨幣的な概念よりも

むしろ経済的な概念にするための最初の重要な措置であったことをのべておるところからみて︑彼の見解では︑後

入先出法は経済的利益概念を表わすものであると考えられていると思う︒そして︑彼は︑経済的利益の計算を可能

消費または販売に伴う費用 ﹁後入先出法は︑明らかに収

(7)

にするために︑後入先出法が棚卸資産について行ってきた機能を固定資産について行う方法を探求するべきである としており︑しかして︑その方法は後入先出法によって現在の収益に現在の費用を関連させるように現在の固定資

産費用を現在の収益と一層密接に関連させる手続を採用することであるということを示唆するのであるから︑静態

的であるとわれわれが評した四0

年の所説とは対照的に動態的な見解がそこに示されているのである︒さて︑四七

l l  

U  

年の所説を特色づける点は他にもある︒後入先出法が原価主義からの離脱であることを示唆しているということが

即ちこれである︒

つぎに︑四八年に後入先出法をいかに考えているかをみるに︑ここでも彼は後入先出法が経済的利益概念を表わ

Hu

 

すものであると考えているようであり︑そして︑減価償却費がドル貨幣の一般的購買力の変化を表わす結果になる

Hu

 

ように実践を変更することが後入先出原理の固定資産への適用になると考えているように解せられる︒こうして︑

後入先出原理の固定資産への適用可能性についての考え方が一層具体的となっている︒そして︑

⑭ 

出法が原価主義からの離脱であることを明言するにいたっている︒

さらに︑四九年のモノグラフの時期に彼が後入先出法をいかに考えているかをみるに︑ここでも︑後入先出法は 財貨及び原価の現実の流れに関する合理的な仮定ではなく︑費用計算の一方法でありしかして同一の価格水準で費

h u

  用を収益に関連させることによって実質利益を計算する方法であると考えられている︒それゆえ右にみた限りでは︑

四七年の所説と同一の見解に立っているように思われる︒ところで︑ここでわれわれの興味をひくのは︑後入先出 原理の固定資産への適用可能性についての見解がとくに具体的となっている点である︒即ち︑収益と費用とが同一 の購買力単位によって表示される実質利益の計算を可能にするために︑貨幣単位の一般的購買力の低下の指数にも

ついに彼は後入先

(8)

(8)  (7)  (6)  (5)  (4) 

(3)  (2)  (1) 

とづく減価償却費でもって原価にもとづく減価償却費を補足することが︑後入先出原理の固定資産への適用である

n u ‑

と考えられているのである︒

Ma

y

Va lu at io n or i s   H t o r i c a l   C os t :  S om e  R ec en t  De ve lo pm en ts ,  J . o f     A . ,   J a n .   1 9 4 0 ,   p .   1 7 .   i b i d . ,   p .   1 8 .  

A.I.Aの株式取引所共同特別委員会がニュー・ヨーク株式取引所に送った一九三二年九月二十二日付の書

簡が︑会計思想におけるつぎのような三つの重点の変化を明示したと言っている︒三つの重点の変化とは一︑貸借対照

表から損益計算書への︑二︑価値から原価への︑三︑保守主義から継続性への重点の変化をさす︒そして︑彼によれば

このような重点の変化はアメリカにおいては11一六年ごろから一九三二年ごろにかけて起ったという

(M ay ,A ut ho r, i t a t i v e   F in a n ci a l   A cc ou nt in g,   J . o f     A .  

Au g.   19 4 6 ,   p .   1 0 5 .   p .   1 1 8 .

)

Ma y,   Va lu at io n  or i s   H t o r i c a l   Co st

"

So me   Re ce nt   De ve lo pm en ts ,  J . o f     A . ,   J a n .   1 9 4 0̀ p 1 9 .   .   Ma y, i n   F a nc i a l  A cc ou nt in g, 9 4   1 3 ,   p .   1 7 5 .   i b i d . ,   p .   1 7 6 .  

A.I.Aの株式取引所共同特別委員会の抱いていた見解であり︑同委員会がニュー・ヨーク株式取引所に送

った一九一︳三年九月二十二日付の書簡中におけるつぎのような叙述をさしている︒即ち︑﹁一般に︑最も重要な目的は

当該年度の損益計算書に計上せられるべき借方項目または貸方項目の適正な金額を把握することであった︒しかして︑ひ

とたびこの目的が達成されると︑たぶん支出または収入の残留額は当該期末の貸借対照表において適当にその湯所を見

い出すことができるだろう︒﹂

(M ay , Tw en ty︐ 牙

e

Ye ar s  o f   A cc ou nt in g  R e s p o n s i b i l i t y ,   1 9 3 6 ,   V o l .   I ,  

p .   1 1 7 .

"  

Ma ỳ Fi na nc ia l  A cc ou nt in g,   p p . 7 7   7 8 .)   Ma y,   In ve nt or y  P ri ci ng n  a d  Con ti ng en t  R es er ve s:  C om me nt   on e  N w  Ac co un ti ng R   es ea rc h  B u l l e t i n s ,   J .   o f  

A . ,  

No v.   1 9 4 7 ,   p .   3 6 6 .

メイが四七年の論文で示した後入先出法観については︑かって拙稿﹃メイ﹁企業利益と物価水準に関する会計学的研究」』(「関西大学商学論集」第一巻•第一号)において論及しておいたが、渡辺進『価格変動と費用評価』(「企業会計」第九巻•第四号)においても論ぜられている。

(9)

まず︑彼が三七年において低価法についてのべているところをみると︑

価かいずれか低きをとる低価法で棚卸資産の評価をすることは︑最も一般的に認められている規則であると思う︒

u6) U5)  U4)  U3)  U2)  {11)  uo)  9) 

﹁今日の産業の実践において︑原価か時

ibid••p.

3 6 2 .  

後入先出法の想定する原価の流れは多くの場合︑物の実際の流れと一致しないものであるが

(W .A . P at o n ,  A dv an ce d  Ac co un ti ng , 

19 41 , 

p .  

148.渡辺進『後入先出法に関する非難』(「国民経済雑誌」第九三巻•第五号))、メイは会計が 少数の基本的公準と多数の副次的仮定とからなる仮定の体制にもとづいていると考えるものであるから

(M ay

̀T ru th an d  U se fu ln es s  i n   Acc ou nt in g,

 J. 

o f   A . ,   Ma y 

19 50 , 

p .  

3 8 7

. ) ︑たとえ︑後入先出法における仮定が事実に反する擬

制的なものであっても

(M ay F i , n an c i al   Ac co un ti ng

̀p . 

17 5. )︑彼においては何らさしつかえないはずである︒そ れにもかかわらず︑彼が後入先出法を特別の利益概念を表わすものであるとしたのは

(M ay , In ve nt or y  P ri ci ng n  a d  Co nt in ge nt e   R se rv es , 

J. 

o f  

A . ,  

No v.  1 94 7,  p .  

3 6 5 . ) ︑価

H格変動時に先入先出法によって算出される貨幣的利益に対

して不信の念をもった彼が実質利益の算定に会計上の最大の意義を認めたからであろう︒

Ma y, h   S ou ld   th e  L i fo   P ri n c ip l Be   e  Co ns id er ed n     i De pr ec ia ti on  A cc ou nt in g  W he n  P r ic e s   V ar y  Wi de ly

̀ 

J.

o  

f  A . ,   De c.   1 94 7,  p .  

45 4.  

i b i d . ,   p .  

45 3.  

Ma y;   Pr op er ty n  a d  In ve nt or y  A cc ou nt in g  a s  R el at ed   to   Pr es en t, Da y  P ri ce   L e v e l s ,

J.  

o f  

A . ,  

Ma y 

19 48 , 

p .  

40 8.  

Ma y, o s   P t ul a t es   o f   I nc om e  Acco un ti ng , 

J. 

o f   A . ,   Au g.

1 

94 8,  p .  

10 9.  

Ma y, u   B si ne ss   In co me   an d  P r ic e   Le v e ls ,   an c   A co un ti ng   st u d y,  

19 49 , 

p p .  

43 4 4.  

i b i d . ,   p .  

44 . 

p .  

5 8 .  

p .  

62 . 

一九三七年から四三年にいたる時期において彼が低価法をいかに考えているかを検討しよう︒

(10)

低価法の長所はその論理にあるのではなくてその保守主義にあることは明白である︒﹂

価かいずれか低きをとる低価法で棚卸資産の評価を行うという保守的ではあるにしても非論理的な実践が︑収益力

の表示として工夫されている損益計算書の作成にあたって適当であるかどうかという正当な疑問が提出されるだろ

 

う︒﹂と言っている︒以上の所論から察するところ︑ここでは彼は低価法が非論理的なものであることを認めては

いるが︑それに理論的な武装をほどこそうとせず︑もっばら保守主義的見地を根拠としてそれを是認しているので④ あって︑別に一般の場合と変ったところはない︒けれども︑右の叙述から︑彼が収益力の表示としての損益計算書

の観点から低価法が適当であるかどうかという疑問を多少いだいているように推察しうるのである︒この点は後年

における彼の所説よりも一層論理的であるように思われる︒

1一 五

つぎに︑四三年の主著の時期において彼が低価法をいかに考えているかをみよう︒まず︑保守主義と低価法との

関連がどのように考えられているかをみるに︑彼はこう言っている︒

の価値と︑保守主義が信用の上に及ぼした有益な効果とは︑原価か時価か低きをとる低価法の規則の永続的な権威を証明するに十分である︒﹂と︒この叙述から彼はここでも保守主義的見地を基盤として低価法を是認していると

m i  

解さなければならない︒ところで︑当時︑会計学者の側からあびせかけられていた低価法に対する批判をしりめに

いかなる理由で彼が保守主義的見地を根拠として低価法を是認する態度に出たのであろうか︒この問題に関する解

答は右に引用した言葉の中にもすでに示唆されているが︑いま出来るだけ簡潔にこの点に関する彼の考え方を示し

ておくとつぎのとおりである︒保守主義は信用目的のためとか財務政策の基礎といったような会計の比較的古い利用目的のためには大きな美徳である︒低価法は︑資産ならびに処分可能利益の過大表示に対して用心するから︑会

﹁棚卸資産評価において証明された保守主義

(11)

計の比較的古い利用によく適している︒収益力に対する指針として会計を利用するといった会計の新しい利用が重

要になりつつあるとはいえ︑数の上で上湯会社を上廻る非上場会社にとっては︑古い利用の方が新しい利用よりも

以上によって︑彼が保守主義的見地に立って低価法を是認している理由を示しえたと思う︒こうして︑低価法を

是認する彼ではあるが︑低価法について会計学者と実践会計士との間で意見が対立しているのをみるにつけて︑低

価法の基礎にある観念が︑財務諸表利用者がみて合理的であると思うような形で表現されることが望ましいと考え

た結果︑正当に繰りこされうる原価の測定のみを要求する規則として︑低価法の規則を表現しなおそうとしたので⑧ 

( u s e

f u l

c o s t

)

の規則が即ちこれである︒いまこれを彼の説明に聞けば︑

ない原価︑或るいは︑正確に回収されるであろう原価さえ有用ではない︒販売せんとする財貨の原価は︑それが販

売において少くとも最小限度の正常な利益をもたらす期待がもてないならば︑正常な有用性をもっているといえな

い︒原価を過去と将来とに割りあてるさいに︑将来において正常な有用性をもっている原価のみが繰りこされなけ

ればならないという規則が︑原価か時価か低きをとる低価法規則の正当な適用のすべてを包含しているように思わ

れる︒これは︑原価と時価という二つの競合的な概念を二者択一のものとして︱つの規則に具体的に表現すること

をさけるであろう︒この規則は︑棚卸資産価格づけの方法の根本的特徴ーそれは本来︑原価を過去と将来とに割

りあてる方法であるということ︑及び︑割りあては単純に機械的ではありえないのであり︑つねに判断を伴うのであ︐ るということーを示すという積極的な長所を有するであろう︒﹂と︒さて︑主著で論及されている﹁有用な原価﹂

O l   h u  

については︑すでに木村教授によってかなり詳細に論究されているから︑ここでの論究は極力重複をさけ︑当面の問

(12)

題につきメイの所説の要点と思われるものをわれわれなりに把握することとしたい︒彼によれば︑正常な利益をと

もなって回収されそうである原価のみが﹁有用な原価﹂として繰りこされなければならない︑というのであって︑こ

れが﹁有用な原価﹂の規則である︒このことに関して彼が参照をもとめているベイリーによれば︑棚卸資産原価の

下向きの修正に関して二つの原則があり︑その一っは︑回収されえない原価は繰りこされてはならない︑回収しう

る原価が繰りこされる︑となすものであり︑もう︱つは︑利益をともなって実現されうる原価が繰りこされるとな

すものである︒そして︑前者は︑相当客観性があるが︑徴候のある損失のみについて修正を行うので実践的に満足

するにたる低い棚卸価格を生じないのであり︑後者は︑利益をともなって回収されるほどの低位まで棚卸資産の価

hu

 

格を切下げることになって実践上の要求をみたすけれども︑不確実性がともなう︑というのである︒さて︑メイは

ベイリーのいう第二の原則をとり︑利益をともなって回収されるほどの比較的低位にある価格が繰りこされなけれ

ばならないという見解に立っているのである︒しかして︑利益をともなって回収しえない原価部分があるときには

その部分が収益に賦課されることは当然であって︑彼が明瞭に指摘しているわけではないが︑彼の見解では︑評価

損をその期の損失として損益計算のなかに入れることが﹁有用な原価﹂の規則にともなってくるものであると考え

られていると思う︒しかして︑この場合︑評価損を見つもってこれを記録する仕事の困難ということは彼の眼中に

はないようである︒換言すれば︑回収されそうでない原価の部分を見つもり予想することが困難である場合でも

n u 

﹁有用な原価﹂の規則を適用しうるかという点︑又正常な利益とはいかなる意味をもつものであるかかついか程で

nu

 

あるかに関する不確実さは彼においては全然問題とされていないようである︒このことは︑会計の主観的側面を強

調し会計の機能を事実の記録といった機械的なものとみないでコソヴェソションにもとづいて主観的判断を行使す

(13)

(6)  (5)  (4)  (3)  (2) 

法︵清水︶

h"i ることであるとなす彼の会計観に根ざすものであり︑さきに引用した文中で︑﹁有用な原価﹂の規則が棚卸資産価格

づけの方法の根本的特徴を示す長所があるとのべている箇所にもこのような彼の考え方がうかがわれるのである︒

一方では彼は保守主義的見地を基盤として伝統的な低価法を擁護して

いるが︑それだけで満足せず新しい地盤の下で保守的見地からはなれて低価法を理論的に表現するために﹁有用な

原価﹂の規則をもち出し︑そして︑この規則にもとづいて評価損を損益計算のなかに入れることを是認していると

いうことがいえよう︒けれども︑三七年においてその片鱗をみせたような収益力の表示としての損益計算書の観点

から低価法を検討しようとする試みを全然示していないのは残念である︒

Ma y,   Im pr ov em en t  i n   F i n an c i al   Acc ou nt in g,   J .   o f   A . ,   Ma y 

19 37 , 

p .  

35 3.  ( Ma y,   Ha l s ey , n  a d  P a to n D ,   ic ki ns on   Le ct ur es   in   Acc ou nt in g,

1 

94 3,  p .  

2 8 . )  

i b i d . ,   p .  

36 1.  ( i b i d . ,  

p .  

38 .)  

低価法を非論理的であるとする所説はほぼ時を同じくする論文においてもみられる

(M ay , Va lu at io n 

・ o r   H i s t o r i c a l   C os t :  S om e  R ec en t  D ev el op me nt s,   J . o f     A . ,   J a n .  

19 40 , 

p .  

17

.)

保守主義会計思想から低価法を支持している代表的な学説として

s.H.M.会計原則をあげうるであろう︒

s.

H.

M.会計原則については多くの研究があるが︑植野郁太﹃会計学教材﹄︵三和書房︶が最もくわしい︒

Ma y, i n   F a nc i a l  Ac co un ti ng , 

19 43 , p .  

18 1.  

たとえば︑このころペートンは棚卸資産に関する低価法による評価を十二項目にわたって批判している

( P a t o n , Co m ︑ me nt s  o

n  "A 

St at em en t  o f   A cc ou nt in g  P r i n c i p l e s , "  

J .   o f   A . ,   Ma rc h 1

93 8,  p p

2026.久保田音二郎﹃保守主.   義会計理論の構造﹄︵平井泰太郎編﹃経営組織の発展と計算思考﹄所載︶︶︒ちなみに︑ペートンは︑その後において も同趣旨の反対意見をのべ︑原価での会計処理

( c o s t ap pr oa ch )

として解釈される低価法をも批判している

( P a t o n , Ad va nc ed   A cco un ti ng ,  p p .  

15 41

58

.) かくて要するに︑主著の時期においては︑

(14)

04)  U3)  (12)  (11)  (10)  (7) 

Ma y,   ib i d . ,   p .  

2 0 .  

§

§   ibid••p.

18 3.  

§ 

i b i d . ,   p p .  

183 

18 4.  

木村重義『棚卸資産の有用な原価』(「会計」第六十六巻•第一号)

Ge or ge  D .

  B a

i l e y P,   ro bl em s  o f   I nv en to ry   Pr i c i n g ,   J .   o f   A . ,   Au gu st  1 94 1,  p p

1.  

45 1 46 . 

このことに関してペートンは︑原価での会計処理の実行手段として解釈される低価法の弁護論に対する反対理由の一っ

として︑再調達原価または販売価格のいずれの面においても僅かな変動は他の面に何らかの影響が惑ぜられるより以前 にもとどおりにされることがあるので︑製品の現在再調達原価または現在販売価格のいずれかについてすでに低落が認 められておるために回収が危い状態におかれている手許財貨の発生原価の額を予想することはどの棚卸日においても極

めて困難であるということをあげている

( P a t o n , i b i d . ;   p .  

1 5 8

. )

前記のベイリーはこの不確実性を厄介なことであるとしている

( B a i l e y , i b i d . ,   p .  

1 4 5

. )

メイは︑つとに会計の性質を論じたさい︑﹁会計は︑厳格にしてかつ不変のルールの適用としてよりも習慣及びコンヴ

ェンションを認識することならびに判断を行使することをともなう過程として考えられなければならない︒﹂

(M ay

̀ Th e  Na tu re   of   Ac co un ti ng ,  J . o f     A . ,   J a n .   1 93 6,  p .  

13 .:  M ay ,  T we nt y, fi ve e  Y ar s  o f   A cc ou nt in g  R e sp o n si ,   b i l i t y ,  

19 36 , 

V o l .   J I,   p p .  

30 63

07

. )A.I.A術語委員会がのべt﹁会計とは︑少くとも或る 程度までは財務的性格を有する取引及び出来事を︑意義のある方法でかつ貨幣によって記録し分類し総合し︑かつ其結

果を解釈する技術である︒﹂

( A . I .   A.

A

cc ou nt in g Re se ar ch   Bu l l et i n  N o.   9 , 

Re po rt f     o Co mm it te e  o n  T e r m . i ,   n ol o g y,   Ma y 

19 41 , 

p .  

67 .)

という言葉をとらえて︑﹁会計は漸次的過程及び蓋然的事象をも認織せねばならない︒会計

の解釈は必ずコンヴェンショソにしたがって行われるのであって︑単に事実的な基礎によって行われるのではない︒﹂と

のべている

(M ay B , us in es s  I nc om e  a nd   Pr ic e  L e ve l s ,  a n  A cc ou nt in g  S t ud y ,  1 94 9,  p .  

14 .)

一九四六年以降の時期において彼が低価法をいかに考えているかを検討しよう︒

まず︑彼が四六年にのべているところをみるに︑ここでは彼は低価法または﹁有用な原価﹂の規則を直接とりあ

法︵清水︶

(15)

法︵清水︶

げて論じているわけではないが︑ アメリカの会計思想における三つの重点の変仰に論及したさい︑多くの企業の会

計実践は思想の変化によってたいして影響をうけておらないという趣旨のことをのべ︑その理由の︱つに︑

な原価﹂という考えは有用性の喪失を測定することを意味し︑しかして︑有用性の喪失の測定は往々にして評価の② 過程によって最もよく行われるのであるということをあげている︒ここにのべられているところによると︑

な原価﹂の概念は原価での会計処理よりもむしろ価値での会計処理をともなうものであるとするのである︒この所

つぎにみる四七年の﹁有用な原価﹂の概念が原価主義原則の範疇に属するものであることを示唆する所説と

対照的である︒

A.I.Aの会計研究公報第二九号を批判した四七年の一論文によって︑彼がこの時期に低価法をいか

に考えているかをみよう︒ここでは彼は︑保守主義的見地を基盤として低価法を擁護する態度を全然示さず︑同公

報にのべられている低価法の規則を︑彼が一層理論的であると考える﹁有用な原価﹂の規則として表現しなおそう

とする試みに専念しておる︒彼の考え方は︑同公報第二九号のステートメント五︑六に対する彼の修正意見に如実

にあらわれているので︑いまそれを検討することにする︒少し冗長にながれるきらいはあるが︑予備段階としてス

テートメント五︑六をここにそのまま引用してみよう︒

﹁棚卸資産価格づけの原価主義からの離脱が必要とされるのは︑財貨の効用がもはやその原価ほど大きくない時である︒物質

的損耗・陳腐化・価格水準の変動•その他の原因で、通常の営業過程で財貨を阪売するさいに、財貨の効用が原価以下になる

だろうことが歴然たる湯合には︑その差額は当期の損失として認識されなければならない︒これは︑かかる財貨を普通に時価

③ と称せられる一層低い標準で表示することによって一般になしとげられる︒﹂

﹁﹃原価か時価か低きを採る低価法﹄という語句において用いられる﹃時価﹄は︑次の場合は除外して︑現在再調達原価︵仕入

参照

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