doi : 10.3136/nskkk.62.382 http://www.jsfst.or.jp
報 文
長期貯蔵した照射香辛料の ESR,PSL,TL 法による検知
亀谷宏美
*,齊藤希巳江,萩原昌司,等々力節子
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所Detection of Gamma-irradiated Spices after Long-term Storage
by ESR, PSL andTL Methods
Hiromi Kameya*, Kimie Saito, Shoji Hagiwara andSetsuko Todoriki
National FoodResearch Institute, National Agriculture andFoodResearch Organization, 2-1-12 Kan-nondai, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8642
In this study, electron spin resonance (ESR) techniques were employed for the detection of gamma-irradiated spices after long-term storage. Results obtainedby the two methods were comparedwith respect to measurement conditions anddetermination criteria. Method1 was basedon EN1787. In method2, the measurement conditions were appropriate for the detection of S signals (S1andS2), which are radiation-induced radicals. Determination
criteria for irradiation were characterized by the S1signal intensity at lower magnetic fieldandits distance to the
main signal. When the same sample was assessedby the two methods, method2 exhibiteda higher accuracy for irradiated sample detection. Moreover, while the S signals decayed during storage, the method was capable of detecting gamma-irradiatedblack pepper andcumin storedfor 4 years. Thus, the ESR technique can be usedfor these screening tests. On the other hand, the PSL technique could detect irradiated basil, parsley, oregano, coriander, andcumin but not black andwhite peppers. The ESR andPSL techniques as screening tests were foundto complement each other for the detection of maladaptive samples. In particular, as a confirmed inspection method for irradiatedspices, the TL technique was foundto be applicable. (ReceivedFeb. 18, 2015 ; AcceptedMay 13, 2015) Keywords : electron spin resonance spectroscopy, photo stimulated luminescence, thermoluminescence, spice, radiation detection
method キーワード : 電子スピン共鳴分光法,光刺激ルミネッセンス法,熱ルミネッセンス法,香辛料,照射検知法 食品や農産物の放射線照射処理(食品照射)は,殺菌, 殺虫,芽止め処理技術として有用である.1980 年に国連食 糧農業機関(FAO),国際原子力機関(IAEA),世界保健機 関(WHO)の合同専門家委員会が 10 kGy 以下の線量を照 射した食品の安全性と栄養適性に問題はないという勧告1) を出している.以来,食品照射を認可する国は増え,現在 50 カ国以上がなんらかの食品照射を許可2),照射食品は商 業規模で流通している.照射食品の流通に伴い,表示を義 務づけ管理することはコーデックス委員会の定める「照射 食品の一般規格」3)にもある国際的な合意事項である.欧 州委員会は適正な表示を担保するための検知法の確立が重 要として,ヨーロッパ標準分析委員会(Comité Européen de Normalisation:CEN)に権限を与え,10 種類の CEN 標 準分析法4)を定めた.コーデックス委員会は CEN 標準分 析法4)のうち 9 種類をコーデックス標準分析法5)として採 択した.日本国内では食品衛生法第 11 条6)に基づき,馬鈴 薯の発芽抑制を目的とした場合を除き,食品への放射線照 射は認められていない.国内市場に,国外で照射された食 品が流通することを防ぐためには輸入品の照射の有無を検 査する必要がある.厚生労働省は「放射線照射された食品 の検知法」7)として,平成 19 年に熱ルミネッセンス(Thermo-luminescence:TL)法,平成 22 年にアルキルシクロブタ ノン法,さらに,平成 24 年に電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)法を通知した. 香辛料への放射線照射は国外では盛んに行われていて流 通量も多い.日本は年間 10 万 t 以上の香辛料を輸入i)して いるため,国外の照射香辛料が国内に流通することがない よう,多くの輸入品を検査する必要がある.そのため,国 外の照射香辛料に対する検知法の精度,検査効率の向上は 重要と考える. 現在,日本では,通知法7)のうち TL 法を用いて香辛料 を対象とした輸入食品のモニタリング検査をしている. TL 法は食品に付着した土壌由来の鉱物が放射線のエネル ギーを吸収することで自由電子の一部が励起して準安定状 〒305-8642 茨城県つくば市観音台 2-1-12 *連絡先(Corresponding author),[email protected]
態となり,熱を加えることにより電子が安定状態に戻る際 の発光に由来する測定法で,標準照射の工程があることか ら結果が判明するまでに時間がかかる.また,通知法7)に は採用されていないが,香辛料への簡易なスクリーニング 法として光励起ルミネッセンス(Photo StimulatedLumi-nescence:PSL)法がある.PSL 法も TL 法と同様に食品 に付着する鉱物などを測定対象とし,これらに蓄積された エネルギーを赤外光で光励起させたときに放出される発光 を検出する方法である.TL 法や PSL 法はマトリクスその ものを測定していないため,試料中の混入鉱物が少なけれ ば測定が難しくなる.ESR 法は照射により誘導される食 品成分由来のラジカルを直接計測する.複雑な試料調製は 必要なく,測定時間は数分と短い.日本の通知法7)で ESR 法は,CEN 標準分析法で定めた骨を含む食品(EN1786)8) および糖結晶を含む食品(EN13708)9)を測定対象としてい る.香辛料は照射によってセルロースラジカルが誘導され るため,ESR 法による検知が可能である.しかし,照射セ ルロースラジカル由来の信号は弱く,貯蔵条件によって信 号強度が低下すること10)∼14)から,照射検知が困難な場合が ある. 照射食品の検知の精度と検査効率の向上のためには,異 なる原理の複数の手法による検知結果を取りまとめ,香辛 料の種類に応じたスクリーニングと確定検査法の組み合わ せを見つけることが重要である.本研究では,7 種の香辛 料を対象に,ESR 法による照射検知の可否について検討し た.その際,CEN 標準分析法で定めるセルロースを含む 食品の測定(EN1787)15)の測定条件での計測に加えて,弱 い照射セルロースラジカル由来の信号をより明瞭に観測で きる測定条件の検討を行った.さらに,放射線照射した香 辛料を長期貯蔵し,照射によって誘導されたセルロースラ ジカルの安定性を詳細に検討した.また,同一試料を TL 法や PSL 法を用いて計測し,判別精度を比較検討した. 実 験 方 法 1. 試 料 市販の香辛料,オレガノ,バジル,パセリ,コリアンダー, 白コショウ,黒コショウ,クミンを使用した.試料は,室 温(24℃)暗所にて保管した. 2. 照射処理 照射処理は,ガンマ線を(独)農研機構食品総合研究所内 のコバルト 60 を線源としたガンマセル 220(NORDION 社製)を用いて室温で行った.吸収線量は 1 および 5 kGy とし,線量測定は標準アラニン線量計を用いた. 香辛料への照射線量は国ごとに許可されている最大線量 が若干異なるが,実用化されている香辛料への照射では, 一般的に衛生化を目的とした線量の 5∼10 kGy が利用され ている16).また,殺虫目的の最大線量は 1 kGy17)であること から,本研究では 1,5 kGy を照射線量とした. 3. ESR 測定と照射判定 ESR 測定に用いる試料は,100 mg を石英製の ESR 試料 管(ラジカルリサーチ株式会社製)に詰めてパラフィルム で封じた.ESR 分光器は X-bandの EMX-plus(ブルカー バイオスピン株式会社製)を用いた.磁場を安定に保つた め,電磁石は水循環装置により 17∼22℃に保った.ESR を起動させ,磁場を安定化させるために 30 分間経過して から測定を開始した.試料が測定範囲内にセットされるよ う,スケール(日本電子株式会社製)で試料管を挿入する 深さを決定し,シリコンキャップを取り付けた.共振器に 試料管をシリコンキャップの部分まで挿入した. ESR 測定は,測定条件および照射判定法の違う 2 つの測 定法で行った.まず,EN1787 の測定条件15);マイクロ波パ ワー 0.8 mW,中心磁場 3 515 G,掃引幅 200 G,変調強度 10 G,時定数 160 ms,掃引時間 75 G/min,積算なしで測定し た(測定法 1 の測定条件). 次いで,香辛料ごとにマイクロ波パワー,変調強度,時 定数,掃引時間の最適条件について検討し,最も信号強度 が大きく,線幅が狭く鋭い信号が観測される条件を選定し た.マイクロ波パワーの条件は,鵜飼らの方法18)に準じて 逐次飽和挙動を検討し,バジル,パセリ,オレガノ,コリ アンダー,クミンは 4 mW,白コショウ,黒コショウは 8 mW とした.また,すべての香辛料で変調強度 4 G,時定 数 20 ms,掃引時間 50 G/min,積算回数 5 回とした.その 他のパラメーターは,前項の測定法 1 で示した EN1787 の 条件15)と同じにした(測定法 2 の測定条件).測定法 1,測 定法 2 ともに 1 つの検体について 4 反復の試料を測定し た. 照射判定は照射セルロースラジカル由来のサテライト信 号(S1,S2)の検出に基づいた.EN1787 の判定条件15)には S1,S2信号の検出基準が記されていないため,本研究では, S1,S2信号の検出判定を次のような条件に設定した.まず, マンガンマーカーと 50 Gy のアラニンペレットを同時に測 定し,アラニンペレットで観測される g=2.00 の信号強度 と,マンガンマーカーで観測される 6 本線のうち低磁場側 から 3 本目の信号(M3)強度が同じになるよう,マーカー を設定した.次いで,設定したマンガンマーカーとともに 試料を測定した.試料で観測される S1,S2信号強度が,設 定したマンガンマーカー M3 信号との強度比 0.1 以上で あったとき S1,S2信号は検出できたと判定した. 測定法 1 の照射判定は EN1787 の判定条件15)に従い,S 1, S2信号が検出され,2 つの S 信号距離が約 60 G のとき照 射(○)と判定した.測定法 2 は,平成 21 年度厚生労働科 学研究費補助金研究報告書19)の判定基準に基づき,検出さ れた S1信号のトップから Main signal(MS)までの距離が 31±3 G のとき照射(○)と判定した(Fig. 1).また,4 反 復した測定結果のうち,1 回でも判定条件を満たした検体 は照射(○)と判定することとした.
4. PSL 測定20) 試料をステンレスシャーレ(径 50 mm,深さ 15 mm)の 底表面を覆うように入れ,PSL 測定装置(日本放射線エン ジニアリング(株)製 ES-7340A 型)の試料室に装着し,2 分間の暗順化を行った.測定開始後,自家発光を 10 秒間 記録した後,近赤外光を照射しながら 90 秒間のフォトン カウント(発光量)を 0.1 秒間隔で記録した.測定した発 光量について,自家発光分を差し引いた赤外光照射時の正 味発光量(発光積算量)を算定した.1 つの検体について 4 反復の試料を測定した. 5. TL 測定7) TL 測定の試料調製は,粒状と粉末状で異なる処理を 行った.粒状の検体(オレガノ,バジル,パセリ,クミン) は,50 g を鉱物試料の分離に用いた.脱イオン水を入れた ビーカーに浸漬し,超音波処理(15 分)により付着鉱物を 洗い落として得た沈殿物を粗試料とした.粉末状のコリア ンダー,白コショウ,黒コショウは,5 g から試料調製を 行った.粒状の粗試料と粉末状試料は,それぞれポリタン グステン酸ナトリウム溶液(比重 =2.0)を加えて定法に 従った比重分離により鉱物を精製した.測定試料は各検体 4 反復ずつ調製した. 測定装置は HARSHAWQS-3500 を用いた.試料室は窒 素ガス雰囲気(2 L/min)とし,温度条件は開始温度 70℃, 終了温度 400℃,昇温速度は 6℃/s で測定した.なお,TL 測定装置の温度校正として,0.5 Gy を照射した TLD-100 ディスク(Thermo 製 3.5×0.10 mm)を試料皿に移して記 録した発光曲線の最大ピークは,226.9±5.0℃(n=10)で あった.精製した鉱物試料は,試料皿に移し 50℃で 16 時 間アニールした後,最初の TL 発光量(Glow 1)を測定し た.連続して同一試料について TL 測定を行い,バックグ ラウンドの発光量 Glow 1B(blank)を測定した.第一発 光は
Glow 1=Glow 1−Glow 1B
として求めた.その後,発光量の標準化のために 250 Gy のガンマ線を再び照射し,50℃で 16 時間アニール後,再 度,発光量 Glow 2および Glow 2B(blank)を測定し,
Glow 2=Glow 2−Glow 2B
を求めた.TL 発光比(Glow 1/Glow 2)は 150∼250℃の積 算温度範囲で発光量を積分して求めた. 実験結果および考察 1. ESR スペクトル Fig. 2 に測定法 1,測定法 2 の条件で測定した(a)非照 射,(b)5 kGy 照射 24 時間後,(c)5 kGy 照射 6ヶ月後のク ミンのスペクトルをそれぞれ示した.非照射,照射に関わ らず全ての試料で g値が約 2.00 の位置に,有機フリーラジ カル由来の鋭い 1 本線信号(MS)が観測された.Table 1 に測定法 1 と測定法 2 による非照射および照射 24 時間後 試料の MS の g値と線幅を示した.MS は従来の照射食品 で報告された 1 本線信号と同じ g値10)∼14)20)であることか ら,照射誘導ラジカルのほか,ハイドロキノン類やタンパ ク質などの有機ラジカルすなわちカーボンセンタードラジ カルに由来する信号21)と考えた.照射したクミンの ESR スペクトルでは,MS の両サイドに 2 つの S 信号が観測さ れた.他の香辛料でも S 信号が観測されるのは照射試料 のみで,非照射試料では観測されなかった.S 信号の超微 細結合定数は 60 G であり,Raffi ら22)∼23)が報告した照射セ ルロースラジカルに起因する信号と同定した.Fig. 3 にオ レガノのスペクトルを示した.オレガノは S 信号が非常 に小さく観測が困難であった.特に高磁場側の S2信号は 照射直後の試料でも観測されなかった.オレガノはセル ロース含有量が低く,S 信号の検出が非常に難しいと多く の報告10)∼14)24)∼25)がある.セルロース含有量が低いと照射 により誘導されるセルロースラジカル濃度が低くなるた め,信号強度が低下して検出が困難となる.S 信号の検出 には,試料が含有するセルロース量が大きな要因の一つに The left andright spectra show the criteria of EN1787 andthe optimal detection method, respectively.
なると考えられる. 2. ESR 法による照射判定 Fig. 2 のスペクトル(b),(c)に示す 2 つの S 信号は,セ ルロースを含んだ照射食品で観測される特有の信号で, EN178715)では照射食品の検知に利用されている.実際,セ ルロースを含んだ照射食品で観測される S 信号について は多くの報告10)∼14)18)20)22)∼26)がある.Bayram と Delicee25) は,照射 3 週間後のトルコ産の唐辛子では 1 kGy の低線量 でも S 信号を観測できたが,トルコ産黒コショウは 3 kGy 以 下 で S 信 号 を 検 知 で き な か っ た と 報 告 し て い る. Bortolin ら26)は,この結果はセルロース含有量に由来して おり,ブラジル産黒コショウは 1 kGy 照射 4 日後で S 信号 を検知可能であると報告した.本研究では,日本で一般的 に購入可能な 7 種の香辛料を試料として,S 信号を利用し た照射検知の可否について検討した. まず,全ての試料を測定法 1 と測定法 2 の条件でそれぞ れ測定した.照射判定に用いる S 信号の検出基準を満た した試料について,S 信号の g値,信号距離,M3 信号との 強度比を Table 2 に示した.実験方法に記述した判定基準 に従い,Table 2 の情報から判定した結果を Table 3 に示 した.ただし,非照射試料は測定法 1,測定法 2 のいずれ でも S 信号は観測されず,すべての検体で「非照射」と判 定した. 測定法 1 での判定結果を考察した.1 kGy 照射試料は, オレガノ,バジルでは照射 24 時間後で検出基準を満たす S 信号が観測されず,残りの香辛料で検出された S 信号も 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 91 2.0044 line width (G) g-value 90 2.0041 oregano
Table 1 Average (n=4) of g-values and line width of main signal at g = 2.00. Standard deviations for the g-value and line width were±0.0001 and±1-3 G, respectively.
88 2.0045 Method1 coriander 98 2.0042 92 2.0043 2.0046 line width (G) g-value 91 2.0048 98 2.0047 68 2.0046 71 2.0046 85 2.0043 parsley 72 basil n=4 77 2.0047 cumin 2.0044 black pepper 98 2.0042 99 2.0040 93 2.0044 72 2.0045 77 2.0047 oregano 90 2.0049 94 69 2.0046 76 2.0047 white pepper 72 2.0050 92 2.0043 92 2.0047 white pepper 88 2.0046 86 2.0045 104 2.0047 parsley 2.0047 cumin 92 2.0046 92 2.0044 96 2.0046 76 2.0046 74 2.0044 89 84 2.0046 82 2.0041 72 2.0045 basil 76 2.0047 76 2.0045 72 2.0046 Method2 coriander 80 2.0047 78 2.0048 66 2.0046 black pepper non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy non-irradiation 5 kGy 1 kGy
4 カ月以内には検出基準を下回り,非照射と判定された.5 kGy 照射試料では,オレガノ以外の香辛料で照射 24 時間 後は S 信号が観測できたが,バジル,パセリ,コリアン ダー,白コショウでは 6 か月以内に S 信号検出基準を下 回った.一方,黒コショウは 6 か月後,クミンは 4 年経過 しても S 信号による照射判定が可能であった.測定法 1 の照射判定条件は,S1,S2両方の信号が観測されなくては ならない.しかし,高磁場側の S2信号は信号強度が微小 で検出が困難なことや,線幅が広い MS に覆われて観測で きず,照射試料であっても「非照射」と判定されることが 多かった. 測定法 2 の測定条件では,1 kGy の低線量照射試料でも, 照射 24 時間後はすべての試料で検出基準を満たす大きさ の S1信号が観測された.バジル,パセリ,コリアンダー, 白コショウは照射 2 か月後まで,黒コショウ,クミンはそ れぞれ 4 か月後,6 か月後でも S1信号が検出できた.5 kGy 照射では,黒コショウ,クミンは 4 年が経過しても S1 信号強度が検出基準を上回った.測定法 2 は測定法 1 と同 一試料を計測したが,Table 1,2 に示すように MS および S 信 号 パ ラ メ ー タ ー の 違 い を 確 認 し た.測 定 法 1 は EN178715)の測定条件に従ったが,測定法 2 は変調強度を 低くするなど,香辛料ごとに MS の線幅が狭く観測される よう ESR パラメーターを設定した.S 信号は MS と近い 磁場に観測されるため,MS の信号線幅が広いと小さな S 信号,特に S2信号を覆い観測を妨害するためである.さ らに測定条件の中でも特にマイクロ波パワーは逐次飽和挙 動による詳細な検討を行った.測定法 1 のマイクロ波パ ワーは,パワーの増加とともに信号強度が直線的に増加す る領域の低い値に設定されている.高マイクロ波パワーで は線形にひずみが生じて線幅が広がる.しかし,飽和する パワーまでは線形や線幅は変化せず,明瞭な信号を観測す ることが出来る27)ため,測定法 2 では,信号強度が飽和し て最大となるパワーに設定している.これらの測定条件検 討の結果,Table 1 が示すように,測定法 2 は測定法 1 の MS よりも線幅が狭く鋭い信号として観測することができ た.実際,Table 2 に示すように,測定法 2 のほうが S 信 号の検出率が高かった.また,鵜飼ら18)28)は,照射黒コショ ウの逐次飽和挙動を検討し,9 mW で最も大きい信号強度 を得たことを報告している.本研究でも黒コショウは鵜飼 ら18)28)とほぼ同じ 8 mW を最適な測定条件と設定した.こ のことから,同一試料でなくても,香辛料ごとに最適な測 定条件があることが推測された. また,測定法 2 が測定法 1 より照射の判定精度が高かっ た理由として,比較的検出しやすい低磁場側の S1信号の みを判定の基準に用いていることがある.そのため,測定 法 1 の条件で測定したスペクトルに,測定法 2 の判定条件 を適用した場合,照射判定が可能になる検体もある(Table 2).しかし,測定法 2 での S1信号検出率よりも低く,測定 法 2 と同等の判定精度にはならない.測定法 1 すなわち EN178715)の判定精度を上げるためには,判定条件の前に, S 信号の検出率を上げる測定条件が必要である. 以上から,同一試料を測定した 2 つの測定法の結果,測 定法 2 のほうが測定法 1 より高い精度で照射が判定でき た.また,香辛料は収穫直後に照射処理されたとしても市 場に流通するときには処理後 2 か月以上経過している場合 も想定される.クミンと黒コショウは ESR 法によるスク リーニング検査に利用できる可能性が示されたが,そのほ かの試料,特にオレガノ,バジル,パセリ,コリアンダー は ESR 法による長期の検査には必ずしも適さないと考え られた.これらの結果は,香辛料ごとに異なる S 信号の強 度と減衰速度による.S 信号の強度は前述したように,試 料のセルロース含有量が大きな要因となる.また,S 信号 の減衰速度はラジカルの安定性によって異なるため,香辛 料の水分含有量29)および成分組成30)が要因と推測した. ESR 法による食品照射の検査方法,検知に適した試料は, 香辛料ごとに検討する必要がある. 3. PSL 法の検知結果 PSL 測定で発光の時間経過を記録すると,非照射試料で は発光量の増加は見られなかったが,多くの照射試料では 近赤外光照射により発光が一気に増加し,徐々に減少して ゆく照射試料に特有の PSL 応答が観測された.Fig. 4 に各 試料の発光積算量を示した.オレガノ,バジル,パセリ, コリアンダー,クミンでは,貯蔵による照射試料の発光積 算量減少はみられたが,照射 24 時間後から 4 年後まで,非
照射試料と 1,5 kGy 照射試料の値が重なることはなく,照 射試料を明確に区別することができた.しかし,白コショ ウ,黒コショウは照射 24 時間後から非照射試料と 1,5 kGy 照射試料の発光積算量の値が重なり,照射試料を判別 することはできなかった. 今回の測定に用いた 7 種の香辛料のうち,白コショウと signal intensity ratio (S/M3) 0.20 0.18 61 2.0198 − − distance g-value 1 kGy
Table 2 Average (n=4) of the g-value, signal distance, and signal intensity ratio of S signals. Standard deviations for the g-value, signal distance, and signal intensity ratio were±0.0002, ±1-3 G, and 0.03, respectively.
− − − − − − − − − S2 S1 − 2 m S2 S1 (S1to S2) S1 S2 (S1to S2) S2 S1 − − − 1 y − − − 24 h basil − − − 4 m − − − − − 1.9810 − − − − − − − − − − 6 m − − − − − − − 4 m − − − 1 y 60 1.9810 2.0198 24 h Method1 coriander − − − 4 m − − − − 1.9815 0.15 − − − − − 2 m − − − − − − − − 4 y − − 2.0199 4 m − − − 1 y 61 1.9815 2.0193 24 h black pepper − − − − 1.9815 0.16 1.9811 0.19 − − − − − − − − − − − 6 m − 0.12 − 2.0200 − − − − 5 kGy
− : S signal from sample undetectable
− − 0.15 1.9815 0.18 − − − − − − − − − − − − − − − 4 y − − − 58 0.16 0.14 − − − − −
g-value distance signal intensityratio (S/M3)
1.9813 0.21 − − − − − − 1.9813 − 1.9813 − − − − 6 m − − − − − − − − 2 m 0.15 − − − − − − − − − − − 2.0198 0.24 − − − − 1.9813 − 1.9814 0.12 1.9814 0.16 − − − − − − − − 4 y − − − − − 2.0198 60 0.15 0.13 − − − − − 0.16 2.0197 62 0.22 − 1.9811 − 1.9811 − 1.9811 0.13 1.9813 0.18 1.9811 − − − 6 m 0.14 0.16 61 2.0199 0.14 61 1.9811 2.0200 2 m 60 0.22 0.25 − 2.0198 − 0.12 − 0.18 2.0199 60 0.24 0.26 1.9815 − − − − − − − − 4 y − − − − − 24 h oregano − 2.0197 − − 6 m 0.16 0.20 62 2.0198 0.17 61 1.9813 2.0199 2 m − − − − − 1 y − − − − − − − − − − − − − − − 4 y − − − − − − parsley − − − − − − − − 4 m − − − − 6 m 0.25 0.23 61 2.0199 0.14 61 1.9812 2.0196 2 m − − − − − 1 y 0.16 0.18 61 2.0208 0.16 62 1.9815 2.0189 24 h − − − − − − 4 y 0.14 0.15 60 2.0198 − − − − 0.12 − 2.0199 − − − − 4 m − − − − 6 m 0.26 0.26 60 2.0199 0.19 62 1.9813 2.0198 2 m − − − − − 1 y 0.20 0.23 60 2.0199 0.16 61 1.9810 2.0199 24 h white pepper 2.0197 − − − − 4 y 0.23 0.20 61 2.0197 − − − − 0.17 0.18 61 2.0197 − − − 2.0198 4 m − − − − − 0.19 0.17 61 − − 1 y 0.26 0.27 62 2.0198 0.22 61 1.9811 2.0199 24 h cumin
黒コショウは PSL 法による照射検知に不向きだが,その 他の香辛料(オレガノ,バジル,パセリ,コリアンダー, クミン)では,PSL 法が照射の有無のスクリーニングに応 用できる可能性が示された.PSL 発光は,香辛料に含まれ るケイ酸塩鉱物の結晶中の電子状態が放射線照射によって 変化する現象を観測していると考えられている.そのた め,計測に十分な量のケイ酸塩化合物が含まれていない検 体では検知法として適用ができない場合がある31)∼32).本実 signal intensity ratio (S1/M3) 0.20 27 2.0200 − distance g-value 1 kGy Table 2 (Continued) − − − − 0.14 − 2 m (S1to MS) S1 (S1to MS) S1 − − 1 y 32 2.0199 24 h basil − − 4 m − − 0.12 0.14 − − − − − 6 m 0.12 31 2.0199 − 4 m − − 1 y 28 2.0199 24 h Method2 coriander − − 4 m − 0.13 0.16 − − 2 m − − − − − 4 y − 2.0198 4 m − − 1 y 31 2.0199 24 h black pepper − − − 0.16 0.21 − − − − − − 6 m 0.14 30 2.0199 32 2.0197 5 kGy
− : S signal from sample undetectable 30 0.16 0.18 − − − − − − − − 4 y − − 31 0.14 − − −
g-value distance signal intensityratio (S
1/M3) 0.21 − − − − − − 6 m 0.13 32 2.0197 32 2.0201 2 m − − − − − − 2.0199 0.22 − − − 0.15 0.17 − − − − − 4 y − − − 2.0199 29 0.16 − − − 2.0197 33 0.19 − − 0.16 0.17 0.17 − − 6 m 0.18 33 2.0201 30 2.0198 2 m 32 0.26 2.0200 29 0.17 2.0199 27 0.27 − − − − − 4 y − − − 24 h oregano 2.0199 − 6 m 0.17 31 2.0199 30 2.0199 2 m − − − 1 y 0.14 29 2.0200 29 2.0199 − − − − − 4 y 0.12 31 2.0198 − parsley − − − − − 4 m − − − 6 m 0.22 31 2.0198 31 2.0199 2 m − − 1 y 0.15 30 2.0189 33 2.0200 24 h 32 2.0200 − − 4 y 0.20 29 2.0199 − 0.17 30 2.0199 − − 4 m − − − 6 m 0.27 32 2.0198 29 2.0199 2 m 0.15 − − 1 y 0.20 32 2.0199 30 2.0197 24 h white pepper 2.0198 − − 4 y 0.23 28 2.0199 31 2.0200 0.23 30 2.0197 28 2.0200 4 m − − − 0.16 29 − 1 y 0.29 31 2.0197 30 2.0199 24 h cumin
験に用いた白コショウ,黒コショウも十分なケイ酸塩化合 物が含まれていないため,測定値にばらつきが大きく検知 法として適用できなかったと考えた.ただし,黒コショウ は PSL 法には不適応であったが,ESR 法では長期保管後 でも判別が可能であった.そこで,ESR 法と PSL 法を使 い分けることで,互いに不適応な試料の検知を補完するス クリーニング法となると考えた. 2 m 4 y 6 m 2 m
Table 3 Results of the detection of irradiated spices by methods 1 and 2.
Method1 coriander ╳ ╳ ╳ ╳ parsley ╳ ╳ ╳ ╳ basil ╳ ╳ ╳ ╳ oregano ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ black pepper ○ ╳ ╳ ○ white pepper ○ ╳ ╳ ○ ○ cumin ╳ ╳ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ╳ ╳ 6 m 4 y ╳ ╳ ╳ ╳ ○ oregano ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ basil ╳ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ parsley 24 h 1 kGy ╳ ○ ○ Method2 coriander ╳ ╳ ╳ 5 kGy ○ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ ○ ╳ ╳ ╳ 1 y 4 m 24 h 1 y 4 m ╳ ╳ ○ ○ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ white pepper ╳ ╳ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ╳ ╳ ╳ ○ ○ ○ black pepper ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ╳ ╳ ○ cumin ○ ○ ○ ○ ○ ╳ ○ ○ ╳ ╳ ╳ ╳ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ╳ ╳ ○ ○ ○
4. TL 法の検知結果
通知法7)に従い,試料調製の全行程ブランク試験を分析
期間中に 10 回実施し,得られた Glow 1の平均値と標準偏 差 か ら,[平 均 値 ± 3 標 準 偏 差]を 発 光 量 の 検 出 下 限 (MDL;Minimum Detectable Level)を求めた.そして,
MDL の 10 倍より大きな Glow 2の発光量が得られない場 合は判別を行うのに十分な鉱物試料が分離できていないも のとして測定を棄却することとした.本実験では TL の発 光量を発光強度の積分値(nC)として表記した.本実験に おける 10×MDL は,積分範囲 150∼250℃で 10.2 nC で あった.実験に用いた全試料の Glow 2の最低値は 19.64 nC で,10.2 nC を上回った.したがって,試料から調製し た鉱物試料において,Glow 2は 10×MDL を上回る発光 を示し,TL 測定に十分量の鉱物の分離ができたことを確 認した. Fig. 5 に TL 比を示した.貯蔵時間が長いと TL 比は減 少するが,1,5 kGy 照射試料のすべてで照射 24 時間後,さ らに 4 年経過しても TL 比は 0.1 を上回り,非照射との明 確な判別が可能であった.Fig. 6 に Glow 1 の極大ピーク 温度を示した.すべての香辛料で,非照射試料の Glow 1 極大温度は 254∼327℃の範囲であった. 照射 24 時間後の Glow 1 極大温度は 1 kGy 照射試料で 154∼179℃,5 kGy 照射試料で 157∼208℃であった.貯蔵 4 年後の Glow 1 極大温度は 1 kGy 照射試料で 192∼210℃, 5 kGy 照射試料で 198∼213℃であった.貯蔵期間が長くな ることで発光の減衰が起こり,それに伴ってピーク温度は やや高温側へシフトした.しかし,非照射試料の温度範囲 (254∼327℃)とは明確な区別が可能であった. EN178833)は照射の判定基準として Glow 1 の発光曲線の 極大温度が 150∼250℃,TL 比がおおむね 0.1 より大きい ものとしている.日本の通知法7)では,Glow 1 の発光曲線 の極大温度が 250℃以下で,同時に TL 比が 0.1 を超える ことを判定基準としている.本研究結果では,これら EN178833)および日本の照射判定基準7)を満たしている.
TL 法は今回検討したすべての試料で非照射試料と 1,5 kGy 照射試料の明確な判別が可能であった.そのため, TL 法は香辛料の確定検査法として,照射の検知が可能で あることが確認された. 要 約 本研究では,日本国内で入手可能な 7 種の香辛料を長期 貯蔵し,ESR を用いた照射セルロースラジカル由来の S 信 号検出による照射検知の可否について検討した.その際, CEN 標準分析法が定める EN178715)の測定条件と判定基 準に拠る方法(測定法 1)と,S 信号の検出に適した測定条 件を設定し,S1信号の強度と MS までの距離を判定基準と した方法(測定法 2)を比較検討した.S1,S2信号の強度 と距離を判定に用いる測定法 1 では,信号強度が微小な S1,S2信号の検出が困難なことや,高磁場側の S2信号が 線幅の広い MS 信号に覆われて観測することができず,照 射した香辛料であっても「非照射」と判定されることが多 かった 一方,最適化した測定条件,判定基準(測定法 2)により 長期貯蔵した 7 種の香辛料の照射検知の可否について検討 した結果,ほぼすべての香辛料で照射線量に関わらず 2ヶ 月後まで照射と判定できた.さらに,1 kGy 照射では黒コ ショウが 4ヶ月後,クミンは 6ヵ月後程度判定できた.5 kGy 照射では,コリアンダー,白コショウが 4,6ヵ月後, 黒コショウとクミンは 4 年後も照射と判定できた.各々の 香辛料の照射判定結果から,黒コショウとクミンは照射後 長時間経過しても ESR 法によるスクリーニング検査に利 用できる可能性が示された.しかし,その他の試料(バジ ル,パセリ,オレガノ,コリアンダー,白コショウ)は長 期貯蔵後に判定基準となる S 信号の検出が困難なため,
ESR 法による検知には不向きであった.測定法 2 では,測 定法 1 よりも S 信号検出率が上昇し,より長期間高い精度 で照射が判定できた. PSL 法はバジル,パセリ,オレガノ,コリアンダー,ク ミンの照射判定のスクリーニングに応用できる可能性が示 された.しかし,ESR 法で判別可能であった黒コショウは PSL 法には不適応であった.一方,TL 法は本研究で用い たすべての香辛料に対して 4 年を経過しても検知が可能で あることを確認した.このように,TL 法は ESR 法,PSL 法に比べて照射判定の精度が高いが,試料調製や標準照射 の工程を合わせると結果の判明まで 3 日を要すため,検査 効率の点では劣っている.そこで,TL 法とあわせて, ESR 法と PSL 法のいずれかを香辛料の種類に応じたスク リーニング法として組み合わせることができれば,照射香 辛料の検知精度と検査効率の向上が見込まれる. 香辛料ごとに詳細な検討を要するが,少なくとも本実験 で用いた試料について,クミンと黒コショウの照射検知が 可能な ESR 法と,バジル,パセリ,オレガノ,コリアンダー, クミンの照射検知が可能な PSL 法は,両者を使い分ける ことで,互いに不適応な試料のスクリーニング法として補 完し合うことができる. 文 献
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引用 URL
ⅰ) http : //www.ansa-spice.com/M06_SpiceStatistics/Spice Statistics.html (2015. 2. 15)