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エストニアにおけるインターネット投票の現状と背景

日本学術会議公開シンポジウム

「デジタル化時代の選挙-電子投票の現状・課題・未来-」

2021年3月13日 中井遼

北九州市立大学法学部政策科学科

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Image sources: riigikogu.ee, commonswikimedia

エストニア共和国 人口:約130万

PPP:約37000ドル(実質)

Riigikogu(国会):一院制/定数:101 2005年からインターネット投票を全国導入

(全国導入としては世界最初の事例)

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エストニアのインターネット投票の総論・概要

〇あくまで期日前投票の一方法

投票日10日前から4日前までの期日前投票期間(紙と同様)のみ

〇オンライン再投票・選挙当日の紙投票で上書き可能(背景後述)

それ以前の投票は破棄無効となる

〇電子的個人認証を経て投票を行う

・e-voting(電子投票)とi-voting (インターネット投票)という用語法

・導入の政治的展開は非常に論争的

関連資料: 湯浅(2009)Vinkel 2011

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〇個人カード(全住民保有が義務付け/外国人含む)

〇個人認証プロセスで携帯使用可(投票自体はできない)

個人認証

PCで起動する専用画面から

リストから候補者(数字)を選択

PIN1入力

(投票者からみた)大まかな投票プロセス

数字記入:紙の投票時と同じ投票方法

PIN2入力

Image sources: Martens (2011), e-estonia

投票完了

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インターネット投票利用の推移

出典:選管公式HPより中井作成

0 10 20 30 40 50 60 70 80

2005 地方選

2007 国政選

2009 欧州線

2009 地方選

2011 国政選

2013 地方選

2014 欧州選

2015 国政選

2017 地方選

2019 国政選

2019 欧州選

ネット投票者/全投票者 ネット投票者/期日前投票者

すでに期日前投票の過半数は ネット投票

いずれ投票全体の

過半数がネット経由となる?

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インターネット投票と投票率

出典:選管公式HPより中井作成

0

10 20 30 40 50 60 70

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019

投票率推移

統一地方選 国政選 欧州議会選

投票向上効果は不明瞭?

現地選管の認識・一部研究

「もともと投票する人がネッ トに切り替えているだけ」

i-voting導入

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インターネット投票と投票参加:現地選管や関連研究の知見

〇電子選挙委員会の観測

・初期は若い人が多かったが最近は年代差ない

・農村の高齢者等にも有用←投票所の減少(cf選管予算)

〇Trechsel & Schwerdt 2007 (欧州評議会報告)

・シンプルにみれば若年・高学歴・高所得層の利用が多い ただし年齢や社会階層と相関するICTスキルによる効果

・ICTスキルを統制すると中高年層(5-60代)が

もっともよくインターネット投票を用いている(右図)

〇Vassil et al 2016

・ICTスキル,制度への信頼などと

ネット利用有無の相関はなくなりつつある

(→ネット投票利用の普及・一般化)

〇投票率への影響について

Bocshler 2010, Wigartz 2017 「向上効果なし」

Trechel & Vassil 2010 「2.6ポイント程度向上?」

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インターネット投票とセキュリティ

●脅迫されたり誘惑されて投票することにならないか?

→そうした人があとから修正できるように繰り返し投票ができる

→脅迫完遂コストの激増→脅迫の芽を事前に摘むことができる

「繰り返し投票できないのならインターネット投票を導入するべきではない」

●買収されて投票することにならないか?

→「紙の投票でも起こることでネット投票固有の問題でなく刑事上の問題」

●ハッキングの恐れは?システムダウン時は?

・念のために投票確認アプリがある(投票データが更新された際に自分のスマホで確認可)

・ただし数年前にこれらのアプリに不具合?→アップデートの呼びかけ

・非常時には,ネット投票無効化と当日投票呼びかけを選管が宣言する

cf)

脆弱性を指摘したミシガン大Halderman報告(ただし利益相反あり?)

「政治的攻撃のために書かれた」

出典:「」の記述はエストニア経済通信省/選挙管理委員会インタビュー時の発言主旨

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2001年ごろ

・法務省内議論

導入経緯と主たる論点

大統領署名拒否 最高裁合憲判決

2005年前後

法改正(施工令)

2001年前後

法改正(総論)

法的論点

①既存の選挙法との整合性 → 自選挙区外で期日前投票ができるという規定と整合的と判断

②合憲か:一票の平等との関係 → 政治的議論として議会にゆだねるべきと判断 行政的論点

③照合・名寄せ作業 → 電子政府と個人ID制度で解決可能と判断

④遠隔地での公正な投票環境 → 繰り返し投票導入で解決可能と判断 技術的論点

⑤通信秘密は維持可能か → 専門家答申により問題ないと判断(cf 二重封筒方式)

出典:Madise&Martens(2006) 中井(2018a)

2001年1月のラスク法務大臣提案が公文書上は最初の発案→省内議論へ

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2001年ごろ

・法務省内議論

導入経緯と主たる論点

大統領署名拒否 最高裁合憲判決

2005年前後

法改正(施工令)

2001年前後

法改正(総論)

反対意見(野党中心)

・ネット投票者のみ複数投票機会があるのは不平等

・PCをすべての有権者に配布しなければ機会が平等ではない 賛成意見(与党中心)

・国家は事後救済措置のみ取ればよく事前環境整備は不要。不正介入の客体となるのは自己責任 顕著な修正意見

・法的には自宅投票制度に組み込み,自宅投票と同じように事前登録制にするのはどうか

(第3回第二読会修正案:賛成38反対42 僅差で否決)

〇インターネット投票自体の合法化→細かい運用規定(繰り返し投票の法的明文化など)は後日

出典:Drechsler&Madise(2002) 中井(2018b)エストニア官報

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2001年ごろ

・法務省内議論

導入経緯と主たる論点

大統領署名拒否 最高裁合憲判決

2005年前後

法改正(施工令)

2001年前後

法改正(総論)

反対派(与党連立下位と野党少数)

・繰り返し投票は一票の平等に反する/ネット投票環境の有無が人により違う

・国際選挙監視団を受け入れる際にどうしたらよいのか。各家庭に派遣するのか。

・賛成派政党支持層に有利な投票方法である 賛成派(与党連立上位と野党多数)

・本改正は運用レベルの問題でネット投票は規定事項で大統領も同意済である

・反対派は支持層がPCを使えないから反対している

・若者の投票率をあげるために必要である

・事前投票自体はほかの国にもあり不正の可能性は同じ 顕著な修正意見

・システム棄損時の電子投票無効化規定→採択&可決

・ネット投票ブース/キャビンの設置義務付け→不採択

出典: 中井(2018a, 2018b)エストニア議会議事録

5月3日:賛成30反対52で議決延長 5月10日:連立内部での政変

5月12日:賛成56反対32で法案可決

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2001年ごろ

・法務省内議論

導入経緯と主たる論点

大統領署名拒否 最高裁合憲判決

2005年前後

法改正(施工令)

2001年前後

法改正(総論)

大統領(与党反対派政党出身)が拒否権行使「繰り返し投票が1票の平等に反し違憲のおそれ」

51/101の絶対過半数で再可決可能だが,賛成45反対41棄権15

で再可決に失敗

再審議プロセスへ。委員会修正案[文言微修正]のみ組み込み改正案を議会で可決(賛成58反対36)

大統領が拒否権行使・議会差し戻し

特別招集国会(出席59・欠席42):賛成52棄権7で再可決

大統領が署名拒否と最高裁への諮問(憲法上この段階で拒否権行使は不可で最高裁にゆだねるのみ)

最高裁合憲判決(最高裁長官=ラスク)

「最終的に集計される票はあくまで1人1票であり違憲ではない」

2回拒否→最高裁判断

エストニア憲政史上唯一の例

出典: 中井(2018a, 2018b)

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エストニアのインターネット投票はあくまで数ある事前投票方法の一つ

“I voting is not a killer application. It is just another way for people to vote” (Martens 2011)

全体のまとめ

利用率は非常に高く利用層も広まっているが,投票率促進効果は無か僅少。

※他の国でもそうなるという事は必ずしも意味しない

導入は史上例を見ない政治的闘争の帰結。偶然や党派性による幸運もあった。

※スマートな国家的戦略の産物というイメージはやや後付けの面あり

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付録:議席確定プロセス 概要

第1Tier

全国レベル単純ヘア基数方式による個人選出 第2Tier

選挙区単位でのヘア基数方式による各党配分 全国5%以上得票政党に限る

ヘア基数✖0.75に+1議席 非拘束名簿方式による個人確定

但しヘア基数✖0.10獲得個人に限定 第3Tier

残余議席を全国一区修正ドント方式による各党配分 拘束名簿による個人確定(全国)

但し各選挙区基数✖0.05未獲得候補は対象外

未定議席分→各党候補者中で自選挙区基数に対する 比率順で当選確定(同率の場合は名簿順)

101人確定後,未当選者より自選挙区基数10%/5%獲得者を補充議員として登録する(75条規定)

大臣等は議員を兼ねられないため政権成立後にほぼ確実に補充当選が発生する

有権者からみた 選挙制度は

比例代表 非拘束名簿方式

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付録:インターネット投票と党派性

出典:中井作成

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参考文献

Bochsler, Daniel. 2010. “Can Internet Voting Increase Political Participation? Remote Electronic Voting and Turnout in the Estonian 2007 Parliamentary Elections.”

Paper prepared for presentation at the ‘Internet and Voting’ conference, Fiesola, June 3–4,

Drechsler, Wolfgang, and Ülle Madise (2002) “E-Voting in Estonia,” Trames: Journal of the Humanities and Social Sciences, vol.6, no.3, 234-244.

Madise, Ülle and Tarvi Martens 2006 “E-voting in Estonia 2005. The First practice of country -wide binding Internet Voting in the World” in Robert Krimmer ed.

Electronic Voting 2006(Proceedings, 2nd International Workshop Co-organized by Council of Europe, ESF TED, IFIP WG 8.5 and E-Voting.CC), 15-26 Martens, Tarvi (2011) Internet Voting in Estonia, https://www.slideshare.net/ashevch/estonian-evoting

中井遼(2018a)「偶然と党略がもたらしたインターネット投票:エストニアによる世界初導入へと至る政治過程」『年報政治学』2018(2),127-151.

中井遼(2018b)「エストニアにおけるインターネット投票導入に係る法改正の議事・投票記録」『北九州市立大学法政論集』46(1/2)107-144.

Trechsel, Alexander H. and Guido Schwerdt (2007) “Report for the Council of Europe Internet voting in the March 2007 Parliamentary Elections in Estonia” Council of Europe, https://www.coe.int/t/dgap/goodgovernance/Activities/E-voting/CoE_Studies/Report_Evoting_Estonia2007_en.asp#TopOfPage

Trechsel, Alexander H. and Kristjan Vassil (2010) Internet voting in Estonia : a comparative analysis of four elections since 2005 : report for the Council of Europe”Report for the Council of Europe.

Vassil, Kristjan, Mihkel Solvak, Priit Vinkel, Alexander H. Trechsel, R. Michael Alvarez (2016) “The diffusion of internet voting. Usage patterns of internet voting in Estonia between 2005 and 2015,” Government Information Quarterly, 33, 453-59.

Vinkel, Priit (2011) “Internet Voting in Estonia,” in Information Security Technology for Applications, 16th Nordic Conference on Secure IT Systems, NordSec 2011, Tallinn, Estonia, October 26-28, 2011, Revised Selected Papers, pp.4-12

Wigartz, Tove (2017) “Does internet voting in Estonia affectvoter turnout?” Master Thesis at University of Gothenburg.

湯淺墾道2009「エストニアの電子投票」『社会文化研究所紀要』65号,39-71

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参照

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