第
21
章 散乱の量子論粒子の散乱は,原子・原子核・素粒子の構造や,そこではたらく相互作用の性質を調べるの に有用な手段である。ここでは,簡単のため,散乱を定常状態で記述する。定常状態のシュ レディンガー方程式を,散乱の境界条件を課して積分方程式に書き直し,散乱振幅から微分 断面積を求める。また,前方散乱における散乱振幅の虚部と全断面積の関係式である光学定 理,及び,散乱行列のユニタリー性についても触れる。
21.1
散乱断面積21.1.1
微分断面積散乱現象を量子力学で記述することは,本来,入射粒子の波束と標的粒子が相互作用した 後,どのように時間発展して行くかを調べることである。しかし,通常の場合は,波束の時 間発展の代わりに,散乱を定常状態として扱うことができる。定常状態による記述の方が,
波束の時間発展を追うよりもはるかに便利である。従って,定常状態としての記述が不適切 であるような場合には,1つの入射粒子の波束と標的粒子の相互作用として波束の時間発展 を追って散乱現象を記述しなければならない。
標的
散乱粒子
θ
d Ω
微小立体角検出器
入射粒子 透過粒子
図
21.1:
散乱実験図
21.1
に散乱実験を模式的に示す。速度がそろった多くの粒子からなる入射ビームが,多くの標的粒子からなる標的に入射する。入射粒子の多くは相互作用せずに右へ進むが,一 部の入射粒子は標的粒子と相互作用して散乱される。以下では,入射粒子の波束の広がりは,
標的の中の標的粒子間の距離に比べて十分大きく,1個の入射粒子と1個の標的粒子の相互
作用の集まりとして,散乱が記述できるとする。また,簡単のため,入射粒子も標的粒子も 固有のスピン角運動量をもたないとする。
微分断面積
散乱を1個の入射粒子と1個の標的粒子の相互作用の集まりとして考えられるとき,ひと つひとつの粒子の相互作用を追う代わりに,微分断面積という考え方を導入すると,確率的 におこる散乱を記述するのに便利である。そのために,まず,単位時間当たりに微小立体角
dΩ
に散乱される粒子の数dN
を考える。dN
は入射粒子のフラックス(入射方向に垂直な 平面の単位面積に単位時間当たりに入射する粒子の数)j in
に比例し,微小立体角dΩ
にも 比例するので,dN = j in dσ
dΩ dΩ (21.1)
と表すことができる。このときの係数
dσ/dΩ
を(極座標の)(θ, φ)
方向への 微分断面積(
differential cross section
)と呼ぶ。一般に,dσ
は2つの角度θ
とφ
の関数である。単位入射フラックスに対する,単位時間に散乱される粒子の総数は,全立体角にわたる 積分で得られる:
σ tot = dσ
dΩ dΩ. (21.2)
立体角
dΩ
は極座標で表すとdΩ = sin θ dθ dφ (21.3)
であるので,上の積分は
σ tot = π
0 sin θ dθ 2π
0 dφ dσ
dΩ (21.4)
と表せる。これを 全断面積(
total cross section
)という。ところで,単位時間当たりに微小立体角
dΩ
に散乱される粒子の数dN
は,散乱粒子の フラックス(散乱方向に垂直な平面の単位面積を単位時間当たりに通過する粒子数)をj sc
として,dN = j sc r 2 dΩ (21.5)
と表すこともできる。十分大きな半径
r
の球面を考えると,その球面を貫いていく散乱粒 子の総数はN =
j sc r 2 dΩ = r 2 π
0 sin θ dθ 2π
0 dφ
j sc (21.6)
で与えられる。ここで,
(21.1)
と(21.5)
の左辺が等しいので,右辺が等しいとおいて,dσ = dσ
dΩ dΩ = j sc r 2 dΩ
j in (21.7)
が得られる。すなわち,
dσ
は,単位時間に単位面積に入射する粒子数に対する,単位時間に微小立体角dΩ
に散乱される粒子数の比である。断面積の単位
dσ
は面積の次元をもつ。実際,次元を長さの単位m
と時間の単位s
で表すと,(21.7)
の 関係式を用いて,[ j sc ] = [ j in ] = m −2 s −1
より[ dσ ] = m 2
となる。これより,入射粒子が微小立体角
dΩ
の方向へ散乱される確率は,入射方向に垂直 な仮想的微小面積dσ
に入射粒子があたったとき,dΩ
方向への散乱が起こるとみなして得 ることができる。原子核やハドロンを標的とするときには,その大きさが1 fm = 10 −15 m
程度であるので,バーン(barn
,記号b
)という単位1 b = 10 −24 cm 2 = 10 −28 m 2
が慣習的に用いられる。さらに断面積が小さいときには,
mb
(ミリバーン),μb
(マイク ロバーン),nb
(ナノバーン),pb
(ピコバーン)なども用いられる。21.1.2
波動関数の漸近形と境界条件時間に依存しないポテンシャル
V ( x )
による質量m
の粒子の散乱を考える。ここでは,散乱状態を定常状態として扱うので,エネルギー
E
が一定の場合の定常状態の波動関数を,時間に依存する因子と座標に依存する関数に分離する:
ψ( x , t) = exp − i E
¯
h t u( x ) (21.8)
波動関数
ψ( x , t)
を時間に依存するシュレディンガー方程式i¯ h ∂
∂t ψ( x , t) =
− ¯ h 2
2m ∇ 2 + V ( x )
ψ( x , t) (21.9)
に代入すると,
u( x )
が満たすべき時間に依存しないシュレディンガー方程式は− ¯ h 2
2m ∇ 2 + V ( x )
u( x ) = E u( x ) (21.10)
となる。これが,散乱問題で解くべき方程式である。
以下では,簡単のため,ポテンシャルは極座標の動径座標
r
だけに依存する場合V (r)
(中心力ポテンシャル)に限定する。シュレディンガー方程式
(21.10)
を解くには,境界条 件を指定し,それを満たす解を求めなければならない。ここでは,ポテンシャルは|r| → ∞
で| r | −1
より速く0
になるとする。これより,ポテンシャルの中心から十分はなれた領域で は,シュレディンガー方程式(21.10)
は自由粒子の方程式− ¯ h 2
2m ∇ 2 u( x ) = E u( x ), E = ¯ h 2 k 2
2m
より( ∇ 2 + k 2 )u( x ) = 0 (21.11)
になる。遠方での境界条件
図
21.2
に示すように,ポテンシャルが作用しない領域では,入射粒子は左から標的に向かっ て入射してくる平面波で表され,多くの粒子はそのまま透過波として右に進行し,標的の粒 子によって散乱された一部の粒子は外向き球面波で表される。右向きにz
軸をとって,入射平面波:
u in (x) = e ikz = e ikr cos θ , (21.12)
外向き球面波:u sc ( x ) = f(θ) e ikr
r (21.13)
と表せる。ここに,
f (θ)
を散乱振幅(scattering amplitude
)という。散乱振幅は一般に2 つの角θ
とφ
の関数であるが,中心力ポテンシャルV (r)
の場合にはθ
だけの関数になる。よって,
z
軸の負の領域から平面波が標的に入射している散乱問題に対応する 境界条件 は,r → ∞
の漸近形 で次のように表せる:u( x ) = e ikz + f (θ) e ikr
r ( r → ∞ ) (21.14)
なお,上に示した入射平面波と外向き球面波はポテンシャルが作用しない領域での漸近形で あり,ポテンシャルの作用が無視できない
r
の小さい領域では波動関数は複雑である。標的
外向き球面波
入射平面波 透過平面波
図
21.2:
散乱問題の境界条件入射平面波
(21.12)
がシュレディンガー方程式(21.11)
の解であることは明らかである。外向き球面波
(21.13)
の場合は,ラプラシアン∇ 2
を極座標で表して∇ 2 f (θ) e ikr r
= 1 r
∂ 2
∂r 2
f (θ)e ikr
+ 1 r 2
1 sin θ
∂
∂θ
sin θ ∂
∂θ
+ 1
sin 2 θ
∂ 2
∂φ 2 f (θ) e ikr r
= − k 2 f (θ) e ikr r + e ikr
r 3 1 sin θ
∂
∂θ
sin θ ∂f(θ)
∂θ
となるが,最右辺の第2項は
r −3
の因子をもつのでr
が大きいときには第1項に対して無 視できる。よって,外向き球面波(21.13)
も方程式(21.11)
の解になっている。散乱振幅と微分断面積
波動関数の漸近形
(21.14)
を用いて,遠方(r → ∞ )
における確率の流れから散乱の微分断 面積を求めることができる。確率の流れはj ( x ) = ¯ h 2mi
u ∗ ∇ u − ( ∇ u ∗ ) u
= 1 m Re
u ∗ ¯ h
i ∇ u
(21.15)
で与えられる。ここで,極座標で表した微分演算子∇
∇ = e r ∂
∂r + e θ 1 r
∂
∂θ + e φ 1 r sin θ
∂
∂φ , (21.16)
を波動関数に作用させると
¯ h
i ∇ u( x ) = ¯ hk
e z e ikz + e r f (θ) e ikr
r + O(r −2 )
(21.17)
となる。ここに,O(r −2 )
はr
の大きい領域では第1項と第2項に比べて無視できる。よっ て,確率の流れのr → ∞
での漸近形j ( x ) → ¯ hk m
e z + e r | f(θ) | 2 1
r 2 + ( e r + e z ) Re f (θ) e ik(r−z)
r ( r → ∞ ) (21.18)
が得られる。第1項(e z
向き)と第2項(e r
向き)はj z = j in = ¯ hk
m , j sc = ¯ hk m
| f(θ) | 2
r 2 (21.19)
で,それぞれ,入射ビームのフラックスと動径方向のへの外向きのフラックスを表している。
よって,微小立体角
dΩ
の中に単位時間当たりに散乱される粒子数dN
はdN = j sc r 2 dΩ = ¯ hk
m
| f (θ) | 2
r 2 r 2 dΩ = j in | f (θ) | 2 dΩ (21.20)
と表せる。これが,(21.1)
に等しいので,dσ = | f (θ) | 2 dΩ, (21.21)
よって,
dσ
dΩ = | f (θ) | 2 , (21.22)
すなわち,微分断面積
dσ/dΩ
を求める散乱問題は散乱振幅f (θ)
を求めることに帰 着する。21.2
確率の保存21.2.1
光学定理原点(標的,ポテンシャル
V (r)
の中心)を中心とする大きな球面に流れ込む確率の流れ と,球面を通して流れ出す確率の流れを考える。z
軸の負の領域から平面波が標的に入射し ている散乱問題に対応する境界条件(21.14)
は,r → ∞
の漸近形でu( r ) = e ikz + f (θ) e ikr
r ( r → ∞ )
と表され,これから得られる確率の流れの式(21.18)
はj ( r ) → ¯ hk m
e z + e r | f (θ) | 2 1
r 2 + ( e r + e z ) Re f (θ) e ik(r−z) r
= e z j in + e r j sc + ( e r + e z ) j in Re
f(θ) e ik(r−z) r
( r → ∞ ) (21.23)
である。確率の保存則は,一般に,∂ρ
∂t + ∇ · j = 0 (21.24)
と表されるが,今は散乱状態を定常状態として扱っているので,確率密度の時間微分は
0
で ある。よって,確率の流れは∇ · j = 0
を満たす。これより,大きな半径r
をもつ球面を考 え,その全表面にわたって確率の流れを積分すると0
になる:∇ · j = 0 = ⇒
V j · d S =
V j · e r r 2 dΩ = 0. (21.25)
これは大きな球面から球の内側に流れ込む確率の流れ(粒子数)と球面を通して内側から外 側へ流れ出る確率の流れ(粒子数)が相殺することを意味する。以下では,
(21.23)
の3つの項について,それぞれ,確率の流れを考えていく。(1)
第1項確率の流れの第1項は,
(21.19)
の第1式j in = j z = ¯ hk m = v
で,いたるところで一様な
z
軸の正の向きに流れる確率を表している。大きな半径r
の球 面に流れ込む粒子数と流れ出る粒子数の和は,e r · e z = cos θ
,dΩ = sin θ dθdφ
であるので,N 1 = e r · e z j in r 2 dΩ = j in r 2 2π
0 dφ
π
0 cos θ sin θ dθ
= j in πr 2 π
0 sin 2θ dθ = 0 (21.26)
となる。すなわち,球面に流れ込む粒子数と球面から流れ出る粒子数は相殺して差し引き
0
になる。(2)
第2項第2項は外向きの球面波から生じる項である:
j sc = v | f (θ) | 2 r 2 .
この項は
e r
の向き,すなわち,原点から外向きであるので,大きな半径の球面に外から流 れ込む粒子数は0
であり,球面全体から外へ向かって流れ出る粒子数は(21.20)
よりN 2 = e r · e r j sc r 2 dΩ = v
| f (θ) | 2 dΩ = v dσ
dΩ dΩ = v σ tot (21.27)
で与えられる。(3)
第3項第3項は入射平面波と外向き球面波の干渉項である:
N 3 = e r ·
( e r + e z ) j in Re
f (θ) e ik(r−z) r
r 2 dΩ. (21.28)
ここで,
dΩ = sin θ dθ dφ = d(cos θ) dφ
と書き直せる。
φ
についての積分は直ちに実行できて結果は2π
になる。被積分関数でz = r cos θ
を代入して,cos θ
について部分積分する:N 3 = j in 2πr Re
− 1 ikr
f (θ)(1 + cos θ) e ikr(1−cos θ) +1
−1
+ 1 ikr
+1
−1 d(cos θ) d d(cos θ)
f (θ)(1 + cos θ)
e ikr(1−cos θ)
. (21.29)
右辺の第1項は,cos θ = +1
(θ = 0
)とcos θ = − 1
(θ = π
)を代入してf (θ)(1 + cos θ) e ikr(1−cos θ) +1
−1 = f (0) · 2 − 0 = 2f (0)
となる。右辺の第2項の積分では,半径の大きい球面において
kr 1
であるので,e ikr(1−cos θ)
は1 − cos θ ≈ 0
を除いてθ
の小さな変化に対しても激しく振動する。つまり,積分に寄与 するのはθ = 0
の近傍だけである。よって,積分はO(1/(ikr))
の微少量であり,(21.29)
の 右辺において第2項は第1項に対して無視できる。従って,N 3 = v 2πr Re
− 2f (0) ikr
= − v 2πr − 2
kr Im f (0)
= − v 4π
k Im f (0) (21.30)
になる。ところで,大きい半径
r
の球面に流れ込む粒子数と球面から流れ出る粒子数が等しい(粒 子数の保存,確率の保存)はずである。よって,上で述べた3つの項の和に対してN 1 + N 2 + N 3 = 0, (21.31)
すなわち,
(21.26)
,(21.27)
,(21.30)
を代入して,0 + v σ tot − v 4π
k Im f (0) = 0
が成り立つ。よって,確率の保存より,次の関係式が得られる:
Im f (0) = k
4π σ tot . (21.32)
これを光学定理(
optical theorem
)と呼ぶ。入射粒子を
z
軸の正の向きに進む波束(x
軸方向とy
軸方向に広がりをもつ)とする と,j ( r )
の第3項は入射波と散乱波との干渉項である。入射波と散乱波が重なりをもつの はθ = 0
(前方)の近くとθ = π
(後方)の近くだけである。しかし,後方ではe r = −e z
であるから干渉項は0
になり,N 3
は前方での干渉からの寄与のみである:N 3 = − v 4π
k Im f (θ = 0). (21.33)
光学定理より,
N 3 = − v σ tot = e r · ( −e z v σ tot ). (21.34)
とも表せる。すなわち,干渉項はθ = 0
付近にz
軸の負の向きの流れ−e z v σ tot
があるこ とを意味している。つまり,入射粒子の流れから,散乱によって単位時間当たりにv σ tot
の 粒子が除かれ,入射平面波の強さが減少したことを表している。これによって,境界条件(21.14)
の妥当性が確かめられたと言っても良い。21.2.2
散乱行列のユニタリティ散乱行列
2粒子の散乱問題の時間に依存するシュレディンガー方程式は
i¯ h ∂
∂t ψ α ( x , t) = H ψ α ( x , t) =
− ¯ h 2
2m ∇ 2 + V ( x )
ψ α ( x , t) (21.35)
であり,ここに,ψ α ( x , t)
は全ハミルトニアンH
に従って時間発展する解である。また,α
は粒子の状態を指定するラベル(運動量など)である。ポテンシャルV ( x )
は,2つの粒子 が十分離れた,十分過去と十分未来では作用しない。このとき,シュレディンガー方程式は ポテンシャルを含まずi¯ h ∂
∂t φ α ( x , t) = − ¯ h 2
2m ∇ 2 φ α ( x , t) (21.36)
自由粒子の波動関数φ α ( x , t)
が解になる。すなわち,十分大きな正値T 1
に対してt < − T 1
が十分過去であると定義でき,このとき,ψ α ( x , t) = φ α ( x , t) ( t < − T 1 ) (21.37)
が成り立つ。同様に,十分大きな正値T 2
に対してt > T 2
が十分未来であると定義できて る。十分過去にψ α ( x , t) = φ α ( x , t)
であった波動関数は全ハミルトニアンに従って時間発展し,十分未来における自由粒子の波動関数
φ β ( x , t)
の重ねあわせで表すことができる。従っ て,内積S βα = ( φ β (t ), ψ α (t ) ) ( t > T 2 ) (21.38)
を定義すると,十分過去にψ α ( x , t) = φ α ( x , t)
であった波動関数が,十分未来に自由粒子の 波動関数φ β ( x , t)
で見出される振幅を表す。S βα
をβ
行α
列要素とする行列とみなすこと ができる。このような行列を 散乱行列(scattering matrix
),あるいはS
行列(S-matrix
) という。散乱での観測とは,全ハミルトニアンに従って時間発展する波動関数ψ α ( x , t)
を 自由粒子の波動関数φ β (x, t)
に分解してながめる操作に他ならない。散乱行列はユニタリー行列である:
S † S = SS † = 1. (21.39)
成分を用いて表すと
γ
S γβ ∗ S γα = δ βα (21.40)
γ
( S −1 ) ∗ γβ ( S −1 ) γα = δ βα (21.41)
となる。これを 散乱行列のユニタリティという。散乱行列のユニタリティは,散乱 振幅が確率を保存するために満たさなければならない最も一般的な条件である。
ハミルトニアンがエルミートであるとき,
H † = H (21.42)
シュレディンガー方程式
(21.35)
は確率を保存する。また,このシュレディンガー方程式の 2つの解ψ α ( x , t)
とψ β ( x , t)
の内積は時間に依存しない:∂
∂t
V d 3 x ψ β ∗ ( x , t) ψ α ( x , t) = 0. (21.43)
すなわち,任意の時刻における内積に対して,V d 3 x ψ β ∗ ( x , t) ψ α ( x , t)
t<−T
1= V d 3 x ψ β ∗ ( x , t ) ψ α ( x , t )
t
>T
2= δ βα (21.44)
が成り立つ。一方,自由粒子の波動関数{ φ α }
は完全系をなすので,シュレディンガー方 程式(21.35)
の解を展開できる:ψ α (x, t ) =
β
φ β (x, t ) c βα ( t > T 2 ) (21.45)
この式の両辺に
φ γ ( x , t)
をかけて内積をつくると,展開係数はc γα = ( φ γ ( x , t ), ψ α ( x , t ) ) ( t > T 2 ) (21.46)
と表せる。右辺は,散乱行列の定義式(21.38)
に他ならず,よって,展開式(21.45)
は散乱 行列要素を用いてψ α ( x , t ) =
γ
φ γ ( x , t ) S γα ( t > T 2 ) (21.47)
と書き直せる。この展開式を用いて,ψ β ( x , t )
とψ α ( x , t )
の内積をつくり,φ γ
の正規直 交性を用いると,( ψ β ( x , t ), ψ α ( x , t ) ) =
γγ
( φ γ ( x , t ), φ γ
( x , t ) ) S γβ ∗ S γ
α
=
γ
S γβ ∗ S γα
となるので,散乱行列に対して
γ
S γβ ∗ S γα = δ βα
が得られる。ここまでの議論を,シュレディンガー方程式の解と自由粒子の解を入れ替えて 行うこともできて,
γ
( S −1 ) ∗ γβ ( S −1 ) γα = δ βα
が得られる。前方散乱振幅は入射粒子と散乱粒子が同じ状態の場合(
β = α
)であり,光学 定理はユニタリティの特別の場合である。なお,散乱振幅
f (θ)
は入射平面波が散乱されずに透過した部分から生じるので,散乱行 列をS βα = δ βα − iT βα (21.48)
と表して,