• 検索結果がありません。

―地方議会をめぐって―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "―地方議会をめぐって―"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

危機に立つ日本デモクラシー

―地方議会をめぐって―

佐々木 信 夫

0 .はじめに

1 .第19回統一地方選挙の見どころ 2 .第19回統一地方選挙を総括する 3 .問われる地方議会,議員のあり方 4 .最大の争点は人口減少の問題 5 .東京一極集中と「大阪都構想」政争 6 .「大阪出直し」「ダブルクロス選」を診る 7 .むすび―真の豊かな国づくり

0 .はじめに

本稿では,2019年 4 月 7 日に行われた戦後第19回目に当たる統一地方選挙の結果などを踏まえな がら,地方選挙の現状と課題,更に地方議会のあり方について考察を深めたい.特に統一地方選挙 で目立ったのは無競争当選,投票率の低下という由々しき事態がより鮮明になり,まさに「危機に 立つ日本デモクラシー」という様相を強めている.その点も掘り下げながら考察してみたい.

1 .第19回統一地方選挙の見どころ

2019年は春の統一地方選と夏の参院選が12年に一度重なる「亥(い)の年」であった.この年に はジンクスがある.参議院選挙で自民党がいつも負けているという話である.これまでそうだった から今回もという訳ではないが, 4 月の統一選を終えた地方議員らは夏の参院選に注力しなくな る.だから運動量不足で負けるということだとされている.この点だけを捉えるなら今回もそうな ろうが,与野党の「一強多弱」情勢からすると,そうとも考えにくい.ただ,安倍政権の地方創生 の評価は芳しくなく,景気がよいと吹聴する割に地方は冷え込んでいる.人口減少も過疎も止らな い.それが農業県などに現れないかどうか.

2018年秋の自民総裁選で安倍晋三の地方票が極端に少なかった底流からして,「安倍政権にお灸 を据えよう」という投票行動が顕在化しないとも限らない.長期政権の「たるみ」から官僚機構の

(2)

不祥事も目立つ.昨年のモリカケ問題に続き今度は統計不正の問題が浮上している.政治に対する 国民の不信感は高まっている.もちろん外交の評判がよい安倍政権だから,もし日ロ交渉や拉致問 題など外交交渉で成果が出れば,ジンクスも吹っ飛ぶかも知れないとみる向きもあった.

安倍政権の長期化は地方にも影響が及んでいる.多選の首長が目立つようになったのもその 1 つ.世論調査(共同通信社19年 1 月 4 日)で「あなたは首長の任期は何期までが妥当と思いますか」

の質問に対し,① 2 期 8 年まで(39.7%),② 1 期 4 年間で(21.8%),③ 3 期12年まで(19.0)との 回答が 8 割を占める. 4 期, 5 期を容認する回答は数%のみである.

ところが今回,連続 4 期以上の多選首長の更なる立候補が目立つ.現在, 7 期目の谷本石川県知 事を筆頭に引退表明者を除くと 4 期16年の知事が 9 人もいる.この全てが改選期ではないが,多選 に挑む流れは止まりそうにない. 4 選以上の首長は組織内の人事が硬直化し,都合の悪い情報が入 らなくなる “裸の王様” で弊害が大きいと言われるが,実際は 4 選, 5 選, 6 選を目指す知事,市 町村長が後を絶たない.民意とずれた多選の定着をどうみるか,この殻を破るような首長選が幾つ みられるかが注目点の 1 つであった.

もう 1 つ,重要な争点を住民投票で決着しようという動きが出てきた点である. 1 つは浜松市.

政令市の同市には 7 つの行政区があるが,これを 3 区に再編する案を市長選挙,市議会選挙と同時 に住民投票に付すという.投票率が50%を超えた場合「有効」とし,賛成票が上回れば市長の公約 通り再編が進もう.今後,政令市に限らないが,人口減少に伴い「行政を賢くたたむ」時代がやっ てくる.そのパイロットケースになるかどうか,浜松市の挑戦が注目された.

更にもう 1 つは大阪の動きである.浜松市と違い今回住民投票で決着という訳ではないが,住民 投票に持ち込めるかどうかの事前の戦いが大阪府議会選挙,大阪市議会選挙である.大阪市を廃止 し 4 つの特別区に移行する「大阪都構想」の是非を後に住民投票で決めようとするが,その前段階 で都構想の実施案を盛り込んだ「協定書」を両議会で可決する必要がある.しかし,現況は推進派 の与党(維新)は両議会とも過半数に満たない.公明がキャスティングボードを握る形になってお り,自公と組んでこれを阻止する構えであった.果たして賛成勢力が都構想実現に向けて反対派を どこまで切り崩せるか,「住民投票」の成否が決まるだけに注目された.これについては後で詳し く述べる.

こうしたスポット的な話題とは別に,全国的に前回(第18回)は無投票当選(県議,町村議20%

超,首長選約30%)が多かったが,この流れを変えることができるかどうか.更に女性のいない女 性ゼロ議会が地方議会の 2 割を占める日本.女性議員比率が13%と世界でワーストワンに近いこの 状況を今回,汚名返上できるかどうかも注目された.

(3)

2 .第19回統一地方選挙を総括する

結果はどうだったろうか.2019年 4 月に行われた第19回統一地方選挙では,全国の都道府県,市 区町村の約27%に当たる自治体で首長,議員選挙が行われた.そもそも 3 分の 1 にも満たない統一 率をもって「統一地方選挙」というネーミング自体がふさわしいかどうか疑われる状況だが,とも かく同年 7 月に行われる予定だった参院選の前哨戦という振れ込みで注目された.だが,人口減少 が問題視されていながらそれ自体は大きな政策争点にならず,大阪など特別な紛争テーマや知事の 保守分裂選挙となった幾つかの選挙以外は総じて「低調」なものだった.

統一選の前半戦( 4 月 7 日)の道府県と政令市,後半戦( 4 月21日)は市区町村選挙だったが,

いずれも傾向としてはそう大差ないもので盛り上がりに欠けたというのが総括的な見方である.特 に問題にしなければならないのは投票率の低さと無投票当選の多さだ.

前半戦について分析すると, 1 つに投票率が低く有権者の半分も投票に行かなかったことであ る.11道府県知事選の平均投票率こそ47.72%と前回(2015年)の47.14%とそう違わないが,41道 府県議選になると44.02%と前回(45.05%)を下回り,33道府県で戦後最低の記録を更新してい

図 1 統一地方選挙における投票率の推移

注:昭和22年の市区町村議選の内訳は調査していない.

出所:総務省「地方選挙結果調」等を基に作成.(本調査は,統一地方選挙の際に実施したもの)

(%)

81.6582.99 77.24

79.48 76.85

71.48 72.94

74.13

69.39 68.47 66.66

60.49

56.23 56.7 52.48

52.25 48.15

45.05 44.02 72.92

62.26

65.09 65.6

57.65 59.87

64.43

57.8 60 58.32

51.82

48.44 50.69

47.7 48.92 47.59

44.28 43.28

90.56 85 85.81 82.32

77.9 78.18 77.59

76.1 75.25 70.31

65.39 60.25 61.1

56.74 57.44

50.82 48.62

45.57 75.3

61.51 65.4

59.48 69.78

73.45

55.49 56.09 54.43 50.94

48.97 43.69

47.36

43.23 44.51

43.23 42.81 42.63 95.92

92.33 92.5 91.5 91.53 92.43 92.67 92.46 92.19 90.26

87.18 83.42

82.1 77.76

71.49 66.57

64.34 59.7

40 50 60 70 80 90 100

昭 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 平 3 7 11 15 19 23 27 31

41 道府県議選 17 政令市議選 市議選 特別区議選 町村議選

(4)

る.実施された17政令市議選も43.28%と前回(44.28%)を 1 %下回った.

統一選の投票率は戦後間もない頃は 8 割を超えていたが,以後右肩下がりが続き,前回ついに 5 割を割り込み,今回も下げ止まらなかった.県議選で香川は前回より10ポイント以上下がり 38.40%,大分でも前回を 9 ポイント,岐阜でも 5 ポイント以上下回った.

投票率が 5 割を超えたのは福井,島根など 8 道府県だけだが,これらの県は知事選が保守分裂選 挙となり関心が高かったのが要因とも言える.17政令市議選も10市が史上最低を記録し,広島など は前回を6.15ポイント下回る36.53%だった.

投票率の低下という点ではその後行われた(同年 7 月21日)参議院選挙も 5 割を切り,48.80%と 低調なもので,統一地方選挙の流れを変えるものとはならなかった.

参議院選挙もそうだが,特に身近な政治の行われる地方政治において,今後 4 年間の地域政治の 方向を決める選挙に半数以上の有権者が行かなかった.この事態を重くみなければならない.いっ たいこの要因は何なのか,ただ下がり続けるのを眺めている訳にはいくまい.地方議会制度のあり 方も含め,地方選挙制度の抜本的な見直しを検討する時期にきているのではないだろうか.

もう 1 つ,道府県議選で 4 割近い選挙区が無投票当選だったということである.前回(2015年)

も 3 割を超えていたが,そのときは主に農村県の 1 人区に多かったのが,今回は広島市,京都市な ど大都市の人口の多い政令市区域の道府県議選にまで広まったことである.これをどうみるか.従 来から府県の役割を政令市に移譲しているにもかかわらず,その区域から選出される道府県議の数 は多く役割が不明確という,政令市議と道府県議の「 2 重政治」が問題視されていたが,ここにも 無投票当選の現象が出てきたということは.もう看過できまい.

そもそも無投票当選は「当選」なのか.有権者は 1 票も投じていないし,当選と言われた当人も 1 票も得ていない.実際選挙活動もなく,有権者は代表として選んだ覚えもない.例外措置として 認めてきた日本特有のこの制度も,ここまで来るとその廃止も含め検討せざるを得まい.と言うの も無投票当選は,有権者から投票機会を奪い,政策選択も人物選択もなく,「代表」という政治的 正当性を与えたとはみることができないからだ.選挙の便宜上の例外措置とされてきた.しかしそ の「例外」が全体の 4 割も占め「一般化」するようになった以上もう放置できまい.代表制民主主 義の根幹から崩れていると言わざるを得ない.

そうした中で少し朗報なのは「女性」の当選者が道府県議選で過去最多の237人になったことで ある.前回より1.3%増えた.ただ改選定数(2277人)の 1 割少々(10.4%)に止まる.今回の候補 者では男女均等法の制定がプラスに作用したと言えるが,国際比較で言うとワーストワンのレッテ ル返上までには程遠い.区市町村選で 2 ~ 3 割女性議員が占めるという自治体も出てきたが,大き くは道府県議選と同じである.生活者の半数超が女性である現実からして代表が 1 割というのは代 議制の仕組みとしてもおかしい.女性進出にさまざまなバリアがあるが,クオータ制導入を含め今 後更なる改善が求められる.

(5)

3 .問われる地方議会,議員のあり方

( 1 )二元代表制下における地方議会

基本に立ち返って「そもそも」論を確認しておこう.日本の自治制度は,執行機関である長と議 決機関の議会を分けて選挙する「二元代表制」を採用している.議会メンバーだけを選挙しその多 数派が内閣を形成し執行機関となる,いま国が採用している一元代表制とは違い,日本の地方議会 には与党も野党も要らない.

首長の提案に個々の議員が「是々非々」で臨むのが正しい.ただ実際の行動様式をみると,国政 の仕組みと同じだと勘違いし,首長を無原則に支持する与党意識の議員が多い.日本全体でオール 与党化した地方議会が多いのではないか.これは基本的に誤りである.

地方議会が決定者,首長はその執行者である.この政治制度はもともと議会に政治的主導権があ ることを想定しての制度であって,首長に粛々と寄り添うことなど期待していない.議員 1 人ひと りが所属会派など関係なく,住民の 1 代表として首長に論戦を挑み,組織機関としての議会が修正 すべき点は修正する,これが地方議会の本質的な形である.

地方議会は自治体の議決機関だが,その役割は審議決定機能に止まらず,監視,提案,民意の集 約など幅広い役割が期待されている.個々の地方議員もそれぞれが決定者,監視者,提案者,集約 者の役割を持つ.しかも二元代表制は機関対立主義の考えから,議会と首長は互いに抑制均衡関係 を保ちながら,民意を鏡のように反映する自治体経営が期待されている.首長の提案に批判的な視 点を有し対案を出したり修正したりと,議会は自治体の内部統制,ガバナンスを確保する点では広 義の野党的役割が期待されていると言えよう.

この議会に代表を送り出すのが選挙だが,現在の状況はよくない.先にみたように投票率も極端 に下がっている.戦後初めて選挙では首長,議員とも90%近かったが,その後下がり続け,前回

(18回)ついに軒並み50%を割り込むところまで落ちた.今回(2019年)から初めて18歳に選挙権 を広げての統一地方選だが,投票率の回復はみられたか.答えは否である.

統一地方選挙に限らず,最近の地方選挙は①投票率の低下に加え,②無投票当選の急増,③無風 選挙の蔓延,④候補者のなり手不足,⑤過少な女性議員,過多な高齢議員という構造的な問題を抱 えている.これをどう解決していくかは日本の民主主義の危機克服の課題である.

( 2 )無投票当選の増大

この投票率の低下と無競争当選,無風選挙,なり手不足は密接に関係している.有権者の 2 人に 1 人しか投票しないという投票率低下現象は,政治参加や政策選択という点で大きな問題だが,そ れよりも有権者が 1 票を投ずることなく当選者の決まる無競争当選や事実上投票前から結果のみえ

(6)

る無風選挙の広がりはより深刻な問題を孕んでいる.なり手不足の問題を含め,私たちはやせ細る 草の根民主主義の足元をどうみたらよいのか.

民主主義は,身近な政府に住民が参加し税のゆくえを操作できる.それが基本だが,それを担う 代表を選ぶのが「選挙」である.そこで “当選” とは何を意味するか考えてみよう.大森彌氏がわ かりやすく説明している(『現代日本の地方自治』64-65頁)

「権力行使の免許状の書き換えを 4 年ごとに行う」のが選挙.「選挙から選挙の間に,住民の代表 として信託を受けた政治のプロとして著しい落ち度があった時の免許状の取り消し」がリコール

(解職請求)であり,落選させる意味だ.代表について「首長と議会が自治体としての意思を公式 に決定できる権限を持つのは,選挙を通じて民意の審判を受け,代表者であるとみなされる」から だと言う.

この “みなす” というのは「 1 つの擬制(フィクション)」であって,「もともと違う人間が別の 人間の意見や利害を代わって表現はできないが,“代表” という考えは,本来できないことを約束 事としてそうみなそうという工夫なのだ」.その代表の地位を与えるのが選挙であり,この擬制を 現実の形にするのが「投票箱」という訳だ.有権者の投ずる 1 票が「あの何の変哲もない箱を通過 すると,神聖な一票に変わる」「民の声を天の声に変えるマジック・ボックス」それが投票箱だ.

「民の声という眼に見えないものを,見えるものに変える手続きの 1 つが “選挙” だ」というので ある.じつに明快な説明ではないか.

この説明に沿うと,前回(18回目)の道府県議選では全選挙区の約33%に当たる321選挙区が無 競争となり,総定数の約22%の501人が当選している.これは戦後一番高い割合で,続く市区町村 長選,議員選でも高い割合で無競争当選者が続出した.

今回(19回)は全体で言うと,都道府県で26.9%,町村で23.3%,指定都市で3.4%,一般市で 2.7%が無投票当選者で占められた(図 2 を参照)

筆者からすると,もともと「無競争当選」ということを認める制度自体がおかしいとなるが,一 歩引いて,仮に選挙便宜上無競争当選を容認したとして,果してその当選者に政治的正当性(免許 状)があると言えるかである.

有権者からすると,その方に免許状を与えた覚えはないし,当選した本人も(喜びは別にして)

獲得票はゼロ票だから免許状を与えられた覚えもないということになる.いくら擬制(フィクショ ン)と言われても,これは架空以外の何物でもない.これまで選挙便宜上,例外として認めてきた 無競争当選という制度も 2 割, 3 割, 4 割と無競争当選者が増える状況になっているいま,これを 放置してよいはずがない.

こうした無投票,無風,なり手不足の急増は,次のような要因が複合している.

第 1 は,この20年近く経済成長率ゼロのなか,税収も増えず,パイが縮小し,政策をめぐる裁量 の余地が極めて少なくなり,議員の活躍の場の喪失感が増大している.

(7)

第 2 に,若年,中年層を中心に職業の安定志向が強まり,あえて 4 年ごとにリスクを負う政治家

(議員)に挑戦しようという気概(政治家の魅力も)が失せてきている.

第 3 に,議員に選抜される母集団が構造的に狭く,サラリーマン社会にもかかわらず,サラリー マンが議員を兼ねることができず,自営業者か無職者のみの戦いになっている.

第 4 に,議員報酬の削減などが続き,経済的な魅力にも欠け,相次ぐ定数削減で新人の出る余地 が狭まり,現職の議席既得権化が進み,新人の当選可能性が低下している.

第 5 に,政務活動費の使い方が不適切とマスコミ沙汰になることが多く,議会活動への信用を失 い,一部議員の劣化などが加わり地方政治全体の国民の信頼度が落ちている.

人口減少も進むなか,相当大ぶりな抜本改革をしない限り,議員のなり手不足や無投票当選の解 消,女性議員や若手議員が増えるということはなかろう.では,どうするかである.

1 .都市部及び中小自治体の議会に,土日夜間開催を法的に義務付けてはどうか.

2 .会社員が勤めながら議員を兼職できる「公職有給休暇制度」を創設する.

3 .極端に高齢層,男性層に偏っている現状を変えるには,定数の中に年齢枠と女性枠を設ける こと.性別クオータ制(割り当て)を入れ, 3 ~ 4 割の女性枠創設,年齢別クオータ制で20~

40歳代が 4 割,50~70歳代が 4 割,残り 2 割は年齢枠外でその他自由にすればよい.

クオータ制や公職有給休暇制など国の法整備が必要なものもあるが,土日夜間議会化などは各自 図 2 統一地方選挙における改選定数に占める無投票当選者数の割合の推移

注 1 :第 1 回,第 2 回統一地方選挙の際は調査を実施せず.

注 2 :市については,東京都特別区を除く.

出所:総務省「地方選挙結果調」等を基に作成.(本調査は,統一地方選挙の際に実施したもの)

都道府県議会議員選挙 指定都市議会議員選挙

市議会議員選挙 町村議会議員選挙

(町村)

(市)

(指定都市)

(都道府県)

2.8

9.5 9.3 8.7 8.4 5.0

18.3

3.0 6.9 21.8

21.1

16.8 19.5 16.4 17.6

21.9 26.9

0 0 0.5 0 0 0 0.8 0

5.0

1.5 3.8

1.2 3.7

1.4 0 1.7

3.4 0.4 0.5 0.7 0.4 0.3 0.3 1.4

0.7 1.4 2.1

1.8 0.42.7

1.9 1.6 3.6

2.7 12.0

7.2 4.7

2.6 4.6

3.4

8.8 9.812.6

19.7

14.6

11.8 23.3

13.2

20.2 21.8 23.3

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0

昭 30 34 38 42 46 50 54 58 62 平 3 7 11 15 19 23 27 31

(8)

治体の努力で何とでもなる.既に議会基本条例,通年議会化,政務活動費の適正化,定数・報酬の 大幅見直し,住民との連携議会など主体的に改革する議会も出ている.「民意を鏡のようには反映 できる議会」づくり,その意識改革が重要となってきた.

( 3 )問われる政務活動費の使い方

地方議員の政務活動費の不正が相次いで発覚している点も問題である.報じられるたびに地方議 員の信用が落ち,値が下がっている.以前,富山市議会では領収証の改ざんなどの手口で不正に政 務活動費を受給していた議員が連鎖的に辞職を表明し,14人も芋づる式に辞職する始末.他の議会 でも類似の不正が次々に発覚し,辞職する議員が出てきた.従来はいろいろ方便を使い辞職まで至 る議員は少なかったが,今回の特徴は説明責任を果たすことなく去る「辞職」の方法が目立つ.

辞めてしまえば,それで終わり―日本的な文化のような感じがするが,果してそうなのか. 4 年前,都知事の舛添要一氏が政治資金などの公私混同疑惑に答えることなく辞職したケースが,引 き金になっているような気もする.だが辞めても「説明責任」は残る.税金を不正に使った以上,

市民の疑問,不満,疑惑を解消する責任,それが説明責任でありアカウンタビリティを果たすとい うことである.

地方議員は特別職非常勤公務員という身分にある.議員を辞めたとしても,説明責任はしっかり 果たさなければならない.

政務活動費(以前は政務調査費)は,地方議員に対し月額報酬とは別に「議員の調査研究その他 の活動に資するために必要な経費」として支給されている.支給額は自治体の規模で大きく異な る.町村のなかにはこうした経費の予算措置がないところも多いが,政令市や都道府県,県庁所在 市では相当額に上る.最も高額なのは東京都議会で,議員 1 人当たり年間720万円である(現在の 小池都政下では都民ファーストなどが多数を占めているので減額し600万円だが)

2000年以降,地方分権改革により,地方自治体の自己決定,自己責任の業務領域は飛躍的に増え た.それに伴い,議会の決定事項も監視事項も拡大し,更に議員立法などの必要性も高まった.そ れをサポートする費用として政務調査費が法制化され,数年前から「プラスその他の経費」が加わ り,政務活動費になった.こうした経緯から,本来はよりよい地域の政治を行うよう,地方議員の 政治活動をサポートするためのカネだが,それを不正にただ懐に入れようとする行動に出,本来の 趣旨を捻じ曲げてしまった.

「第 2 生活費」だと思いこむような使い方,これは「その他」の項目を加えてからより強まっ た.パート代,チラシ,会議費,ガソリン代,事務所費,旅費など,およそ「調査研究活動」など とは言えない支出項目が, 6 割も 7 割も占めるようになっているところもある.

このように第 2 生活費として使うなら,これは廃止した方がよい.この種の費用は自身の議員報 酬から支払われるべきものだからである.しかし,せっかく地方分権を進め,地域のことは地域で

(9)

決める国づくりを始めた訳だから,その流れを止めないとすれば,地方議会,地方議員が変わらな ければならない.地方議員がこの国を悪くしてはならない.

( 4 )政策立法活動の活性化

筆者は『地方議員の逆襲』(講談社現代新書,2016年 3 月刊)という著作などでこれらの問題を以 前から指摘してきたが,政務調査を止めるような改革には賛成でき兼ねると書いてきた.むしろ少 額のところは増やす方向で考え,使い道の有効化を図るべきだと唱えてきた.なぜなら,国会に代 わって地方議会が公共支出の決定者に置き換わっているからである.

では政務活動費の不正防止をどうするか.第 1 は,透明性を高めることだ.市民に対し,収支報 告書や領収書の本体を全面公開すること.第 2 は,現在のような事前に予算として渡すやり方を廃 止し,全て領収書を添付の上,実績払いに改めること.そして第 3 にその領収書を含め,支出内容 について第三者のチェック委員会で 3 ヶ月ごとに監査すること.第 4 にこの経費を使ってどんな成 果があったかを毎年文書で提出させ,場合によっては市民向けの公開発表会を開くこと.

第 4 の点はむしろ市民の監視というより,議員の政策発表の場になると考えれば,再選をめざす 議員にとってはPRの最大の機会ともなる.ともかく,角を矯めて牛を殺すのではなく,牛が大き く育つよう前向きの改革をめざすことである.

もっと前向きな話をするなら,各広域圏で政務活動費の半分程度を出し合い「○○広域圏地方法 制局」をつくったらどうか.国の衆議院,参議院には内閣法制局とは別にそれぞれ議員立法を支え る法制局がある.この考え方を地方に入れたらどうか.

各議員はレポート用紙 1 枚に問題意識を羅列する.それをベースに非常勤で雇った法科大学院出 の法制局員が条例化してくれる.こうしたサービスがどんどん行われるようになったら,地方議員 の政策(条例)提案は飛躍的に増えよう.

ともかく,議員報酬,議員定数の問題と併せ災い転じて福となす改革が各地からどんどん出てく ることが期待される.

( 5 )小規模議会のあり方

話は変わるが,人口規模の小さな自治体の議会のあり方が存亡を含め問題になっている.平成大 合併が盛んな頃,人口 1 万人未満の町村を小規模自治体と呼んで問題になったことがある.そうし た小規模自治体で地方議会を置くべきかどうか.特に人口千人未満の小規模な自治体では問題が深 刻だ.発端は高知県大川村(人口400人)で,議会を廃止し,村総会で自治体の基本的な予算,条 例などを決めて行こうという話が出たことに始まる.同村では,2015年村議選で定数 6 を超える立 候補者がなく,現職 6 人が無投票で当選している.

今後とも「議員のなり手がない(不足)」といった理由もあるとされるが,無投票ということが

(10)

続けば,果して当選といってもその議員に住民を代表する政治的正当性があるのかどうかも問われ る.よって議会そのものの存在意義をも問題視しているともみえる.2019年の統一地方選では,全 国で行われた町村議選では23.3%が無投票当選となっている.

中には定数に満たないまま全員当選となったところもある.これは,小規模町村に限らず,人口 3 ~ 5 万人程度の市町村に広げてみても,状況は似たり寄ったりだ.府県レベルの議員選挙でも前 回は 5 人に 1 人は無投票当選だった.人口減少が全ての理由ではないにしても,草の根から民主主 義の仕組みが枯れているのが実際である.

筆者は,小規模な自治体では住民総会で決めてよいと考えている.規模や地域特性に関わりな く,一律に定めた日本の 2 元代表制自体が実態に合わなくなっているとも考える.

要は予算や条例の決定,執行機関の監視,また住民の民意の反映は「議会」という装置を通さな ければできないのかどうかだ.議会は絶対かどうか.議会自体に機能不全が視られる現状からその 打開策として有権者が一堂に会する「住民総会」を開く方法も選択肢にあろう.

公選議会は廃止し,公選の首長に予算編成,主要契約,条例作成など全権を委ね,執行活動を チェックする「監視機能」に限定した「評議員会」をおく.問題のある首長は住民総会で解任でき るようにする.実費弁償で集落別に出した評議員が 4 半期ごとに行政を統制する道もあるのではな いか.いろいろ工夫してみるのが自治の姿でもある.

( 6 )総務省研究会「町村議会のあり方」報告

そうしたなか,総務省の「町村議会のあり方」研究会が2018年 3 月末に報告書を出している.現 在の制度に加え,①少数の専業議員による「集中専門型」議会と,②多数の非専業議員による「多 数参加型」議会という 2 つを加えるという話だ.狙いはいずれもなり手不足の解消にある.これを 受け,第32次地方制度調査会もそれを審議の対象に置き議論を進めている.

今回の研究会提案は地方議会を変えるキッカケとなる点で評価するが,地方議会制度の根幹を揺 るがす論点も含まれており,実行に移すには十分な検討,吟味が必要だと思う.

まず第 1 .集中専門型だが,少数の議員が専業で政策立案に関与することを想定し,生活給を保 障する水準の十分な議員報酬を支給すべきだという.少数議員からなる議会で心配される多様な民 意の反映は任意で選んだ議決権なしの「議会参画員」で補うという.

ここでひとつ問題にしたいのは,少数議会だから常勤職にして生活給を保障する報酬(実質上給 与)を与えるという点だ.現在,地方議員は非常勤特別職公務員の扱いで,給与ではなく,日当を 積算した報酬を払う仕組みにある.もちろん,報酬額はさまざまで政令市議や県議などは1000万を 超える年俸額が払われており,実質生活給を保障しているものに近い.

ただ,この点に不満,不信を抱く住民が多いのも事実.出勤日数や活動実績からして高すぎると 批判される.日当10万円以上に相当する,こんな法外な日当を得る職は地域には他にないと.議員

(11)

特権であり,下げろという世論すらあるくらいだ.当該議員側の言い分としては,事実上専業に近 いほど忙しく生活給の保障なくしてはとてもやれない,という反論があるのも事実だが.

そうした中,なぜ財政上も非常に苦しく補助金,交付金に 8 割近くの財源を依存している小規模 自治体の議員に高額の報酬を払い生活を保障すべきだという話になるのか.なり手不足の解消にな るかも知れないが,フルタイマーの常勤職員と同じような量と質の仕事があるのか.

第 2 .多数参加型についてだが,非専業であり,土日夜間開催ならサラリーマン等も参画できる ので裾野を広げる発想からは理解できる.だが,提案では契約の締結などを議決案件から外すし議 員の仕事量,負担を軽減し,報酬は副収入水準に下げる.契約などの案件を外すので,自治体と請 負関係にある法人役員も他地域の公務員も議員になることを認めようという話である.

確かに,議員人件費を増やさず人数を大幅増にするという問題意識には賛同するが,裾野を広げ 議員数を増やす措置が,なぜ議会の権限を縮小し主要な契約締結権や財産処分権の決定権限を議会 から奪う話につながるのか意味が分からない.議会の権限を強めないと現在の首長優位性から脱却 できないという時代状況からすると,本末転倒の話になっている.

むしろ,今後とも利害関係人や公務員を外すことは継続し,むしろ議会の議決事項を拡大し,議 員幹部会でまず協議し,それを全体に諮ることで首長優位性に伴う諸問題を解決する方向を志向す べきではないのか.

「なり手不足」を解消する苦し紛れの提案だが,この先,制度改革を進めるなら「自治の原則」

を大切にし,地元の創意工夫に委ねる発想を取るべきではないのか.一部の有識者や現場を持たな い官僚のイメージした制度を押し付けるのではなく,この提案をしばらく各地の地方議会の議論に 委ねてみたらどうか.第 3 ,第 4 のアイディアが出てくるのではないか.

第32地制調答申がどうなるか分からないが,変に法制化しコントロールしようという考えなら,

むしろ逆効果が想定される.より地域に合った多様な創意工夫が生まれる余地を封じてしまうから だ.そうでなくとも,地域事情も規模事情も加味できない日本の画一的な自治制度だ.シティマ ネージャー制や一元代表制など選択肢の多い欧米の議会制度に学ぶべき時である.

「議員のなり手がない」という点だけでも,背景には根の深いものがあるが,それは基本的に議 員に選抜される母集団が構造的に狭いという点にある.サラリーマン社会にもかかわらず,サラ リーマンが議員職を兼ねることができず,勢い自営業者か無職者のみの戦いになっている.事実 上, 8 割近くを占めるサラリーマンが公職につくこと排除している.

これを解決するには,例えば,本業は会社員で日常を送るようにし,公職としての議員活動がで きるよう,土日・夜間開催議会へ議会の置き位置をシフトするとか,年齢別の当選枠の設定や女性 比率を定めるクオータ制の導入など,いろいろ考えられる.

解決は,何といっても 8 割近くを占めるサラリーマンが議席を持って議会活動ができる仕組みに 変えることができるかどうかだ.そこが最大のポイント.会社員の労働法制を変えること(公職休

(12)

暇制度)や,時間帯を夕方の「 5 時から議会に変える」などの改革が急務である.

4 .最大の争点は人口減少の問題

選挙は人を選ぶ機会でもあるが,それ以上に政策を選択する機会だ.では何が争点にならなけれ ばならないか.それは都市部,農村部で,あるいは大都市圏,地方圏で課題が異なるが,共通的に 言えることは国,地方を問わず人口減少に立ち向かう様々な問題の解決である.医療,介護,年 金,福祉,子育て,少子化,空き家,労働力不足から,地域の衰退,税収不足,集落の崩壊,外国 人労働の受け入れまで多方面にわたる.

最近,街中を歩いても,地方の商店街を歩いても,農村の畦道を歩いても,出会う人の 3 人に 1 人,ないし 2 人に 1 人が高齢者であることが多い.また子供の手を引く親も少ない.連れていても

1 人の子を連れ歩く姿が多い.これが少子高齢化の現実の風景である.

シャッター通りが増え,次々と空き家が増えている.中心街なのに更地化されガランとした駐車 場らしきものがいやに目立つ.否が応でも人口減少と地方衰退の証のような風景が目に飛び込んで くる.これが筆者のよく見る一般的な地方都市,街の風景である.

大都市の少子化対策には必ず待機児童問題が出てくるが,地方にはそんな話はない.高齢化対策 でも孤老死を防ぐため自治体職員が 3 日置きに「声かけ」に戸別訪問を繰り返す,そんな仕事も地 方にはない.そうではなく,むしろ病院や買い物など街に出る「足」をどう確保するかが問題なの だ.困っている事はそれぞれ違う.だから高齢対策でもカネの使い方は地方に任せるべきである.

今の集権的地方創生ではなく,地方分権が必要なのである.少し具体的な話を述べてみたい.

地方の 3 ~ 5 万人規模の市だと,例えば少子化で言えば次の点が課題となる.①就学前の子育て 支援窓口の一元化,②義務教育終了までの子供医療費助成制度,③小学校施設内への放課後児童ク ラブの併設,④若者世代の移住促進(家賃の一部補助),⑤IJUターン促進への奨学金返済補助,

⑥「出会いから結婚,妊娠,出産,子育てまで」安心支援パッケージ事業,⑦引き続き住んでもら える新たな住宅施策,⑧地域社会と地域産業を楽しみながら支え合う「ひとの確保」といった施策 例だ.

一方,これが東京など大都市の区市になると,①小中学生の医療費全て無料,②保育園,幼稚 園,学校の急増設,③待機児童問題の解決,④通学路の安全確保,防犯体制の強化,⑤小学生対象 のシルバー先生による職業体験授業,子供支援教室の創設,⑥孤老死防止の声かけ運動,⑦子供を 犯罪から守る地域防犯,といった具合.

高齢化対策も,地方では①認知症予防や生きがい対策,②毎年体力テスト,認知テスト,③空き 家対策,コンパクトシティ化,④老いるインフラ対策,⑤活力ある労働力確保がテーマだが,大都 市では①定年延長,高齢者雇用アドバイザーの創設,②高齢介護施設の大量建設,待機老人対策,

(13)

③高齢難民対策,④交通事故防止等.

大都市,地方とも高度成長期にフルセットで整備した集会施設,体育館,野球場,学校などイン フラの老朽化で困っている.平成の大合併で重複施設の一定割合が使用停止となり,廃屋の可能性 も出ている.それをどうするかだが,人口減や景気低迷という構造変化で立ち往生しているところ が多い.インフラの将来について,どんな知恵を働かせるか.補助金制度が壁になる点もあるが,

いろいろ工夫すれば有効に活かせるはずである.

例えば,日本ではいま毎年約500の小中高校が廃校になっている.もし全てを解体すると数百億 円も掛かる.ただ子供がいなくなっただけで,施設はボロボロで崩れ落ちそうという訳ではない.

多くはまだまだ使える.だとしたら,知恵を働かせよう.ある所では2008年に閉鎖した小学校を改 修し「泊まれる学校○○小」という名称で 1 日 1 組限定の貸し出しだ.運動場からプール,調理室 まで使い放題がウリ.すると夏は大学生の合宿で賑わう.夜はキャンプファイヤー,肝試しと地元 民まで一緒にお祭りのような騒ぎとなる.

ある北国の町では, 3 つの廃校をほぼ無料で企業に貸している.ある企業はエアコンの組み立て 拠点を手狭だった本社からこの体育館に移し「ずいぶん広い工場ですね」と訪れる取引先が驚くほ ど広さを活かす.「廃校は建物が頑丈で雪や災害にも強い」と評判は上々.教室部分に本社機能を 移すほか,植物工場を立ち上げ,地元の人を10人以上雇っている.光熱費や設備改修費は全て企業 が支払うので地元自治体は大助かりと言う.

5 .東京一極集中と「大阪都構想」政争

人口減少の進む日本は,人口問題というと「数」の減少を問題にするが,それ以上に問題なのは

「偏在」の問題である.日本の人口問題は絶対数の多寡より,極端な地域偏在の方がより深刻な問 題だと考える.人口拡張期のトラウマで,食うために「景気だ!経済だ!」と経済成長率ばかり追 い求めた20世紀型政治から決別し,賢くたたむ,生活者起点の新たな日本づくりを目指すべきであ る.それが21世紀の政治課題である.その切り口を,この10年挑んできた大阪の維新政治は示して いる.大阪都構想はそのモデルとなる.

振り返れば,大阪は明治時代に商都として日本一繁栄し,「民都」の魅力を有していた.だが,

その繁栄も昭和45(1970)年の大阪万博までだった.半年間で世界から6500万人もの人を集め,昭 和39(1964)年の東京オリンピックをはるかに凌(しの)ぐ影響力があった.

しかし,昭和45年以降,大阪は右肩下がりの時代へ向い,関西経済の長期停滞が続くことにな る.その要因の 1 つは,人々が共有すべき大阪の将来ビジョンがハッキリしなかったことだ.府と 市の二元政治が,統合よりせめぎ合ういわゆる「府市合わせ」(不幸せ)構造でマイナスに作用し た.

(14)

現在,大阪は日本第 2 の都市とはいえ,本社機能をはじめさまざまな中枢管理機能は東京に奪わ れ,経済活動の大半は地場の中小企業が中心で低迷している.東京一極集中は大阪凋落の裏返しで もある.生活面も所得,貧困,失業,犯罪,治安,離婚,学力などデータでみる限り,数々の分野 でワーストワンに近い数値が並んでいる.

それを,旧来の公共投資を大量につぎ込む方法ではなく,統治の仕組み,意思決定の構造的欠陥 を取り払う方法で立て直そうというのが維新政治,「大阪改革」だろう.筆者はそうみている.自 民政治と一線を画し,地域政党「大阪維新の会」をつくり,大阪の市政・府政改革に挑んできた.

それにより二重行政の解消,地下鉄民営化,節減経費を教育投資に振り向けるなど,大阪の都市経 営を「身を切る改革」思想で切り盛りしてきた.結果,改革が進み,子供たちの成績ランキングも 上がってきている.

だが,現段階では,問題の本質が解けていない.構造的に低迷要因である司令塔の二元構造,財 政規模もほぼ同じ大阪府と大阪市,その指揮官である知事,市長の 2 頭立てによる「不幸せ」構造 は変わっていない.たまたま知事,市長が意気投合し,目指す改革方向を一体として進め,大阪の 都市経営が前進しているに過ぎない.人が変われば,仮に同じ政党に所属していてもこうなる保証 はない.

そうではなく,大阪都市経営の司令塔を一本化し,二度と過去に戻さないために,巨大な大阪市 を廃止して 4 つの適正規模の特別区に衣替えし,住民の基礎自治を充実する.一方で,広域行政は 府に統合し,大阪全体のかじ取りを担う「大阪都構想」は時宜に叶っている.だが,いよいよ本丸 の大阪市解体,特別区創設,府市統合へ進む段階になっていながら,さまざまな抵抗に遭ってい る.それが今のゴタゴタ騒ぎではないか.それを乗り越えるためのダブル選,クロス選ではなかっ たろうか.

6 .「大阪出直し」「ダブルクロス選」を診る

「出直しダブルクロス選」―何のことか分からない前代未聞の表現である.これは2019年 4 月 に起きた大阪での府知事,大阪市長の途中辞職による「出直し」選と,その際,候補者を知事と市 長が入れ替わって立候補するという「クロス」選の組み合わせのことである.あるプロジェクトや 大きな争点を抱えている首長が任期途中で辞職し,再び信を問うため立候補する,これを出直し選 というが,それに加え,そのプロジェクトに関わる 2 人の首長が同時に辞職し,しかもポストを入 れ替える形で立候補するというのがクロス選,それを組み合わせた表現がこれである.これでも分 かりにくいが,19年 4 月 7 日に投開票が行われた大阪「出直しクロス」選がこれである.

自治体としての「大阪市」を廃止し,東京23区のような「特別区」に再編する大都市制度改革,

これが” 大阪都構想 “だが,その実現が手続き的に難航するなか,それを突破するために大阪府知

(15)

事,大阪市長が任期途中で辞職し「出直し選」に打って出た.しかも,単なる出直しではなく,府 知事であった松井一郎氏が「大阪市長」選に,大阪市長であった吉村洋文氏が「大阪府知事」選に クロスする形で立候補するという他に類をみない「クロスダブル選」である.たまたま両氏とも

「大阪維新の会」の代表,政調会長と幹部であり気脈が通じている.共通の目標が大阪都構想の実 現だけに足並みが揃った.

なぜクロス立候補なのかと言えば,松井府知事,吉村市長の任期はそれぞれ今年の11月26日,12 月18日までだが,このまま知事と市長が入れ替わらずに 4 月の統一地方選で出直し選を実施し,松 井,吉村両氏が当選しても公職選挙法の規定により今年11~12月には任期を迎え,再び知事・市長 選を行わなければならない.どうみても, 1 年で同じ選挙を 2 回するというのは有権者の理解が得 られない.そこで入れ替わって当選するとそれぞれ任期が 4 年あるというのが理由のようである.

これで任期はそれぞれ 4 年となるが,ただ今回の出直し選のねらいは「都構想」の住民投票の実 施に見通しをつけ,来秋にでも都構想の是非を大阪市民(270万人)に問い,賛成多数を得て数年 以内に大阪市を廃止し, 4 つの特別区に移行するというシナリオがある.そこで住民投票で「賛 成」が過半数を占めると,大阪市廃止の準備が始まり, 2 年後には特別区に移行し大阪市はなくな る.すると新大阪市長は任期途中で失職することになる.それを覚悟の上でのクロス選なのであ る.

なぜ,ここまでして大阪都構想の実現にこだわるのだろうか.その理由はこれまでの大阪府市の 意思決定をめぐる「府市合わせ(不幸せ)」状況の解消を狙うもの.これまでの大阪は,業務中心 地を大阪市政が握っており,大阪府全体の行政を担う府政と言えども事実上大阪市域には手を出せ なかった.まさに司令塔が 2 つの二元構造だった.結果,府と市がバラバラに設置する類似施設も 多く,サービスの重複化も目立つ二重行政が目に余るものだった.それが大阪の発展,ひいては関 西の地盤沈下を招いて来た.

これをリセットし,大阪の司令塔は大阪都(都知事)に一本化する,きめ細かな対応のできる公 選区長,区議会が地域単位の都市経営を担う 4 つの特別区(基礎自治体)を創設する.これが,い わゆる「大阪都構想」でそれを実現することがこれからの大阪に不可欠だという認識にある.その 実現に住民投票で賛成を得ることが必要だということである.

それが実現すると,公選の首長,議会をもつ50~60万人の中核市並みの 4 特別区が誕生し,揺り かごから墓場までの住民生活の拠り所となる.大阪都構想は単なる府政,市政改革ではなく大阪の 意思決定の仕組みを変える,ここに出直し選まで構える理由がある.

2019年 4 月,大阪府知事,大阪市長が任期途中で揃って辞職し「出直し選」に打って出た.しか も単なる出直しではなく,府知事であった松井一郎が「大阪市長」選挙に,市長であった吉村洋文 が「大阪府知事」選挙にクロスする形で立候補するという,類例なき,前代未聞の「クロスダブル 選挙」だった.

(16)

結果は,府知事に吉村洋文氏(前大阪市長)が投票数の64.4%の票を得て,大阪市長に松井一郎 (前大阪府知事)が58.1%の票を得て,それぞれ当選した.さらに同時に行われた府議選でも維 新が大阪府議会の定数88の過半数を超える51議席(58%)を獲得,市議会でも定数83の40議席

(48%)を獲得するなど大きく議席を伸ばした.

この結果,維新対他の自公等との対決構造は大きく崩れ,維新主導で2020年秋に想定されている

「大阪都構想」の住民投票に向けて動きだすことになった.

有権者の多くがこの先,「都構想の改革を進めるべし」と判断するなら,大阪はこう変わろう.

今のかゆいところに手の届かない大規模市役所に代わり,公選の首長,議会を持つ60万人規模の中 核市並みの 4 つの特別区が生まれ,ゆりかごから墓場まで住民生活の拠り所となる.そこを拠点に 教育,医療,福祉,まちづくり,中小企業の支援など住民に直結した地方自治が営まれる.

これまでの大阪市の各出張所に過ぎなかった24行政区と違い,高槻市や豊中市並みの権限を持つ 4 特別区の誕生で市域に個性的なまちづくり競争が起こり,各区の自治体間競争によりもっと魅力 的な大阪づくりが行われていく.

一方で,広域行政の府市を統合すれば,大阪都知事を司令塔に大都市の一体性,リーダーシップ が強化され,大規模インフラの整備や都市開発,成長戦略など大阪の方向性は明確になる.大阪全 体でみると,面積も狭く過密に喘いできた大阪市内だけでなく,他の42市町村も含め広い視野に 立った広域政策が展開され,関西全体のけん引力が強化されよう.既に都知事一本化から70年経つ

図 3 大阪都構想(現行と対比)

仕事

サービス住民 広域行政

市町村 中核市

大阪府 大阪市

区長公選制

(二重行政解消)大阪都 大阪都構想 現行制度

自治区 権限・財源 権限・財源

権限・財源 区 区 区 区

出所)拙著『元気な日本を創る構造改革』(PHPエディターズ・グループ,2019年 2 月)120頁.

(17)

東京都政をれば,そのことがよく分かるはずである.

幸い今,大阪は上向き始めた.2025大阪万博,統合型リゾート施設(IR)の法整備など都市戦略 を組む手立ても揃い始めている.残るはこれを実現できる統治の仕組みを変えるところにある.万 博,IR,都構想の 3 点セットを三位一体で進める,これを「トリプルスリー構想」と呼んでよか ろう.このネーミングは前大阪市長の橋下徹氏によるものである.

万博,IRの 2 つにメドがついたいま,残る大阪都構想も2019年 4 月のダブルクロス選挙で維新 系首長が勝っているが,その流れの中で来秋にも住民投票の賛成で大きく前に進めたら,大阪は跳 躍台に立つ.この流れを止めるべきではない.

「万博には賛成だが都構想には反対!」という意見もある.しかし,かつての大阪五輪招致の失 敗など府市バラバラの政治で自滅してきた轍(てつ)を踏むべきではない.その時代に戻すこと は,特定の業界や一部の政治勢力にとって利益かもしれないが,若い人たちを含め大阪市民,府民 の全体の利益にはならない.経済界にとってもそうである.

その点,2019年 4 月の出直しダブル選は「住民投票をさせまいとする自公勢力との捨て身の戦 い」という様相が強かった.だが,残念ながら維新政治に代わる対案,大阪の都市経営,将来戦略 があっての戦いではなかった.かつて郵政民営化を断行した際の小泉純一郎首相が唱えた「抵抗勢 力」との戦いに近い.守旧派の抵抗の後に何が来るというのだろうか.そこがみえなかった.

4 年半前に行われた2015年 5 月17日の住民投票が「都構想」の最終決着とは筆者はみていない.

誹謗中傷も含め,流言飛語が飛び交う初の住民投票の現場をみていた筆者にとって,あの結論は ざっくり「誤差の範囲」「答えを出すには時期尚早」という住民の平衡感覚の証のようにみえた.

19年 4 月の出直し選挙中,「 4 年前に全て決着がついた」,「終わったものを蒸し返すのはおかしい」

と喧伝する候補者がいたが,統治の仕組みを変える大改革が一夜で成った歴史はない.少し冷静に 過去の例を眺めてみる必要がある.

1 つの例は明治初期に行われた廃藩置県である.教科書的には明治 4(1871)年に約300の藩が 47府県に一夜にして統合されたかのように書かれているが,実際はそうでない.300の藩は同年に

3 府72県, 5 年に 3 府69県, 6 年に 3 府60県, 8 年に 3 府59県, 9 年に 3 府35県となった.

しかし,ここで逆に面積が大き過ぎるとの地域紛争が起こり,一部の府県で分割が行われ,明治 22年に 3 府42県(対象外だった北海道,沖縄県を除く)となった.18年間を要していまの47都道府県 の区域割りができている.民意を問う住民投票などない時代だが,権力的な上からの再編でもさま ざまな反対があり,これだけの時間がかかっている.

もう 1 つの例は昭和半ば期の「都制」創設である.昭和18(1943)年,戦時体制下で東京府と東 京市の統合で東京「都」ができているが,大正デモクラシー運動の時期を除いてみても,大正12

(1923)年の関東大震災時に改革が始まる.東京府内で約 7 万人も死者を出した関東大震災後,復 興過程で東京市とその周辺の人口が急増するが,東京市と周辺町村はそれぞれ行政管轄が違い,包

(18)

括行政ができなかった.

その打開のため,まず昭和 7(1932)年に東京市と周辺82カ町村が合併し「大東京市」(35区)

をつくる.これで東京府人口の約93%が東京市の帰属となり,府税総額の約96% も東京市民が納 める形となった.だが,府と市の所掌事務が異なり,なかなか復興も進まない.府市の分担を明確 にする必要から大正12(1923)年に都制案が出てくる.都知事公選などを盛り込む斬新な案だった が,時の政府の反対で潰れた.

しかし,以後も都制導入の議論は衰えず,結局第 2 次世界大戦のさなか,二重行政解消,帝都防 衛,生活物資補給,戦費捻出などを理由に府市合体が行われ,昭和18(1943)年に東京都が誕生し ている.都制度の提案から実に20年もかかっている.これだけ統治の仕組みを変えるのは難しい.

大阪都構想が一度挫折したから「終わり」というのは,歴史からみても早計過ぎる.

いま大阪は,都構想に一度「ノー」を突き付けた大阪市民も2025大阪関西万博の実施決定で賛成 派が多数になってきているようにみえる.世論調査(朝日新聞,2019年 4 月 1 日付)をみても「賛 成」(43%)が「反対」(36%)を上回っている.

大阪府市ではこの 4 年間,都市ビジョンがみえないとされた前回の反省を踏まえ「副首都ビジョ ン」を練ってきた.単なる都区改革ではなく,大阪を副首都にふさわしい風格ある大都市に育てて いくための「都構想」であるという都市政策の視点から有権者に広く説明していくことが大事であ る.

7 .むすび―真の豊かな国づくり

日本政府の現状は安倍政権の長期化で弛んでいる.モリカケ問題,自衛隊の日報隠し,統計不 正,官僚の忖度,と目を覆いたくなるような事態が相次ぐ.日本の官僚機構そのものが肥大化し過 ぎ,弛みが生まれ,官僚のムラ社会を政治がコントロールできないようになっている.

これを変えるには,日本官僚制の組織規模の適正化を図ることが不可欠である.東京一極集中是 正のため,大阪都構想を実現し,大阪を副首都にする.そこに首都機能の 3 分の 1 を移す.併せて 日本を47都道府県制から約10州への統治改革を進め,各州が内政の拠点になるよう大胆に分権化 し,中央省庁はスリム化する.

日本の行政を「賢く,簡素で効率的な統治の仕組みに変える」その改革の先陣を切るのが大阪都 構想だ.「改革なき政治」風土を一掃し,人口減時代にふさわしい新たな「国のかたち」をつくっ ていく.大阪都構想を軸とする大阪の統治機構改革はそうした大きく深い意味を持っている.

現在の「改革なき政治」,特定の地域の規制緩和を図る国家戦略特区などで差配するのではな く,日本全体の経済規制を大胆に外し,政治行政の地方分権を進め,立法権や課税権を州に移す

「廃県置州」の政治改革を断行する時である.筆者はそう考える.

参照

関連したドキュメント

現在のところ,大体 10~40

エッジワースの単純化は次のよう な仮定だった。すなわち「すべて の人間は快楽機械である」という

「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない

Q7 

きも活発になってきております。そういう意味では、このカーボン・プライシングとい

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

【フリーア】 CIPFA の役割の一つは、地方自治体が従うべきガイダンスをつくるというもの になっております。それもあって、我々、

清水港の面積(水面の部分)は約1,300 万平方メートルという大きさです。