Natural Science Vol. 7
ZnO 単結晶の晶癖変化と表面模様
岩永浩
(昭和41年9月30日受理)
Crystal Habits and Surface Patterns of ZnO Crystals
Hiroshi IWANAGA Abstract
The crystal habits of zinc-oxide crystals produced by chemical reaction of zinc-
flouride vapor with water vapor were roughly classified into three types, that is,
plate-like, needle-shaped and roundish crystals. From the results of our experiments,
it was suggested that this variation of crystal habits was mainly governed by the
temperature at the growth region. Assuming that the average distance which a
molecule travels on the crystal surface varies depending upon the crystallographic plane, it is possible to explain the dependence of the variation of crystal habits on
the temperature at the growth region.
I.緒論
一般に金属ハロゲン化物蒸気と水蒸気との反応によって,金属酸化物単結晶を製作する場 合,比較的大きな完全性のよい単結晶が成長する領域はハロゲン化物蒸気に較べて水蒸気が少 なく,対流等による雰囲気の乱れがない領域に限られていて,水蒸気が多い領域や雰囲気の乱 れが存在する領域では小さな結晶しか成長しない。
我々はZnF2蒸気と水蒸気との反応によって生じるZnO単結晶の成長条件の違いによる 晶癖変化を調べた。成長するZnO結晶は針状と板状と丸味をおびた結晶の三つの晶癖に大別 できるが,針状結晶の表面模様についてはすでに報告1)されているので,板状結晶の表面模様 とそれから考察される結晶成長機構について報告する。
II.成長条件と晶癖との関係
ZnOの結晶成長法は前報1)と同じ方法で行なったが,温度や雰囲気等の成長条件の相違に
*昭和40年10月11日日本物理学会第20回年会にて発表。
よる晶癖の変化を調べるために,るつぼ中に白金線をつるした。この白金線へのZnO結晶の 付着状態はかなり複雑であるが,典型的な付着状態は第1図に示すようなものである。
図中のAは板状結晶が付着する領域, Bは針状結晶が 付着する領域, Cは丸味をおびた多結晶が付着する領域, Dは付着物がない領域, Eは熔融したZnFsである0第2 図は実際に成長したZnO結晶の付着状態を示す写真であ る。るつぼ蓋からつるした白金線の先端までの長さほ約 35mmで(るつぼの深さは約50mm) ,線を曲げているの は,同じ深さでもるつぼの中央部と周辺部で結晶成長が異 なるか否かを調べるためである。第1図に示したような晶 癖の異なる結晶が存在する領域の分布がこの写真からも分
る。また同じ晶癖をもつ結晶が存在する領域は白金るつぼ 中でほぼ同じ深さにあることが分る。
第3図‑第5図は第1図に示した白金線に付着したZnO
第1図ZnO結晶の成長亀城。 Aは板 状結晶, Bは針状結晶, Cは丸味ある多 結晶が成長する領域, Dは付着しない 禎域o Eは熔融したZnF2を示す。
結晶の晶癖の相違を,領域別に示した写真である。第3図は板状結晶(長さ約1mm,巾約 0.5mm)がよく成長するA領域部の写真であり,この領域はA‑D領域中で最も温度が低 い。板状結晶が成長する領域は,この写真に示した部分だけでなく白金線上方の温度がかな
り低い部分(920‑C一約700‑C)まで広がっていて,温度が低い方へうつるにつれて,結晶の 大きさは小さくなっていくO第4図は針状結晶がよく成長するB領域部(930‑C‑950つC)を 示す写真である。針状結晶には成長先端がflatなものでかつhollowがあるものとないもの と,成長先端がpyramid型のものとが存在する。第5図は丸味をおびた多結晶が成長するC 領域部(950‑C‑970ウC)を示す写真である。この領域の結晶間のくぼみにはZnF2が白く残 っていることが見出されるO従って加熱中にはこの領域は熔融したZnF2で覆われていたも のと思われる。
るつぼ中の場所による温度変化,および成長領域の上記の温度を直接に測定するために,白 金‑白金ロジウム熱電対を使用した。またこの熱電対は上述の白金線に代るものとして使用し た。この結果るつぼ中の水平方向の温度変化は殆んどないことが分った。第6図の(a), (b;は 熱電対の先端に付着したZnO結晶を示す写真である。 (a)は板状結晶がよく成長するA領域 で,温度が910つC‑920つCの場所に熱電対の先端を挿入し,その上にZnO結晶を成長させた ときの写真である。 (b)は針状結晶がよく成長するB領域で,温度が930ウC‑950‑Cのときの 写真である。るつぼ壁に付着する板状結晶は,上述の白金線や熱電対に付着するものより小さ
く,高々0.1mm程度である。この相違は蓋とるつぼとの隙間から入ってくる水蒸気がるつぼ
壁に沿って流れ込んでいると考えられ,従ってその近傍では水蒸気が過剰であり,そのために
るつぼ壁の温度がA領域の温度と同じ部分でさえも,小さな板状結晶しか成長しないものと恩
われる。第7図はるつぼ壁に付着した針状結晶を示す写真である。この写真からも分るように 針状結晶の根元(るつぼ壁から長さ約2‑3mmの部分)には多くの微結晶が付着している。
しかし第2図と第6図に示したようにるつぼの中央部で成長した針状結晶の根元には,このよ うな微結晶は付着していない。このことはるつぼ中央部での水蒸気は壁近くのものより非常に 少なく,成長条件がよいと思われる。前述したようにるつぼ中の同じ深さの所での水平方向の 温度の相違はあまりないOしかし雰囲気(ZnF2蒸気,水蒸気, ZnO蒸気の蒸気圧)はるつ
ぼ中の水平方向でかなり変化していると思われる。おそらく水蒸気はるつぼ中央部に近づくほ ど少なくなるであろう。それにもかゝわらずるつぼ壁のごく近傍を除いては,るつぼ中の同じ 深さの所で成長する晶癖の相違はほとんど認められない。この実験事実から晶癖変化は雰囲気 よりも,成長領域の温度に強く依存しているように思われる。以上の外に樹枝状結晶が水蒸気 過剰な場合に成長するが,成長被横として複雑であるのでこゝでは考えないことにする。
班.板状結晶の表面模様
板状結晶の外形や結晶学的特微,および表面模様の典型的なものについて述べる。第8図の 三枚の写真, (a), (tO, (c)は同一結晶の写真である。 Ca)は透過光により内部を観察したも のであり,他の二枚, (b), (c)はその結晶の表と裏に銀蒸着して,結晶表面を観察した写真で ある。これらの写真から分るように,結晶の内部はかなり複雑な構造をもっているが,義,裏 の表面は非常にflatで,位相差顕微鏡によってもその表面にspiral模様は見出されず,わ ずかなstep模様が見出されるのみである。このflatな面をもつ辛板(厚さ数10‑100〃′)は
Ⅹ線解析からbasal planeに平行であることが分った。この結晶の表,裏を形作っている二 枚の平板結晶は,三枚の写真から分るように同じ形ではなく,それらの結晶はC軸のまわりに 相対的に約200回転している。第9図は二枚の平板結晶を第8図(a)に示した矢印の方向から撮 った写真である。この写真において,反射が興っているのは平板結晶が互に回転しているため である。第8図の(a)に見られるように,板状結晶の内部には根元の方から成長先端に伸びた 完全度のよい心棒のようなものが存在する。これは一見すればC軸方向に成長した針状結晶の ように見えるが, Ⅹ線解析及び偏光顕微鏡で調らべた結果, basal planeに平行である。これ が上述した二枚の平板結晶を連結させていると思われる。第10図はflatな面の電子顕微鏡写 真である。この写真にはflatな面とstep模様がみられる。このstep模様については後述
?<J,
第8図のOO, COの写真では結晶の根元にふくれ上った付着物が存在するように見えるが, これはくぼみであり,根元に近づくほど,このくぼみは深くなっている。このようなくぼみは 殆どの板状結晶に見出される。第3図に示したように板状結晶の根元には多くの微結晶が存在 するために,これらの板状結晶の根元付近にはZnOの付着が少ない。従ってくぼみが生じる
ものと考えられ,これは結晶成長機構と直接には関係ないと思われる。第11図は板状結晶の表
面を示す写真である。この写真に示したAの部分はBの部分よりも低くなっている。従って Aの部分は埋め残しの部分と考えられる。 AとBの境界に存在する高いstep (1‑2!▲)の 近くには,一般にhexagonal hillが多く存在するO第12図はこのようなhillの電子顕微鏡 写真である。 (電子顕微鏡写頁のshadowの方向から, hexagonal hillであって, pitでな いことを確めた) hillの側面には凹凸が見られ,結晶成長に何らかの役割を果しているよう に思われる。また写貢の左上部には低いstepが数多く見出される0
Ⅳ・晶癖変化と結晶成長
B. J. Mason 2)は氷の晶癖が温度のみによって決まるという実験事実を結晶面‑到達した 分子の結晶面上での平均移動距離の大きさの相違に基づいて説明している。すなわち,basal面 上での分子の平均移動距離がprism面上のものより大きいような温度範囲では,板状結晶が 成長し,逆の場合には柱状結晶が成長するとしたOこの考えは一応妥当であると思われるO同 じような見解に立ち, ZnOの晶癖変化を説明するために我々は第13図のような見掛上の平均 移動距離と温度との関係を仮定しよう。
T