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成人百日咳感染症が疑われ,Reye 様症候群を呈した 1 例 1)

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Academic year: 2021

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658

感染症学雑誌 第83巻 第 6 号 Table 1 Laboratory findingson admission

Coagulation test CBC

% 29.1 PT

/μL 5,800 WBC

sec 83.6 APTT

/μL 424×104 RBC

mg/dL 429 Fib

g/dL 11.8 Hb

μg/mL 7.1 FDP

% 34.4 Ht

% 25.7 HPT

/μL 17.3×104 Plt

% 37.6 AT III

Blood chemistry

Blood gasanalysis(O25L/min) g/dL

5.5 TP

7.388 pH

g/dL 3.2 Alb

mmHg 21.2 PCO2

IU/L 137 GOT

mmHg 95.2 PO2

IU/L 38 GPT

mEq/L 12.5 HCO3-

IU/L 894 LDH

mEq/L 6.5 AG

mg/dL 1.6 T-bil

mg/dL 0.6 D-bil

Endocrinology IU/L

317 ALP

μg/dL 6.7 Cortisol

IU/L 19 γGTP

pg/mL

< 5.0 ACTH

IU/L 340 ChE

IU/mL 2.12 TSH

μg/dL 90 NH3

pg/mL 1.8 FT3

mg/dL 13 BUN

ng/mL 0.5 FT4

mg/dL 1 Cre

mg/dL 92 T-CHO

Immunology IU/L

1,152 CK

pg/mL 6,830 IL-6

mg/dL 13.4 CRP

pg/mL

≦ 5 TNF-α

成人百日咳感染症が疑われ,Reye 様症候群を呈した 1 例

1)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・老年病学,2)鹿児島市医師会病院神経内科

池 田 賢 一

1)

園 田 健

2)

(平成 21 年 2 月 23 日受付)

(平成 21 年 7 月 21 日受理)

Key words : pertussis, Reyeʼs-like syndrome, adult

百日咳は,幼児に多いとされる疾患であるが,近年 成人における感染が増加しており注目されている.ま た,Reye 症候群は稀な疾患であるが,発症すると致 死率が高く,救命できたとしても重篤な後遺症を残す ことが多い.今回我々は,百日咳感染が疑われる病態 を契機に Reye 様症候群と思われる臨床症状を呈した 成人例を経験したので報告する.

症例:26 歳,女性.

主訴:意識障害.

家族歴,既往歴:特記事項なし.

生活歴:喫煙(−),機会飲酒.

現病歴:2004 年 6 月下旬頃長女(2 歳)に乾性咳嗽 が出現.同時期に夫,姑にも乾性咳嗽を認めた.7 月 3 日より乾性咳嗽が出現し,7 月 5 日 38℃ 台の発熱と 全身倦怠感があり,市販薬(1 錠あたりアセチルサリ チル酸 330mg 含有)を 2 錠内服した.7 月 6 日午前 中より軽度の見当識障害が出現.同日 16 時自宅で倒 れているところを発見され前医に搬入された.来院時 全身性強直性痙攣が出現し,採血で肝不全と著明な低 血糖を認め,画像上脳浮腫を認めた.気管内挿管後同 日鹿児島市医師会病院へ紹介され入院となった.

入 院 時 身 体 所 見:身 長 162cm,体 重 42kg,体 温 40.6℃,脈 拍 120!分,血 圧 70!50mmHg,呼 吸 数 20!

分.心音は正常で,呼吸音ではラ音を聴取しなかった.

腹部は平坦で,腸蠕動音は低下しており,肝を 2 横指 触知した.神経学的所見は,意識レベルは JCS で III- 300.頭位変換眼球反射陰性で,左方への共同偏視を 認めた.項部硬直,四肢麻痺を認め,筋緊張は低下し ていた.腱反射は全体に低下し,左 Babinski 反射が

陽性であった.

入院時検査所見(Table 1):GOT 137IU!L,LDH 894IU!L,NH390µg!dL と上昇を認め,前医搬入時 22 mg!dL と著明な低血糖を認めた.また,凝固時間は PT 29.1%,APTT 83.6 秒,HPT 25.7% と著明な延 長,ATIII 37.6% と著明な低下を認め,重篤な肝不全 が示唆された.血液ガス分析では,代謝性アシドーシ スと代償性の呼吸性アルカローシスを認めた.前医で の髄液検査では,初圧が 230mmH2O と上昇を認めた が,細胞数および蛋白の上昇は認めなかった.また,

前医で施行された腹部 CT では軽度の肝腫大および脾 腫を認めた.

入院後経過(Fig. 1):入院時の自他覚所見及び肝

別刷請求先:(〒890―8520)鹿児島市桜ヶ丘 8―35―1 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・

老年病学 池田 賢一

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成人百日咳感染症と Reye 様症候群 659

平成21年11月20日

Fig. 1 Clinicalcourse

PZFX ;pazufloxacin mesilate,MEPM ;meropenem, VCM ;vancomycin,TEIC ; teicoplanin

不全に急性の意識障害を伴っていることなどから Reye 症候群(NIH 病期分類 3 期)などの可能性が考 えられた.肝不全に対し,入院当日より血漿交換を計 3 回施行し,著明な改善が得られた.全身状態改善後

(第 10 病日)に肝生検を施行したが,非特異的所見で あった.入院翌日より肺炎に対しパズフロキサシンに て治療開始し,入院 7 日目の喀痰培養にて MRSA 検 出されたためメロペネムおよびバンコマイシンにて加 療行った.その後肝酵素の上昇認めたため,バンコマ イシンをテイコプラニンへ変更し軽快認めた.髄液圧 高値に対し D―ソルビトール・D―マンニトール使用 し,意識障害は徐々に改善してきていたが,第 19 病 日の髄液検査でも高値であったため濃グリセリン・果 糖注射液を使用した.脳浮腫は頭部 CT 上改善傾向に あった.第 29 病日に施行した頭部 MRI では,左前頭 葉を中心に T2 強調画像および拡散強調画像で皮質の 高信号域及び線状壊死の所見を認めた.脳浮腫および 痙攣重積に伴う低酸素血症の影響を考えて,高気圧酸 素療法を施行した.本症例は,アスピリンの使用歴,

臨床症状,血液検査などから Reye 症候群あるいは Reye 様症候群の可能性があると判断した.当初ウイ ルス感染に伴う Reye 症候群の可能性を考えて,イン フルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,

ムンプスウイルス,麻疹ウイルス,エコーウイルス 13 および 30,コクサッキーウイルス A9 および B6 につ いてペア血清にて血清学的検査を行ったが,有意な抗 体価の上昇は認めなかった.また,IL-6 の著明な上昇 などから何らかの病態でサイトカインストームが起 こっていた可能性が示唆された.入院経過中に,本症 例の 2 歳の長女が百日咳感染を疑われて加療中に全身 性痙攣を発症し,臨床的に百日咳脳症と診断されてい

ることが判明した.また,本症例も含め長女,夫,同 居中の姑が同様の乾性咳嗽を認めていたことより百日 咳感染の可能性を疑った.本症例は,百日咳感染が疑 われた時点で発症より 3 週間以上が経過しており,百 日咳菌の分離同定は困難であると思われた.血清学的 検査で百日咳菌凝集素価の測定を行い,第 1 病日(入 院時)は東浜株および山口株ともに 160 倍であったも のが,血漿交換後の検体ではあるが第 39 病日には 1,280 倍と抗体価の上昇を認めた.また,単血清では あるものの第 39 病日の検体で抗 PT 抗体 54Eu!mL,

抗 FHA 抗体>100Eu!mL と上昇を認めた.以上の結 果より,百日咳罹患後に Reye 様症候群を発症した可 能性があると判断した.なお,百日咳感染があったと しても,疑われた時点で既に発症より 3 週間以上が経 過していたため,その後の百日咳に対する特異的治療 は行わなかった.

百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)の気道感染 によって引き起こされる急性呼吸器感染症である.百 日咳菌は患者の上気道分泌物の直接接触や飛沫によっ て感染し,高い感染力を有する.成人の場合長期の咳 または発作性の咳だけのことが多く,他の疾患との鑑 別が困難である1).我が国でも,近年集団感染などが みられており,患者数は明らかに増加傾向を示してい る.

百日咳脳症は痙攣重積・意識障害を中核とする百日 咳の重大な合併症であり,1992 年の CDC の報告によ ると特に小児の百日咳感染では 1.6% が痙攣発作を来 し,1 歳未満では 1.9% であったとされている2).原因 は未だ確立されていないものの百日咳菌が産生する百 日咳毒素が深く関与していると考えられている.百日

(3)

池田 賢一 他 660

感染症学雑誌 第83巻 第 6 号 咳毒素による脳症発症に関しては,中枢神経内への直

接的作用と低血糖を介した間接的作用が示唆されてい る3).マウスにおいて,気道粘膜への百日咳菌感染に より海馬・視床下部でのサイトカイン産生が惹起され るとの報告がある4).また,後者の機序としてとして,

百日咳菌により高インスリン血症が引き起こされるこ とが報告されているものの,低血糖を来すほどのもの ではなかったという報告がある5)

本症例は家族内発症が疑われ,血清学的に有意との 判断は出来ないが抗体価の上昇が認められ,百日咳感 染の可能性が疑われた.本症例は,意識障害および全 身性痙攣を認め,症状が急速進行性で重篤であったこ と,百日咳脳症は成人では非常に稀であること6),著 明な低血糖を認めたこと,著明な高次機能障害が残存 したことなどから,仮に本症例が百日咳であったとし ても,既存の百日咳脳症とは異なると判断した.

Reye 症候群は,急性発症の意識障害と肝臓の脂肪 変性を中核とした臨床病理学的概念である.ウイルス 感染が契機となって発症し,アスピリン摂取との関連 が示唆され7),近年アスピリンの摂取制限により小児 の Reye 症候群は明らかに減少しているとされてい る.一方 Reye 様症候群は,一般的に 2 歳以下で代謝 異常を基礎に持つ例が多く,Reye 症候群類似の症状 を呈するものとされている8).発症には,Reye 症候群 同様ウイルス感染,ときに稀ではあるが細菌感染が契 機となるとされ,アスピリンの摂取との関連はあるも のもないものもあるとされている.

本症例は,明らかな代謝異常などは証明されていな いものの,臨床的に Reye 様症候群として矛盾しない ものと考えた.本症例が百日咳感染であったと考えれ ば,百日咳毒素により IL-6 などのサイトカインが誘 導されているところに,アスピリン摂取が加わって症 状が惹起された可能性が考えられた.Reye 症候群お よび Reye 様症候群と百日咳感染の関連について,ワ クチン接種の影響としての報告はあるが9),成人例で

の報告は検索した範囲内では認められなかった.本症 例における因果関係について状況などから関連が疑わ れるものの,残念ながら確証は得られなかった.しか しながら,百日咳感染が疑われる病態において,成人 であっても治療においては慎重な対処が必要ではない かと考えられた.

文 献

1)Hewlett EL, Edwards KM:Clinical practice.

Pertussis―not just for kids. N Engl J Med 2005;352:1215―22.

2)Davis SF, Strebel PM, Cochi SL, Zell ER, Hadler SC:Pertussis surveillance-United States, 1989- 1991. MMWR CDC Surveill Summ 1992;41:

11―9.

3)Pittman M:Neurotoxicity of Bordetella pertus- sis. Neurotoxicology 1986;7:53―67.

4)Loscher CE, Donnelly S, Lynch MA, Mills KH:

Induction of inflammatory cytokines in the brain following respiratory infection with Borde- tella pertussis. J Neuroimmunol 2000;102:

172―81.

5)Furman BL, Walker E, Sidey FM, Wardlaw AC:Slightly hyperinsulinemia but no hypogly- cemia in pertussis patients. J Med Microbiol 1988;25:183―6.

6)Halperin SA, Marrie TJ:Pertussis encephalo- pathy in an adult : case report and review. Rev Infect Dis 1991;13:1043―7.

7)Belay ED, Bresee JS, Holman RC, Khan AS, Shahriari A, Schonberger LB:Reyeʼs syndrome in the United States from 1981 through 1997. N Engl J Med 1999;340:1377―82.

8)Pugliese A, Beltramo T, Torre D:Reyeʼs and Reyeʼs-like syndromes. Cell Biochem Funct 2008;26:741―6.

9)Miller DL, Ross EM, Aldorslade R, Bellman MH, Rawson NS:Pertussis immnunisation and seri- ous acute neurological illness in children. Br Med J 1981;282:1595―9.

A Case of Reyeʼs-like Syndrome Due to SuspectedBordetella pertussisInfection in an Adult Kenichi IKEDA1)& Ken SONODA2)

1)Department of Neurology and Geriatrics, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dentals,

2)Department of Neurology, Kagoshima Medical Association Hospital

We report a rare case of Reyeʼs-like syndrome associated with suspected pertussis infection.

A 26-year-old woman admitted comatose and found in laboratory studies to have acute liver dysfunc- tion, severe hypoglycemia and prolonged prothrombin time, was diagnosed with clinical Reyeʼs-like syn- drome due to aspirin use. Her child was probably infected with pertussis, which she contracted and which, in turn, triggered Reyeʼs-like syndrome.

〔J.J.A. Inf. D. 83:658〜660, 2009〕

参照

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