堆砂進行が既設水力発電設備の持続的使用に及ぼす影響と対策
電 源 開 発 株 式 会 社 正会員 ○奥村 裕史 京都大学防災研究所 正会員 角 哲也
1.はじめに
既設水力発電設備を持続的に使用していくにあたり,
最重要課題の
1
つはダム湖における堆砂対策である.(社)電力土木技術協会は,平成 17
年度に電気事業者が所有する
354
のダム湖(総貯水量100
万m
3以上,ダ ム高15m
以上)を対象に,堆砂進行によるダム湖周辺 への影響について調査を実施した1).調査結果は表-1 に示す通り,調査対象354
のダム湖のうち4
分の1
強 にあたる95
のダム湖が堆砂の影響を受けており,その 主なものは出水時における水位の上昇(ダム湖の背水 位の上昇)であった.有効容量の減少等により発電運用に影響が生じているものは,6のダム湖であった.
本報は,これらの
2
つの影響について分析を行ない,堆砂対策について総括的に論じる.
2.堆砂進行が既設水力発電設備の持続的使用に及ぼ す影響
著者は,発電用ダム湖を貯水池と調整池とに分けて,
堆砂問題の分析評価を行ない,調整池では出水時洪水 被害抑制の観点から,堆砂対策の必要性が高いという 結論を導いた2).その理由は,調整池はダム湖の規模に 対して流入・堆積する土砂量が多いうえに,ダム水位 の変動が小さく常に同じ位置に堆砂を生じさせてしま うためである.また,図-1に示す通り,調整池は貯水 池と比較して、河川の下流側に設置されているため,
ダム湖周辺に社会資本設備が多く,出水時の水位上昇 が浸水被害に繋がりやすいといえる.
平成
22
年の(社)日本大ダム会議土砂管理分科会の報 告3)では,8
割以上の発電用ダム湖で有効貯水容量内の堆砂率が
10%未満であり,運用上の大きな問題ではな
いとされている.毎年のダム湖流入水量は大きく変動 するため,堆砂進行がダム湖の貯水能力に影響してい るかについて評価することは難しい.また,堆砂進行 以外に,発電所の電力供給上の役割変更等の影響も考
図-1 発電用ダム貯水池・調整池の設置状況および堆砂問題と対策 キーワード 水力発電,持続的使用,堆砂,貯水池,調整池,河床位上昇
連絡先 〒104-8165 東京都中央区銀座6-15-1 電源開発株式会社 TEL03-3546-2211 貯水池(季節単位で貯水)
発電機
調整池(週・日単位で調整)
調整池
発電機
海 域
発電機
【貯水池堆砂】(貯水池式発電所)
・有効容量減少に伴う発電運用への影 響が生じつつある。(潜在)
・ダム水位低下の実施は難しい。
・貯水池に流入する前に土砂を抑制す る必要がある。(貯砂ダム、治山工、
排砂バイパス設置、等)
【調整池堆砂】
(調整池式発電所)
・河床位上昇にともなう出 水 時 水 位 上 昇 が 顕 在 化 している。
・周辺に社会資本設備が多 く、浸水リスクが高い。
・上流貯水池からの水補給 を期待できる。
・堆砂や洪水吐等の特性を 基にダム水位運用による 堆砂対策が有効である。
表-1 堆砂進行による影響調査結果1)(ダム湖周辺)
項 目 ダム湖数 調査対象ダム湖(電気事業者所有)
354
堆砂の影響があるダム湖95
堆砂の影響の内容・出水時における水位の上昇
91
・発電運用支障(有効容量減少、他)
6
・環境悪化(景観、臭、他)
5
※総貯水量
100
万m
3以上、ダム高15m
以上が調査対象土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
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えられる.ダム湖有効貯水容量内の堆砂率が進行した 発電所において,発電使用水量と総流入量の比率(以 下「水使用率」)を整理した結果,貯水池回転率が比較 的小さい貯水池式発電所において,堆砂進行に伴う水 使用率の低下傾向が見られた 4).そのうち,貯水池
A
地点(貯水池回転率8.9)の整理結果を図-2
に示す.3.堆砂進行に対する対策
図-3は貯水池回転率とダム湖寿命(総貯水容量/年 平均堆砂量)との関係から適用性の高い堆砂対策を示 すものである5 ).電源開発の所有するダム湖について,
貯水池と調整池に分けて図中にプロットすると,発電 用ダム調整池ではフラッシング排砂・排砂バイパス等 が,貯水池では貯砂ダム等が適用性の高い堆砂対策と なる.以下,実施するべき対策について詳細に述べる.
3.1 出水時の水位上昇に対する対策(調整池)
調整池は,上流に水を補給可能な貯水池を有してい ること,洪水吐がダム湖規模に比して大きいことから,
出水時の流水の力を利用する堆砂対策が有効である.
出水時に川のような状態であるか,池のような状態で あるか,またはその中間の状態であるかにより調整池 を
3
つのタイプに分け,それぞれに主として流水の力 を利用する方法が可能である6) 7).必要に応じて,掘削 排除や排砂バイパス設置等を行う.これら対策を行っ た場合,図-4に示す通りダム湖寿命がそれぞれ大きく なり,設備持続性が向上する.ここで持続性のゴール は寿命1000
年以上である.掘削排除は寿命の延びが大 きく有効に見えるが,費用の面で有利ではない.3.2 発電運用への影響に対する対策(貯水池)
貯水池は,出水時に貯水する役割を担っていること から,堆砂対策としてダム水位低下は困難である.ま た,ダム湖内の堆積土砂を水中掘削により排除するこ とは,高コスト,濁水発生による環境負荷等の面から 現実的ではない.よって,貯砂ダム設置、治山工,可 能であれば排砂バイパス設置といった,ダム湖流入前 の対策が必要となる.一方,貯砂ダム等から掘削排除 された土砂を有効利用するには,貯水池は需要地から の距離が大きく運搬コストがかかる.従って,周辺ダ ム設置者が協調して堆砂の集積地を設ける等の工夫よ り,経済性を確保することが重要である8).
4.おわりに
水力発電は,再生可能かつ発電過程で二酸化炭素を 殆ど排出しない貴重な国産エネルギー源である.長期 的視点に基づく堆砂対策の策定・実施が重要である.
参考文献
1) 社団法人電力土木技術協会:水力発電用ダム堆砂に係る調査と 啓発 調査報告書,2006
2) 奥村裕史,角 哲也:発電用ダム貯水池および調整池における堆 砂等の特性を考慮した堆砂対策,電力土木,No.350, 2010.
3) 日本大ダム会議:技術委員会土砂管理分科会報告,2010
4) Hirofumi OKUMURA, Tetsuya SUMI : Reservoir Sedimentation Management in Hydropower Plant Regarding Flood Risk and Loss of Power Generation, ICOLD Annual Meeting Symposium, 2012.
5) 角 哲也:排砂効率および環境適合を考慮したダム堆砂対策の選 択,第2回東アジア地域ダム会議2005.
6) 奥村裕史,角 哲也:水力発電用ダム調整池における堆砂特性等 を考慮した水位低下運用によるスルーシング排砂,水工学論文 集第55巻,2010.
7) 奥村裕史,角 哲也:ダム水位低下運用と排砂バイパスを組合せ た水力発電用ダム調整池堆砂対策,水工学論文集第56巻,2011.
8) 角 哲也,伴田 勝:土砂資源マネジメントの観点によるダム堆 砂リサイクル事業の検討,河川技術論文集第15巻,2009.
10 100 1,000 10,000 100,000
0.001 0.01 0.1 1 10
1/ダム湖回転率 = 総貯水容量/年間平均流入水量 (年/回)
ダム湖寿命= 総貯水容量/年間平均流入土砂量 (年) 日本国内のダム
電源開発貯水池 電源開発調整池
フラッシング排砂・排砂門
対策不要
排砂バイパス・スルーシング 貯砂ダム・土砂還元
図-3 ダム湖回転率とダム湖寿命による堆砂対策区分 70%
80%
90%
100%
0% 5% 10% 15% 20% 25%
有効貯水容量内堆砂率 水使用率 (年間使用水量/年間ダム湖総流入量)
69'~80' 81~'90' 91'~00' 01'~10'
図-2 有効貯水容量内堆砂率と水使用率の関係(貯水池A地点)
10 100 1,000 10,000
0.001 0.010 0.100
1/ダム湖回転率 = 総貯水容量/年間平均流入水量 (年/回)
ダム湖寿命 = 総貯水容量/年間平均流入土砂量 (年)
調整池 川タイプ (電源開発)
調整池 中間タイプ (電源開発)
調整池 池タイプ (電源開発)
貯水池 (電源開発)
調整池B(川タイプ)
調整池C(中間タイプ)
調整池D(池タイプ)
①ダム水位低下運用
②排砂バイパス設置
③掘削排除(量m3)
○は最も有効な対策
①
①
+
③
①
③
①
+
③
②
+
③
③
①
+ (1.5万) ②
(3.0万)(16万)
(6.0万) (10万)
図-4 調整池堆砂対策による設備持続性向上 土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
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