熊大教育実践研究第6号,109−111,1989
力学的エネルギー実験装置の試作
桃 井 凡 夫 * ・ 平 井 智 憲 * * ・ 前 田 健 悟 *
ATrialProductionofMecanicalEnergyExperimentApparatus
TsuneoMoMOI,TomonoriHIRAIandKengoMAEDA
(ReceivedOctoberl,1988)
Usingthestraingagesasadetector,wecanobtaintheelectricalpulseheightsin proportiontothepotentialenergies、Thedizitalizedpulseheightsaresenttothe micro,comuper,theenergyvaluebeingshownimmediately、Thedevelopedapparatus willbecomeaveryusefulmethodforleamingofmechanicalenergyconcept.
緒 言
理科教育において力学的なエネルギー概念を学習 者に把握させることは,それがエネルギー概念の根 底をなすことからも極めて重要であることは言うま
でもない.エネルギーに関する学習は定性から定量
そして数理的展開へと一連の系統的進展をする。こ れまで,教科書等で広く知られているエネルギー測 定のための装置と方法は杭打ち型の仕事測定器であ る.筆者等もこの型の測定器について改善を試み,その有効性については既に報告ずみである').ただ その操作は改善を試みた杭打ち型の装置においても,
正確な値を得ようとすると熟練を要する.
本研究はこれまで我々の取り組んできた一連の実
験装置の開発に関するものである.この事に関連し
て,昨今の教育現場へのマイクロコンピュータ導入 に加えて電子回路素子の進歩と普及により機械的変 動を電気信号に変換した装置で実験を行うことにより,著しく装置の改善がされるものが少なくない.
この様な電気信号への変換が教材実験装置として好 ましくない場合もあるが,逆にその効果を著しく高 めるものもある2)‑5).ここに報告する力学的エネル ギーの定量実験装置の試作については,その装置本 体の構成が中学生徒にも理解できるという点を考慮
し研究を進めた.以下その成果について述べる.
実験装置と方法
実験装置は物体を落下させる落下部,落下する物
* 理 科
**熊本市立東町中学校
体のエネルギーの検知部,発生信号の処理命令をす
るトリガー部,検知部からのアナログ信号をデジタ
ル信号へ変換するA/D変換部それにデータ処理部 等の部位からなる.これらのうち特に試作上必要なものについて列記する.
検知部
エネルギーを検知する検知部はゴム等の弾性体の 四方側面に歪ゲージを取り付け,弾性体の上下面に 加わる力による歪がエネルギー値として検知される 機構を持つようにしたものである.ひずみゲージ自 体は歪に対応して抵抗値が変化するものであるが軸 性をもつため,ゲージ軸が互いに直角をなすよう取 り付ければ,各抵抗値に増減の違いを生じる.この 性質を利用し,実用的にはブリッジ回路にゲージ4
つを図1に示すように配置する,そうすれば,2つ
の相対する一方と他方の各組は互いに抵抗値の差がE
図1.ブリッジ回路
e
−109−
yes
増強される.このブリッジからの不平衡出力電圧e
は歪とブリッジ印加電圧Eに比例したものとなる.
なお,一見Eを大きくすれば容易にeを大きくする ことが可能ようであるが,歪ゲージは温度特性を有
するので充分考慮して行う必要がある.
トリガー部
普通に行われる位置エネルギー測定の場合,落下 をはじめた物体は,フォトセンサー前を通過して検
知部に達する.このときフォトセンサーにおいては トリガー用パルスの信号を得る.このトリガー信号 を メ モ リ ー ス コ ー プ や マ イ ク ロ コ ン ピ ュ ー タ の ト リ
ガーとして用いた.構成は発光素子として先端がレ ンズ構造となっている豆電球と,受光素子として鋭 い指向性を持つフォトトランジスターより成る.回 路素子そのものは増幅用及びスイッチング用トラン ジスターとトリガー用集積回路素子が使用された.A/D変換部
検知器からの出力は差動増幅器を経てA/D変換
回路,I/Oインターフェース回路を通してマイクロ
コンピュータ本体へ入力する.エネルギー検知器からの信号は比較的はやいパルス信号であるため,こ
の信号を直接A/D変換回路に入力するとA/D変 換中に誤動作し測定を不能にする.そこで,一定時間信号電圧を保持させるためにサンプルホールドア
ンプを接続した.また,A/D変換回路とマイクロコ ンピュータ間のI/Oインターフェース回路にはPPI素子を用いた.
データ処理部
データ処理は入力信号を高速変換する必要上マシ
ン語プログラムを作成した.これらの処理手順の概 要をフローチャートにして図2に示す.落下物体がフォトセンサー部を通過するとセンサーからトリガ
ー信号が送られこの信号によってA/D変換が作動 し,物体の検知器との相互作用により生じた信号の 高速A/D変換がなされる.処理結果は,直接そのデ ータをディスプレイに表示したり,いくつかのデー タを用いてグラフ化できる.この部分はBASIC言語を用いてプログラミングがなされている.また,
データをグラフ化する表示については生徒の理解を 容易にするため,いろいろの角度からグラフ化が出 来るように工夫してある.当然測定データはフロッ
ピーディスクに保存できる.
実験結果と考察
本実験において検知部の性能は装置全体の機能を 決定するものである.弾性限界内では応力と弾性体
コ ン ピ ュ ー タ ー
への読み込み
図2.データ処理手順
リ ユ ら 。
肝llll魯口︑やトー無言llll
桃 井 凡 夫 ・ 平 井 智 憲 ・ 前 田 健 悟
2.0 60
− 1 1 0 −
4.0
︵シ︶⑳
f(kgf)
図3.応力に対するブリッジ出力
rl L」
6.0
軸にエネルギーが表示されている.エネルギー値W が0.030k9.m程度以下では直線性は良くデータのば らつきも小さく,また測定全領域にわたって直線的 傾向が認められる.本装置では当領域外では出力電 圧の飽和等により直線性を維持できなくなる.
結 論
試作された装置は力学的エネルギー測定用教材実 験機器として,その操作は極めて容易である.エネ ルギー値は0.050kg。mまでの測定が可能であった.
この測定値のコンピュータによるグラフ化は,グラ フの座標軸が示す物理量を質および量ともに変換が 容易なため種々の角度から測定結果の考察を可能に
した.
謝 辞
本研究のまとめにあたって,熊本大学大学院教育 学研究科理科教育専修久保田裕介君の協力に対し厚
く感謝の意を表します.
文 献
l)桃井凡夫:熊本大学教育学部紀要,自然科学,21,
18(1972).
2)山下太利・桃井凡夫・前田健悟:熊本大学教育学部紀要,
自然科学,24,1(1975).
3)山下太利・桃井凡夫・前田健悟:物理教育,29,1
(1980).
4)前田健悟・山下太利・桃井凡夫:物理教育,31,
169(1983).
5)前田健悟・山下太利・桃井凡夫:物理教育,33,4
(1985).
の歪は比例する.検知器からの出力電圧eと応力/の
関 係 を 図 3 に 示 す . 図 か ら 一 見 し て 明 ら か な よ う に 極めて良好な直接関係が得られているのが判る.
本装置の場合応力は衝動的な力となるが,このと き出力電圧eはどのようになるのか.その出力電圧
を メ モ リ ー ス コ ー プ で 観 測 し た の が 図 4 で あ る . 時 間軸と共に出力電圧が変化しているのが判る.当然 この変化のピーク値が最大の歪を生じている点での 出力電圧値である.
弾性体では歪の二乗はその弾性体の持つエネルギ
ーに相当するので,その関係を示すのが図5である.横軸に歪に正比例している出力電圧の二乗そして縦
︵Eロエ尉︲○頁︶量
0042
I
図4.信号波形
−111−
力学的エネルギー実験装置の試作
00 3 6 9
G2(V2)
図5.ピーク電圧の二乗とエネルギー値