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健常成人に敗血症を来した Yersinia pseudotuberculosis 感染症の 1 症例

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感染症学雑誌 第82巻 第 2 号

健常成人に敗血症を来した Yersinia pseudotuberculosis 感染症の 1 症例

宗像医師会病院内科

真柴 晃一 小島 武士 大塚 毅 草場 公宏

(平成 18 年 6 月 28 日受付)

(平成 19 年 12 月 12 日受理)

Key words : Yersinia pseudotuberculosis4b, sepsis, adult

Yersinia pseudotuberculosisは,1883 年 Mallassez &

Vignal によってモルモットから初めて分離され,齧 歯類の主に腸管リンパ節に類結核病変を起こす菌とし て古くから知られている.ヒトへの感染報告は 1913 年の Saisawa 等の報告1)が初めてであるが,極めて稀 とされてきた.1954 年 Knapp & Masshoff らが本菌 によるヒト腸管リンパ節炎の症例を報告2)して以来研 究が進み,1970 年代より北欧を中心としたヨーロッ パにおいて小児発症例が報告されるようになった.本 邦では,1973 年に坪倉らが虫垂炎患者より本菌を分 離した3)が,ヒトでの発症は稀とされていた.1980 年 代に入り,泉熱とされた集団発生事例の原因として本 菌が疑われると報告4)され,以降,全国各地で本菌感 染の小流行が散見されるようになった.Y. pseudotuber-

culosis感染症は主に小児で発症することが多く,その

臨床症状は多彩である.私どもは,健常成人に敗血症 を起こしたY. pseudotuberculosis感染症の 1 症例を経 験したので報告する.

症例;22 歳,女性.

主訴:発熱,全身倦怠感.

家族歴,既往歴:特記事項なし.

現病歴:生来健康であった.平成 13 年 5 月 8 日突 然 38℃ の発熱出現.5 月 11 日水様性下痢出現し,発 熱も改善しないため近医受診.血液検査にて炎症所見 と肝障害を認め,抗菌薬(セフポドキシム)とロキソ プロフェン,テプレノンの内服治療を受けた.5 月 12 日手足に紅斑皮疹が出現し,薬疹を疑われ抗菌薬をセ

フジニルに変更された.同夜,嘔吐も出現したが,点 滴治療にて症状は一時改善.その後も高熱が持続する ため,5 月 16 日当院を紹介され,精査加療目的にて 入院となった.

患者背景:患者は独身で母親と同居.職業は菓子販 売店店員.飲食は母親と同一食を摂食.喫煙歴,飲酒 歴,アレルギー歴,嗜好品,常用薬,輸血歴,海外渡 航歴,旅行歴は無い.新興住宅地に居住し,ペット飼 育歴としては,数年前まで雑種犬を屋外で飼育してい た.

入院時現症:身長 162cm,体重 48kg,体温 38.7℃,

脈 拍 96!分,血 圧 102!60mmHg,結 膜 に 貧 血,黄 疸 は認めず,扁桃の発赤,リンパ節腫脹などは認めなかっ た.胸部に異常なく,腹部所見にて肝脾腫と肝叩打痛 を認めた.四肢に浮腫を認めず,両側膝関節部,両側 足底部に掻痒のない 2mm 径の小丘疹が散在.神経学 的所見に異常は認めなかった.

検査所見(Table 1)では,白血球 数 11,000!µL と 増多,AST 52 IU!L,ALT 191 IU!L,ALP 447 IU!

L,γ-GTP 285 IU!L と肝障害を認め,CRP は 8.9mg!

dL と 上 昇 し て い た.IgM-HA 抗 体(EIA 法),HBs 抗原,HCV 抗体は全て陰性,EB ウイルス・VCA-IgM 陰性,コクサッキーウイルス抗体価(CF 法)は陰性 であった.

入院後経過(Fig. 1):5 月 16 日入院時,全身倦怠 感と食欲不振がみられたが下痢,嘔吐は軽減していた.

膝,足底に皮疹を認めたため,薬剤アレルギーも疑い,

抗菌薬をはじめ全ての内服薬を中止.17 日発熱時に 血液培養を施行.炎症所見増悪したため,18 日より セファゾリン 2g!日の点滴を開始.19 日両側手掌に 紅斑出現したため,薬疹を疑い,抗菌薬をホスホマイ シン 4g!日点滴静注に変更.その後皮疹は軽減するが,

別刷請求先:(〒802―0077)北九州市小倉北区馬借 2―1―1 北九州市立医療センター総合診療科

真柴 晃一

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健常成人に敗血症を来したY. pseudotuberculosis感染症の 1 症例 87

平成20年 3 月20日

発熱続き,炎症所見も改善乏しかったため,23 日に 抗菌薬をイミペネム 1g!日に変更したところ,徐々に 解熱.25 日に入院翌日に施行した血液培養にて,Y.

pseudotuberculosisが分離され,米国臨床検査標準委員

会(National Committee for Clinical Laboratory Stan- dards)に基づく微量液体希釈法5)のブレイクポイン トパネルによる薬剤感受性試験の結果が得られた(Ta- ble 1).解熱し,炎症所見改善したため 27 日抗菌薬 中止.その後,両手指指間部に,掻痒を伴わない膜様 落屑のある皮疹(Fig. 2)が出現したが自然に改善し たため,30 日退院となった.

診断;血液培養にて分離された菌株を自動細菌検査

装置(VITEC1,ビオメリュー社),ラピッド ID32E 簡易キット(ビオメリュー社)を用いて調べた結果,

Y. pseudotuberculosisが同定された.更に,島根県保健

環境科学研究所福島博先生に依頼し,入院 8 日目(発 症後 18 日目),入院 13 日目(発症後 23 日目)の血清

にてY. pseudotuberculosisに対する血清型別抗体価を

測定したところ,Y. pseudotuberculosis 4b に対する血 清抗体価はともに 160 倍と上昇していたためY. pseu- dotuberculosis4b による敗血症と診断した.

健常成人に発症したY. pseudotuberculosis感染によ る敗血症の 1 症例を経験した.Y. pseudotuberculosis感 Fig. 1 Clinicalcourse

Table 1 Laboratory data

<Bacteriology>

<Serology>

<Chemistry>

<Urinalysis>

blood culture (5/17)

mg/dL 8.9 CRP

g/dL 6.6 TP

(- )  protein

Yersiniapseudotuberculosis(+ ) (- )

HBsAg g/dL

3.7 Alb

(- )  sugar

(- ) HCV Ab

U/L 370 LDH

(antimicrobialsusceptibility test (- )

IgM-HA U/L

52 AST

<Stool>

ug/mL

≦ 2 ABPC

EB-VCA U/L

191 ALT (+ )

 O.B.

ug/mL

≦ 8 PIPC

10×>

IgM mg/dL

0.6 T-Bil

ug/mL

≦ 2 CCL

40×

IgG U/L

84 ChE

<ESR (1hr)>

ug/mL

≦ 2 CTM

antimitochondrial U/L

285 γGTP mm

50

ug/mL

≦ 2 FMOX

(- ) Ab

U/L 447 ALP

ug/mL

≦ 0.25 CFPM

Coxsackievirus U/L

278 CK

<Hematology>

ug/mL

≦ 2 CAZ

4×>

 B1.3.4.5 mg/dL

39 Amy /μL

11,000  WBC

ug/mL 1 CFDN

mg/dL 115 BS

% 1 Stab

ug/mL

≦ 1 MINO

<Endocrinology>

mg/dL 8.3 BUN

% 83 Seg

ug/mL

≦ 4 AMK

μU/mL 1.7 TSH

mg/dL 0.8 Cr

% 1 Eo

ug/mL

≦ 2 FOM

pg/mL 3.03 free-T3

mEq/L 133 Na

% 0 Ba

ug/mL

≦ 0.5 OFLX

ng/dL 1.49 free-T4

mEq/L 5 K

% 3 Mo

ug/mL

≦ 1 IPM

mEq/L 96 Cl

% 12 Ly

ug/mL

≦ 2 AZT

/μL 429×104 RBC

ug/mL

≦ 20 ST

g/dL 13.2 Hb

ug/mL

≦ 0.5 LVFX

% 38.6 Htc

/μL 24.5×104 Plts

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真柴 晃一 他 88

感染症学雑誌 第82巻 第 2 号 Fig. 2 Membranousdesquamation between fingersofboth hands

染症の臨床症状は多彩で,病理学的に結核様病変をき たすため仮性(偽)結核と呼ばれる.板垣等は,臨床 症状を腸管リンパ節炎型,敗血症型,結節性紅斑型,

消化器型に分類した6).本邦では腸管リンパ節炎型が 最も多い.しかし,腸管リンパ節炎型に結節性紅斑を 合併することも多く明確な病型分類は困難である.本 症例は,血液よりY. pseudotuberculosis4b を分離し,Y.

pseudotuberculosis 4b による敗血症と診断し,紅斑の

出現,消化器症状も認め,敗血症型を主体としたY.

pseudotuberculosis感染症と考えられた.Y. pseudotuber-

culosis感染症は主に小児に発症するといわれている.

しかし,敗血症は小児より成人発症が多いともいわれ,

男女比は男性が女性の 3 倍との報告もある.成人敗血 症症例は,HIV7),糖尿病8)や肝硬変などの基礎疾患を 有する患者に多く9),死亡率は約 70% ともいわれてい る.Ljungberg らは 1992 年までにY. pseudotuberculosis による敗血症を起こした 54 症例のうち,詳細のわかっ ている 24 例中,健常成人に起こった症例は 1 例のみ と報告10)しているが,基礎疾患のない健康成人に発症

したY. pseudotuberculosisによる敗血症症例の報告例

は本邦では無く,稀と考えられる.

近年,経口感染として温泉水飲用11),井戸水飲用12), サラダ摂食13)による感染例が報告されており,本症例 の感染源につき詳細に問診を行ったが,同一食摂取の 家族や周囲に発症者はなく,また,未処理の井戸水や 山水の飲用歴はなく,原因となる感染源,感染経路は

不明であった.Y. pseudotuberculosis感染症の臨床症状 は多彩で,本症例においても発熱,発症後 1 週以内の 急性期に発現した多彩な発疹,回復期に認めた膜様落 屑,肝障害,嘔吐,下痢などの胃腸症状,関節痛が出 現した.敗血症症例は腎不全などを併発して重篤化す ることもあるが,本症例は,発症 2 週目以降に出現す るといわれる心嚢液貯留,腎不全などの症状は認めず 治癒した.本例は発症後近医にて経口セフェム薬の投 与を受けていたが改善無く,イミペネムの経静脈投与 にて軽快した.Y. pseudotuberculosisはin vitroではマ クロライド系以外の抗菌薬に高度の感受性を有してい るが,in vivoでは必ずしも有効でないと報告14)されて いる.本症例にても微量液体希釈法での菌感受性試験 ではペニシリン系,セフェム薬,マクロライド系抗菌 薬全てに良好な感受性を示した(Table 1)が,発病 後に投与されていた経口セフェム剤,セファゾリンと ホスホマイシンの経静脈投与の効果は乏しく,カルバ ペネム系抗菌薬が有効であった.今後,抗菌薬選択と 治療の確立の検討が必要と考えられる.

落屑を伴う発疹,肝障害,胃腸症状など多彩な臨床 症状を呈する細菌感染症では,本菌によるものも念頭 に置き起炎菌の分離を行うことが重要と考えられた.

謝辞:本稿を終えるにあたり,Y. pseudotuberculosisの血 清型別抗体価を測定していただきました島根県保健環境科 学研究所感染症疫学科福島博先生に深謝いたします.尚,

本論文の要旨は第 71 回日本感染症学会西日本地方会総会

(4)

健常成人に敗血症を来したY. pseudotuberculosis感染症の 1 症例 89

平成20年 3 月20日

(2001 年 11 月岡山)にて発表した.

文 献

1)Saisawa K:Ueber die Pseudotuberkulose beim Menschen. Zschr Hyg Inf Krkh 1913;73:

353―400.

2)Knapp W:Mesenteric adenitis due to Pasteu- rella pseudotuberculosisin young people. N Engl J Med 1958;259:776―8.

3)Tubokura M, Otuki K, Itagaki K, Kiyotani K, Matsumoto M:Isolation of Yersinia pseudotuber- culosisfrom an appendix in man. Jpn J Microbiol 1973;17:427―8.

4)佐藤幸一郎:Yersinia pseudotuberculosis感染症の 臨床所見および疫学像,特に泉熱との関連につ いて.感染症誌 1987;61:746―62.

5)National Committee for Clinical Laboratory Standards:Performance Standards for Antimi- crobial Susceptibility Testing. Eleventh Informa- tional Supplement 2001;21:M100―S11.

6)板垣啓三郎,坪倉 操:人畜共通伝染病の起炎

菌としてのYersinia pseudotuberculosis(仮性結核 菌)の重要性.メディアサークル 1972;17:

380―90.

7)Paglia MG, DʼArezzo S, Festa A, Del Borgo C, Loiacono L, Antinori A,et al.:Yersinia pseudotu- berculosissepticemia and HIV. Emerg Infect Dis

2005;11:1128―30.

8)Deacon AG, Hay A, Duncan J:Septicemia due toYersinia pseudotuberculosiscase report. Clin Mi- crobiol Infect 2003;9:1118―9.

9)武田修明,西田吉伸,小西中央,渡辺晋一,河

村一郎,丸子俊成,他:エルシニア感染症の臨 床的検討.小児科診療 1995;2:297―301.

10)Ljungberg P, Valtonen M, Harjola VP, Kaukoranta-Tolvanen SS, Vaara M:Report of Four Cases of Yersinia pseudotuberculosisseptice- mia and a literture review. Eur J Clin.Microbiol Infect Dis 1995;14:804―10.

11)Han TH, Paik IK, Kim SJ:Molecular related- ness between isolates Yersinia pseudotuberculosis from a patient and isolate from mountain spring water. J Korean Med Sci 2003;18:425―8.

12)武内 一:井戸水によるエルシニア感染症の 3 症例.小児科臨床 2000;53:1507―12.

13)Nuorti JP, Niskanen T, Hallanvuo S, Mikkola J, Kela E, Hatakka M,et al.:A widespred out- break of Yersinia pseudotuberculosis as a food- borne pathogen. J Infect Dis 2004;189:76―3.

14)Sato K, Ouchi K, Komazawa M:Ampicillin vs.

placebo forYersinia pseudotuberculosisinfection in children. Pediatri Infect Dis J 1988;7:686―9.

Yersinia psuedotuberculosisSepticemia in a Healthy Young Woman

Kouichi MASHIBA, Takeshi KOJIMA, Takeshi OOTSUKA & Tomohiro KUSABA Department of internal medicine, Munakata medical association hospital

We report a case of Yersinia pseudotuberculosis(Y. pseudotuberculosis) septicemia in a healthy 22-year-old woman with clinical manifestations including high fever and general fatigue. The patientʼs ferer sudden ele- vation of her fever, and, liver damage and elevated inflammatory markers were indicated. General fatigue and appetite loss were noted on hospitalization. Exanthema was recognized, and all oral medications, includ- ing antibiotics, was stopped. The fever continued and high inflammatory parameters developed. After che- motherapy with imipenem, subjective symptoms ameliorated. Membranous desquamation without itching appeared between the fingers of both hands but improved naturally.

Y. psuedotuberculosis septicemia was diagnosed as Y. psuedotuberculosis isolated from blood and elevated serum antibody titer againstY. psuedotuberculosis4b detected at 1 : 160.

〔J.J.A. Inf. D. 82:86〜89, 2008〕

Tabl e 1 Labor at or y  dat a

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