4 章 地域生涯学習の創造 と大学
1
節 佐賀県伊万里市の地域生涯学習への対応猪 山 勝利
筆者が地域生涯学習の推進ア ドバ イスを中心 として地域づ くりに参画 してい る佐賀県伊万里市 は、佐賀県の西北部 に位置 し、佐賀県東松浦半島 と長崎県北 松 浦半 島の結合す る位 置 にあ り、市域 の面積 は
2 5 5 km
2であ る。 伊万里市 は1 9 5 4
年 (昭和2 9 )
に伊万里町を中心 に2
町7
村が合併 して成立 した中都市であ り、1 9 9 8
年の人口は約6 0 , 3 0 0
人である。1 9 9 5
年国勢調査 による産業別大分類就 業人口比率 は、第一次産業1 4 . 1 %
、第二次産業3 5 . 8 %
、第三次産業5 0
.1%であ り、全国銘柄の農産物産地、伝統的窯業や造船業、佐賀県北西地域の中核 的商 業地区な どの特質をもつ中都市である。筆者が生涯学習研究者 として、佐賀県伊万里市‑対応 して きたス タンスは、
生涯学習 を中心 に新 しい都市づ くりへのア ドバ イサー として参画す ることであ るが、筆者が伊万里市 に対応 して きた概要は、以下の通 りである。
筆者は
、1 9 8 0
年代の半ばか ら佐賀県西部の生涯学習の 自主的研究会 に研究ア ドバ イサー として参加 していたが、伊万里市 に正式 に関わるようになったのは1 9 9 0
年代 に入 ってか らである。 伊万里市 は1 9 91
年 に、「国際文化都市」
像 を基 本都市像 として第三次伊万里市総合計画 を策定 し、総合計画の策定 を契機 に、市長直属の諮問機関 として 「い まり
2 1
委員会」
が組織化 された。筆者 は、その 委員 として協議 に参画 し、主 として伊万里市の都市像 に係 わ らせて 『伊万里学』
や生涯学習の推進について提言 した。 さらに
、1 9 9 4
年に 「伊万里市生涯学習推 進協議会」が設置 され、その会長 として協議会委員や担 当職員 とともに伊万里 市の生涯学習推進基本答 申の策定 に参画 した。その後、生涯学習の具体的展開 に関わるとともに、行政の文化化や第4
次総合計画策定のア ドバ イサー として、伊万里市の生涯学習推進 を主体 とする新たな都市創造に対応 している。
1.伊万里市の生涯学習計画策定の経緯
伊万里市は、1
9 5 4
年の合併時の旧町村 を基本地区範域 とする1 2
地区に専任館 長 と公民館主事 を配置 した公立公民館 を拠点 として、佐賀県内で も活発な社会 教育を展開 してきた市である。 この基盤 を踏 まえて、新たな都市発展 と教育の 拡充を企図 した施策が生涯学習施策である。前頁に簡述 したように、′伊万里市は1
9 91
年6
月に第三次総合計画 を策定 した が、新たな都市像 として 「活力 と楽 しさのある国際文化都市」 を設定 したので ある。同年秋に、その施策 を推進する中核 となる基本施策のあ り方を諮問する たやに、市長直属の諮問委員会 として、市外の専門家か ら構成 された [いまり21
委員会」 を設置 した。委員会は、短期間の審議であったが、翌199 2
年に 「地 域学」 として 「伊万里学」
を提唱 し、「伊万里学」 は国際文化都市への新 たな 都市創造の基底 をなす 「学習 と実践の市民学」であると提唱 した。その基本推 進方策 として生涯学習の推進 と行政の文化化の施策が不可欠であるとし、両施 策の具体的策定に取 り組むことが強調 された(1)0 ,一方、国の教育政策が生涯学習体系化へ シフ トしは じめたことに対応 して、
佐賀県で も生涯学習モデル市町村事業 を推進 していたが、1
9 93
年度か ら伊万里 市 は同モデル事業の指定を受け、生涯学習推進構想の策定 と推進 システムの構 築に本格的に取 り組むこととなった。この ような内的、外的要因が加重 し.て、〉伊万里市は生涯学習施策の推進に本 格的に取 り組むこととなったが、その基本内容をなす生涯学習推進基本計画の 策定が不可欠 とな り、その策定作業が開始 された。生涯学習推進基本計画を策 定するために、1
9 93
年度に市内外の関係者15
名か ら構成 された委員による 「伊 万里市生涯学習推進協議会」が設置 された。生涯学習推進協議会は基本計画の 策定審議 に入 り、1 9 95
年度に生涯学習推進拳本計画 として 『生涯学習のまちづ くり推進計画 一活力 と楽 しさのある国際文化都市 をめざして ‑』を討議 して策 定 し、市長に答申した。以後、伊万里市はこの生涯学習推進基本計画にもとづ いて、生涯学習施策を本格的、多面的に推進 しているが、伊万里学を基底 とし、地区生涯学習圏で展開す る伊万里塾学習、市民 と行政の協働方式など、生涯学
‑ 5 6 ‑
4章 地域生涯学習の創造 と大学
習 と都市形成 を結合 した生涯学習は特色ある施策である。
2
.伊万里市生涯学習の策定 と大学の対応(1
)生涯学習推進基本計画の策定への参画前頁 に記 した、伊万里市 の生涯学習推進協議会 に筆者 は委員 として参画 し、
その会長 に選出されたこともあ り、生涯学習推進基本計画の策定協議 に本格的 に参画 してい くこととなった。
参画の仕方 として、
1
0数回に及ぶ協議会での審議の司会進行 はもちろん、協 議会 に提 出す る原案づ くりに積極的に参画 した。討議原案の作成担 当者は、教 育委員会の生涯学習係長 で氏であったが、T
氏 と筆者は伊万里市市庁舎 と長崎 大学の生涯学習教育研究セ ンターを相互に活用 して、協議会の前 には相互討論 しなが ら討議原案 を作成 した。幸い、筆者は長崎県生涯学習推進協議会の答申 起草委員長 として、1 993
年4
月に 『長崎県生涯学習推進構想』 を起草、策定 し た経験があ り、その研究討議が生か されることとなった。(2)生涯学習推進基本計画策定への研究ア ドバイス
伊万里市の生涯学習推進体系形成は、次頁の ようになっているが、特 に伊万 里市の地域特性や現代性 に留意 して、以下の ような視点 を重視 して研究ア ドバ
イスを行 った。
(∋都市形成 と生涯学習の内的結合性
近年の各地の生涯学習施策は、生涯学習 と地域形成 との関連 には言及 しては いるが、内的関連は弱体 な計画が多い。 しか し、伊万里市は地域学である伊万 里学 を基底 に設定す ることによ り、国際文化都市の内実 を市民の学習論 として 設定することがで き、市民の生涯学習 と新たな都市形成 とが内的連関を持 ち得 た と言える。 この点、先述 した 「いま り
21
委員会」
への委員参加が優位 に機能した と言 えるか もしれない。
(参市民 と行政の 「協働」推進性
生涯学習 は市民の 自主学習 を支援す る体系であることは言 うまで もないが、
行政施策 として生涯学習施策が計画 されると、行政主導の計画策定がなされる ことが多い。それに対 して、伊万里市では推進組織 に市民 と行政が協同で参加 す る協働 システムとして 「生涯学習推進会議
」
の設置が組み込 まれてお り、他 地域 にみ られない積極的なシステムづ くりとなった。≪国際文化都市の創造 をめ ざす 「 伊万里学 」 ・生涯学習推進体系≫
1.推進体制
☆推進組織体系 ( 1 ) 生涯学習推進協議会の設置
☆情報
( 2) 生涯学習推進本部の設置 ( 3) 生涯学習推進会議の設置 ( 4 ) 生涯学習地区推進会議の設置 ( 1 ) 生涯学習情報 セ ンターの設置 ( 2) 生涯学習情報委員会の設置
☆施設 A. 市域
(1)生涯学習セ ンターの設置
( 2) 社会教育施設 ≪図書館、 博物館群》
( 3) 生涯学習スポーツ施設 《 体育館、武道館、 競技場等≫
( 4 ) 生涯学習関連施設 ≪学校 開放、 企業施設 開放等≫
B.地区
(1)地区生涯学習推進施設 ≪地区公民館、 学校 開放 な ど≫
2 .地区生涯学習学習推進圏
☆地区生涯学習推進会議の設置 ( 1 2 地 区)
3 .指導者 の養成
(1)生涯学習推進員の委嘱
( 2) 生涯学習学習バ ンク制度の創設 ( 3) 各種指導者の研修
4. 学習活動
☆推進体系
(1)個人 ・ 家族 的次元 ( 2) 社会的次元 ( 3) 公的次元
( 4 ) 総合的ネ ッ トワーク
☆学習活動の推進 ( 1 ) 伊万里学 ( 2) 各種生涯学習
‑5 8‑
4
章 地域生涯学習の創造 と大学③地区生涯学習推進 システムの創設
伊万里市の生涯学習推進 システムのひとつの特質は、市内
1 2
地区の地区 コミ ュニティ毎 に生涯学習地区推進会議 を設置 していることである。 生涯学習 は言うまで もな く社会教育ではないが、地域の社会教育基盤 を拡充、発展 させ た生 涯学習計画が内容豊かな生涯学習施策 として展開す る。 この点、伊万里市 は従 来地区毎 に公立の地区公民館 を設置、運営 してお り、 この地区教育 システムを 拡充することが、今後の生涯学習施策 として重要であ り、市の生涯学習推進体 制 とは独立 した組織 として計画化 しえた。
(む総合的学習体系化
体系図の
4
学習活動の項 に見 られるように、個人 ・家族次元、社会次元、公 的次元、総合的ネッ トワー クの4
体系 に類別 して、学習活動の推進体系 を計画 化 していることは、他地域 に見 られない伊万里市の特質である。 従来の学習体 系 は、教育組織別に家庭教育、学校教育、社会教育 として体系化す ることが多 かったが、伊万里市では学習者である市民主体の視点か ら学習体系 を計画化 しえてお り、生涯学習の現代的学習体系 を創造 しえている と言えよう(:i)。
3
節 伊万里市生涯学習展開への対応1
.生涯学習展開のア ドバ イサー上記 した特質をもつ伊万里市の生涯学習計画は、佐賀県の生涯学習モデル事 業指定 との関連 もあ り、単 なる計画案 に止 まらず、現実展開す る実行計画 とし て位置づ け られる実施計画 として機能す ることとなった。 したがって、筆者 も 計画策定で役割が終わることな く、生涯学習の具体的展 開に積極的に対応す る
こととなった。その対応 を類別 して記す と以下の ようになる。
(1
) システム構築 ア ドバ イサー生涯学習推進本部の 「生涯学習推進幹事会」や市民 と行政の協働 システムで ある 「生涯学習推進会議」の創設時の研修講師 として参画 し、計画の説明 と展 開方法についてア ドバ イス した。
(2
)地区生涯学習推進のア ドバ イサー上記 した ように、伊万里市の生涯学習計画 は地区単位の生涯学習の推進 をシ
学習する 「いまり塾
」
を展開 している。その各地区 リーダーの研究や研修のた めの 「伊万里学ゼ ミナール」 を開催 しているが、そのゼ ミナ丁ル講師 として「地区生涯学習推進方法」 について講義 した。
2∴ 生涯学習支援職員の研究的研修の主催
生涯学習の推進は市民の主体的学習推進が基本であるが、.それを支援する生 涯学習専門職貝のあ り方が生涯学習推進動向を規定する要因は大 きい。 この点 に留意 し、教育委員会の生涯学習専門職員 と地区公民館主事 を対象に、一般的 な職員研修 を超えた本格的な大学講座 として、1
995
年度に 『長崎大学 ・生涯学 習プログラム策定研究講座』 (於伊万里市) を主催 した。講義内容は、
A.
基本講義 として、①地域づ くりと生涯学習の今 日的課題、②生涯学習 ・地域 (地区)づ くりの課題、③学習プログラムの企画 と編成 とし て、大学時間相当の講義を行った。
B.
演習、実技 として、小人数単位に学習 プログラムの策定お よび評価 を行った。演習では、地区 コミュニティの創造、市民の参加 アクセス性、学習か ら社会参加実践への発展性 を重視 したが、「大 きな歴史に小 さな足音 (体験的歴史学習講座
)
」、「僕 とパパの大冒険 (親 と子 の無人島長期 キャンプ」、「健康40創 り( 40
歳の健康講座) 」
.などの学習プログ ラムが策定 された。 この学習プログラムは、若干の修正が加えられて、地区公 民館の講座 として展 開された。 なお、 この専門職員の学習プログラム策定講座 を原型 として、佐賀県では19 97
年度か ら県立生涯学習セ ンターの主催により全 県下の専門職員を対象に展開するようになってお り、筆者 も佐賀県西部地域の 講座講師 として参画 している。4
節 都市創造への参画1.行政の文化化への参画
? 伊万里市の都市像 を歴史的に転換する/第三次総合計画の推進方策を協議する 市長直属の諮問委員会である 「いまり
2 1
委員会」への参加が、伊万里市の都市 創造に参画する契機 となった。その委員会では、国際文化都市づ くりの骨格 を なす 「伊万里学」
の策定 とその推進方策である生涯学習の性格規定 を明 らかに‑6 0‑
4
章 地域生涯学習の創造 と大学す ることに止 まった。その後、上記 したように生涯学習推進計画の策定に携 わ ることとなった ことも起因 して、伊万里市の都市創造 に参画 している0
(1)
「行政の文化化」研修への参画伊万里学お よび生涯学習の推進 には、行政の担当部門だけでな く、行政の全 セ クシ ョンの管理職層の意識改革が不可欠であ り、 とくに行政職員 と市民 との 協働 システムの創造が不可欠であるため、伊万里市では教育委員会でな く総務 部主催の管理職層 を対象 とした 『行政の文化化』講座が数度開催 された。筆者 はそのメイン講師 として、研修講師を担 当 した。
(2)
「行政の文化化指針」の策定ア ドバ イス国際文化都市の形成の動因 として、行政の文化化が不可欠であるとす る市長 の見解か ら総務部主導の上記 した ような職員研修だけでな く、行政の文化化の 指針 となる行政推進ハ ン ドブ ックの作成が決定 された。その作成委員 として、
行政内に 「行政の文化化研究会」が発足 し、筆者 はア ドバ イサー として参画す ることを求め られた。研究会の講義だけでな く、ハ ン ドブ ヅク作成委員 と伊万 里市お よび長崎大学 においてそれぞれ数度の作成会議 を行い
、1 9 9 7
年度末にハン ドブ ックの作成 をみた。
2
.都市創造プランの策定への参画伊万里市は
、2 1
世紀の伊万里市の都市像 と行政基本計画 となる第4
次総合計 画を1 9 9 8
年度か ら1 9 9 9
年度 にかけて策定 している。 多 くの 自治体が総合計画の 策定 を外部の シンクタンクに研究委嘱 しているが、今回伊万里市では基本的に 職員の 自主策定方式 をとっている。 その方式 を支援するため、若干名の専門ア ドバ イサーの助言方式 システムをとっているが、筆者 も 「第5
部、教育文化部 門」 の専 門ア ドバ イサー として策定に参画 している。 とくに、都市像が国際文 化都市の発展 と設定 されていることか ら、第5
部門の比重 は大 きく、厳 しい検 討会議がなされている。以上の ような伊万里市の生涯学習 を中心 とした地域創造へ の参画 をとお し て、感 じている現代の地域創造 と大学の対応 について、筆者 な りの感想 を記 し て結 びとしたい。
その
1
は、現代のような社会転換期 においては専 門研究 をふ まえた地域創造創造方策づ くりが不可欠であ り、地域課題 を専門研究 している大学の参画が強 く求め られていることを実感 した。
その 2は、地域の行政セクター、市民セクター、企業セクターへの大学の関 わ りス タンスは、啓蒙で も、権威的承認で も、サービスで もな く、協同 ・協働 的研究推進ス タンスが求め られていることである。
その
3
は、協同 ・協働作業においては当該セクターの主体性 を前提 に、大学 研究者は研究ア ドバ イサーとして関わる方式が最良であると思 う。その
4
は、地域創造の方策策定に止 まらず、その展開に参画することも方策 の リアリティと対応することにな り、す ぐさま研究推進に寄与するわけではな いが、 リアリティ性のある論理形成にプラスすることになると思われる。その
5
は、企業や行政 において も 「社会貢献」
が促進 されつつあるが、大学 人の社会貢献の1
形態 として地域創造への参画は促進すべ きだと思われる。ひ いては、このことは大学開放の現代的在 り方を追求することにもつながると考 えられる。注
(1
)いま り21
委員会 『伊万里学』伊万里市教育委員会1 992
年(2
)伊万里市生涯学習推進協議会答申 『生涯学習のまちづ くり計画』1995
年(3
)猪山勝利 「地域創造 と生涯学習 システムの組織化」
小林文人、猪 山勝利編著 『社会教育の展開 と地域創造」東洋館